不良優等生 上杉君   作:えぬに

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四葉と風太郎をスポーツでガチバトルさせてみたいという夢を叶えた

*書き終わったら2万字超えてたんで分割して投稿します。


奴隷な上杉君①

「へい、パス!」「うわ!とられた!」「ナイシュー!」

 

床を叩く振動、靴の擦れる音、生徒達の掛け声…そんな騒がしくも楽しい中で俺は苦悩していた。

苦悩している内容はこれ。勉強させないとやばいのに、俺はあいつらになんでも頼みを一つ聞いてやると言ってしまったことだ。あいつらの頼み事を聞いてたら勉強時間が削れるし、かと言って無い物にしようものならあいつからの信用を失って今後の家庭教師に影響が出る。

もはやdead or dead(どっちにしろヤバイ)だ。いくら考えても答えなんて出やしない。

 

「上杉!パス!」シュッ

風太郎「おう。パス。」パシッ、シュッ

「えっ、早っ!」

 

ボールをもらったらすぐパス。これが一番楽でいい。

 

ちなみに俺は今、体育館でバスケをしている。

本来なら俺のクラスは外で体育の授業をする予定だったが、あいにくの雨で外に出れない。というわけで、もともと体育館を使う予定だった四葉のクラスと合同授業になった。

俺はふと、俺を苦悩させている原因である5人の内の一人を見る。

 

四葉「ほっ!」

 

反対側の女子の試合を見てみると、ザシュ!と小気味良い音をたてながら四葉の放った3Pシュートが決まる。

…美しい。それしか言いようがない。

シュートフォーム、跳躍、ボールの軌道、スウィッシュ(リングに触れずに入るシュート)…その全てが素人目でみても彼女のバスケセンスが良いと物語っている。

 

「中野さん、バスケうめぇ…」

「私、バスケ部勧誘してこよっかな…」

 

周りからも賞賛の声。あれでもう少し勉強が出来れば文句なしなんだがなぁ…。

っと危ない。俺も今は試合中なんだった。といっても俺はあまり目立ちたくないから積極的には参加しないが。とりあえず相手チームに囲まれて困ってる味方からボールを受け取り、ノールックパス(相手を見ないでパス)で別の味方にまわす。ドリブルするのも億劫なので中継役に徹する。迷惑もかからないし、俺も楽できる。一石二鳥とはこのことだ。

 

先生「試合終了!はい、次のチーム、コートに入って!今試合していたチームはスコアラーと審判頼むぞ〜!」

 

あー終わった終わった。審判とかは別のやつがやってくれるみたいだし勉強してよ。

そう思い俺は体育館の壁を背にあぐらをかき、ポケットから暗記カードを取り出して勉強し始める。

と、そこに五月と四葉が俺の隣に座ってきた。

 

神よ…何故こうも貴方は私に試練を与えてくるのですか。そろそろ私めに五つ子のいない安寧な時間を与えたまえ…

基本的に無神論を信じてる俺だが、こういうときは疫病神の存在を疑ってしまう。

 

五月「上杉君、内職は良くないですよ?」

風太郎「…」

四葉「上杉さん!私のシュート見ましたか?」

風太郎「…」

四葉「無視しないでくださいよぅ〜」

風太郎「…」

四葉「上杉さ〜ん?」

風太郎「…」

四葉「もしもーし?」

風太郎「…あれっ、誰か俺を呼んでる…」

五月「呼んでるのは私たちです。」

風太郎「行かなきゃ…」

五月「どこにですか。」

 

俺は妹二人組みからの逃走を試みる

が、

四葉「逃がしません!」

 

あぁ、ダメだこのパターン、捕まった。

 

四葉「とおっ!!」

風太郎「うおっ!」

 

だから後ろからタックルすんな!普通に危ねぇ!

あと色々柔らかい…

じゃなくて!

