Fate/reselect   作:Fate/reselect出張所

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第二十三話『龍の守護者』

 

 

 

 嵐の前触れのような、風吹く曇天の空。

 山の木々はすっかり葉を捨て、地面に枯葉を散らしていた。

 そんな中へ、彼女は一本に束ねた後ろ髪を揺らしながら一人踏み入っていく。

 手には素槍、腰には大小の刀。旅支度に道中合羽と編笠を身に着けているが、槍の鞘は既に外されていた。

 迷う素振りもなく、彼女は山の奥深くへと踏み入っていく。そうすると、山の様相は一変する。木々は所々に薙ぎ倒され、地面は巨大な鞭を打ったように削れている。

 その有様に顔をしかめながら、彼女は更に山の深く、惨状の中心部へと歩を進めていった。

 荒らされた森の中心。倒れた木々で寝床を拵え、それは長く大きな体を丸めていた。

 それは、光を吸っているかのように黒く、長く巨大な体であった。

 それは、墨汁のような液体を湛え、双眸は溶鉄のように赤光していた。

 

 それは、一匹の(みずち)であった。

 

「……探しましたよ」

 彼女は蛟に声を掛ける。蛟は薄く開けた目で彼女を見下ろすが、その態度からは彼女に対する興味は薄いように感じられる。

「もう暴れるのは止め、私と一緒に来てもらいます」

 構わず、彼女は続けた。蛟は身じろぎさえ返さず、言葉が届いているかでさえ定かではない。その態度に、彼女は口端を曲げた。

 空に遠雷が響き渡る。その音に彼女は緊張した素振りで振り返り、麓の方を見やった。それが雷の音だと知ると胸を撫で下ろし、それから業を煮やしたかのように蛟を急き立てる。

「良いですか、新しい時代はもうすぐそこまで来ています。その新時代に、貴方の居場所はないんです。他の誰でもない、時代が、貴方の存在を許さない……ッ」

 蛟はその言葉に、目を更に細める。それは焦る彼女への嘲笑か、あるいは破滅的な将来への自嘲か。

 説得ではどうにもならないか。彼女は歯噛みし、被っていた編笠を脇へと捨てて言った。

「悪いですが、首に鎖を付けてでも連れて帰ります……これは、彼の遺志に因るものだ」

 彼の遺志に因るもの。その言葉に、蛟は目を丸く見開く。彼女は道中合羽を脱ぎ捨て、槍を中段に構えた。

「これは彼の遺言です。自分にもしものことがあれば、貴方のことを……」

 彼女の言葉は、途中で途切れた。

 横合いから予告もなく振るわれた蛟の尾に、彼女の体は真横に飛ぶ。彼女は木の枝を圧し折り、最後には切り立った小さな崖の端に肩を打ちつけ、崖を乗り越えるように地面へと転がり落ちた。

