英雄伝説 橙の軌跡   作:綱久

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どうも皆さま1年振りです、綱久です。

楽しみにしていただいた皆々様、お待たせして本当に申し訳ありませんでした!!!
仕事の忙しさや新情報によるプロットの見直しも勿論あるんですが、ゲームの熱中ややる気の問題とあってここまで遅れました……!! マジですいませんでした!!

今日から何とか執筆を再開していきたいと思いますので、よろしくお願いします!!

それではどうぞ!!


とある休日の時間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は9:30。

 

 現在ツナヨシは校門前で背中を壁に預けながら立っていた。

 本日トールズ士官学院は授業もない自由行動日、俗に言う休日だ。そのためツナヨシの服装は制服ではなく、Tシャツの上に薄いパーカーを羽織る等、彼の普段通りの私服である。

 

 手合わせの後ツナヨシは、()()()()()でリィンを治療し、学生寮の彼の部屋まで背負い運んだ。

 途中朝練に向かおうとしたラウラと鉢合わせしてリィンの気絶について理由を聞かれたが、"鍛錬を体力の限界までやって気を失った"――と、家庭教師より叩きこまれた今だ未熟なポーカーフェイスの表情で嘘とも本当とも取れる出来事を話した。

  

 交渉術や腹の探り合いが極まった人物に対しては即バレしてしまうレベルだが、ラウラは大してツナヨシを疑うことなく素直に信じ、寧ろ同じ剣士として自分も負けられぬ!!と活き込んで、修練場へと急ぎ足を運んでいったことで事なきを得た。

 

 その後リィンをベッドへ運んだ後、戦闘での汗や汚れを落とすためシャワーを浴び、時間に余裕があったため軽く二度寝し、私服に着替え()()()()()で一般以上の美味しさになった料理の腕でトーストやベーコンエッグを簡単に調理し朝食を取り、現在に至る。

 

 別に完全インドア派というわけではないが、普段のツナヨシなら用事がない限り休日は部屋に籠って遅寝するか漫画やゲームに没頭してだらけていただろうが、今日はある用事で外出するのだ。

 ツナヨシは入学前を合わせても、エレボニア帝国の滞在期間は一か月に満たず、国内も片手で数える程度にしか赴いていない。このトリスタに近い『帝都ヘイムダル』ですら、まだ一度も訪れていない。

 他にも理由があるのだが、地理や街並みを知るためにツナヨシは、今日の自由行動日を利用して『ヘイムダル』へ行く予定だ。

 とはいえ、多くの人々が行きかい多くの行政区が存在する、初めて訪れる都市を一人で歩くことを考えると憂鬱な気分になってしまうし、今日一日で帝都を周りきれるのか不安を感じてしまう。

 だからこそ――

 

 

 

「悪ぃ! 待たせたなツナ!」

 

 軽く考え事をしているうちに、今日の自分の用事に付き合ってくれる――自分を呼びかける男の声が耳に入った。

 

「いや、俺も来たばかりなので大丈夫ですよ、クロウさん」

 

 首元まで伸ばされた銀髪に白のバンダナを額に巻いた青年の申し訳なさそうな態度に、ツナヨシは気にした様子は笑顔で迎える。 

 

「それにしてもすいません、クロウさん。せっかく自由行動日なのに、わざわざ俺のために時間を作って下さって」

 

「気にすんなって。初対面での借りも返しておきたいこともあるが、普段から楽しくつるんでるんだし俺とお前さんの仲だろ」

 

「クロウさん……はい、ありがとうございます」

 

 ツナヨシと親しそうに話すこの青年の名は、クロウ・アームブラスト―――トールズ士官学院のツナヨシよりも一つ上の学年の先輩だ。

 

 クロウは立派な先輩か?と問われれば、ツナヨシは間違いなく否と答えるだろう。

 授業はサボりまくるわ成績は悪いわ、ギャンブル好きでほとんどの確率で負けて金欠だわ、挙句の果てには子供相手におやつを賭けにして『ブレード』というカードゲームで負けて巻き上げられるわ、どう見ても駄目人間の不良学生にしか見えないだろう。

 

 では何故、そんな不良とツナヨシがこうして親しげに二人で出かけようとしているのか? 

 

 ツナヨシはクロウとの出会いを、今でも鮮明に覚えている。

 トールズ士官学院入学初日、オリエンテーリングが終了し寮で荷解きをしている時、18時を過ぎたことお腹をすかし、荷解きの切りも良かったため学生で人気が高いと評判の喫茶・宿泊店のキルシェへ向かおうと寮から外へ出ると――

 

 

 

 

『………――――腹、減ったぁ………』

 

『………―――へ?』

 

 道端で倒れ痩せこけた顔のクロウが、そこにいたのだ。

 

 全力で知らない振りをしたかったのだが、バッチリと目が合ってしまい、『俺を見捨てないでくれお願いします!!!』と恥も外聞もなく泣きつかれたこともあり、もう無視できる状況でもなかった……。幸い前の旅で懐に結構余裕があったため、全部奢る形で一緒にキルシェで食事をし、泣きながら滅茶苦茶感謝されたのであった。

 後日、その原因がギャンブルで有り金が殆ど無く、周りに結構借金しまくりで誰にも借りられずに飲まず食わずの状態だったと聞いた時は、少しばかり軽蔑した視線を送ったツナヨシである。

 

 これが、ツナヨシとクロウの最良とも最悪とも言えない出会いであり、クロウとの縁が繋がった瞬間だった。

 

 

 

『よーっすツナ! ちょっと一緒に遊び(ギャンブル)に行こうぜ!』

 

『腹減ってんだろ? これからクロウお兄さんが上手い飯屋に連れてってやるよ! ………ちなみに懐は超余裕があったりしますかねツナ君様』

 

