スキル:エロい事にのみ使える絶対遵守の催眠術   作:バリ茶

2 / 4
我が名はERO(エロ)

 翌日の昼、町はずれの小屋に俺はいた。その場には俺以外に、あのサキュバス女の姿も。

 せっせと机に向かって作業する俺とは対照的に、女はソファで寛いでいる。何しに来たんだコイツ……。

 

「おい」

 

「ん~、なに?」

 

 欠伸をしながら上半身を起こす女。その時にプルンと女の豊満な胸が揺れた。

 ハリのある蠱惑的なその乳房は、クラスメイトの女子たちが羨むような代物で、思春期真っただ中の男子たちには目の毒だろう。

 

「あらら、クルスも男の子だねぇ」

 

 気になる? といって自分のふわふわな胸を手で揺らす女。

 ──フッ。

 

「は、鼻で笑われた……」

 

「あいにくだが、お前の様な下品な女に興味は無い」

 

 微笑を浮かべながら、サキュバスらしい仕草の女を一蹴する。

 別に趣味ではない、というわけではない。というか、この世界に来る前の普通の男子高校生だった俺ならば、この女の劣情を駆り立てるようなスタイルに、やすやすと誘惑されていたことだろう。

 しかしながら、今の俺はEROであって、ただのエロガキではない。妹のナナミを無事に生還させる影になると決めたその時に、個人的な性的欲求は捨て去った。

 

 自分でも驚くほどに、俺は切り替えが出来ている。獣のような男の本能に惑わされているようでは、他人の色欲をコントロールすることなど出来はしないのだ。

 

 

 ……少し話が脱線してしまった。それより、と場を仕切り直し、女の顔を見た。

 

「いい加減、お前の名前を教えろ。いつまでもサキュバス女じゃ、呼びづらいんだ」

 

 俺の言葉を受けて、数秒のあいだ考えるような仕草をする女。答えが出たのか、人差し指をピンと上げて、俺に笑顔を向けた。

 

「サキュバス女だから、縮めてサナ!」

 

「……愛称ではなく本名を聞いたんだが」

 

「本当の名前はまだ教えられないよ~。だってキミ、まだ私の半身としての役割を果たしていないもの」

 

 飽きたように再びソファに寝転がるサナ。

 俺も極力ヤツの顔は見たくないので、机に向き直った。それでも、会話はもう少し続ける。

 

「お前は俺に何を望んでるんだ」

 

「いずれ分かるよ、いずれ……ね」

 

 意味深に告げ、会話を終わらせてきた。

 これ以上は聞いても無駄、ということか。

 

 

 

 

 しばらく経って、俺は作業を終了させた。満足感に浸っている俺の前の机に置かれているのは、全身を包めるほどの大きさがある黒いコートと、顔どころか頭全体を覆うことのできる漆黒の仮面だ。

 これは俺が水無瀬クルスではなく、EROとして活動するための変装服である。

 

 まず俺が手を組むべきなのは、言うまでもなく革命軍の連中だ。

 しかし王国の人間に召喚された勇者となれば、奴らはいい顔をしないだろう。仮に受け入れられたとしても、人質にされるのがオチ。

 ゆえに、俺は正体を隠しつつ、革命軍と同等……いや、それ以上の力を持った人物として、奴らに接触しなければならない。

 数少ない人類を勝利へと導く、奇跡の英雄EROとして。

 

 

 もちろん、本当にこの世界を救う必要は無い。俺の目的は変わらず、ナナミやクラスメイト達の帰還にあるのだから。

 正義の味方ではなく、俺は友達や家族の味方なのだ。

 

「悪い人間だね、キミは」

 

 そう言って俺の肩に手を乗せてきたのは、いつの間にか普通の服装に変わっているサナだった。

 長いスカートに、厚手のシャツと、髪まで黒になっている。

 確かにあのいかにもサキュバスといった恰好のまま、街を出歩くことは出来ないだろうが、まさかここまで印象が変わるものだとは。

 

 

 肩に置かれたサナの手を無視しつつ、机に置かれているコートと仮面を手に取る。

 

「なんのことやら」

 

「とぼけちゃってぇ。革命軍には最後の希望として手を貸すっていうのに、いざ元の世界に帰れるってなったら……彼らを見捨てるんでしょ?」

 

 イタズラめいた笑みを浮かべるサナ。

 彼女の言葉を聞きつつも、俺はコートを見に付け、漆黒の仮面を装着する。

 

 この女、まるで心を読んでいるかのようだ。

 

 確かにサナの言う通り、俺はそういった計画で事を運ぶつもりだ。この世界の住人に情などは無いし、そもそも俺たちは被害者。最後まで面倒を見てやる道理は無い。

 

 

 だが。

 

「もしも本当に魔王討伐が帰還への鍵だというのなら──」

 

 コートを翻し、小屋を出る。

 空は快晴、旅立つにはいい天気だ。

 

 

「救ってやるさ。……人間だろうが、世界だろうがな」

 

 

 

 

★  ★  ★  ★  ★

 

 

 

 

 

 騎士団が身を置いている、王国の城。俺はそこに忍び込み、とある情報を聞き出した。

 それは『革命軍のアジト』の場所。そしてなにより、騎士団がそのアジトへ突入する、という事実。

 当然クラスメイト達はそんなことは知らず、それどころか革命軍の存在すら認知していない。

 

 今動けるのは、俺だけだ。

 それに、これは逆にチャンスだ。革命軍の前で騎士団たちの進行を食い止めることが出来れば、彼らは俺の力を認めなければならなくなる。

 絶好の機会だ、交渉する手間が省けた。 

 