「……怒る気も分かります」

 それでも、彼女は話を続けた。彼女は崖の壁面に手を掛け、血と脂汗に濡れた体をゆっくりと起こす。

「貴方はその力で、彼を多くの敵から守ってきたつもりだったのでしょう。でも彼は、貴方を時代という怪物から守っていた」

 蛟は予備動作もなく前へと滑り出て、崖の向こうにいる彼女へと頭から飛び掛かった。

 巨大な蛟の突進。彼女はその気配を察知し、斜面を跳び降りる。その直後、彼女を隠していた崖は蛟によって叩き割られた。

 彼女は山道に着地し、素早く身構える。そんな彼女の上からは、蛟から飛び散った墨汁のような液体が雨のように降り注ぎ、足元には崖を形作っていた土砂が滑り落ちてくる。

 そして、彼女に再度狙いを付けた蛟は、身をくねらせながら彼女へと迫った。

 蛟が大口を開け、まさに彼女を丸呑みにしようとする。

 その瞬間だった。

 彼女が僅かに前へと踏み込み、素槍が四本の光と煌めく。

 次に確認できたのは、結果だけだった。空気が数度爆ぜたような音と共に、蛟は身を仰け反らせる。その事実だけが、五感で感知できる結果であった。

 突進を遮られ、身を天へと反らした蛟。そこに彼女は鬼のような形相で肉薄する。そして、蛟の横面を槍の柄頭で殴り飛ばした。

 彼女に強かに打たれた蛟。その巨体は力なくしなり、木々を折りながらゆっくりと倒れ伏す。

「……私だって、怒っている。歯痒い気持ちは、私も同じだぁッ!」

 黒い雨の降る中、彼女は倒れた蛟に吠えた。

「だが私は今度こそ、守ってみせる……っ!」

 しかし彼女は、槍の柄を壊さんばかりに握り締めて怒りを抑え込み、こう続けた。

「彼の恩義に報いる為、私は今度こそ……っ」

 ――()()()()()()()()()()()()()

 彼女はそう呟き、槍を構え直す。

 正面には、すでに体勢を整えて彼女を睨む蛟の双眸が、曇天の暗さの中で輝いていた。

 そして……そこで読水は、夢から目覚めた。

 

 

 

 読水がランサーに夢の内容を伝えると、彼女は食べていたカップそばを噴き出した。

 それは遅めの昼食時。ウィリアム達と同盟を結んでから丸一日が経った後、アダムによって用意された安アパートの一室でのことだった。

「お前が真名を隠そうとするのは、あの蛟の存在を隠す為だな?」

 閑話休題。読水は噴き出された蕎麦を片付けながら、台所の方で咳き込むランサーに追求する。

「お前がキャスターと同時期の英雄だとしたら、その時代は幕末か明治初期……そんなつい最近まで、あんな幻想種がこの世界に残っていること自体、奇跡的なことだ」

「ぐっふぅ……マスターの、あの魔術を使われれば隠し通せないと、アレには常に警戒しておりましたが……」

 ランサーは口を水でゆすいでから、そう呻いた。

「しかし、まさかマスターとサーヴァントの繋がり、夢……ただの夢で、こうも呆気なく看破されてしまうとは……」

「……悪かったな、自分の個性さえ活かせないような不出来で、怠慢な魔術師で……」

 気の抜けた読水の言葉に、ランサーは苦笑した。

「ランサー、あの戦いの結果は……」

「私と出会う前に、マスターが見た通りです」

 完敗でしたよ。と、ランサーは窓から天を仰ぎ呟いた。

「それからは、自分の半生は“彼女”の存在を歴史から隠す為に使いました。多くの歴史的資料を焼き、改竄し、自分の日記すら書き直して……公には知られぬよう、細心の注意を払って……」

「………」

「この宝具も、彼女の神秘を借りているに過ぎません」

 ランサーはそう言って、手を空へと伸ばす。

「宝具として昇華された私の逸話。その功績は、彼女の助力なしには成し得なかったもの……私という英霊は、マスター、貴方が夢で見た女一人では生まれることのなかった紛い物です」

