平凡な男子高校生がキングダムの世界に転生して、王騎将軍を助けるために頑張る話。昌平君や蒙武、桓騎と出会い少しずつ成長を遂げていくが、上には上がいて未来改変はなかなかうまくいかない。

1話で終わます。

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この世界がキングダムなら俺は王騎将軍の生きる未来が見たい

確か初めて王騎将軍を漫画で見たとき、俺は信の敵なのかなって思ってた。悪いやつなのかなって。だから友達とキングダムの映画を見に行って地味にハマった時、早くやられろって思ってたんだ。

 

でもそこから漫画を読むようになって、俺は王騎将軍が好きになった。ダントツだ。セリフも行動もかっこよすぎて、50巻を過ぎた今でも忘れられずにいる。

 

王騎将軍がいたらなっていまだ思うのだ。王騎将軍がいたらなんか変わったかなって思うんだ。正直他の漫画ならこんなおじさん好きにならないし、推しは可愛い女の子なんだけど、キングダムは誰がなんと言おうと王騎将軍が一番だ。かっこいい。

 

 

だからこの世界に来た時、当然だけど王騎将軍に会いたいと思った。

 

 

授業中表紙を変えて読んでいた53巻。信が将軍になる姿を見たかったと今になると思うのだが、あの時は漫画を読みながら先生の話を聞いていて最後の最後寝落ちしたんだ。

 

そして次に目が覚めた世界は紀元前だった。漫画のキャラは何事もないように過ごしてるけど現代世界から来た俺からすれば死にそうだった。文明のもとに暮らしていた記憶があるからだ。

 

俺が生まれたのはそこそこ名の知れた文官の元だったが、それでも逃げ出しそうになることは沢山あった。勉強が苦手だったのだ。この世界に来て勉強するとなんて思っていなかった。俺の父は王騎将軍と同じく昭王に心酔していた人間の1人だったが、考え方が違い、戦いに明け暮れる昭王の治めた土地をまとめたり、民の生活水準を向上させることに勤めた、ある意味とてもすごい人だ。

 

そこは俺も認めるところなのだが、そんな家に生まれて武人になりたいなんて言えるわけがない。毎日書物の山に押し込まれていたのだからら。それ以前にその当時の俺はこの世界がキングダムの中であるということに気がついていなかった。

 

どこか知らない生活水準の極端に低い世界にタイムスリップしてしまったと思っていたんだ。だから俺は文官になるんだなぁとよく考えずに向いていない勉強をしていた。

 

そんなある日だ。家にあの王騎将軍が来た。王騎将軍はとてもすごい武人だが頭もキレる人である。父と仲が良かったのだ。

 

「貴方の水路のおかげで今年あの村の餓死者はゼロだったそうじゃないですか。」

「そんな褒めすぎですよ。そもそも今年は豊作の年だったんです。」

 

あのパッとしない母さんの尻にひかれている父さんが王騎将軍と対等に話しているのである。その前に、漫画のキャラが目の前にいるのである。当時3、4歳だった俺にとっては運命を変える出会いだった。

 

ここがキングダムの世界で、頑張ればキャラ達と会えるのかもしれないという可能性が生まれたのだから。

 

「ン、セイコウの息子ですね?」

 

デカいと思ったのと同時に、若いと感じた。今が紀元前何年で、どの辺りなのかバカな俺には分からなかったが、漫画が始まるよりずっと前の頃なんだろうということは感じ取れた。漫画が始まってしまっているのなら王騎将軍に会える確率ってのは減ってしまう。でも漫画が始まっていないのならその期間で王騎将軍が死ぬことはない。

 

それ以前今は多分だけどまだ昭王の時代で六大将軍も生きているんだと思う。頭の髪をぐしゃぐしゃと撫でられて、顔を見上げるとまだ若い王騎将軍が根拠もなく「頑張るんですよ」と言った。

 

その意味が父さんを支えろという意味だったのかはよく分からない。こんな時代で昔の記憶を持っているせいか武功を立てて将軍にとか、文官として昭王を支えたいとか、みんなみたいな高い目標を立てられずにいたんだけど、王騎将軍を見て思ったのである。

 

なんて変えらんねぇかなぁって。俺そういえば王騎将軍大好きだったなぁって。ここが漫画の世界って分かってて進む方向を知ってるなら俺のなってほしい未来に少しは変えたりできないかなって。

 

それまでは文官として生きてくのかって呑気に考えていたんだけど、嬴政や信にも会ってみたくなったし、時代が時代なら王騎将軍の奥さん?になる予定だった摎って人も助けられるのかなって思ったんだ。

 

だか俺は信のように漫画の主人公ではないし、嬴政のように人格者でもない。そもそもキングダムの世界に来たからと言って名前のあるキャラクターのように活躍できると保証もない。そのことにその時の俺は気がついてなかったのである。

 

バカな俺でも3、4歳の頃ならその当時は天才と言われていた。父にも期待されていて、長男ではなかったが当主の候補にだって上がっていた。でもさすがにやっとここでこのままではダメだと思い、バカな自分なりに考えた。

 

家を出る方法を。名前を捨てるとか父さんに反発するとかではなく、文官が向いていないことだけは確かだったので、上に行くためにもこの道はダメだと思ったんだ。

 

「軍師学校に行きた」

 

ぶん殴られました。理由も聞いてもらえない。怖い母さんと優しい父さんのイメージが壊れた日であった。その日からお前は俺の跡を継ぐんだとさらに勉強に熱を入れられた。逃げても逃げても捕まえられてついに足に枷をつけられて勉強させられた。

 

「父さん俺バカなんだよ……、だから、」

「バカに軍師は勤まらない。文官の方がまだマシだ。」

 

割と正論で固まる。

 

「……武人になりたいって言ったら許してくれなさそうだから軍師って言ってみただけなんだよね、」

「知っている。」

 

知ってるのかよ。じーっと父さんの顔を見ると腕を組んで悩んでいた。何を悩んでいるんだ。

 

「俺に武人の才能はなかった。だから俺の息子達にもその才能があるとは正直思えない。」

 

グサッと刺さる。確かに父さんはイケメンだけど、王騎将軍とタメで喋る割に細い。ひょろっこい。

 

「やっぱ無理かな、」

「そしてお前は同年代の男子に比べ意思も弱ければ覚悟もない。」

 

グサッ。でも言いたいんだよ。昔の人ってみんなすごいって。現代平成令和を生きてた俺には平民の皆も化け物だって。誰かのために死ぬのに躊躇いがないとかマジでおかしいって。

 

「だって死ぬのとか怖いじゃん、」

「才能のない俺でも昭王のために死ぬのなら後悔はない。」

 

……そりゃ父さんは王騎将軍と昭王の話で1日潰せる人間ですもんね。俺は無理ですよ。惚れた武人って言われても、王騎将軍のために死ねるかってそんな覚悟無いし。

 

でもさ。覚悟とか、それがないならとか、俺漫画のキャラじゃないしそんなのいらないと思うんだよ。建前だけなら嘘の言葉いくらでも言えるけどさ。父さんにはバレてると思うし。

 

「死ぬのは怖いし、みんなみたいな大きな目標もない。多分一生ない。」

 

現代の記憶がある俺はそんなものは多分一生できない。

 

「でも、俺は俺なりにやるべきことわかってるつもりなんだよね。」

 

記憶を持ってこの世界に来た理由。それは始皇帝、嬴政様の道を支えるためなのかもしれないし、信の道を助けるためなのかもしれない。もちろん王騎将軍を助けるためかもしれない。

 

とにかく知っていることによって変えられる未来の何かなんだと思う。

 

「そのやるべきことは文官じゃできないんだよ、俺多分父さんみたく文官としての才能もあるとは思えないしさ。」

「王騎について行きたいとでも言うのか?」

「……えっと、」

 

弱っちい父さんの勘の良さはなかなか鋭いと思う。

 

「あの男はかっこいいからな。男はみんな憧れる。特に武将の才能のなかった俺にはよく分かる。王騎に有能だと認めてもらうなんてお前の一生が10回あっても足りないかもしれないぞ?」

 

それは確かにって感じである。

 

