Fate/reselect   作:Fate/reselect出張所

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Fateシリーズの二次創作です。
クリスマスプレゼントは、そっと枕元に添えるものです。
新作だ読め!!!!!!!!!!!(大声)
※これまでのあらすじ
鏡宮「この瞬間を待っていた」
鏡宮「聖杯戦争開始から、作中の期間にして二週間……リアルな年月にして 四 年 半 だ」
鏡宮「もう一度言う……この瞬間を!!!待っていたぁあああ!!!!!」


第三十八話『裏切り』

第三十八話『裏切り』

 

 

 

 暗い地下。人工的な明かりが硬いコンクリートを照らす。

 そんな冷たい世界を、得体の知れないものが呼気もなく這いずっていた。

「………」

 朽ち果てた身体を精神で引きずって、壁に手を付きながら一歩、また一歩と前へ進む。

 ランサーの一撃を受け、崩落するトンネルの瓦礫へと呑み込まれたアレクシア。

 あれからどれだけの時間が経ったか、アレクシアは瓦礫の中から這い出し、どこの施設とも知らぬ地下空間を彷徨い歩いている。その身体の中心部はランサーの一撃によって大きく穿たれ、傷口が再生する気配はない。さらも皮膚の表面から覗いていた異形の眼も、既に白く濁って動かず、呼吸さえ失って久しい。

 満身創痍、という言葉では最早足りない。魔力を枯渇させた彼女の肉体は今、死滅しようとしていた。

 しかし。

 ……まだだ。まだ、終わってない。

 それでも彼女自身の瞳には、未だ消えない渇望が燃えていた。

 ……こんな薄暗い、何もない世界で。

 ……こんな所で、独り終わって堪るものか。

 途切れ、地面へと吸い込まれそうになる意識。アレクシアは壁に付けた五指に力を込め、その感触で落ちようとするモノを繋ぎ止める。

 ……十九年前には、手を伸ばしても届かなかった。

 ……そして先程は、届く前に横合いから阻まれた。

 ……だから、今度こそ。

「……いや、今度こそ終わりにしよう。アレクシア・ブロッケン」

 

 乾いた銃声が、冷たい世界に響き渡った。

 

 その銃声が自分を狙ったもので、心臓部に受けた衝撃が銃撃によるものだと気づくのに、アレクシアは少しの時間を要した。

「………ッ」

 その銃弾は、魔力を纏っていた。銃撃による痛みはなく、ただ衝撃が内部へと浸透する。

 アレクシアは壁に付けていた腕から力を失い、バランスを崩して肩から壁へと打ちつけられる。

 その拍子に、感じた。

 繋ぎ止めていた大切な――不可逆的な何かが、体内から外へ、暗闇へと零れ落ちたのを。

「………」

 ……終わりか。と、アレクシアはゆっくりとした所作で前へと垂れ下がった赤髪を掻き上げ、前方を見つめる。

 そこには、こちらへと向けた回転式拳銃の銃口から硝煙を燻らせ、出口の照明を背に影となった者の姿があった。霞んだ視界では見にくいが、どうやらスーツに身を包んだ男のようだ。

 この姿には、覚えがある。アレクシアは目を凝らし、その姿を凝視した。そう、たしかアサシンが、佐藤真波の令呪を腕ごと切り落とした時、彼女の殺害を謎の拳銃の名手に妨害されたと聞いている。

 あれ以来、その姿を見聞きしたことなかったが……。

「そうか、お前があの時の……」

 アレクシアは体内に、また赤黒く沸き立つものを感じた。同時に、自身の赤髪がゆっくりと逆立っていく。

マスターのいない八騎目(・・・・・・・・・・・)だと思っていたが……お前は運び屋の……ッ!」

 口に出来たのは、そこまでだった。

 三度、銃声が冷たい世界に響き渡る。その銃弾にアレクシアは膝を折り、身を屈めた姿勢で地面へと伏した。

「……君にもう選択肢はない。君には……君は、やり過ぎたんだよ」

 だから、君はここで終わりだ。

 男は告げながら一歩ずつアレクシアへと歩み寄っていく。ここで完全に、トドメを刺すつもりだ。

「………」

 アレクシアはモゾモゾと身を捩らせ、何とか上半身を地面から引き剥がす。次いで壁に起こした背を預け、ゆっくりと近づいてくる男を正面から睨んだ。

 異形の力を奪い、その瞳を宿したアレクシア。

 だからこそ、分かる。

 この男の姿を見たことで、全てを見通せた。

 この日坂聖杯戦争の渦中で、残されたままであった幾つかの謎。それがこの男という存在によって、まるでパズルのピースがはまったように次々と意味を成し、完成された一枚の答えとして浮かんでくる。