『ジョルジュがまた面白いモンを開発したらしいぜ。一緒に見に行かねぇかツナ』

 

『悪いツナ!! トワとゼリカに追わてるんだ!! 少しの間匿ってくれ!!』

 

 

 

 その次の日から、ツナヨシは授業が終わった放課後ではほぼ毎日クロウと過ごしている。初日の恩、先輩後輩の関係等と言って、学院内やトリスタの町に連れていかれているのだ。  

 最初は親交を深められないという思いから断っても『一緒に楽しもうぜ!』と、どこか憎めない笑顔で何度も誘ってくることから、ツナヨシは渋々クロウに付き合った。

 

 しかし、クロウと共に彼の友人である同級生3人と面白おかしく過ごしたり、トリスタの子供達と『ブレード』で遊びクロウが負けたり、昼食や夕食を共にして楽しく談笑したり、他の同級生と金や物を賭けてギャンブルをしたり。

 たった2週間ではあるがクロウと過ごした時間は、慣れぬ軍事学院での生活や()()()()()()()()への不安に対してのいい息抜きとなっており、今ではクロウのことは尊敬する先輩というよりも、ダメダメだが憎めず頼りになる少し歳の離れた友人のように今は思っている。

 

 元々今日ヘイムダルにはツナヨシ一人で行くつもりであったが、その話を聞いたクロウが自ら名乗り出て自分に付き合うと言ってくれたのだ。

 申し訳ないと思うと同時に、正直助かった気持ちでいっぱいだったりする。こうして休日を共に過ごす程度には、ツナヨシはクロウに心を許している。

 

「ま、今回はお前さんの帝都の観光案内が主な目的だけどよ、ちょっと一件だけ俺の用事に付き合ってもらっていいか?」

 

「それは勿論。で、用事って一体何ですか?」

 

「よくぞ聞いてくれた。それは―――これだ!!」

 

 視界いっぱいにクロウがツナヨシに突き出したのは新聞である。一体これが何なのかと、新聞に書かれた内容を凝視する。

 

「えっと、"ブラックプリンス"、"ランバーブリッツ"……何かの名前? その下の欄には数字や文字がギッシリ詰まって………あれ? というかどこで見たことがあるような――」

 

 口に出しながら思い出して見ると、確か今より半年前の『虹の代理戦争』が始まる数日前、ろくでなしの親父が久しぶりに帰宅し『たまには"馬"も悪くねぇな♪』と居間でゴロゴロしていた。

 クロウが突き出した新聞の内容とそれとなく似た新聞を読んで―――………ここまで思い出した時点でツナヨシは察してしまった。

 

 この男の性格や懐状況ならマジでやりかねないが、それでも学生という一線は守ってはくれるんじゃないのか。そんな2割にも満たない淡い思いを抱きながらも、ツナヨシは問うてみる。

 

「……クロウさん、まさかと思いますけど―――」

 

「――ふっ、お前の察した通りさ。用事というのは他でもない―――」

 

 

 

 

 

「―――俺と一緒に競馬で億万長者になろうぜ☆」

 

「―――やっぱりかこのギャンブル中毒者っ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頼むよツナ~~~~~!!! 今月マジで俺ピンチなんだって!!! このままだと俺はしばらくモヤシ生活待ったなしな程追い込まれてるんだってぇ!!!」

 

「それクロウさんの自業自得ですよね!!? 毎日毎日ギャンブルで負け続けていればそれはそうなりますよ!!」

 

「そんなこと言わずに頼むよマジで!! 俺の一生のお願いだからよぉ!!」

 

「おかしいなその一生のお願い先週も聞いたような気がするんですけどぉ!!?」

 

 先輩の競馬発言を聞かなかったとして回れ右して一人で駅へ向かおうとしたツナヨシを、そうはさせまいと彼の左足にみっともなくしがみつくクロウ。

 彼の懐事情はある程度把握しており、本当に金欠なのは確かだろうが理由が理由だけに助けようという気持ちがあまり沸かない。しかもその方法が―――

 

「大体失ったお金をギャンブルで一発逆転で稼ごうなんて馬鹿の考えにも程がありますよ!! そう言って数多の人達の破産した末路をクロウさんだって分かってるでしょうに!! そしてクロウさんの場合は万が一どころか百万が一もないですよ!!」

 

「お前俺に対して遠慮なくなってきてるな!? 確かにそれは正論だがお前が――ギャンブルゲームで全勝してカジノ経験があるお前が一緒なら不可能じゃねぇ!!

 

「うわぁ、やっぱりかぁ…!」

 

 クロウがここまでツナヨシに固執しているのには大きな理由がある。端的に言えば、彼のギャンブル――いや()()()()()()が以上なまでに高いことだ。 

 

 数日前、ツナヨシはクロウを含んだ彼の同級生たちと賭け(お金以外で)のトランプゲームをした。

 最初ツナヨシは遊び半分でやっていたのだが、とあるクセが大きく強い上賭け事に滅法強い女生徒の先輩がとんでもない賭け(男の尊厳がなくなる類)を申し込んだため、ツナヨシはやむえず()()()()()()()()

 

 結果、クロウが知る中でも勝負強さも運も兼ね備え、お忍びで歓楽都市ラクウェルのカジノで結構な勝率を叩き出していた彼女に―――ツナヨシは勝ったのだ。クロウ自身もそうだが、彼女の腕を知っている同級生たちはたいそう驚いていた。

 

 更に別の日では、20回コイントスをし表裏の当てた回数の勝負の際ツナヨシは―――なんと20回全部当てるという快挙を成し遂げ、周りで見ていた者達は"人間業じゃない…"と唖然としていた。

