東方幽波紋 〜STAND in GENSOKYO!   作:みかんでない

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むんくいあじけー 〜東風谷早苗、沖縄に行く〜 承

東風谷早苗が空条承太郎と別れてから、数時間後。

彼女はとある旅館の玄関に立っていた。そこの看板には「宿屋あじけー」と名前があった。

こぢんまりとした、如何にも地元の人間が経営していそうな民宿。それは、早苗が一人でゆっくりと考え事をするには最良の空間だった。

そしてその時、彼女は自分の背後に人が立っているのに気づいた。彼は、ぶつぶつと独り言を言っている。

「宿屋あじけー、か。なんかいまいち普通の民宿って感じだなぁーっ。おどろおどろしい感じとか、全然ないけど、ほんとに大丈夫なのか?」

早苗は、後ろを振り向いた。がっちり固められた緑髪が、嫌でも目についた。尖ったヘアバンドにペン先のイヤリング。その格好をした人物は、早苗でもよーく知っていた。

「貴方は…………岸辺露伴先生!」

ん?というように露伴は前の少女を見た。否応なしに、彼女の持つ長く鮮やかな緑髪が目に飛び込んできた。そして、彼は自身の読者に対しては非常に優しかった。

「誰だい、君は。ああそうか、面識がないと言うことは僕の読者だね?」

早苗は頷いた。そしてこの早苗の「漫画好き」という趣味こそが、実は周りの人間、主に女子と話が合わない大きな原因となっていたのだった。

「そうかそうか。後でサインぐらいなら渡せるな。それより、君はなんだ?ここの人間か?」

早苗は今日はよく勘違いをされる日ねぇと思いながら、首を横に振る。

「いえ……私はここに泊まりに来たんです」

「泊まりィ〜?ははあ、さては君も、あの噂を知って泊まりに来た口かい?当たってるだろ」

あの噂とやらについては彼女は何も知らなかったので首を横に振り、取り敢えず後ろにいる先生を待たせては不味いと思い急いで玄関の引き戸を開けた。

旅館の中はこざっぱりとして綺麗だった。こんな時期なのにも関わらず、よく掃除が行き届いているようだ。玄関口には誰も居なかったが、こんな張り紙がしてあった。

「御用の方はしばらくお待ち下さいませ」

その文言通りに早苗は待とうとしたが、待つ暇もなくこの宿の支配人とおぼしき人物が急ぎ足でやって来た。

「お待たせいたしました。えエと……」

「東風谷です」

「東風谷様ですね。お部屋ニご案内いたします。どウぞこちらに」

その人が案内したのは、三つあるうちの一番奥の部屋だった。簡素なキーを渡される。

「では、お荷物を置かれまシたら、どうぞ、フロントの方へお越しくださイ。」

そう言うと、部屋に早苗を残してその人は去っていった。それは、一見して普通のながれのように思えた。

ある一点を除いては。

「足音が……しない?」

そう、去っていく時も、こちらにやって来た時も、その人間は一切の足音を立てなかった。まるで、スケートリンクを滑っているかのように、足を滑らせて歩いているのだ。それは少し気味が悪かった。

と、早苗は後ろで、カカカカという何かを打つような音や、シャシャシャと何かが往復するような異様な音がしていることに気づく。彼女一人しか居ない筈の彼女の部屋に、である。

早苗はゆっくりと後ろを振り返った。が、そこにいたのは妖怪でも何でもなく、鬼の形相でスケッチする岸辺露伴だった。

「ひゃっ、露伴先生!何でこんなところに居るんですか!?」

露伴はそれを無視し、彼女に話しかけた。

「なあ、見たかよ今の。あいつ、一歩も音をたてなかった……というか足を揚げなかったぜ。奇妙だ……物凄く奇妙だっ!!こいつは取材のしがいがあるなあぁーっ!」

早苗は内心ほっとし、まさかそんな、お化けの類なんている訳が無いだろうと思い直した。まあ、神と交信できる彼女が、妖怪の存在を否定するのは実におかしなことではあったのだが。

「はあ、先生は旅先でも取材ですか。凄く研究熱心なんですね」

それを聞いて露伴は、何を言っているんだとでも言うように彼女をじっと見た。

「あのねぇ。僕も旅行ぐらい、きちんと休むときは休むさ。取材と旅行は別だ。今日ここに来たのは取材だよ」

早苗は露伴が、こんな普通の旅館で何を取材しに来たのかと疑問に思う。美味しい地元料理なのか、伝統的な踊りを見に来たのか、それとも……?

