誰も助けてくれない -Can you hear me?- 作:麒麟犬
ドローンに投下された物資に言われた通りの物資が必要な分だけあるかどうかを確かめてみると、動作不良など万が一の予備の分を除いてきちんと用意されていた。ただ、人数分用意する必要がないとしてデリバリーされたものが一種ある。
偵察に重宝される双眼鏡にあればいいと思う機能として、光源がない地における暗視や熱源を視覚的に認知できるサーマルビジョンなどいくつか挙げられる。いわずもがなだが、夜戦などを想定した作戦もあるのだから敵の頭数を誤ることなくカウントできる方がいい。であればそれらの機能を取り入れるのはわりと定石だ。
ではさらにそこからミスを減らすのに使用者が努力する以外の方法としてはなにがあるだろうか。
決まっている、さらに便利な機能の追加だ。そして物資の中にあるその偵察キットに含まれる双眼鏡は別の不安を感じさせるほどの高機能を引っ提げて投下されてきたのである。
「まさか双眼鏡に電子システム塔載とはな……これからの偵察任務はこいつを手放せないぞ」
『どうかな。またすぐに最新式のそういうのが開発されてお役御免になるか、欠陥が見つかって作り直しになることにだってあり得るよ。技術が進歩するのはいいことだけど、レベルを上げるのに段階を着実に踏まないようじゃすぐに崩れ去ってしょうもないことになる。過去に作るものの出来が良いようでよろしくなかった国というのはあったのだからそれがいい例だよ』
声の調子からしてペルシカはやれやれと言わんばかりなので私達が手に取っている電子機器が気に食わないのだろう。
彼女が実際に戦場を目にすることは限りなく少ないが、私達がそこで必要としているニーズを理解してくれているのだから『不必要』と言ってバッサリと切り捨てはしないでくれる。心得に似た注意点などを助言してくれているし、互いの気心や人柄への理解度でいうならば上から目線で物事を語って来る連中と比較するまでもない。
ただまあ、今回のペルシカの言い分は頷ける。作りが甘いせいで序盤は良くても後々のここぞというタイミングでロクに使えなくなるのは一番よろしくない。そうなれば肩透かしも良い所だ。
「テストを数度経てからの投入ですから信頼性は極端に損なわれていないでしょう。下手に扱えばさすがに故障するでしょうけど、そんな乱暴にしなければいいだけです。私達からの実地試験、ということにしてROは万が一の補助をドローンの管制を継続してください」
『それはいいけど建物内に入られたら私の方からは探査できないわよ。もしも立て籠もられたらどうするつもり?』
「そこのところは心配しなくていいよ。わたし達だってご丁寧に正面玄関からノックして入るわけじゃないんだし、M16が言う陰に隠れている奴の事もあるんだから慎重に動くよ。それに新しい玩具だってあるんだしね~」
SOPIIは手に持っている手榴弾サイズの筒をペン回しのようにして手の内で弄んだ。グリフィンのデータベースに記録されていない範囲内の対象に光を掃射してマーキングする、警察からの要請で強襲作戦を実行する部隊からすればお馴染みのアイテムだ。
偵察のみならず標的の制圧も考えて私達への装備。気に食わないが指揮官の椅子に座れるだけあって、目的達成の過程で立ちはだかる不測の事態を失くす手段を心得ている。汎用性に富んだ必要な物を必要なだけ、それでも適正が高いかつ適度な分だけ。明確に敵方のことがわかっていない以上はどこかの性能に特化したものを使わない、と彼は言うがその判断も一理あるものだ。
だがそれ以外に私の精神を逆撫でする事実が一つある。
「それにしても、今になって事態の解決に乗り込んでくるだなんて気に入らないわ。AR小隊に一任するとか言ってたくせに……」
『気持ちはわかるよ。直接言われていないけど私にも腹に据えかねているものがあるのは否定しない。だけどこの支援が無ければ実行可能な打開案の幅が依然として狭かった。少々腹立つけど助けられたと認めるしかないよ』
保護区の北区からさらに北上、破壊されたゲートから『外』に飛び出した保護団体を追って行き着いたのは数時間の位置にある集落のような場所、そこの一端に私達はいる。偶然か、それとも誰かによる策略なのか。昼間に話していた『特殊危険指定項目』に抵触した危険指定区域として指定が入って名が改まった『D44N』である。
世間では危険視され始めたというのに、夕陽どころかそれそのものすら完全に沈んで黄昏の刻になったことを知らせている今では灯りで光点を作り出し、それを結んで線にして一つの拠点を築いていた。『外』ということもあって気持ちばかりの防衛線が張られているそこでも人の営みが垣間見れるのだから不思議なものだ。
ただ、私自身は支援物資こそ送っても援軍はなし、結果さえ出せれば過程は問わない。そんな指示と前言撤回で頭に来ていた。
『彼がしているのは『指揮』ではなくて『指令』を与えているだけ。だけどそれは特殊部隊に寄せている信用によるものじゃないだろうね。どちらかというと腫れ物同士でこすり合わさせて血が出ても構わずに摩擦で消そうとしているみたいだ』
「……嫌な例えだがやろうとしているのは結局それに近いんだろうな。あいつならそう腹黒く渦巻かせていてもなんらおかしくない」
「それはそれとして、もう行動に移しましょう。RO、ドローンで観測できる限りでは内側はどのようになっていますか」
M4が新型双眼鏡を覗きながらそう言うと、ROから送られてきた観測データが戦術ネットワークを介して表示された。画像だけでなく現在進行形で解析されているデータが羅列になっているのを今は目を背けて画の方を見てみると、それには様々な鈍器を持って臨戦態勢といわんばかりの様相になっている人々がいた。