 他の日でもそういったゲームをしており、遊び程度なら勝ったり負けたりの繰り返しだが、賭け(色々な意味で譲れない物)が発生した場合、ツナヨシは全勝無敗と負けなしである。

 

 とはいえ、元々賭け事に興味がないことも理由の一つでもあるが……別にツナヨシはそれに対して誇らしくもなければ、楽しさは勿論嬉しさすらない。

 

 

 

 

 前の世界で、ツナヨシは一度家庭教師によって日本の裏カジノへ無理矢理連れてこられ、カジノ内のゲーム全て勝って元手金100万を1億にしてこいという、常人なら無理難題といっても過言でもない課題を出してきやがったのだ。

 最初は反抗していたツナヨシだったが、『修行を10倍……いや50倍』という呪詛を耳元で囁かれたことで、普段は戦闘時以外では見せない超モードになって―――文字通りカジノを無双した。

 

 スロットではジャンクポットを出し続け、ルーレットでは全て指定した番号を予見しストレートアップを当て続け、ブラックジャックでは常に19~21まで引き当て勝ち続け、ポーカーでは相手のクセや表情や心情を見抜き勝ち続けた。

 

 結果、半日もかからず目標金額に達することができた。

 

 事前にリボーンからある程度のルールや勝ち方を教わった事、長く実戦で培った観察眼と動体視力、特に『超直観』の3つか上手くかみ合ったゆえだろう。

 それらを今後も活かしていけばギャンブラーとして生きていけなくはないが……もっともツナヨシ本人はその道に興味は微塵もなく、目標金額に達した瞬間も幸福感や達成感よりも、家庭教師の地獄の修練を受けずにすんで良かった安心感しかなかったそうだ。

 

 ちなみに余談だが、裏カジノ始まって以来の客の快挙に当然店側は納得いかず、数十人の怖いおじさん達やお兄さん達からヤキを入れるところだったが、同行していた友人二人に返り討ちにされ、更にツナヨシの正体を知った途端オーナーを含めた全員から土下座され、新たに敷かれたレッドカーペッドで帰ることになった……。

 

 以上の経緯があり、ツナヨシはギャンブルゲームでは負け無しの強さを誇っており、生徒教師を合わせてこの士官学院で彼に勝てる者はまずいない。

 だからこそ、クロウはツナヨシに賭けたのだ―――彼と共に競馬(賭け金)で一発逆転をしてやる!!と。

 

 

 

「よく聞けツナ!! ここで一気に稼げれば俺の各方面の借金はチャラになり、お前を含めてみんなのお金も戻り、俺の懐は超暖かくなる……みんな幸せになれるだろ!!?」

 

「いやそれクロウさんしか幸せになってないですよね!? ていうか俺競馬なんてやったことないし、それ以前に俺達は学生だから馬券は買えないはずでしょ!!?」

 

「その辺は抜かりはねぇ…! こんなこともあろうと変装用のカツラとサングラスは持ってきてるし、黙っていれば見た目の俺は成人以上に見られてもおかしくないし、何よりもあの競馬場は身分証明はかなり緩めだから数回はごまかせる……だからなんの問題もねぇ!!」

 

「問題しかみあたらねぇ!! 猶更協力するのはごめんですよ!!」

 

 その場を急ぎ去ろうとするツナヨシを往生際悪くクロウは彼の足にしがみついてくる。もういっそ無理矢理薙ぎ払うかと考えが浮かぼうと―――

 

 

 

「――っ!? クロウさん避けて下さい!!」

 

「へ……っ――!」

 

 突如として頭に鳴り響いたそれぞれの危険信号に二人は咄嗟にその場から飛び退いた。

 

 瞬間、二人が立っていた場所に重い一撃が到来し、それなりの衝撃と地響きが奔る。

 

「――ぎゃぁぁぁぁぁ!! なにこれぇ!?」

 

「――あ、危ねぇ…! つうかこの飛び蹴りの衝撃……まさかっ!」

 

「――やれやれ。茶番の隙を上手く突いたつもりだったけど、クロウの無駄な危機察知能力は勿論、ツナ君の常人離れした勘の前ではこれは当然の結果か」

 

 突如の出来事に驚く二人をよそに、その現状を作り出した全身にライダースーツを身に纏った一人の長身の女性が現れる。ツナヨシは彼女を知っているが、クロウはそれ以上だ。なにせこの学院に入ってから付き合いの長い悪友なのだから。

 

「アンゼリカさん!?」

 

「ゼリカ!! お前これはどういう事だよ!!?」

 

 

 アンゼリカ・ログナー――この学院で彼女を知らない者はいないと言われる程の有名人でもあり、規格外の人物だ。

 まず、『ログナー』という性から分かる通り、彼女は《四大名門》の一角――『ログナー』侯爵家の息女だ。しかし大貴族とは思えない気さく態度で誰に対しても壁を作ることもなく、気遣いも面倒見も大変良いため平民貴族クラス関係なく、教師を含め多くの人から慕われている。

 更に彼女は、東方に伝わる三代拳法の一つ――『泰斗流(たいとりゅう)』の使い手だ。

 本人はあくまで習った程度で本職には到底及ばないと謙遜しているが、その実力は泰斗の中伝レベルに達しており、教師陣を除けばこの学院で最強の実力者と言っても過言でもないだろう。

 そしてもう一つ、彼女にはとある一面が――

 

「どういう事か、か。ふふふ、それは君が一番良く分かってるんじゃないかクロウ?」

 

「――もう!! やっと見つけたよクロウ君!!」

 

「げっ! トワもいんのかよ!」

 

 士官学院生とは思えない小柄な小動物を思わせる少女――トワ・ハーシェルが頬を膨らませながらアンゼリカに並び立つ。

 信じがたいが、彼女はツナヨシの一つ上の学年の先輩であり、更に平民出身でありながらも貴族生徒も多くいるトールズ士官学院の生徒会長を務める実はかなり優秀な少女である。そして、アンゼリカ同様にクロウの気の置けない友人である。

