スキル:エロい事にのみ使える絶対遵守の催眠術   作:バリ茶

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水無瀬クルスが命じる

 変わらない日常、他愛も無い会話。

 ぬるま湯に浸かっているような、ただ時間を浪費するだけの毎日。

 そんなある日、高校の俺のクラスは、まとめて異世界に召喚された。

 

 召喚されたのは、剣と魔法のファンタジー世界。クラスメイトの誰も彼も、いや俺さえも驚いていた。

 召喚先の神殿で告げられたのは、人間族を支配せんとする悪の帝王、魔王サタンの討伐。

 非日常に興奮する男子生徒、唐突に訪れた命の危機に恐怖する女子生徒、クラスメイトの反応はさまざまだった。

 

 

 かくいう俺も、高揚感を隠せていなかった。複雑な家族事情を持ってはいるが、これでも一介の男子高校生だ。

 アニメや小説で見ていた夢の世界に足を踏み入れたとなれば、興奮もするだろう。

 正直に言えば、ワクワクした。……その時の俺は、目の前のことだけで頭がいっぱいだったから。

 

 

『お兄ちゃん……ここ、どこ……っ?』

 

 

 ───その場にいた最愛の妹であるナナミの存在で、俺の頭は瞬時に切り替わった。

 生まれつき体が弱く、しかし強い心を持っている、みんなに優しい愛すべき妹。

 歳の離れた俺と違い、中等部の筈のナナミが、何故かそこにいた。

 

 

 世話焼きなナナミは、弁当を忘れた俺にわざわざ教室まで届けに来てくれて──不運にも異世界召喚に巻き込まれてしまったらしい。

 

 

 俺は目の前が真っ赤になり、眼前の老人に掴みかかった。

 

『ふざけるなっ! ナナミを……妹を元の世界にもどせェっ!!』

 

 そんな俺の行動が無駄だということは、何よりも自分自身が理解していた。

 魔王を討伐するその日まで、異世界の住人は俺たちを帰らせない腹積もりだろう、と。

 だが、そんなことは知らん。

 

 ナナミが巻き込まれなければいけない理由がどこにある? それはクラスメイトにも言えることだ。

 異世界から人間を召喚するくらいなら、その労力を自分たちに注げば良いはずなのだ。

 きなくさい、とても信用できたものではない。勇者などと言ってクラスメイトたちを祭り上げ、本当の目的は別にあるに違いない。

 

 

 さらに信じられないのが、召喚した本人である『ソル』という人物が、この場に居ない事だった。

 目の前にいる老人たちは、ソルという名の男に雇われただけの、ただの案内人。

 向けるべき怒りの矛先が存在しないことで、言葉にできない憤りが脳内を駆け巡った。

 

 

 この時に、俺の目的は決まったのだ。

 魔王討伐などという建前に、わざわざ付き合う必要などない。

 ソルという人物を捕縛し、必ず元の世界へ帰ることが出来る方法を聞き出す。

 愛する妹を救うためには、それしかない。

 

 

 

 

★  ★  ★  ★  ★

 

 

 

 

 そんな俺は今、盛大に追い詰められていた。

 

 一時的にクラスメイト達と別れ、町の外を探索していた時のことだ。

 『革命軍』という名の武装集団の騒動に、運悪く巻き込まれてしまった。

 俺たちを召喚した神殿が存在する国である王国の、精鋭騎士たちと奴らは抗争していた。耳に入った情報によれば、革命軍は精鋭騎士たちが秘密裡に輸送していた実験兵器を奪うつもりらしい。

 

 戦闘に巻き込まれそうになった俺が逃げた先は、不幸にも革命軍の馬車の荷台。すでに奪ったであろう実験兵器──巨大な長方形の箱を乗せたその馬車は、俺を乗せたまま発進してしまったのだ。

 

 

「くそっ、焦らずに森の方へ避難するべきだったか……」

 

 ガタガタと揺れる荷台の中で、ボソッと俺は悪態をついた。みんなやナナミを元の世界に帰らせなければいけないというのに、何という体たらく。

 このままではいけない──そう思った瞬間、馬車が荷台ごと横転した。

 俺や長方形の箱、馬に乗っていた人物も野に転がされることになる。

 

