東方幽波紋 〜STAND in GENSOKYO! 作:みかんでない
マジシャンズ・レッド
STAND USER パチュリー・ノーレッジ
破壊力 B→A
スピード B→C
射程距離 C
持続力 B
精密動作性 C
成長性 D
エアロスミス
STAND USER 霧雨魔理沙
破壊力 B
スピード B
射程距離 数十メートル→十五メートル
持続力 C→B
精密動作性 E
成長性 C
魔理沙は思った以上に見つからず、パチュリーは図書館の最深部までやって来ていた。ここまで来ると、だんだん本棚もとい遮蔽物が増えてくる。魔理沙は思ったより、この図書館について学習していたようだ。まあそれは専ら、泥棒後の逃走経路の確保の為だろうが。
とはいえ、パチュリーはこの図書館で魔理沙とは比べ物にならない程の時間を過ごしており、流石に彼女よりはこの場所について知っている自負があった。
「出て来なさい。私の『庭』で私から逃げられるとでも思っているの?」
素直に投降したほうが身の為よ、とパチュリーが言おうとしたその時。ダダダダダ、と弾丸を発射する音が後方の頭上付近から聞こえる。エアロスミスが彼女の死角に潜んでいたのだ。この不意打ちにパチュリーは少し驚いたものの、冷静に幽波紋を出して対応する。
「ッ!M・レッド!」
彼女の背後には、本棚からその機体を半分だけ覗かせ、機銃から硝煙をあげるエアロスミスの姿があった。それはパチュリーの真上に飛び出すと、今度は反対側から、また違う方向からと移動しながら攻撃を仕掛けてくる。素早く、また絶え間なく方向転換している筈なのに、しっかりと着弾箇所を彼女一点に絞って弾丸を掃射してきた。流石のパチュリーも、余りのスピードと激しさにマジシャンズ・レッドで完全に防ぐことが困難になってくる。
「むう…………私のマジシャンズ・レッドはパワーはあるが、スピードは恐らく奴以下……」
そして、彼女は攻撃に転じた。
「ならば……これを喰らえ!レッドバインド!!」
鳥男の燃える腕から放出された数本の火の縄が機体に向かって飛んでいくが、真紅の機体は難なくそれを回避してみせた。実際の戦闘機には出来ない精密な動きをするあたり、鳥や虫の類に近いのではないかとパチュリーは思う。
「やっぱり魔理沙!貴女、観ているわね……」
彼女が辺りを見渡し、気配を探る限りでは、魔理沙がいるのは感じられない。しかし、正確に狙いをつけてくるということは何らかの方法で見ているということ。それが、パチュリーには見つけられない。わからない。
マジシャンズ・レッドが被弾するのも時間の問題と思われた。
「フフフ……中々やるわね、魔理沙」
ところが、そんな窮地に立たされても、パチュリーはその笑みを崩さなかった。
「まさか私から、M・レッドの隠された能力を引き出すなんて、思いもしなかったわ」
そういった直後、彼女はぼやりとその場から姿を消した。ゆらゆらと揺れる空気が、その場所に留まっている。
この彼女の透明化は、決して魔法や第2のスタンド等では無いッ!
パチュリーに発現したスタンド、マジシャンズ・レッドの真の能力である!!
それを説明する為には、二層のコップによる、物質の透明化について知っていなければならないだろう。
サラダ油を入れたコップに、水を入れたコップを沈める。その二層のコップの水が入った方に物を沈め、横から見ると、物が消えるッ!!
これは、物質の屈折率を利用した科学マジックだが、これこそが、この透明化の原理なのだ。
彼女の周囲、ほんの2センチ程の空気を超高温に引き上げることによって、光の媒体としての気体の屈折率が変化し、ほんの一瞬、彼女が見えなくなる状態が作り出せるという訳である!
そしてこれは、彼女の叡智と、人外としての耐久性、出力する温度の微妙な調整があってこそ、初めて成立する技なのである!!