「……とりあえず頑張ります、」

「そこで言い切るくらいの男ならこんなに思い悩まないで送り出してやれるんだがな。」

 

それから父さんのコネで軍師学校っぽいところに入れてもらったのだが、そこでも何を言っているのかちんぷんかんぷんなことは山ほどあった。だがそこで意外な出会いを果たした。昌平君である。そう先ほどここが軍師学校っぽいところと言ったのは、正確に言うと軍師学校を作るのはこの男だかららしい。ちなみ今は昌平君ではなく楚子って言うんだって。

 

「きちんと学校として機能させればもっと優秀な人材も集まるし、レベルだって上がると思わないか?セイラもそう思うだろ?」

「楚子。」

「なんだ?」

「そんな未来の話より明日の試験が俺には問題なんだよ。」

 

はぁとため息をついた昌平君は今日の授業の意味を細々と教えてくれた。軍師学校もどきに行ってわかったことがある。やはり俺には向いていないということである。親のコネを使っているので齢8の頃に軍師学校に入ることはできたが才能がないことははっきりしたので、その頃から剣術を練習するようになった。

 

「だから隙だらけなんだお前は!」

「いだっ……、」

 

木刀も腹に刺さると痛いんですよね。地面にへばりながら、あぁ〜〜っと叫んでいると、知らない男が顔を覗いた。うわっとびっくりして立ち上がったらその男と頭をぶつけて、いてぇと殴られた。理不尽だ。

 

「楚子!!誰だよこの失礼なやつ!!」

「テメェの方がッ失礼だろうがっ!!」

「蒙武だ。このバカそうなのはセイラだ。」

 

バカそうなのって言われた。昌平君を睨むと、バカが喚いていると笑われた。漫画の大人っぽいカッコいい昌平君はどこに行ったんだよ。その時に聞いたが蒙武と昌平君はとても仲がいいらしく、昌平君はそもそも楚の人質として秦に来ていたらしい。

 

「お前そんな大変な立場のやつだったの?」

「だからお前のようなバカ以外は、俺を遠巻きにしていただろう。」

「いや俺も親のコネだって話しかけてもらえなかったから知らなかったわ……、」

 

でも昌平君ってスッゲーいいやつってイメージあるんだよね。最初は呂不韋の味方なんだけど、最後には信達の味方になって、うぉおおって漫画を読んでなった記憶があるから。

 

「まぁ国のことなんて正直俺はどうでもいいや。」

「……お前といると必死になってるこっちがバカみたいだよ。」

 

昌平君と蒙武に鍛えてもらったおかげでその後俺の戦闘力はまぁ見れる程度にはなるのである。軍師としての才能は開花することはなかったが。

 

「お前さ。王騎将軍のところで戦いたいんじゃなかったのか?」

「そうだよ。そうなんだけどさ?」

 

流行りにのってキングダムを知ったわけだから東洋史とかよく知らない。王騎将軍って実際何した人なんだ?何をしたら会えるんだ?王一族を追えばいいのか……。

 

「それより俺の軍で副将をやらせてやる。」

「なんで俺が蒙武の副将なの?下なの?対等じゃないの?」

「お前俺に勝ったことないだろ。」

「軍略は俺以下のくせに。」

「お前は学校に通って俺にギリギリ勝てるレベルじゃないか。」

 

蒙武って思ったより理にかなかった喧嘩するよね?だんだん反撃する言葉がなくなってきたよ。

 

「とりあえず戦場に行ってみようかなぁ。」

「お前たち2人はなんでそんな遊びに行くみたいなノリなんだ。」

 

昌平君の言葉にそうなんだけどさぁって考え直す。

 

「蒙武の父さんって蒙驁さんだったよね。」

「あぁ。」

「連れてってくんないかな。」

「頼まなくてもそのうち連れてかれると思うが。」

「まぁそうかもだけど、蒙武が初陣のとき一緒に連れてってーって言ってみてくんね?」

 

了承してくれた蒙武のおかげで俺は9歳の頃に初陣を果たした。結果はまずまずである。当然だが信のように活躍できるわけでもなく、蒙武のように特別な武功を挙げられたわけでもないが、1000人将の首を取った。取ったはいいがそれで力尽きて戦場でぶっ倒れた。

 

「お前俺がいなかったら殺されていたぞ。」

「その通りです……、」

 

蒙武に俵のようにもたれて国へ帰った。昌平君にもたっぷり叱られたが手当てをしてくれたので心配してくれたんだと信じている。

 

その当時も俺は俺なりに頑張っていたのだが、やはり覚悟という面で俺は他の同年代に比べればかけらも持ち合わせておらず、だからその分強くなるのはあまり早くなかった。

 

だんだん王騎将軍の未来を変えるという目標も薄れて、昌平君や蒙武と訓練する日々に満足し始めていた。

 

そんな頃、秦と楚との同盟が崩壊した。そこで俺は初めて昌平君の涙を見るのである。国なんて大きな話になると理解が追いつかなくなる俺とは対照的に、あの頭のいい昌平君は自分の立場をきちんと理解していて、だからこそ今の状況に絶望していた。同盟が崩壊するということは人質の昌平君は母国には帰れなくなる。

 

楚の人質として秦に来ていた昌平君は国に戻ったらやりたいことが沢山あったのだという。武功を挙げて英雄になりたかったのだという。漫画の話だが、昌平君も蒙武も秦の人間として中華統一を目指すものだと疑っていなかった俺には驚きと衝撃が大きかった。

 

「俺は楚子がずっと秦にいてくれるのは嬉しいけどな……、」

 

視線を合わせると怒られそうだから空を見ながらそんなことを言った。

 

「お前はバカだからな。俺の気持ちなんて分からないだろうさ。」

「……正直わかんないけど、楚子が名を上げる時、秦でだったら素直に喜べるし、俺は3人顔合わせるのが戦場以外の方が嬉しいなぁって思うんだよね。」

 

蒙武の顔を見たら呆れた顔をしてた。俺的にはいいことを言っているつもりなんだけどな……。

 

「このアホの言葉なんて聞かなくていい。」

「え?俺結構頑張って語ってるつもりなんだけ」

 

殴られた理不尽に蒙武に殴られた。友達なのに手加減がない。

 

「国に捨てられたならお前も国を捨てればいい。今立っている秦で一旗あげればいいじゃねぇか。義・忠・信なんかより上に己の野望を掲げて爆進する!それが戦国に夢を描く益荒男ってやつだろうが!!」

 

俺を殴った時と同じくらいの力で昌平君を殴った蒙武は、俺と昌平君の肩を組んで言うのである。

 

「3人で名を上げるぞ。セイラ目標がないなら俺が作ってやる。まぁとりあえずお前は将軍になれ。」

 

俺の知る限り将軍はとりあえずでなれるもんじゃないと思うんだけど……。まぁってノリで言うもんじゃないと思うんだけど。この漫画の主人公は掲げるでっかい目標のはずなんだけど。

 

「お前の憧れる天下の大将軍、王騎だって俺は超えるぞ。お前はどうするんだ。」

 

どうするんだってさ。だって蒙武は実際超えてるようなもんじゃん?すげーもん。かっこよくなるの知ってるもんさ。昌平君だってそうだよ。知ってるんだよ俺は。お前らはすごくなること。でも俺はそういう保証どこにもないわけだからさ。

 

「俺だって……2人に並べるくらいには強くいたいよ。」

 

希望はさ。その時ガンって背中を叩かれた。誰。誰に叩かれたの。蒙武は俺の肩組んでるし、え、昌平君?

 

「俺に並ぶなら天下の大将軍でも足りないぞ。なぁ蒙武。」

「あぁそうだ。何が6大将軍だ。3人で時代を変えてやるぞ。」

 

漫画のキャラでもなんでもない俺が強さにおいて、今後主人公信にそれなりに尊敬されるくらいのレベルになる理由には2人の影響が大きかったのは言うまでもないだろう。

 

それから少しづつ武功を上げていった俺は時々だけれど王騎将軍と顔を合わせる機会があった。その度緊張していたのだがある日ついに蒙武に背中を叩かれて、王騎将軍の目の前に立った。何を言えばいいんだと蒙武の方を向いたら視線を逸らされた。

 

考えなしで行かせたのかよお前さ!!

