珈琲   作:おたふみ

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六話

月曜日。授業が終わり放課後。

覚悟を持って挑む。

 

「ヒッキー!部活行こう!」

「おう」

「何?その荷物」

「部室に着いてからの、お楽しみだ」

「ふ~ん」

「興味ねぇのかよ」

 

由比ヶ浜と共に部室へ入る。

 

「やっはろー!」

「う~す」

「こんにちは、由比ヶ浜、比企谷君」

 

由比ヶ浜はいつもの席へ。八幡は二人の正面へ…。

 

「比企谷君…」

「ヒッキー?」

ひとつ深呼吸してから

「ここで、二人にコーヒーを煎れたいんだが、いいか?」

「え、ええ。いいわよ」

「うん」

「雪ノ下、お湯沸かしてもらえるか?」

「ええ」

 

コーヒーカップなどを準備しているのを由比ヶ浜がじっと見つめている。

「この荷物だったんだね」

「そうだ」

「このコーヒーカップはヒッキーの?」

「いや、借りてきた」

「この道具は?」

「この辺りのは自前だ」

「コーヒーメーカーでゴボゴボやってると思った」

「それでも適度に美味いコーヒーにはなるんだがな…。今は俺に出来る最高のコーヒーを煎れたいんだ…」

「ヒッキー…」

「比企谷君…」

 

ほどなくお湯が沸き丁寧にドリップしていく…。家で練習した行為を実践する。豆と対話をして、努力してきた成果…。

 

「…よし!出来たぞ」

 

雪ノ下と由比ヶ浜と、そして自分に…。

神妙な面持ちでコーヒーを口にする三人。

 

「ひ、比企谷君…」

「ヒッキー、これ…」

「うん。今までで最高の出来だ!」

 

三人の顔が綻ぶ。

意を決して、話し出す。

 

「こんな話をするのもなんだがな…」

 

二人が彼に向かう。

 

「俺は、コーヒーが上手く煎れられなかった」

「え?でも、こんなに美味しいよ」

「それには理由があるんだ」

 

「コーヒーの煎れ方に慣れていて、おざなりに煎れていたんだ。雪ノ下にも経験ないかな?流れで紅茶を淹れることが」

「ええ、あるわ。その時は確かに美味しくないわ」

「そんな時に、俺の師匠ともいうべき人に相談したんだ。そしたら、『理解したつもりでいたんだろ』ってな。そして、『人付き合いも同じだ』と」

「比企谷君…」

「ヒッキー…」

「俺は口下手で会話が下手だ。それでいて理解したつもりでいた。努力を惜しんだ。そして、あのザマだ。その人はこうも言った『もう一度煎れなおせ』と…」

 

「俺は、この空間が…、この三人の関係が好きだ。手離したくない。もう理解したつもりで動かない、努力も惜しまない。だから…、だから…、俺ともう一度やり直してくれないか!」

 

しばらくの静寂の後、雪ノ下が口を開く。

 

「比企谷君…。それは私にも当てはまるのよ」

「雪ノ下…」

「私は父のことを、まったく理解してなかったわ。家族なのにね」

「ゆきのん…」

「私は比企谷君と申し入れを受け入れるわ」

「ありがとう、雪ノ下」

「私も…。私も一人じゃ出来ないけど、三人なら…。この三人なら出来ると思う」

「ありがとう、由比ヶ浜」

「ふふっ。これで一歩前に進めたわね」

「そうだな」

「比企谷君、これだけは約束して」

「ん?なんだ」

「自己犠牲で問題を解決するのはやめて。その行為で心を痛める人が居る…。私や由比ヶ浜さんは、それを見るのが辛いわ。だから…」

「そうだよ、ヒッキー」

「わかったよ。でも、それは雪ノ下もだぞ。潰れるまで一人で抱えこむな」

「そうだよ、ゆきのん」

「わかったわ」

「それに、由比ヶ浜。お前は思慮深くなれ」

「しりょぶかく?」

「すまん、難しかったな」

「難しくないし!えっと…、あれでしょ?あれ」

「由比ヶ浜さんは、もっと考えてから発言・行動するようにしましょう」

「ヒッキー、最初からそう言ってよ」

「いや、そういう意味だからね」

 

ふりだしに戻ったのか、やっとスタートラインに立てたのか、それともリセットなのか…。

 

とても、清々しい顔でコーヒーを飲む三人…。

 

「ヒッキーの師匠に会ってみたい」

「そうね。是非、その人が煎れたコーヒーを飲んでみたいわ」

「あぁ、三人で行こうぜ。俺の比じゃないくらい、美味いぞ」

 

 




―――――――――――――――――


次は、話に絡んでこない人です(笑)

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