『見ての通り、この拠点にいるすべての人が敵と思うべきよ。武器を持っている全員が私達を快く思っていないのはこんな辺鄙なところにいることから明らか。正面で顔を合わせれば言葉少なく襲い掛かるって考えた方がいいんじゃないかしら』
「でもそこまで悩むことなの?こいつらへの発砲は最低限にするのだとしても近接戦に関しては私達の方に分があるじゃん。数こそ向こうが上だからちょっと工夫しないとだけどさ」
『そう簡単に片付けれることじゃないし気に留めておくべきことはそこじゃないんだよSOPII。こうもこちらが来るのに備えているということは単純に逃れた連中が知らせただけでなく『協力者』に予期されていたということもあるだろう。それにM16が言ったように他人に武器を供給できるような奴となるとそれなりの準備をしていると見るべきだ。事前情報がない状態である上にこちらが少数精鋭という布陣で挑まなくてはならないのだから警戒をする必要がある。そうなると、言わんとしていることはわかるね』
私達の目標は『銀行への襲撃計画の阻止』ではあるものの、達成するのに『それを計画している者達への制裁』という過程を経ていかなければならない。当然、話し合いで解決できるような連中ではないのだから『無力化』することが必須だ。ではその『無力化』するのに連中を私達が持っている銃やナイフなどの武装や体術で殺傷するのかと問われれば、もちろんそれは『ノー』。権限や責任、ロボット工学三原則云々とかではなく思想などが危うく感じられても、相手は鉄血兵と相対すればまともに戦うことが出来ない集団でしかない。正当防衛、もしくは最悪の事態を阻止するのに必要だったのなら許されるのかもしれないが、そんな理由もなく撃つものなら奴らと同類としてそう変わりがないことになってしまう。
日々綱渡りをしているような気分になりながら戦っているこちらがそう認識される、そんなのは御免こうむるという話だ。
『今回の私達はあくまで行き過ぎた思想を持ってしまっている人を本当の悪事というものから守るべき役目にある。相手がトリガーハッピーのテロリスト紛いに殺人を負い目もなくしてくるならともかく、話し合いの余地があるのであれば極力そうしなければならない。古くからある交戦規定なんてものじゃないけど、世界の至る所で大量の血が流されているのだから無意味に散らさない為にも命を尊重しての人道なんてものに則っておくべきだろうさ』
「……言っていることは理解できますけど実践するとなると面倒ですね。血気盛んな相手にも歩み寄ろうとしたら痛い目に遭うのはお互いそうだけど、それだけですまないことになったりすることもあり得ない話じゃないですし。それ以外で手っ取り早く済ませれる手段があるのならそちらに逃げてしまいたいです」
『気持ちはわかるよ。私は兵隊として戦ってくれている君達とは違ってそんな現場に居合わせることが絶対に出来ないからその綱渡りの苦労を本当の意味で『共有』できない。ただ私の場合、ラボや廊下で理屈や正論を並べても拒否して話し合いにならない、そんな上から目線のマウント取り野郎に向かい合わければならないことがあるから『理解』こそできる。そういった間接的な意味で君達とは以心伝心というわけだ』
「励ましてくれてありがとうございます、と言いたいところですけど言葉遣いが汚くありませんかペルシカさん。というか自分でも意識してわざとそんな言葉を使ったなんてわけじゃありませんよね?」
『さ~どうだろうね~カフェインの定期摂取を怠ったつもりはないけど脳の回転が落ちて浮かんできたワードをそのまま言っちゃっているんじゃないかなって思うよ~』
声音が明るいものになって雑談などをする時のようにおちゃらけているのがわかるようになった。それに釣られたように私だけでなく他の皆も笑みを浮かべて声を漏らし、束の間の一時を享受できた。
が、その後に聞こえてきた声に込められた感情の差があった。
『だから聞かせてもらうよ。このまま敵の本拠地を叩くべく、行くんだね?』
そこにどのような意味合いがあったのか、今になってみてもはっきりとはわからない。ただ、あの人はきっと私達が歩まされて直面することになる未来を知っていてそうなることがわかっていたのだろうと思う。どのような過程があったのだとしても根底には私達への温情があったのだから、きっとなにか事情があったのかもしれない。そうM4は言っていた。
だが私の場合、昨日にあったやり取りから不信感が芽吹き始めていたのだから彼女とは違った主張である。
ペルシカはきっと、私達には話していない、今回の事件の『裏』を知っていたのだろうから。
「……今夜の月は赤いわね」
これといった確かな理由はないというのに、そんな月を見るだけで不安になってきていた。
―――☆―――
ザリザリザリッ!!と瓦解している住居という壁の向こう側から高速で引き摺られている何かの音が聞こえてくる。話し声に混じっている音の主が何なのかは探らないまま、私達は姿勢を低く保って陰から飛び出しては別のそれに一人ずつ移動し、突くことのできる警備の穴の方へと進んでいった。
私達が発砲などして応戦し、血生臭い結果となることを避けるには戦意を削ぐしかない。そうする方法としては警告や交渉など、言葉を交わすことで相手と意志疎通し互いに同意を得たうえで穏便に済ませるのが理想だ。人質が取られた上での発砲事件などが起こった際は人命救助を最優先として、犯人の神経を逆撫でしないように細心の注意を払ってそれを実行する。話し合いの余地があるのであればという条件が満たされているのならの常套手段として昔から知られている方法である。
ただそれを可能とする状況というのは相手が包囲されて逃げることができないか、自分が置かれている状態を俯瞰できていればに限る。当たり前だが、筋の通った言い分が無ければ話し合いなどできるわけがない。加えて圧倒的不利な状況に立たされているのはこちらなのだから言葉のない圧力をかけとることはできない。
