珈琲   作:おたふみ

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三十八話

8月31日からループするエンドレスなエイトもなく、夏休みも終わり、あっという間に通常授業。

 

「夏休み、終わっちゃったね」

「そうね」

「いろんな意味で充実した夏休みだったな」

「そうね」

「ゆきのん、お悩み相談メール来てるかな?」

「確認してみましょう」

 

雪ノ下がPC眼鏡をかける…。思い出してしまう…。

「ヒッキー、どうかした?」

「なんでもない」

「おかしなヒッキー」

「比企谷君がおかしいのは、いつものことよ」

(誰のせいでドキドキしてると思ってんだよ!)

「剣豪将軍から多数と…」

「それはヒッキーに任せたよ」

「へいへい」

「PN,ワンカラーさん。文化祭の実行委員になってください。特に先輩…一色さんね」

「断る」

「あはは…」

 

「文実委員は、懲り懲りだ。雪ノ下だってそうだろ?」

「そうね」

「ヒッキーは、クラスの方に参加?」

「働きたくないでゴサル」

「それじゃニートじゃん!ヒキニートじゃん!」

「人をクズマみたいに言うな!俺はひかれても死ななかったし!アイツひかれてないのに死んだし!…あっ」

「その…ごめんなさい」

「こ、こちらこそ…」

 

 

「せんぱ~い」

奉仕部の扉が開かれ、あざとい後輩の登場。

「やらん!」

「まだ何も言ってないじゃないですか!」

「文実委員だろ?絶対にやらん!」

「なんでですか!」

「去年の悪評知ってるだろ?」

「で、でも、あれは…。雪ノ下先輩もお願いします」

「私も断るわ」

「いろはちゃん、私がやろうか?」

「え~!お二人ともやってくれないんですかぁ」

「スルーされたし!」

「今年の文化祭は、静かにすごしたい」

「えぇ!」

「まぁ、一色。コーヒーでも飲むか?」

「いただきます…」

 

「ほらよ」

「どうも…」

「どうかしたか?」

「先輩方、奉仕部でお店出しませんか?」

「は?」

「先輩のコーヒーと雪ノ下先輩の紅茶を!」

「はっ?何言ってるの?」

「あ!面白そう!ゆきのん、ヒッキー!」

「それは、どうなのかしら…」

「働きたくないでゴサル!!」

「えぇ~、やろうよ」

「コーヒーと紅茶の、どちらが売れるか勝負とか…」

「バカ!一色、なんてことを…」

「勝負…。それは負けられないわね」

「あ~、火がついちゃった…。一色、わざとだろ?」

「さぁ?」

「雪ノ下の煽り方覚えやがって…」

「じゃあ、私はウエイトレスやる♪」

「由比ヶ浜さん、楽しみね。うふふ」

「はぁぁぁ、仕方ないな」

「後日、申請用紙持ってくるので、よろしくです」

「一色めぇ…」

「まあまあ、ヒッキー…」

「でも、楽しそうね」

「まあな。クラスでやるよりは、気心知れてるからな」

 

一色が爆弾投下した翌日。

 

「ウエイトレスが由比ヶ浜一人じゃ大変だろうから、戸塚に頼んだら、OKしてくれたよ」

「彩ちゃん、ウェイターやってくれるんだ」

「え?戸塚もウエイトレスじゃないの?」

「まったく…。戸塚君は男性よ」

「失念してた」

(戸塚、ウエイトレスでもよくない?)

 

扉をノックする音…。平塚先生ではない。

 

「どうぞ」

「はろはろー」

「姫菜~。どうしたの?」

「マン研に場所借りて、同人誌売るんだけど、比企谷君たちに見てもらおうかと思ってね」

(ヒキタニ呼びじゃない…)

「そうなんだ。見せて~」

「材木座の小説読むより数倍いいな」

「私はマンガは読まないのだけど…」

「まあまあ、雪ノ下さんも」

 

登場人物の名前こそ違うけど、これは…

 

「海老名さんこれは…」

「あ?気がついた?」

「姫菜…、これ…」

「こんなことだろうと思ってわ」

 

修学旅行の嘘告白の顛末…。

 

「嘘…。姫菜、これって…」

「私が知りうる限りの真実だよ」

「じゃあ、ヒッキーがしたことって…」

「そういうことだ。雪ノ下は薄々感づいていたがな」

「じゃあ、この最後に結ばれてるのも…」

「ん?あ!海老名さん、何改変してるの!何!付き合い始めてることになってるの!」

「あ!バレた?」

「比企谷君、どういうことなのかしら?」

「そこはフィクションだ!」

「まぁ、そうなんだけどね」

「まったく…。おい、海老名さん!」

「何?」

「これR18本じゃねぇか!こんなもん文化祭で売れるか!」

「え?」

「え?」

「あ~!間違えて、比企谷君に夏コミ版渡しちゃった。てへっ♪」

(わざとか!)

「これ、コミケで売ったの?」

「結構、売れたよ。うちの生徒が買ったかは不明だけどね」

「却下だ!一般向けでも、文化祭でこれを売ったら…」

「もう印刷あがってるよ」

「マジか…」

「差し止めするなら、買い取りね」

「はぁ~。三浦とか戸部にバレないように売ってくれ」

「ペンネームだからバレないよ」

「『プリンセス・シュリンプ』なんて、ベタな名前でバレない方がおかしい!」

「あ、そういう…」

「おい、由比ヶ浜…。今かよ…」

「はぁ、仕方ないわね」

「いいのかよ、雪ノ下」

「登場人物の名前も違うし、大丈夫じゃないかしら」

「だといいがな」

「今日は報告に来ただけだから、じゃあね」

「またね、姫菜」

「比企谷君、ちょいちょい」

「海老名さん、またなにかあるのか?」

「あの終わり方、冗談じゃないかもよ?」

「え?あ!は?」

「ではでは~」

 

海老名さんが去った奉仕部…。

 

「ヒッキー…」

「ん?」

「その…、ごめんなさい。あんなこと言って…」

「あれは、俺が暴走しただけだ。俺の方こそ、すまなかった」

「そうね。貴方は確かに暴走した。でも、理由があった」

「そうだな」

「私も、あんなこと言って、ごめんなさい」

「もう、いいんだ。俺が悪かったんだ」

「でも…」

「由比ヶ浜さん…。比企谷君はもうあんなことはしないわ。そして、私達も…。だから…」

「ゆきのん…」

「そうだな。マスターに教えられた。俺達はやり直しの真っ最中だ」

「うん!」

「そのためにも、文化祭の喫茶店、頑張ろうぜ」

「あら、比企谷君が頑張るなんて、明日は雪かしら」

「人が誤魔化してるのに…」

「高校最後の文化祭、楽しみだね」

「あぁ」

「そうね」

 


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