誰も助けてくれない -Can you hear me?-   作:麒麟犬

61 / 62
新作ゲームとかで遊んでました


59.重要記憶 -Cibfidential matters-

終業時間を迎えたことで職員がぞろぞろと仕事部屋であるラボから出ては通路を進んでいく。何も喋りたくないとばかりの疲れた顔の男性がいれば横に並ぶ者と談笑する女性もいて、それぞれが仕事終わりで脱力しては歩いていった。朝方から労働に就いていたのであれば自分もその中に混じって目にするのはそう難しいことではない、そんな風景だ。職種を問わない企業の共通点としては当たり障りのない、それどころか無難どころか下らないの一言で片付けられてしまうことではあるのだろうが、ローガンからすればそれすらも新鮮に感じる。なにせオペレーター兼緊急時の現場指揮官という役目を得るまでのこれまでは、ライフルを放浪するか、秩序という文字などはないも当然の組織にいるばかりだったのだから。

とはいっても。

 

「こんな時間に今更呼び出すって……」

 

ハリーが北米支部の指揮官であると同時に上司でもあるとはいえ、やはり疲れた身の状態で呼び出しを受けるというのはそう気持ちがいいものではない。小言を受けるにしても何にしても、精神的にも疲労が蓄積している以上は溜息も出したくもなる。

 

「……ったく」

 

すれ違う人達には保護区外で身を削って戦ってきた人間、という認識でそれ以上は自身の事をあまり知られていない。付き合いがあるのはハリーや回収班のパイロットであるブラックバードとその知り合いの者達ぐらいである。そういった銃弾が飛び交う現場を知っている人達曰く、溜息を吐く癖があるのだから云々。無意識における癖に関しての指摘を貰った。

呟きのような声量で悪態をつくのもその一つだが、こういったのはすぐに直すことはできるわけもなく。

やれやれ、と一人ごちた。

 

(それにしても……)

 

何時もなら執務室を同じにしているAR小隊の少女達と雑談しながら食堂だったり、最近では後日の基地内の食の祭典に向けた準備としてちょっとした手伝いをしている頃ではあるが、ここでの日常に大きな変化はない。多少動きがあったのだとしても些事であったりして大事になったことはなくある程度は安定した日常を送れている。これが本来の人間という種が謳歌すべき毎日なのか、あるいは過去のように生き残るべく駆けずり回るべきなのか。どちらがそうであるのか、そうではないのかという意見はあっても誰にもそれが絶対的に正しいといえるものはない。

ローガンも問われれば困る質問でもある。

「さて……」

 

詩人みたいなことなんてずっと考えるのは性に合わない、と頭を左右に振って懐からIDカードを取り出す。目的地の端末に通すとランプが赤から緑へと変わり、自動式の扉が開いて入室が許可された。

そこに足を踏み入れる前に視界に入った一人がこちらに気付いたので片手をあげて近くに寄って言った。

 

「今日はしばらくぶりに基地内でゆっくりと飲みたい気分だったんだけどな」

「これが終わったらゆっくりとそうすればいいよ。そこまで手間と時間を取らせるつもりはないし、僕も今晩は味が濃い料理をつまみにするつもりだったしね」

「お前の場合、酒はあまり飲まずに談笑しているだけだろ。雰囲気で酔っているように見せかけて部下のコンディションを見ているのは知っているからな」

「バレてたか」

 

ハリーとの会話で砕けた口調で話すことにもう何の抵抗も感じないことに内心で苦笑しては互いに軽く掌を打ち付け合う。仕事上は指揮官とオペレーター、組織における一グループのリーダーとその構成員である立場ではあるが目上の者からの頼みでそういったのは建前のような物になっている。

望まれたこととはいえ、おかしなことになったなとローガンは本当に思う。

 

「スプリングフィールドは人間観察までできることに俺はちょっと驚いたよ。飯食う時に見かけた様子とか書類の提出とかで体調管理ができているのか、みたいなことを注意深く見てたようだし。お前、あまり飯をロクに食っていないようだから心配されてたぞ」

「栄養面としては問題ない筈なんだけどね~……。そんなに今の僕ってそこまで見た感じ危なっかしく感じる状態なの?」

「目の下の隈は薄らながらもあるし顔色も良いとは言えない。それに笑ってはいるけど覇気が感じられん、空元気で無理をしているのが丸わかりだ。俺が言うのも何だが、朝の身だしなみとかで鏡を見ろよ」

