アイドルマスターシンデレラガールズ 月明かりに照らされし姫々 作:茄子林檎柘榴
みりあは逃げた、2mを優に超す蜘蛛など普通ではない、着ぐるみ、妖怪、お化けその何れかでも形容できない異形。それにあの蜘蛛の紅い瞳は明らかにみりあに敵意を向けていた。
「ハッ…はぁはぁ」
もう体が言うことを聞かなくなるまで走って角を見つけては曲がってを繰り返してどれくらい経過しただろうか、これ以上走ったら死ぬとまで思われた。
「流石に、撒けたかな?」
しかしそれは希望的観測に過ぎなかった。
刹那、歪な咆哮とともに上から蜘蛛がみりあ目掛けて飛び降りてくる。脚が頬を削る、薄ら傷の付けられた頬には濁った赤黒い血が伝う。
「だっ、だ…か」
恐怖で矮小した風にかき消されそうな弱々しい声は満足に言葉として出すことすらまたならない。殺される、そう思った瞬間。
手に握られていたバックルのハートが光り出す、それはおもちゃのような安っぽい光ではなく、本物の、例えるならば暗闇の中凛として輝く月のような光。
その不思議な光景に魅せられたみりあは蜘蛛を忘れほとんど動かされるみたいにしてバックルを中腹部にあてがう。
視界が”白”に染まる。眩しいのだ。瞼を閉じてもしっかりと発光しているのが分かるくらいに、それは明るい。
「なに…これ」
瞼をゆっくり開け光の引いたのを確認したみりあは自分の姿に驚愕する。
野暮なジャージはアイドルのような衣装に変わり、驚きから強く握られた手には魔法少女みたいな綺麗なステッキが握られていた。
蜘蛛は光に目をくらましたのか、それとも何か別の忌々しい理由があるのか。変身したみりあを凄まじい形相で睨みつけている。蜘蛛はみりあの立ち上がるのを合図にしたように飛びかからんとする。
みりあはその蜘蛛に向けて反射的に手に握られたステッキを向ける。ステッキの先端が光り出す。
杖はパァーという華やげな音を上げると、蜘蛛の体を焼いた。
「まさか、本当…に」
みりあは慟哭を上げる蜘蛛から後退しながら言葉をこぼす。そう可愛らしいな衣装に身を包み杖で化け物を成敗するなんてまさしく
魔法少女
だと。
蜘蛛は歪な慟哭を上げると完全に動きを停止してしまった。どうやら死んだみたいだ。
「あれ、これどうやって変身解くんだろ〜」
関心は眼前の脅威から自分に向いた。どうやら下着から何から服装の変わっている様子。
これから、どうしよう。このバックルは交番に届ければいいのだろうか。等々次の問題へ思考を走らせている、と。
刹那、活動を停止したはずの蜘蛛がみりあに覆い被さる形で倒れ込んでこようとして、いた。
思わず目を瞑ってしまう、いきなりすぎる状況についていけなかったのだ。
パァン。と、乾いた音が響く。恐る恐る目を開ける、どうやら自分は生きているみたいだ。
眼前には体を崩し塵状になりかけている蜘蛛と、煙の上がった銃口をみりあに向ける少女が一人。
「あなたは私の敵ですか?それとも味方ですか?」
蜘蛛を殺したであろう少女ら実に端的に、あっさりと、そう言った。