では、如何様にして相手方の戦意を崩して立場を逆転させるか。
『今のところ目立った動きはないけど強気になってるんじゃ何をするかわからない。あの頃のようにスピード勝負として、慎重でも迅速に彼らの精神的な柱を叩き折りましょう』
そうM4に言われて思い返されたのは数年前の事。まだ私達が戦術人形としてだけでなく一部隊としてもルーキーでロシアの地における今は亡き指揮官の元で戦っていた頃、新兵器を運び込んだとされる鉄血の前線基地を破壊する任務があった。それも鉄血の方も最重要防衛地点として定めているほどに、警備だけでなく鉄血兵の装備も万全以上の基地を破壊しなければならなかった。
当時の私達の指揮官がまだ上級代行官であったヘリアンや親交のある各支部の仲間と協議を重ねた結果、上から下された指令を大事になる前に完遂するには、不意打ちのように虚を突いて痛手を与えてから反撃の機会を与えぬままに畳みかけるしかない、にいうことになった。
言葉にするだけであれば多少容易に感じるものの、実際に行動に移すとなると難しい。敵と動員できる自分達の戦力差は大きいものなのだから隠密で動いて攻撃するのだとしても、全てが理想通りにいくことは決してない。あまりにも分が悪すぎる博打というものだ。
それにいくつかの手段こそ思いつきこそすれど、それのどれが最適解として扱っていいものなのかがわからないこともある。
現場に立つ私達人形だとか後方で指揮する指揮官という立場など関係なく、遠からずも命がかかった大博打。高く聳え立った壁のようであった。人形を道具として切り捨てる指揮官なら間違いなく考えなしに投入して損害を、必要な犠牲として私達を捨てていた。
しかしそれを重々承知していたことなのか、あの指揮官は事前の準備としては十分以上に手間をかけてリスクを減らすように心がけてくれた。
月間での交代制の副官であったトンプソンによれば、無人機を使った拠点の偵察に鉄血の配置や巡回ルート、配備されている固定砲台。それらを始めとして周囲の環境や地形までもを必要ないのではと思うほど調べつくし、協議結果から外れず目的達成に有効、そして犠牲がないことを第一に幾つか考案していたらしい。彼は合間に仮眠を挟むようにはしてこそいたが、短期決戦として遂行すべく二時間程度しか休んでいなかったという副官の証言だ。
そして指令が下ってからの三日目で作戦を立案、それに準じた能力を持っていて適した人形による部隊を編成した。ブリーフィング中の作戦の説明も考えもつかない、酷く言えば荒唐無稽に思えるプランのように思えるそれだったが、成功に至れる現実的な手順や根拠があった。細心の注意を払うことはあっても、第一ステップである隠密任務としてはそれは当然。無駄のないラッシュで速攻で畳みかける必要があるのは強襲任務としてもそうだ。指揮官はそれらの手段を提示し、最後に言った。
『自分は、この場にいる誰もを死なせるつもりはない。この先で戦ってくれる他の仲間達だってそうだ。だから私にできることがあるのなら実践するし、多少の無茶ができるのならする。だから君達の力を貸してくれ。バッドどころかノーマルでもない、グッドのさっきにあるハッピーエンドを飾る為に』
夢物語を語る夢想家、それまで思ってしまっていた。ただその言葉に彼が『指揮官』という重荷を背負いながら何を見据えていて走っているのか、それがそのときになってわかってしまったのである。
理想と現実、責任による重圧なんてものじゃない。彼もまた戦場ではない何処か、私達には立つことが出来ない場所で戦っていた。この世でも見据えている者はそうそういない、別のステージを踏破することを目指していたのだろうと。
『数秒後にそちらに見回りの二人が接近するわ。どうやっても避けられない、制圧するしかないぐらいよろしくないわよ』
『ならこちらでよろしくするさ。AR15、一人任ってたぞ』
M16の声で現実に引き戻される私の視線の先には真新しいカービン銃を引っ提げてこちらに歩いてくる二人の男。奮い立っている他の目がないことで気が緩んでいるのか、談笑しながら暢気にしている。
油断している彼らが接近してきたら締め落とすべく、私はM16と同様にストラップに繋がっている分身を脇に下げ、両手をフリーにした状態で何時でも飛び出せる体勢になった。
『同時にやるぞ、私のカウントに合わせろよ』
彼女のスリーカウントに合わせて陰から跳んで距離を詰め、一人の顔を掴みながら正面から足を掛けて体勢を崩させる。技に掛けたらあとは力任せで、相手の後頭部から体全体を地面に叩きつけるよう、大の男を倒せるほどの腕力を生み出すべく出力を上げた。
ドグシャッ!と男が声を上げる前に地面に倒し、混乱している間に完全に気絶させるべく相手の首に二の腕を引っ掛けて物陰へと引っ張り込む。素早く隠れるべく傍で待機していたSOPIIに胴体を掴んで手伝ってもらって暗がりに戻ると、私は首を両腕でガッチリとロックした。
虫が鳴くような声を最後に白目を剥いて気絶したので私とSOPIIは身体を丸めさせて隠す。
『こっちで二人片付けた。他の状況は?』
『今のところは物音で不審がられたりバレたりした様子はないわ。第一制圧ポイントへの道はもう問題なく行けそうよ』
『なら後は打ち合わせ通りに。私と姉さんは敵拠点の中央部に侵入、AR15とSOPIIは発電機を押さえてから陽動を仕掛けてから合流する。異議は?』
この場にいる誰もが首を横に振り、無線機の向こう側にいるROとヘリアンからも特に何も言われることがなかったので私はSOPIIと事前に偵察して見つけていた発電機の方へと移動した。
道中に『協力者』からの入れ知恵か彼ら自身によるものかは定かではない、足元に何かしらかのトラップがあって油断が一切できない道中だった。ただその仕掛け方が素人そのもので目を凝らしてさえいれば見つけられる状態ではあったので、鉄血や訓練されて人間としては十分に戦えるテロリストの手口よりは容易いものではあった。
