誰も助けてくれない -Can you hear me?-   作:麒麟犬

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海外に行ってみたい(殴)


8.戦争の火蓋 -Fearless enemy-

その時のローガンは演習訓練で使う中身のあるハリボテの建物の設計してくれている技術者の横で色々とオーダーを出してたところだったのだが、何の予告もなく呼び出しを食らったのである。予定されている建設現場から離れ、急ぎの用だと言うことだったのでグリフィンの建物へ急いだ。若干小走りで指揮官の、ハリーの執務室へ向かい扉の前についたところでノックしようとしたところで扉が若干開いてることに気付いた。そこで頭だけ覗かせてみると―――

 

「きゅ、9A、後方支援で疲れたのはわかったからとりあえず降りて」

「嫌です指揮官……もっと私と一緒にいて欲しいです……」

「うん、その気持ちは嬉しいけどやることやらないと後から困るんだよ。そうなったら君との時間もとれなくなっちゃうんだけど……」

「それでももうちょっと、あともう少しだけ……」

「ん、んん!?9A、なんでベルトに手をかけて―――!」

「指揮官。私、あなたが欲しいです……。具体的に言うのであればこの間読んだ雑誌のように……!」

「メ、メーデーメーデーエマージェンシー!具体的に言うのなら僕のメンタルエマージェンシーメーデー!!」

 

……なんだこれは。なぜ自分が来たらこれより事が起ころうとしているのだろうか。いや、戦術人形との交流は大事だとは思うしその中で誰かと特別な関係を持っても悪いことではないと思う。彼女達も女性としての感性を持ちながら懸命に戦っているのだから。だけどまだ夕方に差し掛かる少し前だというのに、勝手に執り行われる理性によるチキンレースを見るつもりはない。

 

「大丈夫ですよ指揮官、何も怖くありません。私にすべて任せてくれれば何も問題ありませんから……!」

「だぁああああああ!?カリーナさんから変な知識を吹き込まれたな9A!あの人から取り入れたのは全部正しいとは限らないのは君も知っているだろ!?」

「それはそれ、これはこれ」

「いやいやいやいや、大事だからね!?大体カリーナさんからそういう事をしていいような時間帯も聞いたんじゃないのかい!?」

「ええ、たしかに深夜帯であれば一日の疲れもあって思考するほどの活力も残っていないだろうと言ってました……」

「じゃあわかるよね!?いやだからといって僕はそうするつもりはないけども今はまだ昼間!小さい子も太陽を浴びながら元気に遊ぶタイムゾーンだよ!?」

「それはそれ、これはこれ」

「天丼なんてのも覚えたのかい!?君は一体どこまであの人からネタを仕込まれてるの!?だぁもう、力づくで脱がそうとするんじゃない!戦術人形は何の理由もなく人間に危害を加えちゃダメなのは君も知っているはずでしょ!!」

「それはそれ、これはこれ」

「待てってばぁああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

とそこで、ようやくハリーは扉の隙間から顔だけ覗かせているローガンに気付いた。瞬時にアイコンタクトが行われ始める。『タスケテ……』というメッセージが伝わってくるがそっと扉を閉じた。

 

「触らぬ神に祟りなし。触らぬ騒ぎに不幸なし」

「おいぃ!?結局は何も見なかったふりをするの!?」

 

自分の要件もある為ものすっごく嫌ではあるが、もう一度扉を開けて顔だけ覗かせてみると乱れた服装と血走った目でこちらを睨んでいる目があった。もっとこっちに来いと目で言ってはいるが、ローガンは断固拒否する構えでそこから動こうとはしない。戦術人形も喜びそうにもない昼ドラ的なドロドロとした睨み合いが続いたが、そこで上司が動いた。机から取り出したのは書類の束である。

 

「ここに一つの書類の束があるじゃろ?」

「……おいその一番上の書類、どっかで見覚えがあるぞ」

「これをこうして……」

 

