誰も助けてくれない -Can you hear me?- 作:麒麟犬
-グリフィン北アメリカ支部の作戦ブリーフィング音声ログ#269-
『失礼します、指揮官。何か御用ですか?』
『ああ、来てくれてありがとうM4。先日、ローガンが回収してくれた民兵達の端末の解析が完了したんだ』
『……それで、収穫は?』
『うん。とりあえず一言で言うのであれば思ったよりもよろしくない』
『というと?』
『会話している履歴からすると、イントゥルーダーという鉄血のハイエンドモデルに何回もかけていたんだ。これを見るとローガンの報告にも頷ける』
『私も少し聞かせてもらいました。『鉄血と停戦協定を結んでいたようだ』、彼はそう言ってました。でなければあの区域にいた民兵達の警戒しなさに納得がいかないと』
『僕もそう思うよ。まだ連中の装備の調達ルートを割り出せていなかったのは残念だけど、この件の裏に鉄血が、上級人形が絡んでいることがわかったんだ。それだけでも収穫だろう』
『ですが人類と鉄血による不可侵の協定……あまり信じたくないです。グリフィンにあまり好感を抱かない人がいるのはわかってはいますが、だからといって鉄血と手を組むなんて……』
『今回のは向こうが妥協して結んだものらしいけど、それでも容認できないね。僕たちが絶対的に正しいとは言わないけど、人類の破滅を目論む連中から守る。それだから鉄血よりはマシなのかと思ってたんだけど思い違いだったのかもしれないね』
『そんなことはないです!指揮官、あなたが今まで保護した方々に手厚くしてくれたのは私達も知っています!あなたのしたことは、決して彼らを不幸にしたわけでないことはないです……!』
『……ありがとう、M4』
『いえ……。それで指揮官、今回はその情報の通達のみですか?』
『ああ、そうだった。アメリカ軍からの要請だけど、君のAR小隊の力を貸してほしい。君たち第一部隊とグリズリーが隊長の第二部隊と一緒に山岳地帯のアメリカ軍の基地の一つに行ってもらいたいんだ』
『なるほど。目的としましては基地の制圧のみですか?』
『いやそうじゃないんだよ。アメリカ陸軍によるとそこにはとある兵器のデータがあるそうだ。そのデータが奴らに取られる前に破壊してもらいたいそうだ』
『破壊?回収ではなく破壊ですか?』
『そう、僕もそれが気になったところだけどね。まあ昔の兵器のデータだしいいんだけど』
『……了解しました、指揮官。AR小隊、第一部隊として任務に当たらせていただきます』
『うん、頼んだよM4。皆で生きて帰ってきてくれ』
『はい!』
-再生終了-
―――☆―――
『こちらプロフェット。アルファチーム、ブラボチームの各員へ。作戦を開始する前に無線感度をチェックしてくれ』
指揮官ことプロフェットからの指示で私も無線の状態をチェック。接続状況などをすべて確認してみて問題なかったため隊長であるM4に頷いた。
「こちらアルファ1。無線感度オールグリーン」
『ブラボーチームも問題なし』
『了解。現在午前十一時二十七分、これより作戦を開始する。各自、健闘を祈る』
ガタンッと一回の大きな振動が収まったのと同時に輸送機のハッチが空いて殺風景な景色が私の目に映った。そこに皆で降り立つ。
小さい雲がいくつしか見えない青空と草木が一つもない大地。そして高低差の激しい景色が目の前に広がっている。ここは昔からこういうのだったらしいが本当かどうか定かじゃないし今はどうでもいい。
「AR15、行くわよ」
「……ええ」
重要なのは、これからの作戦だ。人類の居場所を、指揮官達が生きていられる場所を私達が全力で取り返す。
私も皆と同じようにダミーを起動し追従させるようにして動かす。そして今でも特に風化したような様子をみせない通路のトンネルを潜った。
「入口に罠……も何もないな。M4、いいぞ」
「わかったわM16姉さん。ROも前へ行って進んで。SOPIIは隊の右側の警戒でAR15は後方をお願い」
「了解」
「うん、わかった」
「了解よ」
昔とは違い、隊長らしく迷いのない指示ができるようになったのは成長したと思える。私はその背中を少しだけ見つめ後方の警戒に当たった。
M16とROが隊の前方を、M4とSOPIIが中央、私が最後列というのは大体建物などの制圧で私達がよくとっている隊形だ。それぞれの特性を生かせることで皆も文句がない。
