世界が五分前にできたなら。   作:あいうえ王

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これは、蛇足の物語。


とある少女と少年の蛇足的独白

side 病弱でどこか妄信的な少年【転生者に成りえなかった子供】

ある、よく病院に通う少年がいた。

もとより、身体はあまり強いほうではなかった。その病院に入院したことなんて、両手の数じゃ足りない。いつも入退院を繰り返す少年にとって、病院の居室にある窓から見た外の世界はあまりにも遠く、そして少ししか得ることができないものだった。

不幸な事故があったのだろう人がいる。

もう治せないであろう病気を持っている人たちがいる。

そんな人たちを窓から見て、思う。思ってしまう。

自分が鳥だったらいいのに。気ままな渡り鳥ならば、世界を周ることができるのだと。

見た目では明らかに自分より身体が悪い人たちですら、外の世界を歩けている。

でも、そこに自分はいない。

 

鳥になりたかった。健康で、自由な鳥に。

キッカケなんてそんなもので、そこからか、出来る範囲で鳥を調べて、調べて調べて調べつくした。なんてことはない。憧れたのだから。だから調べていった。人が翼を手に入れることなどできないというのに、それでも自由気ままな鳥に憧れた。余りにも遠いその姿を、何度手に入れようとしたのだろうか。

でも、届かない。鳥は外を飛んだまま、この手が掴むことはない。

 

それでも、翼が欲しかった。いつしかそれは、執念となった。

ただ、自由になりたい、と。人間が持つには当たり前すぎる感情を、彼は求め続けた。

そこで終わっていればいいのに。

 

何を勘違いしたのか少年は自分自身が鳥だと思った。勿論比喩ではあるが、自分はどこまでも自由なのではないか。今病院にいるのもただの言い訳、医者の嘘、家族が自分を閉じ込めたいだけではないか、と。そんなありもしない妄想に囚われていった。そう思わなければ生きていけないほど、精神的にボロボロだったのだ。周りが悪いと思わないとやっていられなかった。世界を全く知らなければ、そんなことを思わなかっただろうに。中途半端に身体が弱いせいで、思いっきり身体を動かす楽しみを知っている。全速力で走った後の快感を知っている。外の楽しさを知っている。それが、執着となってストレスに変わり、どうしようもなく自分が嫌になった。

窓の外への憧れを止めることはできなかった。

 

 

 

ある日、少年はとある青年とであった。その青年は少年より一回りは年齢が上だった。病院にいつも通っている青年を気にかけてそこから仲良くなっていくのに時間はいらなかった。

よく、とある小説を読んでいる青年だった。

青年は、とある難病に罹ってしまったらしい。それが何なのかは少年にはよくわからないけれど、手術をすれば9割以上の確立で生き、1割以下の確立で死ぬ病だそうだ。手術を受けなくても死ぬことはないけれど、車椅子での生活は免れないだろう、と。

少年は、その時彼に何も考えず、こういった。”手術を受ければいい。きっと成功する”と。少年自身、身体を動かすことができない苦しみを知っているから、だからしたほうがいいのだと。

だって、そうだろう。彼は自分と違ってどこまでも明るかった。周りが悪い、とそんな薄暗い感情しか持たなかった自分と違って、彼はいつも前を見ていた。

そんな青年は、少年にとって光だったのだ。そんな青年が手術を失敗するはずがない。そこまで世界は残酷じゃないと思っていた。

青年は笑顔で、〇〇がそういいなら成功するな。受けてみるよ、と。そんな言葉を口にして、手術に挑んだ。

なんて無責任だったのか。ただ、励ますために出したこんな言葉は、結局相手を苦しませただけだというのに。

 

 

青年は死んだ。1割を引いたのだ。医者のミスなどでない。ただ運が悪いだけで1割を引いてしまっただけだ。

彼は、最後まで手術に迷っていた。それを後押ししたのは少年だ。

少年が、もしこういったらどうだっただろうか。「1割で死ぬ確立は高すぎる。それならば、動けないにしても生きていけるのならば手術を受けないほうがいい」そんな言葉を。それが正解だったのだ。それが正しかったのだ。

 

少年が軽い気持ちで選んだ選択一つで他人の人生を呆気なく消滅させたのだ。少年は青年が死ぬ選択をしたのだ。

 

 