 

指揮官という立場であるからには責任が付いて回る仕事をしながら、回されてきた報告書などにも目を通したりと多忙であることは想像に難しいことではない。北米支部が管理している保護区における日々の様子から何まで頭に入れておかなければならないのだから。

スオミから頼まれていることだしな、とローガンは声無く呟くと早めに用件を済ませる為に言った。

 

「とりあえずさっさと済ませて飯を食いに行こうや。不足していたカロリーをバンバン取らせて胃袋をパンパンにやるから覚悟しておけよ」

「なにそれ、なんか変な物を食べさせられるわけじゃないよね?ビジュアルとかなにそれおいしいの?とか言って見た目をドブにフライアウェイさせたような料理を出されるわけじゃないよね?」

「安心しろ、死にはしない」

「どういう事!?」

 

初回に作られたAR小隊特製の何故か激苦い創作料理とかをスプリングフィールドが作るわけがないだろ、とローガンは声なく言いながら味と同じく苦い記憶に蓋をする。

 

「それじゃさっさと用件を済ませてしまおうか。こんなところで、そんで俺とお前の二人にした理由は何なんだよハリー」

「ああ……でも残念だったね。ここにいるのは君と僕だけじゃないんだよ」

『そうそう、二人だけじゃないんだよねー☆』

 

ハリーのとは違った音声が聞こえてきたかと思うと、室内にあるホログラム端末が起動される。青白い光が浮かび上がる前に突然の声にローガンは少し驚きながらも言った。

 

「オアシス、お前もいたのかよ……つーことは今までの会話とかも黙って聞いたいた口か」

『指揮官と元放浪者の兵士の仲ってどういうものなのかな~っていう興味からちょっと見させてもらっていたよ。傍目から見ても冗談も言えるぐらいだから仲は良いことは十分わかるぐらいにね』

「うぅわ~……なんかむず痒いけど覗き見されたみたいでちょっと腹立たしい」

「ローガン、みたいじゃなくてまさにそのものをされたんだよ。この時まで基地内の重要機器を除いた機械のシステムを経由して見て回っていいとは言ったけど……でもまあタイミングが結構悪かっただけじゃないかな」

『あたいが悪くないように言ってくれてフォローしてくれてるのは嬉しいけど、そのまさかだったらどうする?情報提供こそするとはいっても信頼関係が築けているかどうかは別問題なんだよ?』

「僕は指揮官としての経験はまだ浅いけど、その前に色々な人や人形と出会って来たよ。『表』の世界とか『裏』だったり関係なくね。他人に明かせない情報網を構築するのに顔合わせての対面なんてのは欠かせないのだから、自然とそういう勘が身についてくるものなんだ。それが信用できる、て言ってるのだから僕は信じるよ」

 

ローガンはハリーが言ったことを理解できても、その核心までの深みまでは計り知れないと思った。

単純に話している相手が目を泳がせていたり、発せられる口調などから感情を直感的に感じ取ることなんてことは誰にでもできる。命のやり取りをする場であれば敵意から生まれた殺意を感じ、自然と身に着けている武器を取ることが自然と頭に浮かび上がってくるものだ。

相手が懐や腰に手を伸ばしたら反射的にホルスターの拳銃に手が伸ばして構える、なんてことはローガンにも何度かあった。

ただし、ハリーの言ったことはローガンが身に着けたそれとは違う。一言で言ってしまえば観察眼による勘、ということになるのだろう。それも鋭い、初対面で大体のところまでは測れる程のだ。

 

『昔は人形だったけど、今のあたいはAIという人工知能でデータの集合体だよ。グリフィンに害を脅かす爆弾を抱え込んでいるのかもしれないというのに、易々と信用しているようでなんだか不安になるよ』

「たしかに。事前情報を得ていたとはいえ、それの全てが確実性があるというわけじゃない。君は鉄血の手が加えられた存在だ。本来はこんな機密サーバーのところに居させたりして自由自在に基地内の機器にアクセスできるようにすべきじゃないよ。でも報告によれば、君はエクスキューショナーに対して言葉による応酬をしたりして鉄血とは対立している様子を見せたらしいじゃないか」

 

