英雄伝説 橙の軌跡   作:綱久

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 皆さんお久しぶりです、綱久です。

 4か月も過ぎてしまいましたが、今年もどうかよろしくお願いします!! そしてここまで遅れて申し訳ありませんでした!!

 それでは、どうぞ!!


Ⅶ組設立&思惑

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

石の守護者(ガーゴイル)……だと。書物で確認したことはあるが、暗黒時代の遺物が何故トールズ士官学院の旧校舎に」

 

「いやー、俺も最初見たときはビビっちゃいましたけど、トールズってかなり歴史ある学院じゃないですか。だったら石の守護者(ガーゴイル)ぐらいあっても可笑しくないかな、と思った次第です、はい」

 

「ん、だったら仕方ない。サラも最後の最後に面倒なものを配置してくれたね」

 

「仕方ないで済むのか…? それにしてもお前達の言葉から察するに、あれとの戦闘は初めてではないのか?」

 

「そだね。ある依頼でとある遺跡に入りこんだ時に少し戦ったぐらいかな」

 

「フィーなんてまだマシじゃん。俺なんてとある二人と遺跡の探索中に十数の石の守護者(ガーゴイル)がいる部屋に入っちゃって……全員倒すまで脱出不可能なモンスターハウスを味わったよ……」

 

「……お前達はこの学院に来るまで一体なにをしていたんだ……」

 

 ますます二人の正体が気になってしまうユーシスであったが、今はそれどころじゃない。

 

 遠くからとはいえここまで耳に響く戦闘音。これまでとは比べようのない激戦が繰り広げられているのは安易に想像がつく。

 まだ他のⅦ組に対して思うところはあるが、『貴族の義務(ノブレス=オブリージュ)』として――いや、ユーシス・アルバレアとしてこの状況を見過ごす選択肢などありはしない。

 

 誰よりも早く最奥にたどり着いていたツナヨシとフィーから、このダンジョンの最奥に待ち構える石の守護者(ガーゴイル)についての詳細を聞きながら、最奥へと駆けていく。

 

 そして最終地点が近くなったことで、最奥で行われている激戦に目で視ることができた。そんな3人が視界に収めた光景は――

 

 

 

「っ! これは……!」

 

「……ちょっとマズいね。想定していたよりも強いよ、あれ」

 

ひいぃぃぃぃぃぃぃぃ!! リィンさん達がやられそうになってるぅ!!?

 

 まず目がいくのは、対象者が一定の距離へ近づいた瞬間に石像から生命体へ変換し迎撃する、今なお猛威を振るっている悪魔の姿を連想させる姿の石の守護者(ガーゴイル)、『イグルートガルム』。それと対峙し応戦しているのは3人を除いたⅦ組なのだが……状況は著しくない。

 

 戦い慣れしているであろうリィンとラウラ、ガイウスは己が得物を振るい奮闘しているが息は乱れ押され気味であり、戦闘で不慣れであろうアリサとエリオット、マキアスとエマは片膝をついてかなり消耗しているようだ。ツナヨシの言う通り、このままでは彼らが敗北してしまうのも時間の問題だ。

 

 石の守護者(ガーゴイル)の強さは、先ほど突破したダンジョンを徘徊する魔獣とは格が違う。それに加え体は頑丈でダメージが通りにくい上、受けたダメージを瞬く間に回復してしまう自己再生能力まで備わっている。

 新入生相手に普通こんな物を用意するか……? まあ、話には聞いていた『ARCUS(アークス)』の真価を発揮すれば倒せなくもない……だが、今の石の守護者(ガーゴイル)の状態や連携が整っていない状態で戦闘を行っているⅦ組達では、フィーとユーシスが加わっても難しいだろう。

 

 状況から察するに、自分が少し出しゃばらなければ状況が一変しないだろう。

 出来れば目立ちたくないし、この学院ではただのか弱い生徒の一人でありたいし、今だ嫌々の気持ちは拭えないが……この状況じゃ仕方ないと、ツナヨシはため息をつきながらも切り替える。

 

「……フィー、ユーシスさん。方法は任せますので、各々のやり方であの石の守護者(ガーゴイル)の隙を一瞬でもいいので作ってくれませんか? この状況を打破できる案が浮かんだので」