『こちらブラボー1。アルファ1、こちらは山岳地帯の山麓にあるもう一つの入口から侵入中。現在コンテナとかが置かれてるけど、そっちの方はどうなってる?』
「アルファは階段を下り終えて進行中。特にこれといって目につく物はないわ」
『コンテナに混ざって軍用車両が置かれてるけど、これガソリンとか全部抜かれてるのかしら』
「確かめたいのならガソリンタンクに腕を突っ込んでみてはどうだ?そうすれば一発で分かるぞ」
『それはいいアイデアだ。その手で銃を撃てば部品のパーツをあまり損耗せずに済むぞ』
『潤滑油じゃないから普通に引火して爆発してしまいますよう……』
MP5のごもっともな意見に皆でハッハッハと笑った。
『だけど真面目な話、どうしてまだ完備されてる状態の車両がいくつもここに置かれてるのかしら。私だったらガソリンだけじゃなく使える部品があったらそれだけ取って逃げるわよ』
「使えるの、それ?」
『ええと……使えるわね、これ。ガソリンも十分入ってる』
「単にここの基地を昔捨てた時のままじゃないのでしょうか?こっちの方の通路には弾痕があります。鉄血との戦闘で対応しきれずに放棄したのでは」
ROの言う通り、私達が今通ってる幅が五メートルほどしかない通路の壁や地面に抉られている痕がある。明らかに自然にできたものではない。それを証明するかのように弾を撃った後に銃から排出される薬莢が転がっている。
『だけど埃を被ってないわ。部品の劣化もほとんど見られない……間違いなく最近ここに運び入れられたものよ』
『……どうなってるんだ』
「私達だけで考えても仕方ないわ。ブラボー1、プロフェットに報告して。基地内部に入ったら山の内部に入ることにもなるからしばらくまともに通信できなくなるわ」
『了解』
今回の作戦区域となっている元陸軍基地は地下資源の影響もあり、内部からでは近接通信以外はしにくくなる。加えて電子機器も一部影響を受ける為、もしドローンなどで近接スキャンをしようとしても無駄となる。
それにしても話を聞いた限りでもたしかに妙な話だ。事前情報によるとここの陸軍基地は放棄して十年は経っている。誰もここに足を踏み入れていないという情報から埃をかぶっていない車両がそこにあるだけで違和感を感じる。まるで―――
「M4、推測だけど奥の方に誰かいるんじゃないかしら」
「……あり得るわね。各自、警戒を怠ることなく作戦行動に集中して」
私達AR小隊だけでなくグリズリー達の方からも了解の意が伝えられる。
もちろんこれはあくまで推測の域を出ない。思い過ごしではあればいいが私達グリフィンが正体不明の兵器のデータの破壊に来たことを嗅ぎ付けた何者かがインターセプトしに来たのだろうか。鉄血?テロリスト?または先日ローガンが出くわした鉄血と手を組んだ他の何者か?または、アッシュという名で蠢く鉄血なのだろうか。まだ、おおよその予測がつくだけの情報がない。
そう考えながらいくつかのエリアを抜けていく。オフィスや倉庫、訓練をするために作られたような演習場。どれも経年劣化で古くなっており触るのが危うく思えるものも中にはあった。
「う~ん、どれもお土産にはできそうにないね~」
「SOPII、鉄血だけじゃなくそんなものも欲しいの?」
「良い物があればいいなってところだよ。前に指揮官、自分もある程度はできるようにならなきゃって言って地下射撃場に入ってたよ」
「へぇ、あの指揮官が……」
「人間としてできる範囲でやれるようになりたいんだって。ローガンほどじゃなくても扱える銃が一つでもあるようにって」
ローガンほど……それは定めてるハードルというよりも比較の対象として高すぎますよ指揮官、と私は胸中で溜息を吐いた。
毎回射撃訓練などを共にしているROから聞いた話だが、今度何人もの人形達を集めて本格的な演習訓練を考えているとのことだった。上から見下ろすような教官の立場ではなく、共に有効な戦術を考える戦友としていくつものシチュエーションを用意して行うことを予定していると聞いている。最近は近接訓練だけに注力するだけじゃなく全体的にマイルドに行ってもいる為、ここぐらいでテストとして参加してもいいかもしれない。……決して、食事の時以外で中々顔を合わせれないことを理由にしているわけではないことだけはない。そう自分に言い聞かせる。
「AR15?なんか険しい顔つきになっているけど……?」
