誰も助けてくれない -Can you hear me?- 作:麒麟犬
-グリフィン北アメリカ支部の作戦ブリーフィング音声ログ#261-
『ローガン。配属が決まってから早速で悪いけど任務だ』
『かまいはしないけど、随分と慌ただしいな。なにがあった?』
『数時間前、物資調達として出撃していた部隊が襲撃されたんだ』
『鉄血にか?』
『いや、武装した民間人にだ』
『なに?それで、襲撃された部隊の状態は?』
『全員無事だよ。かわりに確保していた物資をその場で放棄することにはなったけど、彼女達が無事だったんだ。安い買い物だよ』
『そうか。そんでその襲撃してきた民間人ってのは?まさかただの無害な放浪者というわけじゃないだろ』
『現在全力でもって調査中だよ。情報が入り次第、君が作戦を遂行中にもリアルタイムで通達する』
『そいつはありがたい』
『君は特殊作戦部隊『シャドー隊』の隊長となった。シャドーは基本、偵察や工作をする隠密部隊なんだ。襲撃するのは本当に時々だよ』
『つまり、今回は作戦地域内に潜入して情報を探るってことか』
『必要なことがあったらこっちから指示するよ。とにかく、今回は無理のないように偵察するという認識で頼むよ』
『了解』
『それと今は詳しく調整中だけど君のバディ、相棒となる位置づけの誰かも必要だ』
『……まあ、そうだな』
『ローガン、君の過去のことは僕も知っている。だけど戦場では一人でできることには限度がある。君が必要のない事でも―――』
『大丈夫さハリー。そのへんのことは』
『……そっか。今回の作戦は臨時として『シャドー2』にROを配置するよ。彼女はAR小隊の戦術人形だけど隠密性なども含めての選出だ』
『あいつか。電子戦になっても俺がカバーしてやるという感じでいいよな』
『そういう方向性でね。彼女との友好関係も良好だって話だから問題ないよね』
『『も』ってなんか含みがあるように感じるけど……まあいい。それで、作戦地域内からはどこから行けばいい?』
『ヘリで作戦地域からおよそ西に五キロ離れたところまで運ぶよ。そこから徒歩で向かって。場所はかつて色々と賑やかだった街中だ。付近はビルだとかの背の高い建物が多く並んでる』
『オッケー。とりあえず装備の確認とROと打ち合わせをするからちと時間をくれ』
『もちろん。必要になる物の準備は入念にしておいて』
-再生終了-
――――――
『シャドー1、前方より武装した二人の民間人です』
「まだ詳細が分かっていないし、ここはやり過ごすぞ」
『了解です』
ROからの報告通り、前方からアサルトライフルのAKシリーズを装備した民間人が通り過ぎる。それを暗闇に乗じた物陰から見ていたローガンは銃以外の装備も確認する。
「……妙だな。銃だけならまだともかく、防弾ベストにグレネード。光学サイトだとかのアタッチメントも付いてる。自衛の為に銃を持っている奴にしては充実していすぎだ」
『知っている限りでは銃のみの武装ですか?』
「ああ。ただ単に自分の身を守る為だけで銃を取った民間人なら、それだけしか持っていない。なのに今の奴らは……」
『……詳しく調べないとですね』
道路の反対側にいるROを確認しつつ、ローガンは仮の目的地へと設定している方へ移動していく。アスファルトの道はひどく荒れており、車道の方も廃車となった車が渋滞しているような光景となっている。夏が終わってからまだ間もないこの時季にまだ生えている雑草が風によって揺らされている。
ローガンの装備はメインにハニーバジャー、サブにP226である。スモークグレネードと突入用のフラッシュバンも持ってきている。ROもメインのサブマシンガン『RO635』の他にもフラッシュバンともしもの鉄血兵対策にも有効な敵を自動で追跡するシーカーグレネードも装備していた。
移動しつつ、ローガンは司令部に連絡する。
「プロフェット、こちらシャドー1。作戦地域内にいる民間人の装備を確認したが、あまりにもレベルが高すぎる。人数さえ揃っていればそこそこ鉄血と戦えるぐらいだ」
『なるほど。たしかにそれはおかしいね』
「だけどまだ装備が悪くないだけでわかっていないことが多すぎる。調査を続ける」
『了解した』
プロフェットこと、ハリーと通信したローガンはそのまま進み続ける。
