誰も助けてくれない -Can you hear me?-   作:麒麟犬

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楽しみにしていた方々、すみませんねぇ……。


55.D44N事件・承 -What is right-

私達が居住地としている北米支部を中心にして広がっている保護区は他と比較してみると本部の次に広いらしい。ロシアの中央に位置する向こうを知らないので私とすれば如何せんわからないが、度々訪れる何人かの客人がそう言っているのでそうなのかもしれない。

ペルシカから得た情報を持って指揮官に進言したところ、こちらに回せる人員はいないので現時点では私達だけで情報収集に当たることになった。

それについての文句は(全くといいわけではないが)ない。あと数日で起ころうとしている世界の大きな変化に絡められた確証のない穏やかではない話。逆の立場になってみれば私だって訝しんで疑うし、情報提供者(ペルシカ)から直接聞いても疑念が浮かんだのだから無理もない。

そして現在、私達はM16が帰還するよりも先に行動を開始し、ターゲットとされる銀行周辺に私も散らばって状況を窺いながら一人一人の人相を確認していた。

 

『定時報告。AR小隊の各員は報告を』

「こちらAR15、今のところ銀行近辺で特筆すべきことはなし」

『こっちも特にこれといってないよ。あるとすれば……おいしそーでジャンキーな売店が並び始める……あとは季節柄で余計にじめじめしてるぐらい……』

『そんなことに気を取られないでよ……警察から得た写真を元に監視カメラで片っ端からスキャンしているけど引っかからないわ』

 

とはいえ、聞き込みなどは私達がすべきではない。警察紛いのそのようなことを人形として容姿が良いようにされてしまっている私達がすれば目立ってしまい、面倒な連中に絡まれることだってあり得る。目標を追いかけての戦闘はこちらの本分なのでいいが、それまでのプロセスにおいて考えも無しにそうしてしまうと悪目立ちしてしまってよろしくない。

ただし、私達は戦闘に特化した自律人形であり、自分達の足で歩くだけでなく街の至る所に設置されている監視カメラにもアクセスできる。要は目立たずに情報を得る方法は幾らでもあるのだ。

従って、私とSOPIIは普段と違った私服を着た状態で人混みに紛れての役割を担い、ROはカメラへのハッキングでM4もそちらに加わりつつも全体の指揮を執っている。その態勢になって昼頃から始めて五時間ほど。陽が半分以上沈んで消える時間帯になっていた。

 

『終業時間になったから職員が出てきたわ……AR15、そっちから見てもその中にターゲットと思わしき人はいる?』

「ネガティブ。見えている限りでは、だけど」

『身なりに違いはあっても全員が顔を隠していないし……駄目ね。M4、こっちの網にはヒットなし。そっちは?』

『似たようなものね。帰宅ラッシュが始まったせいで人通りが増えて全員の顔をスキャンしきれない』

『デモを起こした時を除いて目撃情報が多いここから始めたけど、今日は外れだったかな』

 

念入りに計画しているのであればその犯行現場を視察するだろうと思い、銀行を中心とした半径二百メートルを目途に私とSOPIIは巡回していた。M4とROのカメラによる監視は表道を見れても裏の方までは見渡せない。そんな狭い小道や環境による事情で設置できない箇所を巡回の際に必ず確認し不審者がいないか見る。それも私とSOPIIに与えられた役目だ。

 

『仕方ない。AR15とSOPIIは巡回範囲を広げてみて。そろそろ警察官の巡回も本格化してひょっとすると彼らが見つけるかもしれない。協力体制を敷いている以上はこちらにも通達が来るけど、目標が武装していることだって十分に考えられる。民間人から負傷者が出ないようにするためにもお願い』

「でもここ周辺を手薄にするわけにもいかないわよ。交代する形で順番に四百メートル範囲外を巡回した方がいいんじゃないかしら」

『そうね……わかった。異常があればすぐに連絡を。すぐに駆けつけるわ』

「了解。SOPII、まずは先に私から行くわ。あんたは引き続き同じルートを回って頂戴」

『はいは~い……それにしてもお腹減ったぁ……露店で何かを買って食べながら続けてい~い~?』

『気持ちはわかるけど我慢してSOPII。私とM4は身体を動かすわけじゃないけどお腹だって空くわけだし、バッテリーとは別のエネルギーを消耗しているのは皆も同じなんだから』