 英霊とは、実在した一人の英雄と同一ではない。人に語られ、祀られ、伝説と残された肖像が英霊と呼ばれるのだ。それが真実であるか否かは、問題ではないのだ。

「聖杯に願う望みも、アレの隠蔽か」

「……さあ、どうでしょう?」

 読水の言葉に、自分でも分からないというようにランサーは嘆息した。

「どうもこの時代を見るに、彼女のことは上手く隠せているように思えますし……聖杯を欲するだけの願いというには、どうも……」

 ランサーはぼんやりと窓から外の景色を眺めていたが、そんな景色に、鳩の群れが空へと飛び立つ姿が横切る。すると、ランサーはぼうっとした顔で口を開いた。

「……ただ、この手で」

「ん?」

「私は、ただ……この槍で、今度こそ誰かを護り切りたいだけなのかもしれません」

「………」

「ね?」

 ランサーはそう言って、読水へと振り返る。

 最後まで守りたい。薄く笑みを浮かべて、そう告げるランサー。その想いに対し応える度量もなく、読水は黙って顔を背けた。

 ……師匠は、『こういう事態』の対処も俺に教えるべきだった。

 読水は一人、かつて師事していた男に不平を零す。しかし、彼とは流儀が違うのだ。きっと聞いていても、真似はできなかったろう。

「ところで、こんな所でのんびりとしていても良いのでしょうか?」

「ん……前の連戦で、こっちゃボロボロなんだ。佐藤の場所は、あの猟犬みたいな連中に任せた方がよっぽど効率が良い」

 バーサーカー――鬼才のベルセルク、エギル・スカラグリームスソン。

 バーサーカーのマスター――イタリアのルーン魔術師、レオポルディーネ・ミローネ。

 そして、アサシンのマスター――ブロッケンの魔女……否、かつて魔女であった異形の怪物、アレクシア・ブロッケン。

 彼らとの戦闘を、読水達は一夜にして乗り切った。

 読水達は連戦を経ても尚、生き残ることができた。しかし代償を支払い、残された――重い肢体、精神の摩耗、装備の消耗、魔力切れ。今はそれらを回復させる為に、少しでも多く休まねばならない。

「それに、こっちにはこっちの仕事があるんだ」

 読水はそう言って、鞄からジップロックを取り出す。封をされたビニール袋には、赤く染まったティッシュが入っていた。

「……奴の、血ですか」

 顔をしかめるランサーに、読水は得意気に頷く。

「この血から、あの魔女の化けの皮を剥がす。こういうのが我が家の専門、あいつらより先を行くことができる分野だ」

「あまり気分の良いものではありませんが……マスターが楽しそうで、何よりです」

「自分の個性は活かすもんだろ? お前は次の戦いに備えて、できるだけ休んでおけ」

 読水はそう言うと、家伝の魔術、『辿跡術』の準備――顔の左半分を左手で覆い、右手で血の付いたティッシュに触れる。

「あの二組と同盟を結んだからと言って、他の組……例えばバーサーカーがまた、俺達を襲ってこないとは限らないんだからな」

 そう、そのバーサーカー陣営だ。読水は一昨日の夜のことを思い起こす。気にかかっているのは、バーサーカーのマスターとの会話だ。

 ――……あんたこそ、さっさと『欠片』を寄越しなさい。

 ――……カケラ?

 ――その首に提げてるやつよ。

 そう、確かにあの背の低い魔術師は、読水が両親から引き継いだこの『欠片』を狙っていた。しかしこの『欠片』の貴重性は、鏡宮と聖堂教会くらいにしか知られていなかったはずだ。

 あの女の正体……それが鏡宮に雇われた使い走りか、聖堂教会の犬か、あるいは全くの第三陣営かは分からない。

 しかし、いずれにしても『欠片』を狙うのであれば、読水にとってはこの戦争を邪魔する敵でしかない。

 正体なぞ、知らなくても良い。だが、奪われる気もない。

 次も、その次も、決着をつけるその瞬間まで、凌ぎ切る……その為にも、あの連戦を潜り抜けたランサーには、今は休んでもらう必要があるのだ。

 

 

 

 

 

 