 

「クロウ君、今日はどうしてツナ君と出掛けようとしてるのか教えてくれるかな?」

 

「いやぁ、ツナがまだエレボニアに慣れてなくて帝都にも訪れたことがないと聞いてな、可愛い後輩のために先輩として俺が人肌脱ごうと思ってよ」

 

「うん、普段ならそれはいいことなんだけど、クロウ君今日は前の授業に出席出来なかった補修授業と課題があるはずだよね?」

 

「へ……」

 

「……さあ、何のことか私は分かりませんね?」

 

「もうクロウ君!! 1年の時から必須授業を抜け出して単位もいくつか落としちゃってるし、このままじゃ卒業も危ないかもしれないんだよ!!」

 

「ふっ、心配してくれるのは嬉しいが、ここは退くわけにはいかねぇんだよトワ。卒業どころか明日を生き抜くために、俺は行かなくちゃならねぇんだ!!」

 

「あ、遂に本音を漏らしましたね」

 

「それ完全にクロウ君の自業自得だからね!! と言っても聞く耳を持ってくれないし……うぅぅ……アンちゃぁん! クロウ君がぁぁぁぁ!」

 

「ぐふっ!! 泣き崩れるトワも大変可愛いく素て―――ゲフンゲフン。よしよしトワ、君はしっかりやれているさ」

 

 一瞬危ない表情になりかけるも寸前で戻して、泣いてしまったトワを抱き締めながら優しく宥めるアンゼリカ。

 それに対しツナヨシはいつものことかと達観した表情で眺めていた。クロウをきっかけにだが彼女達と縁ができ、それなりに仲良くしていただいており、彼女達のやり取りもある程度把握しているのだ。

 

「さて、私としては別に君が留年しようと構わないが、愛しのトワの頼みとあっては、私も重い腰を上げるのもやぶさかでない」

 

「いや、トワに限らず女生徒の頼みなら二つ返事で頷くだろお前。そんで、ご自慢の泰斗で俺を抑え込むか?」

 

「普通ならそうする。けど、君は座学とは正反対に実技――特に状況判断能力と逃げ足は教官達も目を見張る程のものだ。私だけでは少々分が悪い……――私だけでは

 

「あん?……――っ! ゼリカ、テメぇまさか!!」

 

 彼女の意図を察したクロウはすぐさまツナヨシを連れてこの場を離脱しようするが――もう遅かった。

 

「――さあ集え!! 私の可愛い子猫ちゃん達よ!!」

 

 アンゼリカが指をパチンと鳴らすのを合図に―――様々な物陰からトールズの女子生徒達が飛び出し、軍隊顔負けの連携で僅か数秒でクロウとツナヨシを、隙間なく囲み包囲したのであった。

 

「んなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? さっきから気配が少しずつ集まってると思ったらこういう事だったの!?」

 

「いや早く教えろよそれっ!!? つうか――ま、マジでやりやがった…! 俺一人を捕らえるためだけに、()()()()()()()()()()()()()()を集めやがった……!」

 

「失敬だな君は。私はただ純粋に、彼女達を想い力となり共に歩み愛を囁いたに過ぎない。私のお願いにこうして二つ返事で集まってくれたのは、私の純粋な人徳さ♡」

 

 アンゼリカ・ログナー―……彼女はある強烈な一面を持ち合わせている。それが――女性の身でありながら同性である女性が大好きだということ。

 可愛いらしい女性を見るやいな、場所は選ばず初対面であろうと口説きに奔る。普通なら拒否し関わろうとしないのだが、アンゼリカの女性でありながら心身男性のような容姿と立ち振る舞い、彼女の破天荒でありながら気配り上手な性格、そしてとある御仁から教わった口説き文句が見事にかみあった結果―――彼女に虜にされた女性が後を絶たないらしい。

 

 表情を見るだけで誰も彼もが嫌々ではなく、自ら望んでアンゼリカの力になりたいというのが良く分かる。彼女のような尊敬できるカッコイイ同性がいれば、()()異性に目を向けることはないだろう。

 

 さて、クロウただ一人を捕まえるために作られたこの状況……それに対してツナヨシが取る選択は――

 

「――あのーすみません会長、アンゼリカさん。もしかしてこれ、俺関係なかったりします?」

 

「う、うん、勿論だよ! ツナ君ごめんね、変なことに巻き込んじゃって…!」

 

「折角の自由行動日の朝に災難だったねツナ君。行くのなら早く離れた方がいい。クロウの巻き添えを受けてしまうよ」

 

「あ、はい。それじゃ先輩方お疲れ様です」

 

 ――クロウを見捨てるただ一つだ。

 

 カジノ同様、理由が理由なだけに善意で助けようという気はないし、これは完全にクロウに非があるのは一目瞭然だ。だからさっさとこの場を去りたかったのだが、諦め悪くクロウはツナヨシの腕を強く掴んだ。

 

「ツナ君様。ここは二人で協力してこの状況を打破するのが得策だと私は思うのだがどうですかね?」

 

「いやいや。これ完全にクロウさんが悪いじゃないですか。ここは大人しく――(ガチャっ!)――……ガチャ……?」

 

 会話の最中に聞こえた不穏な音に、恐る恐る目を向けると―――いつの間にか自分の左手首に鉄の拘束具が嵌められており、それから頑丈なワイヤーがクロウが右手首に嵌めた拘束具に繋がっている……つまるところツナヨシの自由が奪われたのである。

 

「これで俺たちは一蓮托生!! 生きるも死ぬも一緒だ!! だから二人で力を合わせてこの危機を乗り越えようぜ!!」

 