『ぷぇ~……』

 

私はそんな会話を耳にしながらルートを変更、表通りから外れて脇道へと歩を進めた。背負っているギターケースに見せかけているガンケースの肩紐がズレて行きそうだったのを抑えて直し、外灯がなく薄暗い道を通っていき逆側に出た。

頭に叩き込んでいる地図を呼び起こして自分が何処にいるのかを推定し、銀行からどれほどの距離があるかをざっくりと計算する。

無理のない程度に見回る範囲を広げるとしたらどれぐらいがいいのかを考えて、すれ違う人々の視線を無視する。時折見ずともわかるほどにこちらに向けた声もあり、何時から生まれ出た一部の人間に対する不快感を募らせながら早歩きを続け、肩に置かれた手さえも無理矢理払い除けた。

 

「しつ、こい……!」

 

人目が無ければ急所突きをしてその場で悶絶させられるものだが、衝動のままにそうしてしまえば注目を集めてしまってよろしくない。気持ちを落ち着けて周囲を注意深く見ていかなければならないというのに、思考のノイズを一点集中さながらに投じてくる顔もわからない背後の男が鬱陶しくて仕方なかった。

理性と衝動の間でギリギリの均衡を保ちながら表通りで人混みを掻き分けて何度目かわからない十字路に行き着くと、ここを限界点として向かう方向を変えた。

 

(それにしても……)

 

保護区の人間がこんなにもいたんだな、と私は改めて周囲を見回した。

やはり不自由なことはあってもこうして最低限の衣食住と職を確保できているだけいい。そんな声を聞いたのはいつだったのかは覚えていない。その反対で欲深くあれこれと上から目線で要求してくる輩もいるわけではあるのだが。

人々の言う事に耳を傾けて彼らの営みを目を向ける、なんて政治家みたいな仕事は本来なら民間軍事会社(PMC)がやることではなかった筈なのに。食糧の供給からの真似事までやっての手探りで救われている人がいるということは、昼間の通りを元気よく駆けていた子供たちがいたのだから間違いないのだろうと思う。

それに、後先考えないでの贅沢さえしなければグリフィンの管理下で命を繋いでいられる、そんな未来と外の世界で彷徨って痩せ細った野良犬と同様に生き残る道を模索するそれの二つが選択肢に上がればどちらを選ぶかなど明らかだ。

しかし外を知らないままに辛い目に遭わず、此処に行き着いた人はどれだけいるのだろうか。

 

(やめよう……こんなことを考えるのは……)

 

別に私個人としては誰かの感謝を求めて戦っているわけではない。ここまで必死に足掻いてきたのは仲間と自身の栄誉の為であって彼らからの温かい声を目的にしているのではないのだから無駄でしかない。

私はST AR-15という名の戦術人形で戦うことを使命としている存在。求めているのは犠牲がない結果と名誉や栄光だけであり、それ以上の見返りを求めるというのは欲張りが過ぎるというものじゃないだろうか。

それにきっと、戦術人形の自分には不要なのだろうから。

 

(あれ……?)

 

沼から足を引き抜いた今になって気付いた時には、いつの間にか私にとってのストレスの源となっていた男を引き剥がしていたらしい。任されていた仕事と並行していた思考で意識外に飛ばしていたことで気にしなくなり、ナンパ野郎も次第に諦めたのかもしれない。

しかし私にとってはそんなのはもうどうでもよく、本当に気に留めるべきことが目に入ったのでなるべく自然な形で近くの建物に背を預ける。そして手元にタッチパネル式の通信端末を持って周囲から浮かないようにして様子を窺った。

一見すると単なる往来の場における制服を着た警官二人が深く帽子を被った一人の男性への職務質問のようではあるが穏やかではない。

私は静観しながら報告した。

 