先日ローガンが提出した、フロリダ州での任務の報告書を手元のタブレットに表示させてはハリーは言う。その表情は真顔だったり必死な様子を窺わせるようなものではなく、単に語り掛けているだけの余裕の印象を感じさせる微笑だった。

 

『それだけじゃあなた達に味方するという根拠にはならないよ。どちらにも味方しないで利害の一致ということで利用しただけの第三勢力、という可能性は考えられるでしょ?』

「なるほど、第三勢力であることを否定するのは難しいね。ただ、『利用』し合って互いに助け合うのが『協力』という風に解釈は出来ないかな?現地の電子機器にハックして敵情報やルートを通達、動かせれるのなら電源を接続までしたのだから、これは立派な『協力』と言える」

「つまらないことを言うことになるのかもしれないけど、ちょっと待てよハリー。それだとフロリダ州を脱するまでの、という期限付きでの話になってしまう。この基地に来てから何もしない、なんてことは言ってなくても言質は取れていないし、オアシス自身がそれをしない保証はどこにもないんだ」

 

シンプルに言えば、ローガン自身もオアシスの事を訝しんでいる、ということでもある。彼女を信用できるか否か、なんてことはハリーだけの話ではない。いうなれば、北米支部どころか密に共同戦線を敷いて協力することになる同僚たちにも関わってくることでもあるからだ。

それが解消できない限りは心にしこりを作る障害、敵からの工作があればパラノイアを起こしかねない爆弾でしかない。

 

「ローガンは気付いてないかもしれないけど、君自身への入れ込み具合から見てそれはほぼないと言っていい。わざわざ遠方から中継地点を介して通信しては機器にハックしたぐらいなんだから。なによりもしばしば聞かせてもらっているコミュニケーションが好意的だ。グリフィン上層部へはともかく、ここにいる僕たちに不利益を生み出すことは限りなく低いよ」

『あちゃ~……あんたって可能性があれば一つずつ前向きに考慮しては外堀を埋めていくタイプ?人によりけりだけど、その性格を利用されて疑いの目を遠ざけるような頭が回る奴にうまいように使われちゃうよ』

「何も根拠がないままに言っているよりもいいでしょ?他人の長所と短所における最初の着目点に個人差があるように、人の思考は基本ポジティブかネガティブの二パターンだ。警戒して疑うことはあっても陽気に考えることだって困難に立ち向かうのに大切だよ」

 

それにさ、とハリーが言葉を切ってこちらを見る。疲労が溜まっていることがありありとわかるその顔ではあるが、本人はずっと作り笑いでも何でもなく自然と笑みを浮かべていた。

何を想っているのかわからないままローガンはきょとんとするしかなかったが、彼はオアシスがいる端末の方に向き直って言った。

 

「下手すれば死に急ぎかねない危なっかしい友達を助けてくれたんだ。そんな君が悪人のメンタルモデルによるAIじゃないと、信じないわけがないよ」

 

ハリーが言った事にオアシスからは反応がすぐに返って来ることはなかったので一瞬の間があった。

ただ、ローガンとしては自分を指している形容詞に少しムッとしていたのではある。故人となった人々が云々というのもあるが、当時は北米支部にいたAR15からは釘を刺されたり、部隊を組んでいた404小隊の二人からも同じような目を向けられていたりもしている。

簡単に死ぬつもりは毛頭ないというのに、戦術人形の彼女たちだけでなく指揮官であるハリーからも同じようなことを言われることが腹立たしかった。

しかし彼であればこちらにも反撃の手立てはある。

 

「ヘ~イヘ~イ~ハリーさんよ。身を削って仕事をするのはまだ頷けるけど、やりすぎてフラフラの不健康になっているお前にだけは言われたくねえぞ~。人の事を危なっかしいとかほざいといて自分の事を棚に上げるなよこのもやし野郎」

「あれ、もしかして導火線に火を点けちゃった?でもそれって多少なりとも自覚があるからじゃないのかい。手立てが他になかったとは言っても捨て身による手段というのは褒めれたものじゃないことは君も重々承知しているでしょ脳筋男」

「あ~あ~これだから現場にいなかった奴ってのは困るもんなんだよ。結果論を唱えてさももっとやりようがっただろうみたいなことを言って厚顔無恥ってのを晒すような真似をするんだから。お前だって部下を纏める立場にはいるんだからよ、そういうのをもっと気を付けろよ鈍感」

