Fate/reselect   作:Fate/reselect出張所

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第二十九話『最初の選択』

第二十九話『最初の選択』

 

 

 

 夢を見た。

 私が主と呼ぶ彼の、古い、忌まわしい物語を。

 

 ――すぐに逃げろ! 竜也!

 ――これを持っていきなさい! 父さんも母さんもすぐに追いつく!

 

 その景色は、日々を過ごしていた屋敷が燃え落ちる赤色をしていた。

 

 ――鏡宮さんの所へ向いなさい……早くっ!

 ――聖堂教会……奴ら投降した人間も殺すのかよ!

 

 その音色は、死んでいく者達の希望と絶望が混ざった灰色をしていた。

 

 そして、彼は生き残った。

 全てを焼かれ、灰にされ、託された『欠片』を胸に立つ一人の少年。

 

 ――この光景を忘れるな、小僧。二人の苦しみを理解できるのはお前だけだ。

 ――竜也君、十年……十年、待っていなさい。絶対に二人を連れ戻せる奇跡を用意してあげよう。

 

 首から提げた『欠片』は、灰のように尽きた心の熾となり、黒い炎を宿す。

 それが彼という物語の、始まりであった。

 

 

 

 ――人のままくたばるか、外道になって生き抜くか……道は一つだ。

 

 

 

 全てを失ってから、五年の歳月が過ぎた。

 少年は青年となり、一つの選択を迫られた。

「………」

 静かな河原に青年とその師である殺し屋、そして師が連れてきた少年が一人。

 青年は少年と対面し、逡巡した面持ちで少年に銃口を向けている。標的を無感情で殺せるその自動拳銃は、それを握る者の心によって、カタカタと小刻みに震える。

 その様子を見かねて、青年の隣に立つ師が口を開く。

「……どうした? 今のお前なら目を瞑っても殺せる相手だろ?」

「………っ」

 その言葉に、ビクリと青年の肩が動く。しかし、引き金に掛けられた指は未だ重い。

 青年はこの五年、多くの技術を身に着けた。圧倒的に不利な戦いでも生き残る為の、知識と覚悟を身に着けてきた。

 しかし、青年にとって、その少年は想定外の敵であった。

 衰弱しきったその少年は目元を布で覆われ、椅子に縛り付けられていたのだ。

「お前が言ったんだろ? 俺の仕事を手伝うって」

「……何で、あの子を殺す必要がある? あの子は何を……?」

 その疑問を聞きながら、師はポケットからタバコを取り出し、ライターで火を点ける。

「それは、あいつを殺すのに必要な情報か?」

 師は、紫煙を吐きながらそう言った。

 慎重に言葉を選ぶ青年を、師は即答という形で追い詰める。まるで回答を決めている、あるいはとっくの昔にその質問を知っているかのように。

「殺し屋は、人を殺すのが仕事だ。だが誰を殺すかは雇い主次第だし、その何でって疑問も、この仕事じゃ足枷でしかない」

「………」

「勘違いしているようなら教えてやる。俺は殺し屋だ、殺し屋は正義の味方じゃあない。殺し屋は、他人の悪意で人を殺す、外道の仕事だ」

 だが、お前に必要なのはその技術だ。と、師は告げる。

「『読水』の半端な魔術じゃ、化け物揃いの亜種聖杯戦争を生き残れるのは無理だ。鏡宮のように目的を果たしたいって言うのならな、人のままでいようとするな」

 選べよ、読水竜也。

 師――雨井陽二はタバコを地面に捨てて、回答を迫った。そして、火を踏み消しながら次の言葉を吐き捨てる。

 

「人のままくたばるか、外道になって生き抜くか……道は一つだ」

 

 その言葉に、青年の相貌が険しいものに変わる。

 数瞬の時を挟み、河原に乾いた銃声が鳴った。

 それは産声のように、あるいは絶叫のように、どこまでも遠く、遠くへと響いていった。

 

 

 