 

「ンフフフ、どうかしましたか?」

 

でっか……。最近蒙武もデカいと思うけれどこの頃はまだ王騎将軍の方が全然デカい。一度会ったことがあるが覚えていてくれるわけはないだろうし、何も言わなかったら頭おかしい奴になる。何か言わないと。

 

「あ、あの……、で、弟子にしてください!」

 

背後の蒙武が吹き出して笑ったのはいうまでもない。

 

「いや、違う、違うんです。弟子じゃなくて、王騎将軍の軍に入れてくださいって言おうとしたんです、」

 

もう顔が沸騰しそうなほどに熱くて視線を合わせられずにいた。なんか随分な人数に笑われている気がする。

 

「コココココ、貴方に尊敬されるようなことしましたっけ?」

「え、あの、」

「まだ若いのですから私の軍に入って武功を上げて地位や名誉が欲しいというなら理解できるのですが、私の軍に入って貴方は何になりたいんですか?」

 

答えられなかった。ていうか答えられるわけがなかった。それをうまく伝えるなんて無理な自信があったから。

 

「それを見つけてから出直してきなさい。分かりましたか?」

「は、はい、」

 

いつかそれを見つけることができるのか、不安になった。強くなって、王騎将軍の足手まといにならないくらいになったら、同じ軍で戦えるかもしれないって思ってた。あの漫画で一番かっけぇって思った王騎将軍と戦えたら絶対に嬉しいってたまらなく最高だって分かってるのに答えが出てこなかった。

 

側にいたら昭王が死んだ後、中華統一を目指す戦いに復帰した王騎将軍を見れるって思ったのに。王騎将軍を助けられたら漫画とは違うキングダムを見られるかもしれないって思ったのに。

 

らしくなく落ち込んだ俺に蒙武は不機嫌そうに言った。

 

「将軍になりたいって言えばよかっただろう。」

「それはお前達のそばにいるための理由だよ。俺はカッコいい地位や名誉には興味がないんだ。」

 

現代人に武功の良さは難しい課題だよ。

 

「じゃあなんで王騎将軍の軍に入りたいなんて言ってんだよ。お前が文官の道をやめて外に出た理由なんだろ?」

「なんだろ。」

 

あの時、王騎将軍の前ではうまく言えなかったけど。蒙武と喋るのに時間制限はないわけだから、一生懸命バカな頭で考えたんだ。

 

「せめて目に入る範囲の好きな人たちを幸せにできたらなって思うんだよね。蒙武と昌平君のそばにいるために将軍にならなきゃいけないなら俺は頑張るよ。王騎将軍に憧れるのは一応訳があるんだけど、憧れてる人には幸せになってほしいじゃん?この先に訪れる不幸を知ってるなら防ぐ努力をしたいじゃん?そんな感じ……、ダメかな。」

「ダメだな。」

 

あんまりキッパリ言うからさ驚いて下げていた視線を蒙武の方に向けてしまった。

 

「なんとちっぽけで男らしくない。お前は本当に武人に向いていない。」

 

刺さるなぁ。ここまで手厳しい事言われると笑えてくる。本音は泣きそうだけど、笑ってないと涙が溢れそうだ。

 

「文官の方がよほどマシだったんじゃないか?」

「蒙武が父さんみたいなこと言うなって。どうでもいいもん。民とか秦国のこの先とか。6大将軍とか中華統一とか。言ってる人はカッコいいけど俺は別になりたいって思わないよ。」

「なんでだよ。かっこいいならなりたいだろ。超えたいだろう。」

 

時代の差ですよ。それは。これでも俺は教科書という範囲で、歴史の残酷さってやつを知っていて、いつの時代も戦争というものは負けたら耐えられないほど辛い結果が待っていることを知っているのだ。もちろんそんなのに自分自身も耐えられないし、できるなら友達や家族をそこから救いたいって思うんだ。

 

俺がそれの精一杯で、高校生までの記憶がある俺はもう20年以上の記憶があることになるから、考えって変わらないと思うんだ。

 

「俺は一騎打ちで蒙武が負けそうになっていたら邪魔をして致命傷をつけられる前に国へ連れ帰る。」

「何が言いたい、俺は負けん。」

「そう、じゃなくて……俺は昌平君やお前を助けられるなら卑怯な手だって使うって話だ。」

 

なにか言ってはいけないことを言っている気がして、下ばかり見ていたら、

 

「別にお前が優しいことは知っている。」

 

そうはっきりと言われてしまった。

 

「優しくない。ズルいやつだよ。」

「優しいから武人に向いていないんだ。お前自分の父親が武人に向いていないと文官に道を変えた理由を知っているか?」

「え、知らない……、」

「若い頃は王騎と対等に渡り合うくらい強かったらしい。でもそれこそお前の言う通り王騎の一騎打ちの邪魔をしたんだよ。戦えなくなるほどの腕の傷と目を失ってでも助けに入ったらしい。自分なら勝てた相手かもしれないのに王騎を逃がすために死のうとしたんだ。親子そろってなんでそんなにあの男に憧れるんだ?俺には王騎の良さは分からん。」

 

父さんそんならしくないことできたのか。そんなかっこいいことできたのか。そりゃ王騎にタメ口だろうさ。事あるごとに王騎はウチの家に現状報告に来るだろうさ。やっと少し繋がったよ。

 

「みんな昭王のために死ぬのに迷いはないって言うけど、俺は昌平君やお前のために死ぬのは怖いけど迷わないと思う。多分、そんな感じだよ。」

 

分かんねーよって笑われた。向いてないのは変えられないけど俺は俺なりに頑張ろうと思った。父さんの話を聞いて文官に道を変えるのが一番だろうと思うけど、出会ってしまった人も多くいるし、死ぬか戦えなくなるまでは頑張りたい。

 

その頃。蒙武と一緒に蒙驁軍に連れられ、激しくなった無法地帯を治めに行くことになった。たしかにこの時蒙驁さんはまだ将軍ではなかったけど、無法地帯を治めるなんて言い方は悪いが大したことない仕事を任されたか疑問であったのだが、現場に行くと事態は急速を迫っていることを知った。

 

死体、死体死体死体死体。長く続いているにしたってどこかしこからも腐臭がする。鼻をつまむほどだった。

 

「蒙武。」

「んだよ。」

「吐く、」

「はぁ!?」

 

目的の場所につくまで3回くらい吐いた。そして目的の場所について、元気なんて残ってもいないのに、叫ぶことになる。うっせぇと蒙武に怒られるのだが、だってだってとなるのだ。

 

「か、桓騎だ……、」

 

蒙武に置いていかれながらも戦って、戦って。俺の知る漫画の桓騎は無敗な感じだけど、この頃はそうでもなくて、すげぇ強いし山賊の中では無敗らしいんだけど、蒙驁様からすると山賊なんてのは数をぶつければ必ず勝てる相手らしかった。

 

その言葉通り巧みな戦術を蒙驁さんは数で押しつぶした。

 

「殺せよ。お前は俺を殺しに来たんだろっ……!それなのに生け捕りになんてして、」

「ふぉふぉふぉ、儂は武将の才能はないが人を見る目はあるつもりじゃ。お主はここで殺すにはもったいない男じゃ。」

 

目を見開く桓騎と一緒に驚いてたら蒙武がなんでお前が嬉しそうな顔すんだよって怒った。だ、だって桓騎カッケェじゃん!!

