Fate/reselect   作:Fate/reselect出張所

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第六話『魔女と魔獣』

 

 

 

 ウィリアム・シン。イギリス人、三十六歳。

 二十五歳から時計塔、降霊科の二級講師を務める。その柔軟さとフランクさから生徒からの人気は高い。時計塔での階級は第三位の『典位(プライド)』ながら、社会的地位は全く上がることのない男だ。

 そして、その正体は封印指定を受けた魔術を継ぐ、血統を重視する『貴族主義派』が秘蔵する逸材だ。先祖が起こした事件により出世もせず、かといってその血統の重要性から野放しにもされない。まさに籠の中の鳥といった魔術師。

「教授、何でウィリアム教授のプロフィールなんて読んでいるんです?」

 と、そこまで資料を読み返した時、声を掛けられた。

 時計塔の魔術師、長い黒髪と不機嫌そうな顔を携えた現代魔術学部長、ロード・エルメロイⅡ世はそのしかめっ面を上げた。

「人が読んでいる資料を覗き見るなと、何度も言っているはずだが……」

 へへへ。と笑うその青年の名はフラット・エスカルドル。エルメロイⅡ世が抱える生徒の中でも最古参に当たる天才児である。

「ウィリアム教授が封印指定を受けているって噂、やっぱり本当のことだったんですね!」

「……そうだ。彼の家系が所有する魔術刻印は、その希少性から封印指定を受けている代物だ」

 どうせ、黙っていても付き纏われるだけだ。そう判断したエルメロイⅡ世は、溜息を付きながら資料をテーブルに放る。フラットはその資料に、餌を与えられた子犬のように飛びついた。

「へえ、獣性魔術ですか。というと……」

「そう。スヴィンと同じ、体内の獣性を引き出し、獣の神秘を纏うことができる……使い手の少ない魔術だ」

 だが。と、エルメロイⅡ世は続けて、こう付け足した。

「彼の獣性魔術は、他の追随を許さぬ完成度を誇る。古代インドから育まれてきたヨガの魔術基盤は、体外にある獣性を取り込む段階までに至っている」

「それってつまり、誰でもル・シアンくんに成れるってことですか!?」

 目を輝かせるフラットに、エルメロイⅡ世は溜息をつき、首を振った。

「理論上はそうなる。しかし、彼らはその道を切り拓くるのに最低でも千年以上かかっている。しかも、あの領域に踏み入れることができたのはウィリアム・シンの血統だけだ」

 呼吸法によって身体の生命力に留まらず、世界に満たされた生命力と繋がり、最終的に根源へと至る……彼らヨガの実践者の言葉では、プラーナヤーマというらしい。紀元前から脈々と受け継がれてきたこの道は、ウィリアム・シンの一族が得た獣性魔術という一つの到達点を得た。

「だから、封印指定を受けてる……!」

 フラットの納得したような言葉に、エルメロイⅡ世は首肯する。

「彼は魔術刻印に刻まれたものならば、どんな獣性だって纏える。スヴィンのような人狼だけでなく、虎や獅子、ハヤブサ、それこそ蛇や魚といったものの神秘まで自在だ。……彼の先祖はその力でイギリスの植民地政策に抵抗し、時計塔を巻き込む大混乱を引き起こしている。それほどまでに、彼の魔術は強力だ」

