彼女は今日もトレーナーを狩る。
ここ4日で集めたキーストーンの数は8つ。順調だ、と言いたい所だが、現実はそう上手くいかなかった。
最初は良かった。何も知らないトレーナーは、ただバトルを申し込めばあっさりと受けてくれるのだから。キーストーンを賭ける賭けないの話も冗談半分に受け取り、大して警戒もされずにバトルへ持ち込めた。当然、彼女はバトルに勝てば少しの情けも与えず、泣きすがるトレーナーから石を奪い取っていった。
そこから噂が広がった。キーストーンを狙う悪いトレーナーの噂を。
ある時は、調子に乗った奴を懲らしめてやろうという正義感から。またある時は、そんなに強いなら自分が勝って名を広めてやる、と自ら彼女へ接触し挑戦しに来た奴もいた。
その悉くを打ち倒し、彼女はキーストーンを頂戴した。彼女からすれば、カモネギが自らネギと鍋を背負ってやって来たようなものだった。
困った点と言えば、キーストーンを持たないトレーナーも挑戦状を叩きつけてくる所か。というか持っていないトレーナーの方が圧倒的に多い。10人挑戦しに来て内ひとりが所持しているかどうか、といった割合であった。
彼らとのバトルに関しては無駄骨も良いところなのだが、これほどの非道を行っていても彼女は歴としたトレーナーである。
「トレーナーなら目と目が会ったらポケモンバトル」
売られたバトルは断れない。トレーナーとしてのマナーだ。
彼女自身も腕の立つトレーナーとの戦いは心踊るので、そこまで不満は無かった。
問題はその後の話。律儀にすべての挑戦を受けていた彼女だったが、流石に挑戦した全てのトレーナーが敗北したとなると、噂の内容も少しずつ変わっていく。
キーストーンを狙う強さに酔ったトレーナーから、キーストーンを手に入れる為ならば手段を厭わない極悪人。もしくは悪の組織の一員と。
実際にバトルをしたトレーナーの証言を発端に、多くの人々へ伝言ゲームのように広がっていった結果だった。それにプラスで、被害にあったトレーナーが恨みで脚色を加えた事も大きい。
更に言えば、事態を重く見たホウエンリーグの本部が万が一遭遇してもバトルを行わずに逃げるよう、ホウエン中のトレーナーへ通達したのだ。
結果、トレーナー達は常にメガストーンを隠すようになったし、それらしいトレーナーを発見してもテレポートや飛行タイプのポケモンに乗って逃走されてしまうのだった。
◆
本日20数回目の相手の逃走に、私はこんな筈では……と膝をつく。
まあ確かにバトルは手加減するのは相手に失礼だ、と全力で叩きのめした。最初にキーストーンを賭けたバトルをすると宣言したのに、私が勝ってもキーストーンを渡さないような往生際の悪いトレーナーはちょっとばかり対話を行い納得した上で譲って貰えた。と思う。
ともかく、これはマズイ。
作戦に必要な数にはまだ足りない上、タイムリミットは刻一刻と迫っている。ヒガナの話では、あと一週間もしない内に運命の時はくるのだとか。
私のやるべき事は何もキーストーンを集めるだけではない。他にも色々仕込まなければいけないというのに、このままでは残りの期限を全てキーストーンの収集に費やす羽目になる。
確実に所持している、もしくは所持している可能性の高い人物は何人か目星を付けている。しかし、彼らはそこら辺にいる雑魚と違って軽い気持ちで手を出して良い相手では無い。
各地のジムリーダー。
四天王。
ツワブキダイゴ。
そして、最初の計画を台無しにしてくれたあの子供たち。
彼らは強い。自分がこれまで戦ってきたトレーナーの中ではトップレベルだろう。油断すればこちらが泣きをみるかもしれない。
もし彼らと戦うのならば、相応の覚悟と準備が必要になる。
……いや、もう準備とか悠長な事を考えている余裕はない。
期日までにキーストーンの数が揃わなければ結局意味は無いのだ。残った時間も少ない。ならば、玉砕覚悟で挑んだ方が良い。
幸いにも、これまで集めたキーストーンは全て拠点に置いてあるし、ヒガナはヒガナでキーストーンを集めている。なので、多少数は足りなくなるかもしれないが、計画そのものが破綻する訳ではないのだから問題はないのだ。
「ミツケタヨ!ミツケタヨ!!」
頭を抱えていると、甲高く片言な言葉が空から降ってくる。
