Fate/reselect 作:Fate/reselect出張所
メリークリスマス!!来年も変わらず、定期的に更新していければと思ってます!
※前回のあらすじ
――征くぞ。と、剣士は告げた。……ッシャオラ! 得意分野での勝負に持ち込めた! と思った。
――応。と、魔術師は受けた。……ッシャオラ! 好相性な状況での勝負に持ち込めた! と思った。
そして研ぎ澄まされた刃が、互いの血を求め揺れ動く。
第三十四話『攻撃性』
「……ハッ…ハァッ……クソッ」
これで、何度目の悪態か。
地下鉄のホームから線路に下り、暗がりを壁伝いに進む。
激しい動機と、息切れ。読水の足取りは重く、既に歩きに近い速度だった。
それでも、前に進むしかない。
自身を犠牲に読水を逃した彼女――ランサーについて因果線で把握できているのは、彼女がアレクシアに心臓部を穿たれたことだ。
背後では重い衝撃音と、振動が響いている。今ここで読水が戻ったところで、ただただ犬死するだけだろう。
「………」
……本当に、そうなのだろうか。
読水は壁に肩を押しつけ、息を整える。そして、ポトポトと汗を落としながら、ジッと右手の甲に視線を落とす。
――人のままくたばるか、外道になって生き抜くか……道は一つだ。
また、脳裏にあの台詞が蘇ってくる。
それは五年前、師に贈られた言葉。夢の中、逡巡の中で、何度だって聞いた人非ざる……男の台詞だ。
――選べよ、読水竜也。
「……違う」
読水は被りを振った。
「……
……それだというのに、これは一体何度目の迷子だ。
読水は拳を握り、迷いを振り切るように拳を壁に叩きつける。
固く握り締めた右拳、しかしコンクリート壁の前ではそれは柔らかい血と肉に過ぎない。
しかし、だからこそ痛みと共に取り戻せる。一〇の危険も一〇〇の損害も覚悟して、欲した一、ただそれだけを掴み取る……そんな自身の破滅を厭わない攻撃性。読水竜也という凡庸の中に潜む、一番強い部分を。
「欲しいのは聖杯じゃあない……決着だ」
――俺は
壁を殴ることで得た、骨にまで伝わる甘い痺れ。その痺れがなくなるのを待たずに読水はゆっくりと顔を上げ、再び力強い光をその眼に宿した。
――新選組二番隊組長、永倉新八。
――その真名に行き着いた時、生真面目なマスターの手前であっても尚、悦びを隠すことができなかった。
片手でロングソードを突き出すセイバー――国土回復の英傑、ロドリーゴ・ディアス。
両手で日本刀を構えたキャスター――妄執の魔狼、永倉新八。
研ぎ澄まされた刃が、互いの血を求めて揺れ動く。セイバーが剣先を上下に揺らしつつ一歩前に出れば、キャスターは影のように引いて攻めるタイミングを狂わせてくる。
そんな駆け引きの中で、セイバーは眼前の敵を見据えて思いを馳せる。
――江戸幕府が終焉の時、最後まで幕府側として抗った侍。
――セイバーというクラスにおいて、侍という言葉はひとつの
――その侍が生きた最後の時代、その中でも最強と称された一角がこうして、己に牙を向いている。
一瞬、互いの剣先が触れる。
瞬間、セイバーとキャスター、二人の手が高速で駆動。剣を通じて相手の姿勢を崩さんと剣が絡まる。それは一瞬の閃きとガラスが割れるような音を響かせ、弾かれるように離れて未遂に終わる。
「……フフッ」
セイバーは、思わず笑った。
――肌に受ける、この圧力と引力。芯に響く、殺意と技量。
――魔術師ながら、セイバー相手に一騎打ちを受ける胆力。
――これが侍、これが新選組。これが、永倉新八なのだ。
――素晴らしい。
――聖杯戦争ならでは妙。彼の者を失い果たされぬと思われていたサーヴァントとしての本懐は、今ここに極まった。
セイバーは顎をしゃくらせ、背筋をグイと伸ばして自身の剣を脇へと押しのけると同時、頭からフワリとまるで酔いが回ったようにキャスターの間合いへと踊り入れた。
「………っ」
間髪入れず、キャスターは刀を突き込む。
狙いは喉。上半身を捻った左片手突きによる、踏み込みも予備動作もない高速の一突きだ。
セイバーはそれを足先だけのステップで楽々と横へと躱す。
そして、スナップを利かせた剣の振り上げ、腰を落としての振り下ろし、そして深く踏み込んでの突き。片手打ちながら、顎への撥ね切り、縦一文字、胴を狙った串刺し――都合、一撃必殺を三連撃。電光石火の如き剣撃をセイバーは奮った。
しかし、キャスターは未だ立っている。見れば突き込まれた剣を刀で横へといなし、こちらをジロリと睨んでいた。
セイバーは即座に次の手を打つ。
刃を返し、剣先をキャスターの背後、そのより遠くへと伸ばす。
そうすることでセイバーは剣先を回り込ませ、キャスターの退路を塞いだのだ。