「こういう態度でいれるのはジョークもわかってくれる君ぐらいだから他にはしていないから心配しないでいいよ。だけど鈍感なんて言葉はローガンにからは言われたくないね」

 

この野郎……、とローガンが半眼で睨んでいるとハリーは部屋の隅に設置されている机から紙の資料を持って渡して来た。無言によるそれを受け取って視線を落とすとまず目に映ったのはロシア語から英語に訳された単語の羅列、そして題目として一番上にある「極秘:第四次世界大戦の未来プロセス」という文だった。

ハリーの副官であるスオミどころか他の誰も居ない、オアシスも含めたたった三人だけで招集された意味が分かった途端、ローガンは反射的に顔を持ち上げた。

 

「オアシス、君に対しての信頼性における根拠はつけてみたけど今回ばかりは君頼りだ。はっきり言って状況は悪すぎる。正直のところ、グリフィンが総力を挙げても鉄血の企みを完全にシャットダウンさせることは難しいだろう。できるだけ後に引かないようにベストを尽くすしかないんだ、わかってくれるかい?」

『あんたたちがいうベストというのはどの程度?ローガンが言ってたけど、今回における鉄血の計画を阻止できたとしても世界の戦いはなくならない。あくまで次の危機的状況までの時間稼ぎにしかならないんだ。一体どこまでがあんたたちにとってのゴールなの?』

 

一瞬言葉が詰まったものの、あくまでそれはローガン個人の考えだ。バルソクには一種の事実のように言ってしまったが、ローガンとしては絶望感に打ちひしがれて何もしないでいるよりもまだマシだ。

そう言おうとしたが傍にいる男から言葉が発せられた。

 

「僕達が立っているのはすごろくとかみたいに明確なゴールが見える盤上じゃない。そういう風に守らなくてはならないルールや設定があるわけでもない世界で手探りでやっていくしかないんだ。だから『鉄血による第四次世界大戦の阻止』は絶対にする、してみせる。でももし、その道すがらにやらなければならない事案があれば取り組むし、僕達に助けを求めている人がいるのなら手は伸ばすよ。回答に逃げているように聞こえているならそれでもいい。僕の言うベストというのは、何があっても放置も逃避だってせずに僕なりの戦い方でやり抜くことなんだから」

 

ローガンだけではなく、オアシスもその意思の表明を黙って聞いていた。指揮官としてのハリーのポリシーはローガンも聞かされたことはなかったから、というのもある。ただその節々に感じ取れる言葉の重みというのが感じ取れて茶々を入れることが無粋であることが直感でわかったのである。

人それぞれに違った人生の歩みがあることによる重み。淀みやつっかえることすらないままに発せられたそれに対し、ローガンはすぐには言葉を紡ぐことが出来なかった。

 

『……わかった。愚直だけど確固たる信念をもって事態の解決に向かっているとして、あたいはあんたとも手を取ることにするよ』

「よろしく頼むよ。それで早速だけど、ローガンが来たことだし教えてくれないかな。君がくれた情報について」

『話す前にさ、長くなるだろうから録音とかの用意をしてくれる?二度も同じようなことを話すの疲れるし気が進まないから』

「心配しないでいいよ。もうとっくの昔にしているからさ」

 

ふとハリーの方を見てみると、彼は今では古風ともいえる様式のカセットテープとそれを回す為のウォークマンを懐から取り出してセットしていた。

 

「今の時代でそんなのを使うのかよ。簡単にデジタル機器を使えば保管とかの手間を掛けずに済むだろ」

「骨董品に近しいこんなのを使うのは今回の事が重要だからさ。それにデータ化してサーバーに保存したら、クラッカーのような悪意を持ってハッキングするような連中に消されてしまいかねない。今でもセキュリティには十分な対策こそしているけども、万が一のことも考えたら……てね」

 

懐かしむような目になりながらハリーはカチャカチャとテープを入れて蓋を閉じる。電源が入っていることも確認した後にスイッチを押して安定した部屋の端末上に置くと、待っていたかのように中のテープが回り出して録音を開始したことを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―<グリフィン北米支部の機密テープ####より>―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それじゃあ始めよう。まずオアシス、君は現ロシアにおける情報を集めているという風に事前に話を聞いた。一つずつ話してくれ』

『じゃあ最初に第四次世界大戦、なんてのは誰しもが望んでいるわけではない、なんていう前提についてから話すことにしようか。先の大戦で各国は疲弊して自国内における統治にかかりっきりになっているけど、逆にそれをチャンスとして捉えている連中もいるんだ』

