金曜の深夜。勉強も一段落して、気分転換にコーヒーを飲もうとリビングで、ドリップしていると…。
「ただいま」
「おかえり。遅くまで大変だな、親父」
「家のローンやお前らの学費…。まだまだ頑張らないとな」
「まったく、頭が下がるよ。メシは?」
「食ってきた。ん?コーヒーか?」
「あぁ。飲むか?」
「八幡の煎れたコーヒーか。頂こうかな」
「おう。待っててくれ」
「ほぅ。ペーパードリップか」
「最近、凝っててな」
「MAXコーヒー命だったお前が…。大人になったな」
「どんな基準だよ。ほい、どうぞ」
「どれどれ」
「どう?」
「うん、美味いな」
「だろ?」
「だが、まだまだだな」
「なんだよ、それ」
「でも、家庭でこのレベルのコーヒーが出るとは思わなかったがな」
「そうか…」
「悲観するな。上には上が居るんだよ。今度、美味いコーヒーの店、教えてやるよ」
「頼むよ、親父」
「じゃあ、俺は風呂入って、寝る。ご馳走さん」
「おう」
缶コーヒーやコーヒーメーカーで煎れるコーヒーよりは美味い…。でも、一時期より味が落ちた気がする…。何故だ?理由がわからない…。マスターに相談してみるか…。
翌日、勉強に区切りがついたので、マスターの元へ
「どう思いますか?」
「お前さん、慣れで煎れてないかい?」
「慣れ?」
「そうだ。ただやり方をなぞって煎れていないか?」
思い返せば、そうかもしれない。
「わかったつもりでやっていると、美味くはならない。お湯の温度、注ぐ量、蒸らし具合、おざなりにやってるんじゃないか」
「…そうかもしれません」
「完全に理解したと思って自惚れてたんじゃないのか」
「…そうかもしれません」
「人付き合いだって同じだ」
「え?」
「コーヒーのことを理解したつもりで上手く出来なかった。相手を理解したつもりで、わだかまりが出来た。そんなところだろ」
「…ぐうの音もでませんね」
「思い悩み、辛い思いをしてきたんだろ?お前さんの目はそういう目だ」
「…よく腐った目だと言われますよ」
「はははっ!腐った目で大いに結構!」
「なんですか、それ…」
「美味くないコーヒーなら、もう一度煎れ直せ、人付き合いなら尚更だ。会話をしろ、努力を惜しむな。お前さん自身がここで話していたことだろ」
そうだ。コミュニケーションの練習と言って話相手になった。努力や諦めない姿勢をすごいことだと言った。それをアイツらに出来ていたのか?解っていると勘違いして、会話をしてなかったんじらないか。相手のことを理解しようという努力を怠ったんじゃないか。→会話をしてなかったんじゃないか
「なにか思い当たるのかい?」
「…はい」
「そうか。それなら今度は美味いコーヒーが煎れられそうだな」
「はい。それをアイツらと飲みたいです。ありがとうございます」
明日は練習して、月曜日にアイツらに美味いコーヒーを煎れてやろう。
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私の脳内でマスターはCV大塚明夫です(笑)