 

風太郎「くそ!離せ!」

四葉「逃げないでくださいっ!」

五月「やっとこっちを見ましたね…なんの茶番ですか。」

風太郎「率直に言う、お前らの相手面倒くさいわ」

五月「ほんとにストレートに言いましたね!?」

風太郎「それで、何の用だよ。」

五月「用事は特にないですけど…」

四葉「お話したいってだけじゃ駄目ですか?」

風太郎「却下。」

二人「え」

 

別に俺じゃなくても良いだろ。お前らでもクラスで話す奴の一人や二人いるだろ?あと、お前らが親しげに俺に話すと俺に対する男子どもの殺気のこもった視線が痛いんだよ。

 

四葉「試合終わるの待ってる間暇じゃないですか〜」

風太郎「勉強しろ。」

五月「もう一度言いますけど、内職は良くないですよ?」

風太郎「先生公認だから平気だ。」

五月「え、そうなんですか?」

 

まぁ、嘘だけど。

 

五月「そうゆうことなら…」

 

ふっ、チョロいな。

 

四葉「そーいえば上杉さん。」

風太郎「なんだ。」

四葉「さっきちらっと上杉さんの試合を見ましたけど、なんでボールをもらってもパスばっかりしてたんですか?」

風太郎「バスケが下手だから。」

四葉「バスケが下手な人がノールックパスなんて出せますかね?」

風太郎「じゃあ面倒だから。」

四葉「上杉さんて実は運動できる方ですよね?それなのにバスケに参加しないなんて勿体無いですよ!」

風太郎「参加はしてるぞ。あれか、お前パサーを馬鹿にしてんのか。」

四葉「そうゆうことじゃなくてですね。」

 

人並みには出来ると思うが、別にバスケ自体に興味があるわけじゃないし、バスケで使う体力を少しでも勉強につぎ込みたい。

 

四葉「…私は、上杉さんが凄い人だってもっとみんなに知ってほしいです。」

風太郎「買い被りすぎだ。もし仮にそうだとしても俺は知られたくないし、知らせるつもりもない。何より目立ちたくない。」

四葉「むぅ…。食堂で上杉さんの陰口が聞こえてくるたび、なんかモヤモヤするんですよ…一回上杉さんの実力をみんなに広めるべきです。」

風太郎「俺は気にしない。もう一度言うが目立ちたくない。」

五月「…目立ちたくないって言いますけど、手遅れじゃありませんか?」

風太郎「言うな。」

 

確かにここ最近は目立ちに目立ちまくってたな。主に誰かさん達のせいで。

 

四葉「そうだ!上杉さん、今から空いてるコートで1on()1やりませんか?」

風太郎「嫌だ。」

四葉「即答!?。やりましょうよ〜」

 

そう言って四葉は俺の肩を掴んで揺らしてくる。

 

風太郎「ええい揺らすな鬱陶しい!あと絶対やらん!」

四葉「じゃあ、昨日の"何でも一つ頼める権利"を行使します!」

風太郎「そこまでしてやりたいかよ!?」

四葉「はい!」

風太郎「良い返事だこの野郎!」

 

約束は約束だからこれは従わざるを得ない。ここはポジティブに考えよう、バスケするだけで四葉からの信用を失わずに済むなら安いもんだ。

…あれ?こいつの信用ってそんなに大事か?

まぁ、深くは考えないでおこう。

 

風太郎「わーったよ。仕方ねぇ。」

四葉「上杉さんと勝負出来るなんて嬉しいです!」

 

と言って、四葉はバスケボールを取りにいくために走って行ってしまった。

 

五月「あの、上杉君…」

風太郎「あ、なんだ。お前が代わりに四葉の相手してくれるって?流石五月、やっさしー。」

五月「違います!」

 

なんだ、違うのか。

 

五月「その…お、お気をつけて…。」

風太郎「ん?何をだ?」

五月「あ、ちょっと私、水飲みに行ってきますね!!」

 

五月は頭頂部に生えているアホ毛をピョコピョコ跳ねさせながら逃げていく。

 

風太郎「あ、ちょっ!わけわかんねぇ…。」

四葉「上杉さーん!はやくー!」

風太郎「…はぁ。」

 

正直に言うと四葉についていける自信がねぇ。

 

 

 

 

四葉「勝利条件は10点先取でいいですか?」

風太郎「1点先取にしない?」

四葉「10点先取に決まりました〜。」

風太郎「聞いた意味。」

四葉「では、先攻は上杉さんで!」シュ!