それは、どうしようもないほど心に楔を埋め込んだ。

正しくなければ生きる価値はない、と。そんなどこかの海軍の大将の言葉を知り、それを理解し、飲み込んだ。それは人ではない。人の道ではない。それは、正義とは違う妄念だ。

けれど、それが決して間違いだったとしても。

 

—――それでも、その言葉に共感してしまったのならば。

 

 

人の選択というのは、間違えることがあっても…それでも、決して間違えてはならないことがある。それを間違えてしまった。今度は間違えることは許されない。失敗を許すことはできない。

常に、正しくならなければ。

常に、清く全てに対して公平に、救える命があるのならば。

足りない。まだ、足りない。完璧に、完全に、完成した正しさを得るためには、正しさの奴隷になるにはまだ足りない――――。正義のために、正義のために、正義のために———僕は、全てを捨てる。

 

 

 

 

10年後、少年はあっけなく紛争地で死ぬこととなる。もとより虚弱な身体だ。常に正しくあろうとして、結局彼は周りをグシャグシャにかき乱して、周りを不幸にして。結局、かつての味方に殺された。

そんな少年の懐には、青年が愛した小説。とある魔術の禁書目録と呼ばれた愛読書を。

彼は、死ぬまで肌身から離すことはなかった。

 

 

少年が死ぬ間際、天に手を伸ばしたのは何故なのだろうか。それを知る者は誰もいない。

空には、何一つ飛んでいないというのに。

 

 

 

 

 

 

side どこまでも不運で幸運だった少女【Index-Librorum-Prohibitorum】

 

「地獄の底まで、ついてきてくれる?」

そんな、いじわるなことを言った。お腹がへっている身で、誰ともわからない怪しげな自分に対して、恵みをくれた少年に対して。ただ、関わってほしくなかったから。

ネセサリウス、魔女狩りの集い。ただ異端を狩るということに特化した集団に狙われていた私は、そう言ってお人よしな彼から離れていくはずだった。それが、お人よしな少年に対してどのような結果をもたらすか何も考えず、ただそれだけのために言った言葉が。

 

「ああ、地獄の底なんていわない。引きずり出してやるよ」

 

間髪入れずに言った彼の言葉にどれだけ救われたのだろうか。その時は、ただ感激した。このような人もいるのかと。

思えば、この時から私は彼に惹かれていたのだ。当時は、それがどれだけ異常か気にもできなかった。

 

少年がどうしようもなく壊れていたなんて、その時にはわかることができたはずなのに。

当麻がどうしようもなく狂っていたなんて、あって数分程度の人間のために命を懸けることがどれだけ可笑しいかなんて、考えればわかっていたのに。

 

ただ、思慮が浅いその一言は、私と彼の人生を狂わせていった。

 

 

 

 

彼はあっさりと私の問題を解決した。本来ならば1年しか生きれない私の呪いを簡単に解呪して、どころかネセサリウスの精鋭たちまで説き伏せた。まるで、教科書があってその通りにすればできる、と。それほどまでに手慣れていた。

 

彼には不思議な右手があった。幻想殺しと呼ばれるもの。異能であれば何でも消せるものだ。

逆に言えば、異能ではないものに対しては何の意味もないものだ。大体、異能を消す、という特性自体酷く曖昧なものなのに、どうして彼はそれを信用することができたのか。異能で作られた火と、科学的に作られた火を比べることなんて、どれだけ検証してもわかるはずがないのに。

 

そんな曖昧なものをふるって、彼は私を救った。右手以外は魔術を呆気なく食らうただの一般人のはずなのに、彼は最高の結果を生み出した。

それに気づいてから、少しだけ彼が怖くなった。まるで、世界が彼を味方しているみたいに、物語の主人公のような彼が怖くなったけど、それでも彼に対しては親愛がほとんどを占めていた。

 

 

 

そうして、時間がたった。彼は人を救って救って救い続けた。私はその過程で彼は知らないだろうけれど、本来失われていたはずの自分の魔力も、過去に失われた全ての記憶も思い出した。あうれおるすも、すているも、かおりも。みんなが笑顔のハッピーエンドを見続けて、私は幸せだったのだ。そんな私が、彼にどうしようもなく惹かれるのは仕方がないことだった。

 

 

 

そうして、私は彼が気づかずに魔神となった。

 