『……初っ端から嫌な話だな。派手にドンパチすることを自分たちからやろうとするなんて、ただの戦争屋じゃねえか』

『だけどそんなことをあからさまにしようものなら目をつけられて抑えられるのが目に見えてしまう。保身に徹しているからこそ他者の挙動に過敏になる、なんてのは人間にはあることなんだからさ』

『仮に僕が政府における一員でそんなことを考えているとしよう。オアシスが言ったように戦争を意図的に画策し始めようとしているのだとしても、もし自国が負けた時のことも考慮する筈だ。だってもしそうなったら戦犯、調査されてしまえば罪人として良くて投獄、最悪は処刑されてしまうだろうから』

『逆にそんなことなんてない、て高を括れるだけの何かがあるのなら話は別だろうが……待てよ?たしか今のロシア政府では大まかに保守派と急進派に別れている、っつう話があったよな。あれは鉄血に対してによるものだったが……あれに関連が?』

『あわよくば、だね。戦術人形から人へと転用した新型ASSTは政府内の秘密計画によるものだったけど、死亡に至るまでのリスクがある以上は人道的にアウトだとして関係者内で却下された。ただ、諦めきれない一部の人間がその詳細を持ち出して同じ思想を持つ仲間たちに見せた、というのが保安局のエージェントによる見解だよ』

『急進派による行動理念は鉄血排除の他に世界における覇権といったその辺だったのか。『アネクドート』と繋がりを持った理由はダムにおける一件で知れはしたけど裏ではそんなことがあった、てことか』

『重要なのはここからだよ。彼らだけでは決して大戦を引き起こす要因を作ることはできないんだから。世界的に鎖国しているような状況下なのだから、ちょっとやそっとのことじゃ火の種は広がらない。下手をすれば自分達が痛い目を見ることになるしね』

『たしかに』

『そこで一つ目の情報。急進派は鉄血の企みを『はっきりと』わかっていて黙認しているんだよ』

『……は?何を言ってやがる』

『……彼らは彼ら自身だけでは戦火を広げることはできないことを自覚しているんだ。だから自分たちにはできないことをしようとしている鉄血の計画に乗ることを選んだ、ということだね』

『そういうこと。第四次世界大戦を繰り広げさせる、という企みを急進派が知る経緯についてはあたいも調べてもわからなかったけどね。でも去年、世界的に有名な『AK-47』とかのロシア製のライフルが何者かに国の外に運び出されようとしている情報を得ていたんだよ。それが鉄血兵による仕業だということもわかっていた。古びた漁港から大規模に持ち出されようとしているそのことを、自国製の衛星も打ち上げているのだから見逃すはずもない』

『さすがに鉄血の行動となれば誰もが見ぬフリをしている筈はないだろう。急進派はその情報を握りつぶすと同時にばからしい博打に出たんだ、綱渡りどころかその綱すら細い糸みたいな所に足を踏み出すようにね』

『……ようやく話が見えてきたけどクソ野郎どもによる仕業じゃねえか。まとめてしまえば国単位でマウントを取りたいが為に自国民どころか世界まで巻き込んでテロを起こしているようなもんってことだろ。もうそんなことをやっているんじゃ清廉潔白の政府関係者でも何でもない。身勝手にもほどがありすぎるテログループの一員みたいなもんじゃねえかよ』

『そう、ローガンの言う通りで彼らが今やっていることはまさにテロと同じだ。それどころか、身分が高いもんだから証拠の抹消もそれなりに容易なものだから余計に質が悪い。これも一種のクーデターだよ。だけど彼等には思想によって悪事をやっていることの自覚はないし、もうテロリストと遜色ないことは確か』

『ただ一つだけ疑問がある。いくら政府内部にいるとはいっても目を全てに配らせているのは難しい。他国に比べてロシアは広大であるのに加えてグリフィンの本部だってあるのだから、下手を打てば僕達にバレてしまって抑えられてしまうことだって彼らにもわかってはいただろう』

『下々のことは下々の者どもに、それが急進派の言だよ。自分達には行き届かないことがあっても、その道に詳しい連中に多額の金を握らせるなりして黙らせては仕事をさせた方がより確実に成果を得られる。ただ、技術はあっても雇用主ということで自分達の方が上だということを主張してはいる』

