あの日、ホウエンに星は落ちた   作:ラピリー

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1話から文章の一部を書き換えました。
内容そのものは変えてません。


EP5:デボン襲撃

いと高き天空に住むという、碧玉の体を持つ竜の神。

それは、流星の民の祈りと共に地へ降り立ち、神々しき姿となってホウエンを救ってきた。

 

宇宙より飛来する数多の隕石を。

暴走する超古代ポケモンの争いを。

 

何千、何万年も昔からそれは変わらなかった。

ホウエンに危機が訪れれば彼の竜神は必ず人の祈りを聞き届ける。そして、選ばれし伝承者と七色の石の力を得た竜神は姿を変え、助けてくれるのだと。

流星の民の歴史に、そう言い伝えられている。

 

 

――じゃあ、どうして私たちは助けてくれなかったの?

 

 

あの日、あの運命の時、私たちを救ったのはエメラルドに輝く竜では無かった。

 

伝承者も、七色の石も、そんなのどこにも無かった。

知らない、知らない。竜神の伝説も、絆と共に変化するシンカの秘法も、私たちは知らない。

 

あの厄災に対抗する術を持たない私たちは、どうするべきだったと言うのだろうか?何を恨み、何に感情をぶつければ良かったのだろうか?

 

もしも、あの日の悲劇を回避できると、その可能性があるのならば……

 

その為ならばきっと、私たちは他の何を犠牲にしてもやり遂げるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウシオ様!目的の物は手に入りました!」

 

「良くヤッタァ!野郎共、撤退するゼェ!」

 

骨のAのマークが印刷されたバンダナに、青色の横縞模様の半袖。そんな海賊の乗組員のような服装をした一団が暴れ回る。

 

その中でも異色の存在感を放つのは、よく焼けた褐色の肌に鍛え上げられた肉体を惜しげもなく晒す上半身裸の大男。

 

特徴的な喋り方をする彼の名はウシオ。超古代ポケモンが一匹、カイオーガの力を目覚めさせ、しかし暴走の末にホウエンを海の底へ沈めかけた組織――アクア団の幹部を務めていた男だ。

 

アクア団は事実上解散したと言って良い。

海に住むポケモンや自然を守るためだった行いが間違いだったと知り、同様の過ちを犯したマグマ団と共に罪を償うために活動を止めたのだ。

 

 

だが、ウシオは納得していなかった。

かつてのアオギリはもっと荒波のように豪快で、勇ましい海の男だった。部下の誰もがアオギリを尊敬し、憧れていた。

……それなのに。

 

あの子供と関わり、計画を潰されたせいでどうなった?

 

すっかり腑抜けてしまったリーダーの姿に失望したのか?違う、これは怒りだ。アオギリを変えてしまったあの子供や、世界への怒りだ。

 

完全な言い掛かりで、八つ当たりである。

しかし、そんな八つ当たりでウシオは全てをメチャクチャにしようと思ったが故に、独断で自分と同じ感情を抱く部下を引き連れ行動を始めた。

 

各地のトレーナーから奪ったキーストーンと、たった今デボンコーポレーションから手に入れた『通信ケーブル』の制御装置を使って。

 

ウシオは機械は得意ではない。自分自身の頭が悪いことくらい自覚はしているし、同じ幹部であるイズミからも

少し考えてから行動をしろと苦言を呈されたこともある。

ゲンシカイキのメカニズムやら、潜水艦の設計やらといった難しいことは全てアクア団の研究員かイズミの管轄だった。

 

隕石をワープさせるのに必要だという『通信ケーブル』もどういう原理で動くのかは分からない。

デボンの情報を集めた部下の報告によると、制御装置の操作次第では、ロケットの原動力である∞エナジーを暴走させられるらしい。

 

らしい、らしいと憶測にまみれているが、ウシオにとってはそれだけ知れれば十分だった。

 

 

「まてぇー!その装置を返してくれぇーーっ!」

 

 

叫びながらデボンの社員が追いかけてくる。

言われて「はいそうですか」と素直に返す筈がない。

 

「オイ」

 

「ハッ、いけゴルバット!」

 

察した部下がボールからゴルバットを出し、社員へ『ちょうおんぱ』を浴びせる。見事に混乱した社員は、恐らく味方である他の社員達がアクア団員か何かに見えているのだろう。「装置を返すんだー!!」と両腕をブンブンと振り回して殴りかかっては、警備の人間に取り押さえられていた。

 

 

「ウシオ様、不味いです!元チャンピオンのダイゴが此方に向かってきているとの報告が!」

 

 

通信機を持つしたっぱがサッと顔を青くし、報告を受けたウシオは表情を歪めて大きく舌打ちをした。

 

普段なら「構いやシネェ!」と無謀にも挑むところだが、装置の確保を最優先とする現状ではホウエン最強に近いトレーナーとの戦闘は避けたい。

このまま膠着状態が続けば、騒ぎを聞きつけたジムリーダーまで合流しかねなかった。そうなれば、逃走の確率はぐんと下がる。

 

