Fate/reselect 作:Fate/reselect出張所
月下。
鏡宮邸へと独り、迷いなく駆ける英霊がいた。
英霊――アサシンは鏡宮邸へ伸びる一本の舗装道を、ただ走る。
マスターより与えられた命令は、鏡宮邸を守るアーチャーの真名を暴くこと。
そして、その中で真名を暴かれた自分自身を処分すること。
「………」
アサシンは、とうに覚悟をし終えていた。マスターであるアレクシアに利用されることも、自分がここで死ぬことも。
故に、空からの奇襲にも一瞬の動揺さえなかった。アサシンは走る方向を鋭角に変え、上空より飛来した一本の矢を充分な余裕を持って躱す。
しかし、背後へと飛び抜けた矢が道路に当たるや否や、アスファルトを弛め、砕き割るほどの威力を持つことは、アサシンにとっても予想外であった。
アサシンは驚きながらも、振り返ることなくその破壊力を片目で凝視した。高速で飛ぶ矢に、尋常でない魔力が纏われていたのは分かっていた。しかし、それにしたって地面を穿つ大穴を開けるとは……。
「そこまでだ、日陰者」
前方より、透き通るような声。そして暗闇のベールを剥いでいくように、ゆっくりと若い青年が浮き出てきた。
青年は引き締まった体を黒い衣装で包み、その上に漢服を片肌脱ぎに着崩していた。艶のある長い黒髪は後方に撫で付けられている。
そして印象的なのは、不遜をそのまま顔に貼り付けたような笑みと、手にした赤い弓……間違いない、アーチャーだ。
青年――アーチャーは街路樹の枝の上に立ち、こちらを見下ろしている。
「気配を消せるか……」
「気配を殺すのは、貴様ら暗殺者の専売特許じゃあない。お前のような気配の投影はできずとも、これ程度はな……」
アサシンの呟きに、アーチャーは馬鹿にするように笑みをたたえる。
「だがそれも、タネは割れている。アサシン……真名、カルキノス。ヘラクレスに踏み潰され星座となった、化け蟹さん」
「………」
アーチャーの言葉に、アサシンは大きな反応は示さない。いや、フードの中に潜む彼には、人間的な表情などそもそもないのだ。
カルキノス――蟹座と表現して良いのならば、世界で最も有名な蟹と言えるだろう。
彼はギリシャ神話にて有名なヒュドラ殺しの伝説、怪物ヒュドラと戦うヘラクレスとその甥イオラオスに忍び寄り、ヘラクレスに踏み潰されたという。彼はヒュドラの友人であるとも女神ヘラの使わされた暗殺者だとも伝えられるが、いずれにせよその勇敢さを讃えられ、女神へラによって天に昇り星座になったのだ。
人ならざる、勇敢なる刺客。それがアサシンの正体である。そして正体が割れてしまえば、その奇異な姿やスキルの背景、弱点だって見えてくる。
「さて……それで、実際どうなんだ?」
アーチャーは自身が絶対優位、余裕たっぷりだと言った様子で、アサシンに聞いた。
「お前は俺の足でも、容易に踏み潰されてくれるのか?」
その言葉を最後まで聞き遂げたか否か、アサシンは突如道路から外れ、脇に広がる畑へと飛び移った。そして躊躇する様子もなく、畑の向こうにある里山へと駆け行く。
「蟹風情が……俺が獲物を逃がすと思うかッ!」
アーチャーはそう叫ぶと街路樹から飛び跳ね、アサシンの背を追う。
畑を疾走する二人。その走法はまるで違うが、その速度はほぼ互角であった。
それで良い。と、アレクシアは頷いた。
始まったサーヴァント同士の戦いより遥か遠くで、アレクシアはアサシンとのラインによってこれらの様子を知覚していた。そうしてアーチャーの一挙動を逃すことなく、そして舐めるように観察している。
真名が暴かれたアサシンが、真っ向から三騎士と称されるアーチャークラスに勝てるとは思ってない。しかし、逃げに徹せれば時間は稼げよう。
