あの日、ホウエンに星は落ちた   作:ラピリー

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EP4:街中騒動

あの日見た光景は、いまでも鮮明に夢に見る。

 

灰色に曇る空。

燃える大地。

崩れていく街。

焼け焦げた空気。

人とポケモンの悲鳴。

 

数分前までは活気と笑顔の溢れる平和な時間を過ごしていた。

それなのに、当たり前だった日常は、何の前触れも無く唐突に奪われた。

 

たくさんの物を失い、たくさんの人を喪った。

誰もが苦しみ、もがいていた。

 

あの日の絶望を、怒りを、悲しみを

 

私達は、忘れはしないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この区域は我々警察が包囲している!無駄な抵抗はせず、大人しく投降しなさい!」

 

「えぇ……嫌に決まってるじゃん」

 

「逃がすな、追え!!」

 

ヒガナと別れ自由行動をとる私は現在、総勢30名ほどの警官とその相棒であるポケモン達と街中で鬼ごっこと洒落こんでいた。

 

 

騒動の始まりは今からちょうど10分ほど前。

ちょうど傷薬が少なくなっていたので、その他の消耗品と合わせて補充しようとフレンドリィショップで買い物を済ませ、店から出たら警察官に辺りを取り囲まれていたのだ。

 

私に向かって拳銃を突き付け「動くな!」と言われては、屁理屈こねて誤魔化しここから去るのは出来ないだろう。

 

警官とやりあうなんて百害あって一理なし。

バトルの腕も大して強くもないし、キーストーンも持っていないなら相手をする意味もない。

穏便な手も使えないことは無いが、残念な事に私の手持ちは『フラッシュ』や『えんまく』のような目眩ましになる技を持っていない。使えれば相手の目を潰している内にさっさと逃げられるのに。

 

まあ、だからと言って大人しく捕まるつもりは毛ほどもない。あの時戦った緑髪の少年のように、強い精神と実力を持つトレーナーに負かされたなら考えなくもないけれど。

こんな烏合の衆じゃあ、ねぇ?

 

なので、強行突破をさせて貰った。

その結果が鬼ごっこである。

 

 

それにしてもしつこいな。

背後でギャーギャー騒ぎながら追いかけてくる一団に辟易としつつ、どうやって奴らを撒くか考える。時間が経てば経つほど応援も増えるだろうし、なんかあの中に明らかに警官でない一般人も混じりはじめている。

アレはおおかた義憤に駆られての行動だろう。

 

実に、邪魔だ。

 

「ぺラップ、『うたう』」

 

「オケオケ、マカセテ!~~~♪」

 

ようやくボールを出せる余裕が生まれたので、ボールからぺラップを出して歌わせる。ぺラップの歌を聞いた人とポケモンたちは一斉にバタバタと地面に倒れ、静かな寝息を立てていた。

 

 

「待て、逃げんじゃねぇ!」

 

「……む」

 

咄嗟に耳を塞げていたらしいトレーナーが二人、目の前に立ち塞がった。連れているポケモンは……暴走族っぽいモヒカンがマルマイン。プライド高そうな青年がユキノオーか。

どちらもぺラップの弱点になるタイプ。それに特防も極端に低い訳ではない。相手の育て方によっては一発で倒し切れないだろう。

 

「噂の『トレーナー狩り』だな。俺の強さを証明する踏み台になってもらうぞ!」

 

「お前には兄貴をやられた借りがあるからな。覚

悟してもらうぞ!」

 

「いちいち倒した相手のことなんて覚えてないし、踏み台とか却下。……やっぱり、もう少し控え目に集めるべきだったか」

 

ヒガナの忠告をちゃくと聞いとけばこんな面倒な報復行為やらに付き合わずに済んだだろう。今さら悔やんでも遅いけど。

 

相手方はお行儀よく1対1で闘うつもりは無いらしい。二人は同時に各々のポケモンへ指示を出す。

 

