予備校の帰りに声をかけられる。
「比企谷」
「えっと、川、川、川…川岸さん?」
「川崎だけど、殴るよ」
「やめてください。死んでしまいます」
「まぁ、いい。アンタ、今日も寄り道するのかい?」
「まぁな」
「あの…、わ、私も行っていいかな?」
「かまわないが、どこへいくか知ってるのか?」
「前に店に入るの見かけて、私も行ったことあるから」
「そうか」
「いらっしゃい。今日は嬢ちゃんも一緒か」
「予備校が一緒なんで」
「まぁ、ゆっくりしていきな」
「比企谷の煎れたコーヒーも美味しかったけど、ここのは格別だね」
「俺も練習してるんだけどな」
「ふ~ん」
「ひゃっはろー!比企谷君」
「いらっしゃい」
「げっ!雪ノ下さん」
「こんな美人のお姉さんを捕まえて『げっ!』とはなにかな~」
「雪ノ下さん?」
「あぁ、雪ノ下の姉だ」
「そっちの娘は誰かなぁ?雪乃ちゃんがいるのに、浮気はダメだぞ」
「雪ノ下とは付き合ってないので、浮気もなにもありません」
「お嬢さん、注文は?」
「え~と、ブレンドでいいわ」
「それで、何か用ですか?雪ノ下さん」
「未来のお義姉さんに冷たいなぁ」
「そんな未来はありません」
「もう!比企谷君が女の子とここに入るのが見えたから」
「川崎はそんなんじゃ、ありません。只のクラスメイトです」
「ふ~ん、川崎さんはそうでもなさそうだけどね」
「た、只のクラスメイトです!」
「比企谷君に手を出したらダメだからね。彼は雪乃ちゃんの彼氏になるんだから」
「雪ノ下には、友達申請を二回も断られてるんですから、彼氏になるわけないでしょ」
「『本物』だったかしら…。それはどうなのかな?」
「くっ!」
「やれやれ。お嬢さん、それぐらいで勘弁してくれ。ここはコーヒーとタバコと会話を楽しむ場所だ」
「え~、会話楽しんでるじゃない」
「彼が楽しんでるようには見えないんだがね」
「私は楽しんでるわよ。邪魔をしないで」
「邪魔じゃない。常連さんに助け船を出しただけだ」
「マスター。気にしないでください」
「そうはいかないな。ここは俺の店だからな」
「マスター、ヤバいですって!この人は…」
「大丈夫だ、坊主。お嬢さん、気に入らないかね」
「えぇ、とっても…」
「お嬢さん、もう少し大人になりな」
「それ、どういう意味かしら?」
「言葉の通りだ」
「貴方、私を怒らせたいの?」
「いや、常連さんが困ってたからな。お嬢さんに喧嘩を売った訳じゃない」
「そのお嬢さんて言い方も勘に触るわね」
「そう、カッカしなさんな」
「一々勘に触るわね」
「少し冷静になってもらおうか。ちょっと失礼」
「スマホなんか出してどうする気?」
「ちょっと、友人に助けてもらうのさ」
「あ~、俺だ。すまんな忙しいのに…。店に厄介な客が居てな。ちょっと相手に電話代わる…。ほら、お嬢さん話してくれ」
「もしもし、代わりました。貴方、この店のオーナーか何かなの?」
すると、雪ノ下さんの顔色が青くなる。
「はい、すいません。後程ご説明したします。失礼します…」
「お嬢さん、そういうことだ」
「…はい」
「マスター。誰に電話したんですか?」
「お前の親父の悪友だよ」
「あ~」
「お嬢さん、これ飲んでみな」
「はい。いただきます…。凄く甘い…。でも懐かしい味…」
「お嬢さんが小さい頃に、父親に連れられて来たことがあるんだよ。その時、こいつを飲ませたら、美味しそうに飲んでたよ」
「あ、思い出しました。この店だったんですね。大変失礼いたしました。いつ、私だと気がついたんですか?」
「店に入った時からだよ。俺にしたら、あの時の可愛らしいお嬢ちゃんだったよ」
「そう…でしたか…」
「あんまり、気に病むなよ。煽った俺も悪い。また来てくれよ」
「はい、ありがとうございます」
「その時は、余所行きの顔じゃなくて、肩の力を抜いて、コーヒーだけを楽しんでくれ」
「!!!…はい。今日は失礼します」
「マスター、ちょっと電話かけますけど」
「かまわないぞ」
「あぁ、親父か。雪ノ下さんて連絡できるか?あぁ、陽乃さんを責めないように伝えてくれ。そう言えばわかる。帰ったら説明するから。悪いな」
「お前も甘いな」
「助けてもらってることもあるのでね」
「比企谷、どういうことだったの?」
「悪い川崎。雪ノ下さんが行き過ぎたことをしないように、マスターが釘をさしたってところかな」
「お、いい読みをするな」
「まったくわからないんだけど…」
「川崎、わからない方がいいこともある。今はコーヒーを楽しもうぜ」
「???…。わかったよ」
「マスター、さっき雪ノ下さんに出した甘いコーヒーって俺も飲んでみたいす」
「あぁ、まってな」
「ほらよ、おまたせ」
「いただきます。…甘くて美味い」
「だろ。MAXコーヒー好きのお前さんなら、好きな味だ」
「ひ、比企谷、一口貰ってもいい?」
「い、いや、そんなことしたら、か、か、か、間接キ…」
「小学生じゃないんだから、気にしないの!」
「あっ!飲みやがった…」
「甘い…。でも美味しい…」
「マスター、このレシピは…」
「こいつは教えられないな」
「えぇ…。わかりました。盗みます」
「おう。がんばれよ」
甘いコーヒーを研究した後、二人で帰路についた。
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おまけ
(あっ、電話だ)
「もしもし」
『比企谷さんすか?大志っす』
「大志君、どうしたの?」
『姉ちゃんが壊れたっす』
「どういうかとかな?」
「帰ってきたら、部屋でヒャッホーとか奇声を出してて…」
「あぁ、たぶんお兄ちゃんのせいだよ」
「お兄さんとなにかあったっすか?」
「一緒にコーヒー飲んで来たとか言ってたよ」
「あぁ…。姉ちゃん、お兄さんのこと好き過ぎ…」
「そうだね…」
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マスターVS陽乃を、上手く表現出来ない(;o;)