 その結果として、時計塔の管理下に置かれることになったが。と、エルメロイⅡ世は目を閉じる。

 以降、ウィリアムの一族は『貴族主義派』の子飼いと言って良い。しかし時計塔は彼らの牙を恐れ、未だにホルマリン漬けを試みることを躊躇っている始末だ。

 そんな彼が、その立ち位置を維持し続けんと職を辞し、出奔に近い形で日本で行われる亜種聖杯戦争に参加した。その事実を聞いた時は、エルメロイⅡ世の戦慄が走った。

 しかし……こうして彼の略歴を見ると、思うものがある。彼ならば、あるいは五体満足のままに聖杯を時計塔に持ち帰るのではないかいう思いだ。

 無論、エルメロイⅡ世は聖杯戦争の恐ろしさは実感している。理解しているつもりでも、聞き及んでいるでもない、実感しているのだ。それでも、彼ならばひょっとしたら……。

「……あれ、でも教授。ここ……ほら、おかしくないですか?」

 と、暫し資料を熟読していたフラットは、そう言って資料をエルメロイⅡ世に示す。

「そんなに珍しい魔術を使うなら、階位は教授と同じ四階級の『祭位(フェス)』じゃあないんですか?」

 時計塔における階位とは、魔術師の能力に応じて格付けされている。しかし第四位の『祭位』は特殊で、エルメロイⅡ世のように功績が認められた者や、能力とは別に評価される技能を有する者に与えられる階位となっている。その為に『祭位』の階位の者の中には、第二階位の『色位(ブランド)』として充分な能力を持つ者もいる。

 それか……。と、エルメロイⅡ世は眉間に皺に寄せる。つくづく、嫌なところに気付く男だと。

「封印指定を受けた魔術だ。噂になるまで知られているとは言え、それを階位の査定に入れることはできない」

「じゃあ、この『典位』って……」

「そういうことだ」

 能力としては第五階位の『開位(コーズ)』の下位でありながらも、優秀な生徒を育てたことで四階級の『祭位』にまで漕ぎ着けた男、エルメロイⅡ世。彼は何とも不機嫌そうに、顔をしかめた。

「彼は一族の魔術を抜きにしても、『典位』になるだけの実力がある」

 そう言って、だから天才というやつは嫌いなんだ、と言った目でフラットを見る。

 そのジトッとした視線を受けて、時計塔史上でもトップクラスの才能を持つと言われる青年、フラットはその意図が分からずに笑って首を傾げた。

 

 

 

 魔女、アレクシアの合図で、空を飛び交うカラス達は次々にウィリアムへと飛来した。

ウィリアムは顔を上げ、カラス達それぞれに鋭く視線を移していったが。

「なるほど」

 と、何か納得したように呟く。それから視線を落として体を横に曲げながら、両手でカーゴパンツのポケットから何かを引っ張り出した。そして彼は、そのCDほどの直径の円盤を一度後方に振りかぶってから躊躇なくカラス達に投げ付ける。

 その瞬間、円盤は強い光を放ち、光の尾を退きながらカラス達の群れを引き裂いた。

 切断され、焦げた羽毛と血肉を空中に散らすカラス達。その様に舌打ちをしたアレクシアが両手を挙げると、光る円盤から運良く逃れたカラス達は、二つの群れに分かれた。

 しかし光の円盤は緩やかなカーブを描きながら、それでも高速で、何度も執拗にカラス達を切り裂いていき、焼き焦がす。ウィリアムへと飛来したカラス達は、ものの十数秒で全て地面へと撃墜されてしまった。

「………」

「支配を受けてない野生のカラスなら、もっと避けられたろうね」

 上げていた腕を下ろし、押し黙るアレクシア。そんな彼女にそう意見を述べながら、ウィリアムは自身のもとへ帰ってきた円盤を掴む。彼は未だ燃え盛る炎の円盤、その中心にある穴に指を入れてクルクルと回し始めた。

「……チャクラム」

 アレクシアは呟く。チャクラム、それは投げ輪の外側に刃を付けた、古代インドの投擲武器だ。

「に、見せ掛けた、形ばかりの何かだよ」

 しかし、ウィリアムはそう言って苦笑する。頭上に掲げた右手、その指先に引っ掛けたチャクラムの回転は次第に上がっていき、それに応じて先程以上の光を湛え始める。

「さ、覚悟はできているかな? ブロッケンの魔女様」

 そう告げるウィリアムに、アレクシアは黙って両手を上げた。

「……ここに来て、降参はないんじゃあないかな?」

「アマチュアが」

 その行為を降伏と見た彼に、アレクシアは嘲笑を吐き捨てた。そしてパチンと、腕を交差させる勢いで一度、両手を叩き合わせた。

 その瞬間、このビルの屋上にも堕ちていたカラスの死骸から羽毛が、まるで風に舞い上げられたように浮き上がった。

 それにウィリアムは身を強張らせるが、対応が遅かった。黒の羽毛はウィリアムへと集まり、全身にベタベタと張り付き始める。

「……ッ!」

 呪いか。体に流れ込むものの感覚より悟ったウィリアムだが、その効果は早かった。

 既に手足は痺れ、回していたチャクラムは足元に落としてしまった。筋肉の強張りからみて、ウィリアムはこのまま行けば肺か心臓が止まって死ぬだろうと予測した。しかし、呪具が全身に張り付くカラスの羽全てとなると……。

