英雄伝説 橙の軌跡   作:綱久

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2ヶ月も投稿が遅れてしまい申し訳ありませんでした(土下座)!!

何とか次回から一か月投稿に戻れるよう、頑張ります!

それでは、どうぞ!!



旅立ち

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――あー、死ぬかと思ったわ」

 

「………」

 

 殺伐とした戦場で発するとは思えない、少しばかり気の抜けた声が響く。

 

 X(イクス) BURNER(バーナー)の影響で森林の一角が更地となり土煙が大量に舞っているなか、ローブの女性が静かな足取りで姿を現す。

 

 呼吸は少しばかり乱れ、服装は所々焼き焦げた後が見受けられ、彼女の得物である六尺棒は見事なまでに真っ二つに折れており武器としての役目を十全に全うすることはもう不可能だろう。

 だが彼女の上半身を覆うローブは今だ健在であり、彼女の素顔はフードによって隠されたままだ。といっても、ローブに関してはとある天才魔女にある術式を組みこんでもらっており、条件を満たすか彼女自身が自らローブを脱ぐ以外、素顔があらわになることはないのだが、綱吉が知るよしもない。 

 

 そんな彼女の様子に、今だフードが外れないことに疑問を持ちながらも綱吉に驚きはあまり見られない。何故なら彼は視た―――

 

 

「……X(イクス) BURNER(バーナー)に飲み込まれる直前、透明な障壁がお前を守るかのように囲んだ。力の感じからして魔法(アーツ)と呼ばれる術か? しかもそれだけじゃなく炎の気配も感じ取った……あの一瞬で魔法(アーツ)と炎を複合した防御壁を張った……違うか?」

 

 綱吉の問いに、ローブの女性は肯定するかのように口角を上げる。

 

 

 『アースウォール』―――物理攻撃を完全防御する上級魔法。

 確かに綱吉の言葉通り、X(イクス) BURNER(バーナー)をくらう直前でローブの女性は『アースウォール』を使用した。更にそれだけではない。

 本来魔力しかもちえないはずの《魔力(アーツ)》に、ローブの女性は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()『アースウォール』を駆動させたのだ。

 いくら"死ぬ気の炎"が特殊とはいえ、二つの生体エネルギーを複合させ魔法(アーツ)を放つなどいう不条理――常人なら"有り得ない……"と思わず零しかねないが、『え、こんなの普通だけどそこまで驚くこと?』と聞かれてもローブの女性は首を傾げるだろう……

 

 ともかく、炎と魔力の融合魔法(アーツ)の力は一時的とはいえ、上司である"魔法"に関して規格外の天才魔女に匹敵するほどにまでに跳ね上がる……とはいえあの魔女と違って連続での(・・・・)魔法の多発(・・・・・)はできないが。

 とはいえ、先ほどの『アースウォール』の防御壁は例え"達人級"の一撃でも完全防御できるほどの防御力を誇っていた。

 しかし、綱吉が誇る奥義の一つである『X(イクス) BURNER(バーナー)』の前では、彼女の高い魔力と炎で生成した障壁ですらダメージを最小限に抑えるのが精一杯だった。まあ、そんな直感が(・・・・・・)警報を鳴らして(・・・・・・・)知らせてくれた(・・・・・・・)ため、このような有様はある意味彼女にとって想定の範囲内だ。 

 だからこそ今の状態でも戦闘の支障は全くなく、戦意も劣ろえることも――いや、むしろ上がっているかのように思えるほどローブの女性から闘気が奔る。

 

 

 そんな彼女の様子に――いや、最初から綱吉は彼女についてある疑問を抱いており、思わずそれを口に出してしまう。 

 

「……不意をついたつもりだった。あの状況では、例えお前程の実力者でも反応するのは勿論魔法(アーツ)とやらを発動するのも至難のはず。いや、最初の戦いの時からもそうだった。まるで未来予測(・・・・)でも(・・)したかの(・・・・)ように(・・・)俺の攻撃をことごとく防ぎ、躱していた。お前のあの動きは反射神経というレベルではない。何故気づけた?」

 

 

 

 空気が変わった。

 