 ランサーが読水に夢の内容を伝えると、彼は食べていたカップそばを噴き出した。

 それは隠れ家の安アパートの一室。激戦となった魔女狩りの一夜が明け、一眠りついてからの遅めの朝食時のことだった。

「買い置きしていた、最後のヤツだったのに……」

 暫し咳き込んだ後、そんな泣き言を呟きながら、読水は吹き出された蕎麦を片付ける。

「……マスター。貴方がこの聖杯戦争の成り立ちに、深い関わりがあることは承知しておりましたが……」

 と、ランサーはその手伝いをしながら、恐る恐る読水に視線を向けた。

「この戦いに参加したのは、十年前の復讐からですか?」

「……復讐、か」

 その質問に、読水は顔を伏せる。その右手は無意識に、首に提げていた銀製のロケットペンダント、それを開けて中に入っている『欠片』を見つめた。

 この亜種聖杯戦争に参加した意義、聖杯を求めて故郷に帰ってきた理由――その明確な答えを、読水は持っていない。

 あの時、読水はまだ中学生だった。そして学校の帰りに、屋敷の使用人が唐突に車で迎えに来てから、全てが変わってしまった。

 父親――読水奏馬が、鏡宮悟と共同でこの『欠片』の探求をしていたのは知っている。そしてその研究成果、あるいは『欠片』そのものを奪い取る為に、聖堂教会は読水家の屋敷を襲撃したと聞いている。

 全てはこの小さな木片――『欠片』から始まった。そして未だ代行者やバーサーカーのマスターまでもがこの『欠片』を狙うことから、読水はこの『欠片』が何であるかを、何となしに気づき始めている。

「………」

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。しかし読水にとっては、鏡宮や聖堂教会が中心に見据えるこの『欠片』など、心底どうでも良かった。

 今、読水の心の奥底あるものは……読水家の生き残りとしての使命感であり、家族を奪った聖堂教会への復讐心であり、十年前から続くこの因縁に決着をつけんとする意地だ。

 いや、それ以前に……気に食わなかったのだ。

 自分達だけが中核だと言わんばかりの、あの年寄り共の姿が。

 十年間ただただ隠れ潜み震えるばかりの、この腰抜けの姿が。

 だから、読水はこの日坂の地に戻ってきた。

「……そんな単純なものでもねえよ」

 ランサーの質問に、読水はそう答える。そして話は終わりだと言わんばかりに、テーブルに鞄を置き、荷物を確認し始めた。読水の背中を見守りながら、ランサーは悲しげに首を横に振った。

「ランサー、もう過去を振り返っている場合じゃないだろ」

 読水はそう告げると、鞄を閉じて顔を上げる。

「今やるべきことは、あの二枚舌が何をやってのけたか、確認することだ……そろそろ現場に行こう」

 考えている暇はない。そう、読水は自分に言い聞かせるように呟いた。

 

 

 

 午前中、読水とランサーは運送会社が管理しているとある倉庫に、あのウィリアム・シンが死んだ場所へとやってきた。

「ガス漏れだって」

「本当? 君、この辺に住んでる子?」

「関係者に、ガス漏れだって聞いたよ」

「本当に?」

「ガス漏れだって、みんなそう言ってるよ」

 立入禁止を示すトラテープの手前では、マスコミ達が偶々近くを通り過ぎた風を装っている女子高生にインタビューをしている。しかし彼女、実際は暗示を得意とした聖堂教会の工作員のだろうが、昨日もホテルの前で似たようなことを言っているのを見かけた気がする。

 そんな連中の横を通り過ぎ、読水達は警官が立つ門を通って敷地内に入る。

「……凄まじいな」

「……はい」

 コンクリートの外壁は割れ、黒い焼け焦げを残している。建物の外にも瓦礫は転がっており、アスファルトの地面には抉れたような破壊の爪痕を残していた。敷地内はただの火事、ガス漏れと呼ぶにはあまりにも凄惨な状態となっていた。

 聖堂教会の職員(昨日も会ったはずだが、名前を忘れた)に案内され、建物の中へと入っていく読水達。周囲のザワつきを無視し、周囲を見渡しながら案内役の職員に聞く。

「あの代行者は? もう帰ったのか?」

「シュウジ・アルバーニ神父でしたら……我々と同時刻にこちらへ。明け方には別の要件で出ていかれましたが……」

「あっそ……まあ、いないならいないで楽だ」

 そう呟いて、読水は立ち止まった。

 目の前にあるのは、この惨状の爆心地とも言える場所。そして、この地で戦い果てた、一人の男が最後を遂げた場所。

 ウィリアム・シンが、死んだ現場である。

 そこには花束が一つ、添えられていた。

「……ここか?」

「はい……遺体は既に回収しました。この場から逃走したアレクシア・ブロッケンの方は、現在捜索中です。……それと、この花束は、我々が撤収するまでは置かせて頂いております」

