Fate/reselect   作:Fate/reselect出張所

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第三話『襲撃』

 

 

 日坂市の中心である日坂駅、駅周囲に立ち並ぶオフィスビルの屋上の縁に、一人の男が片足を乗せて立っていた。

 外国人である。目鼻のくっきりとした顔立ち、浅黒い肌はインド人やネパール人のように見える。ジップアップパーカーとカーゴパンツを着ているので分かり辛いが、衣服に包まれた五体は筋肉の肥大化さえ許さないほどに引き絞られ、鍛えられていた。

 また男は日本刀を刀袋に入れ、紐で括って背負っていた。彼は冷たい夜風に晒されながらも、むしろ涼しげな顔で下方に広がる街並みを眺めている。

 そんな彼の背後、貯水槽の影が僅かに光った。英霊の実体化だ。

「ウィリアム君」

 と、声を掛けられ、男――ウィリアムは振り返った。

「ああ……もう、準備が出来ましたか」

 ウィリアムは貯水槽に歩み寄りながら、貯水槽の基礎に腰掛ける男に聞いた。

「何人でした?」

「二十三人」

「……想定より、ずっと多いな」

 ウィリアムは困ったように腕を組み、夜景の方を向いて考え込む。そんな彼に、影に潜むサーヴァントは言った。

「しかしだ、ウィリアム君。我々はその全てを同時に襲える。暗殺ならもっと計画を練るべきだが、目的は混乱と威力偵察……この中に残り六騎のサーヴァントがいれば、問題はない」

「それは……んーフッフッフッ……いや、でもなぁ……」

 サーヴァントの言葉を聞いても、ウィリアムは困ったように笑って辺りをうろついていたが。

「じゃあ、こうしましょう」

 と、彼は片手を挙げ、サーヴァントに向き直った。

「とりあえず、殺しはなし。とは言っても聖杯戦争が始まったと知って尚も残る連中なんて、マスターか、その協力者以外にありえない……死なない程度には痛めつけてやってください。撃退されたら、それまでってことで」

「あくまで目的はサーヴァントと、そのマスターと言うことかな?」

「手段を選べるうちは、フェアな手を選びますよ」

 甘いですかね? と、ウィリアムは頬を掻く。その様子を見て、ふっとサーヴァントは笑った。

「……相手がマスターと分かった場合は?」

「マスター狙いで、第二波、第三波と絶え間なく攻めましょう」

 先程の迷いとは打って変わって、きっぱりとウィリアムは言った。

「片手間で仕留められるなら、それに越したことはない……で、良いですかね?」

「ふむ……そうだね、異論はないよ」

「ありがとうございます」

 なら……。と、そうウィリアムは下に広がる街並みを見る。背後でサーヴァントも腰を上げた。

「昨日のうちにセイバーとランサーが交戦していたみたいですが……これが正式に認められた初戦になる」

 この聖杯戦争の火蓋を、我々が切りましょう。

 そう言って、ウィリアムは口元に薄く笑みを浮かべた。

 

 

 

「すまないな、マスター」

 一方、シュウジ達は大通りに面した小さなスペイン料理店の店内で、次の料理を待っていた。

「本来なら、あの神父から渡されたリストをホテルで確認するべきなんだろうが……こうして懐かしい香りを嗅いでしまうと、どうもな……つい、無理を言ってしまった」

 そう言って謝罪するセイバーは、スーツを着ている。店で食事を取る以上、実体化する必要はある。その為に急遽、用意したものだ。とは言え体格の良く野性味さえ感じられるセイバーがスーツを着ると、まるでスポーツ選手のような着こなしとなっていた。

「気にしなくて良い……その気持ちは良く分かる」

 サーヴァントは使い魔だ、食事も睡眠も必要はない。しかし、英雄とは得てして我の強いものであり、またそうでなければ歴史に名を残すこともない。サーヴァントとして召喚された者の中には、現代の酒や食事、睡眠や娯楽に興じたいと思う者も多い。

 彼にとっては九百年ぶりの、故郷の味と言って良い。そんな奇跡的な再開を邪魔するほどシュウジは非道ではないし、日本を出たシュウジにとっても、そういう気持ちは充分に理解できるものだった。