ROと事前に打ち合わせた予定としては、民間人の動きを追い拠点となっているエリアを割り出す調査を行い、可能であれば潜入し情報を集めることになっている。それに合わせて潜入することを考え今回の作戦ではROはダミーを一体しか連れてきていない。
また作戦区域内の民間人が全員こちらに敵意を向けるか否かの情報もまだないため、発砲も控えなければならなかった。
『そういえば、あなたに合わせて新たに結成された部隊の隊長になった気分としてはどうですか?』
「前も敵地に隠密で潜入する任務が多かったからやることはあまりかわらないからな。与する組織が違ってるわけだから作戦の重要性も変わるだろうけどまだなんともいえない」
『仕事がかわらないから何もそうだとは限りませんからね。でも前向きに取り組めませんか?』
「前向きに、ねぇ……まあそうかもしれないな」
そう会話しつつ、仮目標としてしている建物に到着。ここまできてやり過ごした民間人のグループは四回である。大部分は先程見た装備とあまりかわらないのだが、中にはまだ戦術人形というのが生まれる前に警察の特殊部隊が着用していたりしてたというジャガーノートまであった。明らかにおいそれと集めれないだけの量と質にローガンは眉を顰める。
『シャドー1、ローガン。作戦地域周辺で情報収集に当たらせていた部隊から新たな情報だ』
「了解プロフェット。続けてくれ」
『嫌な話だが、後方支援の部隊がそこを通過する数日前に『大掃除』という名で民間人の虐殺があったらしい』
「……どういう意味だ。今まで見てきた連中は幽霊か何かか?」
『そちらを支援に回しているUAVの画像ではちゃんとした生物の熱源反応があったからそういう類のものじゃないよ』
「じゃあまさか……」
『ああ。今そちらで確認している武装している人間達は、仲間割れを避けようとしていた人達を撃った連中だよ』
一旦合流したROの考えをハリーは肯定した。知りたくもなかった事実に彼女と一緒にローガンも茫然としてしまう。
「確かな情報か、それは」
『実際に殺されそうになったところを何とか逃げ切った子供から聞いた話だそうだ。体中の傷跡とか身なりもなにもかもが真実味がありすぎて疑うこともできないって言ってたよ』
「そいつよく無事だったな。数日間飲まず食わずだったんじゃないか?」
『僕は実際に見てないからわからないけど、保護した彼女達が言うからにそうだろうね。……とりあえずローガン、この情報ではっきりしたことはあるね』
「……ああ」
『既に起こってしまってた以上は仕方ない。シャドー1、武装している民兵への攻撃を許可する。ただし、助けを求める武装していない民間人に対しては許可しない』
「了解だプロフェット」
通信を終了させたローガンはROと移動を再開した。死角をカバーし合うための道路を挟む先程と同じ隊形である。
とにかく今の情報ではっきりしたことがある。ここまでで完全武装して武器を持ちながら歩く民兵ばかりが闊歩していたのを疑問に思ってたが、仲間内で争いたくないという人達を皆殺しにしたのであれば納得はできる。だがそれでも腑に落ちないことが二つある。
まず一つ、あまりにも警戒している様子を見せないことだ。ローガンのように人間であっても関係なく戦う者がいるように、鉄血との戦いはなにも戦術人形同士だけのものではない。そもそも鉄血工造の目的は人類の殲滅である。それなのに民兵達はなにも恐れる物が何もないようにしている。この区域だって襲撃されても何もおかしくないというのに彼らは無警戒であることを疑問に思う。
そして二つ目は、装備の充実さ。もし仲間割れした民間人から装備を搾取したんだとしても、民兵の装備のレベルが高すぎる。メインのAKやショットガンとサブにハンドガン。グリフィンから支給された防弾チョッキほどじゃないにしても良質な素材を使っていることを伺わせているベストに色とりどりの投擲物。現代になってからはそんじゃそこらからはなにも入手できないと言ってもいい。治安組織のであった建物から銃器が一つや二つ、弾薬もあればいい方だ。様々な銃器などがまとまった状態で倉庫から見つかったりするのが奇跡といえる状態である。それを見つけたのだとしてもジャガーノートなどのヘビーアーマーまでがあるとは思えない。ということは―――
『どこかからか供給されている、ということですよね?』