風太郎「…」パシッ

風太郎「さっき試合やったばっかりだけど、体力的に大丈夫なのか?」

四葉「大丈夫ですよ。軽めにしか走ってないので。」

風太郎「手加減していいのかよ。」

四葉「声を大にしては言えないんですが、私が本気出しちゃうとみんなつまらないかなって…」

 

なるほど、上手い奴が無双し出したら周りの奴らはたまったもんじゃないからな。周りに気を使って本気を出したいのに出せないってのも気の毒だな。

…しょうがねぇ、本気で相手してやるか。

 

風太郎「四葉、俺はバスケなんぞ興味ないが、勝負事は別だ。男が女に負けるわけにはいかないしな。容赦しないから覚悟しとけよ…?」

四葉「!…望むところです!上杉さんこそ私に負けても泣かないでくださいね?」

 

本気で相手をしてもらえるとわかって嬉しそうにする四葉。四葉ってこんな挑発をやり返すような奴だったのか。

 

風太郎「いって…ろ!」ダ!

 

俺は瞬時にドライブ(相手を抜く)を試みる。

が、

四葉「抜かせません!」

 

と流石の反応、簡単には抜かせてくれない。

ここで俺はクロスオーバードリブルでそれと同時に右足を軸に体を捻り、四葉とボールの間にギャップを作ることに成功する。

 

四葉「!!」

風太郎「まずは2点!」

 

そのまま四葉を前に抜かせないように腕でガードしながら全力で走り、俺は難なくレイアップを決める。

 

四葉「…やっぱり上杉さんは凄いです。」

風太郎「お褒めに預かり光栄だ。」シュッ

四葉「…」パシッ

四葉「いきますよ?」ダ!

風太郎「!」

 

四葉は全力ダッシュで俺の右を抜けようとする。短距離なら俺と四葉の速さにあまり差は出ないはず。俺は四葉に抜かれないよう、徹底的に張り付こうとした、

が、

四葉「ほっ!」

風太郎「!!」

風太郎(あのスピードでこの切り返しって嘘だろ?どんな筋肉のつき方してんだ!?)

 

全力疾走からのあんな切り返しをされては反応できない。そのまま四葉はミドルシュートを決める。

 

四葉「上杉さんは確かに凄いです。でも、私だって運動に関しては上杉さんにだって負けませんよ!」シュッ

風太郎「…みたいだな。」パシッ

風太郎「…」ダンッダンッ

四葉「…」

風太郎「…」ダンダンダンダン

四葉(右左右右左…)

風太郎スッ!

四葉「右!」

 

ここですかさず右に行くとフェイクを入れバックビハインド(後ろでドリブル)で左へ抜き去る。

 

風太郎「残念、左でした。」

四葉「あ!」

 

俺が放ったミドルシュートは無事にリングに吸い込まれる。

 

風太郎「どうだ。」シュッ

四葉「むぅ〜。上杉さん、さっきのノールックパスといい、相手を騙すのが上手いですね。」パシッ

風太郎「せめてフェイクがうまいと言ってくれ…」

 

「おい、あの二人上手すぎないか?」

「すげぇ…」「どっちが勝つんだ?」

 

夢中で気づかなかったがいつのまにかギャラリーが増えていた。これ以上続けると目立ちすぎるので、四葉に中止にしようとの趣旨を伝えようとするが…

 

