さて今日もトレーナー狩りをしようか、と準備を整え外に出るとポンと肩に手が置かれる。首だけそちらへ向ければ、そこにはボロボロのマントを羽織り民族衣装のような装いに身を包む、肩まで切り揃えた黒髪の女性――ヒガナが立っていた。その足元には『ささやきポケモン』のゴニョゴニョ(NNはシガナ、だったか)が控えている。
「やあおはよう協力者くん。ところでまず私に言うことあるよね」
久しぶりに顔を会わせたヒガナは、いっそ清々しいくらいイイ笑顔で出迎えてくれた。私は悟る。この顔はとても怒っているものだと。
「言ったよねぇ、手段は任せるけど程ほどにしてねって!マルチナビのニュースを見てる!?ここ数日のお茶の間のニュースは協力者くんの話題で持ちきりなんだよ!」
これでも手加減はした方だ、負けた方が悪い。それに、そっちだって多少は手荒なやり方で石を手にいれてるだろーに。
「流石にキミみたいに人やポケモンにトラウマを刻むような事はしてないよ!被害者のコメントとかアレだよ、もうバトルしたくない、トレーナーなんてもう嫌だって言わせるとか相当なんだけど!?」
そこを突かれると痛い。
やっぱり火力ブッパのゴリ押しは不味かったか。
流れを掴めれば止まらなくなるし、相手のポケモンとの相性を考えていちいち入れ換えるよりは効率が良かったんだけどな。
「問題視してるのそこじゃないんだけど」
まあとにかく、私は一週間ずっとホウエン中を飛び回って疲れてるんだ。キーストーンを10個も集めたのだから、少しは労って欲しい。
「うわっ、通話でそんな事言ってたけど、本当にこれだけの量を集めたんだ」
これでそっちのと合わせていくつになったんだっけ。
「わたしは別口でちょーっと動いていたからね、3つくらいしか集めてないんだ。あ、でも確実に持っているトレーナーには心当たりがあるし、策もあるから最終的には6個くらいにはなるんじゃないかな?」
このペースだと頑張っても20が限界だろう。
数はそれで足りるのだろうか?
「んー………大丈夫かな。元々はわたし一人で集める予定で計画も組んでいたし、キーストーンもそれに伴った数で考えていたからね」
なら良かった。最終段階に入っていざ竜神サマを呼べませんでした!なんて笑い話にもならない。
「そこは心配しなくて良いよ。竜神様の呼び出し方は、わたし達流星の民の伝承にしっかり記録が残っている。きっと上手くいくから」
私はヒガナの言う伝承についてはほとんど知らない。
協定を結んだときに教えてもらった歴史では、今から遥か昔にホウエンに二度、隕石が降ったという。人間より大きな隕石が落下してなお土地の傷跡が浅いのは、流星の民の祈りによって降臨した竜神サマの御力とやらのおかげなのだとか。
そして過去に落下した隕石の内、ひとつは荒れた山へ落ち流星の滝と呼ばれる鍾乳洞窟を作った。もうひとつは海に聳える山のような大岩を穿ち、ルネシティの土台となる土地を形成したらしい。
そして今回、三度目がやって来る。
人の手には余る厄災。宇宙から落ちてくる隕石なんて普通のポケモンや、現代の進んだ科学ですら太刀打ちは不可能。自然による脅威の前には、人も、人より優れた力を持つポケモンも等しく無力だ。
三度目は何処に落ちる?
