Fate/reselect   作:Fate/reselect出張所

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第十七話『忌むべき物語』

 

 

 

 月夜を引き裂く、アーチャーの一撃。

 それはアレクシアが潜む廃車置き場からでも、容易に観察することができた。

 アレクシアは衝撃波を肌で感じながら、アサシンがまだ生きていることを知覚する。しかし……限界は見えたと言える。

“……アサシン、そろそろ殺しにいけ”

“……御意”

 こっちも、忙しくなりそうだ。と、アレクシアは言葉を付け足す。そして右頬に貼っていたガーゼを剥がしながら、背後を見やった。

 そこには、ウィリアム・シン……こちらへと廃車置き場と一般道を区切っていた柵を飛び越え降り立つ、キャスターのマスターの姿があった。

 彼はポケットに両手を入れながらも、油断を感じさせない厳しい表情でこちらへと歩み寄っていく。その様子に、アレクシアは火傷で爛れた右頬を痙攣させ、三日月のような笑みを浮かべた。

 ああして近づく以上、口上は最早必要ない。アレクシアは一旦ウィリアムに背を向け、羽織っていたコートを脱ぐ。黒のノースリーブから露出した右腕の表皮は火傷により歪んでおり、それを覆うように盛り上がった瘤には切れ目がある。そしてそこから、大小様々な目玉が覗いていた。

 アレクシアはウィリアムに向き直り、その肢体を示すようにゆっくりと両腕を広げた。

 すると右腕の切れ目は皮膚を裂きながら開かれ、まどろむように焦点があっていなかった目玉は覚醒していく。目玉は獲物を求めるように周囲を見回し、やがて全ての目玉がウィリアムを見つけて凝視する。

「前の続きをしましょう、ウィリアム・シン……時計塔の魔術師」

 アレクシアはそう、ウィリアムに微笑みかける。

 調べられたか。と、困ったという風にウィリアムは苦笑した。

「でも前とは随分と様子が……ああ、下をズボンにしました? その手袋も、よくお似合いで……」

 そしてウィリアムはそう嘯きながらも、アレクシアとの距離を自らの足で縮めていく。

 

 

 

 アーチャーは押し黙ったまま、爆発によって今や骨組みだけとなったビニールハウスに歩を進めた。その顔は険しく、これまでの余裕は感じられない。

 爆心地は跡形もなく、クレーターだけがあった。しかし、アサシンはまだ生きている。ならば周囲に残る、このビニールハウスらに潜んでいるはず。アーチャーはそう考え、自ら一つ一つ確かめているのだ。

 そして、その予想は正しかった。

 三つ目のビニールハウスに数歩入ったところで、アーチャーの右足首に痛みが走った。

「………ッ!」

 鋏に挟まれたか。アーチャーは歯ぎしりしながら、矢筒から矢を引き抜きつつ痛みの方向へと振り返る。

 溢れ出た激情に任せた、身を捻りながらの早打ち。

 しかし本能的に矢を射つ構えに入ったアーチャー自身、考えもしなかった。右足首は左手に得物を持ち、照準の基点としている弓手にとって、もっとも狙い辛い位置にあること。

 そしてアサシンは、この位置を『弓手殺し』として、虎視眈々と狙っていたことを。アーチャーはこれまでの戦闘で、考えていなさ過ぎた。

 反射的に動いたアーチャーに対応し、アサシンは計画的に対処する。身を捻ったアーチャーと動きを合わせ、アサシンの身体的特性である急速な横の動きで背後へと回り込む。

 アーチャーは片足を後方に引き寄せられ、姿勢を崩して転倒してしまった。その横面を湿った土壌に打ちつけ、アーチャーの頬に土塊がこびりつく。

 山を打ち崩す、彗星の如き一撃を備えたアーチャーであったが、矢を放てなければその真価も失われる。

 そうして彼は、彼にとって最も忌むべき泥仕合へと放り込まれた。

 

 

 

 アレクシア・ブロッケンとウィリアム・シン、二人の戦いは一方的なものとなった。

 積み上げられた廃車の上に立ち、魔術礼装『栄光の右手』を起動させて待ちの姿勢でいるアレクシア。それにウィリアムは何度も飛び掛かる、その度に撃ち落とされている。

 これほどとは、流石に思わなかった。と、ウィリアムはアレクシアの周囲を高速で回って撹乱しつつ、頬を引きつらせた。

 アレクシアとは一戦交えている。そして彼女が、ライダーを脱落した際には新たな能力を見せたことも把握している。しかし、これほどの化物に変貌しているとは思わなかった。

 まず、筋力や耐久性といった単純な性能が、六日前の彼女は明らかに違う。あの奇妙な右腕はもちろんのこと、他の部位にしたってサーヴァントと変わらないほどに強化されている。