 それに、これを機に聞きたいこともあった。

「……一つ、聞いて良いか?」

「む、何だ? 急に改まって」

「昼間に言っていた、英雄じゃあなかったという言葉についてだ」

 セイバーはシュウジの様子に何かを察し、座り直した。

「セイバー……貴方はかつて数度の追放を受けても尚も武勲を立て、イスラム勢力と戦い、カスティーリャ王国の国土回復に大きく貢献した」

 セイバーはその言葉に苦笑し、顔を伏せた。そんな彼に、シュウジは言った。

「これが英雄でなくてなんだ。バレンシアは貴方が死んだ後に一旦は奪われたが、それでも貴方は騎士として充分な働きをしたはずだ」

「……俺がエル・シドと呼ばれるようになったのは、国を追われてタイファ……イスラム教徒達の下で剣を振るっていた時だ」

 セイバー――エル・シドは顔を上げないまま、寂しげな顔を浮かべて話し始めた。

 カスティーリャ王国の王、サンチョ二世の右腕として戦っていたセイバー、ロドリゴ・ディアスの戦いの人生は、サンチョ二世の暗殺によって大きく狂うこととなる。

 王の死後、王位を継いだ弟のアルフォンソ六世は彼を疎ましく思い、彼もまたアルフォンソ六世を暗殺の首謀者として疑ったことから、その不仲は最終的に彼の国外追放という形にまで発展した。

 サンチョ二世が在命の時は親衛隊長にまで登り詰めたロドリゴ・ディアスは国を追われ、僅か六十騎程の仲間と野に下った。そして彼は傭兵として、人種も宗教も違う者達と肩を並べて戦うこととなる。

 傭兵時代のロドリゴ・ディアスの指揮下にあった兵士は、同じように国を追われた者、土地を失い傭兵家業に身を落とした者、そんな連中ばかりだった。彼らには理想も、正義も、信仰もない、ただ自身の為に戦っていた。そこでの仲間達が自分達の指揮官である彼に付けた呼び名が、エル・シドだった。

 そうして戦場を駆け巡っていくうちに、彼の名は戦場で知れ渡るようになった。そしてエル・シドが二度目の追放を受けた時には、キリスト教圏の騎士、戦場の勇者としてバレンシア攻略の為に乗り出していた。

 エル・シドが率いる軍は強く、進行を止められるものは誰もいなかった。

 そして意気軒昂に辿り着いたバレンシアで、彼は見た。門の前に捨て駒同然に並べられた傭兵達の顔を。

 それはかつて、彼をエル・シドと呼んだ、かつての仲間達だった。

「……俺達は金で買われる傭兵だった。理想、正義、信仰の違いで、戦う相手を選ばなかった」

 だから俺達は、バレンシアで向かい合うことになった。そう、セイバーは自嘲した。押し黙ってセイバーの話を聞いていたシュウジは、口を開いた。

「……戦ったのか。その、かつての仲間と」

「そうだ。並列した兵達に矢を浴びせ、騎兵をなだれ込ませた」

 セイバーはそう言い、こう加えた。

「それが戦いにおける理だ。戦場で敵として相まみえた以上、容赦はできない……しかし、傭兵なんて良い加減なもんだ。果たして何人が俺と戦って死んだと理解していたか」

 ともあれ。と、セイバーは顔を上げて、シュウジを見た。

「そうやって俺はバレンシアを征服し、見事に王から許しを得て妻や子供達と再会……バレンシアの領主となった訳だ」

「………」

「故郷にも帰れた、家族にも会えた……だがそれでも、心の奥底に潜む、例えようもない孤独は拭えなかった」

 そう言うと、セイバーはシュウジに笑いかけた。

「分かったろう? 俺は英雄なんかじゃあない。英雄と煽てられ、仲間を斬り捨ててしまった馬鹿な男だ」

 だからシュウジ。と、セイバーはこう続けた。

「お前は正直に、最後は令呪で自害させる気なのだと言っていたが……それでもお前は、良く考えろ。自分の中にある正義と、他人から与えられた使命……どちらを貫くかはお前自身が決めるんだ。何を言い訳しようと、結果に苦しむのは、お前自身だ」

 そう告げるセイバー。自害を命じる者のことさえも案じる彼を見て、シュウジは悟った。

 スペインの英雄。戦場の勇者と呼ばれた、一人の騎士。

 彼は戦場を駆ける英雄としては、致命的なまでに人を愛する男だった。故にそれだけ心に、多くの傷を抱えた。

 しかし、だからこそ彼は周りから慕われた。国も宗教の境もなく、多くの兵士が彼を『我が主人』、エル・シドと呼んだのだと。

 