当たり前、といえば当たり前なのかもしれない。10万3000冊という膨大な量の魔導書を記憶し、またそれを運用する魔力も手に入れたのならば、出来ないことなどなかった。10万3000種類もの魔術に、それを複合させることで生み出す新たな術。それはもはや万能という言葉では計り知れなく、それは全能と呼べるものである。

魔術を使って世界を思いのままに作り変える。それこそが魔神の条件。それに達した、どころか全能たる自分は魔神に…違う、魔神すら超えていた。世界をダース単位で作ることも、何もかもが可能となったのだ。グレムリン、と呼ばれる魔神の集団がいたけれど、彼らが束になったところで私の完成度には到底及ばない。所詮一つを極めて魔神となった者たちが、10万3000種類を極めた私に叶わないのは道理であった。

 

だが、それでも私は過ちを犯したのだ。どうしようもない全能感に酔いしれて、彼の過去を覗こうとしたのだ。

上条当麻には何かがあって、あのような狂人になったのだと。どうしようもないヒーローとなったのだと、ただ知りたくなったのだ。彼が悲しい過去の結果、ああいう風に壊れたのなんてわかっていたのに、自分の好奇心のために彼の過去を覗こうとしたのだ。違う、それはいいわけだ。ただ、彼が好きだったから、彼の全てを知りたくなった。

 

人の過去を覗くなんて神様が許さないと思ったが、私が全知全能の神なのだから別にいいじゃない、と。全知全能、神の王たるゼウスが神話の中でも何度も失敗をしているということなんて、知っていたはずなのに。

 

 

 

結果として、彼の過去を覗くことはできなかった。幻想殺しではない。もはや私はそんなモノの干渉を受けるレベルではない。理由が不明だが、私の全てを総動員しても、彼の過去を知ることは何もできなかったのだ。

その時、私はどうしようもなく嬉しかった。ああ、最高だ!私のすべてを使っても、彼を知ることができないなんて、と。世界をダースどころか万単位で作れる自分すら理解できない領域にいるのだと。それは魔神となってどこか離れた彼との距離を埋めてくれた。だったら、と余計に知りたくなった。

だから、私は本当に全てを使った。

 

 

結果として、私は103000冊の知識と、魔力と、魔神たる力を全て失った。

ただ、愛した彼の過去を知りたい為に、私の力を全て使った。世界を万単位に作れる無限に等しいエネルギーを全て使った。それでも足りないから、全部を使った。愛した人の過去を知るために。

 

それでも、彼の過去を知ることはできなかった。

彼がどんな過去だったのか、彼がどのような道程を歩んできたのか、きっと彼に聞けば教えてくれるのだろうけど、聞くことはやめた。彼の一言で、知りたいと思わなくなった。

彼に、103000冊の知識がなくなったことを伝えても、狼狽えて…それでも笑顔で、どうでもいいだろ、と言ってくれたから。

魔導書図書館としての私ではなく、私という一個人を大切に思ってくれるのだから、彼の過去なんてどうだってよくなった。

 

だって、彼はヒーローなんだから。私を救ったヒーローなんだから。

 

彼がどんな過去を歩もうが、例え大罪を犯していようが、それでも、私は彼を愛し続ける。

 

 

 

 

side 上条当麻

 

 

今日も、空は晴れていない。

かつての衝撃の出会いの場所。公園のベンチに座りながら、一人考えていた。

 

あの日、本物の上条当麻と出会ってから、1ヶ月はたった。それまでの間に、いろいろな事件があった。

どうせ世界は壊れるのだとわかっていても、それでも目の前で他者が不幸になるのは見ていられなかったから、事件に…原作に、関わり続けた。例え、世界が数秒後に消えてしまうとしても、それでも、俺の体はそれを見逃してくれなかった。…それ以上に、インデックスの笑顔を無くしたくなかったから。

それでも、もう、ダメだ。もう俺には歩けない。

 

―――怖い。

怖かった。オティヌスと会って、本物の上条当麻と出会ってから怖かった。

すぐ先に世界が消えて、俺自身が消えることがどうしようもなく怖かった。

…当たり前だ。当たり前だ…!当たり前だ!

怖い!怖い!怖い!そんなこと当然だろう!だって、俺は一度死んでやり直している。だから、死ぬという怖さを知っている!

死んだ後、どうなるか知っている!魂が消えて行って自我が薄れていって、存在がなくなっていく感覚を知っている!