なんとしても元チャンピオンとジムリーダーが来る前に、カナズミから出ていかなくてはならない。

 

次第にアクア団員に焦りが見え始めた中、急にしたっぱの1人が走るのを止めて逆走した。何の真似だ?と団員達が振り向いてみれば、後続に続いていたデボン社員と警備員をステゴロでぶっ飛ばしているしたっぱの姿が。

 

 

「ウシオ様、ここは私が殿をつとめます。どうぞ、仲間と共にトクサネへ向かって下さい」

 

 

そのしたっぱはそれだけ言うとボールの開閉スイッチを押し、中から出てきた黄色い襟巻きのような物を付けた二尾のポケモンと一緒になって再びデボン社員達へ突っ込んでいった。

 

「おい、勝手な行動をっ!」としたっぱの誰かが叫ぶが、制止の声は喧騒に紛れて消え、届かなかった。

 

あのしたっぱには色々と物申したいが、このせっかくのチャンスをドブに捨てるつもりはない。

 

部下と共にカナズミ走り抜け、街から北に出た先にある砂浜に辿り着く。そこには木と岩影に紛れ、巧妙に隠したアクア団のシンボルが刻まれた小型船が停めてある。エンジンをかけ、全員が乗り込んだのを確認して直ぐ様出航した。

 

どうやら、あのしたっぱは上手く足止めをできているらしい。

双眼鏡で浜辺を見てみるが、追っ手らしき影は無い。これなら何の憂いもなくトクサネへと向かえるだろう。

 

カナズミの高層ビルの姿が小さくなっていく中、そこでウシオはふと思った。

 

 

自分の部下に、いや、そもそもアクア団員にあんなポケモンを持つ奴がいただろうか?と。

 

 

だが、目的が達せられた以上はそんな些細な疑問などどうでも良い。未だデボンで戦っているだろうしたっぱの事は一先ず忘れ、次の作戦に思考を回したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさかこの制服をもう一度着ることになるとは……。

正直言ってダサい青い横縞模様のシャツを見下ろしながら、ボーリングのピンのように人を蹴散らすフローゼルに次の指示を出す。

 

大丈夫、これくらいで人は死にはしないから。それに、フローゼルも人間とポケモンの耐久度の違いくらい理解している……はず。

久しぶりのバトルでちょっとエキサイトしているが、冷静な彼の事だ。手加減くらいは出来るだろう。そう思いたい。

 

 

「『たきのぼり』からの『こおりのきば』。あ、右側から1人飛び出してくるから、通さないように」

 

「くそっ、氷で床が滑って……っ!」

 

「ラクライの『でんじは』で動きを封じるか……」

 

「よせ!この混戦で迂闊に技を使ったら味方も巻き添えになるぞ!」

 

 

さて、元上司サマと同僚たちは逃げ切れたかね?

私も自分の目的は達せられたし、そろそろ此処からオサラバしたい。もう外には脱出するための用意が出来ているのになぁ。

 

いや、本当なら目的を終えた時点でこっそり離脱するつもりだったのだ。殿なんて端からやるつもりも無かった。

しかし、デボンコーポレーションのセキュリティは想定していたよりも強固だった上、警備員も羽虫のようにわらわら集ってきて逃げるのに手間取ってしまった。

 

特に、あのツワブキダイゴが向かってきていると聞いたときは内心とても焦った。あいつ1人が戦力として出てくるだけで彼らの作戦はおじゃんになる。それだけ面倒で、強い。

 

このホウエンで一番強いからチャンピオンの称号を持っていたのだ。ただのしたっぱは勿論、メガシンカが使えるウシオでも相手になるはずがない。

 

海底遺跡での雪辱を晴らしたい気持ちもあるが、出来れば今はやり合いたくない。場所もコンディションも悪すぎるし。

 

 

「フローゼル、もう一度『たきのぼ……避けろ!」

 

 

技の指示を咄嗟にキャンセルしフローゼルを退かせる。

 

 

「えぇ……こんな狭い、しかも屋内でボスゴドラを出すとか正気か?」

 

 

フローゼルがさっきまで立っていた場所には高さ2Mを優に越すボスゴドラが立ち、威嚇するような雄叫びを上げる。かつて野生で見たボスゴドラよりも鎧は分厚く、角や爪もずっと鋭い。

 

これほどレベルの高いボスゴドラを扱えるトレーナーなんて、ホウエンにはたった1人しか居ない。

 

 

 

カツ、カツ、カツ。

 

床を蹴る靴音が耳まで届く。

 

 

「正気を疑いたいのはこちらの台詞だよ。解散したはずのアクア団がデボンコーポレーションを襲撃するなんて、どういうつもりかな?」

 

 

ああ全く、このタイミングで現れるとかヒーローかよ。

 

ボスゴドラの後ろから銀髪に高そうなスーツを着た男が現れ、鋭い眼差しで私を睨む。

 

 

「さぁ?一介のしたっぱには、上の考えている事は分からないなぁー」

 

「誤魔化さなくていい。そのフローゼルのレベルは末端の団員が持つと言うには不自然なほど高い。そして、キミ自身も相当場数を踏んだトレーナーだ。キミ達はあのウシオ……いや、アオギリよりも強い」

 

 

……ああ全く。流石はトップレベルのトレーナーと言った所か。

他の奴らはわざとミスをしたり、ごますりへりくだった態度をとれば簡単に侮ってくれたというのに。いや、流石にリーダー様は気づいてたかな?