 

「お主武人には興味がないか?」

「ねぇ。」

「では中華のてっぺんは。」

「そんなもんいらねぇ。」

「城は?土地は?」

「いらねぇ、」

「地位も名誉もいらぬか?」

「そんなもんなんの価値がある。」

 

またふぉふぉふぉって笑って蒙驁は少し真剣な顔をした。

 

「儂は欲しくて仕方なかったがのぉ。山賊は命を奪い宝石を奪い女を好きなようにできる。」

「そうだ俺たちは自由だ。」

「武人は相手の国を征服して、土地を奪い命を奪い食料を奪い宝石を奪う。そこにいる女たちを一生思うがままに奴隷にだってできる。」

「っ……、」

 

この言葉には俺も蒙武も驚いた。あの優しく穏やかな蒙驁様から出た言葉に思えなかったから。

 

「儂がお前を自由に戦わせてやる。初めは小言を言われるかも知れぬがそんなのは儂と同じ弱者の妬みだ。心のどこかで強き者に憧れている。それはどんな残虐な手だって変わらない。だからそこを滅ぼせと言ったら徹底的に叩け、そしたら宝石の山はお前たちのものじゃ。」

 

その言葉は確かに桓騎に響いたらしかった。桓騎は俺や蒙武より少し歳下なのだが、やっぱり才能はとんでも無くて、武人らしさってのに馴染むのに時間のかかった俺とは違い独自のやり方でのし上がっていったのだった。

 

「桓騎くんが今回の俺の軍の副将なんて信じられないよ。」

「くんとかきめぇんだけど。」

「……さんの方がいいかな、」

「セイラ。」

「は、はい、」

「お前が一応俺に戦場ってのを教えてくれる人間なんだろ?」

「蒙驁様にそう言われたからそうだね……、」

「大将は副将にさん付けするのか。」

「しないのかな?」

「……昌平君にも蒙武にも散々聞いていたがバカだな。」

 

なんでそんなこと教えてるんだよ。酷くない?

 

「でもなんで俺なんだろうね。昌平君も蒙武も俺よりずっとすごいのにね。」

「白老が言うには一番俺と考え方はかけ離れてるからだとよ。」

「マジか。俺は意外と掛け離れてはいないと思うけどね。」

 

なんでだよと聞かれて、意外とこれに関してはすんなり答えられた。

 

「わざわざ敵国の民を殺したりはしないけど、知らない自国の民が虐殺にあっても俺は知らないふりするタイプだから?」

 

そういうと意外そうな顔をされた。

 

「てっきりただのお人好しかと思った。」

「お人好しってすげーやつだからね。友達でもないのに助けに行くとかすげーよね。俺には無理。」

「んじゃなんで今こんなところにいるんだよ。」

「それは蒙武に将軍になれって言われたから、武功をたてに来てるんだよ。」

「なんだよそれ。」

「友達に置いていかれるのも嫌じゃんか。」

「変なやつ。」

「マジの凡人はこんな感じだよ。まぁとりあえず大将首目指して頑張ろうか。桓騎は桓騎のやり方でいいよ。桓騎がここにいるってことは勝ち戦ってことだろうしね。」

 

下手にやり方変えて負けるのとか嫌だし。未来に生きている桓騎がここにいる時点で今回は勝ち決定だろう。それならゆるりとやっていこう。信のように一回の戦でバーンって昇格できる武功をあげられるわけもないので地道にやることにしている。

 

少しずつ位を上げていく中、蒙武は将軍となり俺は5000人将になった。未だに王騎将軍とは会えていない。いやすれ違ったりするけど、挨拶を交わす程度である。王騎将軍の下で戦えるのはいつなんだろう。俺は何がしたいって、未来を少しでもいいものにできたらなんて頭おかしいよなぁ。

 

その頃に大きな戦が起きた。だが俺の漫画の記憶は随分薄れていた。だってもうそろそろ20歳を超えるのだから。戦い始めて、俺は昌文君の軍に入っていたのだが龐煖 と言う男の名前を聞いて固まった。

 

「ま、待って、昌文君様今なんて、」

「だから摎の方に龐煖 が出てきたと、」

「お、俺、ちょっと行ってきます。」

「はぁ!?突然何を言いだすんだ。お前には与えられた場所があるだろうが、」

「それは副官の桓騎がどうにかします。大丈夫です。俺より強いから。」

 

待てと言われたが飛び出した。若干方向音痴の俺だが、なんとか目的の場所を目指して馬を走らせる。昌文君が言うにはまだ龐煖 は摎のところまでは来ていないようだし、時間は大丈夫だと思うけど、俺あの大将軍たちの戦いに入れるのかって話だ。いや王騎将軍が来るまでの時間稼ぎをすればいいんだよね。

 

摎が倒れてすぐ王騎将軍が来るはずだし、そこまで持たせよう。1人で馬を走らせて随分経った頃、秦国の兵も増えてきて、戦いの中心を見つけた。

 

「セイラ五千人将!?なぜここに、」

「いや、まぁそれは……、ってそんなことよりどんな感じ?」

「正直なところ摎将軍がおされていて、」

 

それはパッっと見でわかる。どうしよう。どうしよう。一騎打ちに割り込むなんて無粋な話なのだ。しかもあの龐煖 相手にそんなことしたら俺を殺しにかかってくるかもしれないし。でもここまで来て逃げるなんてありえない。そもそも知っている大切な人たちまで見捨てたら俺が戦う理由なんもなくなっちゃうんだよ。

 

「あぁ……、だいたい後どのくらいで王騎将軍は来てくれるんだろう、半日とか言われたら普通に死亡だな、」

「セイラ五千人将?」

 

俺のぼやきに兵たちが不思議そうな顔をしている。

 

「中華統一なんてことを話す昭王の夢を叶えるのに今六大将軍がいなくなるわけにはいかない。」

「もちろんです。」

「昭王の夢を叶えるためにも、俺たち一兵卒はあの人たちの盾にならなければならない。」

「セイラ五千人将ッ、」

「龐煖 を討てば一気に将軍になるのだって夢ではない。行くぞお前らッ、」

 

兵たちを奮い立たせるなんてらしくないことをして、剣を持ったはいいが興味なさそうな顔で龐煖 に一瞥されると一発で吹っ飛ばされた。無理だ。普通に勝てない。勝てる気がしないどころか可能性がない気がする。

 

「セイラ、なんでここに、」

 

え。摎って俺のこと知ってるの。マジでびっくりした。

 

「摎将軍なんで俺の名を、」

「だって王騎様が貴方の話をしている時があるから、」

 

なにそれ。なにそれ。その話詳しく聞きたい。王騎将軍俺のことなんて知らないみたいな態度とったくせに。なんだよそれ。もっと好きになるじゃないか。

 

「そんなことよりなんでこんなところにいるの!?貴方は昌文君の軍だったはず、」

「いやそうなんですけど、」

 

貴方が心配でなんて告白みたいだよな。いやそれが事実なんだけど。

 

「こちらに悪い気を感じて。」

 

妖怪でも見えるみたいな言い方になったけど、頭おかしい奴を見る目されたけど、ま、まぁいいだろう。

 

「とにかく貴方の敵う相手ではないわっ、下りなさい、」

 

いや俺も敵う相手じゃないって分かってるんですよ。一発剣を交わした段階で腕痙攣止まんないしさ。でも、下がるわけにはいかないんですよ。だってこの時点での龐煖 に王騎将軍は勝てるって知ってるんだから、希望を知りながら逃げるとかありえない。

 

俺が記憶を持ってこの世界に来た意味がなんもなくなる。

 

「何の用だ童。一騎打ちに手を出すなど無粋だぞ。」

「俺は立派な武将じゃないから、一騎打ちで勝たなきゃならないなんてプライドはないんだ。」

「ふん、それなら2人まとめて殺すまでだ。」

「いっ……かすった、うげっ、いっでぇ。」

「セイラ下がりなさいっ……!貴方はまだ若いのだから、」

 

いやそんな歳変わんないでしょ。つーか摎はこいつ倒したら王騎将軍と結婚できるんでしょ。99個も城を落としたんじゃん。俺の命なんて投げ捨てでも王騎将軍と結ばれたいんじゃないの。

 

王騎将軍も絶対摎の事想ってるじゃん!?自分の実力は十分十分わかってるつもりだ。だから絶対龐煖に勝てないこともわかってる。でも全く足止めできないほど実力差があるとも思わない。最終的には負けるけど、いや結構すぐ負けるかもだけど、王騎将軍が来るまでの間戦ってみる価値はあるんじゃないかって思うんだ。

 

「勝てなくても時間は稼がせてもらいますよ。」

「なにを馬鹿なことを。勝たなければ、戦は終わらない。」

 