「なにしてくれてんのこの先輩!!? しかもなんかこのワイヤー凄く硬そうなんですけど!!?」

 

「そりゃジョルジュお手製だからな。サラやナイトハルト教官以上の猛者じゃねぇと斬れないとのお墨付きだ」

 

「ここでその有能さを出すのは勘弁してほしいんですけどぉ!! というか鍵、鍵を早く寄こしやがって下さい!!」

 

「そいつは悪いな。俺としたことが手錠だけ貰っておいて鍵だけジョルジュから受け取るのを忘れていてな。つまりこの場に鍵はないのさ――ふっ」

 

「ふっ――じゃねぇですよ!! つまりこの手錠を外す手段がないってことぉ!!?」

 

「ふえぇぇぇ!! クロウ君とツナ君がぁ!? ど、どういうことなのぉ!?」

 

「ふっ、鈍いトワも素敵だが、私が簡単に説明してあげよう。これは言葉すら必要としないツナ君の意思表示――"クロウは誰にも渡さない!!"、"クロウは自分の物だ!!"…つまりそう言っているのさ!!

 

「貴方の目は節穴かっ!!?」

 

 近くで視ておきながら全く見当外れにも程があるアンゼリカに先輩後輩関係なくツッコミを入れてしまうツナヨシ。

 だが誰もアンゼリカの言葉を疑っていないのか、トワを顔を真っ赤にしてアワアワとしており、取り囲む女子生徒達も顔を赤くさせたり鼻血が垂らしかけたりと反応は様々だ。

 

「隠すことはないさツナ君。この2週間君とクロウを見てきたが、正直ここまでの仲になるとは思わなかった。君達の関係はそう―――先輩後輩の壁を越え互いが互いを想い合う恋人の――

 

「――いや、確かにクロウさんのこと何だかんだ言って頼りになる先輩なのは認めますけど…そもそも俺とクロウさん男同士だから恋人とかそういうのはあり得ないと思うんですけど…?

 

 いたって平坦な声量で首を傾げ、本当に理解できないと口にするツナヨシに予想外の反応だったのか、からかおうとしたアンゼリカだけでなく周りの女子生徒達も思わず固まってしまった。

 

 しかしよくよく考えてほしい。ツナヨシはまだ14歳で、大人と子供の狭間に立とうとしている思春期だ。元いた世界でノーマルな恋愛系にはそれなりの興味は持つが、今だR18の類の…またはそれに近い本を一冊も持っていない程の初心(ウブ)だ。

 そんな彼が、異性ではなく同性同士の恋愛であるBLや百合の世界に無知なのは無理もない。

 

「そうか……君はまだその世界を知らない純真無垢のようだね。いや、君の年齢を考えればある意味当然か」

 

「は、はい……?」

 

「あぁ、その、なんだ……お前が知るにはまだ早――いや、もう遅いか早いかの問題だよな、この学院にいる限り。後で俺が教えてやるよ…」

 

 クロウのある意味での親切心からきた言葉。だが、この危機的状況(妄想豊かな女性陣の前)でその台詞はまずかった。

 

 

 

「ク、クロウ先輩がツナ君に教える……―――手取り足取りっ!!」

 

「クロウのアレが、ツナヨシ君のアレに……―――ぶはっ!!(鼻血)」

 

「青春を過ごす無垢な少年の体に、不良ながらも密かな優しさを持つ青年の手が――ぶぷぱっ!(鼻血) いい、凄くいいわ!!」

 

「クロウ×ツナヨシ、クロウ×ツナヨシ、クロウ×ツナヨシ、クロウ×ツナヨシ、クロウ×ツナヨシ―――」

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!! なにこの人達ぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

「く、腐ってやがるぜコイツ等…!!」

 

 

 色々な意味でネ!!

 

 ありもしない妄想で興奮を隠し斬れず顔を真っ赤にさせ鼻息を荒くしたり、鼻血を今度こそ垂らしたり、意識が飛びかけようとしたり、その場にいなかったはずの文芸部の部長が現れ鼻血を流しながら筆をはしらせたりと混沌な状況へとなっていた。

 

「おぉぉ……私の子猫ちゃん達を妄想だけでここまで追い詰めてしまうとは…。クロウがいるとはいえツナ君、君はやはり只者ではないようだ」

 

「いや、この人達ただ自爆したようにしか見えないんですけど!?」

 

「だが、愛しのトワの誘いを断るクロウに協力する以上容赦はしない。当然クロウには罰を与えるが、君もなにかしらの罰を与えないとね。そうだな――」

 

「ちょ、待って下さい!! 俺は協力なんてまった――」

 

 

 

「――一週間このウィッグをつけて女性用制服を着て過ごしてもらうよ!!」

 

「――ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! まだ諦めてなかったよこの人!!」

 

 アンゼリカが突き出したストレートヘアのカツラと平民の緑の女性用の制服に、ツナヨシは悪夢を見たかのように頭を抱えだす。

 

 

『ツァイスに赴いたと聞いた時はどんな罰を与えようと思ったが……これはこれでアリだ。このまま撮え――おいおい、そんな涙目で怯えないでくれたまえよ――ゾクゾクするじゃないか♡』

 

『うんうん。うちの者達ですら変化できない程の完成度だね。せっかくだから、このまま街へと買い物としゃれこもうじゃないかツナ♪』

 

 

 脳裏に浮かんだ恩人と元居候の悪顔を頭を振って無理矢理忘れ、嫌々ながら現実に戻る。

 