 なによりの問題は、彼女の変貌の副産物に過ぎないであろう点だ。

 アレクシアは一度も攻勢に出てはこないが、もしあの身体能力の向上が能力を支える為に必要な土台作りであるとすれば、その能力とは一体どれほどの……。

 ……否。と、ウィリアムは目を閉じ、考えるのを止めた。今はただ動く、動いて……目立てば良い。

「prana shift――」

 ウィリアムは詠唱を行いながら、アレクシアの右側面から一息に飛び掛かった。

 アレクシアはそれを予期していたように、即座に反応。異形の右腕をバットのように振り被り、ウィリアムを待ち受ける。

「――were-hawk」

 アレクシアが横殴りに右腕を振るう直前、ウィリアムは自身の左足に猛禽類の神秘が纏う。そして振るわれたアレクシアの右腕を、ウィリアムは空中で身を翻して躱し、そればかりか鷹のように変化した足でもって腕を掴んだ。

 アレクシアの右腕は、ウィリアム一人を取りつかれながらも振り抜かれる。ウィリアムはその瞬間に右腕を掴むのを止め、慣性で宙を舞い上がる。

 向こうの筋力が高いなら、それに乗っかれば良い。そして狙うは死角からの攻撃、人体の急所を突いての決着だ。ウィリアムは宙へ舞い上がりながら、手の内に隠していたチャクラムをアレクシアの首筋に投げつけた。

 回転しながら、アレクシアの首へと正確に向かうチャクラムの刃。しかし、その攻撃はアレクシアの肩甲骨より繋がった魔術礼装『栄光の右手』によって叩き落とされてしまう。

「惜し……くもないか」

 溜息をつくウィリアムだが、そんな彼は直後、勢い良く地面に……放置されていた廃車に背中を叩きつけてしまう。

「……この前の戦いで、無理をしてでも仕留めなかったのは失敗だったな」

 うずくまって動かなくなるウィリアムを見ながら、アレクシアは口を開いた。

「あの時点なら、確かにお前の方が有利だった。しかしあれから六日経つ……すでに立場は逆転した」

「………」

「怠慢だな、時計塔の魔術師」

 ウィリアムは何も答えない。そんな彼に、アレクシアは失望したような冷やかな視線で言った。

「何世代も掛けて、悠長に根源なぞ目指しているからそうなる。さあ、さっさとキャスターを出せ、それともこのまま殺されたいのかしら」

「………」

 そろそろ、か。

 ウィリアムはゆっくりと顔を上げ、アレクシアへと笑いかけた。

「別にこの六日間……遊んでいた訳じゃあないですよ?」

 そう。と、アレクシアは事も無げに応え。

「黙ってさっさとサーヴァントを出せ」

 そして鼻で笑いながら、アレクシアは右腕の目玉から幾つもの光球を浮き出させた。その光球は蛍のようにフワフワと宙を漂ったが、すぐに軌道を変えてウィリアムへと飛ぶ。

 初めて見る魔術、湧き上がる死の予感に総毛立つ。ウィリアムは両膝を地面から離し、立ち上がる暇もなく横へと飛び込む。

 直撃は回避した。しかし光球は廃車に当たると、周囲を吹き飛ばさんばかりの爆発を起こし、ウィリアムを飲み込んだ。そして矢継ぎ早に二つ目、三つ目とウィリアムを狙い、飛来し、爆発を引き起こす。

「ぐっ……」

 ウィリアムは爆発に体の自由を奪われながらも、それでも致命的な一撃をもらうまいと足掻いていた。そして、そんな様子をつまらなそうに見ているアレクシアの視線を、常に意識していた。正直、そんな余裕は全然なかったが……意識しないといけない理由が、ウィリアムにはあるのだ。

 アレクシアは爆炎に目を細めながら、そんなウィリアムを油断なく見ていた。しかし、爆発に紛れて急接近するウィリアムとは別の気配に気づいた。

 アレクシアは気配の方へと振り返る。

 それは、弾丸のように迫ったシュウジ・アルバーニが彼女とすれ違い、アレクシアの礼装『栄光の右腕』を斬り飛ばすのと、ほぼ同時であった。

 驚くアレクシア。しかしそれに意も介さずシュウジは黒鍵の刃を返し、振り向きざまにアレクシアの首へと伸ばした。

 