 黙って背後の職員を見やる読水。職員――早崎は直立不動の姿勢のまま、毅然とした声でこう続ける。

「任務に反する行いですが、我々も聖職者です。黙って遺体を運ぶ訳にもいきません……それに花を添えるだけなら、互いの教義や理念に触れることもありませんので」

 聖堂教会と魔術協会、二つの溝は深い。一族の悲願を背に戦い、散った魔術師にとっては、聖堂教会からの祈りの言葉さえ侮辱になりかねない。

 故に、許される範囲で死者を送る。黙って花だけを添えるその行為こそ、聖職者である彼らなりの矜持なのだろう。

「……そっか」

 隣のランサーは、黙って頭を下げていた。それを咎めるほど、読水も意固地にはなれなかった。

 読水はそして、意を決して花の前で膝を折り、屈み込む。

 祈る為ではない。読水は魔術師であり、またウィリアムも魔術師だった。祈りの言葉など必要としない。

「ランサー、周囲を見張れ。『辿跡術』で、戦闘の経緯を探る」

「承知しました」

 そう、読水がやるべきことは、この戦いの跡から生き残ったアレクシアを討つこと、その為に現場に残る情報を掬い取ること……ここからは、魔術師の領分である。

「……ああ、それと」

 と、意を決して痕跡を辿ろうとしていた読水だが、ふと背後の早崎に聞く。

「……なあ、本当にキャスターはまだ消滅していないのか?」

「ええ。霊器盤では、キャスターの消滅は確認できていないようです」

 その回答に、読水は顔をしかめる。

 昨夜、シティホテルでウィリアムに謀られたことを悟った読水は、彼が言及した残る二ヶ所の一つ、寂れたシャッター街へと急行した。しかし残っていたのは刃物によって切断されたアダムの人形や戦いの痕跡ばかりで、そこにはキャスターも、捕らわれている佐藤もいなかった。

 そして、シュウジが駆けつけた倉庫……こちらにはウィリアムの死体だけが残されていた。状況証拠的には、ウィリアムとキャスターは別れ、ウィリアムがこの倉庫にてアレクシアと対峙し死亡、キャスターはシャッター街で人形と戦うもマスターの死亡により消滅……と考えるのが自然なのだが、問題は佐藤の存在だ。

「……それと、これは内密にお願いしたいのですが」

「何が……?」

 と、早崎も屈んで読水に耳打ちする。

「ウィリアム・シンの遺体には、令呪を三画使用した痕跡がありました」

「……確かか?」

 黙って頷く早崎。

「………」

 嫌な予感がする。

 見れば、ランサーもまたこちらを見ながら目を細めていた。

 マスターという、現世に留まる為の楔を失ったサーヴァントは消滅してしまうのが常だ。しかし、令呪で以ってマスターの死後も生き永らえるという事例は複数ある。それにマスターが失っても、必要な魔力を確保し化け物のように現世にへばり付いていたサーヴァントも読水は見たことがある。

 そして、やはり鍵となるのは佐藤の存在だ。

 魔術師でもない彼女は無自覚なのだろうが、あのライダー――大英雄の従者、若獅子の導き手、あのイオラオスのマスターだった。その現界に足る魔力を確保できていた女だ。

 キャスターは令呪の力で生き長らえており、そして佐藤がウィリアムに代わるマスターとして再契約すれば、即座に復帰できる状態にある。

 ランサーの真名を知っているというキャスターは、まだ終わってないのだ。

「………」

 面倒だな。と、ついに読水は口に出して呟いた。

 

 

 