棚の方に置いてあるアルコールランプを机の上に置き、蓋を取ってマッチでもって着火。そしてその上に書類を持って行く。具体的に言うのであれば、指の力を少しでも抜けばメラメラと揺れる火の上にかざしている状態である。もしかざされてる書類が燃えた場合、ローガンが正式に申請した演習訓練場となる建物の許可は最初からされてないことになる。

 

「こうするのじゃ♪」

「汚ねぇ!?人の弱みとなるのを全力で交渉材料に使うスタイルかてめえ!?」

「いやぁ、さっき抵抗したものだから腕の力もほとんど残ってないんだよ。だから……あぁっと危ない危ない」

「ちくしょうめ!わかったから心臓に悪いからそんな真似はやめろ!!」

「どうしよっかなぁ、やられたら倍返しっていう台詞もあるぐらいだしなぁ♪」

「こいつ黒い!俺が出会った中で一番―――ああああああああああわかったからそうブラブラさせるなってぇえええええええええええええええ!!」

 

結局は、ローガンが折れて未だにハリーの腰に引っ付いて剥がれない9Aを何とか引きはがし近くを通りかかったネゲヴに引き渡した。『なんで私が……』と文句を言ってたが渋々了承してくれた。今度何か礼をしなといとかなとローガンは考えた。

 

「……そんで、一体何の用で呼び出したんだよハリー」

「さっきので終わったって言ったら怒るよね?」

「怒る前にまた同じ脅しをされそうだから怒らない」

 

賢明な判断だと言ってハリーは立ち上がる。そこでローガンの耳元に囁くような音量で言ったのである。

 

「さっきM4からの報告をもらったんだけど、ロシアの特殊部隊と交戦したって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――それで、あいつらは……」

「うん。今はこっちに帰還している最中だよ。アメリカからの依頼は達成したうえで、スペツナズが不可解なデータをコピー、転送したデータをチップに入れてね」

 

わざわざ転送する前にコピーする理由はなんだとローガンが思ったのだが、ハリーによると現在では一昔前のネットワークである仕組みであるが故なのだと言う。同じサーバー内でデータをコピーした場合、同じ名前のデータが二つ以上存在するのを避けるためにファイル名が自動で変化する。ファイル名の最後尾に『-1』といったような数字が付くように見比べたら一目でわかるような変化である。その元アメリカ陸軍のサーバーからデータがそのままの状態で転送しようとした場合、システムから阻害されてできない。ならば、ファイルをコピーしたうえでそのファイル形式を昔にはないものに変えてやれば問題なくなってしまうのである。

執務室のソファに腰掛けて考え込むローガンにコーヒーを出したハリーは自分の分のを飲みながら向かい側に座った。

 

「スペツナズの連中、ロシア人がなぜアメリカ領土にいるのかも気になるところだよ。今となっては国という国はほとんど力が干からびているようなものだから油断してたけど……」

「連中が正式な手続きを踏まずにこっちに密入してるかもしれないってことか?」

「そう考えるのが今は自然だよ。第三次世界大戦は終結してはいるけど、もう各国は互いに協力するような意思を持っているとは思えない」

「開戦前にあった貿易摩擦による影響もあるだろうな。あれで大分険悪になる速度が加速したって話だし」

「それもそうだろうね。それに報告によれば、先に手を出してきたのはスペツナズからみたいだ。こちらの目的を知ることなく撃ってきたわけだし相当ピリピリしてたみたいだね」

「ロシアか……」

「それとローガン。この間偵察任務で民兵達の装備を見たところ、持ってる銃器はAKとかのカラシニコフ製の物を持ってたのかい?」

 

そう言われて数日前のことを思い出す。ROと共に夜道の暗闇に紛れていたあの任務で、民兵達が持ってた銃器は―――。

 