 

「なに……。それは本当か?」

 

「……それは構わないけど、具体的にはどうするの?」

 

「いやー、それを口にしてしまうとフィーはともかくユーシスさんは明らかに反対してしまいそうで………ちょっと世間一般的には危険な行為になりかねないので……

 

「おい、俺が反対するとはどういう事だ? それと今小声で見過ごせない発言を――」

 

「――ま、まあ【初め良ければ全て良し】という言葉もありますし、何とかなりますよ!! じゃ、行きましょ!!」

 

 ユーシスの言葉を遮るように、ツナヨシは先ほどとは比にならない速度で二人を追い抜き、激闘が行われている区画へと足を踏み入れる。

 一瞬呆けてしまった二人だったが、フィーはすぐさま意識を切り替えツナの後に続くように風のように駆けだす。

 

「ええい!! どうなっても知らんぞ!!」

 

 文句を叫びながらもユーシスは自らの『ARCUS(アークス)』を取り出し、二人に劣る速度で駆け出しながらアーツの駆動準備をする。

 通常アーツ駆動の際はその場に止まるのが普通だが、この程度の低級魔法(アーツ)ならば敬愛する兄より教授されたユーシスなら、移動しながらの詠唱など造作でもない。そして――

 

 

 

「『エアストライク』!!」

 

「『スカッドリッパー』!!」

 

 ユーシスの魔法(アーツ)による風の魔力弾によってイグルートガルムは怯み、その一瞬を逃さぬ如くフィーによる突風を思わせる速さによる斬撃によって、イグルートガルムは体勢が崩れる。

 

「ユーシス、フィー!! 二人とも来てくれ―――なぁっ!!?」

 

 来てくれた援軍にリィンは少しばかりの喜色を浮かべそうになるが、その表情はすぐさま驚愕へと変わる。いや、リィンだけでなくこの場にいる全員が驚いている。何故なら―――

 

 

「――ひいぃぃ!! やるとは決心したけどやっぱ怖ぇぇぇっ!!」

 

 ―――空に浮かぶイグルートガルムの頭上に、ツナヨシが怯えながもら乗っかっているのだから。

 

 

 何故ツナヨシがそこにいるのか? フィーとユーシスの登場で思わずイグルートガルムから視線を外してしまったがあの一瞬で…? 等の疑問が浮かぶよりも早く、Ⅶ組全員はツナヨシに急いでこの場所から離れろ!!と叫ぶ。

 それと同時にイグルートガルムも自身の頭上にいるツナヨシに気づき、振り落とさんと体を激しく動かす。

 しかしツナヨシは、まるで暴れる馬に見事に乗りこなす騎乗士のように、イグルートガルムの角を片手に掴みながら体のバランスを取ることで、振り落とされることはなかった。

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! やっぱ魔獣に乗るの怖っ!! ということでさっさと落ちろぉぉぉぉ!!!」

 

 バァン!!バァン!!バァン!!と3発の銃声が連続して聞こえた瞬間、イグルートガルムの悲鳴が区画に響き渡り、空中から床下へと落ちてしまう。

 突然の事態にⅦ組は状況を掴めずにいたが、いつの間にかイグルートガルムから離れ、銃を片手に持つツナヨシを見た瞬間、フィーだけは気づいた。

 

 

 石の守護者(ガーゴイル)は無駄に頑丈でダメージは通りにくく、()()()()()()()()()の銃弾でも同じこと。

 

 ゆえにツナヨシが考え実行したのは至極単純―――イグルートガルムに深く接近し、頭をゼロ距離から撃ちぬいたのだ

 当然だが、遠距離攻撃は遠ければ遠い程威力は下がってしまうが、近ければ近い程威力は上がる。石の守護者(ガーゴイル)の皮膚は確かに硬いが、かつての遺跡調査で遭遇した石の守護者(ガーゴイル)のモンスターハウスでの戦闘で経験したゆえその硬さは把握しており、至近距離ならば撃ち抜けると確信もあった。

 