最終的にアサシンが死のうとも、この特攻でアーチャーの真名が引き出せれば良い。あのアサシンだって、それを了承している。
昨夜、アレクシアはアサシンに対し、令呪で以ってこの特攻を強制しようとした。しかし、それに対しアサシンはこう告げた。
マスター、私は令呪で操られずともサーヴァントとして使命を果たそう。と、そう言ったのだ。
アレクシアはそれを、時間稼ぎの戯言と最初は疑ったが、すでに復讐を終え未練はない、そう言い切るアサシンを柄にもなく信じることにしたのだ。
そして、ならば……と、アレクシアはアサシンにこう命じた。
「令呪でなく、復讐の対価で以って我がサーヴァントに命ずる。お前の全てを捧げ、アーチャーの真名を暴け」
アレクシアは項垂れ、改めて彼に伝えた言葉を口にする。そして、触れば切れるような笑みを赤髪の切れ間から覗かせた。
湿って腐りつつある落ち葉を蹴って、アサシンは木々の合間を素早く走る。
背後にアーチャーの姿はない。しかし、アサシンは彼が未だ自分を捕捉しているのを理解している。姿は見せずに、あの強力な矢を放つ機会を窺っているのだろう。
夏とは打って変わって、冬の野山は静寂に包まれる。枯れ葉が落ちる音にさえ意識をやって、アサシンは走りながらアーチャーを知覚しようとする。
だから、足元にいた無音の狩人に気づけなかった。
不意に、アサシンの脚が宙へ跳ね上がる。天地が逆転し、そのまま上空へと吊り上がっていく。
括り罠だ。この野山にある自然物のみで作った為に、匂いで気づくこともできなかった。
アサシンは脚を括った縄に纏わりつくと、鋏で縄を素早く切断する。次いで宙に舞い上がった体を器用に蠢かして体勢を整え、アサシンは地面に軽やかに着地した。
そして着地した直後、アサシンは横に滑るように駆ける。そうしてアーチャーによる、上空からの踏みつけを躱した。
アサシンは鋏を振ってアーチャーを牽制し、距離を取る。その様子に対し、アーチャーは余裕の表情でアサシンが退くのを見送っていた。
アサシンは数歩下がりながらしかし、次の一手をどう指すべきか考えていた。
追いやられたような感覚はなかった、獣道などの歩きやすいルートを使っていた訳でもない。なのに、事実として括り罠に引っ掛かった己がいる。
山は危険か。と、アサシンは決断すると、マントを翻して今度は山を一直線に駆け降りた。その選択に、背後のアーチャーは楽しげに笑う。
青い草花のない冬の山の地面は、夏以上に滑りやすくなってしまう。しかし、その程度のことはアサシンとアーチャーにとって、何の問題にもならない。
マントを頭から被ったアサシンは、端から見れば液体と見間違うほどに柔らかく体を動かし、斜面や崖に脚を離すことなく山を下っていく。
対するアーチャーは木々や崖を飛び移って、ほとんど地面に足を付けないままアクロバティックにアサシンを追っていた。
「………」
何者……否、想像し得るのは、何者とだ。と、アサシンは走りながら、これまでのアーチャーの一挙一動より、真名に繋がる情報を戦いながら割り出していく。この男は、これまで何者と戦ってきたのか。
思えばあの娘――ランサーは、己の動きにやり辛さを隠し切れていなかった。如何に槍の名手とて、武術とは詰まるところ対人用、人間の身のこなしに対して備えられた技術なのだ。
しかし、この男――アーチャーは、己の動きに手慣れたような雰囲気さえある。獣を向き合う狩人だからか、それとも己のような怪物と戦った経験があるのか。
いずれにしても、この男の動き。
自分より遥かに強大なものと戦ってきた、あのイオラオスに似る。
そこが、気に入らない。
「捉えたぞ」
その時だ。アサシンのそばで、アーチャーが呟く。
アーチャーはアサシンを追い越した。そして上下で擦れ違う瞬間、アーチャーは振り返り際にそう言って、腰の矢筒から白い矢を引き抜く。