森か、山か、海か、砂漠か、それとも街か。
何処に落ちたとしても、ホウエンの地は甚大な被害を被る事となる。そこに人やポケモンが居ないとも限らない。
例え海や砂漠に落ちたとしても、その余波は決して小さくない。必ず人とポケモンへ牙を剥く。どんな形となったとしても、その先は地獄が待っている。
あの時のように。
「協力者くん。顔、怖いよ」
かなり長い間思考の海に潜っていたらしい。怪訝な顔をしたヒガナに頬をつつかれてようやく我に返る。知らずの内に唇を噛み切っていたようで、口内に鉄臭く不愉快な匂いが広がっていく。
ヒガナはため息を吐き、やれやれと肩をすくめた。
「キーストーン集めは一度打ち切った方がよさそうだね。あんまり根詰めても成果が出る訳じゃないし、キミもやっておきたい事あるでしょ?それにわたしだってちゃーんとキーストーン集めてるんだから、足りないなんてアクシデント起こらないよ」
「……マー!」
「ほら、シガナもそう思うって。お前は本当に優しい子だなぁ、この~」
そう言って笑い合う一人と一匹。気を遣ってくれているのか。
私とヒガナは、お互いは利用し合う関係だというのに。
けれど、それを無用な気遣いと拒否するほど、私は彼女を嫌っている訳ではない。むしろ、多少無茶な要求に手を貸しても良いと考える程度には、ヒガナという人間に私は好感を持っている。
ならお言葉に甘えて、今は自由に行動させて貰おうか。
私はボールからポケモンを出し、その背にひょいと飛び乗る。軽く背を叩いて飛翔の合図を送り、数度の羽ばたきの後に空へと舞い上がっていった。
◆
その頃、同日同時刻、トウカシティにて。
友人にしてライバルである少年が、何者かに襲われたという話を父から聞いたユウキは、詳しい話を彼から得るためミツルの住むトウカシティへ訪れた。
そうして彼の家へ着いたのだが、そこにはミツルともう一人の人物が向かい合い、何やら言い合いをしているようだった。普通なら取り込み中だからと、一度出直そうかと思うだろう。しかし、その相手はとても放置できる人物ではなかった。
鮮やかな紫色の髪に、気だるげな雰囲気を醸し出す髪と同じ色の目。そして、彼女の身分を表すのにこれ以上ない、角のような飾りの生えたフード付きの赤い服。
見覚えがあった。有りすぎた。
これまであの服を着たトレーナーと幾度となく戦ってきた。そして何度も矛を交えた彼女の名は
「マグマ団の、カガリ……っ!?」
「…………オマエは……あの時の」
因縁深い相手の登場に目を見開いたカガリは、ニィッと口角を吊り上げミツルからユウキへターゲットをロックオンした。もとより色々と危険な人物とユウキは認識していたのだが、いま目の前に立っているカガリはマグマ団アジトで戦った時よりも暗く、憎悪にまみれた目をしているように感じた。
「ふ、ふふ……丁度いい。……まずは、オマエのキーストーンから……奪ってやる!!出てこい、バクーダ!」
「おい、マグマ団は解散したんじゃ……っ!くそ、問答無用かよ。ジュカイン出番だ!」
投げられたボールから現れるのは、このホウエンに来て初めて出会ったユウキの最初のパートナー。炎と草。相性は不利だが、その状況も一手で覆せる。
「いくぞ、メガシンカ!!」
腕のメガバングルから、ジュカインのスカーフに付いたジュカインナイトへ何条もの光の線が伸びていき、強烈な光が弾けるのと同時にジュカインは姿を変えた。
メガシンカと同時に、草単タイプだったジュカインはドラゴンタイプも獲得し、これで弱点であった炎技にも強く出られる。
「なら、こっちだって……!」
ユウキがメガシンカを使用したことにより、カガリの闘争心を刺激したのか、彼女も腕に嵌めていた腕時計に付いたキーストーンへ触れメガバクーダへとメガシンカさせた。
「ジュカイン、『エナジーボール』だ!」
「『いわなだれ』で動き、牽制!」
エナジーボールがバクーダへ直撃するが、メガシンカした事により防御系の能力値が上がった為に大きなダメージにはなっていない。対するバクーダは元々攻撃系の能力が高いポケモンである。効果抜群をとられなくとも、あまり耐久面に自信の無いジュカインがまともに攻撃を受ければかなり危うい状況となるだろう。
「『りゅうのはどう』!」
「ふふ、もっともっと…『いわなだれ』!」
「くっ、ジュカイン避けるんだ!」
上空から大小様々な岩が落下してくる。効果はいまひとつでも、これだけの数の岩が当たればかなりのダメージとなってしまう。
ひょいひょい、と持ち前の素早さで岩を避けていくジュカインだったが、ユウキは不敵な笑みを浮かべているカガリの様子が気になって仕方がない。
(さっきから同じ技を何回も……何を考えているんだ?)
カガリは10代後半ほどの年齢でありながら、マグマ団で幹部という地位についていた。もちろん、何度も戦った経験のあるユウキは彼女が強いトレーナーである、という事を嫌というほど知っている。
そんな彼女が馬鹿の一つ覚えのように、草タイプに効果的でない技を無駄打ちするなんて思えなかった。何か考えがあるはすだ、と疑問を抱き、直ぐカガリの思惑に思い至った。
「しまったっ!ジュカイン、今すぐそこから離れろ!!」
「それは、ダメ。……逃がさない!!」
ジュカインの避けた先には、バクーダの頭がすぐそばにあった。
『いわなだれ』の連発はジュカインの移動先を誘導するのと、バクーダの動きを読みづらくさせるための目眩ましに過ぎなかった。二匹の素早さには天と地ほどの差がある。とれほど素早さを積んだとしても、バクーダではジュカインの動きに追い付くことは出来ない。
基本的には相手の攻撃を受け止めたり引き付けてからカウンター攻撃を行うか、遠距離攻撃を行うかが重量級ポケモンの戦い方だ。
ユウキはそれを分かっていたからこそ、ジュカインに遠距離技の『エナジーボール』や『りゅうのはどう』を指示していた。
これは完全に相手の策にやられた。
(避けられないっ!)
