東方幽波紋 〜STAND in GENSOKYO! 作:みかんでない
やっと本編始動です……!
彼女が凍りついた、その刹那。
瞬間、世界が灰色に染め上げられる。音と光が、世界から失われた。動けない早苗だけでなく、家の中の、否、世界全ての動きが停止していた。
「間に合ったぜ」
時が止まる。世界が、光が、音が動くのを止める。唯一カツカツと凍った床の上を歩く足音が響いていた。そして時を止めた男、承太郎は氷になってしまった早苗の伸ばされたままの右手をそっと握った。
「東風谷早苗……君の覚悟は充分伝わったよ。娘徐倫も、君みたいな心の強い女性を目指して欲しいと思う」
彼の表情は子供のように輝いていた。
「久しぶりに時を停めたからな……。3秒か?2秒か?所詮、停められるのはそんな程度だな。だが……」
「いい気分だな。僅か1秒に全てを賭けた、あの頃を思い出すぜ」
彼は早苗に背を向けて、真っ直ぐ壁と向かい合った。
「だがな、やれやれ、勘違いしているようだが、我々は君を見捨てるつもりなど、端から無いぜ。これからこの壁を破るのに、1秒もかからない」
柔らかい壁はいくら叩こうと衝撃を吸収するだけで壊れない。だが、硬い壁なら?凍ってしまった壁なら、ダイヤモンドのように高圧かつ一箇所に集中した衝撃には弱くなる。
「スタープラチナ!!」
そして、彼の精密さと力のスタンドには、充分それが出来るだけの力があった。
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!
屈指のパワーを誇るスタンドの猛攻が、凍って固まった壁に叩き込まれた。
そのまま承太郎はくるりと壁に背を向け、時の止まった世界でちらと腕時計を見る。
「6時か……。なら、これでいい。このまま、時は動き出す……!」
世界に、色と光と音が戻る。全てが、再始動する……!
瞬間、凍った壁にどかんと大穴が空いた。
「はっ!!や、やったぞッ!時を止めたんだな!」
登りかけた太陽の光が、さんさんと家の内側に降り注いだ。吸血鬼は凍っているにも関わらず、その光を受けて赤く燃え、灰と化して空気にさらさらと溶けていった。承太郎と露伴はその残骸を静かに見つめていた。
「また助けて貰ったな」
「ああ」
「何か出来ることでもあるか?僕ってさ、あんまり借りとか作りたくないタイプなんだよな」
「仗助の奴と仲直りするか?」
「それは絶対に断る」
承太郎は心底嫌がっている顔の露伴を見て笑うと、露伴は慌ててそっぽを向き、出てきたようだぞ、と言った。吸血鬼が溶けた後に残ったのは、凍ってしまった東風谷早苗の氷像だけだった。
「全く、無茶なことしやがって……承太郎さんがいなかったらどうなってた事か」
露伴がそう漏らして、つんつん氷をつつき、冷たっと叫んで顔をしかめる。承太郎はふっと笑った。
「だが私はこういうの、嫌いじゃあないね」
「ふん、違いないね」
そうして彼は、小さな赤色の宝石を取り出した。それをその氷に当てると、吸い込まれた朝日のエネルギーが増幅され、熱を伝導させる波となって全体に広がっていく。
「エイジャの赤石……だっけ、それ。なんでも凄い力があるとかなんとか」
「そうだ。かなり小さいがな」
ジョセフ・ジョースターが持つ、かつて石仮面に嵌ったそれとは違い、承太郎が受け取っていたのはとても小さい物だった。それでも、ゾンビを倒したり、氷を溶かしたりするのには充分の大きさだった。
「緋色の波紋疾走(スカーレットオーバードライブ)なんてな……」
承太郎の呟きは、沖縄の澄んだ空に吸い込まれて消えていった。
「ん?なんか言ったか?」
「……何でもない。それより、さっきの借りの事だが、一つして欲しいことがあるんだ」
「おかえり、早苗」
「おかえりー」
「あ、ただいま!」
早苗の様子を見た神奈子は驚いた。早苗の服装が、行く前とは余りに異なっていたからである。
「なんだい、どうしたんだい?そんな雪国に行ってきたみたいな格好して」
「沖縄って、確かあっつい国何だよねー?行ったことないけど」
「ええ、そうです。ちょっと、冷えちゃいまして……」
そういって早苗はきまり悪そうに笑った。
「神奈子様、諏訪子様。私、幻想郷に行きます!」
「なんだい、そんな、改まって」
頭の上にハテナマークを浮かべる神奈子を諏訪子はつついてひそひそと耳打ちする。
「神奈子、見なよ、早苗の顔を。あの瞳を。行く前とは別人みたいじゃないか」
彼女の瞳はあの沖縄の空のように澄んでいた。犠牲の心を伴う強い覚悟がその顔に表れていた。
「……そうだな。全く、何がお前をそこまで変えたのか」
「え、えへへ…………」
「もしかして、恋?」
「こ、こここっこ恋じゃあないですよ!!!そ、それよりお土産持ってきましたから、ほら!」
早苗は慌てて鞄を下ろし、ごそごそと中を探り始める。
「あ、そういえば何だい、それ。パワーストーン?凄い力を感じるわ。お土産?」
早苗の首には、赤く光る太陽の宝石のネックレスがかかっていた。光を吸い込んできらりと十字に輝く。
「これですか?御守りです。忘れないように……って、貰ったんです。」
「はえ〜」
早苗はそれをぎゅっと握りしめて、遠い日本の何処か、あの素敵な人達がいる世界に想いを馳せる。受け入れなければいけない別れが、彼女の瞳を濡らすが、それをがしがしと腕で拭って、早苗は精一杯笑顔を作った。
「……ありがとうございます。私、貴方達のこと、忘れませんから」
しかし、彼女はあのとき承太郎が露伴に何を頼んでいたのかを知らなかった。露伴のスタンドは、その強い精神力と自負から発現したもので、時に、不可能とされる事を可能にする、そんな奇跡のようなスタンドだ。常識をも飛び越え捻じ曲げさせる…………そう、例えそれが幻想郷の掟だったとしても。必ず忘れられるという、きまりだったとしても、である。
そうして露伴は承太郎の空いたスペースに書き込んでいた。
東風谷早苗を、忘れない
早「はい、お土産です」
諏「ん?色紙……?って岸辺露伴ンンン!!??」
この後滅茶苦茶狂喜乱舞した。