それは突いた剣は即座に手元に引き寄せるべきという定石に反し、それどころか更に手元から遠ざけてしまっているという剣術の常識を完全に無視した無茶な戦術である。だがその常識外れな一手こそが、キャスターの読みを上回り彼を瞠目させた。
「ぬんッ!!」
そしてセイバーは片膝を地面に下ろしながら、剣を右から左へと振り落とす。キャスターを己の剣と腕で抱え込んだラリアット――普通ならこちらの手首が負荷で壊れかねないような力技で彼を地面に引き倒そうというのだ。
手応えは、あった。
セイバー軽い老人の体重を、右手に確かに感じた。
このまま剣を振り抜けば、キャスターは地面に叩きつけられるはず。セイバーはそう確信した。
しかしその手応えは、次の瞬間には消失。力が空転した。
気づけば、セイバーはキャスターを片膝立ちとなり、剣を地面に振り下ろし切っていた。
頭上には、キャスターがいる。
いつ、どうやってあの絡め技から脱出できたのかは分からない。
だがこの一瞬で最も重要な事実は、その脱出したキャスターの白刃が、無防備に首筋を曝け出したセイバーの首へと振り下ろされようとしていることだ。
「っくぉ……!?」
セイバーは片膝立ちの姿勢から真横に飛び跳ね、振り落とされた刃を飛び躱す。そしてその大きな体を積もった雪の上で滑らせ横転。身を翻して立ち上がると同時に剣を腰だめに構えた。
「………」
セイバーはビシリとした構えに相応しいその険しい顔つきを、やがてゆっくりと破顔させた。額から一筋、汗を流す。
身の危険に地面へと躊躇なく転がり、しかも反射的に身構えた。
先程の自分に、いつもの余裕などまるでない。そこまで追い込まれたのだ。そのスリルに、思わず笑みが溢れてしまった。
その様子を見つめながら、キャスターは静かに刀を持ち直し、深く息を吐きながら中段に構え直した。
――問題は、先程見せたあの妙な技だ。
と、セイバーは剣を構えながら思案する。
セイバーのロングソードの攻撃を、手にした日本刀の側面で押すことで軌道を逸らし、攻撃を捌く。
剣で受けるよりは高度ながら、技自体はそこまで珍しいものではない。しかしキャスターの場合、その技の精度、そして反応速度が常軌を逸している。
取り分け最後……あの互いの剣が触れ合った状態で、全力で振り抜かれた横薙ぎの一撃を、しかも一撃の最中で行動を決意し実行に移すなど……あれなどは、セイバーであっても不可能だろう。それこそ、令呪で速度を強化してようやく到達できる境地の神技だ。
――つまり、この私に対する勝算は、あの剣技にこそある訳だ。
セイバーはそう確信すると、剣を振って気持ちを改めた。
――良し、攻略すべきものは分かった。
そしてセイバーは、歩くことで必殺の間合いまで残された空間を踏み潰していく。挑むべきものが分かった以上、後は真っ向勝負でそれを叩き切るだけだ。
戦いは、まだ始まったばかりだ。
高速道に沿うように建てられた電線が、定期的に来る振動によってユラユラと揺れていた。
「オウッラァァアアアアアッ! 」
狂戦士は咆哮と響かせ一人、新選組の隊士達を相手に己が役目を全うしていた。
雄叫びを上げ、飛び掛かる。斧で切り払い、拳で叩き潰し、ルーン魔術を宝具『歯と舌』で使いこなす。バーサーカーの直線的ながらも多彩な暴力性は嵐のように隊士達を巻き込み、蹴散らしていた。
しかし、そんな嵐であっても生半可には倒せない敵が複数いた。
「オラアッ!」
周囲の隊士達を指揮している様子の隊士へ一気に肉薄し、その胴に強引に斧を突き込み貫通させる。しかしその隊士は、一瞬取り落とそうとした刀を再び握り、バーサーカーの肩口に刃を食い込ませた。
不意の一撃に、バーサーカーは歯噛みする……
レオポルディーネの予想が正しければ、これまでの隊士達と宝具の全力解放によって生まれた隊士達の霊体はここが違う。これがあるから、やり辛いのだ。
しかしバーサーカーは次の瞬間には隊士の顔面に平手を打ち込み、停車してあった車両へと隊士を突き飛ばした。
自動車のドアを凹ませながら、隊士は背中を強かに打ち付ける。そしてその背中がドアから剥がれ落ちるよりも速く、自ら突進してきたバーサーカーによって隊士は車両にめり込んだ。
まるで交通事故。突進の衝撃で車を横転させながら、バーサーカーは口に溢れた血を地面へと吐き捨てた。
「………」
都の治安維持、反政府活動家の弾圧を行っていたという新選組……その中には、名の知られた武士が多くいると聞いている。先程、相打つようにバーサーカーを斬ってきた隊士も、恐らくそんな連中の一人なのだろう。
「……次はどいつだ。それとも、まとめてかかってくるか?」
皆殺しだぜ。と、啖呵を切って斧を大仰に構え直すバーサーカー。
しかし……。
“バーっ! サーっ! カーっ!”