四葉「上杉さん、途中でやめるなんてことは言わないですよね?ここからが面白いんじゃないですか。」

風太郎「えぇ…」

 

やばい、四葉がすっげーやる気満々なんだけど。はっきり言ってもうやりたくない。

 

四葉「ふふ、楽しいなぁ…♪」

風太郎「!!」

 

そう言って四葉が笑った瞬間、俺は絶句してしまった。明らかに四葉の目が攻撃的なっている。

 

悪寒。背中を駆け巡る不快感。

嫌な汗が止まらない、運動してて暑いのに一瞬で冷える。捕食者と目が合ってしまった時のような、そんな緊張感が場を満たす。

 

俺はこの感覚には馴染みがある。喧嘩するとき、格上と遭遇すると感覚でわかるのだ、相手が自分より強いと本能が告げる。だが、それは俺に冷静さをもたらしてくれるものでもある。

 

四葉「いきますよ?上杉さん♪」ダッ

風太郎「!!はやっ…」

 

四葉は俺に向かってロケットスタートを切ってくる。四葉は平均速度はもちろん、初速がありえないほど速い。俺はボールをスティールしようと試みるが四葉はダックインで俺の腕の下を通り抜けていく。

 

風太郎(こいつ、さっきより速い!)

風太郎「んのやろ!」

 

抜かれた反対側に俺は体を回転させ、その勢いのまま四葉を追いかけジャンプシュートをブロックしようと同時に跳ぶ。しかし、四葉は空中で俺のブロックを躱し、下投げでシュートをうつ。

 

四葉「ほっ!」

風太郎「!」

 

ザシュッという音とともに四葉のシュートが入る。

 

「中野さんすげぇ…」「え、今の何が起こったの?」「全然分かんねぇ…」「あれに反応した上杉君もすごい…」

周りからもどよめきの声が上がる。

 

四葉「上杉さん、もっとギアあげませんか♪」

風太郎「…」

 

現在6-6。早ければ攻撃2回守備2回で勝負はつく。だが、今のこいつを見てると合計してたった4回が果てしなく遠くに感じてしまう。

どうやら俺は四葉の中にある闘争心を呼び覚ましてしまったらしい。

 

…五月のやつ、気をつけろってこのこと(四葉の本気)だったのかよ。

 

 

五月「んっ、んっ、ぷはっ」

 

その頃五月は自分の水筒で水を飲みながらその試合を遠巻きに見ていた。

 

五月(ああなった四葉は手がつけられませんからね…ご愁傷様です。)

 

年が同じの姉妹なので、幼い頃に一緒に体を動かして遊ぶことも何度かあった。身体能力にそれほど差はないはずなのに、いつも彼女はほかの誰よりも優っていた。なぜか?それは、彼女は他よりも"野性"が人一倍あったから。一緒に遊ぶその度にいつも実感させられていた。あの子の中にあるものは特別なのだと。

 

五月(死なないことを祈ってます、上杉君。)

 

ぶるっ、と身震いする。

風太郎(今、誰かに縁起でもないことを心配された気がする。バスケで死にはしないだろ。)

 

とりあえず目の前にいるこいつをなんとかしないと。

 

風太郎「厄介すぎる…」

四葉「さぁ、次は上杉さんの攻撃ですよ♪」シュッ

風太郎「さっきから妙にテンション高いな」パシッ

四葉「いやぁ、こんなに本気出してやったのは久しぶりで楽しくって♪」

風太郎「さいですかっ!」ダッ

 

相変わらず楽しそうにしやがって、何が本気だ。付き合わされる身にもなれ。

俺は全力でドライブを試みるが、

 

四葉「私にスピード勝負ですか?」

 

張り付かれてしまう。

 

風太郎「まさか。」ピタッ!

四葉「え?」

風太郎「…」ダッ!