 アレクシアは黙って、無数の羽を貼り付けたウィリアムを見ている。その顔には一切の嘲りも驕りもない、恐らく彼女も気づいているのだろう。ウィリアムはまだ、彼女に飛び掛かれるだけの余力を残していることを。

 このまま呪いで殺すか、術者への攻撃に合わせてトドメを刺す。そこまでが彼女の作戦なのだろう。手慣れたもんだと、ウィリアムは舌を巻いた。

 ただ、対処できない問題でもない。

「………」

 ウィリアムは小さく、しかし素早く口を動かし言葉を紡いでいく。唱えるは呪いへの抵抗を上げる魔術。細かく長い儀式が必要な術式を端折り、震える指先の僅かな動作と言葉で効果だけを引き出していく。

 立ち尽くしながらブツブツと何かを唱え続けるその様子に、アレクシアも事態を察した。

 アレクシアは手をウィリアムへと突き出し、魔力による光弾を撃ち込もうとする。しかしこのまま撃てば、ウィリアムに纏わり付いた羽が吹き飛ばされる。そうなれば、呪いがこれ以上ウィリアムへ流れ込むことがなくなってしまう。

「……ふん」

 ならば、羽の上から更に強力な呪いを付け足せば良い。そう判断したアレクシアは、手を突き出したままウィリアムへと歩み寄った。直接手で触れ、魔女の呪いを心臓に注ぎ込む。それで終わりだ。

 アレクシアの指先が、陽炎のように歪み始める。歪みを見せるほどの濃密な呪いを携えた指先は、ジッと彼女を見つめるウィリアムの胸へと伸ばされていく。既にカラス羽の呪いは、彼から反撃の余力を奪ったことは分かっている。アレクシアは笑みを浮かべ、指先をウィリアムの左胸へと伸ばし……。

「prana shift――were-snake」

その時だ。アレクシアの耳に、予想外の言葉が入ってきた。先程のまでとは全く違う系統の詠唱を、ウィリアムが唱えたのだ。

 何かヤバイ。そう予感し脚を一歩引いたアレクシアだったが、ウィリアムへて伸ばしていた右手が捕まった。

 右手を捕らえたもの、それは腕に絡みつく二匹の蛇だった。辿ってみれば、それはウィリアムの両腕へと繋がっている。

「せっかくだ魔術使い、学ぶと良い」

 皮膚の表面に鱗を浮き上がらせていくウィリアムは、痺れた唇で囁いた。その体からは、カラスの羽が次々に地面へと剥がれ落ちていっていた。

「カラスの呪いじゃ、蛇の毒性には勝てない」

 その言葉に意を返さず、アレクシアは次のアクションを起こそうとしたが。

「ぐっ……ガッ!」

 と、アレクシアは呻き、体をくの字に曲げた。その顔は、激痛と驚愕に歪んでいる。

 異貌と化したウィリアムだが、それ自体は問題ではなかった。問題は右腕に絡みついた二匹の蛇の、締め付けだ。

 絞め技、という言葉がある。しかし現代において絞め技とは、その狙いを首に限定したものと言える。相手の腕にダメージを与えるとすれば、腕ひしぎに代表されるアームロック、即ち関節狙いこそ最も効率が良い。

 人体を効率良く破壊することを旨とする最新の格闘技において、腕への絞め技などありえない。しかし――。

「~~~ッ!」

 反撃はおろか、叫ぶこともできない。筋肉が内側に潰れ、骨が軋む。圧迫には、相手から思考を奪うに足る激痛と恐怖がある。

それでも尚、アレクシアは激痛の中からジワジワと意識を取り戻していく。そして脚を広げ、蛇を巻き付かせたままに右腕をウィリアムへと伸ばしていく。

 しかし、その腕が不意にへし折れた。

 圧迫されていた骨が折れたことによって生まれた、微かな空間、自由を魔女は見逃さなかった。アレクシアは左の貫手をウィリアムの喉へと突き上げた。

 ウィリアムは怯み、彼女への拘束を緩めてしまう。互いに下がることで、アレクシアの右腕はスルリと蛇から抜けていった。

 痛みの中での行動。次のアクションは、アレクシアの方が速かった。彼女はトレンチコートの内側へと手を滑らせ、布に巻かれた棒状のものを取り出す。そして布の端を噛み、布を剥ぎ取る。