 だからこそ、フィーとユーシスが攻撃し怯んだ一瞬、()()()()で出せる全力の速さでイグルートガルムに飛び移り、暴れるイグルートガルムを意に介さず、魔力と()()()()()()()によって強化した銃弾によって、見事頑丈なイグルートガルムの急所を連続で撃ち抜いたのだ。

 

 だが、それでもまだ勝利ではない。石の守護者(ガーゴイル)には自己再生能力が備わっており、例え瀕死の状態からでも瞬く間に復活してしまう。Ⅶ組が苦戦してたのはイグルートガルムの強さと同時にそれであろう。

 しかし起き上がろうとするイグルートガルムの再生速度は、明らかに落ちているのが目に見えて分かる。ツナヨシに急所を撃ち抜かれたこともそうだが、ここまでⅦ組がイグルートガルムを追い詰めたからこその結果だ。

 

 そしてそれは―――

 

 

「――今です!! たたみかけて下さい!!」

 

 この戦いの終幕である。

 

「――っ! あぁ!!」

 

 ツナヨシの声に唖然としていたⅦ組は我に返り、各々が自身の獲物を構える。そしてツナヨシを除いた9人の体が淡い光に包まれた瞬間、一斉に動き出した。

 

 剣、弓、槍、銃、魔道杖――それぞれ用途が異なる上、ここにいる9人全員が今日初めて顔を合わせた者ばかり。

 "準達人級"並の実力者が1人でもいればマシにはなっていただろうが、戦いに不慣れな者達もいるため、とてもこの9人で連携して戦うのは難しいと言えるというのに―――彼ら9人はしっかりと連携が取れているのだ。

 まるで誰がどのように動くのが理解しているかのように、各々が最善手を繰り出している。

 

「決めるがよい!!」

 

 自身の攻撃が決め手になったのかイグルートガルムが完全に弱まったことを好機とみて、ラウラはリィンに向けて叫ぶ。そしてリィンも止めの役目を最初から理解していたのか、ラウラの声を合図に――

 

 

 

「参の型―――業炎撃!!」

 

 リィンが修める流派の中で破壊力に特化した型。業炎を宿した太刀による渾身の真向斬りは―――見事イグルートガルムの首を斬り飛ばした。

 

 やがて首と本体は昏い光となり、欠片も残さず霧散したのであった。

 

 

「や、やったぁ!!」

 

「な、中々やるじゃない……!」

 

「――っ!」

 

(あれは―――)

 

 殆どがイグルートガルムを倒したことによる安堵感と、リィンに対しての賞賛だった。その中でリィンの先程の剣術に対して反応したのはラウラとツナヨシの二人だった。

 

 ラウラは今まで見たことがない、剣の流派の使い手に出会えたことへの高揚。

 ツナヨシは、とある国にて大変お世話になったある男性に、帝国の士官学院へ行くことを報告した際に伝えられた言葉を思い出していた。

 

 

『帝国に行くのであれば、お前も恐らく出会うことになるかもしれん。『八葉一刀流』、漆の型を授かった――老子の最後の継承者に』

 

 

(あ、あれって間違いなく『八葉一刀流』だよね? 太刀が得物だからまさとは思ってたけど、いくらなんでも出会うの早すぎじゃない!?)

 

 とある事情でその男性と軽く戦ったことがあり、精度に天と地程の差があれど、彼が使った剣技の一つがリィンが先ほど繰り出した剣技そのものであったのだ。ゆえに、彼が男性の言っていた、『八葉一刀流』の継承者であることは理解した。したのだが―――

 

(―――この違和感……リィンさんのさっきの剣技、()()()()()()()()だったのかな…?)

 

 自身の培った"観察眼"、そして己の異常すぎる"直観"から感じ取れるリィンの先ほどの技。とはいえ、こんな空気の中でそれを壊すような質問などしない。彼にもなにか事情があるのだろうし、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 まあ、何はともあれこれでオリエンテーリングは終わったはずだ。『終わり良ければ総て良し』、このイベントの締めるかのように、ツナヨシはただ口にする――

 

 

 

「―――よし」

 

 

「「「「「「「「―――"よし"、じゃない!!!」」」」」」」」

 

 

 この後、サラが来るまでツナヨシはⅦ組のお兄さんお姉さん達から先ほどの戦闘で見せた、危険行為についての説教を盛大に受けるのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ"ぁぁ……ベット気持ちいぃぃ……」