 

チェンジオブぺース。俺は急ブレーキをかけ、さらにそこから全力で加速する。筋力まかせで強引に加速するので足に負担がかかるが、どうせ数プレイで終わるんだ、温存しても意味がない。

 

四葉「うわわっ!」

 

これなら流石に反応できないだろ。

俺は完全に四葉を抜いたと思った。

 

風太郎「もらっ「させません!」た!」

 

が、やはりスピードの差か。

四葉も同時に加速。すでにブロック体制に入っていた。

 

風太郎「…お前、本当に人間?」

四葉「どーゆー意味ですか!?」

 

率直に言おう、化け物だわこいつ。瞬発力がさっきと比べてたら有り得ないほど早い。

 

風太郎「ふっ!」シュ!

四葉「あっ!」

 

ザシュ!

 

四葉「話してる隙にシュートはずるくないですか!?」

風太郎「油断したお前が悪い。」シュッ

四葉「むぅ〜」パシッ

 

頰を膨らませても無駄だ。こっちは体力が限界なんだよ。使えるものは何でも使ってやる。

 

四葉「そんなずるい上杉さんにはお仕置きが必要ですね♪」ダンダン

風太郎「キャーコワーイ(棒)」

 

お前そんなSなキャラじゃなかっただろ。

 

四葉「…」ダ!

風太郎「!…ちっ!」

 

相変わらずスピードで攻めてきやがって!それでもなんとか食らいつくが、

 

四葉「ほっ!」クルッ

風太郎「!」

 

クロスオーバーステップ。やられた。

俺を抜き去ったあと、四葉はレイアップで決める。

 

四葉「ここまで同点ですね!」シュッ

風太郎「…」パシッ

 

ここまで、お互いに一回も相手を止められていない。四葉は俺よりスピードがあり、俺は四葉よりフェイクが上手い(あと狡いやり方)。そのことが、お互いを止められずにいる。

…まずいな、お互いにシュート成功率が100%は流石に予想してなかったぞ。もう感覚でわかるが、次の守備で俺は四葉を止められないだろう。つまり良くて引き分けである。男としてのプライドもあるので、負けるのだけは避けたい。

 

風太郎「これは絶対に決めないとな…」ダン、ダン

四葉「♪」

 

どうする、多分2度同じ手は通じない。いっそドリブルせず直接狙うか?いや、ダメだ。多分決まらないだろう。…だが、やるしかない。

 

風太郎「…」ダンダン

四葉「フェイクは意味ないですよ?後からでも追いつけますし♪」

風太郎「んなことぁ分かってるよ。」

 

どうせ抜いてもシュートモーション中に追いつかれて後ろから取られるのがオチだ。

 

 

風太郎「だからいっそのことドリブルもやめるわ。」

四葉「へ?」

風太郎「ふっ!」シュッ!

四葉「!…一か八かの3Pシュートですか!」

風太郎「いや、違う」ダ!

四葉「!え、まさか…」

 

弾道はとびっきり高くしておいた。これなら俺の足の速さでもギリギリ間に合うはずだ。

 

リングにボールが当たり、運良くそのままボールは真上へ跳ね上がる。

 

風太郎「そう、俺の狙いはダンクシュートだ!」

 

唯一俺が四葉に勝っているであろう、身長。それを使う。

 

もっと速く、もっと、もっと!そして跳べ!全身をバネにして跳べ!!

 

自分に言い聞かせ、俺はボールが落ちてくるタイミングに合わせて思いっきりジャンプする。そして見事にボールをキャッチしそのままゴールに叩き込む。

 

風太郎「どりゃあ!!」ガコン!!

