嫌な夢を見た。
みんなに拒絶される夢…。
小町に、由比ヶ浜に、一色に、川崎に、クラスメイトに、生徒会に、平塚先生に、雪ノ下さんに…。
でも、一筋の光と共に清んだ声が聞こえる
『比企谷君…。私は貴方を信じるわ…』
『雪ノ…下…』
「お兄ちゃん、どうしたの?うなされてたよ。大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ。汗かいたら、シャワー浴びてから朝飯にする」
「じゃあ、待ってるからね」
「おう」
「それと…、『雪ノ下』って言ってたよ。ニシシッ♪」
「あああああああああっ!」
「お兄ちゃん、一通り奇行は終わった?」
「小町ちゃん、聞こえてないフリって知ってる?」
「難聴系じゃないから知らな~い」
「あれだ、雪ノ下が『やさしい希望』なんて歌うからだ」
「え~、すごい上手かったじゃん」
「上手かったから、お兄ちゃんの心をえぐったの」
「ふ~ん」
「だから、忘れてくれ。頼む。お願いします。プリン買ってあげるから」
「ハッピープッチンプリンね」
「探すの面倒くさい」
「じゃあ、忘れない」
「草の根掻き分けてでも探して買ってきます」
「…お兄ちゃん」
「なんだ?」
「今日も学校一緒に行かない?」
「ん?あれは終わったんだろ?」
「ダメ?」
「上目遣いでうるうるされたら、お兄ちゃん断り方がわかりません」
「やった!」
「誰に教わった?」
「生徒会長!」
「おのれ、一色。小町が無敵になってしまうではないか…」
「通学ダルい…」
「お兄ちゃん、シャキッとしてよ」
「お、おはよう、比企谷」
「おはようございます。比企谷さん、お兄さん」
「川崎、おはよ。大志、俺をお兄さんと呼ぶな、蹴るぞ」
「その前に私がアンタを蹴るよ」
「ごめんなさい、死んでしまいます」
「まったく…。あ、あのさ、学校まで一緒に行かない?」
「あれは終わったんだろ?」
「それはどうでもいいの。返事は、『はい』なの?『YES』なの?」
「否定出来ねぇじゃねぇかよ。どこの暴君だよ。ピーター・アーツなの?まぁ、構わんがな」
「ヒッキー、おはよう♪」
「おはよう、由比ヶ浜。テンション高いな。『やっはろー』じゃねぇかよ」
「間違えちゃった。テヘッ」
「おい、あざといぞ。まさかとは思うが…」
「いろはちゃんが、こうするとヒッキーが喜ぶって」
「一色…、変なこと布教しないでくれ…」
「おはよう、八幡!」
「おはよう、戸塚!元気だな」
「うん、八幡は元気じゃないの?」
「たった今元気になった」
「おかしな八幡♪」
「またあとでね」
「おはよう、比企谷」
「ち~す、比企谷君」
「うす、葉山、戸部」
「なんかそっけないな」
「そうだよ~比企谷君」
「早く行くよ席に戻れ、海老名さんが過呼吸になりそうだぞ」
「ハヤ×トベ×ハチ!!!」
「海老名、擬態!」
「言わんこっちゃない…」
「比企谷、おはよう」
「おう、相模。おはよう」
「弟になんか言った?」
「いや」
「なんか変なんだよね」
「アイツ、重度のシスコンだぞ」
「そんなことないよ。てか、比企谷に言われたら終わりだよ」
「俺は違う。小町が天使なだけだ」
「それをシスコンて言うんだけど…」
「比企谷!」
「ヒキオ!」
「あ!今、私が話かけてるんだけど」
「あ!あーしの方がはやかったし」
(なにこのデシャヴ感!やめて!仲良くしてぇ!)
(さて、昼になったし購買へ…)
「ヒッキー!ゆきのんと三人で食べよう!」
「あ、いや、ほら、あれだから…」
「比企谷君…」
「うわっ!雪ノ下」
「早く部室へ行くわよ」
「先に行っててくれ。購買にパンを…」
「お弁当、作ってきたのだけど」
「え?」
「ひとつ作るのもふたつ作るのも変わらないわ」
「でも、あれって、期間限定じゃ…」
「細かいことは、いいわ。早く行くよ」
「はい…」
(昼飯?美味しいお弁当でしたよ。雪ノ下の顔はまともに見れなかったけど…)
「ヒッキー!部活行こう!」
「お、おう」
(あれ?午後の授業の記憶が…。でも、ノートはとってる。俺、優秀)
「う~す」
「やっはろー!」
「こんにちは、由比ヶ浜さん、比企谷君」
「雪ノ下、紅茶もらっていいか?」
「ええ、いいわよ」
「わ~い、お茶の時間だ♪」
「せんぱ~い」
「一色さん、ノックを」
「すいません…。先輩、助けてください」
「断る!あの体制は終わったんだろ」
「何を言ってるんですか!先輩はまだ『非常勤庶務』ですよ!」
「マジか!」
「マジです。と、いうわけで先輩借りますね」
「仕方ねぇな。悪い、ちょっと行ってくる」
「はぁ…。こんな時間までコキ使いやがって…。藤沢まで上目遣い覚えてるし、本牧は助けてくれねぇし…」
「すまん、遅くなった…。あれ、由比ヶ浜は?」
「貴方が遅いから、帰ったわ。私も鍵を締めて帰りたかったのだけど」
「悪かったよ…。あっ!」
「どうしたの?急に大きな声出して」
「いや、マスターにも相談したから、解決したって、報告しないと…」
「そ、それなら、私も行っていいかしら?」
「あ、ああ、構わないぞ」
(なんか、意識しちまうな…)
「こんにちは」
「いらっしゃい。今日は嬢ちゃんも一緒か」
「こんにちは」
「マスターの言う通り、美味しいとこだけもらって解決しました」
「それは良かった。嬢ちゃんもそれでいいかい?」
「はい」
「おっと、そうだ!俺は倉庫行ってくるから、店番頼む」
「わかりました」
「ねぇ、比企谷君」
「お、おう、どうした?」
「私、夢を見たの…」
「ふ、ふ~ん。どんな?」
「みんな、私を見てくれないの。私を通して家や姉さんを見てるの…」
「それで?」
「真っ暗闇の中で下を向いていたら、比企谷君が『俺はお前を見ている』って言ってくれるの…」
「雪ノ下…」
「なにかしら?」
「俺も今朝、夢を見た…」
「どんな?」
「周りの人に拒絶しまくってる暗闇の中、雪ノ下だけが『信じてる』って言ってくれたんだ…」
「ふふっ…」
「なんだよ」
「やっぱり、私達って似た者同士なのね」
「かもな」
「悪かったな、留守にして」
「いえ、お客さんも来てないので大丈夫です」
「うん?」
「どうかしました?」
「なんかお前さん達、いい顔してるな」
「そうなんですかね?」
「俺が席を外してる間になんかあったか?」
「ちょっと…」
「良かったな、嬢ちゃん」
「…はい」
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後話でした。