 

 オリエンテーリング終了から数時間後、現在ツナヨシはこれからお世話になる『第三学生寮』の自室にて、ベットに顔を埋め体の疲れをとろうとする。

 本来なら今日から過ごす部屋の整理整頓を行わなければならないのだが、オリエンテーリングの疲れに加え夕方の時間帯であることもあり、一向にやる気がでない。

 

 

 トールズ士官学院、『特科クラスⅦ組』。

 身分や出自も関連性がないこの10人が一つのクラスに集った理由、それはいくつかあるが一番は”新型戦術オーブメント”『ARCUS(アークス)』の適正者であったからだ。

 

 『ARCUS(アークス)』――従来の戦術オーブメント同様、多彩な魔法(アーツ)を使用出来たり、通信機能も備わっているが、この戦術オーブメントの真価は『戦術リンク』だ。

 リンクで繋がれた者同士は、文字通り互いの感覚を共有し行動を予測理解することで、最善手を常に打つことができる機能。ツナヨシを除いた9人が鍛錬したかのように感じる程の連携を行えたのは、『戦術リンク』があってこそ。

 もしそのような者達が集う精鋭部隊がいくつも現れれば、戦場に大きな恩恵をもたらすのは当然、まさに戦闘面において『戦術リンク』は革命的と言っていいだろう。

 

 とはいえ、『ARCUS(アークス)』は試験段階のため様々な課題があり、適正がある者以外では今だ使用が難しい。だからこそ、この10名が選ばれたのである。

 

 オリエンテーリング終了直後に現れたサラによる説明後、改めてⅦ組に所属するかの問い。

 それに対しツナヨシ達10人は―――様々な理由はあれど、全員が所属することを決意したことで、ここに”特科クラス《Ⅶ組》”が無事に設立されたのだった。

  

 

 

 

 

「まさか()()()()()()()、こんなことになるなんて思ってもいなかったな……」

 

 ベットから体を起こし、今日までの出来事を思い出すかのように呟く。

 

 ツナヨシはこの『特科クラスⅦ組』が編成された、()()()()()を知っている。ゆえに自分以外の彼ら9人には申し訳ない気持ちを抱いてしまう。

 これからこのⅦ組で待ち受けるであろう、過酷な運命が訪れてしまうことを。

 そしてそんな彼らに、自分が足並みを揃えることが出来ないことを。

 

 なにせ自分がトールズに入ったのは―――

 

 

 

 

 

 ―――そんなツナヨシの思考を遮るように、着信音が鳴り響く。

 

 それは通信用導力器(オーブメント)から聴こえる着信音だが、それから鳴っているのは今日支給された『ARCUS(アークス)』から発せられた物ではない。

 

 発信源を探れば、それは自分が持ってきた大荷物の中からだ。

 

 それを理解し忘れていた記憶を思い出した途端、ツナヨシの顔が徐々に青ざめていくと同時に、瞬く間に荷物から着信音が鳴り響く、()()()通信用導力器(オーブメント)を取り出す。

 

 

 

「もしもし―――」

 

『――ご機嫌よう、ツナヨシ

 

 導力器(オーブメント)から聴こえるのは、まだ声変わりしていない女子特有の高い声。しかしその声からは明るく爽やかに聞こえど、その中に確かな怒りが含まれている。

 

『全く、トリスタに到着したら真っ先に連絡しろと耳の穴が空くほど言っていたのだが、よもや君―――』

 

「――いや全然忘れてないから!! 入学式やらオリエンテーリングとか色々と立て込んで、どうしても連絡する時間が取れなくて!! だから俺を再び実験材料のモルモットにするのだけはやめていただけないでしょうかニーア様!!?」

 

 電話の主に向け、本人がいないにも関わらず見事なまでの土下座をかます。

 

 もう電話の主である彼女とは3か月の付き合いだ。ゆえに、彼女との約束を守れず次に再会した場合、どのような目に合うのか火を見るよりも明らか。

 2()()()()相手に情けない限りだが、彼女相手では致し方なしなのだ。 

 