 

 

 

しんっと静まり返る体育館。

 

そしてしばらくして周りからの歓声で再びうるさくなる。

 

風太郎「…なんとか決まって良かったぜ…」ブラ-ン

 

四葉「…あはっ♪ナイスダンクです!」

 

リングから手を離し、着地する。

 

風太郎「はぁ、はぁ、ダメだ…今ので力使い果たした…」

 

そう言って俺は床に倒れこむ。

 

「うおー!」「すっげー戦いだった!」「上杉君てあんなスポーツ出来るの?!」「ダンクかっけえ!」

 

周りから賞賛と拍手が送られる。

目立ちたくなかったのに…

そこへ四葉が

 

四葉「あと一回だけ私の攻撃が残ってるんですが…上杉さん、もうこれ以上は動かそうにもないので、勝負はお預けですね。」

風太郎「そうしてくれると、た、助かる…」

四葉「それにしても上杉さん、ダンク出来たんですね!」

風太郎「初めてやったけどな。」

四葉「!…上杉さんはやっぱり凄いです。」

 

と四葉は俺に微笑む。

…いつもの四葉だ。

 

四葉「勝負はまた今度やりましょう!」

風太郎「…お前とは二度と勝負しない。」

四葉「えぇ!?」

風太郎「お前、スポーツになると性格が変わるんだな…はっきり言って攻撃的すぎて怖かったぞ…」

 

普段怒らない奴が怒ると怖いときの感覚に似ている。

 

四葉「性格が変わる…?」

風太郎「無自覚かよ!」

四葉「…あ、いや、あ、あはははは!何を言ってるんですか上杉さん、そんな漫画みたいなことあるわけないですよ!」

 

実際にあったから言ってんだよ。あとこいつ、なんで少し動揺してんだ?

 

四葉「そんなことより上杉さん。」

風太郎「なんだ。」

四葉「みなさんは上杉さんを凄い人と認めたようですよ。」

風太郎「…」

四葉「こーゆーのもたまには悪くないんじゃないですか?」

風太郎「…あんまり嫌じゃないと感じる自分が嫌だ。」

四葉「えっ、何ですかそれ。」

 

普段は目立ちたくないと思ってるのに、心のどこかで注目を浴びるのも悪くないと思ってる自分が

いる事実。その事実が何故か腹立たしい。

 

四葉「上杉さん。」

 

四葉が俺に手を差し出してくる

 

風太郎「…サンキュ」

 

そう言って俺は四葉の手を借りて立ち上がるのだった。

 

四葉「ナイスゲームでした!」

風太郎「…おう。」

 

 

ちなみにあの後、四葉はその圧倒的な身体能力を買われ、今度バスケ部の助っ人として試合に出ることとなった。

 

 

…助っ人なんて行かないで

勉強しろおおおおぉぉ!!!

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

風太郎「…」

 

四葉とのバスケの後、全授業を終え今は放課後。

放課後は五つ子と勉強会

といきたいところだったが、一花が俺にやってほしいことがあるとのことなので今日の勉強会は無しになった。なので、これから中野家へと向かわなければならなかった

のだが…

 

風太郎「…傘パクられた…」

 

どんよりとした空で辺りは薄暗く、そんな中で雨は容赦なく地面に叩きつけられている。なのにだ、誰でも一度は経験があるだろう、傘を盗まれると言う事案が発生してしまった。これでは帰れない。

 

風太郎「くそ…こっちは金なし暇なしだってのに、傘だってタダじゃねんだぞ…」

 

他の奴の傘を使うわけにもいかない。教員室に行けば傘を貸してもらえるだろうか。とりあえず行ってみることにした。

 

 

風太郎「…」

 

結果を言うと貸し出して貰えなかった。朝は降っていなかったからか傘を持ってきていなかった生徒が多かったため、貸し出せる傘は全て貸し出してしまったらしい。

 

風太郎「…はぁ、一花を待たせるのも悪いし、走って行くか。」

 

そう決意し、いざ走り出そうとしたところに

 

三玖「一人でブツブツ話してるけど、どうかした?」

風太郎「うおお?!」

 

本気で驚いた。いつから居たんだ。

 