「そういうことだ。色んな偶然が重なったんだとしてもあのアーマーだけは得心がいかなすぎる」
『鉄血との戦争が始まった今となっては客を人類に限定した武器商人も居なくもありませんが、それでも納得できませんか?』
「その可能性もあるが……」
『……とにかく急ぎましょう。このまま考えても埒があきません』
現在時刻は午後七時。予定では日付が変わる前にグリフィンに帰還することになっている。
遅れたらあいつらが心配するかもな、とローガンは一人苦笑しながらROとは逆側の歩道の物陰に身を隠しながらそう思った。
――――――
「3…2…1…ファイア」
カウントと共に発砲し、屋上の監視所で談笑している様子であった四人を制圧する。タタタタタタッというサイレンサーによる小さい音と一緒に狙っていた民兵達は声を発することなく崩れ落ちた。
「よしRO、ドローンの操作を任せるぞ」
「はい。目標指示はお願いします」
作戦行動中、それまで通っていた道路の先に大きな広場がありそこで夜間に合わせてスポットライトが灯されていた。重要拠点のように民兵達の人数も集中していることから、面している建物の屋上を制圧し監視することになったのである。
屋上の物陰から出たローガンは階下へと続く階段の扉にブービートラップを仕掛け、その間にドローンの準備を済ませて飛行させたROの隣にまで戻った。
グランドのドローンとは違い、今回持ってきたグリフィンのは隠密に特化したものと言える。光学迷彩は共通してはいるものの、飛行の際の駆動音も限りなく小さい。武装も9mmバラベラム弾のマシンガンではなく、指向性マイクを取り付けられている。向けた先にある物音などを射程長く拾い、ローガンの端末とハリーのいる司令部に音声を送信する。グランドのとは違い必要になったときに簡単に起動することはできないが、その分操作範囲もとても広い。
「まずは奴らのリーダーを探るか。東のキャンプの前にいる二人の兵士からだ」
「了解。ドローンを移動させます」
よく見れば空間の一部が歪曲しているため下手に民兵の視界内に見えるところに動かしてしまえば発見されてしまうが、指向性マイクが拾う音声の射程を生かし高度を高くとっている。スポットライトの逆光を生かし、そこから拾える範囲で情報を探った。
「……ダメですね、どの会話も雑談や武器自慢ばかりです」
『たしかにそうだね。シャドー隊、そこから服装が他とは違う民兵は見えるかい?』
「ネガティブだ、プロフェット。銃だとかの武器が違うだけでどいつも同じに見える。昔みたいに一人だけわかりやすい帽子かぶってたりくれてたら助かるんだがな」
「彼らもそこまで誇示するようなことをしてくれたらいいのですが……待って下さい、ローガンさん。南から来た民兵達が見えますか?」
「……あれは」
双眼鏡で見てみると、数人の民兵が縦に並んで歩いている民間人を三人率いている。民間人達は両手を縛られており項垂れながら歩いているのが見えた。
「くそったれ……プロフェット、まずい状況だ。連中、新たな捕虜を見つけたのか拠点の方に引き連れてきた」
『『大掃除』から逃れた人達が他にもいたのか……。シャドー1、確認できる限りでいい。そこの制圧して救出はできそうかい?』
「策を練らないと難しいといったところだろうな。今捕虜を外から連れてきたものだから拠点の内側が慌ただしく動き始めてる」
「それに、ドローンで拾えたのですが彼らを撃つのもわりとすぐだそうです。時間をかけては……」
『……そうか』
プロフェットが、ハリーが肩を下ろすような残念そうな声を漏らす。ローガンもそうだが、彼も見捨てるような非情な選択はしたくないのだろう。戦争という存在はハリーに選択を迫らせる。
しかしここでローガンが一つ策を提案した。
「……ハリー、シャドーとしての任務は基本隠密での作戦遂行ではあるが、派手にやるのは禁止されていない。それにここまでの勢力になっているんだ、後に制圧作戦を開始するだろ?」
『……ああ、そうだね』
「奴らの対応力を見ることも兼ねて、陽動で動きを見てみたらどうだ?そっちの方に気を取られてる間に俺達で捕虜を救出、回収地点まで護送する」
『それは……!』
「状況は待ってくれないぞ。ここで俺達にかけるかどうかだ」