 ……それなのに。

 アレクシアは眼前に銃口を向けられる。次の一撃で、この完成したパズルを汚すことも、誰かに披露することもできずに死ぬことになるのか。

「……ハッ、あーあ……」

 魔女は観念し、口端を上げて溜息をついた。

「これからもっと、面白くなる所なのに……」

 

 乾いた銃声が、冷たい世界に響き渡った。

 その音に気づいた者は、誰もいなかった。

 聖堂教会と魔術師協会双方に忌み嫌われたブロッケンの魔女にして、世界を焼却できるほどの力を手に入れた異形――アレクシア・ブロッケン。

 その最期を見届けた者は、この広い世界でただの一人。

 

 

 

 一月三十日、午前一時二〇分

 霊器盤の反応が、ひとつ消えた。

 消えた反応はアサシンクラス。それはサーヴァントが失っても尚、アサシンの宝具のお陰で聖杯戦争に居座り続けたアレクシア・ブロッケンの死を意味する。

「死んだ、か……」

 鏡宮は邸宅の自室でそう呟くと、鏡宮は燃え尽きるままに任せていた煙草に口をつけた。

 そして瞑目し、自室の天井に紫煙を上らせていく。

 ……アーチャーの真名を知り、しかもサーヴァントを失ったというのに、令呪を魔力源に暴れ散らす不快な異形、アレクシア・ブロッケン。

 ……聖杯戦争からは脱落したものの、奇異な運命によって生き残り続けているライダークラスのマスター、佐藤真波。

 ……彼女らが、本当に邪魔で仕方なかった。

 そう、鏡宮は疲れた瞼を指圧しながら、黙考する。

 ……アレクシアの死亡と、佐藤真波の確保。

 ……この部屋で、それこそ気の遠くなるような思いで、この時を待っていた。

 ……これで何の憂いもなく彼を殺せる。本来はキャスターの消滅も待つつもりだったが、それも結局、好機となった。

 鏡宮は閉じていた瞼をカッと見開くと、煙草を既に吸い殻でいっぱいになった灰皿に押し込んだ。そして椅子から立ち上がり、部屋のカーテンを開け放つ。郊外に立つ鏡宮の邸宅からは、アレクシアが散々暴れていた都市部の様子がよく見える。並び立つビル群は、今や半分近くが停電しており、その混乱が見て取れた。

 彼が黙ってそんな景色を見つめていると、部屋の扉がノックもなしに開かれる。振り返って見れば、アーチャーが佐藤を連れて扉の前で立っていた。

「連れてきたぞ、鏡宮……」

 アーチャーはぶっきらぼうに言うと、佐藤を部屋へと突き飛ばした。

「ああ……ではアーチャー、あとは計画通りに」

 佐藤はその対応にアーチャーを睨むが、鏡宮は先立ってそう応える。アーチャーは顔をしかめ、さっさと霊体化し見えなくなってしまう。

「あ、ちょっと……!」

「さて、佐藤君……彼の非礼は、私が詫びよう」

 怒気を含んだ声で叫ぶ佐藤を呼びかけ、鏡宮はカーテンを閉めて佐藤と向き直る。

「……貴方が、アーチャーのマスター。亜種聖杯戦争の主催者……」

「その通りだ……初めまして、私が鏡宮悟。君が思うところの、諸悪の根源というやつだな」

「………ッ」

「その義手はミローネ君から貰ったのか? 怪我はもう、大丈夫なのかい?」

 佐藤は険しい顔で僅かに腰を落とし、いつでも飛び掛かれるように身構える。しかしその様子を見ても、鏡宮は戦う気はないというように両手を軽く挙げながら、佐藤に語りかけ続ける。