ぐわぁ、とバクーダの口が開き、放出された煙のような物体にジュカインの全身が包まれる。
煙はあっという間に散ったが、ジュカインの様子がおかしいことに気がついた。
目は半開きとなり、足取りはふらふらとおぼつかない。
『いばる』かと思ったが、これは混乱とは少し違う。
「まさか、『あくび』か!」
「……正解。そして、オマエはここで、終わる!バクーダ、ドドメをさせ!『ふんか』!!」
バクーダの背負う火山が急速に高熱を帯び、赤く染まる。そして次の瞬間には凄まじい轟音と共に、視界を赤く染め上げるほどの爆発を巻き起こす。
炎タイプの技の中でもトップレベルの威力を誇る大技がジュカインへと向かう。ジュカインは必死に瞼を持ち上げ眠気と戦っているが、もう目の前に爆炎の波が押し寄せてきていた。
「ジュカインーーー!!」
腹の底からジュカインの名を呼ぶ。
そして、ジュカインの姿は赤に飲まれて消えてしまった。
「ハハ…やった。ボクの、勝ちだ!アハハハッ!!」
技が直撃したのを確認したカガリは、気が触れたかのように高笑いを上げ勝利に酔いしれる。
あの少年を、マグマ団の邪魔をし、リーダーの理想を潰してくれた、忌まわしいガキを自分が、ついに倒したのだ!
「さて……勝ったのは、ボク。だから、オマエのキーストーンは貰う!そしたら次は、そっちのオマエを…………あ、れ?」
おかしい。何かか、変だ。
自分は勝った筈。あの威力の『ふんか』を受けたら、まず耐えることなんて不可能。でも消し炭にまではならない。
あの少年は、いつ倒れたポケモンをボールへ戻した?
いいや、戻してなんかいない。
なら、どうしてジュカインは自分達の目の前にいないのだろう。
「まさかっ!!バクーダ『ふん……っ!」
「『リーフストーム』!」
大量の木葉と共に吹き荒れる暴風がバクーダを吹き飛ばす。
風が止むのと同時にバクーダはドウッと思い音と共に倒れ、メガシンカ形態から元の姿へ戻っている。
完全な戦闘不能だった。
「なんで……っ!至近距離の『ふんか』を受けて、耐えられる筈がない!!」
「ああ、そうだな。あのジュカインが本物なら」
「本物……?……!!……『みがわり』!?」
どれだけ高威力の技であろうと『みがわり』には意味を成さない。後はジュカインが『あくび』の影響で眠ってしまうよりも早くバクーダを仕留められるかどうかの勝負だったが、なんとか間に合ったようだ。
勝利したジュカインは技を出した姿勢のまま頭を垂れ、穏やかな寝息を立てていた。
「ギ、ギリリィ………っ!いつもいつも、オマエは邪魔ばかり、する!」
「勝負はついただろ。それとも、まだ続けるのか?」
歯が割れそうなくらいの歯軋りをするカガリは、ユウキを射殺さんとばかりに睨み付ける。
ジュカインはほぼ戦闘不能と言っても良い。しかし、ユウキにはまだ5匹のポケモンが控えている。カガリの手持ちがあと何匹いるのかは分からないが、少なくとも彼女のエースであるバクーダより強いという事は無いだろう。
「…………チッ。まあいい、まだ流星の滝が……」
しばらくして、舌打ちをしたカガリがボールを構えた手を下げた。ブツブツと独り言を呟きながら、カガリはそのまま何処かへと去ってしまう。
「ユウキさん、助けてくれてありがとうございます。あの人、いきなりやって来て「キーストーンを寄越せ」ってしつこくて」
「なんというか、災難だったな。あ、でもミツルなら俺が乱入しなくても良かったか。メガシンカだって使えるし、ミツルのエースのエルレイドならあのバクーダだって倒せてたよな」
相手があのカガリだった為につい乱入してしまったが、ミツルはこう見えてユウキと拮抗する実力の持ち主だ。あれから特訓を重ね、彼もポケモンも更に強くなっているだろう。
「そ、それは……」
「ミツル?」
口ごもるミツルはどうも顔色が悪い。
元々気弱な性格だったと記憶しているが、パートナーをゲットしホウエン各地を旅してからは固い意思と挫けない心を持った、強いトレーナーに成長していた。少なくとも、あれだけ心身ともに成長したミツルが、こんな今にも泣きそうな顔をするのが信じられない。
「実は、ぼく……キーストーンを、奪われてしまったんです」
意を決したように告げたミツルの言葉は、そんな信じられないような一言だった。
カガリの口調合ってますかね?
アニメだと『みがわり』使った場面見たことないので、この小説ではみがわり人形ではなく、ポケスペのように使ったポケモンの姿と同じ、という事で。
原作との相違点
・カガリが最初からマジモードで来ているので、初っぱなからメガシンカも惜しみ無く使っています。
アクア団も出るよ。