風太郎「なんだ、三玖か…驚かせんなよ。」

三玖「勝手に驚いたのはそっちでしょ。で、どうかしたの?」

風太郎「それが、傘をパクられちまってな。」

三玖「それはお気の毒に。教員室で借りてきたら?」

風太郎「全部貸し出されてた。」

三玖「それは…運が無かったね。」

 

ほんとだよ、今日の運気はマジで最悪だ。

四葉の相手をさせられ、傘をパクられる。厄日だな。

 

三玖「で、どうするつもりだったの?」

風太郎「走って帰ろうかと。」

三玖「風邪ひきたいの?」

風太郎「そんなわけ。」

三玖「私の傘に入る?途中まで一緒だよね?」

風太郎「え、いいのか?」

三玖「それぐらい平気。」

風太郎「そ、そうか、ならお言葉に甘えさせて貰う…。あと、実は一花に呼び出されててこれからお前らの家に行く予定なんだが、帰りに傘を貸してくれると非常に助かるんだが…」

三玖「うん、いいよ。」

風太郎「すまんな…」

 

 

 

風太郎「…」

三玖「…」

 

俺たちは俗に言う相合傘というものをしながら雨の中を黙って歩く。

 

き、気まずい…

二人っきりだとあまり喋ることがないな。いつもならあいつらの誰かしらが一緒に居るから平気なのだが…。

そして、その沈黙を最初に破ったのは三玖だった。

三玖「ねぇ、フータロー。」

風太郎「なんだ。」

三玖「フータローって本当は不良だよね?」

風太郎「ぶっ!!」

 

おもいっきりふいてしまった。

いきなりその話かよ…

 

風太郎「チ、チガウヨ。」

三玖「初めて会ったときもそうやって動揺してたよね…別に嘘つかなくてもいいよ。誰にも言うつもりもないし。」

風太郎「…」

 

認めてしまっても良いのだろうか…。

だが、例え俺が嘘を突き通してもこいつらにはもう確実にバレているから意味がない気がする。(約一名除く。)だったら素直に認めてしまってそれを受け入れてもらえればお互いのためになるのではないだろうか。

 

風太郎「…あぁ、そうだよ。確かに俺は不良だ。実際何度も殴り合いの喧嘩してる。そんな奴が家庭教師なんて嫌か?」

三玖「そんなに気にならないかな。家庭教師としての能力があればそれで良いと思う。」

風太郎「そうか…。」

三玖「それに、フータローがその事実を隠したかった理由って、そんなことが知られたら学校に居られなくなる可能性があるからでしょ?それなのに私達に何かするなんて考えにくいし。」

 

わーお。三玖さん鋭い。

 

風太郎「…」

三玖「でも、そんなに学校が大事なら喧嘩なんてやめればいいのに。ついでにその金髪も。どうして不良なんてやってるの?」

風太郎「学校なんて大事じゃねーし。」

三玖「嘘。」

風太郎「…」

三玖「どうして?」

風太郎「…どうしても言わなきゃダメか?」

三玖「うん。」

風太郎「…ある人と約束した。以上。」

三玖「簡潔すぎ。もっと詳しく。」

風太郎「ここから先は有料だ。」

三玖「じゃあ、"何でも一つ頼める権利"を使う」

風太郎「えぇ…。はぁ、分かったよ。そんな隠しておくようなことでもないからな。」

風太郎「…小学生の時、俺は今みたいに喧嘩もしなければ金髪でもない。普通のどこにでもいる餓鬼だった。率直に言えば弱かったよ。」

三玖「…」

風太郎「んで、色々あってある女の子に会ったんだが、その子に約束したんだよ。お互いに必要とされる強い人間になろうって。」

三玖「…だから喧嘩も強くなって勉強も出来るように努力したんだね。」

風太郎「ああ。文武両道になりたかったんだが、大抵どの部活も金がかかるからな、金をかけずに強くなるには喧嘩が一番だったんだよ。」

三玖「…暴力は良くないよ。」

風太郎「まぁ、たしかにな。ただ、環境が環境なだけにやらざるを得なかったっていう理由もある。金髪も舐められないように染めたってのが理由だ。でも、もうこれからは喧嘩なんてしないで勉強に集中しようと思ってるよ。お前らの家庭教師もあるし。」