「……そうだな、全てというわけではなかったがな。少なくとも持ってたアサルトライフルは全てAKだった」

「そうか。ローガン、これはあくまで推測だけど武器の供給元は鉄血だろう」

「……根拠は?」

「イントゥルーダーによる停戦協定だ。ハリソン達がPMCの情報を連中に流すその見返りに武器を受け取っていた可能性がある。君が捕えられていたところを保護した民間人から聞いた話だと、地下駐車場となっているところでそれらしい取引を見たことがあるって言ってたんだ」

「……嘘でなければそれだけでもほぼ決まったようなものじゃないのか」

「目の前の可能性に飛びついて他が見えなくなるのはなによりの悪手だよ。指揮官として当然のことだ」

 

そう言ってコーヒーを啜るハリーの台詞にローガンが考える。それと民兵達が持ってたアサルトライフルは全てAK47や74といった一貫したカラシニコフ製。となると……。

 

「まさかとは思うが、ロシアと鉄血が癒着してるっていうんじゃないよな?」

「そこまで言うつもりはないよ。いくら祖国の為に命を捧げてる彼らでも鉄血という存在は許せるはずがない。むしろ僕達と同じように打倒すべき敵という認識の筈だ」

「じゃあどう思ってるんだよ。これじゃあロシアがアメリカに混乱を齎そうと……!」

 

そこまで言ったところでローガンはハリーが考えていたことを察した。彼も目を閉じつつ口元に寄せていたコーヒーカップを遠ざける。

 

「……そうだよ、ローガン。鉄血の狙いはおそらく国同士の争い、第三次世界大戦の延長戦のようなものだ」

「おい待てよ……。もしその推測が正しいとするのであれば、ロシアの方にもアメリカ軍が……!」

「アメリカ軍とは限らないけどね。ひょっとしたらイギリス、アフリカとかいった冷戦の西と東の代表ではない国が介入しているかもしれないしね」

 

もしローガンが偵察で潜入したあの区域で見た民兵のように別の国の武器を持っているのに加えて自国のどこかに密入した武装集団がいるようなら、アメリカからすればロシアと鉄血が、ロシアからすれば密入してた国と連中が癒着していると考えてもおかしくない。武器の横流しと兵器のデータの在処に関する情報。前者はともかく、後者は情報戦に特化していればできなくはないことだろう。それができる鉄血の上級人形にローガンはすぐに思い当たった。

 

「イントゥルーダーめ、世界中を巻き込んで厄介なことを……!」

「あくまで可能性だけどね。でもここまでの事をしてくれるとすると奴も一枚咬んではいそうだね」

「だけど政府の連中だって少し考えればわかることじゃねえのか。俺達にでも思いつくことだろ」

「残念だけどこれは政府のお偉いさんの感情も利用してる。少なくてもアメリカ政府の官僚達は第三次世界大戦で生き残った人が圧倒的に多いんだ。決着がつかなかったこととはいえ、戦争をした敵国に対する敵対心というのは完全に割り切れるものではない。恐怖、怒り、憎しみが未だに精神の奥底にこびりついている歳寄りたちが冷静に判断できるかな?」

「……難しいな」

 

推測に推測、可能性に可能性を重ねたただの机上の空論だろう。だがあり得ない話ではない。人間とは恐怖などの負の感情に支配されたときは悪い方向へと想像を働かせてしまう。それが第三次世界大戦という凄惨な戦争を経験し、生き延びて頭が硬くなった老人達に事実の裏に鉄血が絡んでいるとは気付かないことが容易に考えられる。無論、これも日々戦いに身を置いてるローガンも同じなのかもしれないのだが。

 

「……とにかく、今は何も証拠がない。このことは他言無用で頼むよ」

「……ああ、わかってる」

「それで今回来てもらった本件の方だけど、証言者を回収してもらいたいんだ」

「どういうことだよ?まさかホワイトハウスに忍び込めっていうんじゃないだろうな?」

「まさか。いくらなんでもそこまで言うつもりはないよ」

 