『てことは、ここにあるリストは……』

『そういうこと。地を這いつくばりながら自転車操業で活動しているグループから事業関係で一端では良くも悪くも名を知られている企業規模まで色々だよ』

『名前からざっと調べた限りでは軍事とはほぼ関係ないようだけど、全体に目を通してみれば見たことのある同業者の名もあったから軍事とは無関係ではないだろう』

『これのうまいところは戦地を歩くのに慣れている回収業者(スカベンジャー)みたいのを中心にするんじゃなくて、思惑があるようにはあまり見えないところに少数のベテランを混ぜているところだな。全員が裏があると思われているのは仕方ないことしても、重要課題を抱え込ませた奴を他の連中で隠れ蓑の中に居させてやがる。詐欺の手口と一緒だな』

『オアシス、一つ質問させて欲しい。急進派が保守派よりも一枚どころか何枚も上手だったとしてもチラついている尻尾をまったく目撃されなかったわけじゃないんじゃないのかい?彼らだって仮にも政府関係者であって決して馬鹿じゃない。なによりも人体を対象にした新型ASSTなんて異様な案が挙がれば目をつけるのは当然だろう』

『残念だけど、保守派の目と鼻の良い人たちは全員暗殺されてしまった。残ったのは比較的若手で状況をうまく読むことが難しい人たちだけで、いつでも抱き込めるようにキープされている状況だよ』

『なんで殺さないで生かしているんだ?いっそのこと全員を消してしまった方が……いやまてよ……ああ、そういうことかよ……!』

『そう、ちょっと考えれば簡単な話だよ。人は変化に敏感なのだから、そうした良くないと思う事にはマイナスの反応をされてしまう。ただそれは政府関係者じゃなくてマスコミに、てことだよ』

『暗殺なんてのは社会主義国家のおける主権者によって何回も世間に公にされないままに行われてきた。せめて立つとすれば噂ぐらい。でも彼らはあやふやなそれすらも揉み消した。不都合なことを起こらせないようなほどの金を握らせてね』

『日本のことわざで火のない所には煙は立たない、ていうのがあるけどそれに信憑性があるかどうかは別の話だな……話を戻そう。とにかく、急進派が持てる財力とか情報を元に鉄血の行動に対して干渉しないままに利用しようとしているってことか』

『ここまでの話でロシア内も水面下では緊張状態でピリピリしているのも想像に難しくない、てのはわかるよね。モスクワを中心とした街の至る所では銃を持った兵士がツーマンセルを組んでは巡回していたりもして市民もわけがわからないままに戦々恐々としているよ』

『グリフィン本部はこのことを認識していないのかハリー。証拠がないにしても、ペルシカさんだったら気付いているんじゃないのかよ』

『僕達は民間軍事会社(PMC)であって政治には触れれないよ。内政とか新規プロジェクトに関わることを知る権限を与えられていないし、もしその情報を手に入れれたとしても煙に巻かれてしまうのが関の山だ。だからきっとペルシカさんは異変に気付けたとしても動けない……のかもしれない』

『クソッタレ……』

『ここまではあたいたちにとって最悪な印象を持たせる話だった。でも一つだけ、良い情報があるよ』

『どんなだよ?まさか『アネクドート』の奴らが逆立ちしてロシア政府に対してクーデターを企てようとしている、なんてじゃないだろうな?』

『あんな狂犬には連中も手を焼かされているから全くあり得ないとは言わないけどしばらくは起こり得ないよ。でもレジスタンスとして活動しようとしているグループがいる、というのは本当だよ』

『ロシア政府に対してか?』

『そう、時系列としては国全体に異変が起き始めたのは昨年の今ぐらい。特定できるほどの情報を入手できなかったけどいち早く察知して準備していた個人がいたようだね。急進派に詳しい足取りを掴まれないようにハックする度にプロフィールが変わっているのだからコンピュータに強い人であるのは間違いないけど』

『なんともまあ……今も生きているのか?』

『恐らくは。あたいが追えたのは今年の夏ぐらいまで。秘匿回線によるネットを通じて知らせては同志を連れてはロシアを脱出。その後は浮浪者に紛れては西へ西へと流れて国から別へと渡っていった。彼等は道すがらに人助けをしては規模を拡大して、最後に観測できた時には五百人ぐらいにはなったそうだね』