因果線で結ばれたマスター、レオポルディーネの念話での叫びがバーサーカーの興を一気に削いだ。
“……お前。おまえ空気読めよ! 今、結構良いところだったろ!?”
“知るかぁ! あんた、さっきのでまた狂化スキルが上がったわよ! もっと制御して戦いなさい!”
“それこそ知るかぁ! それができりゃ狂戦士なんかで召喚されるか、このバーカ!”
“なぁん……今私のことバカって言ったかぁ? バカって!? ちょっとコラぁ!”
“……バーカッ!”
“なああああッ!?”
北欧の巨人の血を引く、ベルセルクのバーサーカー――真名エギル・スカラグリームスソンの狂化スキルはE-ランクと低い状態ではあるが、そのランクは変動し最大でAランクまで上昇する。
それはランクが上がった分だけ理性は溶け、彼の能力は飛躍的に上昇することを意味するが、その分マスターに供給される魔力は上昇する。しかもCランクに達してからは令呪なしには上昇が止まることを知らない諸刃の剣なのだ。
こちらの喧嘩などお構いなしに攻めてくる隊士達を足蹴にしながら、バーサーカーはレオポルディーネと念話を続ける。
“バーサーカー……さっき、Dランクまで上がってたわよ。これでCランクになったら、復帰にはもう令呪を使わざるを得ないわ。そうなったら……”
“……チッ、分かってるよ”
“本当に分かっているんでしょうね? 残る令呪は二画。私達の計画には、この二画は小出しにはできない”
“だから、分かってるっての”
これくらいの狂化なら、お前の五月蝿い声で充分目が覚める。そう言いくるめると、バーサーカーは話題を変えた。
“で? そっちはどうだ?”
レオポルディーネと佐藤は、シュウジと共に街へと戻る決意をしていた。つまりキャスターはセイバーが、キャスターが街へと侵攻させている隊士達はバーサーカーが、キャスターの宝具はアーチャーがそれぞれ対処し、背後の街で暗躍している魔女アレクシア・ブロッケンはマスターら三名が駆けつけるという布陣だ。これならばサーヴァント達が対する敵は最悪でも五分、マスターはいざという時に令呪でサーヴァントを瞬時に呼び戻すこともできる。
しかし……。
“到着には、まだ時間がかかるわ。乗り捨てられた車が邪魔なのよ。しかも雪で視界も悪くなってる……あの神父みたいにバイクなら、間をすり抜けられて行けたんだろうけど”
というか、もうすり抜けて先に行ったんだけど……。と、レオポルディーネはボソリと呟く。その様子にバーサーカーは、使えねえ、と舌打ちした。
“行きに散々どけてやったろ”
“……後ろにポイポイ、放り捨てていたでしょ”
“……あー、んー……”
なら、しかたないな。そう結論づけるバーサーカーに、レオポルディーネは溜息をつく。
その合間にも、敵は次々とバーサーカーへとやってきて周囲を取り囲んでいくが。
“ちょっと、大丈夫なのよね? そっちは……”
“心配すんな、レオ”
こいつら如き、素面で充分だ。
バーサーカーは敢えて口に出して、そう告げた。
「……おい、聞こえたか? 雑魚ども……hagalazッ!」
バーサーカーは宝具『歯と舌』を発動、手に握られた氷の礫を、まるで散弾のように敵へと投げつける。
その氷の弾雨を掻い潜り、セイバーと戦っていた二刀流の剣士と槍の使い手が迫る。
バーサーカーと打ち合いながらも一歩も引かぬ二人の隊士、そしてその二人との攻防に意識を集中していると、背後からの左片手突きが腹を抉り、片肺を切り裂いた。
「………ッ!?」
不意の一撃によって起こる硬直。体をくの時に曲げたバーサーカーへ、槍使いや二刀流の剣士だけでなく、周囲を囲んでいた隊士までもがバーサーカーへと迫り、次々と得物で彼を刺していった。
幾つもの得物によって胴を突き刺され、血を溢れ出させ静止するバーサーカー。
しかし。
「クッ……ヘヘッ、ヘハハハハッ!」
バーサーカーは天へと顔を上げると、壊れたように体を震わせ掠れた笑い声を上げた。その度に、片肺のダメージからか空気が漏れるような奇妙な音が口から吹き出る。
