東方幽波紋 〜STAND in GENSOKYO! 作:みかんでない
傍に現れ立つ者、スタンド
2005年。
全世界の中心、アメリカ。いつもなら昼のように明るい夜景が煌めくニューヨークは、とても静かな夜を迎えていた。あのエンパイア・ステート・ビルを含めた幾つかの高層ビルが朝から今に至るまで停電しているのだ。マスコミはこの事件を「ビル内のシステム内部の配線コードが劣化により一部損傷していた」「明日までには恐らく復旧できる見込みである」と報じていたが、一部の人々はこれに疑念を抱いた。「高層ビルだけが同時多発的に停電するなんて、そんなことが起こりうるのだろうか」「裏で政府すらも関わりがあり、世界の権力者達が極秘で会談を開いているのではないか」とまで邪推する人間もいた。
実際、それは一つの間違いを除けば正しかった。事件の真相はとある組織が強大な力と莫大な金を行使してニューヨークをまるまる貸し切りにした、というものであったからだ。
しかし、「権力者達が集まる会談」とは全くナンセンスな話だった。この世界の頂点に立っていたのはたった一人の男であったからだ。彼こそは21世紀のはじめ頃に発足したと推定される、組織「天国結社」の長であり、裏でこの世の全てを思い通りに操っていたのである……。
「誰よあんた?」
博麗霊夢はこの、奇妙な出で立ちの不審者をじっと見つめていた。宴会で夜通し騒ぎ、夜が明けた頃からぐっすり眠り始め、いざ目が冷めたら昼になっていた。更に悪い事には横に謎の妖怪が座っていると言うわかりたくもない現状を無理矢理把握すると、霊夢は溜息をついた。
「ねえ、何とか言いなさいよ。名前は?」
水色の装甲と思われる物に身をまとったその男は、じっと命令を待っているかのように無言で座っていた。寝起きだった事もあり、まだ頭がぼーっとしている霊夢は面倒事は兎にも角にも避けねばならぬという思いで一杯だった。
「あー、もうめんどくせ。あんた、ちゃんと自分のとこに帰りなさいよ。私は宴会の片付けしないといけないんだから」
そう彼女が思った、その心の言葉を聞いたかのように男は立ち上がると、文字通り霊夢と一つになった。彼はさっと立ち上がると、霊夢の体の中に消えてしまったのだ。
「えッ」
そして、数秒のあり得る可能性の思考の後、ああそうかと霊夢は納得する。ここは夢の中なんだと。この、あまりにも『奇妙な』出来事は、全部幻だったのだと。彼女は再び眠ることを決めた。時が来れば一緒に騒いでいた奴の誰かが、恐らく妖夢あたりが時計を見て真っ青になって私を起こしに来てくれるだろう。そう思い、彼女は再び目を閉じた……。
「…………駄よ。起き……い、霊夢」
しかしながら、彼女は何者かにまだ赤みが残るほっぺたをぐにょんと引っ張られ、ぷよんとつつかれた。その感触はあまりにもリアルだった。
「起きなさい〜。朝ですよ〜。異変ですよ〜」
そして、その忌々しい呼び声を聞いたとき、霊夢は覚醒した。昨日の酔いがふっとび、意識が急速に戻ってくる。今、彼女の心を満たしているのは不機嫌と怒りであった。またお前か、何してくれとるんじゃと叫びたい衝動に駆られる。何せ、霊夢は知っていた。この声の持ち主が関わってくると、必ずろくな事にならないと。
未だ自身のほっぺたを弄んでいた白手袋を超速で掴み、彼女は本気でその手首をねじ切ろうとした。
「うわ起きていたたたたた!痛い、ちょっと痛いわ、霊夢!許して!私が悪かったわよ!」
その手の主の泣き声を聞いて、彼女はようやくその万力を解除した。白い手は壁の裂け目に瞬時に消え、さするような音が聞こえてくる。
霊夢は起きた。完全に起きた。本当に起きてしまった。ついでに異変もおきた。残酷な真実に、向き合わざるを得なくなってしまった。
「…………すぐ説明しなさい、紫。後宴会の片付け、やっておく事。」
そのスキマ妖怪は理不尽だ、不公平だと文句をぶうぶうたれるが、霊夢の不動明王のような目を見るやいなや直ぐにその無意味な口を閉じると、大急ぎで台所に向かっていった。
霊夢はその間に、周りの倒れて動かない連中を起こしにかかった。
「で?何なのよ、こいつは」
飲み会組と皿洗いを済ませた紫の総勢5人は、またも現れた謎の妖怪を見ていた。よく見ると、体の至るところにハートをモチーフにした飾りがつけられている。