「……ごめん。ちょっと考え事をしていただけ」
ならいいけど、とSOPIIが任務に集中し直すように私も気合を入れ直す。
「定時報告。ブラボーチーム、そちらの状況は?」
『――――――――』
腕時計で現在時刻を確認したM4がブラボーに通信してみるが繋がらない。ジジジッ、ザザザッとノイズが走るだけで何も聞き取れはしなかった。
「地下資源の影響か?」
「だと思うけど……グリズリーが確認していた車両の件もある。あまりゆっくりはしていられないわ」
「だよな。ROは通信の再接続に集中したらどうだ?」
「……そうね。M4、一旦下がるわ」
「了解。フォーメーションの中央に入って」
通信など電子戦に集中的に入るとROの動きは悪くなるため、上から見下ろせば十字架のような形状になる。
やがて他よりも広く設計されていた演習場を抜けさらに奥へと進んでいくが区切っていた扉を姉さんが開けた瞬間、カビだけでなく充満していた錆などの鼻を突くような臭いが流れ込んできた。
「な……」
そこの光景に私達は絶句した。鉄血兵と十年前まで使われていたであろう歩行型の無人戦闘機が多くそこに転がっていたのだが、どれも錆などの腐食が酷い。
「なんでこんなものが……?」
「正規軍が今も使ってたりする型の兵器だな……」
M16によると私達戦術人形が生み出される前から使われている兵器らしい。私もよく見てみると外側の装甲のみならず内側のケーブルや電子盤などの内部構造にも相当ガタが来ている。赤錆が全体を侵食していることからここの基地を放棄する同時期にここで捨てられたのだろうか。だとしてもこうはなりたくない。私達戦術人形は機械の骨格の上に人工皮膚がつけられているが、内部の隅々まで人類と同じような構造にされているわけではない。
と歩いていたところで私がなにかを蹴ったため足元を見てみると一部が破裂している容器が転がっている。
「AR15、それは?」
「わからないわ。だけどこの部屋で転がっているのはそこの鉄屑とこれしかない」
「……そうね。弾痕はあっても薬莢が一つもないわ。ここまでで戦闘の痕が残ってそのままだったのにここだけ丁寧に回収するなんてことはないわよね」
M4と話しながら拾ってみてみると、材質は鉄やアルミではなくプラスチックでできている。それも私達の基地の宿舎で使われているような一般的なものではなく、強度が上がっているものだ。
「M4、これは回収してグリフィンに解析をお願いした方がいいわよね」
「ええ、無くさずにお願いね」
バックパックにその容器を収納し先に進んでいく皆に続こうとした時だった。
「っ!?そこにいるのは誰だ!?」
姉さんが誰かと接触したらしく銃を前方に構えているのが見えた。M4とSOPIIも前方に、ROは警戒している形だけを取る。私はダミーに後方を任せ皆と同じようにライフルを構えた。フラッシュライトに照らされて出てきたのは迷彩服を着た三人の男性だった。両手を上げており抵抗をする素振りを見せないがストラップで下げているサブマシンガンが目に入った。
「やあ、君達はグリフィンの人形かい?」
「……私達はグリフィン所属の戦術人形、AR小隊です。あなたたちは?」
「オレ達はロシアの特殊部隊……スペツナズ、といえばわかるかな?」
たどたどしい発音の英語を聞きながら『スペツナズ』と聞いて私はまず疑問に思った。ここは北アメリカ大陸でありロシアのユーラシア大陸とは別で距離が離れている。それなのになぜ……。
「……なぜ元アメリカ陸軍基地にあなたたちロシア人がいるのです?」
「それは極秘だよ。君達こそ、ここになにしにきたんだい?」
そう聞いてきた男の目がギラリと光ったのを私は見逃さなかった。だが私一人が先走って発砲するわけにはいかないためここはグッと堪える。一応下手な真似が向こうが出来ないようにライフルを構え直した。
「あなたたちが話さないのに私達が話すと思いますか?」
「そうだよなぁ……。でもまあここから回れ右して帰ってくれたらこっちとしてはありがたいんだけど、どうかな?」
「お断りします。こちらにも任務がありますから」
「そっか……なら仕方ないよね―――!」
そう言った一人が身を屈めた瞬間、いつの間にか屈んだ一人の後ろに―――三人のうちではない―――もう一人の隊員が腰に構えた状態で撃ってきた。
先手を取られた―――!