 それは読水が使用していた礼装と同じ、栄光の右手(ハンズ・オブ・グローリー)であった。

 その礼装に気づいたウィリアムは間合いを詰め、左腕の蛇、より正確には蛇の神秘を纏った左腕でアレクシアに殴りかかった。

「時を固めし罪人よ、我が腕となって死を払え」

 しかし、アレクシアの方が一手先を行った。彼女は呪文を唱えると、栄光の右手を手放した。しかし、その屍蝋の手は炎を伴って膨れ上がり、ウィリアムの拳は平手で防いだ。

 ウィリアムは深く追うようなことはせず、ふらつきながらも地面を蹴って距離を取っていく。既に栄光の右手の端はアレクシアの肩甲骨の辺りへと炎のラインで繋がり、節くれ立った巨大な手は盾のように前方へと突き出されている。

「……ふふ、流石黒魔術。けったいな物を使ってくる」

「獣性魔術を使う、天然記念物には言われたくはないわ」

 息を整えながら、二人は口々にそう毒づく。二人の距離が詰められ、激突するのにはそう時間は掛からなかった。

「prana shift――were-monkey」

 ウィリアムの上半身から短い毛が生え、指先には鋭い爪が生えていく。アレクシアの目には確かに恐ろしい猿人、インド神話のハヌマーンを代表するヴァナラへと彼は姿を変えていった。

 そして次の瞬間には、ウィリアムの足は地面のタイルを砕き割っていた。そして獣の神秘を得た五体が凶器となって、アレクシアを襲う。

 飛び掛かり、振り上げた五指を振り下ろす。夜風を切り裂くその一打は、アレクシアの栄光の右手が一人でに動いて受け止めた。

 アレクシアが礼装として使う栄光の右手は、読水のもののように呪いを用いた探知機のような応用をしているが、それだけに留まっていない。彼女の栄光の右手は、相手の動きを感知し、自動で敵の攻撃を防ぐことこそを目的としている。

 彼女はこれまで、この礼装によってあらゆる攻撃を防いできた。それと同時に、防御に思考を裂かないことで一方的な攻撃を敵に加えていった。

 そう、これまではそうだった。これまでは、こんな速度と破壊力を併せ持つ怪物相手にこの礼装を使うことはなかったのだ。

 手、足だけに留まらず、それこそ全身でもって攻撃を繰り出すウィリアムの猛攻は、型破り故の乱雑さと速度でアレクシアを襲う。アレクシアはその猛攻を、栄光の右手だけでは防ぎ切れず、左手でも魔力防壁を作り防いでいた。

「くっ……」

 アレクシアは乱雑さから生まれる攻撃の隙を突いて、空を飛び交う使い魔に指示を飛ばした。

 空を飛び交う使い魔のカラスが数匹飛来し、ウィリアムの頭上から魔力で作られた光線を放つ。しかし、ウィリアムはそれを跳び上がって回避。同時に脚を振るってカラス達を蹴り殺した。

 そして着地したと同時に地面を蹴りつけ、またもアレクシアへと襲いかかる。

 キリがない。そしてこのまま続ければ、押し込まれる。

 ウィリアムの猛攻を何とか捌きながら、アレクシアは次の対処を考える。自分が隠し持つ魔術の数々、そのどれを、どこまで使うべきかを推し量る。

 すでに彼女は気づいていた。ウィリアムの身体が、未だ最初にやったカラスの呪いに犯されていること。そしてそれが、段々と解呪されてきていること。

 このままウィリアムの痺れが治れば、自分は必ず殺される。そう確信していた。

 しかし。

「……ふう、こんな所ですかね」

 ウィリアムは乱打の速度を落とし、やがて完全に静止すると呟いた。

「……何の真似?」

 殺気立つアレクシアを他所に、ウィリアムは額の汗を拭いながら背を向けた。

「今日は何も、貴方を倒すことが目的じゃあなかった。左手の令呪を見てもマスターなのは確かなのに、未だサーヴァントを見せようともしないし……これじゃ、バチバチやっていても意味がない」