回答に窮している間にローガンは陽動を仕掛けるための準備を進める。ラぺリングするためのロープをその場の監視所から見つけ、それを広場からでは見えにくい狭い路地の方に降りれるように取り付けた。ROもハリーと同様に呆気にとられたが、ドローンを戻してからシーカーグレネードを遠隔操作で爆破できるように自身のコネクターと接続している。
『……許可するよ、二人とも。回収班を五分後にそこから北五百メートルの地点に待機させる』
「了解だプロフェット」
『ごめん。本来なら見捨てるべきなんだろうけど僕にはできないよ』
「心配するな。俺だってできることならしたくないからな」
準備を終えたROと頷き、同時にラぺリング降下を開始。降りてロープをベルトから外すと拠点の外周の東から大きく回るようにして捕虜の方へと近づいた。影から影へと移動して移動して捕虜達が両手を頭に、両膝を地面についた状態で殴られたりしている。
嘲笑っていられるのも今のうちだ、とローガンは思いながら隣のコンテナの陰にいるROに五秒後に合図を送らせるように命じる。
チャンスは一回、ローガンはバジャーの射撃モードをセミオートになっているのを確認し装填しているマガジンの残弾も見て不安があったため取り換える。視線を上げればROが頷きハンドサインでタイミングを送った。
ゼロ、奇襲を開始するタイミングで彼女が拳を握った瞬間に先程いた監視所が爆発する。あそこにあった燃料なども合わせての爆破なので派手に火柱が上がっているのが逆側に移動しているこちらからでも十分に見えた。捕虜の近くにいる民兵数人全員がそちらの方に視線を向けた瞬間、シャドー二人は攻撃を開始。タタタタッと誤射もなく民兵をダウンさせた。
「RO!」
「わかってます!助けに来ました、さあ行きますよ……!」
ROが捕虜を助け起こしている間にローガンは片手にスモークグレネードを持ちつつ警戒にあたった。
「す、すまない……あんたたちは……」
「説明は後です。私達の仲間達がもうすぐ来ます。そこまで移動しますよ」
状況が理解できた捕虜達がその場で倒れている民兵達の武器のみを拾ったところでROが先導していく。ローガンは最後尾につき後方の警戒に当たった。
「プロフェット、こちらシャドー2。捕虜達の救出に成功しました。これより回収地点に向かいます」
『了解した……!回収班にはAR小隊を向かわせてる。彼女達と合流次第、帰還してくれ』
「わかりました。彼女達との無線の接続をお願いします」
安堵したようなハリーの声と共にROも笑みを浮かべている様子なのが声で分かった。
「私達を助けてくれたのには感謝します……ですが、まだ奴が……!」
「誰のことだ?」
「仲間を皆殺しにした奴らのリーダーです。まだ近くにいるはず……」
「……場所は?」
息絶え絶えに捕虜の一人はローガンに情報を話した。
民兵のリーダーの名はハリソン。三十分前にここから西にある検問所で自分達を捕える際に現れ、見た目も見れば一目でわかるほどの肥え具合とのこと。
「奴を殺さないとなにも……!」
「落ち着け。そんな傷で一人じゃ太刀打ちできないだろ」
「だけど……!」
「こっちに任せろ。プロフェット、話は聞いてたな?」
『うん。UAVで西の方を見てみたところ、それらしき人物は画像で確認できた。こっちの騒ぎに気づいて損害の確認に来そうだね』
「情報源がこっちに来てくれるってことか。親切なことで」
『……僕が止めようとしてもやるんでしょ?』
「わかってるじゃねえか」
やれやれといった呆れたような、それでいてわかってたような感じであった。ローガンがROを見てみると彼女も苦笑していた。
「RO、任せていいか?」
「本来ならダメと言って止めたいところですよ……必ず、戻ってくださいね」
「わかってるさ」
拳を軽く一回合わせて二人は別れた。
――――――
ROに捕虜達を任せたローガンは、まずUAVから送られてくる画像を広場から少し離れた食糧庫に入り端末で確認。完全に踏み入ったところで行動を開始した。
『現在ターゲットはSUVから降りてる。護衛も三人ぐらい連れていって……ああくそ、テントの中に入った』
「どこのテントだ?」
『中央よりやや西側のテントだよ。見張りは前に二人いる』
「民兵も多くは監視所に向かっている。狙うなら今だな」