「足がぶれてるし幽霊じゃ無いですか?私が預かりましょう」
こう申し出たのは庭師魂魄妖夢である。彼女は早く帰らないと朝食抜きになった幽々子様がどうなるかしらんという思いでうずうずしていた。
「いんや違うな、こいつはきっと宇宙人だぜ。と言う訳で私の研究材料にさせてもらうぜ」
こうも初対面のものに酷い事をいうのは魔法使い霧雨魔理沙である。彼女はこの不思議な男に対する好奇心を抑えられないようだ。
「いや、これは…………」
何かを言いかけて黙りこくったのは現人神東風谷早苗である。彼女は何か、これについて思うところがあるようだ。
昨日は総勢この四人で宅呑みしていたという訳である。全員が全員朝まで起きていたため、そのまま寝過ごして今は昼となっていた。
「はい、三人ともはずれ。残念でした☆」
ちっちっと指を振る紫にその場にいた誰もが殺意を覚えた。
「いいから、早く説明しないと捻るわよ」
そう霊夢が言おうとした瞬間。謎の男が、突然紫に向かっていく。そして、圧倒的なスピードで彼女の腕を掴もうとした。この間約1秒、全員が一瞬呆気にとられた。そして、霊夢がそいつを止めようとした、その時。紫の腕から何かが出た。ぼやりとしていて実態のない……まるで紐のようなものが、幾本も飛び出てその打撃を防いだ。
「はいぃ!えっとね、先ずこれは幽波紋というものよ。そうそう、貴女達、今程度の能力使えないでしょ?」
それを聞いて霊夢は飛ぼうとするが、不思議な事に浮かばない。まるで初めから飛べなかったかのように、不思議と地面から足が離れなかった。
「あ、私も魔力の器が空っぽになってるぜ」
「……これ、戻るんでしょうね?」
「恐らく、この異変を解決したら戻ると思うわ。えっとね、それでその能力の代わりに一人一つ授かった能力が幽波紋よ。その今でてるのは霊夢の能力ね」
霊夢は試しに、謎の男を動かそうと試してみる。確かに、自分の思った通りに動かせるようだ。
「ということは霊夢さん、また紫さんに物騒な事をしようとしてたんですか……」
霊夢は可愛く舌を出して誤魔化した。
「でねぇ…………何か、異変の影響でおかしくなっちゃった連中がいるらしいのよね。それは一度気絶させたら解除できるから、大変心が痛むこともあるかもしれないけど、ここにいる人達にはそれをお願いしたいの。私は異変の調査しなきゃいけないから。実はもう、大方検討はついてるんだけど、ちょっと戦力不足かなと思ったりして。実戦経験がみんな足りて無いのよね〜」
「紫様、他の奴は貴女の話を聞いてませんよ」
そう妖夢に言われ、霊夢達の方を見ると、彼女らは早速新しい玩具での遊びに興じていた。
「じゃんけんぽん、あっち向いてほい」
「だっははは、いいなそれ。私もやりたいぜ」
「究極の一人遊びですね」
ぷいっと霊夢が指した方を向く彼女の幽波紋を横目に、紫はため息をついた。
「あーもう、いいわ。いつも通り異変解決よろしく」
そう言って、彼女はひらひらと手を振って境内から鳥居をくぐって出ていった。
「あら、珍しく紫が歩いて帰ってるの見れたわね」
「紫さんのように強大な能力を無くした妖怪は結構きついでしょうね。恐らくあの紐みたいなのが彼女のスタンドでしょうし、あれにスキマ程の力があるとは思えません」
「何だあ妖夢、いつになく強気じゃないか?お前さんの能力なら今の紫に勝てるってか?」
「そ、そういう訳では……」
「いいから私らに見せてみろよ、スタンド」
尻込みする妖夢を見たのか、早苗が突然立ち上がった。
「やめましょうよ、魔理沙さん。こういうものは、他人に軽々しく見せるものじゃないんですよ」
「でもよぉ~」
「はいはい、不毛な争いはお仕舞いにして、さっさと誰かしらをぶん殴りにいきましょうよ」
「でた、異変時のバーサーカー霊夢」
「どらぁ」
こうして、いつも通り四人は別れて霊夢は何時もの勘で妖怪の山を、魔理沙は知識収集の為大図書館がある紅魔館に、妖夢と早苗は各々の主人の安否確認のために白玉楼と守谷神社に行くことに決めた。
霊夢は一人、心の中で思う。
「何だろう……。何時もの異変とは決定的に異なる何かを感じるわ。もしかしたら、過去一危険な異変かも知れないわね」