ハリーからの任務の内容としては、アメリカ政府の情報分析官の救出及び保護であるという。M4達が遂行した任務の依頼人がアメリカ政府なのはいいのだが、内容がデータの『回収』ではなく『破壊』に疑問を抱いたハリーはいくつかのパイプを使って依頼人を調査・特定したのである。その情報を受け取った時にはM4とは地下資源の影響で通信が出来なくなった時なのだが。

 

「それにしてもM4には悪いことしちゃったな。あの時は特に深いこと考えずに古い兵器のデータだからっていいと言っちゃったんだ」

「……まあそれはそれとして、なんでその情報分析官の保護が必要になったんだよ?」

「要は上司に首をはねられたのさ、勝手に外部に依頼しやがってってね。そこで追い出されて危険地帯に放り込まれそうになっているからその前に何とかして欲しいと」

「ああ、そういう……俺が行かなければならない理由としては聞いていいか?」

「戦術人形が怖いってさ」

 

これにはローガンも少し冷めたコーヒーを吹きだしかけ咽せてしまう。そんな彼をハリーは苦笑いしてた。

 

「両親を鉄血に目の前で殺されてしまって怖くなったんだって。だからこちらの戦術人形は大丈夫だと言っても納得してくれなかったんだよ」

「トラウマで戦術人形が怖いから、人形ではない者を派遣してくれってか。グリフィンに対してその依頼はおかしくないか?」

「矛盾してることには間違いないね。でも君にはバックアップで数人の子を配置するよ」

「そいつはどうも……。そんで、証言者の回収ってさっき言ってたけどどういう意味なんだよ?」

「そのままの意味さ。こちらがその依頼に対するメリットは何かって聞いたら、自分が掴んでいるアメリカ政府の動向を教えるって言ったんだ」

「俺達の推測がその証言で答え合わせが出来るってことか」

 

そういうことさ、とハリーは何枚かの書類とデータのUSBメモリーを机の上に置いてローガンの方に滑らせた。書類の方に目を通してみると、作戦区域はホワイトハウスがあるワシントンD.Cだった。合流場所はワシントン内のマンションの一室。そこに合流するのは日付が変わる一時間前、現在時刻が午後四時頃なのでつまりあと七時間後であった。

 

「……随分と急でハードスケジュールだな」

「それについては謝るよ。今から準備して行けそうかい?」

「まあ……大丈夫だ。重要だしできるだけ早く現地入りするよ」

「助かるよ。帰ったら一緒に呑もう、僕の奢りだ」

「嬉しいね。そんじゃあ行ってくる」

 

ハリーと拳を合わせたローガンはソファから立ち上がると書類とUSBメモリーを持つと執務室から出た。それから向かい側に見える夕日に目を細める。

 

「やれやれだな……」

 

今回の成果で自分達の嫌な想像が正解か不正解なのかがわかるのだが、どうも知りたくない気分が抑えきれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――<Unidentified unit>―――

 