「………」

「だから、そろそろお暇しようかなー……っと、思いましてね?」

「ここまできて、逃げると?」

 そう言ってウィリアムの背に腕を向けるアレクシアに、彼は落ちていたチャクラムを拾いながら笑った。

「大丈夫。アレクシア・ブロッケン、貴方がこの聖杯戦争に参加したと分かった以上、今後は積極的に狙わざるを得ない」

「あら? どこかで会ったかしら?」

「僕は時計塔の人間だ。君らブロッケンの魔女を根絶やしにする理由は、幾らでもある」

「……そう」

 彼女は納得したように目を伏せ、ウィリアムに向けていた腕を下ろす。

「なら、尚更ここで殺す必要があるわね」

 と、彼女はそう言うや否や、指を鳴らして周囲の使い魔に指示を飛ばした。

 複数箇所から伸びる光線で、ウィリアムが立つ場所は爆発のような破壊に満たされた。しかしながら、粉塵が消える頃には、そこにウィリアムの姿はなかった。

「そういう所ですよ。穢れた魔術使い」

 そしてアレクシアの周囲から、彼の声だけが方向性もなく響き渡る。

「また会いましょう……次は、必ず仕留める」

 その言葉を最後に、アレクシアの周囲からウィリアムの気配は消えた。アレクシアはそれを確認し終えると、静かに右肩から供給していた魔力を立ち、栄光の右手を地面に下ろした。続けて治癒魔法を折れた右腕にかけ、痛みを麻痺させていく。

「………」

 アレクシアは治癒を続けながら、周囲を見渡した。ビルの屋上は、今や酷い有様だった。取り分け目につくのが、使い魔に光線の跡と、ウィリアムが踏み砕いたと思わしきタイルの破砕か。

 タイルを砕くほどの踏み込みに、あの速度だ。あのまま続けていれば、こんな骨折で済む相手ではなかったろう。それがどうしてか、向こうから引いて、自分がこうして立っている。

「……ハハッ」

 その事実が意味するところに、魔女は一人、笑いを零した。

 やはり魔術師という奴は、どこまでいってもアマチュアだ……と。

 

 

 

“キャスター、聞こえますか?”

“うむ……討ち損ねたようだな”

“面目ない……”

 アレクシアから逃走して数分、ウィリアムは腰に巻いていたパーカーを羽織り、道の脇に設置されていた自動販売機のそばで腰を下ろしていた。心の中で謝罪しながら、紐で身体に括っていた刀袋もそばに立て掛けている。

“それより、魔力供給はまだできていますよね?”

“若干弱まりつつあるが、隊士を使う分には問題ない”

 良かった。と、ウィリアムは胸を撫で下ろす。戦っている最中では、こうして念話をすることも、魔力供給の状態を確認するだけの余裕がなかったのだ。

“ウィリアム君、こちらは妙な運びになった……聞く余裕はあるかね?”

“厳しいですね……切りが良いところで、撤収しましょう。報告はそれからで”

“承知した”

 あ、僕の回収もお願いします。と、ウィリアムはそう付け加えてから、念話を切った。

 ウィリアムは改めて一息つく。汗と動悸が一向に引かない。それだけ攻め立てても、あの魔女はサーヴァントを見せなかった。ならば、情報という尻尾を追い合うドッグファイトでは彼女が一枚上手だったかもしれない。

 しかし、こちらの収穫も大きい。今はそれで、これくらいで満足すべきだ。ウィリアムはそう納得すると、ふと空を見上げた。

 ウィリアムの鋭い聴覚は、未だ火花を散らす英霊達の戦いの音を捉えた。

「……良い音だ」

 ウィリアムはそう呟くと、子供のように微笑んだ。

 ひょっとしたら今夜は、自分もアレの一部になれたかもしれない。そう思うと、微笑まずにはいられなかった。

 

 

 

 

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