直後、バーサーカーの体からルーン文字が浮き上がると同時、その体はアスファルトの土人形となって崩れ落ちる。
バーサーカーを得物にて刺し貫いたと思っていた隊士達は、事態の変化に戸惑いバーサーカー本人を探すべく周囲を見回す。
そんな彼らが見たものは、四方からこちらへと迫る鉄の塊――ルーンによって操作された、この高速道の至る所で乗り捨てられていた自動車の群れだった。
そう、神秘薄き時代に生まれ、魔術を知らぬまま散っていった彼らはあまりに無知であった。
ルーン魔術は本来、文字によって神秘を発言させている。
詠唱など……ましてや叫ぶ必要など、一切ないのだ。
「!?」
驚愕する隊士達を、暴走する牛の群れのように自動車は次々に撥ね飛ばしていく。
バーサーカーの片肺を潰した、片手突きを得意とする剣士。彼もまた、次々に突っ込んでくる車両を躱していた。右に、左にとヒラヒラと車を回避していたが、ついには背後から突っ込んできた軽自動車によって空中へと跳ね飛ばされる。
グルグルと回転する剣士。
そこへバーサーカーが狂気を剥き出しに迫る。
車両を蹴りつけ、飛び超え、途中の敵は残らず殺し……脇腹に流れる血潮を尾に引きながら凶暴な笑みを露わにして、バーサーカーは剣士に飛び掛かる。
そして……着地を待たず、通り抜け際に斧で以って剣士を両断した。
「ヘッ……どうだ、おい」
口から血を零しながら、二つになった状態で空から落ちる雪のように霧散していく剣士の最後を見送りつつバーサーカーは着地する。
“おい、見たかよレオ。なあ、おい?”
裂かれた腹部に手を添え、魔術で回復しながらバーサーカーは、自慢気にマスターであるレオポルディーネを呼びかける。
レオポルディーネはそんな彼に対し最初は無言であったが、やがてイライラと念話を返した。
“……あんた、今のでまた狂化スキルが上がったわよ……オマケに割と致命傷”
“……すいませんでした”
バーサーカーは令呪で殺される前に、素直に謝ることにした。
それは彼が生前、調子に乗った挙げ句に拘束され、そんな状態で『血斧王』と呼ばれたバイキングとその妻である魔術師の前に突き出された、あの絶体絶命の時以来のことであった。
均衡を破ったのは、一発の弾丸だった。
破壊されてゆく地下鉄のホーム。
その破壊の中心点にいるのは聖人と変貌しつつあるシュウジ・アルバーニと、異形と化したアレクシア・ブロッケン。二人の戦闘は、正に神話の戦い。聖と邪、剣と魔によるせめぎ合いであった。
そこに.357マグナム弾が割って入り、アレクシアの側頭部を揺らした。
硬い音が鳴り、弾丸は明後日の方向へ弾き飛ばされる。アレクシアに対したダメージはないが、その鉛玉はシュウジを殺し合っているアレクシアの意識を一瞬、弾丸の方へと誘導させた。
その一瞬を逃すシュウジではなかった。
アレクシアを中心に円を描くように駆けていたシュウジは、タイルを踏み割って行動を変える。連続で側転しながら宙へと飛び跳ね、天地を逆さまにした状態で天井を両足で踏む。そしてシュウジは天井を踏み台に身を翻し、跳び蹴りをアレクシアの肩口に叩き込んだ。
アレクシアの正中線に対し鋭角な線を描いた飛び蹴り。その衝撃に、アレクシアは地面でバウンドし、後方へと地面を転がる。
「おい! 今のうちだ代行者ッ!」
「……ッ!? あいつ馬鹿か……っ!?」
ホームより外れた、トンネルの方から叫ぶ読水。その様子にシュウジは思わず声を上げた。
なぜ、まだ逃げていないのか。幾つもの疑問が浮かぶが、しかし今は聞いている余裕もない。シュウジは運び屋の手招きに従い、トンネルの暗がりへと走った。
「今のうちに距離を稼ぐぞ、走れ!」
「当たり前だ、運び屋ぁッ! もっと急げ!」
シュウジは怒声を投げかけながら、先導するように走る読水を援護するように時折背後の振り返りながら走る。それでも尚、シュウジの方が速い。