一発一発が震えるほど重くて、俺の足も馬の足痙攣する。それなのに俺の攻撃にはビクともしないわけで、心が折れてくる。

 

「軽い。お前の剣は軽すぎる。あと10年も経てば見れる剣になるやもしれんが、今は取るに足りぬ。」

 

その言葉も心にくるな畜生。剣を握る手に血が滲む。そもそも摎はもう随分やられていて立っているのがやっと状態だ。あと一発龐煖 が本気で攻撃してたら死んでしまうだろう。普段なら足手まといに決まってるんだ。俺なんか。でも今は盾にでもなれるなら、そこにかけるしかない。

 

「セイラ、やめなさいっ……なんで貴方が私なんかのために。」

 

いや普通に考えてそうだよね。たいして関わりもない兵が突然やってきて、命かけて助けようとするなんて。びっくりするに決まってる。俺の未来予想図じゃこの頃には龐煖 にも勝てるようになって、王騎将軍の一番信頼されてる兵ぐらいの気持ちでいたんだけどな。全然王騎将軍に近づけないし、一緒に戦えもしないし、摎からしたら他人状態だし。

 

想像と現実じゃうまく行かないものだよ。

 

なんでと言われて困ってしまったせいで、返答できず必死に龐煖 の剣を受け止めた。そろそろマジで限界だな。さっきかすった剣のせいで左目が見えないのだ。失明したのか、血で見えないのか謎だが、支えてる肩の骨も多分ダメになってるし、すでに時間の問題だ。20分も持ってないんじゃない?俺。雑魚すぎでしょ。

 

振りかぶった剣が浅く肩に入って馬から落ちる。マジ惨め。そんなこと考えながら、なんとか立ち上がって剣を持つと、

 

「なにがお前をそこまでさせる。」

 

龐煖にそんな意味不明なことを聞かれたのである。まためんどくさい質問。王騎将軍も摎も龐煖も質問の内容が深い。めんどくさい。考えたくない。俺はやりたいようにやっているんだから俺の勝手じゃないか。

 

摎からしたら他人の俺が自分のために命捨てようとしてアホみたいに映ってるんだろう。でも俺的には違うんだから仕方ないじゃないか。一兵卒の俺が知るわけない、摎が昭王の娘だってことも、100個城を落としたら王騎将軍のお嫁さんになれることも、そもそも摎が女だってことも全部知ってるんだ。

 

その上で王騎将軍がこの後龐煖にこだわり続けることも知っているから、助けようとしてるんだ。なんの夢もない俺が唯一カッコいいって思った王騎将軍の兵になりたいって悪くない夢じゃん。そこに理由なんてないんだ。

 

みんながかっこいいから将軍になりたいのと一緒なんだ。憧れてるからその人の下につきたいって、馬鹿にされる筋合いねぇよ。

 

だってほらさ。

 

「ンフフフフ、遅くなりましたね。摎、セイラ。」

 

ちょっとは未来変えられたかも知んねーじゃん?

 

その声を聞いた瞬間力が抜けた。もう立てねぇって地面にぶっ倒れると兵たちに名前を呼ばれた。生きてるよってなんとか叫んで、意識を手放しそうになりながら王騎将軍と龐煖の戦いを見ていた。

 

王騎将軍やっぱカッケェなぁ。俺の勝てる見込みゼロパーセントの龐煖相手にガンガン打ち込んで当たり前みたく押してる。絶対勝てるって確信を持つような打ち合い。谷の方にどんどん押し込んで、漫画通り龐煖が落ちていくのを眺めた。

 

 

そんな時。俺は物語の強制力ってやつを見せつけられるのである。だって漫画にこんなシーンなかったんだから。

 

 

「せめて一人道連れにしてやる。」

 

 

まさかのセリフをちゃんと聞き取ったのに、ボロボロの俺は動き出すことができなかった。俺の目の前で地面にしゃがみ込む摎に剣が刺さるのを止められなかった。騒然だ。戦場の騒がしさは一瞬で静まり返り、落ちていく龐煖の剣だけが摎の背中に突き刺さって止まっているのである。

 

嘘だろってそんな思いとは裏腹に、俺は声すら出せなかった。こんな結末だ。秦国の勝利は上っ面の喜びしかなかった。

 

摎を失った代わりに龐煖を打てたと、皆なんとか言い訳を考えたが、俺は龐煖が生きていることを知っている。だからこそ、余計に心は沈んだ。俺の存在した意味が何もなかったことを証明されたようで目の前が真っ暗になったのだ。

 

見えなくなってしまった左目の意味は何にもないのである。

 

「せっかく将軍になれたというのに引きこもるバカがどこにいる!出てこい馬鹿たれが!!」

 

軍師として名を上げている昌平君は、未だに漫画とはかけ離れた性格で俺の部屋に乗り込んできた。

 

「顔だけは見れる姿をしているというのに、台無しじゃないか。」

 

そりゃ泣いたもの。父さん譲りの数少ないいいところも台無しだろうさ。

 

「昌平君……、」

「救えた命より救えなかった命の方が多いなんてのはよくあることだろうが。なんでお前が摎将軍のために涙を流す。」

「それは、」

「惚れていたのか?」

「え?」

 

本気で何言ってるんだって顔をしたら、むしろそれしか考えられなかったと言われた。なんで話したこともない摎将軍に惚れるのさ。結局素顔だって最後まで見なかったのだ。顔に惚れることだってなかった。

 

「王騎将軍の大切な人だから救いたかった。知っていたのだから、救えなきゃダメだったんだ。一騎打ちを邪魔して卑怯な手まで使ったのに俺は、何もできなくてっ、」

 

情けない言葉をぼろぼろこぼしたら、また泣くのかよって呆れられた。少しくらい慰めてくれたっていいじゃないか。もうほっといてくれって叫んだら、お前がそんな情けないやつだとは思わなかったと言われた。

 

うるさい。

 

「王騎将軍がお前を訪ねて城に来た。」

「っ……!?」

「だから俺は、セイラは情けなく地元で引きこもっていると言ってやった。」

 

つまりさ。お前は何が言いたいの?そこそこ遠い父さんの実家にまでわざわざ嫌味を言いに来たの?違うよね。そんな冷たい口調で、ひどい言葉遣いで、励ましに来てくれたってこと?

 

戻って来いって言いに来てくれたってこと?

 

胸の奥が熱くなる。別の意味で泣けてくる。変えたい未来が色々あって、助けたい命が沢山あって、夢いっぱいの未来予想図があった。でもどれもうまくいかなくて、俺には何もないのかもしれないって思った。頑張っても、みんな頑張ってるから自分が頭一つ飛び抜けるなんて主人公じゃないから無理なんだ。

 

でも。何もない俺にも、手に入れたものがあるのかもしれない。バカとアホと言いに来てくれる友達がいる。怪我をすれば心配してくれる友達がいる。それだけって思うけど、そんなものは現代と何も変わりはしないけれど、今の俺にはだいぶ嬉しかった。心にきた。

 

泣けた。自分を支えてくれるものってのは時代なんて関係ないのだ。めちゃくちゃ泣けて、部屋を飛び出して昌平君に抱きついたら、蹴り飛ばされた。

 

「いい歳した男が抱きついてなんてくるな!!気持ち悪い!」

「昌平君、俺、弱いけど情けないけどダメダメだけど頑張るよ。蒙武にもお前にも全然敵わないけど、出来ること探すよ。だから……俺もお前のこと見てるから、応援するから、俺のことも見てて。」

 

キモいこと言うなよって背を向けられた。でもそのあとに、

 

「俺は軍師だ。お前や蒙武なんてものじゃないくらいお前らを見ている。死ぬほど心配している。あの戦でお前が生きて帰ってきてくれたことを嬉しく思っているに決まっている。お前らはこの秦に家族や友人が沢山いるだろう。でも俺にはいないのだ。だからこそ俺にとってお前たちは、お前たちが想像するよりよほど大きな存在なんだ。……見ているさ。これからも。俺はお前を見ているぞ。」

 

そう、きちんと視線を合わせて言われた。嬉しくて、たまらなく嬉しくて抱きつこうとしたら気持ちが悪いと殴られた。今絶対デレたと思ったんだけどなぁ。昌平君の心は難しい。