嫌なんだ。あの感覚は、あのどうしようもない絶望を味わうのは…。

 

でも、何もできない。俺には幻想殺しが宿っている。つまり、魔神に、その領域にたどり着くことは決してない。

不老の存在になることなんてできない。だったら、俺は…!

 

「―――ち、がう」

そんなことを思ってはいけない。この世界を、見下してはいけない。

俺は上条当麻なんだ。

原作を知っていて、どうしようもなくあの作品が好きな読者で。

両親から本当の子を奪い取ったのならば。

救えたはずの人を見殺しにしたのならば。

だったら、歩かなくてはいけない。

それこそが、俺の義務なんだから。

 

 

明日もきっと、空は晴れないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

歩き続けた。

 

例え、世界が壊れる寸前であろうとも、戦い続けた。

だって、貴かったんだ。世界が例え作り物でも、それでも世界は美しかった。

そんな簡単に世界なんて壊れないと、そう思ってしまうほどに。

 

悪意だってあった。

悲しみだってあった。

苦しかったことも、たくさんあった。

それでも。

 

 

戦った。

テッラと戦った。アックアと戦った。イギリスの王女と戦った。フィアンマをぶんなぐったり、多くの敵と戦った。

トールと信念をかけて殴り合った。色々な思いを持つ人たちと戦った。

戦って、戦って、戦い続けて。

最終的には、自分自身とも戦って。

 

彼らには信念があった。確固たる決意があった。

ただ原作知識を持っている凡人の俺とは違って。

インデックスとの日常を守りつつ、助けれる人は助けたい、だなんて彼らからすればなんと薄っぺらいのだろうか。

けど、例え俺の思いが彼らより軽くても。所詮凡人の俺が、最後には失敗するとしても。

薄っぺらい俺とは違い、例え自身を悪と凶弾されようと、願ったことがあったのだ。

原作のような精神を持っていない俺には、どこまでいけるかなんてわからない。

それでも、人を救おうとすることが、間違いのはずないんだから。

その、はずだった。

 

明日も、きっと晴れないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「上条当麻になんて誰にでもなれるんだよ。」

 

守りたかった。

とある女の子を守りたかった。

 

 

結局、ダメだった。

 

俺は何一つ変わらない。どうしようもない。不幸で死んでいった人たちを見て、助けたいと誓ったあの日から何も成長していなかった。成長したと思い込んでいただけだ。

結局、魔神という絶対者に対して俺は遂に勝てなかった。

 

 

オティヌスに、勝てなかった。

 

 

 

相手は俺のことを知らなかった。不完全な魔神だった。原作と全く同じの彼女は、俺が以前みたオティヌスとは別個体だった。

もしかしたら、世界が5分前に出来たという俺の仮説は間違いだったのかもしれない。

あの時は、全く並行世界のオティヌスが、同じく並行世界の上条当麻を絶望させるために俺という存在を見せたのかもしれない。

 

少なくとも、俺の敵であるオティヌスは俺以外の上条当麻を知らなかった。

答えはわからない。

けれど、それで何が変わるのか。

結局、この世界が魔神によってどうとでもなることが証明されただけ。

 

 

 

俺は自分が異常だと知っている。気づいている。けれども、原作の上条当麻ほど歪んじゃいない。

何億通りの世界を見せつけられて、何万回の死を突き付けられた。

原作なら耐えれた。原作の上条当麻なら耐えることができた。

 

 

やっぱり、凡人の俺には無理だった。

 

 

今いる世界。この世界はオティヌスが作り出した世界。

別に、この世から悪意が取り除かれた黄金の世界というわけじゃない。誰もかれもが不幸を無くして、皆が笑顔になれた世界ではない。

上条当麻、と呼ばれた少年に無理やりな悪意を押し付けた世界じゃない。

皆がみんな、不幸になった世界でもない。

ただ、当たり前の世界。

 

そう、当たり前の、上条当麻が憑依することなく原作通りに進んだ世界。

それこそが今いる世界。

 

俺が救った鳴護アリサは死んでいて。アウレオルスは記憶を失って。左方のテッラがなんの罪もない子供たちを殺しつくして。そして第3次世界大戦で大勢の人がなくなった。

学園都市の闇は子供たちを不幸に陥れ、上条当麻が関わらない場所では大量の悪意が世界を覆っている世界。

当然の、原作通りに進んでしまった世界。

 