「M4、N11-2で職務質問がされている。今のところ様子を見ているけどなんか危なさそう」

『顔は見える?それとその人はどんな感じ?』

「見えない。でもなんか焦っているようで警官二人を押し退けてまでこの場を去ろうとしている」

『なら気付かれないように注意しながら引き続き監視して。緊急事態になれば報告、先行して対応するように』

「了解」

 

私がもう一度視線だけで彼らを見てみれば、苛立って怒鳴っている帽子の男を相手に警官二人は宥めながら一つ一つの挙動を観察していた。

遠巻きに見ている私からしても暴言も混じっている台詞は彼らでも聞き慣れてはいるだろうが、周囲の人々に取ってからすればその汚い言葉は聞き流すのに無理がある。男一人は勝手にエスカレートすれば手を出しそうで、公務執行妨害として連行されるのはそう遠い話ではない。

 

「ん……?」

 

これといったはっきりとした理由はないが、私の視界に目についた人がいた。数は三人で、私の前を通ると横断歩道を経由して向い側へと歩いていった。

 

(なに、あの人たち?)

 

思わず注視してしまっているので、もし私が考えている危険分子が彼らではなく私自身を狙っての事だったら失敗以外の何物でもない。

後々振り返ってみればあの時の行為も反省点の一つとして片付けられるものの場合によっては致命的な失敗になり得た、と私は思う。ただそれは事が済んでから言えたことであり、現在の出来事でなく過去のものとなったから冷静に立ち戻れるというだけだ。

私は人だかりで三人の手荷物がはっきりと確認できないことに苛立って移動しそうになるのを堪えては観察を続ける。胸騒ぎを明確に覚えた時には問答を繰り返している警官たちの背後に近づいたと思った瞬間、銃声が響いた。

一瞬だけ視認できたビジネスバックから取り出した拳銃で警官二人に向かって三人の男達は発砲。その音で人の波はどよめき、悲鳴が上がった。

「っ!!」

 

私はその場に屈んで人混みに隠れると、背負っていたバッグから分身を取り出してはストックを伸ばしてはチャンバーを引いてから弾倉を装填し戦闘体勢を整える。そして立ち上がって状況を見てみれば、倒れた警官に止めと言わんばかりにまた数発をお見舞いした三人はその場から離れ始めた。

 

「報告よM4!三人の通行人が警察官二人を射殺して逃亡したわ!」

『銃声がこっちまで聞こえてきたけどそういうことね!職務質問にあっていた人はどうしてる!?』

「わからない!だけどなんか状況が変よ!私は銃所持者を無力化のに先行する!」

『了解。私はSOPIIと合流して今すぐAR15の方へと向かう!ROは街中のカメラにアクセスして足取りを追って!』

 

M4からの指示の後に聞こえてくる二人の応答を聞き流しながら私は押し寄せてくる人だかりを掻き分けながら追跡を行った。市民が歩道や車道も関係なく走るので車の流れも滞り、クラクションも混じって響き渡っている。私からでははっきりと見えないものの、また銃声だって聞こえてきた。

 

『AR15、銃を持った連中が帽子の男を追いかけてその先の裏路地に入ったわ!』

『心得てはいるだろうけど生け捕りが前提で殺しては駄目だよ!』

「わかってる!」

 

ROの言う裏路地に私も入って標的を追った。表通りほど人が多くいるわけでないのだし、私の前を行っている先客のおかげか壁に背をつけて腰を抜かしているので私が行くべき道は形成されていた。

同じく銃を、それも拳銃のような小型ではなくライフルを持っている私に市民がギョッと目を剥いている。私にはそんな彼らに声の一つかけるだけの余裕はないのだから一瞥だけくれてやって先を急いだ。

両脚に搭載されている機器の出力を最大に引き出して前進し、戦術人形としてのポテンシャルを最大限に活かせば追い付くのはそう時間がかからない。何度か進行方向に無関係だと一目でわかる人が入ってきてしまったが、跳躍してしまえばタイムロスは少ないし、環境的に難しそうであれば単純に迂回した。

そして見つけた。見覚えのある背格好の三人がそれぞれ片手に銃を持って走っている、その様子を視覚で捉えた。

射線はギリギリ確保できるとして、私はその場で片膝をついて照準を一人の片脚に定める。呼吸を止めてブレが収まったタイミングで引き金を引いた。

ダンッ!と私が放った弾丸は概ね狙い通りに一人の片脚を抉って進行を阻止。銃声と共に傷ついた仲間が出たことで他二人がその場に止まった。

 