「先導はあんたに任せるわよSOPII。M4、これから電源を落とすわよ」
『了解』
拠点の隅にあって一番高い、見張り台のようなものが屋上についている建物についたので私は裏手にある発電機から伸びているコードを傍で立て掛けられていた斧で断ち切った。途端に周囲の光源が消えて暗闇が訪れて、それが月明りのみによる世界が生まれる。
人形であるこちらに対し、人間の目は咄嗟に視界の明暗の調節ができるわけではない。これから侵入する建物の方からやれ電源がどうしただとか代わりの物を持ってこいだとか言っている。
奇襲をかけるなら今だ。
「ゴー」
支援物資にあったサプレッサ―とフラッシュライトが取り付けられた上にスタンゴム弾が装填されている拳銃を持ったSOPIIが裏口から入ったのに続く。正面で狼狽えている男をバディに任せ、ゴム弾の特殊効果で痺れて動けなくなって転がっている一人の両手を縛って後を追う。SOPIIが奇襲のつもりで襲い掛かって来た一人の攻撃を受け流すとその顎に肘鉄を食らわせてよろめかせ、至近距離からスタンゴム弾を叩きこむ。その横に出てきた包丁を持った新手を私は撃って無力化、階段下の小さな物置から出てきたバッドを持った男にも同様に対処した。
踏み入ったワンフロアは一部屋間取りが簡素かつ単純なつくりになっていた。それによって隠れていると思わしき箇所を見て回ってのクリアリングに時間をかけることなく済んだと言える。
『一階クリア。AR15、二階へ上がるよ』
「引き続き後ろに付くわ。あんたも承知しているとは思うけど不意打ちには十分に気を付けなさいよ。鉄血と戦っている時は派手に暴れてくれてこっちの仕事を減らしてくれるのは良いけど、今回のはそうもいかないのだから」
『そこまで言われなくてもわかってるよ。もしわたしがやられそうになってもAR15が助けてくれるでしょ?』
「それはそうだけど……一々私の手を借りなくてもいいようにしなさいよ。あんただって他に迷惑をかけ続けるのはいい気はしないでしょ」
『でも見捨てないでくれるよね、AR15のことだから。だから信じてるよ』
無邪気な笑みをこちらに向けた際の口元を綻ばせたまま二階へと階段を使って登っていくので、内に湧いた照れを抑え込んでやや遅れながらも私も向かった。
こちらが上がりきる前にSOPIIは高笑いしながら接近してきたらしい男一人を撃って無力化していた。懐中電灯を持っているのか、もう一人がこちらを照らしては仲間を呼びつつ光源とは別の手に持っている何かを向けてきている。
はっきりと見えたわけじゃない。けど一瞬見えたシルエットでそれが何なのかはすぐにわかった。
(起爆装置!?)
レバーを握ることで起爆させる簡易式のそれに私の頭は一時真っ白になったが、彼の注意が向いているのは今のところSOPIIだけでこちらにはまだだ。
私はSOPIIが暴れたことで足元に転がっている物のうち、最適の位置にあったアルミ製のカップを彼の方に蹴り上げた。狙いとしては相手の上半身のどこかだが、当たってもインパクトが少ない体のどこかだったとしても別にいい。
狙い通りというべきか、カップは男の顔面へと飛んでいき注意を逸らすことに成功した。顔の右半分に命中したことで相手はよろめき視線はSOPIIから外れ、痛みで顔を押さえては苦悶の声を上げた。
「SOPII!!」
「わかってるよ!」
すぐに相方が撃っては駆け寄って落とした起爆装置を蹴ってこちらに転がす。SOPIIが拘束している間にそれを手に取ってロックを掛けていると、男が呼び声に応えた仲間が三階の方から下りてきた。フラッシュライトを点灯させているこちらは隠れようがない場所に立っていて、互いに視認し合っての戦闘になることは必至。ここから敵拠点全体に伝播した騒ぎになることは避けられないことになる。
とはいえ、それがM4からの指示であり狙いではある。
「もういいわ、派手にやるわよSOPII!できるだけ離脱の時間を作る為にステルスで行きたかったけど仕方ないわ!銃声も何もかも鳴らして奴らを一人でも多く引き付けるのよ!」
「よーし、効率と楽しさを重視して暴れちゃうぞぉ~!」
銃口についていたサプレッサーを高速で回して取り外すと、SOPIIはいつもの高笑いしてはスタンナイフを抜いては敵増援に飛びかかった。連携を重視しない肉食獣同然の動きに目の前の敵たちは驚きの声を上げては手に持っている武器で応戦しようとしているものの、兵士でも何でもない人間ではSOPIIの動きは止められない。獲物同然に狩られることしかできないし、隙を突こうとしても私がさせない。
伊達に戦術人形として数年戦い続けていないわけではないのだし、同じ部隊のメンバーの動きの癖だって把握できている。陣形を組んでいる時は勿論連携するとして指示を守っている彼女は散開しての自由戦闘になれば、アサルトライフルの人形でありながらサブマシンガンのそれのように攻撃するトリックスターとなる。それが私達AR小隊における火力担当であるM4SOPMODIIだ。
日常や仕事だけではなく訓練だって共にしてきた、その時間は決して短くない。だから、今こうして背中から角材で殴打しようとしている一人を撃つべきだということだってすぐにわかる。
「そのまま行って!残りの敵はこっちで片付けるから!」
「わかった!」
『いいぞ二人とも。そっちの騒ぎがこっちにまで聞こえて来て連中がそっちに寄っていってる。陽動として申し分ない働きだぞ』
「了解。そっちもできるだけ早く『中枢部』の制圧をお願いするわ。ある程度まで片付いてくれてないと私達も合流できないから!」
「心配するな、こっちも今から襲撃する。合流の予定時刻はあと四分だ、そっちも急げよ」