「はあ、そうなんですか。ところで、チェックは済ませて来たんですか」

彼は勿の論じゃあないか、何を言っているんだね君は、とでもいうようにあからさまに彼女を小馬鹿にした笑いを浮かべた。

「ああ、当然じゃないか。さっき奴とすれ違った時にとっくに済ませたよ」

勝手に人の部屋に入ってくるのは当然していい事では無いでしょうがと早苗は内心思うが、それよりも一つの重大な疑問が彼女の頭の中を支配していた。

「じゃあ何故、先生は自分の部屋に行かずに私の部屋から動こうとしないんですか?」

「そう、そのことなんだよ!」

彼はその言葉を聞いて、待ってましたと言うかのように早苗にペン先をぴっ、と向けた。早苗はスイッチが切り替わったような彼の態度を少し怖いと感じる。

「さっきちらりと見えたんで気づいたんだが、その髪留め…………それ、巫女のものだろう?違うかい?」

早苗は当てられたことに驚いて、自分の髪留めに手をやる。白地に特徴的な青色の模様が刻まれている。

「やっぱり、そうだろう。いやあ〜、本当に有意義な旅だよ。中々、巫女と会える機会自体がそうないもんでね。リアリティの為には、実際に『見て』、理解する必要があるからな」

それを聞いて、早苗は彼が彼女の巫女としての体験を聞きたいのだろうと推測した。

「あっ、それはどうも。多分参考になるような事はお話しできませんが、私のつまらない経験でしたらー」

そう言いかけた早苗を露伴は静止した。そして、そのままGペンを彼女にむけたまま、言った。

「いいや、いいんだ。実際に『追体験』したほうがわかり易い。安心しろ、後でちゃんと『戻して』おくよ」

何を言っているんだと彼女が思うまもなく、露伴のペンを持った手が動く。そして、空中に像が描き出された。それは速筆の彼にしか出来ない芸当だった。そして、彼はその名前を叫ぶ。

「ヘブンズ・ドアァーッ!」

早苗がそのヴィジョンを認識した瞬間。彼女の顔の表面が、真っ二つに分かれた。

「な、なんですか、これはーっ!」

空気のキャンバスに描かれたその筆圧で、早苗は畳に尻もちをついた。よく見ると床についた自身の手も、窓が空いたように紙となって捲れている。早苗は眼を見開いて、目の前の男とその、漫画の主人公のような幽波紋(スタンド)を眺めた。やっぱり見える……あの腕も、きっと幻覚じゃあなかった!早苗はそう確信した。

「僕のスタンドは生命を本にできる…………ほう……気絶しないのか。ふん、中々凄い精神力じゃあないか」

「な、何をする気ですか!貴女はあーっ!!」

露伴は、彼女に近寄ってその頁を捲った。

「なーに、ちょっと読むだけさ。どれどれ……東風谷早苗、年齢、17歳。守谷神社の巫女。ん?なんだこれは?この項目はッ!!」

 

 

 

 

   妖怪が生きている?