「――――――!」

「―――!――――――!!」

 

一人が倒れた者の傍に残り、もう一人がこちらに背を向けて先へと走っていく。その者の妨害をしようと第二射に移ろうとする前に眼前から銃声が響き、地面が銃弾によって爆ぜた。

私は頭でそれを理解するよりも先にすかさず反撃をまともに受けぬように、横へと転がって周囲の立地条件から生じている相手方の死角へと潜りこんで銃撃をやり過ごす。そして前屈みになったまま踏み出して物陰へと滑り込ませて状況を窺うべく顔を覗かせると、相手は弾倉を取り換えるのにもたついていた。銃を護身用として所持しているにしても、弾倉を排出しては替えのそれを入れてまた射撃体勢に移行するまでのことぐらいは知っていて当然といえる。

そうでなければ諸刃の剣どころの話じゃない。使い方どころか用途も何も知らないで凶器を振り回す子供と五十歩百歩でしかなく、その手のベテランからすれば赤子の手をひねるようなものだ。

銃を使っての戦いに慣れていない――――――!!

私はすぐにそこから飛び出して駆けて一気に距離を詰め、スライドが固定されているその拳銃を持っている手ごと蹴り上げた。

 

「操り人形が邪魔するなぁ!!」

「不要な混乱を生み出しているあんたみたいな奴に言われたくないわよ!!」

 

単純に飛びかかって組みついて来るのかと直感で思えばポケットナイフを抜いて突き出してきた。だが私からすれば遅い。一般人でも生命本能で避けきれずとも致命傷は回避できる程度でしかないのだから、戦うことを主目的に置いている人形ならば対処は容易い。

柄を握っているその手を私は分身を使って弾くことで迫って来ていた銀色の切っ先を逸らす。そうすれば目の前には刺突を繰り出した勢いのままこちらと距離が縮まるのは男の体躯で、相手はこうなることを考えていなかったのは浮かべている驚愕の表情でわかった。情報を吐かせるべく生け捕りにする、なんて理由はあってもそうするまでで命を奪う以外にやってはいけないことを隊長(M4)から言われていない。銃撃で以て脚を撃って転倒させることだってそうだし、私がこれからしようとしていることだってそうだ。

 

「ふっ!!」

 

ストックを男の首筋に当てると一息で地面へと押し倒して馬乗りになると、その顔面に何発か拳を打ち込んだ。三発ほどで歯が何本か折れて宙を舞うものの未だに意識を刈り取るまでに至っていないので、合間に何かを言われようとも耳を貸さずに続ける。今は死なせなければいいだけなのだから。

そして右手が血だらけになりながらも殴った回数が二桁になったぐらいでようやく沈ませることができて男は細く小さく呼吸をするのみとなって沈黙した。

 

「……なにやってるのよ私は」

 

所要時間を考えればこうせずに後ろ手で縛ればいいだけ。意識はあっても自由を封じれば時間短縮ですぐにここから逃げた男と容疑者だって追えるというのに。

ただ内に湧き出てきたどす黒い感情に従うがままに、これからの行いを正当化するだけの屁理屈をこねて自分を誤魔化した。終わった後に後悔したんじゃもう遅いということだって、SOPIIに小言を言えるぐらいわかっているのに。これでは彼女に大きく言えたものではない。それに、この自己嫌悪は私がする中で最悪に次と言っていいぐらいのやつだ。

人に説教するぐらいの大口を叩くのであれば反抗されることのないように自分にはそういった経験がないことだって大事じゃないだろうかと、そう思って何度も自問自答してきた。だというのに、わざわざ自分から火に油を注ぐ様なことをしてしょうもないことをした。自分のことがまた嫌いになるのには十分すぎる。

 

『二人とも、その位置からならあと五で目標を目視で確認できる。……今!』

『……見えた!今なら脚を撃てるよ!!』

『ダメよ!射線の延長線上に無関係の人が数人いて貫通して誤射するわ!』

『くっそぉ!!』

 

