珈琲   作:おたふみ

61 / 116
五十六話

嫌な夢を見た。

みんなに拒絶される夢…。

小町に、由比ヶ浜に、一色に、川崎に、クラスメイトに、生徒会に、平塚先生に、雪ノ下さんに…。

でも、一筋の光と共に清んだ声が聞こえる

『比企谷君…。私は貴方を信じるわ…』

『雪ノ…下…』

 

 

「お兄ちゃん、どうしたの?うなされてたよ。大丈夫?」

「あぁ、大丈夫だ。汗かいたら、シャワー浴びてから朝飯にする」

「じゃあ、待ってるからね」

「おう」

「それと…、『雪ノ下』って言ってたよ。ニシシッ♪」

「あああああああああっ!」

 

「お兄ちゃん、一通り奇行は終わった?」

「小町ちゃん、聞こえてないフリって知ってる?」

「難聴系じゃないから知らな~い」

「あれだ、雪ノ下が『やさしい希望』なんて歌うからだ」

「え~、すごい上手かったじゃん」

「上手かったから、お兄ちゃんの心をえぐったの」

「ふ~ん」

「だから、忘れてくれ。頼む。お願いします。プリン買ってあげるから」

「ハッピープッチンプリンね」

「探すの面倒くさい」

「じゃあ、忘れない」

「草の根掻き分けてでも探して買ってきます」

「…お兄ちゃん」

「なんだ?」

「今日も学校一緒に行かない?」

「ん?あれは終わったんだろ?」

「ダメ?」

「上目遣いでうるうるされたら、お兄ちゃん断り方がわかりません」

「やった!」

「誰に教わった?」

「生徒会長!」

「おのれ、一色。小町が無敵になってしまうではないか…」

 

「通学ダルい…」

「お兄ちゃん、シャキッとしてよ」

「お、おはよう、比企谷」

「おはようございます。比企谷さん、お兄さん」

「川崎、おはよ。大志、俺をお兄さんと呼ぶな、蹴るぞ」

「その前に私がアンタを蹴るよ」

「ごめんなさい、死んでしまいます」

「まったく…。あ、あのさ、学校まで一緒に行かない?」

「あれは終わったんだろ?」

「それはどうでもいいの。返事は、『はい』なの?『YES』なの?」

「否定出来ねぇじゃねぇかよ。どこの暴君だよ。ピーター・アーツなの?まぁ、構わんがな」

 

「ヒッキー、おはよう♪」

「おはよう、由比ヶ浜。テンション高いな。『やっはろー』じゃねぇかよ」

「間違えちゃった。テヘッ」

「おい、あざといぞ。まさかとは思うが…」

「いろはちゃんが、こうするとヒッキーが喜ぶって」

「一色…、変なこと布教しないでくれ…」

 

「おはよう、八幡!」

「おはよう、戸塚!元気だな」

「うん、八幡は元気じゃないの?」

「たった今元気になった」

「おかしな八幡♪」

「またあとでね」

 

「おはよう、比企谷」

「ち~す、比企谷君」

「うす、葉山、戸部」

「なんかそっけないな」

「そうだよ~比企谷君」

「早く行くよ席に戻れ、海老名さんが過呼吸になりそうだぞ」

「ハヤ×トベ×ハチ!!!」

「海老名、擬態!」

「言わんこっちゃない…」

 

「比企谷、おはよう」

「おう、相模。おはよう」

「弟になんか言った?」

「いや」

「なんか変なんだよね」

「アイツ、重度のシスコンだぞ」

「そんなことないよ。てか、比企谷に言われたら終わりだよ」

「俺は違う。小町が天使なだけだ」

「それをシスコンて言うんだけど…」

 

「比企谷!」

「ヒキオ!」

「あ!今、私が話かけてるんだけど」

「あ!あーしの方がはやかったし」

(なにこのデシャヴ感!やめて!仲良くしてぇ!)

 

(さて、昼になったし購買へ…)

「ヒッキー!ゆきのんと三人で食べよう!」

「あ、いや、ほら、あれだから…」

「比企谷君…」

「うわっ!雪ノ下」

「早く部室へ行くわよ」

「先に行っててくれ。購買にパンを…」

「お弁当、作ってきたのだけど」

「え?」

「ひとつ作るのもふたつ作るのも変わらないわ」

「でも、あれって、期間限定じゃ…」

「細かいことは、いいわ。早く行くよ」

「はい…」

 

(昼飯?美味しいお弁当でしたよ。雪ノ下の顔はまともに見れなかったけど…)

 

「ヒッキー!部活行こう!」

「お、おう」

(あれ?午後の授業の記憶が…。でも、ノートはとってる。俺、優秀)

 

「う~す」

「やっはろー!」

「こんにちは、由比ヶ浜さん、比企谷君」

「雪ノ下、紅茶もらっていいか?」

「ええ、いいわよ」

「わ~い、お茶の時間だ♪」

 

「せんぱ~い」

「一色さん、ノックを」

「すいません…。先輩、助けてください」

「断る!あの体制は終わったんだろ」

「何を言ってるんですか!先輩はまだ『非常勤庶務』ですよ!」

「マジか!」

「マジです。と、いうわけで先輩借りますね」

「仕方ねぇな。悪い、ちょっと行ってくる」

 

「はぁ…。こんな時間までコキ使いやがって…。藤沢まで上目遣い覚えてるし、本牧は助けてくれねぇし…」

「すまん、遅くなった…。あれ、由比ヶ浜は?」

「貴方が遅いから、帰ったわ。私も鍵を締めて帰りたかったのだけど」

「悪かったよ…。あっ!」

「どうしたの?急に大きな声出して」

「いや、マスターにも相談したから、解決したって、報告しないと…」

「そ、それなら、私も行っていいかしら?」

「あ、ああ、構わないぞ」

(なんか、意識しちまうな…)

 

 

「こんにちは」

「いらっしゃい。今日は嬢ちゃんも一緒か」

「こんにちは」

 

「マスターの言う通り、美味しいとこだけもらって解決しました」

「それは良かった。嬢ちゃんもそれでいいかい?」

「はい」

「おっと、そうだ!俺は倉庫行ってくるから、店番頼む」

「わかりました」

 

「ねぇ、比企谷君」

「お、おう、どうした?」

「私、夢を見たの…」

「ふ、ふ~ん。どんな?」

「みんな、私を見てくれないの。私を通して家や姉さんを見てるの…」

「それで?」

「真っ暗闇の中で下を向いていたら、比企谷君が『俺はお前を見ている』って言ってくれるの…」

「雪ノ下…」

「なにかしら?」

「俺も今朝、夢を見た…」

「どんな?」

「周りの人に拒絶しまくってる暗闇の中、雪ノ下だけが『信じてる』って言ってくれたんだ…」

「ふふっ…」

「なんだよ」

「やっぱり、私達って似た者同士なのね」

「かもな」

 

「悪かったな、留守にして」

「いえ、お客さんも来てないので大丈夫です」

「うん?」

「どうかしました?」

「なんかお前さん達、いい顔してるな」

「そうなんですかね?」

「俺が席を外してる間になんかあったか?」

「ちょっと…」

「良かったな、嬢ちゃん」

「…はい」

 




―――――――――――――

後話でした。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。