 その頃。

 佐藤とキャスターは、郊外に設置されたパーキングエリアの脇、山沿いに設置された高台の東屋にいた。

 椅子から露出した金属部が冷たかった為、佐藤は木製のテーブルに直接腰掛け、自販機で売っていた惣菜パンを齧る。

 そんな彼女を見ながら、東屋の柱を背に地面に座り込むキャスターは愛刀を肩に立て、何か思案するように寂れた無人のパーキングエリアに視線を移したり、ぼんやりと寒空を見上げたりしていた。

 そんな様子のキャスターを、佐藤は紙パックのジュースに直接口をつけて飲みながら横目で観察していた。しかし業を煮やしたように、紙パックを横に置き。

「……で?」

「ん……?」

「これから、どうするの?」

 そう質問し、テーブルから飛び降りる佐藤。今までの疲労からか、彼女が座っていたテーブルには空になった飲食品がレジ袋に纏められ置かれていた。ここに辿り着いてから四半日ほど、佐藤は失った体力を取り戻すように食い、眠り、食べた。

「それが問題だ」

 キャスターは応えながら、老体をゆっくりと立ち上がらせた。

「ウィリアム君……私のマスターは死んだものの、彼の機転によって私はこうしてこの世界に留まれているが……消滅は時間の問題だろう」

そうキャスターは言ってから、口端を上げた。

「だが、それはあの魔女も同じだ」

 あの魔女。その単語に反応し、佐藤の顔は険しいものになる。

「先の戦いで、奴の手元に残った令呪は一つだけとなった。サーヴァントすら屠るあの常軌を逸した力も、その能力を体に宿しているのも、元を辿れば令呪の膨大な魔力があってこそ。そう、ウィリアム君は確信していたよ」

「……だから、私の令呪を腕ごと奪った」

 失った腕を庇うようにして、佐藤は言う。その言葉に、キャスターも頷いた。

「しかし、我々の令呪は奪うのには失敗した。サーヴァントも部下も失い、さらには令呪の大部分も失った奴は今や、飛車角落ちの状態だ。残された道は他のマスターから改めて令呪を奪い再起するか、残る令呪を玉砕覚悟の一撃に使うくらいだろう」

「……なら、彼女はきっと奪う方に出ると思う」

 佐藤はそう意見した。厳密に言えば、残る令呪を惜しみなく使い、彼女は令呪の強奪に出るはずだ。

 何でも使う、というやり方でこの世界から欲しい物を奪う。それが魔女、アレクシア・ブロッケンだ。彼女にとってはあの妹分のようなミア・ブロッケンも、サーヴァントも、自身すらも等しく“奪う為の手駒”に過ぎない。令呪を出し惜しんで、令呪を使わぬまま死を迎える彼女の姿など、あの怪物性を見た佐藤には想像できなかった。

「……私も、同意見だよ」

 キャスターは椅子に立て掛けていた刀を手にし、腰に差しながら佐藤に背を向ける。

「私も近いうちに、最後の戦いの為、行動を起こす……起こさねばならない」

「……うん」

 そんな気はしていた。キャスター――このサーヴァントとは出会ってまだ二日と経ってないが、彼のマスターに対する義理堅さ、英霊としての矜持については佐藤も察していた。

「その時、あの魔女もその混乱に乗じて行動を起こすだろう。恐らく、ランサーかバーサーカー、どちらかのマスターを狙うはずだ」

 キャスターは懐から財布を取り出して振り返り、佐藤の前のテーブルに置く。

「紙幣で、それなりの額が入っている。本来は私のマスターから渡されていたものだが……それで君はここを離れ、令呪を渡さぬよう動いてほしい」

 佐藤は黙ってその財布に視線を落としていたが、やがてクツクツと笑い。

「私が、その頼みを聞くって保証は?」

 と、悪戯な笑みをキャスターへと向けた。

「聞き入れるとも」

 キャスターも、その挑発に目を細める。

「私のマスターになるかは迷うだろうが、あの魔女に関しては是非もない。あれだけの屈辱を喰っておいて、そのままあの魔女を野放しに逃げるようなタマではなかろう? ……っと、失礼」

 そう言って、キャスターは苦笑しながら頭を下げた。その様子に佐藤も釣られて吹き出す。この物言い……これがキャスター本来の気性、我武者羅の新八(ガムシン)と呼ばれた永倉新八の口調なのだろう。