 

俺という存在が、俺が得た功績が何もない。当たり前のことだけが起こった世界。

原作知識を持たない上条当麻がヒーローとして歩み続けた世界。

オティヌスは、知らない。

俺が原作知識を持った憑依者であることなんて、誰一人知るはずがない。

例え、心を読む能力を持っていても、この右手がそれを許さない。

 

だから、多分原作でもあった世界だ。

上条当麻が他の誰かに乗っ取られて、お前は本当に上条当麻なのか?と原作で問うた世界。

あの時、原作の上条当麻は確かに自分を上条当麻といった。

 

そんな世界を

 

 

 

――壊したくない、と思った。

 

光輝いた、誰もが望むハッピーエンドな世界よりも。

かつていた、上条当麻になる前のただの少年だった頃の世界よりも、尊いと思った。

 

だって、そうだろう。ここは、当たり前に進んだ世界だ。

俺という異物が存在せず、当たり前の上条当麻が歩んでいくだろう世界。

上条刀夜や上条詩菜の本当の子供の上条当麻が、俺が持つ原作知識なんてズルを使わずに進み続けた世界。

ただの少年が必死に歩いて、そうして勝ち得た世界。

 

それを壊すことがどうしてできる。

 

―――本当に?

壊さないという選択をするということ。

それは、かつての仲間を、インデックスを裏切ることになる。

 

俺が最もすべきことは、この世界を見捨ててかつての世界に戻ること。

それが正しい。そうしなければならない。

 

でも、それを選ぶということは、今の世界。

本来の世界を、とある魔術の禁書目録という世界を壊すことと同義だ。

 

憧れた。

 

それが借り物の理想であったとしても、彼のようになれればと憧れた。けれど、こんな世界を作る前ならばこうも思っていたのだ。上条当麻が仮に自我を取り戻せても、俺は身体を返せない、と。それをするには大切な人が増えすぎた、と。そんなことを思ったし、それは間違いではないと思う。

 

でも、もう世界は作られた。

それを、壊すのか?

 

オティヌスに挑むか、自殺をするかの二択。

戦いを挑めばもしかしたら、オティヌスに勝って万億の1の可能性でかつての世界を取り戻せる。

戦いを挑まなければ、上条当麻という役割を奪っている俺のせいでこの世界が壊れると、オティヌスは言った。それを防ぐ為に、自殺をして世界を存続させる。

元より、前者は可能性なんて実質0に等しいのだ。

だったら、余計な反感を買わない後者のほうが正しいのではないのか?

幸い、この世界には本来の上条当麻がいる。原作通りの彼がいる。彼ならば、例えオティヌスと戦ってもこの世界を消させるようなヘマはしないだろう。

 

俺が自殺する。そうすることでヒーローたる彼を消し、本来の歴史すら歪め、そうして自分の世界を取り戻すなんて最悪の罪を犯さなくて済む。

 

 

そんな、選択をしなければならないのならば。俺は——

 

 

 

 

 

 

 

 

>自分がインデックスに会うために、かつての世界を取り戻す

 

>そんなことはできない。本来の歴史を歪めて、かつての世界に戻ることは許されない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>自分がインデックスに会うために、かつての世界を取り戻す

 

 

 

心に決めたことがある。

 

「ああ、そうだったな」

 

ベンチからゆっくりと、晴れない空を見て立ち上がった

覚悟は、決まった。

 

可能性なんてないのだろう。助かる道なんてないのだろう。

それでも、心に決めたのだ。

 

かつての記憶は、何万という時間が過ぎ去ったからか、もうほとんどない。

自分が上条当麻であるという確証すら、わからない。原作知識なんて、もはや完全に消滅している。インデックスや御坂の顔も、本当に自分の記憶と合致しているかすら判断ができない。

そもそも、インデックスという名前があっているのかもわからない。

この壊れかけの自分は、本当に上条当麻なのかわからない。

 

忘れてしまった名前や顔は、また覚えなおせる。

でも、かつての思い出をもう知る事はないのだろう。

 

 

それでも、あの光景だけは覚えている。

 

 

脳裏にちらつく声。いつも幻聴を飛ばすもう一人の自分は、何も言ってくれない。

ただ、そんな幻聴とは別に、ふと聞こえた気がした。

それは、気がした、というだけだけど。それでも確かにそう自分には聞こえた。

 