 ツナヨシの異常なギャンブルの腕が知られるようになった元凶はアンゼリカ――いや、彼女はあくまできっかけだ。

 ツナヨシの罰ゲームを決める際、彼の幼い童顔は女性の服を着ても違和感なく似合うのではないかと、気まぐれで口にしたのだが、その際ツナヨシは思わず頭を後ろの壁にぶつけたり冷や汗をダラダラと流したり明らかに動揺した反応を見せていた。

 周りが心配する中、アンゼリカはそんな彼の様子を見てニヤリと笑いながら思った―――これは面白そうだ、と。

 

 あの時は本気を出したツナに負けてしまったのは予想外だったが、巡り廻ってこうしてチャンスが訪れたことにアンゼリカは愉悦の笑みを深める。

 

「ちょ、ちょっと待って下さいよ!! 男の俺がそんなモノ着たって気持ち悪いだけですし!! というか前から思ってましたけどアンゼリカさんには全く得がないでしょ!!?」

 

「やれやれ、君は色々な意味で謙遜が過ぎるな。確かに私は可愛いもの好きではあるが、それは女性に限ってであり、いくら童顔であろうと男に対しては全く興味はない」

 

「だったらどうしてっ!?」

 

「あの時の君の姿を見て直観したのさ――君の弱みを握ればこの先が面白くなりそうだ!!と

 

「最低だ!! 最低の先輩だぁ!!」

 

「さあ子猫ちゃん達!! クロウもそうだがツナ君を捕らえた暁には―――あの二人を好きにしていい権利を与えよう!!」

 

『イエッサー!!』

 

「関係ない俺まで巻き込まれた!!? しかも全員さっきよりもテンションが高めなんですけど!!」

 

「ツッコんでる場合か!? 今はとにかく逃げるぞっ!!」

 

 ツナの腕を引っ張り、その場を離脱しようとするクロウ。そして懐から何か取り出すと地面に思い切り叩きつける。それは――

 

 

「――ケホ、ケホ!! な、なにこれ!?」

 

「あうぅ……煙で目が染みる……!」

 

「うぅぅ……アンちゃんこれって…っ!」

 

「間違いなくジョルジュのお手製だろ……くっ、卑怯な……っ!!」

 

 煙玉。

 19歳の若さにして本職顔負けの技術力を持った、クロウの同級生の友人が製造したお手製。通常の物と比べれば煙の量も濃さも違い、現に女生徒達は勿論アンゼリカまで目を瞑って身動きが出来ていない。

 

 その隙にクロウはツナヨシを引っ張って、彼女達の包囲網から抜け出すのであった。

 

「何とか抜けられたが、あいつらも腐っても士官学生だ。後数十秒ありゃ追ってくるだろうな…!」

 

「ど、どうするんですか!?」

 

「取り敢えずまずはこの枷をどうにかしないとな。ジョルジュの所に行けば鍵くらいあるだろうが……」

 

「絶対あの人達が立ちはだかるに決まってるじゃないですか!? つうかそもそもクロウさんのせいで状況が悪化したんでしょうがぁ!!」

 

「黙らっしゃい!! 俺は過ぎたことをしつこく言うような後輩に育てた覚えはありません!!」

 

「まだ会って2週間しか経ってないでしょ俺達!!」

 

「ともかく!! このままじゃ俺達は共に破滅を迎える!! 俺はトワによって缶詰め状態で授業と勉強をさせられ、ツナは俺と共に女生徒達から玩具にされる……それでもいいのか!!?」

 

「死んでも嫌ですっ!!」

 

「だったら腹をくくれ!! 命を懸けろ!! 力を合わせ、今を乗り越え明日を手に入れるためにな!!」

 

「くそ、顔がイケメンでいざという時に頼りなるからカッコよく聞こえてしまう……! ええい、やってやるよこん畜生め!!」

 

 周りから見れば"そんなことで命懸けるか?"と問いたいだろうが、この二人にとってガチである。

 

 覚悟を決めた二人は、各々の得物である導力銃を枷がついていない手で構える。そして禍々しい複数の気配を感じた途端、二人は戦場へ赴く顔つきへと変わり、駆け出す!

 

 

 

 

「女神の加護を!! なんとしても壁を乗り越えるぞ!!!」

 

「おう!!!」

 

 

 もう一度言おう―――この二人はガチである!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから数時間後………

 

 

 

 

「さあ俺の奢りだ、二人共ジャンジャン食べてくれ!!」

 

「うわ、テーブルを埋め尽くす程の料理の数々…! これ全部食べきれるんですか?」

 

「大丈夫だよツナ君。僕にかかれば難なく全部胃袋に収められるさ」

 

 場所は帝都『ヘイムダル』、オスト地区にある居酒屋《ギャムジー》。

 お昼過ぎでありながらも休日だからなのか、多くの人が飲んで騒いでいる。その一角のテーブルにツナヨシとクロウ、そして途中合流したクロウ達のもう一人の上級生であるジョルジュは、テーブルに隙間なく置かれた湯気が昇る多くの料理に圧倒されていた。

 

「それにしても改めて、よくアン達から逃げ出すことができたよね二人共」

 

「あぁ、俺一人だったら今ごろ授業&勉強の監禁地獄を味わってるところだったが、頼りになる後輩がいてくれたおかげで無事に帝都へ辿りつけたんだぜ」

 

「……俺としては凄く複雑なんですけどね」

 

 ツナヨシの頭をわしゃわしゃと撫でる楽しそうなクロウとは裏腹に、されるがまま言葉通り複雑な表情を浮かべるツナヨシ。

 

 

 

 あの後、迫りくる武器を携えた統制がとれた士官女子学院生達と学院最強の実力者であるアンゼリカの猛攻。普通でも中々の難易度で、その上互いの片手を手枷で繋がれ動きが制限されているという悪条件付き。

 誰もがすぐに決着がつくと思っていた――しかし、その予想は大きく外れることになる。

 

