珈琲   作:おたふみ

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それぞれの卒業~一色いろは~

 

卒業式の少し前

千葉駅前

 

「すいませ~ん。支度に手間取ってしまって」

「大丈夫だ。俺も今来たところだ」

「…」

「どうした?」

「なんでもないです…」

「どこ行くんですか?」

「映画とかどうだ?」

「たとえばどんな?」

「う~ん、一色なら恋愛モノかな?」

「意外です」

「なんでだよ」

「先輩なら、『原作ファン阿鼻叫喚の実写化映画』とか言いそうじゃないですか」

「思い当たるから、やめようね」

「あと、違う映画をそれぞれ観ようとか…」

「それ、前に注意されたからな」

「じゃあ、恋愛映画で」

「んじゃ、行きますか」

 

映画鑑賞後

 

「ぐずっ。よかったよぉ」

「思いの外、良かったな。ほれ、ハンカチ使え」

「ありがとうございます…。洗ってお返しします」

「ん、やるよ。予備もあるし」

「そ、そんな…」

「いいから。そろそろ昼飯にしないか?」

「そうですね」

「このあたりに、リーズナブルなイタリアンがあるんだ」

「…先輩、サイゼリアじゃないですよね?」

「いや、違うけど」

「…どうしたんですか?先輩」

「どうもしねぇよ。んで、どうすんだ?」

「…たけがいいです」

「え?」

「なりたけに行きたいです…」

「俺はいいけど…」

「ほら、あれです。女の子一人だと入りにくいんで」

「なるほどな」

「はい。なりたけにハマったけど、入りにくいとか、そんなことないですからね!」

「はいはい…」

 

食事後

「腹ごなしに、卓球でもするか?」

「いいですね。勝負しますか?」

「しねぇよ。『時そば』するヤツがいるから却下だ」

「負けるのが、恐いんですか?」

「その煽りは、俺には効かない。普通に楽しもうぜ」

「は~い」

 

卓球後

「少し疲れたんで、休憩しませんか?」

「お茶でも飲むか」

 

喫茶店

「先輩が、お洒落な喫茶店知ってるとか、引きますね」

「おい…」

「まぁ、いいですけど。写真撮りましょう」

「はいよ」

「…」

「どうした?撮らないのか?」

「い、いえ…」

 

帰り道

「今日のデートは、マイナス100点です」

「なんでだよ…」

「先輩が先輩っぽくなかったので…」

「一色に注意されたところを直したのに…」

「それだけじゃないですけど…」

「あとはなんだよ」

「先輩…、告白するんですよね…」

「ん、ああ」

「比企谷八幡先輩…。好きです、付き合ってください」

「ありがとう、一色。だが、すまん。俺には好きな人が居るんだ」

「知ってます。雪ノ下先輩ですよね」

「そうだ…」

「これは、私のケジメです…。でも、悲しいなぁ…」

「一色…」

「でも、不思議と清々しいです…」

「でも、お前…」

「そりゃあ、泣きますよ。好きな人にフラれたんですから…」

「…一色」

「ほら、行ってください。私は大丈夫ですから…」

「でも…」

「私に構ってるところを、雪ノ下先輩に見られたらどうするんですか!早く行ってください。…そうしてくれないと…、諦められないじゃないですか…」

「わかった。じゃあな、一色」

「はい!先輩、頑張って告白してくださいね」

「あぁ」

 

 

「先輩…。私は先輩のこと好きになって良かったです…」


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