「M16!」
「ちぃ……!」
姉さんは瞬時にアタッシュケースによる盾を展開し私達が物陰に隠れる時間を稼いでくれた。すぐさま私とM4はロシア人達の弾丸を避けた。SOPIIはすぐには動けないROの服の襟を掴み一緒に錆びてる無人ロボットの陰に隠れているのがわかる。
「――――――!」
「――――――!!」
ロシア語で何かを言っているのがわかるが詳しくはわからない。しかし今はそれどころではない。私は物陰に隠れながら別のところでロシア人達の様子を窺っている隊長に叫んだ。
「M4!どうするの!?」
『なぜここに彼らがいるのか理由がわからない。そのわけを問いただしたいけど―――!』
『先に手を出してきたのは向こうだよ!M16姉、あっちの武装は!?』
『さっきの話してる最中に観察した限りじゃ、カラシニコフのアサルトライフルとサブマシンガン、あとはグレネードといったところだ!』
グリフィンの人形としても可能であれば、ここのアメリカ領土の大地に足を踏み入れている人類ではあるロシア人を殺傷することはやりたくはない。だが、ROが復旧させた通信がそれを許してくれなかった。
無線越しに銃声に交じってグリズリーの声が聞こえてくる。
『アルファチーム!聞こえる!?』
『こちらアルファ1!ブラボーそっちはどうなってる!?』
『なぜだかわからないけどロシア人達がここに踏み入ってる!少し話してたら向こうからおっぱじめたよ!』
私達が山の中腹から侵入したのに対し、ブラボーが踏み入ったのは山麓―――山の下部分―――。そっちにもスペツナズが展開している!?
『現在牽制射撃に留めて膠着状態!プロフェットには通じない。指示をお願いM4!』
グリズリーからの報告で恐らく腹は決まったのだろう。声からしても迷いを断ち切ったのが声色から窺えた。
『―――仕方ない!アルファ、ブラボーの各員へ。彼らへの攻撃を許可する!繰り返す、ロシア人との交戦を許可する!!』
『了解!!』
私も含めて全員から了承の意が伝えられる。
物陰から少し見てみると、私達が出くわしたスペツナズ達は撃ちながら後退しているのがわかる。リロードする時は既に装填を済ませた別の二人が前に出て時間を稼ぐ。そのサイクルを繰り返して撤退しているのだろう。さすがにロシアの精鋭というだけあって連携もうまい。それにしても、私達を排除するために踏みとどまるのではなく『奥へと逃げようとしている』。ということは―――!
「奴らに時間を与えるわけにもいかないわ。M4、あなた催涙ガスを持ってきてなかった!?」
『ええ。鉄血にも効くように改良された新型よ!』
「それを使って制圧を急ぎましょう!奴らの目的ははっきりとしてないけど、兵器のデータが目的だとしたら……!」
『……そうね。アルファ、ガスマスク装着!』
SOPIIやROがしているように私も腰に下げていたガスマスクを顔に被せる。
『いいぞ、M4!』
『了解!ガスグレネード、いきます!』
緑の煙を吹きだすグレネードが奥へと投げられる。煙の拡散速度と人間だけでなく人型の形状をしている鉄血兵に効果があるようにグリフィン本部の研究部が開発したガスグレネードが閉鎖空間である充満していく。こちらの地面にも流れ始めてきたぐらいからロシア人が咳き込むような声が聞こえてきた。
『攻撃開始!』
M4の合図に合わせ、私も発砲する。ダミーも攻撃を開始し咳き込んでその場で蹲る者も撃った。
『ブラボー、こちらは催涙ガスを使用して進軍中。そちらにもガスが流れることも考えられるから気を付けて!』
『了解よアルファ3!こっちもガスを使って進む!』
SOPIIが無線越しにブラボチームに報告すると、向こうからはG36の応答が返ってくる。
そのまま進んでいくと奥の方からスペツナズの増援がこちらに押し寄せてきた。さすがに向こうの方もただやられるだけでなくガスマスクを装着している。
『追加でお客さんが来たぞ!』
『私も前衛に戻るわ!援護をお願い!』
『任せて!グレネード行くよォ!アッハハハハハハ!!』