「いってて……!」

 

 荷台から投げ出された時に、地面に強打した腰をさすりながら、立ち上がる。

 目の前を見れば、そこには銀色の鎧を身に纏った王国の精鋭騎士たちがいた。

 おそらく馬車が横転したのは、この騎士たちの攻撃によるものだろう。

 

 そんな騎士たちの前に、馬を操っていた革命軍の男が立ちふさがった。

 

「王国の犬たちめ……!」

 

「おやおやぁ、革命軍の虫けらくん? まだそんなピンピンしてたのか」

 

 

 ──耳を疑った。仮にも王国に追従する騎士たちが、まるで悪党のようなセリフを吐いたのだ。

 それが革命軍の人間に対する、当たり前の反応なのだろうか。誇りある騎士がそのようなの言葉で話さなければいけないほど、革命軍とは不埒な輩の集まりなのか。

 そう考えているうちに、革命軍の男が叫んだ。

 

「黙れ! 魔王に与した化け物たちめ!!」

 

「はは、なんのことかなぁ?」

 

「貴様らのせいで……いったいどれほどの人間が命を落としたか! 魔族の力を得た貴様らは、平和だった国を破壊しっ、純粋な人間たちを次から次へと、魔王の餌にしただろう!?」

 

 

 泣きながら叫ぶ革命軍の男。

 

「俺の家族を! 親友を! この世界に残る純粋な人間が、あとどれほど残っているか、貴様らは知っているのか!!」

 

「あーはいはい、もういいから」

 

「──ッ!?」

 

 面倒くさそうに振る舞う騎士の刃で、男は胸を貫かれた。血飛沫が宙を舞い、剣を引き抜かれた男は呻き声を上げながら、地面に倒れ伏した。

 あまりにも、あっさりと命が奪われた。

 

 

「……どうすればっ」

 

 ──だが、目の前の死に狼狽えている場合ではない。

 俺はあの革命軍の男から、とんでもない真実を聞いてしまった。

 魔王に随う王国の連中が、魔族の力を得ている事。

 純粋な……いわゆる普通の人間たちを、魔王のエサとしていること。

 

 

 王国を守る騎士たちが、既に魔王の手に堕ちている。

 つまり、王国は既に魔王に陥落された、ただの人間牧場に過ぎないということだ。

 あまつさえ異世界から俺たちの様な、何も知らない人間たちをも巻き込んで血肉としている。

 身の毛のよだつ様な、魔族による一方的な蹂躙。

 

 そう、この世界はすでに、魔王に負けているのだ。

 

 

「おやおや、あなたはもしかして異世界からの勇者さまぁ?」

 

「──っ!」

 

「知られてしまったからには……生かしておくことは出来ませんねぇ。まぁ死んだ後のことは上手くやっておくんで、安心してくださいよ」

 

 俺の存在がバレてしまった。ニヤニヤとしながら、男を殺したばかりの血濡れた剣を構え、俺にゆっくりと近づいてくる。

 周囲の残りの騎士たちも、まるで見世物を見ているかのように、ゲラゲラと笑っている。

 

 

 そうか、革命軍とは、この世界の唯一の人間なんだ。

 だから魔王に支配されている王国から秘密兵器を奪い、戦うつもりだった。

 ……そうだ! 目の前に無造作に置かれた、この長方形の箱。奴らが言う、秘密兵器だ。

 勝算のない賭け事は嫌いなのだが、この窮地を脱するには、コイツに賭けるしかない……!

 

 勢いよく箱の蓋を剥がし、中を確認した。そこには──

 

 

「……お、女?」

 

「んう?」

 

 長方形の箱に入っていたのは、銃でも剣でも爆弾でもなく──人型の女性。

 俺がその姿を確認した瞬間、女は箱からゆっくりと身を乗り出した。

 

「……ん~っ、まさかここで目覚めることになるなんて……それにしても」

 

 軽く伸びをした女は、チラリと俺を見た。

 首から下を覆う黒いタイツに、布が薄い黒を基準としたスカートとジャケット。そして腰には細長い尻尾と、しまいに髪はピンク色。

 どこからどう見ても……サキュバスのコスプレ。この世界に当てはめるとすれば、確実にこの女は魔族だ。

 一縷の望みをかけて、得体のしれない秘密兵器に手を出したが、まさかただの魔族だったなんて、とんだ失態である。

 魔王に心酔しているこの騎士たちが、この魔族と敵対する理由はない。

 

