只今、閉店後の掃除中。
マスターも俺も花火大会に行く為、早めの閉店。
マスターは自分の煎れたコーヒーを飲んでいる。
「コーヒーが旨いと気分がいい」
「砂漠の虎が居る…。どんだけガンダム好きなんですか」
「ガンダムの話は、平塚さんと盛り上がるからな」
「そろそろ、愛しのアイシャが来ますよ」
「よし、車をまわしてくる」
マスターが車を出しに行ってすぐ、浴衣の女性が店に入って来た。
「すいません、今日はもう閉て…」
「ひ、比企谷、マスターは…」
「ひ、平塚先生!!」
「どうした、比企谷。私だ、平塚だ」
「み、見違えました…」
「そ、そうか」
「すげぇ、綺麗です」
「そ、そうか…」
車を準備してきたマスターが戻ってきた。
「…」
「に、似合わないでしょうか…」
「いや、平塚さんは浴衣も似合う。俺の方が気後れしそうだ」
「マスター、平塚先生、写真撮っていいですか?」
「ひ、比企谷、何を…」
「おぉ、坊主、俺にもデータよこせよ」
「もちろん!」
写真を数枚撮ったあと、マスターと平塚先生は店を出る。
「後は任せたぞ、ダコスタ君」
「誰がダコスタですか!ヨーグルトソースのケバブでも食ってください」
「ではな、比企谷」
「いってらっしゃい、アイシャさん」
「なっ!」
「では、行こうか、アイシャ」
「え、えぇ、アンディ…」
「そこはネタにノるんですね…」
しばらくすると、独特な挨拶で由比ヶ浜が店内に入ってくる。
「やっはろー!」
「おぅ、由比ヶ浜」
「…」
「ヒッキー、なんか言うことないの?」
「に、似合ってるぞ、浴衣…って、言わすなよ恥ずかしいんだよ」
「う、うん。でも、言ってもらえると嬉しいんだよ」
「俺が言うとキモイだけだろ」
「そんなこと…ないし…」
「ゆ、雪ノ下は一緒じゃないのか?」
「車でここまで送ってもらうって言ってたよ」
そんな会話をしていると、雪ノ下が到着した。
「ごめんなさい。遅くなってしまったかしら」
「ゆきのん、やっはろー!」
「…」
「浴衣、すごい似合ってるね」
「そ、そうかしら…」
「…」
「ねぇ、ヒッキー!」
「…」
「ヒッキー、ゆきのん見過ぎ…」
「うわっ、す、すまん!」
「い、いえ…。大丈夫よ」
「むぅ…」
「そ、そうだ!さっき平塚先生が浴衣で来たぞ」
「そうなの!」
「写真撮ったぞ。見るか?」
「見る~!」
「是非、見たいわ」
「ほら」
「うわぁ、すごい綺麗」
「とてもお似合いの二人ね」
(なんとか誤魔化せた…)
三人で花火大会の会場へ。
由比ヶ浜は、雪ノ下を右へ左へと引っ張り、雪ノ下も露店が珍しいのか繁々と覗いていた。
そして、俺の手には、お好み焼き・たこ焼き・焼きそば・焼きとうもろこし…etc。二人はりんご飴を食べている。こんなに食えるのかよ…。
「ゆきのん、ケバブ売ってるよ。やっぱりチリソースだよね」
「そうなの?」
「いやいや、ケバブにはヨーグルトソースだ」
「そうなの?」
「某・砂漠の虎が言っていた」
「?」
「?」
「そうですよね、通じないですよね…」
「花火、どこで見ようか?」
「観覧席に姉さんが居るから、そこへ行きましょう」
「おいおい、大丈夫なのか?」
「?」
「『なにが?』見たいに首傾げて。お偉いさんとかに挨拶を…」
「私もそれくらいは出来るのはわ」
「でも…」
「それに、今日は『友人が居ますので』って、断れるから」
「それにしたって…」
「大丈夫よ。今日は心強い味方が二人も居るから」
「そうだよ、ゆきのん!」
「まぁ、案山子だがな」
観覧席へ行くと、雪ノ下さんが待っていた。
「ひゃっはろー!」
「姉さん、その挨拶やめてちょうだい」
「雪ノ下さん、こんばんは」
「こ、こんばんは」
「待ってたよ。こっちに座って」
「…で、何故姉さんが比企谷君の隣なのかしら?」
「だって~、比企谷君の隣がいいんだモン。比企谷君もそう思うでしょ?」
「か、勘弁してください」
「ほら雪乃ちゃん、後援会長さん。挨拶行かなきゃ」
「はい、ちょっと行ってくるわ」
「ゆきのん、頑張って!」
「雪ノ下…」
「何?」
「無理…すんなよ」
「ありがとう」
「やぁ、陽乃ちゃん、雪乃ちゃん」
「この度は、無理を聞いてくださって、ありがとうございます」
「なに、雪ノ下さんの頼みだ。席ぐらいはなんともない。それに」
「それに?」
「男の子の方は、雪乃ちゃんの意中の人らしいじゃないか」
「なっ!」
「その反応は、間違いなさそうだね」
「お、お恥ずかしい…」
「いやいや、雪乃ちゃんにもそういう人が現れて。彼がそうかい?」
「…」
「なかなか、いい男じゃないか。これなら、安心だな。ゆっくりしていきなさい」
「…ありがとうございます」
「ゆきのん、お帰り~。顔真っ赤だけど、大丈夫?」
「だ、大丈夫よ」
四人で座り、花火を観賞。
つつがなく、花火大会は終了し、雪ノ下の好意で車で送ってもらう。
車中は若干だが百合の雰囲気が漂ったが、黙っておく。
由比ヶ浜家前に着くと、ガハママが出てきたので、挨拶をしたら、何故か家に拉致…、招かれそうになったので、丁重にお断りをして、車へ戻った。
由比ヶ浜が居なくなった車中では、雪ノ下さんが絡んで来るのを全力で拒否していた。
比企谷家前に着くと、車を待たせ雪ノ下も降りた。
「悪かったな、送ってもらって」
「大丈夫よ、私が誘ったのだから」
「そこからだよな。誘ってくれて、ありがとうな。嬉しかった」
「そ、そう…」
「それと…だな…」
「な、なにかしら?」
「あ、あの…、こんなタイミングになっちまったがな…。その…だな…、ゆ、浴衣!す、すげぇ、似合ってて、綺麗だぞ!」
「!!!!!」
「じゃあ、またな。おやすみ」
「雪乃ちゃん、大丈夫?」
「…」
「雪乃ちゃ~ん!」
八幡は部屋に帰って布団の中で悶絶、雪乃はしばらく放心状態でした。