「軽口が叩けるのも今のうちだ。ユキノオー、『れいとうビーム』」

 

「舐めやがって、マルマインこっちは『10まんボルト』!」

 

正式なバトルとして始めた訳ではないので、これはルール違反にはならない。本来なら普通に反則だが。

 

奇襲に近い攻撃にもぺラップは慌てず、落ち着いて二つの攻撃をひょいと避ける。技は連続で放たれるが、技の軌道を読めているので掠りもしない。

 

はぁ、こいつらも眠らせてさっさとここからオサラバしよう。

空中で大きく旋回したぺラップは、勢いを落とさずユキノオーとマルマインへと急接近する。

 

 

「『うたう』」

 

「~~~♪~~~♪」

 

ぺラップが自慢の歌声を披露する。

この至近距離なら耳を塞がれても効くだろう。

 

「ん?」

 

「~?、??…~~っ♪」

 

変だな。あの二匹、眠るどころかどころか眠気すら感じていないかのようにしっかり目を開いている。変わらず攻撃を続けてくる敵の姿にぺラップもより声を張り上げ、懸命に歌い続けるが効果はゼロだった。

眠り対策の道具でも持たせているのだろうか?

 

「作戦変更、ぺラップ距離をとって」

 

「させるか!ユキノオー、ぺラップを捕まえろ!」

 

「『いやなおと』で動きを鈍らせるんだ!」

 

マルマインから発せられる金属を引っ掻いたような音に不愉快そうに顔をしかめるも、ぺラップは羽ばたく事は止めずになんとか私の元まで戻ってくる。

 

トレーナー共々眠らせてさっさと退散するつもりだったが、これだと倒した方が早いかもしれない。

 

「『ハイパーボイス』」

 

さっきまでの歌声を出していたポケモンとは思えないような、ひたすら破壊のみを主軸においた音波攻撃がビリビリと空気を震わせた。

威力90、タイプ一致。特殊攻撃特化で育ててはいるが、能力値のそこまで高くないぺラップでどこまで削れるか……

 

「んー……?」

 

やはりおかしい。

『うたう』は戦闘中だと外れる確率も高く、気合いで眠気を乗りきられるケースもある。だから納得はいく。

しかし、『ハイパーボイス』は威力は勿論、その効果範囲が広い。滅多な事では外れない上、ダメージが少ないのならともかく、二匹共が全くの無傷というのは不自然だ。

 

ゴーストタイプなら分かるが、あの二匹にはノーマル技は等倍で通るはずだ。

 

……いやまて、ひとつだけある。

 

 

「『ぼうおん』?」

 

音に関する技を無効にできる特性だ。最も知られているポケモンだと、ゴニョゴニョとその進化系が挙げられる。

 

でもマルマインはともかく、ユキノオーって『ぼうおん』の特性を持つ種族だっただろうか。『ゆきふらし』ではなく?

まあ事実効いてないのだから、あのユキノオーの特性は『ぼうおん』なのだろう。

 

これは完全に私のミスだ。ユキノオーが出ている時点で天候があられになっていなかったのを不審に思うべきだったのだから。

 

となると戦況はかなり厳しい。ぺラップに覚えさせている技は、4つの内3つが『ぼうおん』によって無効化されてしまう。『エアスラッシュ』辺りを覚えさせとけば良かった。

 

ぺラップ一匹で二匹を相手取るのはやはりきつい。

最近骨のあるトレーナーとバトル出来てなかったから、あの人達の事ちょっと舐めてた。

 

 

「よし……ヘルガー、GO」

 

なので、こちらも戦力の追加をさせてもらおう。

 

「『にほんばれ』、からの『かえんほうしゃ』」

 

太陽の輝きがより一層増し、ヘルガーの吐き出す炎を強化する。

炎を大の弱点とするユキノオーはトレーナーの指示がくるより早く避けたが、一歩遅く逃げ遅れたマルマインは『かえんほうしゃ』の直撃を受ける。ふらふらとしているようだが、まだ『10まんボルト』を打つ元気はあるようだ。ふむ、一撃は無理だったか。