   ↗

 幻想郷←隔離された世界、迷い込んだ者は忘れられる

   ⇓

  そこに行かなくてはいけない

     ⬇       ⇩

忘れられるのが辛い  御二方の為には仕方ない…  

 

 

 

 

露伴は夢中になってその項目を読み漁った。

「生きた妖怪だと!?幻想郷!?何だこれは、凄い、面白いぞ!!僕は今、再び最高のネタを掴んだぞッ!!東風谷早苗……君の記憶は素晴らしいッ!!!………………ん?この項目は……これは今日の記憶だ…………何ッ!お前が出会ったこの男、まさかスタンド使いか?水族館だと!?何者だ、この男は!」

露伴はぺらぺらと頁を捲り、彼女の目に焼き付けられ、その男の『写真』と化した記憶を見て、そして理解した。彼が何者であるのか、という事を。

「こいつは!!間違いない、いや、よく知っているぞッ!!この男は、空条承太郎じゃあないかッ!!!」

その時である。玄関の引き戸が凄い勢いでがらがらと開けられるのが二人の耳に聞こえてきた。入ってきた人間がここの主人を呼ぶ声と一緒に、だ。

「おい、ここに人間はいるか!?俺はここに予約した()()()()()という者だ!!居るなら返事をしてくれ!!!」

焦っているようなその大声が聞こえてきた瞬間、露伴は四の五の言わずに自身のスタンド能力を解除した。彼に『誤解』されると非常に厄介な事になるからである。勿論、彼女に『今起こったことは忘れる』と書き込んでからだ。

 

 

 

 

 

 

      今起こったことは忘れる

 

 

 

 

 

早苗がふと我に返ると、懐かしい声が宿の中に響いていた。その声は、紛れもなく水族館で出会った男の声だった。内心彼に黙って挨拶もせず水族館を抜け出したことを、彼にもう一度会って謝りたいと考えていた早苗にとっては、それはとても嬉しかった。

「す、水族館の彼!?」

反対に、露伴は愚痴を漏らした。

「何であの男がこんなところに来ているんだ……これが所謂『惹かれ合う』ってやつか?畜生」

「ろ、露伴先生!あの人を知っているんですか?」

露伴は物凄く悔しそうな表情を隠して、はあと大きなため息をついて笑った。

「全く……折角いいところだったのに…………おい、後で必ず君の記憶について聞かせてもらうぞ、いいな」

早苗は突然の展開に訳もわからず、がくがくと首を振って頷いた。

 

 

 

 

 

空条承太郎は先に来ていた早苗達を見ると、とても驚いた。

「やあ……また会ったな」

やっぱり彼の服装は奇妙だ。が、早苗は感じていた。この人には、何か落ち着ける雰囲気がある。彼の傍にいると、護られている、というふうに感じた。

「ええ……さっきはすみませんでした。突然いなくなってしまって」

「いや、いいんだ。それよりも……だ。露伴、何故君がここに居る?」

岸辺露伴はぺらぺらと紙の束を振って答える。

「取材だよ、しゅ・ざ・い。こちらからすれば、承太郎さんこそどうしてこんなところに居るのかって感じなんですけどねぇえーっ」

露伴は承太郎へ厭味たっぷりの口調で台詞を吐いたが、その意味を彼が理解することはなかった。

「…………俺はSPW財団の要請でここへ来た」

早苗は彼等の会話についていけていなかったが、唯一其の「SPW財団」が、世界を代表する超巨大な組織の一つだということは知っていた。彼はそこから派遣された人間だったのだ。でも、なんの為にだろう。まさか取材と言う訳ではあるまいと早苗は考えた。

