珈琲   作:おたふみ

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七話

部室で渾身のコーヒーを煎れてから数日。いつもと変わらない、でも確かに変わった日常風景。雪ノ下の紅茶セット横にコーヒーのセットも置かれるようになった。

 

「ねぇねぇ、ヒッキー」

「なんだ?」

「コーヒーメーカーとか缶コーヒーじゃダメなの?」

「ダメじゃねよ」

「じゃあ、どうして?」

「毎日だと飽きるしな。それに、大衆に迎合してる感じするから…かな」

「たいしゅうにげいごう?」

「すまん、難しかったな」

「そんなことないし!」

「あ~、そうだな。缶コーヒーは…、葉山」

「ぷっ!くくくっ!缶コーヒーが…、葉山君…くくくっ!」

「ゆきのん?」

「単一の豆で落としたのが、俺や雪ノ下や由比ヶ浜かな」

「?」

「苦味が強かったり酸味ばっかりだったり」

「貴方は腐っているんじゃなくて?」

「うるせぇ。まぁ、それを絶妙に合わせたのがブレンドだ」

「それをカップ一杯分煎れたのが俺達だ」

「なんかいいね!」

「上手くまとめたつもりでしょうけど、ダメね」

「悪かったな」

「でも、迎合した缶コーヒーではないのは確かね」

 

「なぁ、二人とも、この後暇か?」

「うん、帰るだけだよ」

「私も特に用事はないわ」

「コーヒー飲みに行かないか?」

「えっ…」

「えっ…」

「まぁ、俺の誘いなんか嫌だよな。悪かった」

「違う!違くて!ヒッキーが誘ってくれるなんて思ってなくて、ビックリしただけ!」

「お、おう。そうか」

「行く!行くよ!ゆきのんも行くよね?」

「ええ。折角の比企谷君からのお誘いですもの」

「じゃあ、決まりだな」

 

 

「こんにちは」

「いらっしゃい」

「今日は部活仲間を連れてきました」

「ほう、可愛い嬢ちゃん二人も。お前さんもやるねぇ」

「そんなんじゃないですよ。あっちのBOX席いいですか?」

「あぁ、いいぞ」

「ブレンド3つで」

「ほら、座るぞ」

「え、ええ。ごめんなさい」

「う、うん」

「どうした?」

「可愛い嬢ちゃんって…」

「えへへ」

「よかったな。俺は他のお客さんきたら、声かけたいから、入り口が見えるこっちがいいんだが」

「じゃあ、こっちに私とゆきのんで座るね」

「悪いな」

「驚いたわ。貴方が積極的にコミュニケーションをとろうとするなんて」

「まあな」

「ブレンド、お待たせ。こいつ、オッサンたちと、よく話してるぜ」

「へぇ、ヒッキーしゃべるんだ」

「俺だってしゃべるよ」

「コーヒーしかねぇが、ゆっくりしてくれ」

「ありがとうございます」

「ありがとうございま~す」

 

「ん、磐石の美味さだな」

「美味しい…」

「美味しいね♪」

 

 

「いらっしゃい」

「おう、来たぞ」

 

「すまん、ちょっと外すぞ」

「えぇ」

「いってらっしゃ~い」

 

「こんにちは」

「おぅ」

「娘さんと話出来ましたか?」

「急に帰って来てな、ビックリしたがな。有意義な話が出来たよ」

 

「あの声…」

「ゆきのん?」

「お父さん…」

「雪乃…」

「え?この人って、雪ノ下の…」

「えぇ、父よ」

「マジかぁ…」

「雪乃、知り合いなのか?」

「えぇ…。部活仲間の比企谷君よ。そちらに居るのは由比ヶ浜さん」

「そうか。君たちが…。その節は…、事故の時はすまなかった」

「あ、頭を上げてください。もう終わったことじゃないですか」

「そう言ってくれると助かる」

「では、お父さん。また帰った時に」

「そうだな。次は、比企谷君と由比ヶ浜さんも連れてきなさい」

「ええ、二人が良ければ」

「断る理由もないし」

「ゆきのんの実家、行ってみたい」

「では、楽しみにしているよ」

「はい」

「そうだ!比企谷君、婿に来ないかね。君のような息子なら大歓迎だ」

「へ?」

「え?」

「な、なななな、なにを言ってるの、お父さん!!!」

「婿がダメなら、雪乃を嫁にもらってくれるか?」

「あ、いや、その…」

「あわわわわ…」

「ひ、比企谷君のお嫁さんに…」

「おい、高校生に何をバカな事言ってるんだ。コーヒー出来たぞ」

「おぉ、そうか。では、比企谷君、検討してくれたまえ。前向きにな」

 

席に戻ったあとも、雪ノ下の意識はしばらく帰ってこなかった…。

 


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