了承の意を最後に言ってM16との通信を終了し、同時並行で遂行していた敵方との戦闘に全意識を戻す。残り四分、それ以内に見張り台としてのこの建物の制圧は難しくないが連中の注意が多くこちらに向いてくれなければ作戦の意味がない。奴らにとっての大騒動として知らしめるのに、ここにいる連中を倒すだけではインパクトが弱いし、そいつらを全員に見せつけにするのだとしても時間がかかる上に不十分だ。
何か、大きな花火をあげるようなことがなければ『陽動』になっているとはあまり言えないのではないだろう。
然れば……。
「RO、ペルシカさん。私達がいる建物内で一纏めで無線接続されている爆弾の位置を割り出すことはできますか?」
『残念だけど建物外部から爆発物の検出をするにはそれ専用の機器がないとできないわ。私は複数のドローンを操作しているし……』
『送られてきた映像から解析するにしても、直接内部を見れているわけじゃないからこっちからもわからないね。きっとそうするにしても時間がかかりすぎてアウト、君達二人は包囲されてそこからの移動がし辛くなって作戦は混迷を極めることになるだろうね』
その通り。過去の経験を活かしての今回の作戦は隠密をしての陽動と襲撃に部隊ごと別れてのもので、退路を常に確保しつつ、生還することを第一とした二段階の作戦だ。
前とは違って今の敵は人間なので幾らでもやりようはあるが、それでも油断禁物。加えて裏で糸を引いている存在に関しては鉄血よりも明確な意図が見えず不明瞭だ。決して見くびることなどできない。
『たけどそこに設置されているのが有線の簡易型の物でなければ、その繋げられているパスをその全てから切断して接続し直すことはできる。多少手間はかかるけど、ROに見せてくれれば後はこっちでやるよ』
『ではお願いします。無線式であることが起爆装置からわかりますので何処かに仕掛けられている筈です。屋上付近でドローンを待機させておいてください、こちらで持って行きます」
『りょーかい』
SOPIIが最後の一人を倒したところで三階にまで行ってみると、二人で手分けをするまでもなく目につく部屋の隅にあるテーブルの上に二、三個の爆薬があった。手に取って見てみれば無線接続されている装置は起爆信号で爆発するタイプのもので、型式としては決して旧くはない。正規軍で使われている最新式の二世代分ぐらい以前のものでもきっちりと本来の用途通りに使えるのなら問題ない。
SOPIIと目配せし合って一つだけ持ち、風が吹き込んでくる梯子を上ってさらに上へと、この建物に目をつけた理由の一つの屋上に向かった。先に外に出た相方の手を借りて乗り出すと何十人かがこちらに来ているのが見えた。
「ペルシカさんこれです、お願いします!」
『よしRO、そこでドローンを滞空させてくれ……ファイアーウォールが張られていない電子装置のプログラムを変えるなんて朝飯前だよっと……よし、これでオーケーだ!』
信号を受信するアンテナの先の色が変わったことからペルシカの言うように他とは独立して爆破できるようになったのだろう。明確な変化があったとはいっても手に持っているのは危険物で人形の私達でも近距離で爆風を受ければただではすまない。ペルシカがミスした、ということの心配がないと言えば嘘になるがもう時間はない。
私は持っていた爆弾をSOPIIの前に持ってきて言った。
「投げる?」
「えっいいの!?最近みんながわたしに遠投をさせてくれないから今回も駄目だと思ってたよ!!」
「あんたが前の投擲訓練でふざけてベースボール選手よろしくのフォームで投げたからでしょ。あんな真似をされたら説教してもしばらくはやらせたくないと思うわよ」
SOPIIの短所の一つとしては他のメンバーと比較してみて無邪気な、幼い印象を与えてくるメンタルモデル所以の注意力散漫であること。先日の爆発物を使った訓練にて、実戦ではないことに甘んじて児戯のように遊びを入れてしまったことで彼女本人だけでなく、訓練に参加していた皆に危うく大怪我を負わせるところだった。かろうじてそれは免れたものの、よっぽどの追いつめられた状況下ではない限りは手榴弾などをSOPIIに持たせるのは駄目だということになったのである。
ただ彼女は多数の敵を殲滅するべく装備の一つとして『M203グレネードランチャー』を所持しているので爆発物の心得がないわけではない。彼女も誤った使い方をすれば怪我どころじゃ済まないことを知っているし、単に型に縛られない投擲方法を模索している道にいた所でおふざけが過ぎていただけだ。
SOPIIとてあの時のことは反省しているし、こちらからはもう責めることはない。
「できるだけ高く、広範囲にわたって人の目につくように投げて。そしたらこっちで起爆するから」
「オッケー!合図したら投げるよ!」
ぶんぶんと腕をまわしてからSOPIIは爆薬を手に持って空を仰ぐ。私がさきほど回収した起爆装置の電源を起動してセーフティに手を掛け、頷くと気合の一声を発しながら空へと放った。ブォンッ!と棍棒を振ったような音と共に球技選手の如く高速で爆薬は頭上へと飛んでいく。私は新型双眼鏡を通してのアイカメラで追ってるそれがボールよろしく高く、放物線を描こうとしているうちの頂点に達そうとしているところを見極めなければならない。そうしての死人を出さない為の配慮だからこそ、SOPIIにこの役目を任せるのは投擲よりも難しい話だ。
ただでさえ光源が月明りしかなく物の視認がしにくい状況なのだから、これこそ注意力などを切らさずにいなければならない仕事。暗視モードが搭載されている双眼鏡があっても使い方を誤れば見失ってしまうか、タイミングを逃すなどして失敗となってしまいかねない。
私がやっても絶対成功するとは言い切れないが、人数少ない上での適所に割り当てるなら今のがベストだろう。
(そろそろ……今!)