『……まぁ、私とて鬼ではない。仮にもエレボニアでは名門のトールズだ。初日であろうと多くの時間が奪われるのは予想はしていた。何よりも君が所属するクラスは特別だからね。君も反省しているようだし、実験台の罰は大目に見て―――』

 

「マ、マジで!!? ありがと――」

 

 

 

『―――君がリベールのマインツで晒した醜態(じょそう)をクロスベルの導力ネットに拡散することで勘弁してやろう♪』

 

「――モルモットになるよりも最悪なんですけど!!?」 

 

 

 

「ってか嘘でしょ!!? あの時ニーアはカメラ型の導力器(オーブメント)を手に持ってなかったじゃん!!」

 

『技術というのは日々進化するものさ。私が常に持ち歩くペンの1本は小型のカメラが搭載されていてね、まだ改良の余地はあるが、君のあの姿を画像に残すには持ってこいの代物だったよ』

 

「なにその盗撮犯が好みそうな性能品!! ってかやめて!! あれはある女性学者さんに理不尽な理由で無理矢理させられたんであって!! このままじゃクロスベルの人達にとんでもない誤解を生みかねないよ!!!」

 

『それは難しい相談だ。なにせ私は――君の嫌がり羞恥を晒す姿が大変好みだからね♡

 

「この人でなしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

『冗談だよ冗談。くくく、やはり君は良いリアクションをしてくれる。いじる側としては愉しいことこの上ないよ♪』

 

「俺は全然愉しくないんだけど!!?」

 

 第三者から見れば喧しいことこの上ない会話かもしれないが、ツナヨシとニーアと呼ばれる少女にとっていつものやり取りだ。

 一見ツナヨシが不憫にも思えるが、彼自身本当の意味で嫌がっておらず、表情も今日過ごした中でも特に柔らかく感じる。

  

 

 

「はぁ…まだ1週間しか経っていないのに、このやり取りが懐かしく感じちゃうよ。今ニーア達はどこにいるんだっけ?」

 

『あぁ…今は『()()()()()()()()』のアルタイル市だ。君があの皇子の提案を受けず一緒に来ていれば、西ゼムリア大陸巡りも残るは『クロスベル』だけになったというのに』

 

「あ、あはは……。それについてはごめん。そ、それにしてもこの通信用導力器(オーブメント)、本当に()()()()()()()()()()()()()()()()()…」

 

『おいおい。()()()()()()、別に驚くことでも疑問に持つこともないだろうに』

 

「い、いやいや!! だって最新の戦術オーブメントの『ARCUS(アークス)』でも通信範囲は国内で更に限られてるし――」

 

『それは彼らが愚鈍なだけさ。導力器(オーブメント)や武術にしろ、どんな物も使い方や応用次第で次の段階へ引き上げることなんて容易いことだ。これにしたって、私が開発せずともいずれ誰かが実現してたはずだし、つまらないにも程があるよ』

 

「あ、あはは……素人の俺ですら、ニーアの技術力の次元が違うのがよく分かるよ……」

 

 

 

 

 

 ニーア――その名は彼女が認めた者にしか呼ばせない、彼女の愛称である。

 

 本名、ニールフェリア・オルトロン。

 

 僅か12歳にして『エプスタイン財団』本部技術局に所属する、技術面において天賦の才を持つ、まごうことない本物の天才。技術世界において、彼女の名を知らぬ者はいないだろう。

 

 現に二人が使用している通信用導力器(オーブメント)

 通常、導力器(オーブメント)を通して超遠距離、国外同士で通話するには『導力ネットワーク』を通すのは勿論、その国と国の間に強力な無線ブースターを最低でも10以上の設置が必須だ。

 

 現在はレマン自治州の『エプスタイン財団』とクロスベル自治州で遠隔接続の実験が行われている。だがそれは、情報処理システムが搭載されている大型の端末の話であり、個人携帯用の無線導力器(オーブメント)での超遠距離の実用は、様々な課題から当分先とまで言われる程だ。

 

 そんな代物を、彼女は実用段階にまで開発し、こうして普通に使用している。そして当然傍受についても対策済だ。

 そのことから、彼女の導力学者としての才能が他の者よりも一線を画しているのが分かるだろう。

 