 

その後俺は昌平君の言葉を信じ、王騎将軍の城を訪ねた。

 

「ンフフフフ、随分沈んでいたと聞いていましたがもう立ち直ったのですか?」

「まぁ……あの一応、」

「以前私は貴方に何になりたいかを聞きましたね。」

「はい。」

「答えは出ましたか?」

 

出ましたかって。

 

「出て、ないですけど……、」

 

出てない。そんなの出てないけど。

 

「俺は自分の手のひらに収まる俺にとっての大切な人を守りたいんです……、正直天下の大将軍とか中華の統一とかには興味がありません。でも俺の守りたい人はみんな戦場にいるから、俺も強くならなきゃいけないんです、」

「なら貴方にとって摎はなんだったのですか?」

 

王騎将軍の真剣な目。体に穴があきそうだ。俺にとっての摎。世間から来たら他人なんだろう。でも俺にとっては憧れた王騎将軍を幸せにするカードなんだよ。

 

「摎将軍が生きていたら王騎将軍が笑ってくれるかなと思ったんです。」

「何が言いたいのですか?」

「何が言いたいってそれだけです。摎将軍が生きていた方が王騎将軍は幸せだろうと思ったから助けに行ったんです。助けられなかったですけど。」

 

俺の精一杯の言い訳に、王騎将軍は意味がわからないですねと笑った。

 

「私には分からないですよ。だって忠誠を誓われるようなことをした記憶がないんですから。」

「それは……、」

「ンフフフフ、まぁ答えについてはそれで認めてあげましょう。武将として随分情けない考えだとは思いますが、それでもそんな人間がいるのも悪くない。せっかく将軍になったのだから、私が貴方の根性を叩き直して差し上げます。」

 

摎の死は俺にとって悪いことをもたらしただけではなかった。王騎軍に入れてもらうことが叶ったのだ。その喜びを蒙武や桓騎にも伝えに行ったが、誰かの下について喜ぶ気持ちはまるでわからないと二人ともにバカにされた。

 

この二人に自慢したのが間違いだった。

 

王騎軍に入り喜んだはいいが、その頃昭王が亡くなった。つまり王騎将軍は戦場から退くのである。漫画のストーリーが始まるだろうという大事なころ、今後龐煖との戦いを避けて通れない俺はこれでいいのかと頭を抱えた。

 

「王騎将軍、俺これでいいんですかね。」

「ココココ、何がですか?」

「いやっ……いだっ、あの戦場に出なくて、」

「貴方はまだまだ学ぶことがありますよ。貴方の守りたい人物は、この程度の内乱で命を落としたりはしないでしょう。今はその隙だらけの剣をどうにかするべきです。王騎直々から剣を学べるなど、光栄なことなのですよ?」

「そ、その通りです。」

 

言いくるめられて毎日ボコボコにされている。ちなみに騰とはそこそこ歳が近く、最近はよく剣を見てくれるようになった。

 

「騰は最近の王騎将軍を見てどう思うの?」

「殿の好きなようにされるのが一番良いだろう。」

「まぁそうなんだけどさ。これでいいのかなぁ俺。」

「何をそんなに迷っているんだ?」

「迷っているっていうか、なんていうか。王騎将軍も騰も強すぎて、自分が今どんな感じなのか推し量れないんだよね。」

「お前は元から強いと思うが。」

 

騰が突拍子もなくそんなこと言うから固まった。気が抜けて木の剣が溝うちに入った。痛い。

 

「俺強いなんて言われたの初めてだよ。」

「お前を弱いだなんて思ってる奴はいないだろう。」

「弱いけどね。実際。」

 

そこそこいい歳なわけだ。それこそ信たちが生まれるぐらいまで物語は進んでる。最近思うが、強くなることも重要だが、あの戦いで王騎将軍を救うには李牧を少なくとも少しは攻略しなければならないんじゃないかってこと。

 

俺ができることって言ったら、また摎の時のように飛び出して李牧軍をぶちのめすくらいだろう。事前に李牧という男がいて、こんな作戦を立ててくるんだって言っても、誰も信じてくれないに決まってる。

 

漫画初期って李牧無名っぽいしさ。

 

王騎軍が手こずる李牧軍をどうにかする力と、龐煖止める力。絶対無理な気がする。今から諦めてどうすんだって話なんだけど。摎でさえ救えなかった俺に軍略を見極めながら、全力の力で戦うとか、絶対脳みそ足りない。

 

あぁっ……、力も足りないけど頭も足りない。内乱に首突っ込んでる場合じゃないよなぁ。誰が勝つか知ってる俺からしたらどうでもいいし。信と嬴政は見てみたいけどさ。

 

うっすらと残っている記憶を辿る。総大将は王騎将軍。蒙武も戦いに出てたはず。もちろん龐煖も戦に出てて、蒙武軍が趙の策にハマったのを王騎将軍が助けに行った先で、李牧が出てきて、王騎将軍は李牧軍のモブみたいな奴の矢と龐煖にやられる。

 

俺の記憶なんてこんなもんだ。ぶっ倒さなきゃいけないのは龐煖に李牧、そして李牧軍の弓使い。弓使いは信が倒す気がしたけど、時間が間に合わないから当てにはならない。無理じゃん??だって李牧も龐煖も俺より100%強いもんさ?

 

悩んで、悩んで答えも出ないまま。時は進んで行った。試しに李牧暗殺の兵を送ってみたりもしたけど、昔はすげー強かった李牧に通じるわけもなく、未遂に終わった。

 

「あー上手くいかねぇ。どうすっかなぁ。」

 

都は内乱で騒がしい頃。昌文君と戦いたいなんて理由で成蟜側に付いている王騎将軍は毎日暇そうだった。

 

「王騎将軍は戦いに戻らないんですか?」

「ンフフフフ、突然どうしたのですか?」

「いや、なんとなくですけど。」

 

王騎将軍が戦うのを止めている理由も、なにがきっかけで戦場に戻るのかも知っているのになんとなくそんな質問をした。よく考えれば摎は死んでしまったし、物語は漫画通りに進んでいるしで俺はこの世界を少しも変えられていないのかもしれないと少し落ち込んだ。

 

「今の戦場に興味が湧かないんですよ。」

 

やっぱ漫画と似たような回答。あー、こういうの聴くと落ち込む。このままじゃあの漫画のカッコよく死ぬシーンがリアルで起きる。どうすんの俺。作戦もないままさ。

 

でもなぁ。問題の李牧は今匈奴の遠征に行ってるんだよな。多分だけど。李牧ぶっ倒しに行ってみる?100%倒せないけど。行くだけ行ってみる?可能性には全部かけてみるべきだよな。

 

そんなこんなで、李牧の匈奴遠征を邪魔しにいくことにした。国の外に出てぐるーっと回って李牧のいそうなところ探した。

 

「セイラ将軍、っはぁ……なぜ突然異民族を倒しに行くなどと、」

「今度起きるだろう趙との戦の前に、匈奴殺しを理由に、どさくさに紛れで趙兵を潰しておくためかな。」

 

それらしい理由を言うと兵たちは納得してくれて、俺の個人的な理由のために沢山の命を無駄にするのだった。李牧、どこにいんのかな。てか匈奴ってマジでつえぇのね。俺、李牧に会う前にボロボロだよ。

 

そして随分趙国の近くに来ると、大量の死体を見つけた。兵を止めて、死体がいつのものかを確認させる。時間が経っていないことを確かめて、趙兵を探した。

 

半日ほど探して匈奴と趙兵を見つけた。匈奴を殺すふりをして趙兵を狙えと指示をして、戦に紛れ込んだ。お互いの困惑を利用して李牧の方まで一気に近寄る。

 

「なぜここに秦兵が。」

「ちょっとアンタを殺しにね。」

「またまた物騒な。ここは仲良く匈奴倒しをしませんか?」

「しねーよ。匈奴なんかどうでもいい。」

「国取りにもならないこんなところまで追いかけて、私に個人的な恨みでも?」

「いや恨む前に倒しておこうと思ってさ?」

 