『はいはーい、こちらは……となーんだあなたか。……うん、いるよ。ちょっと待ってね』

『はい……うん、私です……仕事ね、わかったわ。場所は?……』

『ねえ、誰からの電話?』

『ん?私達のボス。時間もないから早く代わってくれって言われちゃったよ~』

『いつもは穏やかなのに急ぎの用があるとすぐに焦ってしまう癖があったのよね、まだ治ってないのね、子供の頃のままだわ』

『うん、ホント。でも最後に会ったのはもう三年も前になるんだね』

『そうね……。っともう、また涎垂らして……』

『うん、わかったわ。今度そっちに寄ることがあるかもしれないから、その時はよろしく』

『あ、終わったみたい』

『それで、どういう仕事?』

『ちょうどここからあまり離れてないところで特務を遂行する隊員を支援してくれだって。重要人物の救出が目的みたい』

『支援?私達が直接やるんじゃなくて?』

『私達はあくまで裏方よ。場合によっては面倒なことになるかもしれないけど』

『特務にあたる人形って何人なの?』

『一人よ。しかも人間』

『人間!?』

『人形ではなくなんで人間がこんなところに来るのよ。鉄血にいつでもいいから殺されたいのかしら?』

『侮っちゃダメよ。この人の特徴だけを教えてもらったんだけど、鉄血との戦い方を弁えているわよ。それに人との戦いにも、ね』

『それ本当?ガセを掴まされたんじゃないの?』

『本当か嘘かはわからないけど、あの子は昔から私達に嘘をついたことないでしょ?』

『初めての嘘だったりして』

『それでもやりましょ。それにあなた達も特務の隊員の見た目とか聞いたらわかる筈よ』

『へえ、私達の知り合い?』

『ええ。あの子よりも一緒にいた短いけど……私は忘れれないわ……』

『……なら行きましょ。あなたがそう言うのであれば、きっと間違いはないわ。ほら起きなさい、移動するわよ』

『う~ん……まだねむいぃ……』

『それで、その人の特徴ってどういうのなの?』

『ふふっ、それはね……』 

 

―――<Shut down>―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本来であれば星が瞬いているような夜空が広がっているのだろう。だけど今は彼の心情を映しているかのようにどんよりとした雲が空を覆っていた。

それにバババババッ!!とローター音がヘッドホンをしていても煩く聞こえてくる。これでは少しだけでもと思い、無線を繋げた意味があまりないじゃないかとローガンは誰にも気づかれない溜息をついた。

 

『こっちはひどいものよ。M4だって色々とあったものだからぐったりしてるし、さすがに私も今日は疲れたわ』

「……ああ、俺もちとハリーから聞いたよ。散々だったらしいな」

『わからないことだらけだわ。願っても叶うはずはないけど誰かに答えを教えて欲しいぐらいよ』

 

無線を繋いでいる相手は、今日の午前中からアメリカ陸軍のであった基地で任務に当たっていたAR15である。ローガンが準備を済ませてヘリに乗ったその数分後に到着したため入れ違いになったのだった。

彼女も疲れているのか、ずっと愚痴ってるのだがローガンはそれをげんなりするどころか少し笑って聞いていた。

 

「でもまあ、それだけ疲れてるのなら酒でも呑んだらどうだ?そうすれば一気に忘れれるぞ」

『やめてよ。私があまり呑めないの知ってるでしょ?それに今回のこと忘れても仕方ないのに意味のないことをするだけ無駄なだけよ』

「おお、手厳しい。でも言う事はごもっともだ、返す言葉もねえよ」

『……ねえ、ローガン』

 

それまでは怒ったような口調だったのが、急に悲しいような、寂しいような色になった。

 

『……いつ、帰ってこれる?』

「そうだな……順調にいけば夜が明ける前には戻れると思うけど、どうした?」

『私、時々怖くなるの。大事だと思ったものがその瞬間に無くなるのが……ローガンもそういう時はある?』

「……あるに決まってるだろ。誰にだってどうしても失いたくないと思うものはあるさ」

 

人によってはそれは違う。誇り、友人、命。人生で一つは守り通したいと思うものは生まれる。しかしそういうのは誰にも奪われないという保証はない。ひょっとしたらふとした時に自分がこれまで積み上げてきたものを壊されるかもしれない。自分がその場にいない間にそこにいた金では獲得できないものを掴みとって心を許せるようになった者がいなくなるかもしれない。または、これから向かう先で誰にも助けられず朽ち果ててしまうのかもしれない。ローガンにだって、恐怖はある。

 

「だからさ、お前はそこで待っててくれよ。俺は帰って一回寝て、そんでお前らのとこに顔を出すさ」

『……そこは寝る前にこっちに会いに行くって言ってよ』

「おおう、これは失敬」

 

ふふっと彼女は笑う。ローガンもそれに釣られて一緒に笑った。

 