しかし、その単語を聞いて露伴の顔つきががらりと険しいものに変わる。

「SPW…………すると、『アレ』なのか?」

「いいや、『アレ』じゃあない。『鬼』のほうだ」

「そうか……」

黙り込んだ二人を見て、彼女はずっとつきまとっていた疑問を聞くなら今しかないと思った。

「すみません、少し……いいですか?」

二人の目がそろって早苗の方を見た。そこで早苗は、まだ彼の名前を知らないことに気がつく。

「えっと…………」

「おっと失礼。紹介が遅れたな。俺は空条承太郎だ。」

「言うまでもないが僕は岸辺露伴だ。」

「私は東風谷早苗です。突然失礼な事を聞くようですが…………その……空条さん、貴方……何か『持って』ますよね。何かその……『幽霊』のような」

「!!」

二人は驚いた。承太郎は咄嗟に、新手のスタンド使いかと身構えるが、露伴がそれを手で制する。

「待てよ、承太郎さん。彼女はスタンド使いじゃあない。さっき読んだからな」

それを聞いて、彼はスタンドによる警戒を解くと、それを無防備に自身の隣に戻した。

「読んだのか…………」

「仕方ないだろ。そういう性なんだよ」

二人の横に、それぞれのスタンドが現れた。

早苗は遂に完全な姿を現したその奇妙な化身をみて啞然とした。それはまるで、漫画の中に出てくる体験のようで、早苗は自身が思っていたより、この世界は珍事に満ち溢れているのだということを再確認した。

「やはり見えるのか。これはスタンドという、精神エネルギーが具現化したものだ。しかし、普通の人間には見えない筈なんだがな……見えるって事はその才能があるって事だろうな……」

「やはり『スタンド使いとスタンド使いは惹かれ合う』……スタンド使いに非ずとも、惹かれ合ってしまったという訳か…………」

早苗には思い当たる節があった。他人に見えない物が視えた。そのことで苦労した経験は数知れずあった。そして、彼女は彼らに親近感を抱いていた。彼らなら、私の思いを理解してくれるかもしれないと、そう考えていた。

「そういう、化身を出すみたいな事は出来ないですけど……実は私、生まれつき神とか妖怪とか、そういう類のものが『視える』んです。恐らくはそのせいかなと」

その言葉を聞いて、岸辺露伴は目をきらりと子供のように輝かせた。そして、彼女に早口でまくし立てた。

「見えるゥゥー!?本当かそれは!?なあ、一体どんな格好してるんだ、神っていうのはさあ!!古代日本の絵とかで描かれてるようなまんまなのか?それとも、結構違ってたりするのか!?是非ともスケッチさせてくれっ!リアリティこそが、作品に命を吹き込むんだ!!」

さあさあと迫る露伴とあわあわと慌てる早苗を見て、承太郎は帽子を深く被り直して静かに呟いた。

「やれやれだぜ……」

 

 

 

 

露伴がやっと満足し、落ち着いて早速自分の部屋に漫画を描きに引っ込んだ頃。早苗は承太郎に、外に散歩にいかないかと誘った。幸い、彼も彼で外ですべき事があったので、彼女がついてくることに異論は無かった。

外に出ると、丁度日が暮れ始めているのがわかった。オレンジ色の夕焼けがあたりを照らしていた。

二人は歩いていく道すがら、他愛もない話に興じていた。聞いたところによると、彼にも丁度彼女より少し年下の娘が居るという。

「……徐倫ちゃん、ですか。いい名前ですね」

「そうか。それは嬉しいな」

承太郎は普段の硬い表情を崩し、小さく笑っていた。どうやら、彼が本当に落ち着けるのは、娘と妻のことを考えているときだけのようだった。早苗は彼の娘にも、是非とも会ってみたいと思ったが、幻想郷の事を考えるとそれは叶わぬ夢のように思えた。

「…………」

「その……できればでいいんですけど……貴方の旅の話、教えてくれませんか?」

「……旅?」

と承太郎は聞き返した。

「別に構わないが……なんだっていきなりそんな事を」

「…………」

早苗は覚悟を決めた。あの岸部先生や、この人なら自分のこと、その境遇を理解してくれるかもしれない。その可能性がある。だから、自分がこれからどうなるのか、彼に打ち明けることで、少しでもその重たい感情を無くそうと思った。