 綱吉の問いに、先ほどまで好戦的に笑っていたローブの女性の口が、話すことを拒否するかのように真一文字に閉じられた。先ほどまで奔っていた闘気が噓のように静まり返ったのだ……まるでこれから起こる嵐の静けさのように。

 

 やがて不承不承ながら、ローブの女性は綱吉の問いに応える。別に隠していたわけでもないし、彼ほどの実力者なら気づけてもおかしくない。だが―――

 

 

「―――……私、勘が良いのよ。君の超直感と同じく(・・・・・・・・・)ね」

 

「っ! 何故その名前をお前が!? いや、同じって一たっ――――」

 

 

 

 

 

「―――それについては聞かないでもらえる? 私好きじゃないの、この力」

 

 瞬間、綱吉が思わず口を閉じてしまう程の周囲の圧が尋常でない程増した。 

 それは彼女が初めてみせる本気の殺気―――そして怒気によるもの(・・・・・・・)であることを理解し、彼女の触れられたくない地雷を踏んでしまったことにそう時間は要らなかった。

 

 ローブの女性は怒りを隠そうともしない。同僚達ならともかく、敵側―――なによりもこの男に言われたことが、彼女の逆鱗に触れてしまったのだ。そしてそれによって、今まで必死に(・・・・・・)抑えていた(・・・・・)自制心の枷が外れる(・・・・・・・・・)

 

「六尽棒は使いものにはならない。もう君と戦うにはもうアレ(・・)を使うしかない……けどそれを使えば力の加減が難しく、君を殺しかねない。《鋼》様と《深淵》さんから使用許可は下りなかったけど、仕方ないよね? 君が想像以上に足掻いてしまったのだから」

 

 仕方がない? 口ではそう語るがそれは彼女にとって断じて否だ。むしろ彼女は10年(・・)この光景を待ち望んでいた。

 なにせやっと……目の前に立つこの少年の―――

 

「なにを、言って―――」

 

「―――沢田綱吉君。生き残りたいのなら余さず自分の全力を出して抗いなさい。でなければ貴方の未来は―――"死"、あるのみよ!」

 

 尋常ではない怒りと喜悦を込めた死の宣告と共に、ローブの女性は右手を虚空へ伸ば――――

 

 

 

 

 

『―――盛り上がっているところ申し訳ないのだけど、そろそろこの戦いの幕を引かせてもらうわよ』

 

 

「「っ!?」」

 

 初めて聞く透き通るような美声が響き渡った刹那、綱吉とローブの女性の周辺を囲むかのように地面や森林の木々の側面から数十の魔法陣が展開された。瞬間、それぞれの魔法陣から数十本の魔の鎖が召喚され、得物を狙う獣のような動きと速度をもって襲い掛かる――――綱吉一人のみを(・・・・・・・)

 

「くぅっ!」

 

 突然の事態に困惑を隠せなかったが、綱吉はXグローブの炎の噴射の推進力で上空へ大きく飛行することで鎖の群れを躱しきる。

 しかしその程度で鎖は動きが止まることなく、すぐさま方向転換し上空を飛ぶ綱吉へ再び迫る。

 

(あの鎖は……まずい!)

 

 あの鎖は視るだけで一本一本に尋常ではない魔力が込められており、もし一本でもあの鎖に拘束などされてしまえば例え綱吉でも拘束から抜けるのは困難ともいえる程。そんな鎖が数十本と自身に迫っており、つまり一本でも捕まればその時点で綱吉はもう積みだ。

 現在空中を方向転換を繰り返しながら超高速で飛行することで鎖の群れから逃れている。速さはそこまで警戒するほどではないが、鎖は蛇のようにしつこく綱吉を追い回しており、更に一本一本が時間差を利用して迫っており、そして綱吉の逃げ道を塞ぐように飛行ルートを潰し、徐々に逃走範囲が狭まり拘束されるのも時間の問題だった。

 

(回避は不可能………なら最後の方法は―――この鎖全てを破壊する!)