その声からSOPIIが歯噛みしているのが容易に想像できる。M4と彼女の詳しい位置情報を得る前に、私は動けなくなった二人に電磁式の手枷を手足につけて警察に通報する。

まだ何も終わっていない。始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――☆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果だけ言ってしまえば逃亡していた男諸共、銃を持って追跡していた残り一人も捕えてお縄に出来た。ROからの情報を頼りに私も改めて追って近辺に辿り着いたら、散開して一ブロック内に閉じ込めるように包囲して追いつめるようにした。住民に危害が及ばぬように発砲は極力控える、という指示があったのでやり辛かったが、先にSOPIIが逃げていた方を捕まえたので後は楽になった。M4と協力して一本道で挟み撃ちにし、その場で投降させた、という結果でだ。

ただそこまでで相手方が撃ったことによる流れ弾を受けた、という住民が出てしまった。収拾の代行として傷の具合を診た警官の話では掠り傷だという話だが、本人は大事にしたいのか喚いているとかなんとか。いずれにしても私達が直に相手をせずに済むことではある。

 

「それで、収穫はあったのか」

「有益な情報が幾つか。SOPIIが解体コレクションを見せながら尋問をしたこともあって、そこまで手間はかかりませんでした」

「あいつら、爪を剥がすよりも前に音を上げてしまったからつまらなかったよ~……」

「……合理的な経緯はあるけど、お前にも一応ロボット三原則って組み込まれているんだよな?」

 

私達とは別件で基地から離れていたM16が帰還したので、情報共有としてとうの昔に定時が過ぎた、というよりも日付が変わる数分前の執務室に集まっていた。私は視線を陽が完全に沈んで基地内の明かりが映えている風景から戻し、腕を組みながら顎に手をているAR小隊の姉貴分を見る。

彼女は部屋中央のホログラムデバイスに送り込んで表示されている情報に一通り目を通したらしく、入力を済ませたM4を見た。

 

「逃げてた連中は全員は同じグループに属していたのか?」

「私も最初はそう思ったのですが少々違うようです。AR15、説明して」

 

M4が振り返って私に振ったので、促されたままに言った。

 

「奴らはたしかにロボット人権保護団体で過激派という立ち位置の人たちだった。だけど過激派の中で色々な思惑が入り乱れていて複雑な状況になっているというのが所見よ」

「……どういうことだ?」

 

私はホログラムから職務質問されていた男―――ペルシカから情報であった指名手配犯だった―――の顔写真を引っ張ってM16の正面に持ってくる。そして警察のデータベースの方でも記録として保存されていて保護区の街角などで貼りだされているそれも出して同じようにした。

 

「この男は過激派の一員としてマークしている奴ではあるんだけど、あくまでこいつは(デコイ)でしかなかった。悪事を働く時の表舞台に主役として立たせて、裏方でこいつがやったように見せかける為に」

「じゃあなんだ、こいつは自分の肩に他人によって背負わされているものの重さに耐えきれなくなっていた、なんてことなのか」

「警察の取り調べが終わっていないし全体像がはっきりしていないからそう断言はできないけど、私達はそう見てる。そして今はまだ奴らの皮を一枚剥がしただけで銀行襲撃を阻止できた、なんて言えはしない。そうよね、M4」

「ええ。まだ彼を盾にして悪事を働いている奴を引きずり出せていないから、結局はやるべきことは変わらない。作戦決行は明後日。とにかく皆も急ぎで得られた情報を目に通して」

 

M4がそう言いながら端末を操作してホログラムという形のダイアログボックスを映し出した。青白く浮かび上がっているそれが拡大されて中にある文字が見るのに億劫にならないギリギリならないぐらいのサイズになって内容を記している。

私も端から黙読していくと、先に終えたらしいROが言った。

 

「指揮官への報告は?」

「送信するよりも先に『この件はAR小隊に一任する』とだけ言われて受け取らなかった。この任務の事に顔を突っ込まないみたい」

「おいおい、そいつはあまりどころか断然よろしくないんじゃないのか。緊急事態にならない限りは私達の指揮権はあの指揮官にあるんだろ」

 