「分かった。こっちは任せて」

 ひとしきり笑った後、佐藤は頷き財布を手に取る。

 そして踵を返し、ここを颯爽と立ち去ろうとパーキングエリアへと続く階段を降りるが。

「……ねえ、キャスターは聖杯戦争に勝ち残ったら、何を聖杯に望むつもりなの?」

 振り返って、佐藤はキャスターに問いかけた。

 その言葉に、キャスターは首を傾げて頬を掻く。

「……今を生きる君にとっては、下らんものだよ。ただ、過去の影に過ぎぬ者にとっては、正したい偽りというものもある」

「正したい、偽り……」

「勝てば官軍、歴史は勝者が作る。しかし忘れたくないこと、忘れて欲しくないことは、敗者にだってあるのだよ。……それが友のことならば、尚更に」

「それって……」

 その真意を聞こうと、佐藤は思わず片足を登りの階段に掛ける。しかし、キャスターはそう言うと一礼し、霊体化してしまった。

「………」

 佐藤はしばらくの間、黙って彼が消えた場所を見ていたが、やがてその足を戻し、そのまま階段を降りていった。

 

 

 

 昼過ぎ、読水達は調査を区切り倉庫から出ることとした。

「あの、何か分かりましたか?」

「教えねえ」

 聖堂教会の職員、早崎の質問にそう応え、読水はさっさと崩壊しかけの建物から出る。

 その時、読水は一人の神父とすれ違った。

 その初老の男に対し、読水は何の意識もしていなかった。そのままここを立ち去ろうと、歩を進めていた時だ。

「……君が、ランサーのマスターかね?」

 そう、神父の方から呼び止められたのだ。声を掛けられた為に読水は立ち止まり、振り返る。

「そう言うあんたは?」

「マリオだ。この亜種聖杯戦争の監督役を任せられている……だから、そう身構えんでも大丈夫だよ」

「……チッ」

 読水は、分かりやすい舌打ちをしてみせた。しかしその初老――マリオはとりあわず、笑みを浮かべてこちらへと歩み寄る。

「君とライダーのマスター、そしてこの騒ぎを起こしているアサシンのマスター……この三人は正式に参加を表明していなかったからね。もう開戦から二週間近く経つのに、初めての挨拶となる」

「……自己紹介なんざ無意味だろ、聖堂教会」

 その社交辞令に、心底うんざりしたように応える。

「それとも……初日から俺に代行者を送っておいて、俺がここに来るのを知らなかったって言いたいのか?」

「ふふ……それは私の管轄の外で起こったことだよ」

「……下らねえ」

 読水はマリオを睨み、そう吐き捨てる。それで話は終わりだと言わんばかりに背を向け、ランサーを連れて歩き出す。

「読水、読水、読水……そうだ、思い出したよ。確か、十年前に死んだ一族の当主も読水と言ったか」

 しかし、その歩みはマリオの一言で止まる。

「この日坂市で、鏡宮と共同で研究をしていた一族だったかな。そうか……君がその跡取りという訳か」

「………」

「……マスター」

 歯噛みする読水に、早く行った方が良いと、ランサーは主の肩に手を置いた。しかしマリオはそんな二人に言葉を畳み掛ける。

 

「私だよ。十年前の、あの日……襲撃の指揮をしていたのは」

 

 その告白に、読水は心の奥底に消えていたはずの黒い炎が燃え立つのを感じた。

「マスター……ッ」

「ついに正体を表したな……なあ、おいッ!?」

 静止しようとするランサーを押し退け、読水は殺気立って振り返る。

 その剣幕に、周囲の聖堂教会の職員は横合いから二人の間に割って入る。そんな周囲の騒ぎをどこ吹く風と、マリオは笑みを浮かべ、口を開く。

「……あの『欠片』は、まだ君が持っているのかね? それとも鏡宮に尻尾を巻き、預けてしまったか?」

 そう聞くマリオの目は笑っていない。獲物を狙う猛禽類のように鋭く、読水を見つめる。

 対する読水は黙って胸元からペンダントを取り出し、犬歯を剥き出しにしてマリオの眼前へと迫った。

 

「……こいつは、この()()()()()は読水の物だ。誰にも譲る気はねえぞ、クソジジイ……ッ!」

 

 

 

 

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