 

 鎖にはそれぞれ膨大な魔力が込められており、綱吉でも易々と破壊することは難しい―――だが破壊は可能だ。そのための炎の溜めは既に完了している! 後は―――

 

 

 

「―――鎖にばかり気を取られすぎよ」

 

 この戦いで、綱吉は初めての失態を起こしてしまった。

 

 何故なら無視できない脅威である鎖の群れに集中してしまったがゆえに―――本来の敵であるローブの女性の警戒を一瞬でも緩めてしまったことを。

 

「しま―――っ!?」

 

 気づいたときにはもう遅かった。

 ローブの女性の接近はおろか背後を取らせたことを許しただけでなく、彼女の羽交い締めによって綱吉の動きを封じられてしまったのだ。肉体全体を炎で強化しているがゆえか、ローブの女性の拘束は固く、綱吉でも逃れるのに時間が必要だったが―――この時点で彼女の勝利は決定したも当然だった。

 

 空中に展開されていた数多の鎖は、ローブの女性ごと綱吉の四肢と胴体を何重にも拘束し、そのまま空中から地面へと二人を叩き込むのであった。

 

「――かはっ……!」

 

「つっ! ……随分手こずらせてもらったけど、やっと君を捕まえたわ……!」

 

 地面に叩き付けられた衝撃はそれなりに響いたが、それに関しては支障はない。

 一番の問題は今の自分の状態だ。四肢と胴体は純度が高い魔力が込められた鎖によって完全に拘束されただけでなく、地面に縫い付けたのようにその場から動かぬように固定されてしまい、腕一本動かすことすら叶わなかった。 

 そしてうつ伏せに固定された綱吉の後ろを密着するかのように、羽交い締めの状態のまま拘束されたローブの女性によって、最低限な動きすら完全に封じられた。

 

 あまりにも絶望的な状況。しかしそんな状況に追い込まれてもなお綱吉の表情から諦めの色が見られるず、この状況を打破をしようと思考を巡らせそうとしたその刹那――

 

 

 ―――場を鎮めるような、鳥の鳴き声が聞こえた。

 

 すでに並盛山の生息している動物達は、己の生存本能にしたがいすでにこの場所から逃げ出しているはず。いくら戦闘が一時止まったとはいえ、今だ死地であることに変わりないこの場所に戻ってくる愚行な生物はいないだろう。――彼ら二人と無関係な存在であれば。

 ゆえに綱吉もローブの女性も、鳴き声がした方向に視線を向ける。

 

「蒼い……鳥?」

 

「『グリアノス』……ようやく来たわね」

 

 綱吉は初めて目にする系統の鳥の登場に戸惑い、ローブの女性は待ちわびたかのように息を漏らす。翼を羽ばかせなら上空から飛んできた蒼い鳥はやがて木の枝へと羽を休め―――

 

『―――うふふ……。主役は遅れて登場するものなのよ』

 

 自身とローブの女性の戦闘に割って入った美声が、グリアノスと呼ばれた蒼い鳥から聞こえる。

 一見すれば鳥が喋っているかのように見えるが、それは違うと綱吉は直感で判断する。手段は不明だが、この蒼い鳥を通して自身の声を届けているのだろう―――自身が知る科学技術ではない、オカルトの力によって。

 

『初めまして、《ボンゴレ》10代目―――沢田綱吉君。使い魔ごしで失礼するわ。本来なら顔を出して自己紹介をするのが筋なのは分かっているけど、ごめんなさい。今貴方に私の顔と名前を明かさない方が、この先なにかと都合がいいの。だから今はこの名で名乗らせてもらうわ―――《蒼の深淵》と』

 

「………」

 

『あらあら、相当警戒しているようね。私としては君と仲良くお話したのだけど……その前に、まずは説教をしなきゃいけない子がいるようね』

 

 グリアノスの顔の向きは変わらなかったが、《蒼の深淵》と名乗る女性の会話の矛先が綱吉からローブの女性へと変わる。

 

『私と聖女様が何度も忠告したはずよね? なのに私が来なかったら貴方は一体なにをしようとしたのかしら?』

 

「………ごめんなさい」

 

 怒りはすでに収まっており、弁明することなくローブの女性は申し訳なさそうに素直に謝罪する。そんな彼女の態度に《深淵》はため息をついてしまう。

 

 本来ならローブの彼女―――《執行者》である彼女にどうこう口出しする権利はない。

 