「……貴方は」

「ああ、何か飲むかい? あの高速道から、ずっと動きっぱなしだったのだろう? 疲れているなら、そこのソファーで休んでも良いんだが……」

「貴方は……一体何を企んでいるの?」

「………」

 ……この年頃の子は、正直苦手だ。まるで距離感が掴めない。芯の強い子は、特に……。

 鏡宮は佐藤の質問に口ごもり、鼻を鳴らして手をポケットに入れそっぽを向いた。佐藤はさらに質問を続けてくる。

「聞きたいことが、たくさんあるから……だから私は、ここに来た。だけど貴方が、私をここへ連れきた理由は何? 殺したいなら、ここに連れてくる必要なんてない」

「あー……勘違いしないでくれ。佐藤君、私は君に手荒な真似をしたくないから、ここに来て貰ったんだ。まあ、その対価として、君の要望には可能な限り応えるつもりだが……っと」

 言葉の途中で、鏡宮は念話でアーチャーが配置に着いたことを知る。

 時間だ。

 鏡宮は会話を中断し、待ってほしい、と片手を挙げる。

「すまない。少しだけ待ってくれ。ちょっと……電話をしなきゃならない」

「電話って……待って、貴方は一体……」

 佐藤の問いかけには答えず、鏡宮は机に置いていたケータイを手にし、電話をかける。

 そして無言で電話に出た相手に、こう告げた。

 

「『暖炉に火を入れた』……そうだ。サンタから、プレゼントを奪いに行こう」

 

 

 

 読水竜也含む四名の消息が途絶えてから、もう一時間が経過してしまった。

 早崎は電子端末で時間を確認し、焦りで体を揺すった。

 地上は現在、完全に混乱状態にあった。電灯の多くは消え、水道やガスも止まっている。そして今も起こる大きな揺れと情報の錯綜に、市民の動揺は極限に達していた。

 周囲の地元公務員は、数時間も前から早崎そっちのけで避難誘導に動いている。砦のように固められ放置された数台のパトカーの赤色灯に照らされながら、早崎だけがただポツンと電子端末を手にオロオロと焦っている。

 ……何年もかけて固めた聖堂教会による管理、指揮系統も何もあったものではない。完全な失態。そう失態だ。

 亜種聖杯戦争の監督役の一人として、ランサーのマスター――読水竜也を監視する。それがマリオ神父より与えられた任務だった。

 しかしキャスターの暴走に、アレクシアによる都市部での虐殺。さらに地下鉄での戦闘によるトンネル外壁の破壊と大崩落。被害は他の地下施設に留まらず水道管、電線等のインフラにも……まるで冬木の聖杯戦争さながらの被害損失だ。

 ……もう、一個人の監視どころではない。

 ……それなのに上からの指示は、未だ読水竜也の監視から一切更新されない。

 ……一体、何が起きている?

 焦燥感と不信に苛まれながら、早崎は苦しげに白い息を吐いた。本音を言えば、早崎も彼らと共に市民らの安全を確保したいし、この異常なほどに大規模な亜種聖杯戦争の実態を知りたい。しかし聖堂教会の末端に過ぎぬ早崎には、いずれも過ぎた行いであった。