並び立つテントやコンテナなどの間をとおって中央へと向かう。バジャーをストラップで脇の方に下げ、サイレンサーを取り付けたP226とナイフを片手に進んでいく。道中でこちらに気付いた者にはすぐさま飛びついてナイフを突き立て、場合によっては発砲して騒ぎを起こさせないように移動した。
ナイフを民兵に突き立てると、しばらくは鉄血を相手にしていたことで忘れていた感触が蘇る。
「……やっぱり嫌なもんだな」
顔に浴びた返り血を拭きながらそう呟いた。
ハリーのガイドを聞きながら足音を立てずに進んでいくと、目標の正面から北側に辿り着いた。
「……どうな……しが違……!」
テントの壁となっている布地ではっきりとは聞こえないが、誰かと言い争っているようだ。ならテントの前でげんなりしている見張りを倒せば何とかなるだろう。
周囲を確認しつつローガンは足元の小石を拾うと二人より頭上に投げ、弧を描いて反対側の方へと落下させた。落下した音に気付いた見張り二人の注意が逸れた瞬間、自分の手前側にいる一人の背後に近づいて奥のもう一人の頭部を撃ち抜き、近距離であれば気付くサイレンサーの音に振り返ろうとした一人の口を塞ぎながら喉にナイフを刺した。もがくロクでなしを押さえ付け、抵抗する力がなくなるまで口にあてた手を離さない。やがて力尽いた民兵をその場で転がし、テントの内部へと耳を澄ませてみる。
「ああたしかにそうだな……だがそれは……仕方ないだろ!我々だって物資がなくなってくれば補充しなければならない!だから……!」
テントの出入り口でのことに気付いた様子はない。それよりも自分のことで頭がいっぱいらしくずっと怒鳴っている。
それと今の会話ではっきりした。数日前にここを通りかかった後方支援部隊を襲撃したのはここの連中だ。ハリーによれば、ここの区域は鉄血の数も少ないため物資調達のルートとして最適だった。加えてここにいる民間人達はグリフィンに友好的であるため付き合いもあり物資を分けていたそうだ。その連中の中に少数であっても反対の意思を持つ者がいてもおかしくない。今回の民間人内の混乱はその少数派によるものだろう。
「プロフェット、突入する」
『了解、UAVで外を監視する。早急に尋問を開始して情報を引き出してくれ』
周囲に敵影はないことを改めて確認し、ローガンはフラッシュバンのピンを抜きテントの入り口から投げ入れた。一間空けてバンッ!と破裂する音がしたところでローガンは突入した。テントにはオフィスにあるような机と椅子、あとはスクリーンパネルとPCなどの電子機器もある。そこの机の前で丸々と太った男がフラッシュバンによる影響で目を押さえて悶えていた。拳銃が机の上にあるため万が一の為に遠くへと投げ捨て、代わりにそこにその男をぶん回した。
「うっごぁあああ……!?」
視覚と聴覚が回復しかけていたところで腕力と遠心力を利用したことによる転倒で平衡感覚が混乱しているだろう。立ち上がる前に机を回り込み自身の拳銃を突きつけた。
「答えろ、お前がここの連中のリーダーのハリソン。そうだな?」
「……うぉあ……お前は……?」
「質問に質問で返すんじゃねえ。こっちは時間がねえんだ」
回復しきった目でこっちを見た男、ハリソンの右手を力一杯踏みつけた。
「がぁあああ……!」
「聞きたいことは山ほどあるが、まずはそうだな。そこで転がってる端末で誰と話してたんだ?」
「答えるわけないだろうが……ごぁあああ!」
「そうかい。なら右手を一生使えなくしてやろうか。時間があるなら指一本ずつですませてやるところだが仕方ない、そうだろ?」
足の裏の方で骨が悲鳴を上げているのを感じつつ、ローガンは万力のように徐々に加える力を大きくしていく。
「ぐがぁあああああ!わかった、話す!話すから手を……!」
「……最初からそう言えばよかったんだよ」
若干力を緩めてやろうとしたその時だった。ローガンの左横にあるスクリーンの電源が入り、そこに映し出されていたのは一体の鉄血のハイエンドモデルだった。
『あら、早いわね。馬鹿な真似をそこのクズがやったからいずれはとは思ってたけど、グリフィンの人形ではなくてあなたが来たの』
「……誰だてめえ。見たところ、そんじょそこらの鉄血兵よりかは力があるようだが」
『これは失礼。私は『侵入者』こと、上級人形のイントゥルーダーよ』
「……どういうことだ。なんでてめえが鉄血と繋がってやがる!」