 確かに最高幹部の《使徒》である自分は彼ら《執行者》に指示を下せる権限をもっているが、彼らの行動を縛ることはできない。

 自身が絶対の忠誠を捧げる組織の長である《盟主》が定めた掟により、《執行者》はあらゆる自由が認められており、《使徒》である自分は勿論、《盟主》の指示ですら彼らは従わずともお咎めは全くない。 

 それに加え、《執行者》のほとんどが道理を弁えない頭のネジがいくつか飛んでいる人でなしが多く、基本自分本位でしか動かず命令違反も幾多もあり、何度彼らのせいで頭を痛めたことか。そのぶん実力は桁違いのため更に頭を悩ませる。

 

 

 ローブの女性はそんな《執行者》達の中でも、数少ない良識ある人間だ。  

 一部の《使徒》を除いて、彼女は上からの指令を忠実に完璧にこなしており、任務(・・)に対して(・・・・)の命令違反(・・・・・)など一度も(・・・・・)犯したこと(・・・・・)がないのだ(・・・・・)

 何より彼女は《執行者》とは思えない程に人柄がとても良いため、組織内での評価は高く、かくいう自分も彼女を好ましく想っている。

 

 そんな彼女が、今回の任務で初めての命令違反―――正確には起こそうとした寸前だったのだが、普段の彼女を知る者からすれば、今の事態は信じがたい光景………と言うのだが、《深淵》はその原因を理解している(・・・・・・・・・・・)

 

 理解しているからこそ、彼女の気持ちは分かる……だがそれは今ではない(・・・・・・・・・・)

 ローブの女性も頭では本当は理解しているのだろうが、やはり最終的に自制が効かなくなってしまったのだろう………10年も待ち続けた目的の一つ(・・・・・・・・・・・・・)が、手が届く範囲に今存在しているのだから。

 

 本来《執行者》の行動にどうこう言うことは出来ないが、今回の任務ではそれは許されない。何故なら沢田綱吉には絶対に生きて(・・・・・・)いてもらわな(・・・・・・)ければならなず(・・・・・・・)、命令違反を行った者にはそれ相応の罰を与えると、事前にこの世界に同行した《執行者》3名には伝えていた。

 

 そのためローブの女性に何かしらの罰を与えるべきなのであろうが、自分が介入した時点で彼女の頭は冷えはじめ、今では自分が犯した愚行について深く反省している。

 そして彼女のこれまでの実績―――なにより自分自身が彼女を傷つける行為を出来るかぎりしたくない想いを否定できなかったゆえに――

 

『――まぁ。反省しているようだし、今回はなにも見なかったことにしてあげるわ。でも次から気をつけることね』

 

「……ありがとうございます」 

 

『分かればよろしい。それにしても貴方、表情が凄く苦痛そうだけど、どうしたのかしら?

 

 

 

 ピシリっと、そんな緊迫とした雰囲気が壊れる音がローブの女性から聞こえたような気がした。

 

 つい視線だけ彼女へ向けたのだが……フードで顔が隠れているが青筋がたっていることが理解できる程の黒いオーラが彼女から洩れており、死ぬ気化してるにも関わらずビクっ!となってしまった。先ほど綱吉に向けていたものとは全く別の怒りが、グリアノス越しの《蒼の深淵》に向けられている。

 

 《蒼の深淵》のこの言葉をきっかけに、漂っていたシリアスな空気はガラリと変化した。

 

 

「いや貴方の目は節穴!? 私も綱吉君と同じで鎖に思いっきり縛られてるんですけど!? 跡が残ったらどうしてくれるのよ!!」

 

『あらごめんなさい。だって彼、速さが異常に速いうえに貴方と同じで勘が途轍もなく鋭いのよ。だから貴方ごとやるしか拘束は困難だった……。貴方もそれを瞬時に理解したかそ、今の状態は承知のはずでしょ。それに、縛られている貴方はとても素敵よ♡ もう少しこのままの状態でいいんじゃないかしら♡』

 

「全然よくないわよ! 生憎貴方と違って私はそんな性癖を持ち合わせてないから苦痛以外のなにものでもないわっ!!」

 

『ちょ、待ちなさい!! まるで私は縛れることに快感を得ている変態みたいな言い方やめてもらえる!? 私はいたってノーマルよ!!』

 