「……オい」

 そうしていると、連絡係の同僚――横田がトボトボとこちらへと歩いてくるのを見つけた。

 きっと次の指示だろう。それを心待ちにしていた早崎は横田へと駆け寄った。そう、期待に胸を膨らませていた早崎は、顔面蒼白の彼の様子には気づけなかったのだ。

「お疲れ様。で、上はなんて……?」

「いや……そうじゃなくて……」

「……横田? お前……どうした?」

 声を震わせ棒立ち状態の横田の様子に、流石の早崎も異常に気づく。そして横田は、ポツリと報告した。

「こっ……詰め所の連中が、何故かみんな殺されている」

「えっ……はい?」

 予想外の報告に、早崎は呆然とその言葉を聞き返した。

「いや……殺されてたんだよ、銃で……っ!」

「だから、何で……!?」

「俺が知りてえよぉ、そんなの!」

 状況が分からず、二人は無為な押し問答を繰り返していた。

「……見つけた! まだこんな所にいたっ!」

 そんな時だ、女子高生姿の先輩エージェント――リコが怒声を上げながらこちらへと駆け寄ってきた。その姿は普段の飄々とした姿とは程遠く、必死の形相をしていた。

「リコ先輩……え?」

「横田も……この、馬鹿ッ!」

 今は先輩って呼ぶな。

 本来であればドスの利いた声でそう釘を刺すであろうリコであったが、今はそんな余裕もなく、彼女は早崎の両肩を掴みもたれ掛かるようにして息を切らしている。

 そこで、早崎は気づいた。彼女の腹部が、血で染まっていることに。

「……せ、先輩……」

「何してんの、早く身を隠しなさい……っ!」

「身を、って……いや先輩、お腹から血が……」

「止血はしてる。ここは駄目……ここは、見晴らしが良すぎる……」

「リコさん、何があったんスか! 状況を……」

「殺されるぞッ!」

 二人の動揺を、リコはそう一喝し黙らせる。

 その次の瞬間だ。三人の横顔を照らすように、真っ白な閃光が広がった。直後、耳を聾する轟音が響き渡る。

「うわっ……爆発!?」

「あそこって、ちょ……嘘だろ、詰め所の方角じゃん!?」

「横田、あんた……本当に運が良かったね……って、[[rb:情報戦 > こっち]]も駄目か……」

 爆発を同時期に、早崎が手にしている電子端末から短文による指示が次々と送られてきている。二人は爆発のショックでそのことに気づかなったが、リコだけはその妨害工作に気づき舌打つ。

 とにかく。と、リコは二人を見やって声を荒らげた。

「誰かが“に”奇襲を仕掛けてきている。とにかく移動しよう」

「りょ、了解です。肩、借しましょうか?」

「ありがと……いい」

 二人の了解を確認し、リコは人混みのある方へと歩き出す。横田と共にその後ろに従いながら、早崎は口を開いた。

「けど……一体誰がこんな……」

「……決まってるでしょ」

 自身の調子を確認するように手を開いたり閉じたりを繰り返しながら、リコは呟いた。

「聖堂教会に喧嘩を売る連中なんて、何時の時代も化物と、魔術師くらいなものよ……ああ、それと早崎?」

「あっ、はい。傷の治療ですか?」

「違う……さっき、私のこと先輩って言ったか?」

「………」

 ……少なくとも、先輩がここで死ぬことはなさそうだ。

 

 

 

 当分、地面の下には行きたくない。

 シュウジは重い足取りで階段を上り、地下鉄の出口から地上へと出た。

 アレクシアによって繰り返された爆発。そしてランサーが放った一撃が決め手となって、地下鉄はものの見事に破壊された。

 シュウジは崩落によって読水達と逸れ、一時間と時間をかけたものの、何とか地上へと脱出することができた。

 そして……今のシュウジには、直感的に把握できた。あのアレクシアが、既に死んでいることを。彼女から漂っていた禍々しい気配が、どこにも感じられないのだ。

「……アレクシア・ブロッケン」

 何が起こったかは、流石に分からない。読水の思惑通りに事が進んだのか、あるいは……いずれにせよ、彼女は敵を作り過ぎた。数々の恨みを買った彼女は消耗し、人知れず闇に葬られたのだ。

「………」

 とにかく、彼女の件は一旦置いておこう。シュウジは空を見やり、念話によってサーヴァントに連絡を取った。

“……セイバー、こっちは片付いた。そっちはどんな様子だ?”

“おうシュウジ。勝敗は決したが……すまん、宝具で遠くに吹き飛ばしてしまった。霊核は確かに潰したが、消滅にはもう少し時間が掛かるはずだ”

 獣の生命力は侮れんからな。と、セイバーは茶化す。その様子にシュウジは苦笑し、負傷した身体の調子を確かめる。

“なら、今夜の騒乱の根本はどうにかなったな。後は……”

 後は……『あの件』。養父との決着をつけ、この日坂聖杯戦争を終わらせるだけだ。

 そう決意を固めるシュウジ。対しセイバーは、訝しげに鼻を鳴らした。

“だがシュウジ、街の方は何が起きている?”

“……どう意味だ?”

“今、キャスターを追って街へと戻っているが……銃声が聞こえる。何か、妙な事になっていないか?”

 セイバーが疑問を呈した、その時だ。真っ白な閃光が電灯の死んだ街を照らし、直後には爆発音が響き渡る。

「な……っ!?」

 崩落による轟音ではない、明らかに爆発だ。

 それにセイバーの言う銃声というのも、爆音に痺れた鼓膜が正常に戻ってくると、どこからともなく聞こえてくる。しかし音の聞こえる方角からには、サーヴァントによる魔術的な気配は感じられない。

“サーヴァントによる攻撃じゃない……誰がやってる!?”