SOPIIによるM203グレネードランチャーの援護射撃が弧を描いて奥へと着弾、爆破を起こしてロシア人達を吹き飛ばす。それで隊列が乱れることはなかったが、動きが一瞬止まったところを逃すつもりはさらさらない。私はダミーと共に一斉掃射を行い制圧していく。
「――――――!!」
スペツナズの兵士がロシア語で何かを言った瞬間、グレネードによる爆破とは違う爆破が私達の間際で起こる。以前ローガンが活用して見せた起爆爆弾のC4による爆破だった。
間一髪、私は直接爆風などを浴びることはなかったが―――
『走れ!野郎、ここの通路を塞ぐ気だぞ!!』
『面倒なことをしてくれる……!』
爆風を浴びることのなかったM16とROが叫んでいる。途端に今の起爆で山岳基地の壁が崩れ始めた。ゴゴゴゴゴ……と地響きが起こった瞬間、天井が崩れてコンクリートや土砂が押し寄せてくる。戦術人形としての脚力を全開に発揮し、全体のほとんどのダミーを犠牲にすることにはなったが全員が二次災害に巻き込まれずに済んだ。
『全員、私が前進する!ついて来てカバーしろ!!』
『シーカーマイン、展開!!』
盾を再び展開したM16がフラッシュバンをスペツナズに投げて前進する。ライオットシールドを構えるかのようにし前に進むM16を援護するために私達は撃ち続けた。ROも自動の追尾機能があるシーカーマインを足元に落として起動、ゴロゴロと転がって行った球体は敵の足元まで向かって自動で爆発した。
『前進!このまま押し込むわよ!』
隊長の指示に従い私も物陰から体を出して撃ちながら進んでいく。スペツナズ達も旗色が悪いことを悟り、スモークグレネードを捲くと奥に引っ込んいく。
『逃げていくよ!鬼ごっこの始まりだ!!』
『一人で先走らないでSOPII。元の隊形を維持したままM16姉さんとROはトラップの警戒をしつつ前進、AR15は後方警戒を重点的に!』
『ああ!ここまで来てとちってたまるかよ!』
その通りだ。向こうから吹っかけてきた戦いではあるが負けるつもりはない。奴らの目的も突き止めなければならない。
部隊の中でM16とROだけにフラッシュライトをつけてもらって前進すると、いかにも最深部といったような地点に辿り着く。さてどうしたものかと考えていると、私達が通ってきた通路とは別のから来たブラボーと合流した。
『アルファチーム、そっちは大丈夫?』
『なんとかね。そっちは?』
『大分やられたよ。私達本体は無事だけどダミーは全滅。さすがロシアの精鋭というだけはあるね』
そう言われてグリズリー以外の人形達の様子を見てみると、たしかに誰もダミーをもう連れていない。腕や顔にかすり傷程度のけがはあるものの大事はない筈だ。
『ここが当初の目的地だと思うわ。指揮官から事前にもらった地図もここがそうだって示してる』
『なるほどね。それでどうやって制圧する?恐らくだけど、連中ここで待ち構えてるでしょ』
『マップによると司令室の部屋の天井にダクトが通ってるようです。私とブラボーのサブマシンガンの方がダクトからガスを、またはフラッシュバンを入れてみてはどうでしょう?』
ROの言う通り、M4が展開している3Dマップには司令室の上に狭いがダクトが通っている。小回りの利くハンドガンやサブマシンガンを持っている人形が入るのであれば何も問題ないだろう。
そこから誰が入るのかという話になりそうだったのだが、細部に侵入するのに最も適した人形がブラボーにいた。
『な、なんで悩んだりせずにいきなり私を見るんですか……?』
『MP5、戦術人形は背が変わらないことを誇るときが来たのかもしれないぞ』
『なんだか遠回しに馬鹿にされてる気がします!?』
『いやあ、適材適所って素晴らしい言葉だよな』
『それですべてが穏便に片付くと思ったら大間違いな気がするのですが!?』
『やぁ~い、チビ~♪』
『最後にはストレートに悪口を言われました!』
涙目になりながらもMP5とM4からガスグレネードを受け取ったROが近くの壁にあったダクトの中に入っていった。作戦中のひとしきりとして彼女をからかったG36とM16、最後にはからかいと本心の比率がよくわからないSOPIIは楽しそうにくつくつと笑っていた。