 

 

 ジャイアントスイング――アーチャーの背中から地面の感触が消え、視界が左へと急速に流れる。そして不意に続く左半身への衝撃で、アーチャーは手にしていた矢を取り落してしまった。

 力任せにアーチャーを振り回し、アーチャーをビニールハウスの骨組みに叩きつけた。アーチャーは骨組みをくの字に折りながら、再び体を地面へ這わせる。

「てん……めぇ……ッ!」

 アーチャーは激昂しながら弓の端を持ち、上体を起こしてアサシンへと弓を振り回した。しかしアサシンはそれを避け、ハサミで受け、はたまたアーチャー自身を引き回して翻弄してしまう。

 単純な筋力なら、自分の方が上なはずだ。そう、歯噛みするアーチャー。しかし片足が浮き上がった状態で全力を発揮できる訳ではないし、全力を発揮できぬようアサシンは密着せず、常に立ち位置を変えている。

 手慣れてやがる。そうアーチャーは感じたが、それもよく考えれば当然のこと。アサシンはカルキノス、古代ギリシャ……否、世界で最も有名な化け蟹だ。蟹にとって、獲物を掴む行為は日常の一部に過ぎない。

 対して、アーチャーはどうか。弓手とは本来、相手が近づく前に一方的に殺すのが日常だ。接近はおろか、体の自由を奪われるまで掴み掛かられることなどあってはならない事態だ。

 これらの慣れに対する効果は、眼前に見える現実が結果として物語っている。

「………」

 アサシンは、ゆっくりとハサミに力を込めていく。ガッチリとハサミに食い込まれたアーチャーの右足から溢れ出る血が増え、アーチャーの顔も苦痛と焦燥に歪んでいく。

 アーチャーは千切り落とされようとしている足の感触が、患部より先が熱さだけになっていることに気づいた。すでに治癒魔法なしでは使い物にならず、このままでは切り落とされ、動けなくなったところを殺されることになる。

 冗談じゃあない。アーチャーは痛みに呻きながら、視界を横切ろうと動くアサシンを睨んだ。ギリシャ神話の怪物だか何だか知らんが、こんな化け蟹如きにこの俺が討たれて良いはずない。そんなことは、許されないのだ。

 そう、この時。現実の脅威が、アサシンの殺傷性が、ようやくアーチャーの根底にあるもの――自負心に触れた。

「……オァアッ!」

 アーチャーは吠え、倒れた姿勢から猫のように跳ねた。アサシンはそれに対し、掴んだ右足を引き込んで姿勢を崩す。

 それはすでに何度も試み、崩された脱出方法だった。

 だが今回、アーチャーは自身の弓を着地点に突き入れたこと、それだけがこれまでと異なっていた。

 結果、アーチャーはアサシンが予想しなかった二度目の跳躍を成す。それは棒高跳びにも似た、弓のしなりを利用したものだった。

 アサシンさえ引き寄せんばかりの反発力によって、空中での自由を得たアーチャー。彼は素早く矢筒から矢を一本引き抜き、間髪入れずに矢を放った。

 矢が飛んだ先は、アサシンではなく足元。無理な姿勢から射った矢だったが、それでもしっかりと弓で引いた矢は、その常軌を逸した威力を発揮する。

 そう、それが矢を放った本人の目の前でも。

 矢は閃光を放ち、当たった地面を中心に全てを吹き飛ばし地面を抉っていく。当然、アーチャーとアサシンはその破壊の渦に巻き込まれ、五体の自由は奪われ意識は宙へと投げ出された。

 

 

 

 アレクシアは斬り込んできた黒鍵を右手でへし折って、シュウジの十数秒に及んだ連撃を止めた。

 続けざまに殴りつけた右腕をシュウジは身を反らして躱し、そのまま後方に、ウィリアムの隣へと退避する。

「……なるほど」

 アレクシアは体中に切り傷を負い、血を流しながらも二人を見据えて呟いた。

「なるほど、なるほどなるほど?」

 そして右手に付着した血を舐め、頷いた。

「確かに六日間、遊んでいた訳じゃあないみたいね」

「……彼を引き入れたのは、ちょっとズルい気もしますが」

 そう言い、ウィリアムは肩をすくめて見せた。

「アレクシア・ブロッケン相手に、やり過ぎるということもないかと思いましてね?」

 セイバーのマスター、シュウジ・アルバーニ。彼の名前と肩書は、アレクシアも掴んでいる。聖堂教会、代行者。それら単語は、魔女であるアレクシアにとっては大敵とも言える。