「それに、何故お前がまだここにいる!? 逃げたんじゃなかったのか!」
「うるせえ……こっちだって、色々あるんだ!!」
「お前の都合なんて聞いちゃいない! 大事なのはお前が運んでる“欠片”だ!」
思わず出た言葉だった。
しまった。そうシュウジが思った時には、読水の顔は見る見るうちに険しいものになっていく。
「知っていたのか?」
「……いや、知ったのは今日のことだ。聖杯のことも、十年前のことも、任務を受けた時は何一つ聞かされてはいなかった」
「………」
「それに私自身、どうやらマリオ神父の計画の一部に組み込まれているらしい」
「………? それ、どういう……」
その言葉の意味を読水が問い詰めようとした、その時だ。
背後から伸びてきた光線が二人の頭上を掠め、そして前方へ抜けていく。そして閃光が止んでから、凄まじい衝撃波が体を叩く。
「あぁっ……クソッ!」
読水は毒づいて左手に持っていた鞄を担ぎ、後頭部を守るようにしてその場で屈む。衝撃波はトンネルの壁を伝わり、一直線に抜けていく。
シュウジは衝撃が収まるのを待たず、読水を立たせて走らせる。
「何やってる!? 走るんだ運び屋! わざわざこんな……碌に障害物も何もないこんな狭い空間に案内して……勝算はあるんだろうな!?」
「ある! ……あるが、今は逃げる!」
「なにぃ……っ!? お前、何を言って……」
「ランサーが目を覚ますまでぇ、逃げるって言ってんのぉ!」
物分りの悪い子供を諭すように、口調を荒げながらそう告げる読水。シュウジはその怒声に毒気を抜かれ、少し冷静になって言葉を返す。
「……逃げるのに夢中で、気づいてないのか? ランサーはもう、アレクシアにやられている。改札口の前で倒れているのを見たぞ」
「………」
シュウジの言葉に、読水は黙って右腕を突きつけてきた。
彼の手の甲には、黒い波紋のような紋章――残り二画分の令呪が、確かに残されていた。
「令呪……じゃあ、ランサーは……」
「念話の呼びかけには応じない。だが令呪が消えてない以上、ランサーはこの世界から消滅してはいない」
あいつはまだ、生きている……ッ!
そう読水は、自分に言い聞かせるように小さな声で、だがしかし、強い語気でもってそう宣言した。しかし続く第二の光線とその衝撃波に転倒してしまう。
シュウジはそんな読水に駆け寄って、立たせようと彼の両脇に手を入れる。
「立つんだ! 走れっ!」
「……代行者、前に言ったよな? 例え聖杯に近づけるのだとしても、お前と組むのはゴメンだと……あの言葉、撤回するぞ」
「この状況で何言ってるんだ、お前は……!?」
迫る脅威から遠ざからせようと読水を立たせようとするシュウジを前に、読水は声を荒げて彼に掴みかかった。
「あいつがこれまでしてきた事を、許す気はない……あいつをブチのめす! その作戦もある! お前だって、あいつにムカついてるはずだ……っ!」
「………っ」
「なら、黙って手を貸せ! 代行者!」
「……シュウジだ」
「あぁ……!?」
「シュウジ・アルバーニだ。協力して欲しいなら、今度からそう呼べ!」
シュウジはそう言うと、掴まれた読水の手を払う。
その拍子に支えを失った読水は尻もちをつくが、シュウジは構わずにアレクシアが迫る背後へと振り返った。
「ランサーを待つまでもない。さっき言っていた勝算を教えろ……俺がお前の剣になってやる」
「………」
「俺達で、あの化け物を狩るぞ……っ!」
読水は呆然として殺気立ったシュウジの横顔を見ていたが、やがて意を決して同じ方向に体を向ける。
「俺の相棒は『槍』だ、シュウジ・アルバーニ……読水竜也だ」
「ああ、知ってる」
……嫌になるが、良く知っている。と、シュウジは天井を仰いで呟く。
……クソ神父が。と、その嫌味に対し読水は悪態をついて、下を向く。
そして僅かに口端を上げた二人は改めて正面を睨むと、無言でそれぞれ武器を抜いた。