『困難を越えてアメリカに来た、なんてところまで追えたら最高なんだけど、さすがにそこまで都合がいいことにはなって?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ないね、残念ながら』

 

まあそうだよね、とハリーは小さく呟いて肩を竦めた。ローガンもそうであるのは直感的に察しがついていたので期待はしていない。

時計をみれば陽が完全に沈んでいる時間になっているので、もう一時間ぐらい話し込んでいる。疲れてきた脳内活動をちょっとだけシフトすると浮かんでくるのはAR小隊の彼女らだ。

今頃明日からのことについて打ち合わせていて、真面目なM4が隊長として取りまとめようとしているのに対し、SOPIIが大声を発しつつ元気よく挙手しては案を出すものの、AR15にクールな毒舌な一言と一緒にツッコまれているだろう。その様子をM16がニマニマと笑みを浮かべながら酒を煽っていると、ROが横からジャックダニエルの酒瓶を持っている彼女に小言を少しばかり言っているかもしれない。

早くあちらに戻りたくもあるが、この場でトンズラすることはできない。録音もされている以上は尚更だ。

 

『ただ一時期を皮切りに、ある一国を拠点にしたみたい。監視カメラにその人物の仲間が街に繰り出しては買い出しに行っているのが映っていたんだけど、それが繰り返し同じ街で記録された』

「何処で?」

 

この時点でのローガンの予想としては、一昔前までなら発展途上国とまで言われた辺りに逃げているかもしれないと考えていた。

堅苦しい言い方をすれば、その人物がロシアから脱出したのは過度な圧力が直に降りかかる社会に対して嫌悪感を抱いたから、ということだ。となれば現代においてまだ自由な主張がしやすく動きやすい国に逃げているのが考え付く。ただし、今となっては鉄血が辺りにいることは当たり前といえるだけではなく、地球環境も劣悪になっていて土地勘やサバイバルの知識などがあっても生きて行けるかどうかが怪しくなっている。

オアシスが言っている人物が綱渡りに綱渡りを重ねるようなそんな真似をできないとはいわないが、ロシア内の街で生活していたのではそうした技術を頭だけではなく体で覚えているイメージが湧きづらい。

なので結局はローガンとしては確証めいた予感はないが、有力だと思ったのはユーラシア大陸における発展途上の何処かということである。

しかし、その予想はホログラムで表示された地図の赤点によって大きく外れたことを知らされ、ローガンは度肝を抜かれて掠れた声しか出せなかった。

 

「ここは欧州……ヨーロッパか……!?」

『あたいも振り返ってみて驚いたもんなんだけど、人間って本気になればここまでのことまでもできるもんなんだね。さらにカメラの映像も合わせて詳しく絞り込んでみればっと……』

 

全体的に青い世界地図がぼやけたかと思うと、赤点を中心にした拡大された地図になっていた。次に国境だけでなく汚染地域などを表記した詳しいそれになっていき、ローガンとハリーが知りたい名前までもが浮かび上がった。

その名を言う前にオアシスの淡々とした声が聞こえてきた。

 

『場所はかつてグレートブリテンともアイルランド連合王国とか言われていたけど世界秩序の崩壊と共に瓦解した国である立憲君主制国家。そこの最大都市はロンドン、つまり……』

「イギリス、か……」

 

きっと今の姿は他の人達に見せられないようなものなのだろうが、経緯さえ知ってもらえれば馬鹿にされることはないだろう。




ふと気付いたらもう年末間近でしたよ、ええ。リアルとかで一喜一憂するどころか、やってられるかーっ!と投げ出したくなるようなこともあったりしてなかなか筆を取る気が起きなかった次第です。そんで自然と手はコントローラーの方へと伸びていき……て皆様が想像できる展開です。
執筆中に疑問符を浮かべるようなことがあれば、過去に自分が投稿した話を引っ張り出して斜め読みでその要点を探したりするんですけど、こんな無駄に込み入った話にしていたんだなと少しばかり冷や汗をかきました。まあそりゃあ、私はどちらかというとシリアス路線の方がやりやすいですけど……うん。もうちょっとソフトな感じにした方が良かったのかなぁとも思ったりなんだったり。
そんなこんなで次は何時になるかなぁとも思いますけど、スパンがここまで開かないようにはしないとですね。
まあ今回はとりあえずこの辺で。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。