M16の言う通り、AR小隊の直接指揮はこの北米支部の指揮官に委任されている。緊急事態、つまり作戦中に連絡ができなくなった状況下に置かれた場合やペルシカを通じて本部からの特務が下されない限りは隊長であるM4に指揮権は戻ってこないことになっていた。M4の指揮システムを始めとしたモジュールによる負荷を可能な限り緩和するのが建前ではあるが、きっと本音としては手綱を握っておいて妙な動きをされたくない、そんなところだろう。

そのような意識を持っているのが垣間見えている所為で私達とここの指揮官の仲は極めて事務的なやりとりしかしておらず、仕事を除いた意志疎通も最低限しかしていない。

責任、という二文字が直接私達に降りかかることになるのなら、と思った私は言った。

 

「指揮官全員が、私達の危機的状況を救ってくれたあの人みたいにいい奴とは限らない。むしろ思考するのに余計なものが混ざらなくて済むって考えた方がいいんじゃないかしら。あの男の指揮能力は大したことないんだからあんたの方がマシよM4」

「お~わ~……みんなが心の中で思っているようなことをズバリと言ったねAR15。わたしも頭にくることをチクチク言われるようなら関わらないで、とか言ってしまいそうになるけどAR15のはもう心をめった刺しにできそうだよ」

「……でもまあ彼の指揮能力とか文句云々は置いとくとして。要は独立部隊であった頃に戻ったようなものなのよね。じゃあ特務の時のように行動すればいい、ということよね」

 

ROが言った事にM4は頷いて目を閉じ、AR小隊で共有されているマップも含めた戦術ネットワークを起動・展開した。私達の意識間で成り立っているこの仮想空間での会話などは現実の方では聞こえず、余程のクラッカーでなければ盗聴することもできない。

状況整理だけならM4に特に負担のかかるこの方法をとる必要はないのだが、今はもう夜中で就寝している人間の職員やスリープに移行している人形だっている。私達にも少なからず疲労はあって明日の事も考えればできるだけ早く休んでおくべきだから、短時間で済ませる為のこの手段は悪手ではないだろう。

 

『証言によれば、保護区の北側に過激派の人間が潜伏しているという話だった。銀行襲撃という内部情報を得た彼は先の計画を知って恐ろしくなりそこから逃げ出した、というのがとりあえずの見解だけど相違ある?』

 

保護区の北側に赤い光点が生まれ、そこから同色の光線が私達が捕縛した概ねの位置にまで伸びた。そこからさらに枝分かれするように新たなそれが出てきてその場全体を巡るようにしてさらに数多く生まれ出て他と繋がるが、街の至る所で浮かび上がったバツ印で黒く変色し消え失せる。ほとんどがそうなって片手で数えれる程度でしかなくなったマップを見渡してSOPIIは言った。

 

『このバツは何~?』

『保護団体の過激派の人間が検問紛いな拠点を密かに置いているという証言から知れた場所よ。一人に集中して罪を着せている連中もこうなることを前もって予測して各所に配置していたらしいわ』

『随分とこうなることを危惧していたようだな。やたら滅多にっつうか闇雲に置いているんでなく標的を発見しやすいようにしている。頭を使っているようだが……』

 

M16の言う通りで人混みが自然と形成される交差点や裏道の中では比較的人が通るところなど、一区に偏っているのではなく北側全域に満遍なく『網』が敷かれている。『情報源』として扱うことになっている彼が逃げれないように巡らされている『網』を見ながら思うことがあるとするなら、やはりそれは『一人に対しての対応としては大仰しい』ということに尽きる。

そうなると、やはりM16が言ったようにこの先の計画の表側の要として見なされているからか……或はリークされるとマズイ情報があるからなのか。

 

『警察が尋問を引き継いだけど、明日中に重要情報が手に入ると期待はしない方がいいよ……あいつらはわたしたちと違って銀行襲撃の事まで知っているわけじゃないから急いでくれないだろうし……ふわぁ~……』