描かれている放物線が頂点に達したと思ったタイミングで私は手に握っている起爆装置のレバーを押し込んで起動させ、夜空に綺麗とは決して言えない花火を咲かせた。わずかに遅れて聞こえてきた爆音が一帯に響き、爆炎による光が辺りを照らし出す。注意が一気にこちらに向いてくれることを願いながら、私は背負っていたキット一式のパーツをその場に下ろしては展開、SOPIIに手伝ってもらいながらそれらを組み上げる。
『AR15にSOPII、あなた達の方に血気盛んそうな大群が向かおうとしているわ。武器は大したことないけど、あなた達本来の銃を撃てないんじゃ戦うのはかなりキツイことは間違いないわ』
「ええ、今こっちでも目視で確認できた。まともに相手をするつもりはないけど、もう少しここで粘っていないと陽動にはならないしちょっと耐えてみるわ。M4にM16、そっちの状況はどう?」
『警備員みたいな人がいる程度で今のところ楽よ。そっちの騒ぎでちょっとざわついているし、悪い想像を勝手にして浮足立ってる。いつでも合流していいわ』
『それと、だ。こっちの方で『協力者』でなくともここら一帯の中心人物、まあリーダーのようなもんだろうが目星も点けることが出来た。制圧するのに私達二人だけでも遅れを取りはしないが、パフォーマンスをかけてまとめて無力化するには不十分だ』
「わかった、タイミングを見計らって合流する。ちなみにそこって何処の――――――」
M4と位置関係の確認を済ませてから改めて連中の様子を見てみれば、屋上にいるこちらに罵声を浴びせては建物内部に突入しようとしているのが見えた。目の前に来ればすぐに殴り掛かるなりして力で押さえ付けようとする勢いだ。
『あいつらが言ってたグリフィンの操り人形だ!』
『オレ達の邪魔をしやがって!ただじゃおかねぇ!!』
『殺せ!殺せ!!殺せ!!!』
そう声を揃えて馬鹿でもわかるぐらいの殺気をこちらにわかるように言葉に乗せての罵詈雑言を吐いている。ロボット、人形にも人間同等の扱いを、などと宣っている人権保護団体には到底思えない様相にSOPIIも『うわぁ……』とドン引きしているが無理もない。化けの皮を剥がされた悪人とは大体こういうものであり、見るのも聞くのも嫌ということで忌避したいと思うのも当然だ。
(単に私達グリフィンに守られたくない、ならまだわかるわよ。だけど庇護下に置かれることを拒んでるだけじゃなく、自分達に害を与えない人形だけを保護してそうじゃないのは排除する、なんてロボット人権保護団体として矛盾してるじゃない)
わかっている過激派の考えの核心部というのは、『保護』という名の自分達の支配が及ぶか否か、その一点に尽きる。外見だけでなく人間同様に反応を示すことを始めとして人権保護団体の連中は人権というものが自律人形にもあると主張している集団だ。まだ穏健派にいる人達はそう声を上げるか、直に人形達にそう思わないかなどと聞いては訴えたりするだけで、迷惑ではあるがまだ許容できる範囲である。
私達が相手取っている人達は自分達がマウントを取り続けたいが為に、考えにそぐわない人間や巡回している人形を攫っては痛めつける、または殺害・破壊するなどして些事などと片付けることが決して出来ないことを繰り返してきた。暴動を起こしてまで騒ぎ立て、陰では正当性などなく人を殺すほどに暴力を振るっているのは犯罪でしかない。
(もしかして『協力者』が元軍人とかの戦闘のエキスパートじゃなくてこんな民間人の枠にいる人達を『使って』いるのは、勘ぐられないようにするだけじゃなく凶暴性を知らしめる為?)
いや、それをほとんどの誰も持っている裏の顔を教えるようなものであり、秘めているそれを世間にさらして何になるのだろうか。グリフィンの目を掻い潜って銀行を襲撃した、という敵対関係にはある彼らからすれば実績ともとれる事実を残せはする。私達に一泡吹かせた荒くれ団体のエリート、なんて肩書きを得れはするが、軍か政治の世界に身を置いていたと思われる『協力者』が旨味をあまり感じはしないだろう。だが……。
(……駄目ね、私だけが考えても答えに行き着きそうにない。こいつらを捕えた後で皆で考察しつつも追うしかないわ)
とにかく、だ。眼下ではそろそろいいだろうと思うぐらいに過激派の連中が集まってきている。SOPIIが封じた梯子の扉の方からも怒声が聞こえて来ては叩いている音も聞こえてくる。
もう頃合いだ、と私は先程組み上げて設置していた装置、ジップラインランチャーを起動し、M4とM16がいる建物の屋上へと砲口を向けて取り付けられているパネルの方を見る。計測されて表示されている距離が装置の射程内に収まっていることを確認し、側面についているトリガーを引いて射出した。
ドルルルルルルッ!と発射されたジップラインが伸びていく音の後にグラップルのアンカーが狙った箇所に食いついて固定されたことが、パネルが『SUCCESS』と成功の文字を表示したのでわかった。
既に用意されている二人分のフックの内の一つをラインにかけると、前に立ったSOPIIも同様にベルトに留め具をつけるまでの準備を終える。そしてちょうど力任せに開こうと顔を少し覗かせてきた人に手を振りながら言った。
「バイバーイ♬」
満面の笑顔と残すと前へと踏み出して地上の連中から見れば滑空していると思うだろう速度で合流地点へとSOPIIは移動していく。私もすぐに後に続いて宙へと足を運び、フックのベルトを握り締めながら舞った。ジップラインを滑る音を耳にしながら見下ろせば呆気にとられたようにこちらを見上げてくる人間達の姿がある。向こうからすればラインが闇夜に溶けて見えていないだろうので、突然何の理屈もなく移動しているように見えているのかもしれない。
少しばかり悦に浸っているとあっという間にジップラインのゴール地点に近付いて来たので、フックの金具でブレーキをかけて勢いを弱まらせる。先に到着したSOPIIが端でM4から聞かされた方角や位置などを確認しては立っているその場を軽く叩いて頷き、バックパックに手を突っ込む。
私はその一連の動きを見て問題ないと思ったのでSOPIIにこれからの下準備を任せ、無線機に手を当てながら言った。