アサシンはその様子を凝視したまま地面を数度蹴り、勢い付いていた体に段階的にブレーキを駆けていく。アーチャーは斜面に対し平行となる軌道で滑空しながら、矢を弓に鋭い速度で引き絞り、そして解き放った。
途端、矢は光線じみたエネルギーの塊となって林の合間を飛び抜ける。アサシンは真横に身を投げ出し、辛くもそれを避けることには成功した。だが、英霊を殺さんと飛んだ矢は木々に進行を阻まれることなく、野山の斜面を舐めるような軌道で木々を砕き割っていった。
アサシンは身を起こしながら、その冗談のような矢の破壊力を一瞥する。山を削るその威力は、弓の張力では説明がつかない。アーチャーの弓は、明らかに宝具だ。それも、破格の神秘を纏っている。
アーチャーは着地の衝撃を受け身で殺し、上にいるアサシンを見つめて立ち上がる。それからゆっくりとまた矢を一本、矢筒から引き抜いていった。
しかし、ふとアーチャーの挙動が止まる。
気づいたか。アサシンは低い姿勢を維持したまま、自分の後方から迫る脅威に備えていた。背後ではすでに、雨が降っているかのような音がしている。
アーチャーが先ほど放った矢の一撃は、山の表面を破壊したまま上へと駆け昇っていった。それによって起こってしまった。土壌の崩壊と多数の流木……それらは一体となり、土砂崩れとなって勢い良く山から落ち始めた。
そして今、ここまで到達した。アサシンはタイミングを見計らって宙へと飛び跳ね、寸でのタイミングで土砂に呑まれるのを拒絶した。それをアーチャーは狙い撃とうと弓を引くが、上から流れ落ちる土砂を見て舌打ち、木々へと飛び移った。
そうこうしているうちに、土砂はあっと言う間に二人がいた場所を呑み込み、砂煙を巻き上げながら山を下っていく。
流石にマズいか。と、アーチャーは被害の大きさに口端を曲げた。
白矢の一撃によって引き起こされた、土砂崩れ。これは流石に、放置して良いものではないだろう。
アーチャーは流木から流木へ跳び、飛び石を伝うように流れ落ちる土砂の先端へと移動する。そうして土砂の先端を飛び越え、グルンと体を縦に半回転させて土砂の状態を確認する。
アーチャーは天地が逆さまになった視界に、流木の上に乗ったアサシンを見つけた。しかしアーチャーは取り合わず土砂の前、麓の畑に着地し、弓を引き絞っていく。
狙うは土砂に紛れたアサシン、ではない。その土砂の先端。角度は、土砂の進む方向と真反対になるのが理想だ。
そして矢の威力は土砂の質量より、遥かに上の方が良い。アーチャーは口端に犬歯を覗かせながら、降り注いでくる土砂に矢を放った。
神秘を纏って解き放たれた白矢は、閃光を放ちながら土砂を貫く。そして土砂の頭を、凄まじい魔力でもって爆散させた。爆発の勢いは土砂が流れ落ちる勢いを殺し、そればかりか土塊や流木を後方へと巻き上げ雨のように山に降らせた。
その光景を目にした者は、麓へと迫る土砂が一瞬閃光として瞬いた巨人の手で押し返されたようにも見えただろう。それは神話のように神秘的で、人智を超えた情景であった。
よく耕された畑に、さざ波のように広がっていく僅かな土砂。その真ん中で、アーチャーはゆっくりと矢筒から矢を抜いた。残っている矢は、手にしたものも含め、六本だ。
「………ッ!?」
その気配は突如、真正面から弾丸のような速度で迫ってきた。
土煙に紛れ、一気に勝負を決める気か。と、アーチャーは身構え、土煙舞う正面に鏃を合わせた。
しかしアサシンは、そうして身構えたアーチャーの真横の畝から飛び出てきた。
気配を別所に投影させるスキル――気配操作。アサシン唯一の、そして最大の
