珈琲   作:おたふみ

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三話

今日も予備校帰りにコーヒーショップに寄っている。

いつものように、マスターの所作をガン見している。

 

「前よりは上手く煎れられるようになったかい?」

「亀の歩みぐらいには…」

「はははっ!そんなに簡単に出来ても困るからな!俺が商売出来なくなっちまう」

「ですね」

 

そんな会話をしていると、カウンターの端から男性が話かけてくる。歳は八幡の父親と同じぐらいだろうか。

 

「彼が前に言ってた有望株かい?」

「あぁ、将来は美味いコーヒーを煎れられるようになるぞ」

「やっぱり、男の子が出来るまで頑張ってみるべきだったかな。はははっ!」

「は、はぁ…」

「ウチは俺以外は紅茶党でな、肩身が狭いんだよ」

「はぁ…」

「しかも、下の娘は家に寄り付きもしない…。嫌われてるのかなぁ…」

「俺でよければ、ここで話を聞くぐらいならしますよ」

「そうか!いやぁ、この店に通う楽しみが増えたな」

「俺もコミュニケーションが下手なんで、練習相手になってもらえれば、助かります」

「おぉ!Win-Winの関係だな」

「はい」

「早く飲まねぇと冷めちまうぞ」

 

マスターに促され、コーヒーをすすりながら会話に花を咲かせた。

 

翌日の放課後の教室。荷物をまとめて、部活に向かおうとすると、ひとりの女子生徒に話しかけられた。

 

「ちょっとアンタ」

「あ、え~と、川…川…、川畑さん?」

「川崎だけど、殴るよ」

「やめてください。死んでしまいます」

「まったく…」

「で、なんの用だ?」

「アンタ、予備校の後どこへ行ってるんだい?」

「あぁ、アレだ。息抜き」

「タバコの臭いがするって、小町が心配してたらしい」

「そうか、小町に心配を…。まて。今『らしい』と言ったか?」

「言ったよ」

「それは、誰かから聞いたということだよな?」

「大志から聞いた」

「あの小僧…。潰す」

「その前に、私がアンタを潰すよ」

「冗談です。ごめんなさい」

「まったく。私が言うのもナンだけど、あんま心配かけるなよ」

「わかったよ」

 

川崎沙希とそんな会話をしてから、部室に向かう。

 

「う~す」

「ヒッキー、サキサキとなに話してたの?」

「小町に大志が近づいているらしい…。あの小僧め」

「大概にしなさい、シスコン谷君」

「ちげぇよ」

「あはは」

「今日は水筒持っているのかしら?」

「いや、紅茶貰ってもいいか?」

「かまわないわよ」

 

丁寧な所作で紅茶を淹れる姿にマスターを重ねて見つめてしまう。

しかし、容姿端麗な雪ノ下雪乃がやっていると様になる。

 

しばらく見ていると、雪ノ下が赤い顔をしながら目線を泳がせている。

 

「ひ、比企谷君。そんなに見つめられると…」

「うわぁ!すまん!キモかったな」

「あ、いや、あの、嫌という訳では…」

「むぅ…」

「なんだ由比ヶ浜。リスのマネか?」

「違うし!私も紅茶淹れる!」

「許してください。死にたくありません」

「飲んでも死なないし!」

「由比ヶ浜さん、私も遠慮するわ」

「ゆきのんもヒドイ!」

 

そんなことがあったが、つつがなく下校時刻になる。

 

「ゆきのん、一緒に帰ろう」

「ええ。では、鍵を返しに行ってくるわ」

 

ふと、昨日の店での会話を思い出す

「あ~、雪ノ下」

「なにかしら?」

「父親というのは娘と会話をしたいらしいぞ」

「どういうことかしら?」

「まぁ、あれだ。娘と会話したいという人の話をたまたま聞いただけだ」

「そう…」

「ウチでもパパと喧嘩して口きかないと、寂しそうにしてるよ」

「ウチの親父も小町に無視されると、この世の終わりみたいな顔してたな」

「そういうものなのね。考えてみるわ」

「そうしてくれ」

 

人の家のことまで気にするなんて、どうしたんだろと考えながら帰路についた。

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