 

「マルマイン、『ほうでん』だ!」

 

「危なっ……避けて、ヘルガーは『わるだくみ』。ぺラップは相手の注意を引いて」

 

さっきから電気技がうざい。それに、まひ状態になったら面倒だし、共倒れ覚悟で『だいばくはつ』でも使われたらぺラップもヘルガーも耐えられないだろう。

 

だから、先に潰そうか。

 

 

「ヘルガーは前に出て、ぺラップは『ねっぷう』で前方を吹き飛ばせ!」

 

「リョーカイ!リョーカイィィ!」

 

返事と同時にぺラップは小さな翼をバサバサと羽ばたかせ、高熱の風を発生させた。タイプ不一致の技だが『にほんばれ』のバックアップを受け、威力は炎タイプが使ったのと遜色はないはず。

 

既に『かえんほうしゃ』で大ダメージを受けていたマルマインは『ねっぷう』に焼かれて倒れる。目を回し、立ち上がる様子はない。

 

まだ大分体力が残っているユキノオーに追撃を仕掛けようとして、「おいテメェふざけんな!」とモヒカンが怒鳴り散らす。何だよ、今の戦いに文句でもあるのか。しかし、モヒカンは私ではなく、隣に立つ青年に掴み掛かっていた。これには私もポカーン、と目を丸くする。

 

「お前、今オレのマルマインを盾にしやがったな!」

 

「言い掛かりだな。おまえのマルマインが偶々ユキノオーの前にいた。言い掛かりは止して貰おう」

 

「言い掛かりじゃねぇ!だったらどうして炎タイプに弱いユキノオーがそんなに元気なんだ!」

 

「育て方が違う、とだけ言っておこうか。それに、おまえも俺の邪魔をしていただろう。この状況で敵味方関係なく巻き込む『ほうでん』を使うとは何を考えている!」

 

「んだとコラ!」

 

私を置き去りにギャーギャーと喚くトレーナー二人。

 

 

「ヘルガー、『かえんほうしゃ』」

 

「なにぃっ!!?」

 

バトル中に相手から目を離すなんて馬鹿なのか。

まったく、付き合ってられない。

 

迫りくる炎にどうしたら良いか、ユキノオーはトレーナーの指示を仰ごうとするも、当の本人はバトルから意識を外し言い合いをしている始末。とっさに『ふぶき』で応戦したが、当然技が間に合う訳もなく、ユキノオーはあっという間に炎に炙られ戦闘不能となった。

 

「こ、この卑怯者がぁ!!」

 

「はいはい、卑怯上等。……『うたう』」

 

モヒカンと青年のポケモンは二匹とも戦闘不能となったのだから、もうこれ以上戦う必要性は存在しない。キーストーンも持っていないようだし、これは完全に時間を無駄にした。

 

本来なら迷惑料として所持金の何割か頂く所だが、これは両者が納得した上でのバトルではない為、お金は取れない。盗ったら普通に泥棒だ。

 

時間どころか要らない労力まで消費させられた。

んー、すさまじく腹が立つ。

 

「一発、蹴りいれても許される気がする……」

 

冗談混じりに爪先でトレーナー達の腹をつついていると、女性の怒り声と複数人の足音が聞こえてきた。

 

「そこの貴方、彼らから離れなさい!!」

 

「げっ、もう来たのかよ……いちいち全員相手してられるか。ヘルガー、ぺラップ、二匹とも戻れ!逃げるぞ!!」

 

「こちらジュンサー!応援をお願いします、例のトレーナーが………待ちなさい!」

 

 

 

私が警察を撒けたのは、日がとっぷり暮れてお月さまが顔を出した頃であった。

すごく疲れた、もう街に出るのはよそう。

 

 




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