 

 善は急げ、城での下準備が終わった俺は、革命軍のアジトへ馬を走らせた。

 そして今現在、俺はアジトの中で革命軍の副代表と対峙している。

 

 副団長の男は、初老で常に疲れているような眼をしている。その状態を見て、革命軍がその日その日をギリギリでやり過ごしているということを理解した。

 これは好都合、こんな状態の彼らなら、自分たちに味方してくれる強力な助っ人は惜しみなく歓迎するだろう。

 ──そう思っていたのだが。

 俺の首元には、二本の槍が向けられていた。対談を監視していた見張りが、副団長の指示で牙を剥いてきたのだ。

 

 

 騎士団がアジトに向かってきている……そんな一報が届いたから。

 

 

 微動だにせず、あくまで落ち着いてその場に佇む俺。そんな様子の仮面の男を見て、副団長は我慢できずに声を荒げた。

 

「どうせ王国の差し金なんだろう!? オレたちのアジトが分かったから、こうやって時間稼ぎに来たんだ!」

 

 明らかに狼狽していて、俺を指さしている右手が震えている。

 ……まぁ、流石にこうなるか。当然だろう、まだ俺は何もしていないのだから。

 

 なおのこと一歩たりとも動かずに、椅子に座ったまま俺は言葉を告げる。なるべく声音を強くして。

 

「確かに疑われても仕方がないな。その様子を見るに、君たち革命軍は何度も仲間に裏切られてきたのだろう」

 

「つ、ついに白状したか! やっぱりお前も王国の手先だったんだ!」

 

 その言葉を聞いて、俺に向けた槍を持つ手に、力がこもる見張りたち。

 だがそれでも、俺は一歩も動かない。抵抗すれば、彼らの言葉を認めてしまうことになるから。

 今は……ただ待つだけだ。

 

「違うな、間違っているぞ副団長」

 

「なに……!」

 

 

「私は君たちの仲間ではないが、王国や魔王に与する愚者でもない。そして───騎士団の者たちがアジトに到着することはない!」

 

 俺のその発言の瞬間、勢いよく部屋の扉が開けられた。

 入ってきたのは、急いで部屋に来たのが見て取れる、汗だくの女。服装を見るに、彼女も革命軍だろう。

 ───来たか。

 仮面の中でほくそ笑む俺のことなど露知らず、女は大声を張り上げる。

 

「報告! き、騎士団の連中が……!」

 

「アジトに来たのか!?」

 

 飛び上る副団長。しかし、女は首を横に振った。

 

「ち、違います! ヤツら……そ、そのっ」

 

 言いよどむ女。なんというか、分かりやすいほどに赤面していて、言葉の続きを告げるのを躊躇している。

 そんな様子の女に苛立ち、副団長は声を荒げた。

 

「なんだというんだ! ハッキリ言え!」

 

「えっと、ぉっ、おなっ……」

 

「なんだ!」

 

「~っ!! と、とにかく外に出てください!」

 

 顔を真っ赤に染め上げた女に連れられて、副団長がアジトの外へ向かった。彼の指示で、見張り付きで俺もその場に同行する。

 

 

 

 

 

 建物の外に出た彼らが見たのは──地獄の様な光景。

 詳しい様子は省くが、騎士団の男たちは全員『下半身の衣服を脱ぎ捨てて』地面に這いつくばっていた。

 オバケもびっくりの心霊現象を目の当たりにして、副団長は身震いをして狼狽えた声をあげる。

 

「な、何だこれは……」

 

 そんな怯える副団長の前に俺は移動した。気がつけば、見張り達も目の前の光景に圧倒されて、俺への警戒が無くなっている。

 大きく腕を振り上げ、漆黒のコートを翻す。そう、全ては計画通り。

 

「言っただろう、騎士団がアジトに到着することは無い、と」

 

「これはまさか、アンタの仕業なのか!?」

 

「フッ」

 

 

 あまりにも計画通りに事が進んでしまい、思わず笑ってしまった。そう、すべては俺の掌の上なのだ。

 俺が城で行った下準備とは、これのことだ。

 アジト殲滅のメンバーたちの目の前に姿を現し、俺は彼らに一つのギアスキルをかけた。

 

 

『アジト周辺に到着した者は、もれなく全員──その場で床オナしろ』

 

 

 そんなギアスキルの影響下にある騎士たちは、擦れたら強烈な痛みを感じるであろう土の地面で……事に及んでいる。

 俺のこのギアスキルの前には、何人(なんぴと)たりとも抵抗することは出来ない。つまり今の騎士たちは、収穫を待つだけの野菜のように、地面から動くことは無い。

 

「さぁ、革命軍の諸君。騎士団の進行は止まった。彼らを殺すなり人質にするなり、全ては君たちの自由だ」

 

 ただならぬ俺の雰囲気を感じ取った副団長は、汗をかきながら俺に問いかける。

 

「アンタ……い、いや、貴方は……何者なんだ?」

 

 来たか、俺の待ち望んでいた言葉が。

 知りたいか、君たちを救った謎の英雄の、その正体を──。

 

 

 

「我が名はERO(エロ)っ! 君たち純粋な人間族を勝利へと導く、影の勇者だ!!」

 

 

 勢いよくコートを翻し、口上を決めてやった。そう、俺は変わった。

 EROとして戦うことに、高揚感すら覚えている──!

 

 

 

 

 

 

 

 ……やっぱりちょっと恥ずかしかった。

 

 

 

 




次回、クラスメイト登場
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。