「M4、十秒後にこっちは突入する。そっちもタイミングを合わせて」
了解、という隊長からの返答がくるのとSOPIIがそこに二つのラぺリングアンカーを打ち込むのはほぼ同時だった。安全確認として先にフックを掛けてワイヤーを引っ張るなりして安全確認をする。
私もラぺリングする前の最終確認としてそうしてからSOPIIと建物の外壁に両脚で張り付く。スタンゴム弾のマガジンを新しいのに入れ替えたタイミングで、室内の方から乱暴に金属扉が乱暴に開かれたような音の後にフラッシュバンが炸裂、聞き慣れた声が投降を呼びかけている。
その時には私とSOPIIも窓ガラスを慣性と共に蹴破っては窓際にいた一人を地面に倒し、銃を構えて眼前を見据える。薄手のツナギの上から保護団体の上着に袖を通している男が数人どころかすぐには数えきれないぐらいの大人数、その全員が拳銃やらライフルを持って室内に入っているM4とM16に向けて撃っていた。
私はスタンゴム弾を最も近距離にいた者に撃ち込んで無力化し、フラッシュバンの影響を受けていない連中の対処を優先するべく動いた。
「相手が素人だからと無理して踏み込むなよ!戦闘の腕はともかくとして武器だけは侮れないんだからな!」
「言われなくてもわかっているわよ!」
こちらに気付いた数人が銃口をこちらに向けてくる。先手を取って倒すことはできても、数は相手に分があるので反撃がくることにはなる。近くには遮蔽物はなく、隠れる場所はM4とM16がいる場所ぐらいだ。
できることがあるとするならば、と私はふらついている一人を目の前に引っ張って射線を遮り、泡を食ったような顔をして硬直した者の首筋に一発撃ち込んだ。その場に崩れ落ちるのを最後まで見ずにさらにもう一人、と順々に視界に映る最優先ターゲットを見ては対処した。
SOPIIと分散して眼前の敵を倒していると、弾幕が薄まったことでM4とM16も立て直して一人ずつ確実に無力化していく。フラッシュバンの影響がなくなる頃には、もうたった一人をこの場にいる小隊全員で追いつめたような状況だった。
「ここにいる奴が最後?」
「ええ、目標にはもう爆薬を仕掛けていつでも起爆できるわ。その周囲も制圧して誰も居ないから大丈夫よ」
「双眼鏡ではわからなかったが重火器も腐るぐらいたくさんあったぞ。マシンガンにグレネードランチャー、さらにはRPGまであって宝物を見つけたようなもんだった」
この拠点にいたロボット人権団体、その過激派が強気でいられたのは扱い方を間違えなければ戦術人形にも通用するSUVに取り付けられたガトリング砲が見受けられたことからそうだと考えていた。まさかそこまでの物資を隠し持っていたとは思わなかった。
しかし……。
「ロケットランチャーとか撃てば派手に爆発する物じゃなくても、銃弾を撃つだけのマシンガンを表に持ち出していなかったのは何故なの?」
「考えてみればいい。私達が今居るのは危険指定区域になりたての場所だ。そうなると政府でも鉄血だけでなく民間事業の大部分をグリフィンに任せているとはいえ、何も知らないで放っておく、なんてことはし難い。世論はともかく、余計なことに食いつきやすいマスコミなんてのは黙っていないだろうさ。だから一応の機械による監視はつけて体裁は整える。藪を突かない様にしながら様子見をするとしては、一番考えやすいのは何だろうな?」
「……そうか、サテライトスキャンね」
世間に注目されるようになったことで、仕事はしていないわけではない、という言い訳を嘘もなく成立させる為にも最低限はそうすることはありえる。本当に目の上のコブとして邪魔になるのであればグリフィンが手を下すだろうから、安全圏から様子見をして矛先が自分達に向くかどうかだけを衛星で確認し続ける、なんてことは想像に難しくない。
そうなると、大々的にライフルやマシンガン、銃器としては重くて大きいRPGを出していないのも納得できる。もし全員がそう武装していれば自分達の手の内を晒すようなもので、組織の規模を知られてしまうのと同じだからだ。
そう私の中で纏めていると、戦意を喪失しているのが目に見えて分かる一人にM4が歩み寄って言った。
「そこまで時間がないけどこれだけは今すぐ聞かせてもらいましょうか。あなた達に色々とアドバイスをして物資を提供した人がいると思うのですが、一体どこにいるのですか?」
「し、知らねえよ……!」
男がそう震えながら答えると、近くに来ていたM16が無言で拳を突き出して壁に穴を空けた。バンッ!と壁紙やそこに立っていた鉄材がひしゃげているのを見た男は情けない声を口にしては尻餅をつきガクガクと震え始める。
「言えよ」
「知らねえんだってぇ!オレは下っ端であんたらにとっての肝心なことは何も知らされていねえんだよぉ!」
「あんたもいい歳してんだ、何も疑問に思わなかったわけじゃないだろ!妄信的に上から言われる事に従う馬鹿なのかお前は!」
おっかないねぇ、とSOPIIは何処か楽しそうにしながら尋問を眺めておりウキウキしている状態だが、生憎ながら私はそんな気分じゃない。
「なんなんだよ、結局はあの一家が言った通りになっちまったじゃねえかよぉ……!」
そう失禁しながら泣き崩れるその中年の男への苛立ちが高まってきた時だった。外の方から聴覚には不快でしかない最大音量のハウリングが聞こえて来て咄嗟に耳を押さえる。反射的に窓の外を見て音の元を探してみると、拠点の各所に点在していたスピーカーが私達が居る建物の数メートル横にあった。
『あ~、テステス。聞こえるかな、人権保護団体の諸君。それとその場に潜りこんでいるグリフィンの人形の君達も』
状況を把握している、と演算で即座に叩き出して部屋を見渡せば天井の隅の方に監視カメラが一台取り付けられており、機能していることが示されているようにフロント部分のランプが灯されていた。それを撃って壊してやりたい衝動に駆られて私の名の元となった分身の照準に定めたが、その前にM16がハンドガードを掴んで下げてきた。言葉のない目配せで脇に下げると、M4がカメラに向かって言った。
