式部茉優と一緒にてるてる坊主をつくったりつくらなかったりします。
暁と付き合いはじめてから茉優先輩がもう1度留年して3年生をやるif世界のお話です。ド健全。


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式部茉優が好きです。


式部茉優とてるてる坊主をつくったりつくらなかったりする話。

 

「てるてる坊主。」

 

「...はい?」

 

それは突然のことだった。

 

「暁くん、てるてる坊主つくらない?いや、つくろう、否、つくるぞ。」

 

 

俺、在原暁は事情に事情を重ねた上でこの橘花学院に潜入している、有り体にいえばスパイだ。しかしそのスパイ行為もほぼ片付き、普通の学生生活を送ること早3ヶ月がたった頃だった。

今は5月。俺は3年生へと進級した。俺の彼女である式部茉優先輩もまた、3年生になった。

あの事件が全て片付いた時、茉優先輩はこう言った。

 

「もう1年、この学院で生活したい。」

 

俺は反対した。茉優先輩のことだ、きっと俺と一緒にいたい一心だったのだろう。

これからの未来のこともある。今は焦る必要は無いから、先に卒業して待っててくれないか。

俺はそう言い、茉優先輩も納得してくれた。...はずだったのだが。

 

 

 

「茉優先輩、茉優先輩!!」

 

その日、俺は朝から茉優先輩の部屋のドアを叩いていた。

 

「茉優先輩起きてください!さすがに今日遅刻はマズいですって!茉優先輩!!」

 

この日、そう、紛うことなきこの日は、茉優先輩たち3年生の卒業式だった。茉優先輩の学生生活最後の日だ。お互い忙しくて最近は一緒に登校する機会が無かったものの、この日くらいは一緒に登校しよう。そう約束していたのだが...。

肝心の茉優先輩が一向に起きてこない。いつも忙しい茉優先輩のことだ。大抵の場合なら、ここでこんなに焦ったりはせず、諦めて1人で学院に向かうのだが...。流石に今日という今日は事情が違う。卒業式だ。卒業式だぞ?卒業式に遅刻なんてしてみろ。怒られるだけでは済まされない。一生の恥だ。恋人が、未来のパートナーが、一生同級生の笑いものにされるのを黙って見過ごす訳にもいかない。

そんな訳で、俺は朝から女子フロアに出向き、周りの部屋の女子生徒たちに白い目で見られながらも必死に大声で叫んでいるというわけだ。

 

「茉優先輩!茉優先輩...!!ああ、くそっ」

 

こうなったらドアを無理やり...、、いや、それじゃ茉優先輩に迷惑をかけるどころの騒ぎではなくなる。最悪停学なんてことも有り得る。そうなると、親父に合わせる顔が無い...。俺は先輩を呼び続けることしか出来ないのだ。

自分の無力さにうんざりしながらも、俺は必死に呼び続けた。

 

「茉優先輩、茉優先輩!茉優、」

 

と、その時だった。

ガチャ

そう音がし、寝ぼけ眼の茉優先輩が俺の前に現れた。

 

「ん...暁くん、おはよぉ...。」

 

「茉優先輩、起きましたか!ほら、着替えますよ!今日は遅刻出来ないんですから!ああ、良かった...!!」

 

目を擦りながら出てきた茉優先輩に、俺はほっと胸を撫で下ろした。俺は着替えを手伝おうと、先輩の部屋のドアに手をかけた、その時だった。

 

「アタシ、卒業式出ないから。」

 

「...は?」

 

「アタシ卒業しない。だから今日は自主休校なの。じゃあ、おやす」

 

「ちょっと待て?!」

 

うん?、と俺を見上げる茉優先輩は、さっきの寝ぼけた顔とは違い、真面目な顔でそう言った。

...可愛いな。いや、違う、今はそうじゃない。

 

「卒業式出ないって、どういうことですか?!だって茉優先輩、今日卒業するんでしょう?!」

 

先輩の言うことの訳が分からない俺は、必死にそう尋ねた。

 

「ううん。だからアタシ、卒業しない。もう1回3年生やるの。」

 

だ、か、ら。と、そう付け加えて

 

「暁クン、来年度から同級生として、よろしくネ☆」

 

そう言ってパタンとドアを閉め、そこには呆然と先輩の部屋の前に立ち尽くす俺だけが残された。

 

 

そして今に至る。

 

「今日も雨。昨日も雨。雨雨雨!明日は?明日こそ晴れるよね?!」

 

バシバシと窓を叩きながら、外を降り注ぐ雨に向かって叫ぶ茉優先輩。

 

「茉優先輩落ち着いてくださいよ。」

 