 だが、それは時計塔の魔術師であるウィリアムにとっても同じはずだ。魔術協会と聖堂教会は水と油、共闘などありえないと高を括っていた。

 しかし、現実はこれだ。ウィリアムはアレクシアを殺す為に相容れない二つの垣根を超え、サーヴァントを失おうとしているアレクシアに現状最強の陣営……最もキツい相手をぶつけてきた。

 なるほど。と、アレクシアはその現実に対し、再度確信を得る。

 ウィリアム・シン――やはりこの男が私の……最大の敵だ。

「なるほど……ここは退いた方が良さそうね」

 そう言って背を向けるアレクシア。その背に、シュウジは問答無用に黒鍵を投擲した。

 しかし――。

「アダム、出番だ」

 と、アレクシアは指を鳴らすと、投げられた黒鍵がパッと爆ぜ、落下した。同時に鳴り響く銃声に、ウィリアムは周囲を見回し始めた。

「その通りよ、時計塔の魔術師」

 そんな彼に、アレクシアは笑いかけた。その背後には数人の影――魂なきアダムの人形達が、どこからともなく現れ起立する。

「聖杯戦争に、やり過ぎる……なんてことはないわ」

 

 

 

 こめかみに杭を押し込まれているような頭痛と、腹部から込み上げる吐き気。それがアーチャーを目覚めへと導いた。

「………っ」

 とにかく、動け。そう体に鞭打ち、アーチャーは体を動かし、その度に自身の制御を取り戻していく。

 どうやら先程の矢による爆発によって一般道の方まで吹き飛ばされ、街路樹に後頭部を強打したようだ。よろよろと顔を上げると、凄惨なことになった農地の跡地が前方に確認できた。

 そして、足元。アーチャーの右足には、アサシンのハサミが残されていた。どうやら爆発によってアサシン本体から千切れたようだが、未だアーチャーの肉に食らいついている。

「………」

 途端に抱く、強い嫌悪感。アーチャーは頭痛に苛まれながらそのハサミを引き剥がし、遠くに放り捨てた。

 奴はどこにいった。ハサミを捨て、ようやくそのことに思い立ったアーチャーはよろよろと立ち上がった。あの爆発で、もう死んだのだろうか。

 そう、眼前からぼんやりとアサシンを探していたアーチャー。しかし――。

 ――どすっ、という不意に彼の背に走った鈍い衝撃と痛みに、彼の意識は完全に覚醒し……直後、理性を振り切った。

 掠れた、獣じみた咆哮を上げるアーチャー。

 それと同時に彼は、矢筒から矢を逆手に引き抜き、体を半回転させながらそれを振るった。

 アーチャーの背中にハサミを突き立てたアサシンは、それを伏せることで回避。続いて放たれた矢も、寸でのところで身を翻して躱すが風圧で姿勢を崩し、後方へとたたらを踏む。

 アサシンの後方で吹き飛ばされる、山の斜面。アーチャーとアサシンは、五メートルほどの間隔を開けて睨み合う形となった。

 アーチャーは荒い呼吸を繰り返しながら、呼吸のたびに五体の感覚が戻ってくるのを感じた。それと同時に痛みや苦しさも、感覚として復活していく。

 同様に、アサシンも満身創痍に見えた。相変わらず全身をマントで覆っているが、そのマントもボロ布同然であり、その一部は体液で濡れている。

 すでに治癒魔術による回復を待てる状況ではない。アーチャーは矢筒に手を伸ばす。ここで決着をつけてやる。

 と、そこでアーチャーは気づく。

「……そう、残り一本だ」

 アサシンは言った。

 アーチャーの矢筒に残された、たった一本の矢。それを見ながら、アサシンは続けた。

「凄まじい破壊力をもたらした貴様の矢だが、それも残るは一本……それが尽きた時、お前はどうする? 矢を失ったアーチャーは、一体どう戦う?」

 アーチャーは押し黙る。あと一本。あと、一回……その事実が、昂ぶっていたアーチャーの体を冷たくしていく。

「………ッ」

 当てれば、殺せる。

 それは絶対だ。しかしはたして、それが己にできるだろうか。アーチャーは矢羽の感触を指に感じながら、アサシンを見る。あのアサシンに、この矢を当てる……それを成し得た瞬間が、何故かイメージできない。そしてそれが出来なかった時、弓兵として決定的な敗北を喫するという確信もある。