「屈折率変化は温度でも起こるッ!これが私の不可視の結界だ!探知できるものなら探知してみなさい、魔、理、沙!」
空気に溶けた彼女はゆっくりと後退し、場所を変える。この技は破れない、そう彼女が確信していたその次の瞬間だった。
「下がっても無駄だ!」
パチュリーに向かって、エアロスミスの弾丸がまるで見えているかのように狂いもなく飛来する。その一発が彼女の肩を貫き、パチュリーは色々な感情が混じった声をつい漏らした。
「ッ!!」
慌てて飛んでくる弾丸を焼いて消滅させながら、息を整え彼女は考える。
「落ち着け、落ち着け私…………!『精神』だ。この戦い、心を乱された方が負ける……動揺なんてしたら、私の敗北だッ!!」
吸って、吐いて、怪我の治りを促進させる。大魔法使いの頭脳が回りだす。
「観えないのに、位置がばれている……つまりこいつは観ているのでは無い……奴のスタンドは、恐らく『何か』を探知している。私の存在を証明する『何か』を!」
そうこうするうちに、追撃はどんどん激しくなる。
「観える……観えるぞ」
霧雨魔理沙は、本棚が並ぶ図書館の奥深くに陣取っていた。彼女の右眼前には、探知機のような物が空中に静止していた。それは俗にレーダーと呼ばれるものである。周りを探知する針が丸いレーダーの半径となって動き、ある一点を通るとぼわんと小さく反応していた。
「撃ちまくるってだけじゃあ無いんだぜ……これが私の、もう一つの能力!」
「二酸化炭素を探知するッ!お前の位置は丸わかりだぜ、パチュリーッ!!」
霧雨魔理沙は、彼女の能力を単に生物の呼吸を探知するという使い方だけで無く、二酸化炭素を出すものを探知するという点で有効活用していた。
「『燃える』ってことは呼吸と同じで、二酸化炭素がでているってことだ……かつ奴の飛ばす炎は勢いや形が呼吸のそれと違うから、見えなくても観えるんだぜ」
エアロスミスの旋回速度を徐々に速める。先程標的に着弾したような、掠ったような感覚があった。
「このままどんどん加速させて、一気に仕留める!」
魔理沙が自身の勝ちを確信した、その時である。
突然、二酸化炭素を検出するレーダーが壊れた。魔理沙は自身の身体に異常が無いことを確認する。本体のダメージはスタンドのダメージであり、スタンドのダメージは本体のダメージであるからである。それにも関わらず、探知機は狂ったかのように明滅し続けた。
「な、何だこれはァーッ!」
レーダーには、つい先程までパチュリーの呼吸による一点しか表示がされていなかったが、今では大小問わず無数の二酸化炭素検知反応が点滅していた。
「分身したのか!?いや、まさかそんな事は無いだろうが……」
もう一度レーダーをよく見ると、反応がある場所とない場所が極端に分かれていることに彼女は気づく。そして、その反応が無い場所の形から、魔理沙はこれが恐らく本棚であると推測した。
「でも、何故本棚だけが検出の対象外になってるんだ?」
そう考えながら、彼女は思わず羽織っていた上着を脱いだ。それは突然の、全く脈絡が無い行動だった。
「なっ……上着を……脱いでいた……?」
自分でも無意識のうちに、である。しかし、彼女の肉体は既に異常事態に気がついていた。額から玉のような大粒の汗がぽたぽたと垂れる。そう、彼女の上着を脱がしたもの…………それは異様なほどの高温だった。瞬間、彼女は全てを悟る。炎の魔女がいったい何をしでかしたのかを。
「馬鹿なッ!!死ぬ気か、あいつ!?」
滝のような汗が流れ落ちる。それは異常な温度によるものなのか、それともパチュリーがした事に動揺したからなのか、彼女にはわからなかった。魔理沙は絶叫した。
「うおおおアァーッ!!」
パチュリーの周りは火の海だった。彼女は燃え盛る炎の中に、一人で立っていた。
「全てを燃やす……これが私の覚悟だ」
彼女は、万が一に備えて本棚に耐火の魔法をかけておいた過去の自分に感謝した。
「本は乾燥した紙の集合体……当然火事とは縁が深い訳だけれど、こんな形で役に立つとはね」