 

 

読水達はマンションに戻ると、途中で寄ったコンビニで買い込んだ食料を床に広げ、各々で食べ始めた。

 床で胡座をかいてカップ麺を啜る読水の対面し、同じように座っておにぎりを頬張るランサー。彼女の横には、カップ酒が置かれていた。

「……戦いの最中とは、分かっているのですが」

 カップ酒に注がれる読水の視線に気づき、ランサーは恥ずかしげに頭を垂れた。

「面目ない。つい、懐かしさが勝り……」

「そう言えば、お前の触媒もお猪口だったか……酒、好きなのか?」

「生前は、よく飲んでおりましたね」

 懐かしげに言うと、ランサーは思いついたように顔を上げ、カップ酒を手に取った。

「マスターも飲まれますか? マスターを守るはずの私だけが飲むというのも、気が引けますので」

 そう提案するランサーを、読水は手で制した。

「気にしないで良いって……酒は飲まないんだ」

「む……下戸なのですか」

「というより、飲む機会がなかった」

 残ったスープに視線を落とし、読水は説明する。

「ガキのうちから飲まなかったし、十八の時から運び屋として一人で生きてきたからな。前後不覚のままで襲われることを恐れて、飲もうとも思えなかった」

「アダムが言っていました、師とは一緒ではなかったのですか?」

「運び屋になってから別れた。俺の育ててくれた恩人だが、今はどこにいるのか……生きているのかさえも知らん」

 そう溜息をつく読水に、ランサーは不思議そうに顔をしかめた。

「育ての親、ですか……?」

「ああ。いつもソファーで寝そべり、酒を飲みながらつまらなそうにエロ本を眺めていた……ロクでなしだったが、俺がガキのうちは酒やタバコ、ドラッグ……銃だって握らせようとしなかった」

 懐かしげに読水は言って、首に掛けたロケットペンダントを握った。

「言われてみれば、まあ……あいつのことを引きずって銃は拘っちゃいるが、酒の飲み方は知らないままだな」

「………」

 ランサーは黙ってカップ酒を開け、煽るように飲んだ。

「って、おい、聞いて……」

「なら、最初の酒は私が飲ませます」

 と、一息ついたランサーは、熱っぽく言った。

「こんな埃っぽい所でなく、もっと美味くて、良い……そう、聖杯で一杯やりましょう……!」

「……サーヴァントって、酔うもんなのか?」

「酔ってなど……ッ!」

 強く宣言するランサーに、読水は嘆息した。

「やる気があるのは結構だが、分かってるよな? ここから先は待ちの構えで行くんだからな。真っ向から戦うには、俺達は実力がなさすぎる」

「分かってます!」

 そう言って、勇ましく頷くランサー。その様子に読水は笑い、カップ麺のスープを啜る。

 しかし次の瞬間、ビクリと肩を震わせたかと思うや否や、ランサーは槍を実体化させて立ち上がった。

 読水は、思わず体を縮ませるが。

「マスター、敵が来ます……ッ!」

 小さく、しかし鋭く告げるランサーの剣幕に、事態を察した読水は手にしていたカップ麺のケースを置いて立ち上がる。

 明かりを。ランサーはそう言いながらカーテンをカーテンレールから勢い良く引き抜き、外を確認し始める。読水が部屋の照明を消すと、部屋内は窓から差し込む明かりだけとなった。

 読水が部屋の隅に置いていたアタッシュケースを掴み、ランサーが窓から離れ、手にしたカーテンを槍先に上から被せた時だ。玄関の鍵が蹴り壊され、扉が開け放たれた。

 玄関から殺到したのは三人。霊体のようだが、いずれも同じ羽織を着て、日本刀を手に構えた……浅葱色に淡く光る半透明の侍のようだった。

「新選組……!?」

 その服装を見て、思わず声を上げる読水。確かに部屋に押し入ってきた者達は、誰もがテレビや小説で知る、あの新選組の姿に酷似していた。

 拳銃を抜く読水を背に隠し、油断なく槍を構えながら後ろ手で発砲を制すランサー。新選組の隊士を彷彿とさせるその襲撃者達は、狭い廊下から部屋の前まで侵入し、二人が左右に広がり、もう一人は未だ二人の背後でつっかえていた。