 彼女達は、この二人を甘く見すぎたのだ。

 

 まず一点目は、彼らの実力。

 クロウは去年、トワやアンゼリカを含めた3人の同級生と共に『ARCUS』の運用テストを請け負い、サラの導きのもと帝国各地を回り、それなりの修羅場をくぐっていること。

 そしてクロウ自身の銃の腕も士官学院生の中でもトップクラスであり、それに加え危機察知能力と反射神経も優れている。

 座学ではワースト上位にはなるが、実戦では上位に入る実力者である。

 ツナヨシの実力は言わずもがな。

 

 二点目は、戦術オーブメント『ARCUS』。

 前述で述べた通り、クロウは『ARCUS』の適正があり今でも所持しており、扱いについてはⅦ組よりも上手いし、ツナヨシとリンクを結ぶことも分けはない。

 ツナヨシはそもそも『ARCUS』など頼らずとも、付き合いがそれなりにある人物と連携を取るだけの高い協調性がある。

 

 そうしたあらゆる要素が上手く噛み合ったことにより―――二人は統率された女子士官学院生の猛威をくぐり抜け、遂には指揮官でもあり強者あるアンゼリカを戦闘不能に追い込むことができたのであった

 

『我が……生涯に…一片の……悔い、なし……!!』

 

 本人の名誉のため詳しい戦闘描写は省くが、アンゼリカは鼻血を流しながら満足そうに気を失い、その横に顔が真っ赤でスカートの裾を両手で抑えるトワの姿があったそうだ……。

 

 指揮官が意識を失ったことによる動揺で女子士官学院生の統率が大きく乱れ、その隙にクロウとツナヨシは急いでその場を離れ、ジョルジュがいる技術棟まで走って来た。

 

 

『えーっと……クロウ。流石にその状況で君に手を貸すのは――』

 

『――昼飯大量に奢ってやるから!!』

 

『――はい、これが鍵だよ。バイクもすぐに出すから待っててくれ…!』

 

『手のひら返し早すぎでしょ!!?』

 

 その後はジョルジュに事情説明&昼飯奢りの約束を交わしたことで手枷の鍵を入手して、無事に枷から解放。

 そして念には念を入れ列車ではなく、このゼムリア世界で今だ実用化に至ってはいないが、ジョルジュ、クロウ、アンゼリカ、トワの4人によって製作されている"導力バイク"を使ってトリスタを離れ、無事『ヘイムダル』に辿り着くことができたというわけだ。

 

 

 

 

 

「うーん、でもツナ君はともかくクロウは確実に後で酷い目に合う未来しか浮かばないよね」

 

「はっ、そん時は数時間後の俺がなんとかしてくれるさ。今はただ俺の懐が超温まったお祝いの方が先だぜ! あぁ……以前の俺じゃ考えられない飯の数々…! 俺の腹が鳴いてやがるぜ…!!」

 

「……話はさっき聞いたけど、本当に競馬で勝ったんだね……しかも今だ数人しか当たってない筈の"3連単"で

 

「いやー……まさか俺もここまでなるとは思いもしませんでしたよ……」

 

 

 

 

 ヘイムダルに着いた後、巻き込まれたとはいえ助けてくれたお礼、そしてこの先輩の借金チャラのため仕方なく、ツナヨシは競馬に行くことを渋々承諾した。

 クロウは喜々としながらツナヨシと共にサングラスや付け髭、帽子やコートといった簡易的な変装をしながら『帝都競馬場』へと足を運んでいったのだった。

 

 競馬についてルールは全くの無知のため、ツナヨシはある程度クロウから――馬の順位を予想してミラを支払いして馬券を購入し、予想通りの場合は当選した馬の倍率によって金額が増えた状態で払い戻しがされると聞く。

 

 正直カジノと違って不安しかないが、取り敢えず出来る範囲のことはやろうと決め、広場でクロウから今日レースに参加する馬の勝率や今まで実績を聞き出し。更には競馬を観にきている人々の順位の予想の確認。

 更に今日の馬と騎手の状態やコースの確認、芝生の状態や風向きなど、集められる要素を全て集めた。そして頭の中に全てのデータが揃った途端、説明や過程も分からずとも"あの馬が一位かな……"と頭の中で直観し、クロウに伝える。

 

 取り敢えず様子見ということで、クロウは全財産(1000+αミラ)の半分の金額で1レース目の単勝式の馬券を購入。その後二人は観客席で購入したコーヒーを飲みながらそのレースを観戦した。

 結果――ツナヨシの直観は見事的中。1位の馬の倍率は2.7倍のため1080ミラ(税抜)の払い戻し。

 そのミラと全財産をそのまま、2レース目ツナヨシが直観した馬の単勝式の馬券を購入。それも見事的中し倍率1.8倍で2275ミラ(税抜)の払い戻しがされた。

 

 ツナヨシの直観に問題がないと判断したクロウは、なんと全財産で3連単の馬券を買うと言い出したのだ。

 3連単とは1位~3位の馬の順位を正確に予想するという、競馬の中では払い戻しの金額の倍率が圧倒的に高い馬券だ。とはいえ3連単が当たるのは本当に滅多になく、ここ最近その予想が的中した者はいないとも聞いた。

 

『絶対にそれは無理ですよ!!』

 

『いーや大丈夫だ!! 俺はお前を信じてる!!』

 

 流石にそう上手くいかないからとツナヨシはやめさせようとしたが、クロウは聞く耳持たずでツナヨシが直観した馬の順位の馬券を買ってしまい、"もう知らねー"とツナヨシは放っておくことにした。

 

 

 そして結果は――「2-5-1」と賭け、実際の順位は「1-2-5」と全滅となった。

 

 

『お、俺の全財産がぁ……!』

 