アサシンは地面から飛び出ながらマントから鋏を晒し、フックのように振るう。狙うは弓の構えによって空いた左ワキ、すなわち心臓だ。
アーチャーは一瞬驚きはしたものの、その顔は羞恥と怒りへと即座に変貌する。そしてアサシンの攻撃を屈んで躱し、続く振り下ろすような鋏の攻撃も側宙で躱していく。
アサシンはこの機を逃さない。猫のような軽やかさで攻撃を避けていくアーチャーを、彼の影であるかのように追いすがる。
「貴様っ……しつこいぞ!」
アーチャーは苛立ったように叫ぶ。彼はアサシンの攻撃を躱しながら、足の甲に土壌を引っ掛け、すくい上げるようにして土塊をアサシンの顔面へと蹴りつけた。
アサシンはそれを鋏の甲で受け止めたが、その隙をつきアーチャーは動き回っていた体の勢いを殺すことなく回転させる。そして一回転しきる頃には、すでに矢は弦につがえられていた。
アーチャーは流れるような挙動で、早撃ちに矢を地面へ打ち込む。僅かに引き絞られただけの弓であっても、繰り出された矢の一撃は畑の土壌を吹き飛ばすには充分な威力を備えていた。
禄に狙いも定められずに放たれた矢によって、二人は爆風によって隔てられる。アーチャーはアサシンが巻き上がる土壌に飲み込まれたのを確認するや否や、踵を返して歩道の方へと駆け出す。
ここではダメだ。そう、アーチャーは判断した。こんな柔らかい土の上では、あのアサシンの方が有利だ。必要なのはアサシンを見失わない開けた空間と、堅い地面。
すなわち、ここだ。と、アーチャーはアスファルトにて舗装された道路の上で立ち止まり、振り返った。ここなら、地の利はこちらにあるはずだ。
見れば、すでに先ほどいた場所の粉塵は収まりつつある。アサシンの姿は見られないが、先ほどの一撃で死んだとも思えない。アーチャーは僅かに体を弛め、獣じみた臨戦態勢に入る。先立って弓を引くような愚行は、もう起こす気はなかった。
しかし、しばらく身構えてはいるものの、アサシンは一向に襲ってはこない。
何か、企みがあるのか。などという疑念がアーチャーの頭に浮かぶ。そんな時だ、この戦闘を後方の屋敷で見守っていた鏡宮が、念話で話しかけてきた。
“……アーチャー、すぐに屋敷に戻れ”
“止めるな鏡宮ッ! 奴はここで始末する!”
噛みつくような返答に、鏡宮は溜息を念話にのせてこう続けた。
“そのアサシンが、こちらの方に来ている。マスターの私を殺すのに、狙いを変えたようだ”
その言葉に、アーチャーの顔は一瞬呆然としたものとなった。
相手にされなかった。
また騙された。
コケにされた。
その事実は、これまで敵に触れさせることさえ許さなかった、アーチャー肉体……その奥底にあるもの。
アーチャーという男の、プライドに深く食い込んだ。
「………ッ!」
アーチャーは顔に青筋を立てながら、突風のような速度で屋敷へと駆け出す。
リミッターを振り切った怒りの感情。それは叫ぶでもなく、アサシンを追うという行動によって立ちどころに示された。
アサシンは助走もなく塀を飛び越え、鏡宮邸へと足を踏み入れた。
目的は無論、アーチャーのマスターの暗殺……に見せかけた、揺さぶりだ。あのアーチャーの真名を暴くのがアサシンの使命だが、やり方はあの青年と戦うだけじゃあないはずだ。
しかし、思ったよりも簡単に忍び込めてしまった。と、アサシンは呆気なさに溜息をこぼした。魔術師、それもこの聖杯戦争の主催者の邸宅、工房だ。侵入を知らせる装置なり、あるものだと思っていたが……いや、やはりその辺りも含めての罠なのだろう。
アサシンは改めて周囲を見回す。鉄柵で作られた門と古い洋館の間には庭園、庭園の中央には澄んだ円形の池がある。洋館や舗道の作りは西洋風で、洋館の基礎は庭園より高い。それに洋館の横にあるのは、温室だろうか。