そんなに叩かれると、俺の部屋の窓が壊れてしまう...。

そんな心配をする俺を、なんで?と言わんばかりに睨み、窓際から俺の方に向かってくる茉優先輩。

 

「だって、体育祭だよ?体育祭と言えば学生の定番行事!恋人同士がお互いのいいところを見せ合う、The リア充イベント!!お姉さん張り切っちゃうよ?!」

 

「いや、そうじゃなくて。」

 

怒りながらキラキラ張り切る茉優先輩を尻目に、俺は言った。

 

「茉優先輩今までそんな行事ほとんど出なかったんですよね?なのに今年急になんて...」

 

「だってぇ〜」

 

そう言い、さっきまでの怒り顔はどこ行ったのか、大人しくポスンと俺の腰掛けていたベッドの隣に座ると

 

「今年は大好きなカレシがいるんだから、アタシもかっこいいとこ見せたいなぁ〜なんて...」

 

そう、5月といえば、体育祭の季節。

3回目の3年生を迎えた茉優先輩は、どうやら今年は妙に張り切ってる(三司さん談)らしく、しばらく前から当日の天気ばかりを気にしていた。しかし、ここ最近は雨、雨、雨。もう4日も連続で雨模様だった。

 

「別に、体育祭で張り切らなくたって俺が茉優先輩を好きなのは変わりませんよ。」

 

隣に座る恋人を愛おしく見つめながら俺はそう言う。

 

「でもぉ〜〜」

 

頬をハムスターのようにぷくーっと膨らませた茉優先輩は、そのまま俺の膝に頭を預けてくる。

 

「せっかくなら、少しでもいいとこ、暁くんに見せたくて......」

 

そう言い俺を見上げる茉優先輩は、ほんの少しだけ赤かった。

 

「茉優先輩...」

 

可愛いな。いや、可愛いな。それにしても可愛いな。なんだ?もしかして俺は、世界で1番可愛い女性を恋人にしてしまったのか?そうか、それなら納得ができる。この可愛いさも声も体も全てが愛おしく想えるのは、茉優先輩があまりに魅力的過ぎ

 

「分かった!」

 

茉優先輩が急に体を持ち上げた。その拍子に、前屈みになっていた俺の額と茉優先輩の額が鈍い音を立ててぶつかったが、茉優先輩はそんなことをちっとも気にしないでこう言い放ったのだ。

 

「てるてる坊主。」

 

「...はい?」

 

「暁くん、てるてる坊主つくらない?いや、つくろう、否、つくるぞ。」

 

いや、茉優先輩、口調が。

 

「てるてる坊主つくれば、明日は晴れるよ!ね、つくろ!暁くん!」

 

そう、ちょっと涙目で俺に笑いかける先輩は、やっぱり可愛い、俺の自慢の彼女だ。

 

「...やっぱちょっと痛かったんですね。」

 

「...ウン。」

 

 

「ねぇ暁くん、今何個目?」

 

「今6個目です。」

 

外では雨が降り続く中、俺たちは2人でてるてる坊主作りに勤しんでいた。

 

「え〜、遅いなぁ〜!お姉さん今9個目〜!」

 

ほら見て〜!と俺に自慢げに作ったばかりのてるてる坊主を見せびらかす茉優先輩。

暁くん遅いなぁ!お姉さんのすごさ分かっちゃうね!ふふ!

...可愛いと思いつつも、不器用な自分をちょっと恨めしく思った。しかし、そんな風に言われてしまうとなんだか負けた気になり

 

「へぇ、そういうことなら...」

 

俺は、ほんの少しだけアストラル能力を使った。脳の処理速度を上げ、全ての作業を1番効率良く、かつ早く行った。

 

「なっ、能力使うのはズルだよ?!」

 

「能力使っちゃダメなんて、俺聞いてませんよ?」

 

悔しがる茉優先輩に少しだけ笑いかけ、俺は今作ったばかりのてるてる坊主を差し出した。

 

「はい、25個目。」

 

ぐぬぅ〜〜〜!とでも言いたげに目を釣り上がらせる茉優先輩。

うーん、可愛い。...いや、今はそうじゃない。

 

「...それなら、私にも考えがあるよ。」

 

茉優先輩は悔しそうな顔から、一気に得意げな顔になる。

 

「?」

 

よく分からないまま作業を進めようとした、のだが。

 

「?!」

 

手が、動かない。いや、手だけじゃない。足、首、体の全てが1ミリたりとも動かなかった。

 

「暁くんが能力の使用で作業を早めるなら、私はその暁くんを固定して、作業をさせない。」

 