『それにしても、なんでここにスペツナズがいるんやろうか』
今回の作戦でブラボーの方で戦っていたガリルがそう呟く。
たしかに、今回の作戦で一番の疑問に思うのはそこだろう。アメリカとロシアは昔から仲がよろしくない。まだロシアがソ連と呼ばれていた時代の冷戦がいい例だが、第二次世界大戦終結後に東西を二分する形でアメリカとソ連が対立していた。結果的にアメリカが掲げていた資本主義と自由主義が勝利し、ソ連が崩壊してロシアという国が生まれたが彼らからすればまだ敵対意思が残っていることをそれからの歴史が物語っている。
『どういうものかはわからないけど、別のところで使ってアメリカの兵器だから~って言ってアメリカ政府を脅すために使うつもりかしら』
『そんなわかりやすいものなのかな』
『国同士の争いって簡単にいえばそういうもんじゃないんか?結局は』
『……謎ね』
とにかく、他に情報も揃ってない現状でここで私達が考えても仕方ない。ここでやれることはやっておかなければならない。
『アルファ、ブラボー各員へ。ダクトを伝って目的地の上部に到達しました。内部にいる者たちはガスマスクをしている者としてない者もいます』
『RO、こちらはいつでもいいわ。ガスで十秒後に突入よ』
『了解』
ROからの報告とM4の指示でで各自の目が戦う時のそれになった。私も緩んでいた糸が両端から引っ張られて一気に張られたような気分になる。
各自マガジンの残弾を確認・再装填を終えて少しして、扉の向こう側から叫び声が聞こえてくる。恐らく彼らは序盤しかガスグレネードを使われなかったことで高を括っていたのだろう。ガスマスクもフィルターなどを消耗するためできるだけ避けたいはずだ。
『行くぞ!』
M16が扉を蹴破ってフラッシュバンを投げ入れ、バンッ!と破裂した音がしたと同時に全員で部屋へエントリー。それと同時にROとMP5もダクトの網を壊して中に入ってきた。部屋の中にいたのは十数名。全員アサルトライフルやサブマシンガンを持っていたが、ガスで咳き込んでいたりフラッシュバンで視覚をやられていたりと混乱していた。
私も踏み入って一人一人を撃って制圧する間、ほんの数秒なはずなのにスローモーションの映像を見ている気分になった。まずはガリルの左横にいる者を撃ち、二人目としてその右側にいるガスマスクをしている一人も制圧。そして三人目は早く復帰しこちらに向かってもう撃とうとしているところだったが撃たせる前に頭を撃ち抜いた。
エントリーが完了し、私達グリフィンの者しか残っていなかった。
『各自、部屋の中のクリアリング!』
まだ終わりではない、部屋の中には机などもある。そこで息をひそめて反撃の機会を狙っているロシア人もいる可能性があるからだ。散開し机の陰、ロッカーと壁の隙間など隈なく散策したが杞憂に終わった。
『オールクリア!』
アルファ、ブラボーの異常なしという報告を全て受け取ったM4はそう宣言。そしてその時にはガスがもう晴れていた為、全員でガスマスクを外した。M16やグリズリー達がうまくいったことを褒め合っているところで、M4とROは指揮官からの命令を遂行するため、メインコンピューターとなる端末を操作し始めた。私もそちらの方に向かい、キーボードを叩いてデータを探すM4と共に画面をのぞき込む。
「えーと、戦術兵器ファイルの……これかしら?」
「それかもしれないわね……指揮官からは削除するのに具体的な指示はなかったの?」
「聞いたけどなかったわ。……それにしてもアメリカ軍はわざわざ自分達でやらずに私達にやらせたのかしら。PMCである私達が指示以外のことをやるかもしれなかったのに」
「……そうね。わざわざ兵器のデータを『回収』じゃなくて『破壊』にしている理由もわからないわね。知る必要はないんじゃないかと思うのだけれど」
とにかく、ロシア同様にアメリカにも腹黒いところがあるのは確かだ。恐らく今回の任務は交戦したスペツナズのように何かしらかの目的を防ぐものだろう。と考えていた時だった。