「隠したって無駄よ! 私は知ってるんだから! 貴方が隠れてそれ系の本を読んでいて『……縛るのってそんなに良いの? 少し試してみようかしら』って呟ているのを!! やーい!! 《深淵》という名のドM魔女!! 帰ったらみんなに―――特に貴方の補佐君に真っ先に報告してやるわ!!」

 

『……それ以上口を開けば鎖を使って貴方の口を塞ぐわよ。その後フードを脱がせて頬を上下させた貴方の顔の写真を撮って《結社》中にバラまいてあげる。そして私はその写真をおつまみに美味しくワインを飲ませてもらうわ』

 

「汚いさすが魔女きたない!!」

 

 

 先ほどまでの緊迫した状況が噓かのように、場に似つかない漫才を繰り広げているローブの女性と《蒼の深淵》。

 ちなみに誤解を解いておくが、《蒼の深淵》は別に縛られて快感を得ている変態などではない。それ系の本を読んで、下に対する折檻の幅を広げてみようとかいうロクでもないSな理由でだ。

 

 そんな二人が繰り広げている光景に、綱吉は唖然としていた。二人の今の様子に対してではない。

 かくいう自分を含めた《ボンゴレファミリー》を始めとした仲間達ともシリアスとした雰囲気をぶち壊す色々な意味で笑えるギャグのような行為(当の本人達にとっては真面目)をして、敵側を呆れさせたことは幾度もある。だからこそ、自分は彼女達に対してなにも言えない。

 

 綱吉が唖然としたのは、ローブの女性の態度だ。

 まだ彼女について知らないことだらけだが、先ほどの戦闘や怒り滾っていた彼女の姿をこの眼で見てしまっているため、彼女にこんな一面があるのかとそのギャップに戸惑ってしまう。

 

 ギャー!!ギャー!!とローブの女性と《深淵》は言い争っているが、綱吉には分かる。あれは気を許した―――信頼し合っている仲間同士だからこそできる光景だ。

 そして表情からは分かりにくいがローブの女性の会話から、どこか楽しげな感情が含まれていることが読み取れた。

 

 そう、そんな彼女の姿はまるで友人や仲間と過ごす自分(・・)に似て―――

  

 

『―――コホン。………見苦しいところ見せてしまってごめんなさいね。そろそろ話を戻しましょうか、沢田綱吉君』

 

「………貴方達の目的は一体なんだ? 俺を一体ど―――いや、俺になにをさせたいんだ?」

 

『……えぇ、本当に申し訳なく思っているわ。本来なら別世界である貴方を巻き込むのはお門違いなのは百も承知。だけど―――』

 

 

「――綱吉君に謝る必要はないわよ《深淵》さん」

 

 《蒼の深淵》の表面上ではない心からの謝罪を、ローブの女性は鋭い声で断ち切る。

 

「ボンゴレの血と力を受け継いだ時点で、彼はあるゆる血と血で争う闘争の火種をまく災厄者。そしてその力を躊躇いなく振るい、他人を巻きこみ傷つける。そんな人間に謝罪する要素なんて一つもないわ」

 

「っ!」

 

 先ほどの《深淵》との会話が噓かのように、怒りと侮辱が入り混じった言葉を《蒼の深淵》だけでなく綱吉に言い聞かせるかのように吐き捨てる。

 それに対して綱吉は悔しさと悲しさを耐えるかのように歯を食い縛るが、反論はしな――いや、できない。

 なにせ彼女の言葉は紛うことなき事実なのだから(・・・・・・・・・・・・・)―――本来自分が望んでいなかった道だったとしても。例え綱吉の手によって起こされた罪でなかろうと――《ボンゴレファミリー》が起こした罪は綱吉の罪である。

 

 それがボンゴレの数々の歴史で起こされた罪を引き継いだ―――ボンゴレ(・・・・)10代目のボス(・・・・・・)の座につ(・・・・)くことを(・・・・)決意した(・・・・)、綱吉が背負わなければならない業である。 

 

 だからこそ彼女と向き合い、問わねばならない。ボンゴレが、自分が一体彼女に対してなにをしてしまったのかを。

 今まで出会った敵の中でも、それこそ当時家族を殺され《ボンゴレ》次期ボス候補であった綱吉に激しい怒りと憎悪(・・・・・)を抱いていた古里炎真をも上回る―――尋常ではない殺意と怒り(・・・・・)を自分に向けさせるほどの罪を。 