 とはいえ、そちら方面に突出した才を持つ者は、誰も彼もがクセが強すぎるのだ。

 彼女とて例外ではなく、()()()()()()()()()()()()()『カルバート共和国』に現在滞在してるのもそうだが、この通信用導力器(オーブメント)について()()()()()()()()()()()()()()のがいい証拠だ。

 現在はニーアとツナヨシを含め、5人しか所持していない貴重品だ。

 

 

 とある一件で数か月前にツナヨシと出会い、様々な波乱万丈な毎日を彼女達と過ごし、今ではツナヨシが()()()()で最も信頼し力になってくれている一人だ。

 

 

『っと、そんな事はどうでもいいな。今はそれよりも、今日一日の君の非日常を教えてほしいなぁ。今は工房から離れて気分転換に散歩をしている最中だからね』

 

「どうでもいいって……ってか人の一日を非日常なんて言い方やめてもらえませんかね?」

 

『何を言っている。トラブルを司る神に愛され、もしくは契約した君の一日が、普通で終えるわけないではないか♪』

 

「そんな神全く見覚えないんですけど!!? つうかもしいたとしても即刻契約破棄してるよ!!!」

 

 いつも通りのやり取りを楽しみながら、ニーアは尋ねる。ツナヨシも言っても無駄だと悟っているのか、今日一日の出来事を彼女に話すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――ほうほう。《光の剣匠》の娘に《紅毛》の息子、ノルドの外国人に『四大名門』とヘイムダル知事の子息達、更に元《西風の旅団》の団員。そして、君が話に聞いていた()()()()()()()()()()()()()()か……くくく、流石は《放蕩皇子》。雛鳥にしては中々癖のある連中を集めたものだ』

 

「そんな他人事みたいに……。おかげでこっちは胃が痛くて仕方ないんだけど……」

 

『その程度で胃が痛くなるなんて情けないぞツナヨシ~♪ 私や君の家庭教師と比べれば可愛いものだろうに』

 

「いや、その二つは比較しちゃいけないと思うんだけどなぁ!!? ……それで、一通り報告はしたけど――」

 

『―――別に。癖があるとはいえ、《西風》の元団員を除けば所詮は学生の域を少しはみ出した程度の未熟者ばかり。全く興味がわく気にもならない。君の言ってたフルネームを明かさない金髪女生徒は正体も分かったしね』

 

「ま、まあ……ニーアならそう言うと思ってたけど――って、アリサさんが誰なのか分かったの!?」

 

『…やれやれ。君だって大体は検討がついてるだろうに。ルーレ出身者で、身元がバレると面倒な立場になるRのイニシャル持ちなんて、考えるまでもあるまい。ルーレは勿論、帝国内と外で名が多く知れる会社と言えば――』

 

「『ラインフォルト社』……ってことはアリサさんはラインフォルトの――」

 

『あぁ。君の話を聞いて思い出したが、ラインフォルト社の現会長『イリーナ・ラインフォルト』には一人娘がいたはずだ。まあ会ったこともないし、『イリーナ・ラインフォルト』や『グエン・ラインフォルト』、『フランツ・ラインフォルト』と違い、興味は勿論を面白味も感じない……名を覚える気にもなれないよ』

 

「…………()()()()()()()()()()()()はそうなんだね……」

 

『まあ、誰か一人見出せというのなら……君が話していた委員長女生徒ぐらいか。君の直観曰く、何やらⅦ組の中で一番ヤバい何かを抱えているのだろう?』

 

「うん。あくまで俺の直観によるものだけど……それでも彼女の存在は無視出来ないと感じるんだ」

 

『へぇ、君の直観はある意味異能に匹敵する程のレベルだからねぇ。私もそれなりに恩恵を受けた身だし、観察する価値はある、か。だが私が一番興味を引くのは、やはりオリエンテーリングの舞台である旧校舎だね』

 

「……そうなんだよ。百歩譲ってダンジョンや魔獣が徘徊してるのはともかく、まさか石の守護者(ガーゴイル)までいるとは思わなかったよ…」

 

『ふむ。ドライケルス帝が御自ら設立した学院という要素を引いても、少し異常かもしれないね。ツナヨシはなにか感じなかったのかい?』

 