「マスター……動かないでください」

 ランサーは視線を三人に向けたまま、静かに言う。

 そして……鋭く息を吐きながら腰を深く落とした次の瞬間、左側の隊士を槍で突いた。隊士はその突きに反応できず、胴を刺し貫かれた。

 武に疎い読水には分からなかったが、隊士が反応できなかったのには訳があった。

 ランサーは槍の穂にカーテンを被せ、そして窓からの明かりを背に構えていた。これにより、隊士達にはランサーの姿は影となり構えも、手にしている槍も見え辛くなっていた。加えてカーテンを被せられていた為に、穂が光に煌めくことも一切ない。

 これらにより、ランサーの鋭い突きに反応できるだけの情報が乏しくなり、まともに槍を受けてしまったのだ。

 腹を刺され、後方へたたらを踏んで倒れる隊士。先手を取られた隣の隊士が袈裟斬りに掛かるが、ランサーは槍先を振り上げてそれを弾いた。

 結果、槍から離れて浮き上がるカーテン。その布地越しにランサーは、隊士の太ももを正確に突き刺した。そして前に踏み込み、渾身の力で姿勢を崩した隊士の胴を突き抜く。

 その時だ。突き刺された者の背後にいた隊士が、前方の仲間の肩に手を置き、刀を逆手に持って身を乗り出した。

 投げる気だ。そして狙いは間違いなく、マスターである読水だろう。それに対してアタッシュケースを持ち上げ、読水はそれを防御しようとしたが。

「オオオォッ!」

 ランサーは咆哮しながら隊士の懐に潜り込み、そして腰を入れて槍を突き上げる。背後にいた隊士は、抜き出た槍先に串刺しにされ、二人はまとめて天井に縫い付けられてしまった。

「………」

 隊士達から刀が零れ落ち反応が消えたことを確認すると、ランサーは一息に槍を引き抜く。倒された隊士達は、蒸発するように音もなく消え始めた。

 十秒と経たずに繰り広げられた、ランサーの圧倒。ランサーが後ずさって行くのを確認すると、読水も窓の方へと銃を向ける。

 こうして背中合わせになると、ランサーが叫んだ。

「マスターッ! 今のは!?」

「サーヴァントじゃあなかった! マスターかサーヴァントの使い魔だと思う! だが待て、新選組!? セイバーでもランサーでもない、新選組だとッ!?」

「アサシンだって考えられます! どちらにせよ、まだまだ来る気配がある……ここはマズい! 退きましょう!」

「どうせ包囲されてる! そう、落ち着け……だから、脱出経路は……」

 読水が言葉を言い切るより早く、新選組の第二波が、扉を蹴り飛ばして入り込んできた。

「ああクソったれ! ランサーッ! 時間を稼げ!」

「応っ!」

 ランサーは力強く応えて飛び出し、狭い通路と槍の長さを利用して第二波を押し留めにかかる。

 その喧騒の中、読水は窓からも見えない暗がりに身を潜ませ、アタッシュケースを開ける。

 敵の正体は未だ掴めないが、とにかく今は身を守ることが最優先だ。しかし、それには追撃を払うだけの戦力と、敵から逃げる為の逃げ口が必要になる。

 上等だ。読水は汗をケース内に垂らしながら、表情を歪める。これまで逃げ続けた俺だ、これから逃げないなどと言えるか。

 まずは敵の位置を割り出してやる。と、読水はアタッシュケース内にある品――この十年のうちに集めた、逃走用の礼装を引っ張り出した。

 

 

 