李牧と剣を交えて思ったこと。勝てる気がしない。軍師のくせにめちゃくちゃ強いなんて、昌平君とキャラ被ってんだよ。馬鹿野郎。あぁいってぇ。ここまで追いかけてきて勝てないって何事だよ。

 

ボロボロの姿でどうするかを考える。剣を受け止めながら、ここで死んだら元も子もないだろって自分を奮い立たせる。

 

「クッソ李牧、お前、」

 

でも軍師の中でもトップの頭を誇る李牧にかかると、状況はどんどん不利になっていくのだ。趙国に向いていたはずの匈奴が俺らの兵に向いて、李牧が俺から一つ距離を置いた。

 

「私は無意味な戦はしないたちなんです。」

 

なんだそれってな。そう言って趙兵は引いてくんだよ。大量の匈奴残して、俺のこと散々ボロボロにして。最後には「それは私たちの戦った匈奴の中でも特別に強い者達です。後は頼みましたよ。」そんなこと言うんだよ。

 

いや首突っ込んだ俺になにも言う資格ないけど、でも、せめて戦ってくれてもいいじゃんか。ここまで来たんだから剣をかわしてくれてもいいじゃないか。クソクソって、匈奴ぶっ倒しまくって、自分の兵殺しまくって、帰ったわけだけど。

 

なにをしてきたんだって王騎将軍には当然怒られるのである。

 

「兵の命を背負うのは将軍である貴方の仕事なのですよ?」

 

その通りだ。

 

「それが何故無駄に命を消費するような行動を。」

 

説教が耳を通り過ぎる。だってだってって小学生みたいな言い訳が頭を巡る。散々仲間殺して、骨折って帰ってきて、何も成果を得られていない。しかも他人から見たら俺の行動は意味不明で。

 

蒙武には「見損なったぞ」と殴られた。落ち込む。李牧に傷の一つも負わせられなくて落ち込んでるのに、さらに落ち込んだ。

 

「お前はなにやってんの?」

「桓騎……、俺は俺なりに考えてたんだよ。これでも。」

「バカが考えてもいい答えなんか出るわけないだろ。」

 

こっちも冷たい。

 

「じゃあどうすればいいの。」

「俺が知るわけ。つーかお前の行動はいちいち意味不明なんだよ。もう少し周りが納得できるような行動しろよ。」

「だって……、」

「いい歳こいてだってとか言うな。」

 

黙り込むと爆笑された。泣きそうだ。落ち込んでるときに桓騎に会うのは絶対ダメだ。

 

「いつまでたっても危なっかしいんだよ。ガキが。」

 

お前年下じゃんか!

 

「お前らしさってのはあれだろ。」

「何……、」

「当たって砕けろ……的な?」

 

砕けるのかよ……。ふらふらって手を振って去っていく桓騎は散々俺をバカにして満足したらしく、らしくなく軽快な足取りで去っていくのだった。

 

まぁ確かに色々考えるより俺は当たって砕けろの方があってるけどさ。じゃあ俺はできる精一杯って何かな。記憶をたどって考える。戦いながら考えるなんてできないことを知ったから今出来る限り作線を練るのだ。昌平君や桓騎に比べたら比較する価値もなものだろうけどそれでも考えた。

 

残り少ない時間。俺の出来ること。探して探して。戦場に立つ。王騎将軍は総大将。親友の蒙武がいて。ここまで変えられたストーリーはほとんどなくて。でも2人がいる戦場なら俺はめちゃくちゃ格好つけたくて。だから、俺に出来ることを頑張ることにした。

 

李牧軍の弓使い。弓使い。アイツがいなければ致命傷は避けられるはずだ。弓を構える前に見つけ出す。記憶をなんとか引っ張り出すために、趙の兵の顔を片っ端から眺める。そして見つける。見つけた瞬間、統率なんてものは全部破ってそいつを殺しに行った。

 

まず一人。龐煖一人なら王騎将軍は負けない。李牧に兵のへの指示を出させないようにしよう。俺の実力じゃこの戦をひっくり返したりはできない。今趙には李牧が必要不可欠なはずだ。命の危機が迫れば引くはずだ。

 

龐煖との一騎打ちは王騎将軍に勝ってもらうしかない。そこは賭けだが俺が戦うよりよっぽど勝機のある賭けだ。それに俺は龐煖に圧勝する王騎将軍を知っているんだ。憧れた人を信じるのは至極当然のことだろう。

 

俺は李牧を引かせるためにも李牧軍をぶっつぶしに行く。

 

そこからはとにかく剣を振るった。匈奴をやっつけたとかいう明らかに強い李牧軍を中心に叩きに叩きまくって、戦場の盛り上がりを秦国へ戻した。そこからが問題だった。

 

なぜって物語には強制力ってものがあるからだ。キングダムのストーリーではここで王騎将軍が死ぬことが主人公の信の成長につながる。だからこそ、物語は王騎将軍を殺そうとするのである。

 

龐煖に剣を突き刺した王騎将軍。場は一気に盛り上がったが、圧倒的な趙の兵が王騎将軍に攻めよったのだ。龐煖の一騎打ちにこだわる気持ちも虚しく、李牧の指示により全軍が王騎将軍に攻撃を始めた。

 

「クソっ……、李牧、遠いな、」

 

戦場の中心から、趙兵の一番奥にいる李牧は想像よりも遠かった。倒しても倒しても見えてこないのである。龐煖との戦いで消耗している王騎将軍は表面上は平気な顔をしているが、ちらほらと攻撃をまともに受けている。

 

李牧のところへ行くか、王騎将軍のところに戻るか。これはある意味、この戦の勝敗を決める決断である。王騎将軍のところへ戻れば、秦国の負けは決まりだ。多分今この位置にいる俺が李牧の首を取りに行かなければ他に行ける人間は今いない。

 

戻って龐煖にとどめを刺しに行ったところで、李牧が残っていたらこの戦に勝ちはない。だが龐煖を殺し、王騎将軍を逃す手ならあるのかもしれない。勝ち逃げは可能性として残っている。

 

王騎将軍を見捨てるくらいなら負けた方がマシだ。俺に秦国のプライドなんてありはしないんだから。自分を言い聞かせて隊を引かせた。

 

龐煖まで馬を走らせると、王騎将軍と視線があった。龐煖の首に剣を下ろしながら、俺は説教をされた。

 

「この10年貴方に沢山のことを教えたつもりでしたが、ここで戻ってきてしまうなど、セイラ貴方は本当に武将に向いていない。李牧の首を取って一番の武功をあげようとは思わないのですか。」

「思わないです、王騎将軍。俺はまだ貴方のもとで学びたいことが沢山ある。誰がなんと言おうと俺は秦国より仲間の命を取る男です。」

 

腕と胸に怪我を負う王騎将軍の馬に乗り込み一気に走らせる。ここを一気に抜けたら勝ち逃げだ。まだたいして強くなかった信ができたんだ。俺にもできるはずだって、必死に言い聞かせて馬を走らせた。

 

だがここに一つ大きな問題が残るのである。

 

「全兵、総大将王騎の首逃すことなかれ。王騎の首を取れば趙にも勝機はあるぞ!!」

 

そもそも漫画で王騎が秦国まで帰れたのは、もう死ぬことが決まり、趙の勝利が決まったからこそ李牧は見逃してくれたのである。だが今は状況が違う。龐煖が打たれ、王騎将軍は致命傷を負っていない。そうなれば趙兵は俺たちを逃してくれるわけがないのである。

 

李牧の馬ががすごい勢いで迫ってくる。二人を載せている王騎将軍の馬の倍は早い。どうする。本当に。俺にできることはなんだ。

 

李牧に勝てる可能性なんてないんだ。多分頭も武力も。だが、ここでバカな俺が思いつく方法なんてのはあまりにも数少なかった。馬を一瞬止める。感だけど多分この馬に信が乗ったら、逃げ切れる気がする。だって主人公だから。

 

俺よりはたぶん幸運を持ってる。

 

「俺の兵は全員王騎将軍の周りに固まれ。騰。しんがりは俺が務める。あとは頼んだ。」

 