その間にも、火は廊下を舐めてどんどん燃え広がる。人間である魔理沙が、温度に耐え切れなくなって飛び出して来るのはもはや、時間の問題だと思われた。
「恐らく、奴が探知しているのは温度か二酸化炭素…………人間と炎、どちらも探知できるのはそれしかないはずよ」
その時。空中で静止していたエアロスミスが突然動いた。ぐるぐると図書館をすごいスピードで飛び、機関銃を発射状態にして射線上のものをぐちゃぐちゃにしながら飛んで行く。弾丸の一発がたまたまパチュリーの方に向かってくるが、彼女はそれを難なく焼き尽くした。やはり、魔理沙はパチュリーを捉えることが出来なくなったようだ。彼女は安堵の笑みを漏らした。
「可哀想な魔理沙…………貴女は私に負けたのよ。そんなやたらめったら撃って私を倒そうなんて、哀れ過ぎて笑っちゃうわ!」
エアロスミスの操縦は次第に狂っていき、その翼や機体が壁や本棚にぶつかってボロボロになっていった。次第にその速度は落ち、少し離れた本棚の一角に帰還していく。そして、そこから魔理沙が姿を現した。彼女の服はいたるところが破れ、そこから覗いた素肌もかすり傷だらけだった。パチュリーは勝利の笑みを浮かべた。
「遂に無様に出て来たわねぇ、魔理沙。もう人間では耐えきれないかしら?」
「ああ…………炎とは畏れ入ったよ」
「やはり私の推理は当たっていたようね」
魔理沙は何も言わず、俯いてパチュリーの方に近づいていった。
「さあ、殴って再起不能にしてあげるからこちらにいらっしゃい。あ、それとも、炎で焼いてあげようか?うふふふふふ」
「…………本当に凄い覚悟だ。それでも、探知できた事に変わりはないぜ」
魔理沙は驚くべきことをさらりと言った。
「……は?」
パチュリーのこめかみに青筋が浮かぶ。
「あんた馬鹿なの?私は一発も被弾してないわ!!何を探知したっていうのよ!それとも、高熱で頭までやられちゃったのかしら!?」
魔理沙はもう、幽波紋も出さずに無言で立っていた。パチュリーは暑さと苛立ちで我慢の限界を感じた。
「もういいわッ!喰らえ!!マジシャンズ・レッド!!」
彼女の幽波紋が燃え盛る拳を固め、魔理沙の腹を貫こうとパンチを繰り出した。
その時である。パチュリーは鈍い、微かな音に気づいた。炎がパチパチと爆ぜる音のせいで聞こえなかった程の小さな音だ。何かが壊れたような、そんな音がしていた。
「探知できたんだ……それも、あんたが炎を満遍なく撒き散らしてくれたから、探知できた……」
何かが崩落するような音が次第に強まっていく。
「これは何をしたッ!何をしたのよォォーッ!!」
「燃えている中で燃えていない場所がある…………それだけは探知できたんだ!だからエアロスミスの弾丸と体当たりで無理矢理破壊したッ!!」
慌てて彼女が周りを見わたすと、そこにはのしかかって来る巨大な2つの本棚の壁があった。
「不味い、戻れマジシャンズ・レッド!!」
彼女の幽波紋は、魔理沙を殺すことを断念して彼女のそばに大急ぎで戻り、その両腕でがっしと巨大な本棚を支えた。
「むぐぐぐ……」
パチュリーは苦しげな声をあげる。スタンドの筋肉がぷるぷると震えた。魔理沙は、つかつかと歩いて彼女に近づいた。いつの間にか、彼女の頭上にはエアロスミスが出現していた。
「お前のスタンド如きに何が出来る!また炎を出して溶かしてやるわよ!!」
魔理沙はちっちっと指をふった。
「既にお前の両腕は固定された。これがどういうことか、わかるな?」
パチュリーは自身のスタンドが、本棚を支える事に手一杯なのに気が付いた。こんなにも暑いはずなのに、彼女の顔面は蒼白だった。
「つまり、私の精神力の勝ちってことだぜ。それじゃあな…………」
「ボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラ!」
魔理沙の弾丸がパチュリーを貫き、彼女は自身の両腕に、エアロスミスを着艦させ、呟いた。
「Volare via……」