 

 だがそんな綱吉の決意も、二人の様子をグリアノスごしで複雑な表情で見ていた《蒼の深淵》によって―――事態は急変する。

 

『―――悪いけど時間よ。並盛町の異変に気付いて、様々な強者達がこの町に入りこんだわ。マクバーンや彼ならともかく、《鉄機隊》の"戦乙女(ヴァルキュリア)"では流石に荷が重いと言わざるを得ないわね。だからごめんなさい、綱吉君―――』

 

 

 

 

 

 

『――――旅立ちの時間よ』

 

 《深淵》の旅立ちの言葉を引き金(トリガー)に、今だ拘束されている綱吉とローブの女性の逃げ場を

なくすかのように極大な魔法陣が形成させる。

 

「こ、これは!?」

 

 ローブの女性が使っていた《魔法(アーツ)》と呼ばれる力をも遥かに上回る魔力量が肌からビシビシと伝わる。しかし綱吉にとって今はそれどころではない。超直感を頼らずとも、この先の未来が分かってしまったのだ。

 

 この魔法の発動を許せば――――

 

 

 ―――自分のかけがえのない日常が、友人と仲間と過ごす大切な時間(たから)―――その全てが壊れ、もう二度と取り戻せなくなってしまうことを。

 

 

 

 そんな最悪の未来を予感したからこそ、綱吉の行動は早かった。

 

「―――させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 綱吉の気持ちに呼応するかのように、今回の戦闘で見せる膨大な《死ぬ気の炎》が綱吉から嵐のように吹き荒れる。膨大な炎の全ては綱吉の力となり、その力をもって鎖の拘束を破らんとする。

 先ほどまでビクともしなかった鎖から軋む音が響く。そしてやがて一本、一本と鎖が断ち切れていく。

 

『っ! 流石はボンゴレ10代目、幻獣ですら動きを完全拘束してしまう魔鎖ですら抑えきれないなんて……でも―――』

 

「―――逃がさないわよ!」

 

 綱吉の炎に対応するかのように、綱吉を羽交い締めにした状態で拘束されているローブの女性もまた戦闘で初めて見せる最大炎圧まで《死ぬ気の炎》を超上昇させ、綱吉と勝るとも劣らない炎圧の炎を全てを身体能力向上にあてる。

 

 二人の周囲を気圧させるほどの膨大な炎は並盛山中を駆け巡り、同じ並盛山で戦うボンゴレ《守護者》と《鉄機械》隊士は勿論、並盛山から離れた戦場で常識外の戦闘を行っているリボーンや炎真、マクバーン達も一瞬だけ手を止め感知させてしまう程に、二人の全力の炎圧(・・・・・)は圧倒的だと言わざるをえない。

 

 あれだけ鳴り響いていた鎖が軋む音はやみ、綱吉の動きはローブの女性によって再び封じられる。二人の膨大な炎圧は総合的に互角。ゆえに、二人の力が拮抗し互いの動きが止まるのは必然。

 

 しかし綱吉は諦めることはなく、更に炎圧を上昇させながら抗っていくが、そんな綱吉の姿をローブの女性を嘲笑う。

 今は動きを封じてはいるが、信じがたいことに今だ綱吉の(・・・・・)炎圧は徐々(・・・・・)に上昇している(・・・・・・・)のが分かる。それほどまでに綱吉の実力の高さ、そしてここまで炎を生み出す覚悟の強さが本物であることの同義。いずれ綱吉が、自分と魔鎖の拘束を抜け出せるのも時間の問題だろう。

 しかしそれではもう遅い。何故なら綱吉の動きを数秒封じるだけで、もうこちら側の勝ちなのだから!! 