「背中が痛い!」

「お腹が痛い!」

「全身が痛い!!」

 レオポルディーネは、ベッドの中で力の限り叫び、バタバタと寝返りをうつ。

 ランサー陣営を襲撃した後、体内から湧き出ていた痛み止めも切れ、もう二日も彼女はこうしてベッドで呻いていることになる。

「あ~……仰向けも、うつ伏せも痛い……もう楽になりたい」

「そりゃあ、何十発もマグナム弾で撃たれた訳ですから」

 そう言って、ミローネ家の使用人――轟木はベッド脇のテーブルにレモネードを置く。

「むしろ、痛い程度の打ち身で済んでいる方がおかしいのでは?」

「凄いでしょ。もっと褒めて轟木。それでさ、この痛さ、何とかして?」

「……まあ、とはいえ」

 と、轟木の横からバーサーカーが実体化し、レモネードを掠め取りながら言葉を挟む。

「まーだお前、回復に時間かかるのか? 俺に偉そうなこと言っておいて、ここで終わりか? おい」

「クゥアッ……!」

 バーサーカーの悪意たっぷりの煽りに、奇声を発しながらレオポルディーネは握り拳を宙に突き出す。そうして元気であると示そうとするが。

「……動けるかぁ、こんな痛みでっ!」

 と、すぐに泣きが入り、拳はベッドに落ちる。

 そんな主人の様子に、英霊と使用人、二人の従者は肩をすくめる。

「一回休み、ですかね?」

「一回休みだなぁ……」

 そう顔を合わせながら言い、二人はレオポルディーネの私室から退室する。

「……ところで轟木、今日の夕食だが」

「何かご希望が?」

「昼間にテレビでやってたやつ、あのハヤシライスってやつが食いてぇ」

「一時間後、ダイニングルームに来てください。私が本当のハヤシライスをご用意致しましょう」

「よっしゃあ!」

「……私っ! カルボナーラが食べたぁい!」

 そんな会話を背後で聞いていたレオポルディーネは、再び拳を天に突き出す。

 しかし一時間後、彼女の元に運ばれたのは薬草たっぷりのお粥であった。

 

 

 

 とあるビジネスホテルの一室にて。

 ベッドの上で座禅を組み、体力の回復を図っているウィリアム。キャスターはドレッサーの椅子に腰掛け、そんなマスターに語りかけていた。

 セイバー、ランサー陣営らと同盟を組んでからウィリアム達は、アレクシア達を全力で追っていた。

 ウィリアムの魔術師としての知識を活かした、魔術的な痕跡を辿っての追跡。そこから割り出した魔女のアジトと考えられる場所を、新選組の霊体を総動員させて制圧していく。

 そうすることで、ウィリアム達はこの二日でアレクシア達が使っているアジトを数カ所発見し、それら全てを潰していった。

「……報告は以上だ。すでに君が示した候補の八割を調査済み、調査は予定よりも捗っていると言えるだろう」

「この調子なら、そう日を置かずに彼女の現在地に追いつけるでしょうね」

 ウィリアムは満足げにそう頷いた。

「流石キャスター、壬生狼と呼ばれただけのことはある……仕事が早い、まさに狼だ」

「……いや、それも君の読みがあってこそだ」

 キャスターはそう言って黙ったが、やがて顔を上げると、こう聞いた。

「君は以前、あの異形の気配を辿って魔女を追っていると言ったが……それが意図的に撒かれているもの、つまり罠であるという可能性は、考えられないのかね?」

「すでに二度、跡を丁寧に追って彼女に追いついています。恐らく彼女自身、召喚させたアレと同化しつつあるのでしょう。そうなればもう隠しようがない。その証拠に、追跡している痕跡は段々と濃く、隠しようがないものになっています」

「………」

 ひょっとしたら。と、ウィリアムは瞑っていた目を、ゆっくりと開きながらこう続けた。

「……彼女の行動原理は人知れず、あの異形に支配されているのかも」

「なら、アレの目的は? なぜ既に脱落したライダーのマスターを攫ったのかね?」

「んー、あまりグロテスクな内容じゃなければ良いのですが……」

 そう苦笑いするウィリアムに、キャスターは溜息をつく。

 しかし――。

「………っ」

 老体であるはずのキャスターが機敏に立ち上がり、廊下の先を睨む。

 そこには、一匹の猫がいた。猫はジッと廊下の角から顔を出し、キャスターを見つめている。

 しかし、その実像は不意にブレる。そして猫は、電波の悪くなった映像のように消えていった。

「………今のは」

 君の使い魔かね。と、キャスターはそう聞こうとしてウィリアムを一瞥して、そこで気づいた。

 今まで冗談めかしていたウィリアムが、さっきの猫のようにジッとキャスターを見つめている。その視線は実に冷ややかで、予断を許さないものだった。そしてそれは、やがて悦びによって細められた。

「……ウィリアム君」

「あ……っと、ええ、何でしょう?」

 キャスターは顎を引き、暫し言葉を選ぶ。

「……あれは、君の獣性魔術かね?」

 その問い、ウィリアムは悪戯がバレた子供のようにクスクスと笑う。

「……ええ。ま、ちょっとした実験です」

 彼はそう説明すると、ベッドから降りて冷蔵庫を開ける。そして冷えた缶コーラを取り出し、微笑む。

「最初は軽い思いつきでしたが……貴方の反応を見るに、これはあのアレクシア・ブロッケンにも使えそうだ」

「………」

 それは、どう意味かね。

 そう聞こうと、キャスターは口を開く。しかし話は終わった、詳細は内緒だよと言わんばかりにウィリアムは缶コーラを開け、飲み始める。

「ふむ……ああ、彼とて魔術師だからな」

 そういう人種なのだろう。キャスターはそう肩をすくめ、へそを曲げたように霊体化してしまう。

 