一度は緩めかけた右足の力を入れ直し、怒りのままに踏み砕いた。ハリソンの情けない悲鳴がテント内に響くが、外の連中には聞こえていないだろう。
『あら、『狼王ロボ』ともあろう方が感情のままに行動するなんて思わなかったのだけれど』
「てめえらだって考えることがあるだろう。前にスクラップにしてやったハンターだって後半はキレながら戦ってたぞ」
『それが私達鉄血工造の全体と共通しているとは限らないじゃない』
「だとしてもだ。人工知能を積んでるわけだから精神面でてめえらも成長している。『感情』なんてものがなければ、こいつを弄ぶようなことはしなかっただろうが」
『……なるほど、たしかにそうね』
楽しそうに、くつくつとイントゥルーダーは笑ってローガンの言ったことを認める。楽しそうに笑った後に彼女はスクリーンに手を伸ばしてきた。
『ねえ、私達のところに来ない?グリフィンにいるよりもこっちの方があなたの好きなようにできると思うのだけど』
「お断りに決まってるだろうが。今までやってきたことを水に流すことなんざ俺は一切しねえよ」
『まあいいわ、わかってたことだし。それよりもハリソン、あなたももうここまでのようね』
「な、なにを……!」
『光を浴びながら来た人形ではなく、光の使者として影から狼が来たのだもの』
イントゥルーダーは画面の向こう側で脚を組み、頬杖をついた。その様子はまるで自分にはもう必要のない、使い捨ての電池を見るような目をしている。
『あなたたちに対して不可侵の契約を交わしてたけどたったこれより破棄。これより侵攻するわ』
「ふ、ふざけるな……!お前達に対して敵対関係にある組織に関しての情報を……!」
『あら、それはもういいわ。だって何も役に立たなかったもの』
なっ……!と地面にうつぶせになっているハリソンが声を漏らす。
『それに不可侵はこっちから結んで『あげた』ものよ。だったらこっちから破っても構わないじゃない?』
「そ、そんな……」
『ああでも、暇潰しとしては最高だったわよ。それだけは感謝してあげるわ……ローガン、幸運を祈るわ』
さようなら、と言ってスクリーンは再び真っ暗になった。その瞬間、テントの外から地響きが伝わってくる。距離は近くない、ホントに広場の近場である。
『シャドー1!鉄血兵が現れた!どこから来たんだ奴らは!!』
舌打ちしたローガンは転がっている民生の端末を回収してからP226とナイフを収納しバジャーを手に持つと外へと飛び出す。するとはっきりとは見えないが広場の南側の道路の方で銃撃音が聞こえてくる。民兵達の持つAKなどの銃声もあるが、大部分は鉄血兵のリーパーやヴェスピドのもつそれが多い。加えて叫び声や悲鳴などが木霊してくる。
「まずいな……!」
『北の方からも大量の敵が来てる。回収地点をそこから西へ二百メートルに更新する!そこに急いでくれローガン!』
考える暇もなかった。ローガンはすぐに西の方へと走り出す。テントの合間から民兵達が出てくるが走りながら撃ち、どうなったかは確認せずに向かった。広場から出た瞬間、背後にあるマンホールの蓋がバンッ!と音を立てて上へと吹っ飛んだ。走りながら振り返って確認してなぜ鉄血兵が突然現れたのか得心がいった。
UAVというのはあくまで地上の状態を確認するものである。サーマルなどといった夜間でも状況を確認しやすくできる機能もあるが地中まではわからない。
「くそっ、奴らめ……!」
応戦する暇はないがこのままなにもやらなければ背後から撃たれてしまう。よってローガンはスモークグレネードのピンを口に咥えて抜くと足元に落とした。ボンッ!と缶が破裂した音がすると同時に銃声が響く。ローガンの頬を掠め、銃弾はなにもない虚空へと消えた。このまま行けるかと思った瞬間、目の前のマンホールの蓋が吹き飛び、そこからダイナゲートがわらわらと出てきた。
「やっべぇ!」
瞬時に走っていた脚にブレーキをかけ、左横の脇道に入るが数秒で背後の方から機械音が響く。銃声が鳴る前に別の小道に入って弾道を避けた。
『シャドー1、こちら回収班のモービル!そろそろ燃料が限界だぞ、いつぐらいに到着するんだ!?』
「モービル!そちらに向かうルートに鉄血兵が沸いてきて直進できない!できるだけ急ぐから待っててくれよ!」
『帰ったら一杯おごれ!』