特別気になる装飾はなさそうだ。と、アサシンはそう判断した。そして思った以上に、隠れられそうな所がある。
しかし何にせよ、すぐに怒りに顔を歪めたアーチャーが来る。どこに潜んでいるとも知れぬマスターの命を取る時間はなかろう。であればより良い位置をと、塀の影から庭にあった花壇の方へと移動する。
そして、アーチャーが花壇に群生したミントの中へと身を潜ませようとした時だ。庭園の中心にあった池の水が、耳障りな高音を立てて蠢いた。池の水は一本の柱として宙へ上り、それから柱の上に巨大な球体をかたどっていく。
「………ッ」
それが何をしてくるか、見守る余地もない。アサシンが体を沈めて駆け出したとほぼ同時、球体となった水は虹色に輝き、何発もの光弾を撃ち込んできた。
アサシンはそれを難なく避け、草花の陰に飛び込む。そして気配を庭の幾つかに投影し、自身も姿を晒さぬよう注意しながら、それでも素早く移動する。
しかし、水の球体による光弾は数秒の停止の後、また正確にアサシン本体へ光弾をバラ撒いていく。
なぜ正確に捕捉できているのか。疑問に感じながらも、それでもアサシンは光弾を躱していき、庭園内を疾走する。
アサシンには知る由もないことだが、鏡宮はアサシンの姿を捉えて光弾を撃っている訳ではない。
彼はただ、アサシンが数秒先にいるであろう位置を予知し、光弾を撃っているに過ぎないのだ。
鏡宮悟。彼の魔術の本質は、未来視にある。占いという形態によって行われるそれは、事前情報があるほど、そしてより近い未来であるほどに高い精度で予知できる。
彼は自室でタバコを燻らせながら、水晶の中にある光景を元にアサシンを相手取っている。だからこそ、アサシンの気配に彼は惑わされない。
厄介だな。と、アサシンは彼の防衛魔術の突破は困難と理解した。そしてここから離れようと、庭園の端へと走る。
だが、アサシンが塀の手前に到着した途端、周囲の石畳、埋め込まれた石材が点々と、眩い光を放ちだした。
見れば、光っている石材はいずれも主に埋め込まれている自然石とは違うものだ。アクセントと思われたが、どうやら魔術的に意味のあるものだったようだ。
特別な模様がある訳でもない為、油断していた。アサシンが逃げ場を求めて上空へと跳躍した直後、石材の光は方向性を得て、サーチライトのように光線を投射し、不規則に動かし始めた。
アサシンはライトに照らされるのを避けるべく、洋館の屋根に飛び乗り上へと駆け上がる。鏡宮邸は、今や脱獄囚が出た刑務所のような物々しい雰囲気となっていた。
アサシンは洋館の一番上に上がり、飛来した光弾を逃れて跳んだ。月夜にそのマント姿を踊らせながら、アサシンは眼下の状況を観察していく。
「アサシンッ!」
下から叫び声。見れば、アーチャーが叫びながら走り寄ってきていた。そして彼は身を屈めたかと思うと跳躍、一瞬でアサシンへと迫る。
アーチャーの跳躍力は凄まじく、あっという間にアサシンを飛び越す。アーチャーはアサシンとすれ違いざまにアーチャーを蹴りつけよう足を振り上げた。アサシンは反射的に身を翻して、それを辛くも躱す。
しかし、その回避でアサシンの姿勢は崩れた。アーチャーは間髪入れず、上半身を捻ってアサシンに向き直り、弓を引いていく。
上体だけをこちらに向けた、弓騎兵のような弓打ち……それも空中でだ。あまりにも精密さに欠けた体勢だが、瞳孔が開いたまま弓を引き絞るアーチャーを見れば、当たるはずがないと高を括ることなどできない。
マズい。アサシンは崩れた体勢を整えようと、空中で藻掻く。
しかし次の瞬間、必殺の白矢は充分に引き絞られた状態で放たれた。
矢は音さえ振り切り、彗星のような光の尾を引いて闇夜を切り裂く。
その流れ星のような瞬き、そしてその数秒後に続く破裂音は、都市部の方にまで届いたという。