『……でも、ありがと。なんだかちょっとホッとしたわ』

「ならよかったよ……と悪い、そろそろ時間だ。明日お前らのとこには寝る前に行くからよ」

『うん……じゃあ頑張って。……おやすみなさい』

「ああ、おやすみ」

 

ピッという電子音で彼女との通話は切れる。ローガンは無線機にコードで繋いでいた携帯端末をベストよりも内側にある上着の胸ポケットにしまう。出発前にハリーにベストが闇色で上着がネイビーブルーの服装なので暗闇に紛れられたらばれにくいだろうというお墨付きをもらっている、『シャドー隊』ローガンの迷彩服である。

 

『随分と仲がいいようだな。相手が戦術人形でも妬いちまいそうだよ』

「別にそこまで大したことねえよ」

『そうか?会話の内容までは聞こえないけど、随分と慕われてるようじゃないか』

「そういうもんか?あいつらも自立してるんだ、むしろ過保護に構われちゃ迷惑だろ」

 

パイロットに鼻で笑われるような音と一緒に朴念仁めと言われたのだが、それらはローガンの耳に届くことはなかった。

ババババンッ!!とヘリの機体表面に着弾したのである。

 

「な、なんだ!?」

『くそっ、狙われてる!揺れるぞ、ローガン掴まれ!!』

 

パイロットに言われるがまま、ヘリ内部の天井付近にある取っ手を右手で掴む。そして外を見てみるとこちらから三十メートルの地表から撃っている何者かがいる。それは何なのかと思い目を凝らすよりもヘリが動いて違うものを近くで見せてくれた。ミニガン、マシンガンといった重火器を持った鉄血―――ストライカー―――だった。それらがこちらに向かって絶えることのない銃撃を放っている。

 

『プロフェット、こちらブラックバード!シャドーの作戦開始位置に到達する前に襲撃されています!!』

『ブラックバード!そこから高度を取って第二地点に向かえ!』

『了解……いやネガティブ!ダメだヘリの燃料タンクがやられてる!』

 

プーッ!という耳障りな警告音が絶え間なく響く。ローガンがコックピットの方を見てみると赤いランプが点滅していた。

鉄血からの銃撃も止まらない、このままでは完全に墜落してしまい作戦どころではなくなってしまう。ローガンは左腕の端末を操作、地形を確認する。そこで、予定されていた作戦開始地点ではないがヘリからのランディングが可能位置が見つかった。

 

「ブラックバード、そこから左手にある谷に高度を落とせ!ヘリが入るだけの幅もある!」

『あ、あそこにか!?だがそこに奴らは……!』

「大丈夫だ、UAVからの観測ではそこに連中はいない!急げ!!」

『迷ってる暇はない。彼の言う通りに!』

『ブラックバード、了解!』

 

グンッ!と遠心力がかかりヘリの高度が急激に落とされる。そして機体が水平になり始めたのと同時にローガンはハニーバジャーを掴んで扉を開けた。風が顔を叩いて目を細めるが地表だけは見据える。そして前進をやめ高度を落とし始め、地表まで三メートル弱のところでローガンは飛び降りた。着地による衝撃を受け身を取って受け流し周囲を確認。敵はいなかった。

 

「こっちはいいぞ!ブラックバード、急いで離脱しろ!!」

『すまない、ローガン!プロフェット、ブラックバードはこれより離脱します!』

『了解したブラックバード!テスラ、こちらプロフェット。損傷したヘリが鉄血兵の群れから離脱する。現在位置は―――!』

 

ブラックバードが高く高度を上げて離脱するのを見送ったローガンは谷の陰の方へ向かって身を隠す。鉄血から見下ろされて見つからないようにする為だ。

 

「行くか―――!」

 

短く気合を入れるように息を吐くと、壁伝いに谷を進んでいく。ハリーから書類と一緒に渡されたUSBメモリーには作戦区域を細かく記録したデータがあった。それを端末にいれたためどう動けばいいのかはおおよその見当がつく。ストライカー達に見つからないことを祈りつつ、ローガンは慎重に進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦区域となるエリアへ行くのにあたって谷の壁をどう上るかを考えていなかったローガンは最初青ざめたのだが、谷の終わりが坂道となっていたため問題なかった。

