今日も予備校帰りにコーヒーショップに寄っている。
いつものように、マスターの所作をガン見している。
「前よりは上手く煎れられるようになったかい?」
「亀の歩みぐらいには…」
「はははっ!そんなに簡単に出来ても困るからな!俺が商売出来なくなっちまう」
「ですね」
そんな会話をしていると、カウンターの端から男性が話かけてくる。歳は八幡の父親と同じぐらいだろうか。
「彼が前に言ってた有望株かい?」
「あぁ、将来は美味いコーヒーを煎れられるようになるぞ」
「やっぱり、男の子が出来るまで頑張ってみるべきだったかな。はははっ!」
「は、はぁ…」
「ウチは俺以外は紅茶党でな、肩身が狭いんだよ」
「はぁ…」
「しかも、下の娘は家に寄り付きもしない…。嫌われてるのかなぁ…」
「俺でよければ、ここで話を聞くぐらいならしますよ」
「そうか!いやぁ、この店に通う楽しみが増えたな」
「俺もコミュニケーションが下手なんで、練習相手になってもらえれば、助かります」
「おぉ!Win-Winの関係だな」
「はい」
「早く飲まねぇと冷めちまうぞ」
マスターに促され、コーヒーをすすりながら会話に花を咲かせた。
翌日の放課後の教室。荷物をまとめて、部活に向かおうとすると、ひとりの女子生徒に話しかけられた。
「ちょっとアンタ」
「あ、え~と、川…川…、川畑さん?」
「川崎だけど、殴るよ」
「やめてください。死んでしまいます」
「まったく…」
「で、なんの用だ?」
「アンタ、予備校の後どこへ行ってるんだい?」
「あぁ、アレだ。息抜き」
「タバコの臭いがするって、小町が心配してたらしい」
「そうか、小町に心配を…。まて。今『らしい』と言ったか?」
「言ったよ」
「それは、誰かから聞いたということだよな?」
「大志から聞いた」
「あの小僧…。潰す」
「その前に、私がアンタを潰すよ」
「冗談です。ごめんなさい」
「まったく。私が言うのもナンだけど、あんま心配かけるなよ」
「わかったよ」
川崎沙希とそんな会話をしてから、部室に向かう。
「う~す」
「ヒッキー、サキサキとなに話してたの?」
「小町に大志が近づいているらしい…。あの小僧め」
「大概にしなさい、シスコン谷君」
「ちげぇよ」
「あはは」
「今日は水筒持っているのかしら?」
「いや、紅茶貰ってもいいか?」
「かまわないわよ」
丁寧な所作で紅茶を淹れる姿にマスターを重ねて見つめてしまう。
しかし、容姿端麗な雪ノ下雪乃がやっていると様になる。
しばらく見ていると、雪ノ下が赤い顔をしながら目線を泳がせている。
「ひ、比企谷君。そんなに見つめられると…」
「うわぁ!すまん!キモかったな」
「あ、いや、あの、嫌という訳では…」
「むぅ…」
「なんだ由比ヶ浜。リスのマネか?」
「違うし!私も紅茶淹れる!」
「許してください。死にたくありません」
「飲んでも死なないし!」
「由比ヶ浜さん、私も遠慮するわ」
「ゆきのんもヒドイ!」
そんなことがあったが、つつがなく下校時刻になる。
「ゆきのん、一緒に帰ろう」
「ええ。では、鍵を返しに行ってくるわ」
ふと、昨日の店での会話を思い出す
「あ~、雪ノ下」
「なにかしら?」
「父親というのは娘と会話をしたいらしいぞ」
「どういうことかしら?」
「まぁ、あれだ。娘と会話したいという人の話をたまたま聞いただけだ」
「そう…」
「ウチでもパパと喧嘩して口きかないと、寂しそうにしてるよ」
「ウチの親父も小町に無視されると、この世の終わりみたいな顔してたな」
「そういうものなのね。考えてみるわ」
「そうしてくれ」
人の家のことまで気にするなんて、どうしたんだろと考えながら帰路についた。