ふふ、考えたでしょう。そう思っているのが顔だけで分かるほど、彼女は口角を上げていた。幸い、口は動くようなので

 

「...まぁ茉優先輩がいかに俺を止めようとも、限界がありますからね。その限界が来て俺が動けるようになったら、その時はまたすぐに追い越しますから。」

 

得意げな顔をしていた茉優先輩は俺の言葉を聞くなり、また頬を膨らませ

 

「じゃあその間にアタシの方がいーっぱいつくるもん!」

 

そう言い、作業を再開させたのだが。

 

「...コレ、めっちゃ集中力使う。」

 

「...はい?」

 

「能力使いながら手先動かすの、キツイ.........」

 

そう言い、そのまま後ろ側のベッドに倒れ込んだ。

 

「ちょ、茉優先輩、早くないですか?俺よりもいっぱい作るんでしょう?」

 

「う〜〜〜〜〜」

 

仕方ない、と言いながら、再び作業を再開させる茉優先輩。

 

「別に、そんなムキにならなくたっていいじゃないですか。勝負してる訳でもないんですから。」

 

「そぉだけどぉ〜...。」

 

きっと年上なりに、なにか負けられないものがあるのだろう。そんな先輩の気持ちを汲み取って

 

「じゃあ、どっちかより多く作れた方が少なかった方に、なんでも言うこと聞かせられるってのはどうですか?」

 

「え?」

 

ちまちま作業をしていた茉優先輩が、俺を見た。

 

「勝負じゃないなら、勝負にしちゃえばいいですよ。」

 

それなら茉優先輩のやる気も上がるし、俺もまぁ、頑張れる。

 

「...それいいね!それならアタシ頑張る!!」

 

一気に目をキラキラさせ、作業に戻った茉優先輩だったが...。俺は気付いてしまった。

先輩のアストラル能力が切れている。

きっと、手先の作業に集中するあまりに能力の方にかける意識が無くなったのだろう。なので俺は晴れて自由の身になったのだが...。

 

「ふふ、お姉さんのすごいところ見せてあげるんだから!それで、暁くんには〜〜...、ふへへ、」

 

なんて張り切ってる茉優先輩の前では、大人しく能力にかけられているフリをするしかなかったのだった。

 

 

...結局その後、俺のつくった25個のてるてる坊主と、先輩の作り上げた50個のてるてる坊主。総勢75個のてるてる坊主は、俺だけの部屋には到底飾りきれなくて、七海や三司さんにおすそ分けする形になったのだが...。その時七海に

 

「なにコレーー?!暁くん、こんなにてるてる坊主つくってどうするつもりだったの?!これじゃあ晴れを通り越して猛暑になっちゃうよ!!!」

 

と怒られたり、二条院さんに

 

「在原くん...、物には限度というものがあるだろう?」

 

なんて小言を言われたりしたのは言うまでもなかったのだが...。

でも、おすそ分けの帰り道、ふたりきりで歩く廊下の途中で

 

「暁くん、これなら明日は晴れだよね!明日楽しみだなぁ。お姉さんの活躍、いーーっぱい見せてあげるからね!」

 

なんて言いながら楽しそうにする茉優先輩を見たら、そんなこと全て、どうでも良くなってしまったのだ。

 

(俺は、この笑顔が見たかったのかもしれないな。)

 

なんてそんなことを考えながら、横を歩く大好きな彼女の横顔に、またもう1度惚れ直した。

 

 

...ちなみに、次の日の体育祭当日は75個のてるてる坊主のおかげもあってか快晴。茉優先輩も俺もお互いの活躍を見せ合い、とてもいい思い出になったのだが...。

 

「じゃあ暁くん、きのうの約束、覚えてるよねっ?」

 

体育祭の後。予定の全てが終わり、2人で寮へ戻った時に茉優先輩はそう言ってきた。

 

「約束って...、なにかしてましたっけ?」

 

「え〜、暁くん忘れちゃったの?相手より多くてるてる坊主作った方が、少ない方に言うこと聞かせられるって。」

 

あ。完全に忘れてた。まぁでも、茉優先輩のことだ。別に変なことは言ってこないだろう。

 

「...まぁ、勝負は勝負ですしね。それで、なにがお望みで?」

 

「そ、れ、は、モチロン...」

 

茉優先輩は俺の耳に口を近づけ...

 

「〜〜〜...♡」

 

「...はぁ、分かりました。良いですよ。」

 

「やったぁ!じゃあ、夜、部屋で待ってるねっ」

 

そう言って、茉優先輩は部屋へと戻ってしまった。

 

...ふたりの体育祭は、あとしばらくは終わりそうになかったのだった。

 

 

おわり。




式部茉優が好きです!!!!


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