「うーん、感じると言ってもニーアに無理矢理連れ回された遺跡探索と似たような感じかな。……待てよ、ということはあの旧校舎には『古代遺物(アーティファクト)』があるかもしれないってこと!!? 自分で言っておいて怖ぁぁ!!」

 

『…………』

 

「えっと……ニーア?」

 

『いやなに。流石に情報が不足している状況で結論を出すのは早計がすぎると改めて思っただけさ。まあ時間があったら調べるのもありだが、君には君の目的があるだろう?』

 

「…っ!」

 

『あの皇子がこのエレボニアでなにをやろうが、《革新派》と《貴族派》の争いがこの先どんな道を辿ることになのか……そんな事は()()()()()()()()()()()。だから分かっているね、ツナヨシ?』

 

「…うん、分かってる。俺は―――『『――"ズガガガガン"!!』』――――はい?」

 

『ちっ、もう見つかったか。小娘一人を相手に暇な連中だね』

 

「ちょっと!!? 今の音完全に銃声だよね!!? 一体何事!!?」 

 

『おや、言ってなかったかい? 現在私は―――

 

 

 

 

―――共和国の『反移民政策主義』のテロリスト共に追われてるって

 

「凄く初耳なんですけど!!? え、なに!? ()()()()()()()()()()()!!?」

 

『されかけではない。誘拐されたが脱走し、現在逃亡中だとも♪』

 

「ってことは、テロリストから逃げてる最中に呑気に連絡してきたってこと!!?」

 

『なに言ってるんだい? 君と出会う前からこの程度日常茶飯事にすぎなかったよ。私を欲しがる連中はこのゼムリアには星の数程存在するからね』

 

「でしょうね!! 俺も何度も巻き込まれたり助けに行ってたりしたからね!! ってか本当に今大丈夫なの!!?」

 

『あぁ、その点は心配ない。君と話す前に"カイン"には私がいる位置の座標をメールで送っておいたから、もう間もなく到着してくれるだろう。その間、テロリスト共には君で試そうと思っていた研究の品の実験台になってもらおうじゃないか……くくくく!

 

(うわぁ……、一瞬でニーアに対する心配が皆無になった……。テロリストの皆さん、これも貴方達がニーアに目を付けたのがそもそもの間違いなので、甘んじてお受け下さいませ)

 

『じゃあそろそろ失礼させてもらうよ。学生生活を程々に楽しみながら"奴ら"との接触を待つことだ。あぁそれと、月1レポートは欠かさず送りたまえよ。では……近いうちにまた会おう♪』

 

「ちょっと待って!! ニーアは戦闘力はそこまでないんだから"カイン"が来るまで無茶しないでよ!! 後、出来ればテロリストの皆さんには出来るだけの加減を―――」

 

 

 ―――と、ツナヨシの言葉は最後まで届くことなく、通信は切られたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 やっと原作プロローグを終えた……。早く物語が本格的に動き出す原作4章やりたくてしょうがない綱久です。マジで頑張らないと…!


 そしてやっと、やっと送っていただいたオリキャラを出せた!!です。

 今回登場したのは『ニールフェリア・オルトロン』。提供者は『十三』さん、本当にありがとうございました!! 
 イメージCVは水瀬いのりさん……さて、元ネタキャラは分かりますかね?

 この作品での彼女の技術の腕は……正直チートレベルです。思わず目を疑うような技術品を出してしまいますが、ニーアだから仕方ないと思っていただければ幸いです、はい。

 ニーアの更なる詳細は、彼女が再び登場した時に分かるのでお楽しみに!!


 オリキャラの募集は行っていますので、送る際はメール……もしくは活動報告で作成しますので、そこにお願いします!!

 更新速度は遅いと思いますが、これからもよろしくお願いします!! 後、簡単な文でも全然OKなので感想を書いていただいたら超嬉しいです!! それではまた次回!!
 

現状この小説の1話の文字数は8000~17000文字ありまして、更新速度を速めるため文字数を5000~6000に減らして話数を増やすのか、現状維持のままでいいのか――ご協力をお願いします。

  • 文字数5000~6000字で更新速度UP
  • 文字数8000~17000字で現状維持

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