「美味いものには国も、信仰も、敵も味方もない」

 同時刻。セイバーは椅子に背を預け、リラックスした様子で目の前の料理を前に語る。

「それを食う我々が、同じ人間だからだ。バレンシアで生まれたこのパエリアは、故に俺なんかよりずっと世界に知れ渡っているのさ」

 そう語るセイバー。シュウジは口に運んだパエリアの、その独特のスパイスの風味にスプーンを止めるも。

「……パエリアっていうのは、貝なんかを使う海鮮料理だと思っていたが」

 そう頷いては、黄色く染められた米と一緒に鶏肉を口に運ぶ。

「本場は違うんだな」

「本場というより、元祖は、だな。バレンシアのパエリアって言えば、山の幸を使う」

「山の幸」

「おう。兎や鶏肉……蝸牛なんかも美味いな」

「蝸牛か」

「日本じゃあ食わないんだってな? 今度試してみると良い」

「流石に道端ので試す気はないな……」

 シュウジはそう言いながら、テーブルの隅に置かれたタバスコの瓶を手に取り、自分の皿に盛られたパエリアの上で上下に振り始めた。

「………」

「とりあえずこれを食い終わったら、ホテルに戻って先生から貰ったデータを確認しよう。最優先で叩くべき相手も、今日中に分かりたい」

「そんなことより、おい、ちょっと振り過ぎじゃあないか……?」

 セイバーは上ずった声でそう指摘した。

 その指摘通り、シュウジはタバスコの瓶を皿の上でマラスカのように振り続け、その赤い液体をパエリアに満遍なく染み込ませていった。

「というか、何だそれは……? 美味いのか?」

 その言葉に、シュウジは瓶の口をセイバーの皿へと寄せる。

「待て、何をしている?」

「美味いぞ」

「……そうか」

「そうかって……掛けてみろよ」

「いや……俺は良い」

「美味いものには国も、信仰も、敵も味方もないんだろ?」

「………」

 どうぞ、とセイバーがジェスチャーするや否や、シュウジは皿の上でタバスコの瓶を振り始めた。鮮血のような液体が、セイバーの皿の上から降り注ぐ。

「いや何でそんなに一心不乱に振る……!?」

「こうしないと、中々出ないんだ」

 それは調味料を作った者の、慈悲深き配慮ではないのか。そう思うセイバーであったが、その配慮も虚しくセイバーのパエリアに鮮血のような液体が、何度も滴り落ちては米の中に染み込んでいく。

「こんなものか……さあ、セイバー」

 シュウジは満足気に頷き、瓶の口を閉めて食事を再開した。

「………」

 何事もなかったように、そのパエリアを食べ始めるシュウジ。それを見ていたセイバーは毒ではないと理解し、スプーンでパエリアを掬って恐る恐る口に含み。

「……エホッ」

 と、咳き込んだ。

 スペインの大英雄、エル・シド。歴史を切り開いたその剣の冴えと戦いへの理解は、この亜種聖杯戦争においても多くのサーヴァントを畏怖させるであろう。そんな彼は聖杯戦争の初日、英霊の座に置いてきたとさえ思われた汗をここで噴出させた。

 

 

 

 テーブルの料理がなくなって一息入れた頃、セイバーは口内の違和感に顔をしかめながら口を開いた。

「ところでだ、シュウジ。表に迎えでも呼んだか?」

 そう言ってきな臭そうに出口を見るセイバー。思えば、良い加減テーブル上の皿を下げても良い頃合いだろうに、店主をしばらくの間見ていない。

 シュウジは何かを探るように天を仰ぎ、目を閉じる。そして――。

「魔術師お得意の、人払いの結界。それに表と、裏にも伏兵……人じゃあなさそうだが」

「おう、だが強い気を感じるな。幽き亡霊のそれじゃあない……人を殺し慣れた、人斬りのものだ」

 面白い。と、セイバーは椅子から立ち上がる。

「店に押し込んでこない辺りは紳士的だが、正々堂々という手合じゃあなさそうだ。表に四人、裏に三人……だがもっと用意してあるだろう。話し合うだけの余地は……まあ、ないだろうな」

 セイバーは鎧と剣を実体化させ、身に纏って笑みを浮かべる。

「どうだシュウジ? ここは正面から迎えて、向こうの実力を計るというのは」

 好戦的な姿勢を取るセイバーに、シュウジは嘆息するも。

「忘れるなよセイバー、最優先事項は読水竜也が持つペンダントの回収だ」

 そう言って立ち上がり、財布を取り出して一万円札をテーブルに置き、タバスコの瓶を重し代わりに載せた。

「私が前に出る」

 シュウジはきっぱりと言うと、右腕を振り付ける。すると袖から黒鍵の柄が飛び出し、刃も即座に生成された。

 シュウジが手にした黒鍵は、今まで使用したものとは異なる。投擲用のものとは違い片刃になった、斬りつけることを目的にした特別仕様の概念武装だ。

「セイバーは奇襲に備えつつ、襲撃者本人を探してくれ」

 それを見たセイバーは、フッと笑い。

「承知した。我がマスターの代行者としての技、見せてもらおうじゃあないか」

 二人はそうして、各々が剣を握って表へ……武装した新選組の霊体達の前に歩み出た。

 

 

 

 

 

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