何度も何度も同じ言葉を繰り返し鳴くのは、音符のような頭をした小さい鳥ポケモン――ペラップ。
キーストーンを所持しているトレーナーを上空から探させていたが、どうやら発見した事を伝えに戻ってきたらしい。私の肩にふわりと着地したペラップの頭を軽く撫で、ターゲットの元へと案内させた。
「あ、あなたは一体……」
そこには緑色の髪を持つ、まだ幼さを残す顔立ちの少年が居た。
メガストーンの装飾品を身に付けていないように見えるが、良く観察してみると首から紐のような物がかけられており、それは服の下に隠れるように続いている。服を僅かに膨らませている所を見るに、ネックレス……それも、かなり大きな飾りの付いた物のようだ。
「アレダヨアレ!ミツケタヨ!ミツケタヨ!」
叫びつつペラップが翼で指し示すのは、少年の首からネックレスと思われる物。
「あの、ぼくに何かご用ですか?バトルでしたらすみませんが、今急いでいるので受ける事は……」
「それで隠したつもり?」
「どういう、意味ですか」
「キーストーン。それ、ネックレスの先にあるのはキーストーンだろ?」
「………もしかして勘違いしてませんか?これはただのお守りです!誤解です!」
「そう?でも、私は誤解とは思えなくて。一目でいい。見せてくれるかな?そうすれば、誤解かどうか分かるよね」
否定する少年の額には汗が浮かび、表情も険しく警戒を露にしたものだ。初対面でここまであからさまな態度。苦しい言い訳で執拗にバトルを避けようとしている。
つまり、彼は私が一体誰で、何が目的なのかを知っている。
確定だ。彼は確実にキーストーンを持っている。
「っ!ロズレイド、『はなふぶき』で目眩ましを…!」
「『うたう』」
少年が素早く取り出したボールからロズレイドを出し、技を指示するがそうはさせない。相手が技を出すよりも早く、私は肩に止まるぺラップに『うたう』を指示。耳を塞ぐ暇も与えず、ロズレイドはボールから出たのと同時にねむり状態にした。
「そんな、ロズレイド!」
「逃げないでよ。ようやく見つけたんだから、そういう事されると凄く面倒なんだ。ああ、あんまり変な真似は止めてね。バトルもせずにキーストーンを奪われるのは嫌でしょ?」
逃げ道や手段は残さない。これまで散々逃げられてきたのだ。回数を重ねれば、追い詰められた相手がどんな行動をとるのかなんて予測できる。なにせ、光や障害物で視界を遮っている間に逃走する奴は君で四人目だからね。
「本当はトレーナーの君を直接気絶させて奪った方が早いんだけどね。でも、そこまでやったらより強い禍根を残すからやらない。その代わりにポケモンバトルで決めるよ」
「負けたらキーストーンをあなたに渡せ、というんですか。そんなの認められるわけがない!」
「じゃあ力ずくで盗ろうか?今ので分かっていると思うけど、君がポケモンを出して抵抗するより早く、この子が君のポケモンを無力化できるよ」
それでも抵抗すると言うのなら、こっちも遠慮なく実力行使にさせて貰うけれど。
「………もし、ぼくが勝ったら……」
「君が勝ったら、何?」
「その時は、あなたが今まで沢山のトレーナーから奪ってきたキーストーンを返して、皆に謝って下さい!」
決意を秘めた輝きの目が私を見据える。
さっきまで逃げ腰だった少年とは思えないくらい男を見せている。そういう目は嫌いじゃない。
「全部返すとか君のキーストーン一つじゃ釣り合わないんどけど………でもまあ、良いよ。君が私に勝ったのなら、私が集めたキーストーンを返すし、何なら警察に自主してもいいかな」
「本当ですね」
「もちろん。………君が勝てたら、だけど」
眠らせてしまったロズレイドを回復させた後、少年と私は互いに向かい合い、構えたボールからポケモンを繰り出した。
戦いの内容は省くけれど、あえて言うことがあるのならば、少年との戦いは久々に満足できるものであり、私が集めたキーストーンの合計は9つになったという事だろうか。
原作との相違点
1:オリキャラが派手に動きすぎたので、リーグ側の警戒度がUP
2:オリキャラがキーストーンを集める作業を手伝うため、ヒガナはそこまで積極的にキーストーン集めをしていない
3:ミツルはオリキャラの魔の手に落ちました