 

 

人から放棄された建物は、底冷えするような冷たさを帯びていた。

 廃墟と言って差し支えないような、古い空きビル。佐藤はアレクシアに昏倒させられ、そして気がついた時にはここで軟禁状態となっていた。

「……余計なことはするなよ」

 そう告げるのは、佐藤の背後に立つ青年だ。

「余計なことをしても、あいつ相手じゃ死ぬだけだぞ」

 一ツ目と名乗ったこの青年は、聞くところによると、佐藤と同様あの女に捕まっている身分らしい。しかし彼は条件付き、という形であの女に手を貸しているのだという。

 一体どんな事情があるかは知らないが、佐藤からすれば、彼は佐藤を見張る看守である。そして今、佐藤は一ツ目の指示によって初めて狭い倉庫から解放され、どこかへと歩かされている。

「……怪我の具合はどうだ」

 佐藤の腕を気遣っているのか、一ツ目はボソッとそう聞いてきた。

「……別に。そんなことより、これ、何なの?」

 佐藤は振り返りもせず、一ツ目に右手を見せる。佐藤の右手は、黒いハンカチで縛られている。魔術的な要素も孕んだ拘束具の一種だろう、これのお陰で片腕の佐藤は何かを掴むどころか、右手に力を入れることさえままならない。

「魔女の呪具だ。変に触らない方が良いぞ」

 触る手がもうない。と、佐藤はぶっきらぼうに応える。そうして応えながら、佐藤はアサシンのマスターの傍らにいた女――あの露出の高い女を想起した。きっと、これは奴の仕業なのだろう。

 そうこう考えているうちに、佐藤は階段を登り、点滅する電灯が付いた廊下へと連れられる。

 廊下の奥、元は休憩所だったであろう空間に、あの女――アレクシア・ブロッケンはいた。

「よう、お嬢様。久しぶりー」

 破れたソファーに腰掛け、肩からコートを被るアレクシアの横には、露出の高い女――ミア・ブロッケンが壁を背にしている。佐藤はミアを無視し、まっすぐアレクシアの前へと歩み寄った。

「先に聞いておきたいんだけど。お前がアサシンのマスター……で、間違いない?」

「……ええ」

「良かった」

 アレクシアの肯定を確認すると、佐藤は歩きながら右手のハンカチを歯で咥える。

 そして、その呪具を一息に噛み千切った。

「勘違いだったら、マズイかなって」

 そうしてソファーに座り込むアレクシアの前に、ハンカチを吐き捨てて立つ佐藤。騒ぐ他二人、それに対しアレクシアは口端を上げながら片目を開け、何かを期待するように佐藤を見上げているだけだった。

「………」

「……それで、何で私を殺さずにいる? 何で、ここに呼んだの?」

「……ククッ」

 それで良い。と、アレクシアは顔を伏せ、肩をすくめた。

「事を始める前に、一度お前と話しておきたかった」

「私と話……?」

「次が始まってしまえば、こんな穏やかな夜はもう訪れない。もう、この聖杯戦争が終わるまで止まることはないから……」

「一体、何を……」

 何を言いたい。

 そう佐藤が聞こうとした時だ。建物全体を揺らす衝撃が、佐藤の口を止めた。

 地震か。本能的に顔を上げるが、直後、下層から響く野太い咆哮がこの揺れが自然に因るものではないことを悟らせた。

 咆哮は振動が治まってからも、声量の大小はあれど絶え間なく続いている。佐藤はその正体に思考を巡らせていたが、やがてその正体より、それを操る存在へと視線は移っていく。

 アレクシアは、佐藤の反応を楽しむように、静かにこちらを見つめていた。

「……一体、何を始める気?」

 絞り出したような、佐藤のか細い声。

 それが可笑しかったのか、アレクシアは薄い笑みを浮かべた。

 

 

 

 

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