『指名手配犯として持ち上げられた経緯がどうであっても過激派の人間としての思想まで捨てたわけじゃないから、完全に口を割らせるには時間が必要よ。でもその肝心の時間が十分にあるわけじゃない以上は柔軟かつ大胆に、尚且つ慎重さを忘れずに行動しなければならないわ』

『だけどどうするのよ。さっき見せられた情報だけじゃ次に出るべき行動指針はわからないわ』

『そんなことはないぞRO、『情報源』が逃げてきたルートを見てみろ』

 

椅子に腰かけていたM16は立ち上がって光る赤線のもとに向かうと、それが最初に点として生まれ出た地点を指差す。そして私達を見渡しながら言った。

 

『奴らの拠点がわかっているのだから、これから先の動きを見据えるかって感じに様子見をしたりするんじゃなくてそこを叩いてしまった方が手っ取り早い。奴らは公務員とか司法に直接関わっているお偉いさんじゃなくて、あくまで有志団体のうちの連中の一握りでしかない。事前に下調べこそしても抵抗を受けるだろうがそれは仕方ない』

『あちこちが損傷して噴き出しているガスのパイプを修理するんじゃなくてその元栓を閉めるという事ね。多少のリスクと手間はかかるけど、とりあえずの応急処置のような行動としては悪くはないんじゃないかしら』

『ただ、ここはあくまでロボット人権保護団体としての場所であって全員が過激な思想を持っているわけじゃないことを前提にすべきでしょう。証言通りにそこに保護団体の人がいるのなら捜査して有益な何かがあれば捕縛する、という手順ですべきではないでしょうか姉さん』

『ああ、大体はそれでいいと思うんだが……一つだけ引っ掛かることがある』

 

M16はM4の傍から北区側のマップ全域に浮かんでいるバツ印をもう一度見渡しては、やはりというように頷く。

そんな様子にM4はジッと静観しては姉の言葉を待っていて、SOPIIは隊の中で早起きしては一日中勤労したことで眠そうに瞼を擦り、ROは答えが喉元まで出かかっているようでありながらもわからず首を傾げている。私はM16の言いたいことについては大体の察しが出来ているので、隊長と同じく答え合わせを待っている状態だった。

自律人形が世に出ると弊害のように現れた団体。彼等はあくまで言葉を武器にしているのであって直接暴力に訴えてくることはない。もしやるのだとすればそれこそ過激派の人間であり、今回私達が止めねばならない標的だ。そんな彼らに対してM16が無視できないことがあるとするならば。

 

『ここまで広く人員を展開しては行動し、束縛するような真似はこれまでになかった筈だ。連中は主張を通そうと連携しては暴動を起こしてはいるが、所詮はまともな訓練も受けずにエネルギーを余らせているグループでしかない。つうか只の暴徒だよ。そんな奴らがどうしてこうも予期していたように見張り役を配置できているんだ』

 

暗号化したメールのやり取りに組織的に動いて一人を指名手配犯という看板をぶら下げた役者を立てるなど、これまでの連中には前例のないことをしているわけだが、急にこれらを一度にできるようになったとは考えにくい。前々から綿密に計画していたにしても、やることの全てを頭に叩き込むのは容易じゃない。私が街中で発見して最初に追跡した三人組は銃の扱いは置いといても動きそのものは悪くはなかったし、何度かの本番を経ていると感じた。

では、なぜ統率が幾分とれて行動できるようになっているのだろうか。

 

『M16姉さんは、それに関してどう考えていますか。私は今のところその手に関して秀でている新たなリーダーが現れたかと思うのですが』

『どうだろうな……AR15、お前が発見した奴らは銃に関しては全くの素人だったらしいな』

『ええ、そうよ』

『使っていた拳銃はなんだった?』

 

私は自身のデータドライブにアクセスして事前に調べていた拳銃のデータと一緒に画像を引っ張り出す。それを皆に見えるように展開してから言った。

 

『一世代前までアメリカ軍に採用されていた『P320』ね。製造番号は当然と言ったように消されていたけど、見様見真似で作られたコピー品とかじゃなくて精度もそこそこ高いらしいわ』

『精度が良くてアメリカ軍、正規軍で使われてたってことはだ、私の説の方が有力だな……』

 