「あなたがここの人達には協力的な立場にいた方ですか?」
『そうさ。軍の余りものの武器や策を用意しては提供していたのは僕だよ。とはいっても、やっぱりというべきかなんというか、考えられるうちで可能性が一番高い結末になったか』
私は優男のような声による言動に訝しんだ。M16のプロファイリングによれば『協力者』は成功を収めようとする、確実性を求めた性格であるらしい。もしその通りであるならば、結果に執着しているような様子が無ければ納得できない。
彼女の推測が外れたのか、と横目に見ると彼女は彼女で表情を変えることなくカメラの方に視線を固定させていながら口元に手を置いていた。このような仕草かつ真顔でいるということは長年の付き合いから察するに何かを考察している時であるのだから何も言えない。精々今出来ることがあるとするならば、SOPIIが余計な口出しをしない様に見張っていることと、私なりの情報分析をすることぐらいだ。ROとペルシカには周囲の状況を報告、そして助言をもらうぐらいしか期待できない。
となると、現時点ではM4しかこの『協力者』だと思われる人物としか言葉を交わせないだろう。
「様子からすると、あなたはここの何処にもいないようですね。私達が来ることがわかっていたのであれば、もっと強力なものを用意しておくべきではなかったのですか?」
『宝の持ち腐れってやつさ。強い兵器を与えたとしても扱えなければ意味ないだろう?彼らに扱えるギリギリの範囲といずれくる君達という戦力そのものを鹹味していたんだけど……そもそもそれを使わせない戦法を取って来たか。民生用に出回っているのとは違う、I.O.P自慢の戦術人形による特殊部隊は伊達じゃない、ということだね』
「……どうやら私達の事を知っているようですね。一体何者なのですか?」
この者が所有している情報網はある程度までの機密情報まで知れるらしい。
グリフィンという組織の下で構成されている人形部隊というのは多いが、大部分は指揮官という地位を得ている人間の指揮を得て活動している。私達AR小隊のように指揮を受けなくても作戦の遂行が可能な部隊というのは公式で知っているのは、組織内でも受け持つことになる指揮官やヘリアンのような代行官、または亡き社長のクルーガーぐらいなものだ。
この男が何処まで知っているのかまでは測れない。ただ、私達が特殊部隊による人形であることまでは把握していることは確かだろう。
『残念ですがあなた達とはお喋りするつもりはないよ。こちらも遠からずも命を懸けている身なんだから、引き際ぐらいは心得ておかないとだし情報もくれてやるつもりもない。でもさ、僕と話している君はなんでそこにいないと思うんだい?』
「それは……」
『まあ大方、高みの見物を決め込んで自分は手を下そうとしてない、なんて感じていたのかもしれないけどね。根拠だとかお決まりみたいなのがあってそう思っていたのなら、まあわからないでもないよ』
その瞬間、弾かれたように顔を上げたM16がSOPIIを押し退けて窓際へと駆け寄っていく。何かが閃いたことで外を見ているのだが、様子からして過激派の連中がこちらに戻ってくることを警戒しているわけではないようだった。
訳も分からないSOPIIが彼女に文句を言っているが、私は口を塞いで遮断して黙らせて状況を静観しようとしたことで気付いた。何時からかはわからないが、ROとペルシカの声が全く聞こえていない。
無線の制御端末の画面を見てみると、ジャミングされて不調を来していることを示していた。
『僕の狙いはね、AR小隊。君達がここに来て過ちを犯した、ということを世間に認知してもらう為なんだ。ピンク髪の子は気付いたようだけど、今さっきここ一帯に外部からの無線通信を妨害し始めたんだよ』
何か、嫌な予感がした。ドス黒くて形のないイメージの何かが私のコアを握っているどころか、それを隙間なく包み込まれてしまっているような悪寒が背筋を走って震えた。
まさか、暇を持て余した正規の兵士、高額な報酬を第一とする傭兵でもなく、保護団体のペリカンのタトゥーを入れた過激派の人達を利用したのは――――――。
―――私達を、AR小隊のみを容易におびき出す為―――
『外部からすれば突然の通信途絶となれば、君達が独自に行動していたとしか思えないだろうね。目的こそ君達の上司こそわかっていても腹の奥では何を考えているかなんて誰にも理解できるはずもない。だからこそ、今がその時だ』
「よせ、やめろ!!」
M16が振り返ってカメラに向かって叫ぶ。が、制止させられるはずもなく。
『ドカーン』
私達がいる建物の周りで、爆破が起こった。
何してたんだろうなぁ、なんて書き上げてから振り返ってみてます。
この過去話が私が考えているストーリーに関わっていて矛盾とかに気を付けていたのもありますけども、気を引っ張られるものが多くなったせいかなぁ……はっはっは。
というわけではい、お待たせしてすみません。しばらく見ない間にお気に入り数が100を超えていたりとちょっとハッピーなこともありますし、中断みたいなことにならずに進めていくつもりです。波にのれば一気に書き進めていけますし、モチベがないわけではないんですから。今回の一話については語れないのでご了承をば。
ここ一ヵ月ではドクター業を主にして指揮官業を最低限やっているような状態でした。ただリリースしてから何周年、なんてイベントが重なっていることで執筆の片手間に~、てことができずに意識がそちらに向いてしまっておざなりに、みたいな発電所の人と機械に申し訳ないことをしていました。ケモ耳ってええなぁ……、みたいな感じで当初投稿を予定していた十日前ぐらいに、やべえ全然進んでねえじゃん!!、てなことで書き起こしていましたけど間に合わず。予告させてもらったように延期させてもらいました、すみません。
次ももう構想を練られているのですぐに取り掛かるつもりです。あまり長くなることはないだろうから今回ほどスパンを開けることはない、て思いたい!!
てなことで今回はこの辺で。
『スマホでFPSを始めたこともあって遅くなったって言えよこいつ』