やがて何度も曲がった小道から本道へと出たローガンは方角を直感で判断し走り続ける。約五十メートル先に、彼女達は待っていた。
『ローガン!』
無線越しに彼女が自分を呼んでいるのが精一杯になってパニックになってきているローガンの頭でもわかった。
あともう少しと言えるところだった。
しかし二度あれば三度あるという言葉がある。それが実際にあるのだと言うことを証明するかのようにローガンが見る限り三度目のマンホールのリリースが起こった。
ここまでくるとローガンでも笑えてくるがそれどころじゃない。
『ローガン、そのままこっちに来て!』
『AR小隊、シャドー1に援護射撃!』
強行突破を行う為スモークグレネードを数個マンホールの方へと投げて走り続ける。ダイナゲートが自分を転ばせるかのように行く手に現れるが踏んづけてやって大きく前進してスモークから抜けると彼女達が全力でもって自分の背後にいる鉄血兵たちを撃ってくれていた。
「手を!」
もう無線じゃなくても聞こえるところまで来たところで飛び立とうとしている輸送機から彼女が、今回の相棒が自分に手を伸ばしているのがわかった。それを跳躍して掴む。
「掴みました!」
「うっしゃあ!モービル、ここから離脱だ!!」
『了解!プロフェット、回収班はこれより作戦区域から離脱する!』
『了解したモービル!皆、よくやってくれた!』
ローガンが引き上げられている間も手が空いている彼女達が可能な限りの援護射撃を行い、輸送機は段々と高度を上げていく。完全に引き上げられたところでハッチが閉じ、作戦区域から離脱できたのである。
「ったくこの大馬鹿野郎め。ひやひやさせるなよ」
「ホントだよ。グリフィンと、私達と一緒になって初めての任務で死なれちゃったら困るのに~」
「でも、ご無事でよかったですローガンさん。これこそ『終わり良ければ総て良し』です」
M16からは労いも兼ねて背中を叩かれ、SOPIIはふくれっ面になりながらも抱き付かれ、M4からはどこぞの有名な劇作家が言った戯曲を口にして喜び合った。
「……一人で無茶しすぎよ。もっと私達に頼ってくれてよかったのに」
「悪かったよ。でもタイミングとしてもあそこでああしないとならなかったんだ」
「まったく……」
AR15は口で不服そうにしていても、ローガンが生きて戻ってきてくれたことだけでも満足しているようで顔を逸らしていたが頭を撫でられて表情を緩めていたのは誰にもわからない。
「今回のパートナーがお前でよかったよ、RO」
「私は特にこれといったことはしていません。あなたの成果ですよ、ローガンさん」
「んなわけないだろ。お前だからドローンの操作だってできたじゃないか。お前とだから捕虜の人達の護送だってそうだ。AR小隊の皆でもできたことかもしれないけど、少なくとも今回組めたのがRO、お前でよかったんだ。胸を張って誇れよ」
「……ありがとうございます」
交わした握手と共にROは笑顔を浮かべてそう述べる。ローガンが言ったことも本心であって嘘の欠片もない。
「む~……」
「SOPII、今回はROに譲ってあげなきゃ。ローガンさんもそうだけど、彼女も頑張ったんだから」
「そうね。少なくとも今回の作戦で功労者の一人としてROなのは確かよ」
「とか言いながらお前ら二人もちと不満げだぞ~」
そう言う彼らを乗せた輸送機はグリフィンへと帰還する。組織の先鋭となる『影』を乗せて。
――――――
後日、ローガン達のいるグリフィン支部に一つの報告がきた。それは作戦区域における生存者数は『ゼロ』ということだった。
考えてみると、グリフィンって戦術人形と人間の比率ってどうなっているんでしょうね。あの世界観でヘリなどによる移送も全自動とかもありえなくはなさそうですし、未だに人間のパイロットによる運転もされていてもおかしくないです。もしかして運転も戦術人形頼りってのもあるかもしれませんね(笑)
というわけで今回はグリフィンの一員となっての作戦でした。う~む、各登場人物のコールサインに悩みますな。一応ある程度は英単語から引っ張ってきてますけど最後の回収に来てくれた方のはニュアンスだな~。うん、まあ下手に厨二っぽい感じにするよりはいいでしょ、ハハッ(高い声)
とりあえず今回はこの辺で。
ではでは―――
『隠密とは一体……うごごごご』