『まあ世の中そう上手くいかないですよ…』

 

 その結果にクロウはと四つん這いでショックを受け、ツナヨシは予想が外れながらもコーヒーを飲みながら達観していたが、ここで予想外のことが起きたのだ。

 

 なんと1位の馬がレース中に他馬の走行を妨害したことが判明。そしてその妨害がなければ先着できていたことが認められ――

 

 

 

――1位の馬は3着まで降着され順位は「2-5-1]と変動した……。

 

 

『『――えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!??』』

 

 

 まさかの逆転勝利に周囲の人がいるにも関わらず、二人が驚きの大声を上げるのも致し方ないだろう。

 

 今レースの3連単の倍率は352.4倍のため、金額はなんと約58万ミラ(税抜)の払い戻しとなり、借金を返しても十分なお釣りで出るほど、クロウの懐が一気に暖まる結果となった。受付からミラの束を受け取るクロウの手が震えていたのも無理はない。

 

 その後、滅多に出ない3連単の的中にクロウ達の周囲に多くの人だかりができたが、これ以上目立ち正体がバレれば水の泡のため、二人はすぐにその場を離脱し、周囲に人がいない場で変装を解いた。そして約束していたジョルジュと合流して、現在に至るわけだ。

 

 

 

 

 

「ふぅ…。未成年で競馬をやるなとか、後輩の運にたかるなとか、そもそも補修をサボるなとか色々とツッコミたい気持ちだけど、こうしてご馳走にご相伴預かった身としては胸の奥にしまった方がよさそうだ」

 

「……正直2年生の常識人がトワさんしかいないじゃないかと思うのですがクロウさん」

 

「まぁ普段はしっかり常識があるヤツだけど、飯が絡むと手のひら返しが半端ねぇからなジョルジュは。って今はんなことより飯だ飯!! この後の帝都観光のためにも英気を養わねぇとな…!!」

 

「色々と複雑な気持ちでいっぱいですけど、有難くご馳走になります」

 

「……ちなみにクロウ、足りなくなったら追加注文するのは当然いいよね?」

 

「おう、どんどん注文してくれや! ミラに関して今の俺は無敵! 今の俺に払えない物などねぇからなぁ!!」

 

((あ、近いうちにまたミラが底をつくなこの人/クロウ……))

 

「そんじゃそろそろ食うとしようぜ。じゃ―――」

 

「「「―――いただきます」」」

 

「えーと、まずは何を食べよ―――って二人共食べるの早っ!!」

 

 クロウは完全に暴食の域で食い散らし、ジョルジュは一品一品を味わいながらも食べる速度は異常と、テーブルに並べられた料理は次々と消えていく。そして食べる速度を落とさず追加注文をすることも忘れない二人である。

 取り敢えずツナヨシはある程度のおかずを自分の皿に移し、二人とは正反対にゆっくりと食べることにした。

 

(はぁ……なんでこんなことになったんだろ……?)

 

 本来なら今日1日は帝都『ヘイムダル』をゆっくり観光しつつ、()()()()()()()()()この場の地理を完全に把握する1日のつもりでいた。

 

 それが朝早くから同級生と手合わせして似合わない説教をしたり、先輩の騒動に巻き込まれ命がけの追いかけっこをしたり、人生初の競馬をさせられたり、こうして居酒屋で先輩二人とお昼をいただいたりと、想像していた1日とかけ離れたものとなった。

 

 まあ要因はただ一つ、"自身が彼らに関わってしまった"ただ一つだ。

 未来のことを考えれば、彼らとの関係は決していいものじゃないし、つくづく自分は人との距離感を離すのが苦手だと自覚してしまう。

 

 けど―――

 

「―――あ、これ美味しい……」

 

 

 この時間は、決して嫌ではない。

 

 責任はいずれ取るとして、今はただこの時間を楽しみたいと思うのであった。

 

 

 

 

 

 その後、ツナヨシはクロウとジョルジュと共に外出時間ギリギリまで帝都を楽しく観光するのであった。

 

 トリスタ帰還後、クロウはトワとアンゼリカによって当然シメられ、ツナヨシは寮内でフィーとユーシスから『何故自分達を誘わなかった?』と責められたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 日常編のはずなのに文字数が15000も超えるってどういう事!?と、書き終えた後に文字数を見て驚いた綱久です。

 黎の軌跡Ⅱは皆さまやられましたか?
 ストーリーに関してはノーコメントですが、ヴァンエレ、すーなーいいなぁ!!と思わずにいられませんでした、はい。あ、ヴァンエレが一番だけど、ヴァンアニも好きです。
 後結ばる可能性があるのか不明ですが、ヴァンとシズナの絡みも良く、コネクトイベントでは二人が互いのことを少し話したことで距離が近くなったのは善きでした!!

 そして軌跡キャラで一番好きなレン……過去を乗り越えたのは勿論、コネクトイベントは本当に感動物でした…!(泣)
 早く再来年になって黎の軌跡Ⅲ発売しないかなぁと思わずにいられないです。

 さて、今回はクロウ登場回でしたが、彼の軌跡がこの小説ではどのようになるのか楽しみにしていただければ幸いです。

 次回は1回目の特別実習、話を進めたいから1話か2話で話を納めるつもりです。ツナヨシがどの班になるのかは大体予想がついてると思うので、上手く纏まるよう頑張ります!!

 それではまた、次回にお会いしましょう!!

 あ、最後にアンケートを用意したので、良かったらお願いします!! 

現状この小説の1話の文字数は8000~17000文字ありまして、更新速度を速めるため文字数を5000~6000に減らして話数を増やすのか、現状維持のままでいいのか――ご協力をお願いします。

  • 文字数5000~6000字で更新速度UP
  • 文字数8000~17000字で現状維持
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