騰がコクリと頷くから、なんか面白かった。

 

「信お前はこっちだ。王騎将軍をしっかり支えるんだぞ。」

「セイラ?」

 

なんで対して喋ったこともないのに主人公は呼び捨てオッケーなのかな。そこそこ位の高い生まれだからね俺。別にいいけど。行けと馬を叩いて走らせると、李牧はもう目の前だった。

 

「いやぁ、貴方のような軍師がいるとは驚きですよ。どこまで先が見えてるんですか?」

「見えてるも何もさ、俺は知ってるんだよ。未来を。」

 

剣を振られて、重みに馬がふらついた。思ったよりも戦えると思った。騰や王騎将軍とばかり戦っていたから自分の実力がわかっていなかったけれど確かに俺は強くなっていたのかもしれない。李牧相手に戦える気がするのだ。

 

でも、根本的に無傷の李牧と割とボロボロの俺だとハンデが随分あるんだ。片腕折れてるんですよ。肋骨も折れてるし。呼吸苦しいし。

 

「カイネッ!王騎を追いなさ」

「いかせるかよ。」

 

二人相手とかまじキャパオーバー。

 

「今の状態の貴方に私たち二人を止める余裕はないと思いますが。」

「でも行かせるわけにはいかないでしょ。ここまでボロボロになって王騎将軍逃したんだ。敵兵は一人も通さない。」

 

まぁ一人もなんて無理なんだけど。デカいこと言わなきゃ今はやってらんない。

 

 

 

戦って。戦って戦って戦って戦って。血まみれになって、李牧と撃ち合いをしてどれほどたったか。俺を通り過ぎて先へ行こうとする兵までも相手してたから隙だらけで大分攻撃を受けた。たぶん心臓にとどいたりしてる。

 

誰にも看取られないで死ぬパターンか。だって俺の兵誰も生きてねぇんだもんさ。李牧に致命傷与えられてねぇしさ。

 

「くっそ死にたくねぇ。」

「ここに来てたわ言を。貴方のおかげで私たちは大敗だ。せめて貴方の首くらいは持って行かせてもらいますよ。」

 

首持っていかれるとか、辱め受けるパターンじゃん。一番最悪なやつ。でもこれもう決定だな。死んだら何がなんだがわかんないだろうし、どうでもいいって思うことにするか。てかちゃんと今回は未来変えられたのかな。あの後誰かが追って王騎将軍突き刺したりしてねーよね?

 

ここまで命はって王騎将軍の無事も確認できないまま死ぬのか。うまくいかねぇなぁ。剣を受け止めながら、意識が遠のくのを感じた。

 

 

「バカたれがッ……、貴様何をしている、」

 

 

意外にもよく知る声で、少ない命の灯火が息を少しだけふきかえした。馬の上に座ってるのがやっとだった俺を抱えて、戦から逃げるなんて絶対にしないようなことし始めて、死ぬなと叫ばれた。

 

「うわっ、蒙武血だらけじゃん、ウケる、」

「お前の方が血まみれだ。」

「嫌だって俺片腕ないもんね?李牧追ってきてないの?」

「追ってきている。だがこの森を抜ければ秦国だ。問題はない。」

 

案外冷静な蒙武になんか悲しくなって。

 

「死んだら泣いてね。」

 

そんなことを言ってしまった。

 

「っ……、ふざけるな貴様、死ぬなんて、」

「嫌だって死ぬよね。普通に。この傷。出血多量で今すぐ意識ぶっ飛びそうだもんね?王騎将軍無事かな、助けられたかな、俺結構頑張ったと思うんだけどな。」

 

死ぬ前だと思うと妙に饒舌で、そもそも必死に蒙武は俺をどこに連れてこうとしているのか。考えようとしても頭が働かないのでやめにした。

 

「3人で6大将軍を超えると言っただろ。」

「それはお前が勝手に言ったんじゃん……?まぁとりあえず、将軍にはなったし任務達成じゃね?」

「そんなわけあるかっ……!将軍なんてなって当たり前だ!!お前目を閉じるな、昌平君を呼ぶように兵に言った、桓騎もじきに来る、せめて顔くらい、」

「いや、マジでもたないわ……はは、ごめん、戦場で死ぬのに蒙武に看取ってもらえただけで俺的には十分だよ。」

 

 

いやほんとに、俺王騎将軍みたく何かを後の世代に伝えて死ぬとか、そういう偉大なことする余裕は死ぬ間際にあるタイプじゃないんだよ。痛みに耐えながら話すのもまじで無理。蒙武に会えたし、らしくなく泣いてくれてるし、いいよ。なんかもういいよ。

 

十分だわ。王騎将軍が無事かも、未来がどう変わるのかも見れなかったけど、俺十分頑張ったわ。十分満足したわ。

 

最後になんか言うならなんだろな。

 

「蒙武、」

「なんだ。」

「俺国には興味がないけどさ、一つだけ知ってることがあるんだよ。」

「そんな話今する必要はっ、」

「中華を統一するのは今の秦王嬴政様で間違いはない。」

「何を言って、」

「だから迷わずついていけばいい。そんでもって中華が統一されたら、俺もすげー将軍の一人だったって名前あげといてくれよ。」

「おい、何を」

「いや……、めちゃくそ死にたくねぇなぁ……、全然イメージの違う昌平君も良かったし、まさか蒙武と仲良くなれるとか思ってなかったし、桓騎の連れてる美人な娼婦貸してもらいたかったし、この先見たかったよ……、」

「なら見ればいいだろう。俺や昌平君と、生きれば今回の武功の一番はお前だ。お前以外にないぞ。昌平君だって喜」

「蒙武、」

「っ……、」

「お前の活躍を上で見てるよ。王騎将軍のこととか摎将軍とのこととか色々あったけど、俺にとってはお前と昌平君に会えたことが、人生の宝だったよ。天下の大将軍も中華統一も、それ以上その先もお前らの幸せを願ってるよ。」

「ならなぜ王騎のためなんかに死ぬんだ、なぜ俺や昌平君を置いていく。お前の行動は意味がわからない。王騎のために死ねるなら、俺たちのために生きろバカ者が、」

 

泣きすぎ。いいおっさんが泣きすぎ。ウケる。まじウケる。笑えないけど。涙止まんないけど。たまたま命の危機に侵されたのが王騎将軍だったんだ。蒙武や昌平君にそんな危機があったら俺は命を投げうったよ。後悔なんてないさ。

 

「死ぬとき泣いてくれる友達がいるっていいな、」

「ふざけるなっ……、」

「看取ってもらえるなんて今の時代なら幸せだ。」

「黙、れ...」

 

認めてくれない蒙武を待っていたい気持ちは山々なんだけど俺の命の灯火はだいぶ限界で、話せる言葉も尽きてくる。最後の力を振り絞って、残っている腕で蒙武の胸に拳を当てた。

 

 

 

 

「お前は生きろ。俺はお前の武運を願ってるよ。」

 

 

 

 

遠のく意識の中なんか遠くで声がするわけだ。聞き覚えのある声は、蒙武か昌平君か桓騎か王騎将軍か。みんな悲しんで泣いてるのかと思ったら、怒ってるんだよ。なんでひどくね。

 

まぁ俺がいなくても、っていうかそもそもこの漫画に俺は存在しないわけだし、なんの問題もないだろうさ。何ヶ月か経ったら悲しんだのも忘れるだろう。

 

物語に大きな影響を与えられてなかったとしても、せめて関わった皆んなには覚えていてもらえるといいなって、そんなことを考えた。

 

 

 

 

 

 

 

王騎将軍。もし俺がうまいことやれてて貴方の生きる未来があるとするなら。嬴政が中華統一を果たす時、貴方がその場に立っていることを願っています。それまでの過程で貴方が大いに活躍することを願っています。

 

 

そしてどうが16巻というか短い時間ではなく、最終巻まで貴方の勇姿俺たちファンに見せてください。

 

 

 

 

 

 

 

もしまた生まれ変わるなんて機会があるならこんな厳しい世界じゃなくて漫画で見れればいいなぁ。いやでも、蒙武や昌平君、桓騎にはもう一度会いたいかな。

 

 


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