“予想はつくが……シュウジ、とにかくそこは危険だ。すぐに……”

 セイバーの念話による忠告は、途中で遮断された。

 忠告を閉ざす雑音……いや衝撃に、シュウジの両足は空へと投げ出され、視界が上回りにぐるりと回転する。その衝撃はシュウジの胴を突き抜け、次の瞬間には彼の前方にあったビルのショーウィンドウを砕き割る。

 シュウジの体は力なく地面へと身を打ちつけられ、砕けたガラス片を轟音と共に被る。

「………!」

 地面へと倒れ伏したシュウジ。突然の事態はあるがそれでも、彼は確かに見た。

 

 自身の胴を貫き、そばのビルへと飛び込んだそれは……一本の矢であった。

 

 パン! という高い音を、シュウジは耳鳴りの中で拾った。

 弓を弾いた時にでる音――弦音だ。

 倒れたまま、シュウジは全身の筋肉をバネにして地面を横へと跳ね転がる。それは正に、本能的な行動であった。

 一瞬間をおいて、シュウジが先程まで倒れていた地面へと矢が当たる。その刹那、圧倒的な魔力でもってタイルは砕け、地面を穿つ。その破壊の余波で、シュウジの体は再度吹き飛ばされ、車道の方へと転がっていく。

「……しぶといな」

 起き上がることなく、倒れたままのシュウジ。そんな彼に、苛ついた声が掛けられた。そして、シュウジの前に襲撃者が上空から降り立つ。

 それは、引き締まった体を黒い衣装で包み、漢服を片肌脱ぎに着崩した青年――アーチャーだ。

「本当なら、背中からの一撃で死んでいるはずだ……お前、本当に人間か」

 アーチャーはそう言いながら、長い艶のある黒髪を後方へと撫で付ける。そしてモゾモゾと身を揺らしてアーチャーから離れようとするシュウジの姿に、舌打ちをした。

「足掻くな……セイバーのマスター、お前は、ここで終わりだ。せめて……」

 ……せめて、醜態を晒さず死んでいけ。

 そうアーチャーは告げながら矢を番え、シュウジの背中へと狙いを定め弓を引いていく。

 しかし――。

「……醜態を晒したのは、どちらだアーチャー?」

「――ッ!?」

 深く、静かに響く男の声。

 アーチャーは咄嗟に後方へと跳び、上空へと飛来した男を……その剣の一撃を躱した。

 アーチャーは二歩、三歩とステップを踏み、後方へと引いていく。飛来した男はそれを横目に確認しながら、ゆったりとした動作で片膝立ちの姿勢から立ち上がっていった。

「何時ぞやの不戦協定を断りなく破棄し、マスターを背中から襲い、しかも殺し切れぬとは……」

 アーチャーはその偉丈夫を知っている。鎖帷子を着た大柄な体躯を鮮血のような赤いマントで包み、強者として圧倒的な気配を相貌に漂わせたその男は……。

「セイバー……ッ!」

「醜態を晒したのは、一体どちらか……なあ? アーチャー……ッ!」

 歯噛みするアーチャーと、怒りを押し殺せずに語尾を荒らげるセイバー。

 セイバーの背後では、シュウジがゴロリと身を転がし仰向けになっていた。地面に付け上半身を支えているその右手の甲からは、これだけの局面を乗り越えても尚、三画あった令呪の内の一画が消えていた。

 シュウジは焦点の合わぬ目でセイバーを確認し、浅い息を繰り返しながら掠れた声を漏らした。

「……協て……は、破らっ……た」

「……ああ、そうだなシュウジ。お前の所為じゃない」

 セイバーは振り返ることなく、シュウジに優しげにそう告げる。

 そして、両手に握られた剣のうちに一振り……右剣のティソーナの切っ先をアーチャーに向けて叫んだ。

「……さあ、命じろ! 我が主ッ!」

「ああ……や、れ……っ」

 主君を背中で守り、戦いの許しを得た騎士を止められる者はいない。

 憤怒の形相を浮かべながら、セイバーはアーチャーへと斬り掛かっていった。

 

 

 

 

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