私が映し出した画像と詳細説明のダイアログボックスを一瞥して、M16は確信めいたものを得たような真剣な表情で私達を見る。滅多に見ないその顔に私も背筋がさらに正されたように感じたが、気のせいではなかったようで寝ぼけ眼だったSOPIIに至っては眠気が吹き飛んだように目をパチクリさせていた。

こうも彼女から余裕が見られないということは、洒落にならないどころか無視することも到底できない、大事の事案に直面した場合に限る。経験者は語る、というようにAR小隊どころか戦術人形としても最古参と言っても差支えのない彼女がこういう時に言うことには重みがある。

 

『これは私の推測だが、おそらく過激派にとっての『協力者』がいる。それも武器を供給できるだけのパイプを持ち、戦略を教授できるだけのな』

『『協力者』って……でもなんでそう思ったの。普通に考えればM4が言ったように頭がキレる奴が出てきたと思うんじゃないの』

『『戦略を練れていても道具の扱いがわかっていない』ということ、それが根拠だ。普通新しい頭がグループを纏めあげるようになったんなら、武器の扱いが分かるようになっていないと話にならないだろ。恐らくだが、『協力者』は過激派を行動の実行に移させて自身は後方支援を主にしている。銃とプランを渡すだけして事の成り行きを見てるのかもしれないな』

 

言葉にならないまま私の中で浮遊していた違和感が明確な形で組み上がっていく。たしかにM16の言う通りで、一つの計画で良き結果を得る為には実行員の隅々にまで手筈が行き届いていなければならない。直接グループの面倒を見るのであれば戦略だけでなく道具の使い方まで伝達・指導していなければ筋が通らないというものだ。

それに今になってM16が銃の種類を私に聞いて来た意味が分かった。M4の考えが現実だということで『扱い切れていない武器』と『彼らには前例のない連携』を否定しようとしてもその『協力者』が邪魔してくる。

 

『『外』を知らない連中がクオリティが高い銃を保護区の中でたまたま手に入れたとは考えにくいわね。M16、『協力者』はきっと単なる武器商人とか戦略家じゃないわよね。きっともっと位の高い……』

『ああ、戦地を歩いては落ちてる物を拾って保管している回収業者、スカベンジャーとも違う。こればかりは外れて欲しいと思うばかりなんだが……』

 

私から視線を外したM16はため息混じりに椅子に戻って腰を下ろす。そして顔だけ持ち上げては視線は手元を見つめながらはっきりと言った。

 

『『協力者』は正規軍所属の軍人か政府関係者、そんな奴かそいつとパイプがあるクソ野郎と見るべきだ。ひょっとすると協力という二文字だけぶら下げては高みの見物を決め込んでいることも考えられるが……どちらにしても厄介な相手だということには間違いない』

 

私達の運命を示す羅針盤が、大きく動いた。




一カ月ぐらい何をやっていたかというと……うん、一言でいえばやりたいことやってサボってました。でも世間がアレで気が滅入ることが立て込んでしまってたんで許してくださいませ。ウィルス騒ぎとは別に私の家族内でゴタゴタしてたこともあって精神的に執筆が覚束なかったりもしてましたけどなんとかなりました。書き始めた去年から思い浮かべていたストーリーなんでそう易々と捨てることもしたくないですしね~。
てなわけで一ヵ月ぶりの投稿です、お待たせしました。投稿日の二日前に最新のデータがクラッシュした時はやや顔を青ざめていたのですが気合と根性で完成しましたよ。本国版のAR小隊の新スキンを見ては脳汁を垂れ流しては燃料にしては脳内を花畑にしていた甲斐があったという物です。AR15、お前さんが別にいいというのなら良いけど、ドレスという割には背中の露出が激しくありませんかね……?
近々45とSOPIIのメンタルアップグレードが実装されて戦力強化を図れるようになるわけなので、私の方も欠片といい報告書の方も用意を済ませているところでございます。メンテが終わったら即終わらせてイベントに突入するつもりです。今度こそ頑張ってイベントを完走するんや……。
というわけで今回はこの辺で。次回はそう遠くないうちに投稿するつもりですので、よろしくお願いします。
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