坂道を上って丘へと辿り着いたローガンは時間を確認。作戦区域に到着するのに予定時間から大幅に遅れてしまっていた。現在、PM.10:51。

 

「だぁーもう、ちくしょうめ……」

 

やり場のないイライラを転がっていた小石にぶつけ、丘を滑り降りて進んでいく。

アメリカの首都と言われていたワシントンD.Cの一部の町並みは見る影もなく、道路は地震や鉄血兵との戦いや兵器による陥没や建物の倒壊などで酷いことになっている。軍用車両も一般車も関係なく、もはや一目でわかるほどの廃車になっており無残な光景が広がっていた。

 

「こんなところに政府の連中は……」

 

生まれて初めて来る有名であった首都の光景に、ローガンは周囲を警戒しつつそう呟いた。

 

『シャドー1、VIPからの連絡だよ。到着予定時刻になっても来ないから不安になってる』

「できるだけ急いでいるって伝えてくれ。遅れてるとはいえおちおち観光もできはしないな……つうか、プロフェット。聞いた話じゃここではアメリカ軍が見回りしてんだろ。ここに入るのに正式な手続きとかそういうのもそうなんだけどいいのかよ」

『政府がPMCの隊員を素直に通すと思うかい?今はもはや国内の治安維持はほとんどPMC頼りで国がすべきことの一つを放棄してるような状況だよ。向こうがこちらに頼ってるとはいえ、僕達にいい顔するとは思えないな』

「それもそうか……」

『それにワシントンD.C内で住んでいるのは昔で言うなら貴族や金持ち、富裕層の連中だ。他者の不幸に見向きもせず私腹を肥やしてる彼らと僕らが生きてる世界は違うよ』

「……とにかく急ぐよ。帰ってからそこら辺は話そうや」

 

プロフェット、ハリーの台詞にある棘に触れないようにしつつローガンは身を屈める。一般車に隠れてパトロールをしている兵士達の視界を避けて本道から小道へと入る。ワシントンD.Cに入る前からUAVを探知されないように退避させている為、ここからはローガンの端末に入っているマップ頼りである。

「おうおう、こいつは気を利かせてルートを表示してくれてるのはいいけど逆にごちゃごちゃしすぎてわからなくなってくるぞ」

『昔のカーナビを思い出さない?』

「やめろ、最短距離ばかりにこだわって滅茶苦茶な道を表示するのを思い出す」

『くふふ、やめて笑かさないでよ』

「笑かすつもりもねえよ」

 

軽口をたたきながら進み、本道にまた出たりパトロールから身を隠したりしてようやくホワイトハウスが見えてくる。真っ白な屋根と真っ白な像と広い庭とかとか。周辺にライトや警備に当たっている兵士を影から顔を出して見てみる。

そこからさらにマップを拡大させ目的地となる建物を目視で確認する。

 

「……あれか?」

 

建物としては比較的綺麗な状態で残っている。黄色く細長いマンションで高さとしては十メートルはある。ホワイトハウスに近いこともあるため、ある程度の高い立場を獲得するまではここで寝泊まりしているのかもしれない。

建物内ではバジャーを脇に下げてあまり足音を立てないように気を付ける。P226も抜かずそっと歩いて上って行った。そうしていって目的の三階に辿り着き、ローガンは部屋の番号を確認し『304』の部屋の前に来る。

 

「プロフェット、VIPはどんな感じだ?」

『大変おかんむりだよ。文句を言われるのを覚悟しておいた方が良さそう』

「……だよな」

 

到着時間はPM.11:14。ここに来るのに最初の襲撃がなければもっと早くこれただろうが言い訳にはできそうにもない。

 

「いっちょ、怒られますか」

 