 

近くに今通ってる高校があったから良かったものの、中学の頃は不良学校に行かざを得なかったからな。交通費の関係で。しょっちゅう喧嘩ばっかやってたよ。

 

三玖「…その約束を守ろうとして、長い間努力して、学年一位にまでなれたフータローは凄いよ。尊敬する。」

風太郎「そうか?」

三玖「うん、そうだよ。少なくとも私なんかじゃ絶対に無理。」

風太郎「そんなことはないだろ、三玖にだってやろうと思えばできる。」

三玖「え?」

風太郎「お前は姉妹の中では小テストの成績が一番良い。それは努力の結果じゃないのか?」

三玖「…たしかにそうかもしれない。けど、私ができる程度のことなんて、他の姉妹にも出来るよ。私は他の姉妹と違って、何もないから…だから、その代わりにもならないけど、ちょっと勉強しただけ。」

風太郎「それでもテスト結果はお前が一番秀でてる。あいつらがやってないだけ、なんて事情は知るか。それはお前のやったもん勝ちだろ?」

三玖「…ふふっ、なにそれ。」

風太郎「とにかくやろうと思えばできるって事だ。ソースは俺。」

三玖「そっか。うん、そうだよね。」

 

こいつはとにかく自信がない傾向にある(多分だが。)だから、一つでいいから何か自信の持てるものが出来ればいいんだが…。

 

風太郎「あ、そういえば、さっき俺が話したこと誰にも言わないでくれよ?」

三玖「…わかった。」

風太郎「助かる…」

三玖「…秘密を知られたくない気持ちは分からなくもない。」

風太郎「…?お前にも秘密ってのがあるのか?」

三玖「女の子の秘密を聞こうとするなんてデリカシーなさすぎ、フータロー。」

風太郎「え」

 

誰しもがあるものだろ?その存在を確認しただけでデリカシー無い認定されちまうのか…女って難しい。

 

風太郎「あーあ、昨日の何でもする発言なんてしなければよかったよ。そうでなきゃ、こうしてわざわざ中野家に行くこともなければ、今頃図書館で勉強会を開けたのに。こんなことしてる暇なんか俺もお前らも無いっつーの。」

三玖「そんなに私達の進級ってこのままだと怪しいの…?」

風太郎「お前らの頑張り次第としか言いようがない。まぁ、最近では割と勉強してくれるようになったからこのままいけば大丈夫だろ。」

三玖「…そうだね。言ったら悪いけど、私達の中で一番成績の悪い四葉があんなにやる気出してるんだもん。私も頑張らないとね。」

 

なるほど、こいつが割とすんなり俺の家庭教師を受け入れたのは四葉のやる気に触発されたからなのか。

 

風太郎「そうか。お前がやる気ならいくらでもサポートしてやるよ。」

三玖「…フータローはいつも一生懸命だね。」

風太郎「お前らの進級がかかってるって聞かされちゃ手は抜けねーよ。」

三玖「それでもわざわざ家庭教師の無い日に勉強会を開いたりするなんて今までの家庭教師じゃフータローが初めてなんだよ?」

風太郎「ん?そうなのか。」

三玖「うん。」

 

 

と、あれこれ話してるうちに五つ子が住んでいるマンションに到着した。

マンションに入る直前に三玖は笑いながら言う。

 

三玖「私、頑張ってみるよ。だから、赤点回避出来るようにちゃんとサポートしてよね。」

 

 

風太郎「…ああ!」

 

それに対して俺も笑顔で答えた。




次回に続きます。
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