 

 どう考えても詰んでいる。俺は……ここまでなのか。

 

「……なるほどね、大体わかった」

 

「は?」

 

 女の要領を得ない発言に思わず反応するが、そんな俺を無視して、女は俺を見つめてきた。

 なんだというのだ、一体。

 俺の顔を見る女の表情は、気味の悪い不敵な笑みだ。

 

「少し時間を止めるけど、慌てないで」

 

「な、何を言って……」

 

 

 

 パチン。

 

 

 女が指を鳴らした瞬間、世界が灰色に染まった。

 耳を劈く騎士たちの声が止まっていて、それどころか一歩たりとも動いていない。

 靡いていたはずの風も感じず、葉っぱ一枚も揺れはしない。

 

 この女、本当に時間を止めたとでも言うのか……!?

 

「動けるのは、私とキミだけ」

 

「……何が目的だ」

 

「教えることは出来ない。……でも、私は特別な力を君に与えることができる」

 

 そういって、前に手を突きだす女。

 その掌には、謎の紋章が刻まれている。記号で例えるとすれば『Ψ』のような形だ。

 しかし……特別な力だと? この状況で、追い詰められているだけの俺に?

 

「なぜ、そんな選択肢を俺に提示するんだ。お前は魔族、騎士も魔族。ピンチなわけではないだろう?」

 

 俺がそう言うと、女は小馬鹿にするように笑った。

 なんだというんだ。

 

「逆に聞くけど、質問している場合? キミ……このままだと死ぬよ」

 

「……聞いてもはぐらかされるだけか」

 

 

 観念しよう。どちらにせよ、俺はこの女の口車に乗る以外に、選択肢は残されていない。

 俺は右手を伸ばし、紋章が刻まれている女の手を握った。

 すると女は口角を上げ、手を握り返してきた。

 

「これは契約。キミは力を得る代わりに、私の片割れとなる。覚悟はいい?」

 

「───いいだろう、結ぶぞ、その契約!」

 

 

 その発言の瞬間、脳内を謎のイメージが駆け巡る。

 そしていつしか、頭の中には一つの言葉が浮かんでいた。

 

「キミが戦うための武器。もうどんな代物かは、分かるはず」

 

「これが、俺の───」

 

 

 

 

 

 『ギアスキル:エロい事にのみ使える絶対遵守の催眠術』

 

 

 

 

 

 ───は?

 

 

 開いた口が塞がらない。

 そんな俺を無視して、女はドヤ顔で説明を始める。

 

「人間や魔族が使える、普通のスキルじゃないよ。私と契約することで初めて得られる、この世界でも特別な力、それがギアスキル」

 

「……い、いや、あの」

 

「そう、略してギアス──」

 

「ちょ、ダメ!! それ駄目だから!! ちょっと待って!?」

 

 

 大声を出して女を制止し、頭の中を整理する。

 

 

 ……この世界に来てからは、何かと強気なキャラを作っていた。もとの高校生染みた子供な態度を取っていたら、この世界の奴らに舐められると思ったからだ。

 しかし、しっ、しかし。思わず素に戻ってしまった……いやいや、この流れでこんなふざけた能力貰ったら、誰だって焦るでしょ!?

 

 それとなくカッコいい力でも貰えるかと思ったら、出てきたのは成人指定ゲームに出てくるような能力。

 エロいことにしか使えないって何ですか……?(涙目)

 

「ちなみに言うと、キミの貞操が破られると力は無くなるよ。頑張って童貞を守ってね♡」

 

「お、お前……っ」

 

 ウィンクしてくる女に、怒りの感情が湧いてくる。

 エロい事にしか使えないのに、自分はエロいこと出来ないって、どんな欠陥構造だよ!

 

「あ、そろそろ時間が動き出すよ」

 

「はぁ!?」

 

「その力、どういう風に使うのか……楽しみっ♡」

 

「まっ──」

 

 

 

 

 

 

 いつの間にか、世界が色を取り戻している。

 目の前にいたはずのサキュバス女は消えていて、代わりに居るのはゲスな騎士団の連中だけだ。

 あいつ、どこに隠れた……!