「…………実は私、年内にはこの世界に別れを告げなくてはならないんです」

承太郎は振り向いて彼女を見つめた。

「……別れを告げる?それは、……『死ぬ』ってことか?」

早苗は慌てて違うと手を振った。

「いえ、そういう訳では無いんですが…………別の世界に移り住むんです」

「別の世界……だと?」

承太郎はにわかには信じがたいような顔をしていた。

「幻想郷という、日本の奥地にある場所です」

「げんそう、きょう……」

彼は、その単語に聞き覚えがあった。それのことで深刻に悩む早苗を間近で既に見ていた。だから、その有り得ないような告白を信じた。

「私の仕える神様が仰ってました。そこは、この日本とは隔離された世界。そこに行くことは、この世界から完全に忘れ去られることを意味する……と」 

「…………」

「ねえ、空条さん。私が何故、こんな時期に沖縄に来たか、わかりますか?」

「……さあな」

「…………沖縄は、日本にありながら日本の神々の力が及んでない場所なんですよ」

「……………………」

「私は、私の神様から逃げてきたんです。あの御二方のいない場所で、自分の本当の感情に向き合いたかったんです」

早苗は立ち止まって、月が輝き始めた黄昏の空を眺めた。上を向いて涙を堪える。

「私、行かなくちゃならないんです。正直、向こうで友達が出来るかもわからないのに……。そして、この世界から私という存在が塵も遺さず消えてしまうのが、凄く怖い………………折角出逢った貴方からも、必ず忘れられてしまう……それが、どうしようもないほどに不安なんです…………」

「だから、この感情を私の内から消し去りたいんです…………」

彼はひどく驚いた表情のままだった。早苗は、ああやっぱり、この人でも信じてもらえないのだろうかとがっかりして肩を落としかけた。

「そうか……若いのにな…………そんな事を……」

それまで黙っていた承太郎がぼそりと呟いた。

「……え?」

信じてくれるのかという思いで彼の方を見ると、彼の表情には、今までは無かった物悲しさがあった。

「俺は……旅の途中で、何人もの仲間を失った。この力を以てしても、全く無力だった。ここでもそうだ。この日本で、俺や仲間たちが幾ら頑張っていたとしても、それでも救えない命があった。自分が情けなかったよ…………それから俺は、心の奥底で彼らが死んでいったのはきっと、『運命』だったんだと思うようにしていた。絶対に変えられないものを変えようなんて、不可能だ。だから自分は別に悪くないんだと」

承太郎は沢山の自分が出会ってきた人間を回想していた。同世代だった『法皇』や熱血の『魔術師』、力を貸してくれた『愚者』……彼の叔父、『金剛石』の警察官だった祖父や、そして勿論、『戦車』の気のいいフランス人…………。

「でも、俺は財団の紹介である奴に出会って、そして諭されたんだ。そいつは俺よりずっと年下だった……。若いくせに、しっかりした男だったな。そして、そいつもまた、彼自身の道のりで、大切な仲間の屍の上を歩んで来たと言っていた。やはり、そのことはどうしようもない運命だったのだ、と。そうなる事は、恐らくは出会った時から既に決定されていたのだ、と。」

「でも、その後奴はこう言ったんだ。『自分の定められた道の中で、精一杯足掻くことが大事なんだ』。運命は変わらない……だが、その運命に抗おうとする意思が朽ちない限り、俺達の人生は『無駄』ではない、と」

承太郎は、彼にとても感謝していた。初めは家系にまつわる因縁のせいで彼に出会うのが怖かったが、しっかりと彼に受け継がれていた『黄金の精神』のおかげで、自分自身の生きる目標を再確認できたとおもっているからだ。

「…………」

「俺はそれを聞いて目が醒めたよ。確かに、花京院……俺の友人が死んだのも、ちゃんと意味があったんだと思えるようになったんだ。だから、例えこれから俺の娘や家族が運命に巻き込まれようと…………俺は死ぬまでそれに向き合って戦い続けると決めた」

そう言って、承太郎は優しく微笑んだ。

「俺が何を言ったところで、君がその、遠い場所に行かなくてはならないという事実は変わらないだろう。だから、俺から言えるのはこれだけだ」

「自分の運命に抗え。精一杯、信じる者の為に生きるんだ。」

早苗はいつの間にか涙していた。彼の言葉はあまりにも優しく……彼女の心にかかっていた暗い霧を晴らしてくれた。

 

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