呟き、扉をノックする。返事がないため再度ノック。しばらく待ったが何の応答もない。

 

「……おい、プロフェット」

『……なにかおかしいね。シャドー1、突入を許可する』

 

拳銃とナイフを抜いたローガンは扉をナイフを持った左手で開ける。キィ……と軋りを上げる扉から確認できる限りで罠の確認。なかった為、部屋に入るとオレンジの壁紙に同色の床。奥にベッドがありそこに誰かが寝っ転がっているのが見えた。寝てるのか……?と思ったローガンは警戒を解かずに足を運ばせて絶句した。

VIP、アメリカの情報分析官は死に絶えていたのである。

 

「―――プロフェット、VIPがやられてる!」

『なんだって!?』

 

死体には触れず見た限りで検死を行う。死因は口径はわからないが頭部による銃殺だろう。だが即殺したのではなく、口元にタオルを噛ませていたことから何かを聞き出そうとしていたのかもしれない。それを証明するかのように両手首には強い力で押さえ付けられてたかのような圧痕が残っているが四肢にはロープなどで縛られていなかった。

 

「くそっ、なんでこんな……!」

 

そう歯噛みしていると、部屋に置かれている情報分析官の物と思われるノートPCの電源が起動し、見た顔が表示された。

 

『―――お久しぶりね、ローガン』

「イントゥルーダー……!」

 

そこに表示されたのは、数日前偵察任務でパネル越しに対話した鉄血のハイエンドモデル、『侵入者』のイントゥルーダーであった。

 

『悪いけどそこにいた男は処分させてもらったわ。私達がやろうとしてることに勘付き始めてたのだから』

「まさか、てめえ自身が」

『いえ、今回私は後方支援。別の方にやってもらったわよ』

「かわらねえよ。それよかてめえら、世界中を巻き込んででかいことをしようとしてるんじゃねえのか?」

『あら、やっぱりあなた達は行き着いたのかしら?』

「国同士に不信感をさらに煽って何をしようとしていやがる……!」

 

そこまで言った途端、イントゥルーダーは笑い始めた。嘲るような笑いにローガンの青筋が浮き上がる。

 

『あなた達、まだそこまでしか行き着いてないのね……』

「……なんだと?」

『いいわ、教えてあげる。確かに私は不和にさらに不和を重ねるようなことをした。あなたが考えている通り、アメリカ陸軍基地にロシアを招き入れたのは私よ。ついでにあの屑どもにロシアの武器を流したのも私』

「てめえ……!」

『だけどまだ全部は教えてあげないわ。『鍵』であるこれが欲しければ―――』

 

イントゥルーダーは一つのUSBメモリーを手に持ち、わかりやすいように振って見せた。

 

『―――私の元にまで来てみなさい』

 

そう言い残し、ノートPCの画面はブラックアウトする。

毒づいて地団駄を踏んだローガンは、かすかに聞こえる電子音に気付いた。それは先程検死した情報分析官の死体から聞こえていて―――

 

「……あぁ、クソッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――<--->―――

爆発した火柱を双眼鏡で見ていた一人の戦術人形は笑う。まるで、古い友に再会出来ることを嬉しく思うかのように。

『また会えるんだね。楽しみだよ、ローガンっ♪』




急展開でございます、はい。もう私自身も何書いてんだよ状態です。辻褄を合わせようとはしてますけども、おかしい箇所があったら申し訳ないです。
でもって今回は色々と情報が散らばってますけど、要は『民兵達へ銃を流していたのは鉄血』、『奴らは国を飛び越しての争いを再び画策している』以上でございます。まあこれだけでも押さえてくれたらいいんじゃないかなと思います。いやあ、どうしてこうなったんだ……。
短いですが今回はこの辺にさせて頂きます。もうちょっとわかりやすいように展開した方がいいのかな。
ではでは―――

『古い兵器だとかので色々と台詞使いで悩みました』
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