珈琲   作:おたふみ

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五話

金曜の深夜。勉強も一段落して、気分転換にコーヒーを飲もうとリビングで、ドリップしていると…。

 

「ただいま」

「おかえり。遅くまで大変だな、親父」

「家のローンやお前らの学費…。まだまだ頑張らないとな」

「まったく、頭が下がるよ。メシは?」

「食ってきた。ん?コーヒーか?」

「あぁ。飲むか?」

「八幡の煎れたコーヒーか。頂こうかな」

「おう。待っててくれ」

「ほぅ。ペーパードリップか」

「最近、凝っててな」

「MAXコーヒー命だったお前が…。大人になったな」

「どんな基準だよ。ほい、どうぞ」

「どれどれ」

「どう?」

「うん、美味いな」

「だろ?」

「だが、まだまだだな」

「なんだよ、それ」

「でも、家庭でこのレベルのコーヒーが出るとは思わなかったがな」

「そうか…」

「悲観するな。上には上が居るんだよ。今度、美味いコーヒーの店、教えてやるよ」

「頼むよ、親父」

「じゃあ、俺は風呂入って、寝る。ご馳走さん」

「おう」

 

缶コーヒーやコーヒーメーカーで煎れるコーヒーよりは美味い…。でも、一時期より味が落ちた気がする…。何故だ?理由がわからない…。マスターに相談してみるか…。

 

翌日、勉強に区切りがついたので、マスターの元へ

 

「どう思いますか?」

「お前さん、慣れで煎れてないかい?」

「慣れ?」

「そうだ。ただやり方をなぞって煎れていないか?」

思い返せば、そうかもしれない。

「わかったつもりでやっていると、美味くはならない。お湯の温度、注ぐ量、蒸らし具合、おざなりにやってるんじゃないか」

「…そうかもしれません」

「完全に理解したと思って自惚れてたんじゃないのか」

「…そうかもしれません」

「人付き合いだって同じだ」

「え?」

「コーヒーのことを理解したつもりで上手く出来なかった。相手を理解したつもりで、わだかまりが出来た。そんなところだろ」

「…ぐうの音もでませんね」

「思い悩み、辛い思いをしてきたんだろ?お前さんの目はそういう目だ」

「…よく腐った目だと言われますよ」

「はははっ!腐った目で大いに結構!」

「なんですか、それ…」

「美味くないコーヒーなら、もう一度煎れ直せ、人付き合いなら尚更だ。会話をしろ、努力を惜しむな。お前さん自身がここで話していたことだろ」

 

そうだ。コミュニケーションの練習と言って話相手になった。努力や諦めない姿勢をすごいことだと言った。それをアイツらに出来ていたのか?解っていると勘違いして、会話をしてなかったんじらないか。相手のことを理解しようという努力を怠ったんじゃないか。→会話をしてなかったんじゃないか

「なにか思い当たるのかい?」

「…はい」

「そうか。それなら今度は美味いコーヒーが煎れられそうだな」

「はい。それをアイツらと飲みたいです。ありがとうございます」

 

明日は練習して、月曜日にアイツらに美味いコーヒーを煎れてやろう。





――――――――――――――
私の脳内でマスターはCV大塚明夫です(笑)

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