 

 辺りを見渡すと、大きな木の上に女が立っていた。文字通り、高みの見物ってわけか。

 じょ、上等じゃねぇか!

 

 俺が開き直ると同時に、剣を携えた騎士がこちらに歩きながら喋り始めた。

 

「へっへへ、お前も散々だな。俺たちに関わんなきゃ、今頃は勇者として活躍できてたってのに」

 

 ニヤニヤしながら、近づいてくる騎士。そんな絶体絶命の俺を、この場にいるすべての騎士が気持ち悪い顔で見つめている。

 ……都合がいい、これで全員の()()()()()

 左の眼が疼く。どうやらサキュバス女に与えられた力は、俺の左目に宿っているらしい。

 俺の予想通りなら、この魔眼は相手の眼を見ることで発動できるはずだ。

 

「聞けっ!」

 

 大声を出し、改めて騎士全員の目線を俺に注目させる。

 その瞬間、俺は瞼を見開いた。

 左目に流れる血液の奔流。形容しがたい『なにか』が、瞳に集約するのを感じる。

 

 今だ!

 

水無瀬(みなせ)クルスが命じる! お前たちはここで───」

 

 

 

 

 

 

 

ヤれっ!!!(性行為をしろ)

 

 

 

 

 

★  ★  ★  ★  ★

 

 

 

 

 

 あれから三時間後、宿屋でクラスのみんなが夕食を楽しんでいるなか、俺はひとりでベッドに横たわっていた。

 

「はぁ……」

 

 思わず嘆息が漏れる。

 当然だ。何故なら俺は、初めて人の命を奪ってしまったのだから。

 

 あの時騎士たちに強制させたギアスキルの内容は『俺がやめろと言うまでヤリ続けろ』だ。

 つまり、俺が「やめろ」と言わなければ、騎士たちは永遠にヤリ続ける。

 結果、男が男に出して出して出しまくり、吐精のたびに訪れる脳の刺激に耐えられなくなり、腹上死する……というわけだ。

 なんかすっげぇ頭悪い殺し方だな。

 

 もちろん奴らの大乱交パーティーの様子からは目を背けていたが、終わった後の光景は目に焼き付いている。

 それゆえにナイーブになってしまい、食事も喉を通らなくなってしまった。 

 

「お、お兄ちゃん?」

 

 そんなベッドで寝転がる俺に声をかけてきたのは、最愛の妹であるナナミ。

 俺は上半身を起こし、優しい笑顔で彼女の方を向いた。

 

「どうしたんだい、ナナミ」

 

「えっと、お夕飯まだでしょ? これ、持ってきたんだけど……食べられそうかな」

 

「……!」

 

 ナナミが持っているトレーには、シチューの入った器と水が注がれているコップが乗っていた。

 俺のことを心配してくれるばかりか、気遣って少なめの量で持ってきてくれるなんて……。

 妹の優しさに感動してしまい、思わず涙が出そうだ。ていうか出た。

 

「だ、大丈夫!?」

 

「ああ、問題ないよ……ありがとうな、ナナミ」

 

 そっと右手をナナミの頭に置き、優しく撫でる。少し困惑していたようだが、次第にナナミは照れるように微笑んでくれた。かわいい。

 トレーを受け取り、少しずつシチューを食べ始めた。ナナミのおかげで、意味不明なあの光景は記憶の彼方へ吹っ飛んだ。食欲も戻るというものだ。

 

 

 

 ──そうだ。俺はこの笑顔を守る為に、戦っているんだ。

 たとえエロい事にしか使えない欠陥構造の力だろうが、使いこなして見せる。

 ギアスキルは絶対遵守の力、強制力なら右に出るものはない。

 俺はこの力を使って、この世界と戦って見せる。抗って見せる。必ず元の世界に戻ってみせる。

 

 

 祭り上げられた偽りの英雄ではなく、肉欲を司る影の勇者──EROとなって、この世界を攻略してやる。

 それが俺の戦い、水無瀬クルスの叛逆だ!

 

 

 

 

 

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