 

 

「離せ!! 俺は!! 俺は―――」

 

「―――もう手遅れよ!! さあ、私と共に来てもらうわよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらゆる思惑と悲劇が氾濫し、一途の希望すら絶望の大波で容易く飲み込まれる地獄の世界――――ゼムリア大陸に!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれほど吹き荒れていた炎の嵐は、まるで最初からなかったかのように忽然と消えた。しかし、消えたのは炎だけではなかった。

 

 

 

 

 

 12月20日、18時00分、並盛山頂上にて―――

 

 

 

 

 

 ―――沢田綱吉の生体反応は、この世界から完全に消失した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高層ビルでの、とある『至高』と『傍観者』の会話―――

 

 

 

「―――終幕、ですね」

 

「そのようだね……」 

 

「……分かってはいましたが、やはり貴方は干渉するつもりはないようですね」

 

「当然だよ。《復讐者(ヴィンディチェ)》達に《アルコバレーノのおしゃぶり》の権利を譲り、全ての(トゥリニセッテ)の維持が確約された以上、私が力を振るうことは最早ないに等しいだろう。これからの世を築き、守っていくのはこの地球上に生きる人間達さ」

 

「……聞くの野暮だとは思いますが、よろしいのですか? 計画次第では、彼の命はゼムリアにて終わりを迎える可能性も――」

 

「――別に。綱吉君がどんな結末を迎えようと、(トゥリニセッテ)が無事ならば文句はない。君たちが何を企んでいようと、私は手を出すつもりは全くないからね。それに君たちは別に神に成り(・・・・)上がろうと(・・・・・)するアレ(・・・・)とは違い、地球という星を終焉に導こうとしているわけではないだろう」

 

「………えぇ。《結社》の目的―――私と彼女(・・・・)の願いは世界の終焉なのでは断じてありません」

 

「ならばなにも言うことはない。役割を終えた以上、私はただこの命尽きるまで、この星に生きる生命体の行く末を見届ける―――それがどんな結末であろうともね」

 

「……そうですか。ならば貴方との会話も、今日で最後になるかもしれませんね」

 

「……そうだね。私が今回表に出たのはこの世界の空間の歪み、そして内側(・・)からの来訪者の気配を感じ様子を見に来たまで。原因も目的も知れた以上、もうここに用はない。そろそろお暇させていただきたいが…………あぁそうだ。折角だから顔見知りである君に、一つ忠告だ」

 

「………?」

 

「―――綱吉君を侮らないことだ。仮にも彼は私ですら出来なかった―――《アルコバレーノ》の運命を変えた張本人だ。そしてこの世界での数々の戦いでも、彼の手によって定められた運命はことごとく覆された。ただ特別な力を持っている人の子と侮れば、君たちが長年描いた計画も、破綻しかねないよ」

 

「……………」

 

「それじゃあ今度こそ失礼するよ。久しぶりに君と話せて良かった……運が良ければ、また会おう―――リアンヌ(・・・・)

 

「……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――それこそ有り得ませんよ、チェッカーフェイス」

 

 

 

「彼を―――――ジョットの子孫であり、彼の意思を正しく受け継いだ後継者であるツナヨシを侮ることなど、決してありません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 やーっと物語が動き出しました……本当に待たせました!

 ローブの女性、一体何者なんでしょうね……?(汗)

 声だけでしたが《蒼の深淵》さんが登場! 稀代の天才と恐れられる魔女してのこの人の実力も超ヤベーですのでお楽しみに! ちなみに注意しておきますが、この世界での《深淵》さんは決してドM魔女ではありませんので!………………。

 次回から遂に軌跡世界からスタートです! 最初にお伝えしておきますが、今回の話から次回の話まで時間が少し飛んだ状態からのスタートなのでよろしくお願いします。

 あ、それからもう一つ。とあるユーザーさんから『この小説では『オリキャラの募集』をしてますか?』と質問がありましたが――――基本OKです!! 送っていただけるのなら凄く嬉しいし感謝の気持ちで一杯になっちゃいます!! 
 ただし、自分の執筆の力量だと多くても一人のユーザー様につき二名、最低でも一人の採用になってしまいます。そして物語の都合上、キャラ設定を変えてしまうこともありますが、それでも良いというお方は是非!!
 もしかしたらそれ用の活動報告をあげるかもしれませんが、基本はメールでお願いいたします。 

 それでは次回、またお会いしましょう!

 

現状この小説の1話の文字数は8000~17000文字ありまして、更新速度を速めるため文字数を5000~6000に減らして話数を増やすのか、現状維持のままでいいのか――ご協力をお願いします。

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