あれは嘘だ。
すみません。まだ動きません。
当鎮守府の台所番たる、間宮さんがおっしゃることには
「今週、いえ、来週くらいまでなら何とか持たせることはできると思います。ですが、それ以降は保障できかねます。」
と、まるでどこかの帝国海軍大将のようなことをおっしゃっていました。
また、提督が本部に問い合わせたところによれば、
「今回は新規艦娘が訓練航海を兼ねた任務中に潜水艦に襲われたらしい。まぁ、輸送船自体は無事だったみたいだから来週は来るんじゃないの?」
と暢気に構えていました。
しかし、この人はこの人で何を考えているかわからない人ですので、なにか別の情報をつかんでいる可能性もありますが・・・。
間宮さんとの協議の結果、当座は緘口令を敷くことと、一部大食艦娘をけん制することで様子を見ることに決定しました。
この時、私はある艦娘の存在を忘れていました。
そう、青葉です。
鎮守府のトラブルメーカーの一角を担う彼女は、
彼女は私が早朝、急いで提督執務室に向かう姿を目撃し、跡をつけてきたようでした。
「人の口に戸は立てられぬ」とはよくいったものです。
彼女が無断で入手した情報は直ちに鎮守府のLANを通じて、あっというまに拡散しました。
この後、提督に訓告と1か月の減給処分が言い渡されていましたが、すでに後の祭りでした。
ただ、提督との面談直後の青葉の表情は忘れられません。
司令部地下の尋問室から出てきた彼女は憔悴しきっており、いつもの快活な表情は消え、うつろな目をして出てきました。
そういえば、いつか整備班長の朝日が何か言っていたような…
話がそれました。
その日の昼の緊急集会で事の顛末が提督から説明がなされ、また次のような布告がなされました。
一つ、食料資源節約のため、過度なお代わりの禁止(「特に赤城。何そんな恨めしい顔してんの。そんな顔しても何も出ないって、ホントにないんだから」と提督と赤城さんの間で一触即発になりましたが…)
一つ、酒保からの嗜好品供給を制限する。(この勧告に一部酒飲み勢から怒号が上がったことは言うまでもありません)
各所で不満はあったものの、事態が事態のためしぶしぶ受け入れる形で一応はこの形でこの週は運用を開始しました。
この週に関してはもともとの食糧備蓄と間宮さんの名采配、そして一部有志艦娘による赤城さんの制御が幸いし、被害を最小限に抑えることに成功しました。
しかし、本当の悪夢はここから始まるのでした。
あけて、次の定期便入港の日が来ました。
さすがに二週連続で物資が届かないということはないでしょう。
そう考えていた私たちがおろかでした。
私はいつものように提督執務室へ行く前に複写機室へ今日届いた電信を確認しに行きました。
室内に置かれた一台の複合機に一通の電信が届いていました。
私はこの時、唐突に既視感を覚えたのです。
なにか、先週も同じようなことがあったような…
私は恐る恐る電信を表に向けました。
そこにはこう書かれていました。
『発 日本海上防衛軍司令部
至 硫黄島鎮守府並司令部
本日未明、横須賀鎮守府発硫黄島鎮守府行定期便ガ深海棲艦二強襲サレリ
当週ノ物資輸送ハ不可能、貴鎮守府二於イテハ次回定期便マデノ善処ヲ期待スル』
…
私は夢ではないかと思い、文章を読み直しましたが内容に変わりはありませんでした。
「ア”ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
おそらく、生まれて初めてこのような醜い悲鳴を上げたと思います。
次回、『南西諸島沖の死闘、前編』