「裏切るのか。」

 

通り過ぎる二人の男。かつての自分と、ツンツン頭の少年が隣を通り過ぎて行った気がした。

 

「―――――」

気が付いたらガチガチと、手が震えていた。

奥歯はガチガチと、自身の歯ぎしりで割れるほど。

そうだ、俺は憧れたんだ。

 

上条当麻になりたいと思った。ヒーローになりたいと思った。記憶を失っても、大切な何かを忘れても。

それでも心の赴くまま走り続けて、少女どころか世界すら救った彼に憧れた。

失敗に失敗を重ねて、周りを不幸にさせて死んだあの前世がどうしようもなく嫌いだった。

だから、戦争で死んで、自分が上条当麻になったんだと知った時に。

あの時、俺はどうしようもなく嬉しかった。

 

そう思っている。そう思っていたんだ。

 

「かつての自分を、裏切るのか。」

 

でも————

 

 

 

 

凍らせた心で、あたたかな幻想をする。

インデックスと出会った時。

インデックスと一緒に食事をしたとき。

インデックスを助けた時。

インデックスが悲しい顔をしたとき。それは、所詮妄想なのだろう。記憶なんて、もう本当はないのだろう。

彼女のもとに。

インデックスと過ごしたあの日が、黄金に輝いたあの日が大切で、楽しかったことすらわからない。

 

前世で悪行を成し、悪と蔑まれ、上条当麻になってから贖罪のために走り続けた。

償いをしなければならないと、ヒーローになるんだと自分に言い聞かせてきた。

俺がかつて、身勝手に正義を振りかざして、前世で犯した悪行に対して、報いなければならないのだと言い聞かせて生きてきた。人を救うことは間違いなんかじゃない、と。そう思わなければ生きていけなかった。だからこそ、そんなことを考えなくても人を救い続けた上条当麻に憧れた。

そんなかつての憧れを、裏切るのか。

 

 

今まで信じてきた思い。上条刀■と上条■菜の為にも、上条当麻に成らなければならかった。

この世界を見捨てるということは、彼らの本来の子供を消すことと同じことだ。

自分を大切だと、育ててくれた両親を、裏切るのか。

 

 

「ああ――――」

 

答えは、もう出ている。

 

 

「そんなこと、決まっている。」

ただ、歩き続ける。行くべき場所は決まっている。

 

 

 

地獄の底まで、ついてきてくれる?

 

 

 

あの光景を、忘れることはない。

 

そんな彼女を引きずりだすと言ったのは自分なのだから。

 

 

「―――裏切るとも」

 

 

空から、一筋の光が射した。

 




上条vsオティヌスの結果は前話を見ればと。

初めの短編は前話の幻聴の正体。こいつ偉そうにしてるけどなんもしてねえな、と思って書きました。失敗して死んだことにより、上条になれないのだと理解した結果転生を拒否したという流れ。
前話で書きましたが仮に少年が転生しても幻想殺しは手に入らず、ドラゴンの要素もないただのパンピーになってました。正しさ至上主義の禁書信者ですので、最終的にはどこぞの魔術師辺りをせん滅しようとして返り討ちにあっていたことでしょう。
禁書信者だったから上条のすることを余り否定したくなかった=それなりに抑え込めているだけで、ヤベー奴な彼は決して正しくありません。ちらっと書きましたが精神的にはワンピースの赤犬が最も近い。けど基本無能なので周りに災害をまき散らしちゃう。

インデックスに関して
すこすこファンタスティック。かわいい。魔神になった時期は考えていません。オティヌスとの闘い魔神化したインデックスいれば余裕じゃ?となりましたが、魔神になってすぐ力を失ったということでここはひとつ。

オティヌスに関して
スフィンクスに咥えられているの可愛い。前話のオティヌスが並行世界のオティヌスで今回のオティヌスは現世界のオティヌスと別人。原作知識は知らない。たまたまΩ世界(原作通り進んだ世界)を作った。
リバース見た後書いてまして、上条vs幻聴のバトルを書こうか迷ったんですが幻聴がボコられて終わるだけなので書きませんでした。

所詮この物語は蛇足ですので、可能性の一つとしてとらえてくれると助かります。多分書き直します。
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