 それが、恐ろしい。

「……よく狙え」

 アサシンは一層姿勢を落とし、宣言する。

「外せばこの勝負、私の勝ちだ」

「………!」

 

 ――負けたくない。その思いが、心に留めていた何かを切り捨てさせた。

 

 アーチャーはゆっくりと、矢筒から手を離す。

 そして腰布に差していた物を、柄に布切れが巻かれただけの質素な木棒を抜き放った。

「遊びは終わりだ……殺してやるよ、カルキノス」

 アーチャーはそう言うと木棒を天へと掲げ、告げた。

「真名解放(・・・・)……それは忌むべき、裏切りの物語」

 詠唱が、始まった。アーチャーの抑揚のない言葉に呼応し、木棒は天へと……まるで大木が枝を伸ばすように、枯れた枝を伸ばしていく。

 そしてアーチャーの手に握られた木棒は、月夜を覆うほどに急成長を遂げた禍々しい根の渦と化した。

「宝具――『逢蒙殺羿(リナウンス・ジ・アーチャー)』」

 アサシンは身構えたまま、陰った空を見上げていた。しかし、その真名を聞き遂げると。

「そうか……」

 そう嘆息し、身構えていたハサミを下ろした。

「ならばそれこそ、私の勝ちだよ。アーチャー……いや、逢蒙よ」

 その失望したような言葉に、アーチャーは宝具を振り下ろすことで応えた。

 空を覆い尽くしていた根の渦は、アーチャーの前方一面を飲み込むように打ち下ろされ、アサシン諸共、全てを叩き潰していった。

 

 

 

 アサシンとのラインが、切れた。

 アレクシアは林の中で独り、その事実を受け止めていた。

「……『栄光の右手』と人形の損失は、予想外だったが……ククッ」

 アレクシアは震え、堪え切れぬとばかりに木の幹に体を預けた。

「良くやったアサシン……勇敢なる刺客、カルキノス」

 逢蒙――弓の名手としては、聞かない名だ。

 しかしその名は、中国神話にて九つの太陽を撃ち落とした大英雄、后羿の弟子として……そして、その后羿を桃の木で作られた棍棒にて撲殺した不義の弟子として記録されている。その裏切りは、師を亡き者にすることで天下一の弓手へと繰り上がるという迷妄からだと伝えられる。

 迷妄の弓手、逢蒙――それが、アーチャーの正体。

「掴んだぞ鏡宮悟! この戦争、私の勝利だッ!」

 アレクシアは、天高く哄笑を上げる。

 その空には、潰されたアサシンの亡骸、その名残である光の粒がゆっくりと還っていくのが見える。

 アレクシアはサーヴァントを失った。しかし、魔女の哄笑は終わらない。

 それを象徴するように彼女の異貌の右腕、シュウジとの戦いで裂けた手袋の切れ目から、未だアサシンとの契約の印――令呪が覗いていた。

 死して尚、夜空にその栄光を留める。

 それが死ぬまで発現しなかったアサシンの宝具『天空の星影(イストリア・カルキノス)』の基盤であり、真価と言える。

 空に輝く星を介し、未だアサシンが脱落したことを聖杯に把握させない。故にマスターあるいは同盟者が残る限り、アサシンの陣営はサーヴァントを失っても尚、聖杯を得る権利を有している。

 だからこそ、魔女は哄笑を続ける。この忌むべき物語は終わらない、とことん聖杯を汚してやれる。

 自身が灰となるか、聖杯を掴む……その時まで。

 

 

 




【お詫びのお知らせ】
 2019/9/15、第十七話現在において、登場人物の一人、『ウィリアム・シン』の表記に『ウィリアム・レイ』という表記ゆれが存在することが判明し、現在訂正作業の準備を執り行っています。
 取り調べに対し四津谷案山子容疑者は「なぜか両方使っていた、最近はレイの方が正しいと完全に思い込んでいた」と証言し、ハーメルン担当者のカワセミ容疑者は「シンもレイもあるのは認識していたが、そもそもフルネームをちゃんと覚えていなかったので都度表記が正しいものと認識して通していた」と証言しており、両容疑者に余罪がないか追及を行うと同時に、再発防止に努めていく方針です。
 ご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした。引き続き、Fate/reselectの応援のほど、よろしくお願いいたします。
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