ま、今となってはどうでもいいけれど。

 

 

「ふーん。まあ、否定はしないさ」

 

「そんなトレーナーがどうしてアクア団の悪事に荷担しているのかは知らないけれど、その件は後で聞くとしよう。……さて、ウシオと他の団員が何処に行ったのか教えてもらおうか」

 

「グオォォォン!」

 

ボスゴドラが再び吠える。負けじとフローゼルも吠え返すが、体格も声量も違いすぎるせいでやや押されぎみ。タイプ相性ではこっちが有利なんだけどなぁ。

 

でも、どうしよう。まさか本気でこんな場所でバトルをするとか言わないよね?だって、ここビルの結構高い階層だよ。しかも通路。なのに、ボスゴドラみたいな大型で重量級ポケモンで大暴れしたらどうなるか火を見るより明らかだ。

間違いなくこの建物は崩壊する。

 

脅しだよね?まさか、自爆覚悟で暴れたり……。いやでも、自分自身とお前の後ろに隠れている社員も巻き添えになるんだぞ。

こういうとき、相手の思考が読めればどれだけ楽だろうか。

 

本気か、それともブラフなのかさっぱりだ。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

双方の睨み合いが続き、

 

 

「……あーっもう!止めだ止め!!戻れ、フローゼル」

 

「えっ?」みたいな顔をしたフローゼルをボールへ戻した。

すまない、でもこのタイミングでツワブキダイゴとやりあうメリット無いんだよ。周りも囲まれてるし、やがて来るだろうジュンサー達警察とやりあうのも利口とは言えない。

 

バリバリと頭を掻いて降参のポーズをとれば、今が好機と警備員が私を取り囲む。

 

 

「ウシオ達が向かったのはトクサネの宇宙センターだ。今から飛行ポケモンに乗って飛ばせば、事が起きる前に間に合うかもしれないよ」

 

「ずいぶんあっさりと情報を渡すんだね。それが嘘ではない証拠はあるのかな?」

 

「証拠なんて無いさ。でも、この情報を得たお前はトクサネに向かわざるをえない。考えうる最悪を想定するなら、なおさら」

 

 

あの船って小型だけどアクア団の持てる技術を片っ端からつぎ込んでるし、全速力でカッ飛ばせば3、4時間後にはトクサネに到着するかも。ツワブキダイゴがどんな飛行ポケモン持っているか知らないけれど、少なくとも彼らが事を成す前には間に合うかもしれない。

 

 

「……キミの身柄はここで拘束させてもらう。さっきも言ったけど、キミには色々と聞くべき事がある」

 

「そうだっけ?でもお断りするよ。こっちも忙しいんだから、さぁっ!」

 

「ぐあっ!?」

 

後ろの警備員を蹴り倒し、そのまま猛ダッシュで駆け抜ける。一瞬呆気にとられた彼らが慌てて追いかけてくるが、ここまで来ればもう逃げたも同然。

 

オフィスらしい一室へ出た私は、手頃な椅子を両手で掴み、思い切りガラスへ向けて投げつけた。ガシャーンッ、と甲高い音と共にガラスは割れ、外の風が一気に室内へと流れ込んでくる。

 

 

「ま、まさかっ!ここはビルの7階なんだぞ!?そんな所から落ちればただじゃ済まない!!」

 

「そうだねー。じゃ、サヨナラ」

 

「待て!!」

 

 

制止の手は届かず、私の体は宙へと投げ出される。

青ざめたツワブキダイゴの顔が実に愉快だ。

もちろんこのまま地面に叩きつけられるつもりは無い。私だって自分の命は惜しいのだ。

 

もう脱出の準備は出来ている。だから、後はその手段を呼べば良いだけ。

 

 

ピュイーーッ!!

 

指笛を吹く。すると、数秒もせずに下から急上昇してくる影がひとつ現れた。すれ違い様にソレに肩を掴まれ、私も上へと上昇する。

 

 

「ギャァァーーッ!!」

 

「プ、プテラだって!?」

 

 

アクア団がプテラを使うのは流石に予想外だったろう。

珍しいし、水タイプですらないからね。

 

 

「またね、ツワブキダイゴ」

 

 

この男は絶対に私の邪魔になる大きな障害だ。

だから、次会った時は絶対に決着を付けよう。

 

 

 

 




原作との相違点
・アクア団がデボンを急激。マグマ団は今ごろトクサネで宇宙センター占拠してます。
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