「……待って、M4。これどこかに転送されてる!」
ROが気付いた通り、メインコンピューターのケーブルを辿った先にあるサーバーの機械があるのだがそこに明らかに他とは違う小型の機械が差し込まれている。電子機器には私はそこまで明るくないが、電子戦のエキスパートであるROがいうからには間違いない。
「転送先は!?」
「ちょっとまって……ダメ、いくつもの世界中のサーバーや端末を経由していて追い切れない……!」
「転送されているデータを履歴から照らし合わせてみるわ……これは、なんなの……」
私も覗き込んで見ると、ファイルの中身を表すウィンドウとは別で意味の分からない文字の配列データであった。黒い背景に白い文字でアルファベットや数字が無数に並んでいる、一昔であればPCなどのエラーなどを表示するもののようになっていた。ROもサーバールームからこちらの方に戻ってきて覗き込む。
「……ダメね。私が見ても判断できない」
「一体何がどうなっているの……?スペツナズに続いてこんなものまで……」
「しっかりしてM4」
倒れそうになる友人を私は支え椅子に座らせてやる。そこで少し休むように言ってもう一度端末の方へ戻った。
「行先不明……文字の配列……一体何が……」
「……今回の任務はあくまで兵器のデータの破壊だったけど……ねえRO、これ私達も持ち帰りましょう。いくらなんでもわからないことが多すぎる」
「そうね。核兵器だとかの設計図ではなくこの意味の分からない配列データだけを転送するわけもわからないわ」
「それにロシアとか国も関わってきてる。もしかしたらまた戦争を企んでいるんじゃ……」
「まさか!今は国も何も関係なく鉄血と戦わなければならないのよ、なんでそんな……」
第三次世界大戦の結果としては散々なものであったという。開戦直後から核兵器が乱発され、それに合わせてEMPも頻発。それによって電子機器による戦いに依存していたどの国の空軍も海軍も全滅したのだという。結局は実際に人が汚染された大地の上で白兵戦で戦うことになったということだ。結局はどの国も疲弊し決着はつかずに終結。結果グリフィンなどのPMCが国の代わりに都市運営を任されている現状である。権力や発言力も国民に何も意味をなさないというのになにを考えているのか、私にはわからない。
「……とにかくやることやって帰還しましょう。指揮官に報告しないとならないことがたくさんあるのだから」
「……ええ」
私とROが指揮官への報告を合わせてその場に遭ったメモリーチップにデータ整理を行っている間にも、スペツナズから送られたデータにほくそ笑んでいる連中がいる。それを考えただけで腸が煮えくり返るような悔しい思いを私は感じていた。
改めてドルフロの世界観をネットで読み直して面白いなと思いましたよ、ええ。今回の最後の第三次世界大戦も読みながらそこから引っ張ってきたようなものです。歴史って繰り返すんやな……。
ともかく今回は私が主人公としている人間のローガンが一切登場しない買いでございます。ただし、戦闘の相手は人間ですが。スペツナズもロシアの特殊部隊として映画でも出てきたりと有名です。場合によっては祖国の為に命も捧げるとか……おそロシア。
雑談ではありますが、私としましてもアメリカ製でもロシア製でも国を問わず好きな銃というのはあります。撃った瞬間にバレルが引っ込んでまた飛び出すピストン運動をするAN94とか、次世代小銃として法執行機関からも高評価されているAK12とかとか、うへへへへ。……え、どちらとも本国版のドルフロには実装されている?うん、まあそうだね。え、どちらもロシア製の小銃じゃんって?細けぇこたぁいいんだよ(暴論)
ロシアって寒くて厳格なイメージがあるのですが色々と魅力もあるでしょうね。ああ、台湾には一回行ったことあったけど、あっちにも一回は足を運んでみたいなぁ……。
とにかく今回はこの辺で。国や政治の話ってのは難しくなって私のキャパでは抱えきれなさそうですけど(笑)
ではでは―――
『おん、ガリルが英語で関西弁?UBI……吹き替え……関西弁……うっ頭が』