S級ヒロイン【金色の闇】   作:カンさん

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エピローグ『金色の闇』

「95……96……97……98……99……100」

「──っハァ!ゼェ……ゼェ……」

「はい、水です」

 

とある地にてキングと金色の闇が居た。

キングはサイタマから教わった筋トレをこなし、それを金色の闇が監視している。

汗だくだくなキングは、水を受け取るとゴクゴク飲み干して一息つく。暑い場所かつ運動不足だからかすぐに疲れる。それが却って良いのかもしれないが。

 

「しかし、良かったのですか?」

「ハァ、フウ……何が?」

「いえ。サイボーグ化や肉体改造など、私のツテがあれば比較的早く力を手に入れる事が出来ると思ったのですが……まさか選んだのがあの男の言う筋トレとは」

「イヴは反対?」

「いえ。地道にやるのが一番だと思います」

 

しかし彼女の中で一つだけ懸念があった。

それは、もしキングが頑張ってサイタマと同じ力を手に入れたとしても失われるものは中々に大きい気がした。

ハゲたキング。それを思い浮かべ……とりあえずサイタマを武力以外の方法で泣かしてから受け入れよう。そう決めた。

 

「あとはランニング10キロだっけ」

「はい。その後はサイタマの下へ向かいます。あの盗っ人のハゲチャビン。せっかく私が新記録を出していたと言うのに……!」

「サイタマ氏と仲良くなれそうだよね、イヴ」

「はぁ!?私があの男と!?殺し合う関係なら納得しますが、仲良くはなれませんよ!」

 

彼女の中にあった蟠りを壊してくれたとはいえ、サイタマには圧倒的にデリカシーと言う物がない。

あの戦いの後、『ガキなんだから背伸びするな』とダークネス化した彼女を鼻で笑って言ったのだ。それ以来、彼の名前が出る度に彼女の口からは悪態の言葉が出てくる。今までの彼女から想像できない反応だ。

 

ちなみにツンデレ?と聞いたらガチで怒り出したのでそれ以来言っていない。

 

「では、ランニング開始しますよ」

「うん、わかった」

 

雑談は終わり、彼らは走り始めた。Z市に向かって。

その道中、彼女はここ数日の事を思い出す。

 

 

 

「アンタ、また協会からの勧誘を断ったらしいじゃない」

 

仕事終わり、怪人と遭遇し退治した後タツマキと出会った。「アンタ宇宙人の時勝手に帰ったでしょ」と何故か難癖付けられ、結局ダークネスを使って軽く戦った後、前回よりもボロボロになったタツマキが尋ねてきた。

それに汚れた服を払って綺麗にしていた金色の闇が素直に答える。

 

「えぇ。私は今の生活が気楽ですし、ヒーローになれるとは思えません」

「……そうかしら。私ほどじゃないけど、アンタ強いじゃない」

「ええ、まぁ。強さなら自信があります。しかし、ヒーローに最も必要な物がありませんから」

「……必要な物?何それ?」

 

怪訝な表情を浮かべるタツマキに、金色の闇は穏やかな表情を浮かべる。

 

「いつか教えてくれる存在が現れますよ。……それが王なのか、最強の男なのかは分かりませんが」

「???」

 

もっとも、王が力を得るには時間が掛かりそうだ。

 

 

さらに別の日。

 

「っ……なるほど。S級に抜擢されるだけはあるね」

「貴方もA級以上の力を持っていますね。アマイマスク」

 

背後に気絶した犯罪者を拘束し確保していた金色の闇。その前には膝をつくA級一位ヒーローが居た。

ターゲットを潰されそうになった事により戦闘に発展した二人。激闘の末良い一撃がアマイマスクの腹部に直撃した。

金色の闇はこの隙にターゲットを連れて立ち去ろうとするが、それをアマイマスクが呼び止めた。

 

「ヒーローにならない力は……いずれ悪となる」

「……」

「タツマキとやり合ったのだろう。協会は、日々強くなる君に危機感を抱いている。君が討伐対象となる日は近い。このままヒーローにならないのなら……!」

 

そして、その時に正義を執行するのは僕だとアマイマスクは言う。

しかし、彼女はその言葉に全く動揺せずこう答えた。

 

「構いません。守って貰いますので」

「──なんだと」

「私のヒーローはもう居ますから」

 

彼女は約束を違えない。忘れない。その日を待ち続けるだろう。

言いたい事は言った。後は立ち去るのみ。しかしその前に彼女はアマイマスクに言う。

 

「最強のヒーローは居ますよ」

「……は?」

「いつか皆の前に現れます」

 

それまでお楽しみに。

その言葉を最後に、彼女はアマイマスクの前から消えた。

 

 

 

そして現代。

 

「ゼヒィ……!ゼヒィ……!」

「ほら、がんばれがんばれ。後もう少しですよ」

 

全力疾走をするキングの隣を走りながら、彼に声援を送る金色の闇。

苦悶の表情を浮かべてランニングをする強面の男と可愛らしい少女が並走している光景は控えめに言ってシュールである。

 

「なん、か……えっち……ぃ……!」

「……」

 

彼女にその気は全く無いが、元々の存在がハレンチな世界の住人だからか、キングの男を刺激してしまったのだろう。心なしかキングの走るフォームが崩れる。

それを無表情で見た金色の闇が髪を竜の頭部へと変え……。

 

ガチガチガチガチ。

「え、ちょ、危ない。それ危ないって〜〜!」

 

無言でキングの尻の近くで歯を鳴らし続けた。少しでも速度が下がれば噛み付かれるギリギリまで調整して。

悲鳴をあげるキングには聞こえないだろうが、彼女はしっかりと答えた。

 

「えっちぃのはキライです」

 

 

 

サイタマの住むアパートにたどり着いたキングと金色の闇。何故か焦げ臭かったり地面がえぐれていたりと、明らかに先程まで戦闘があった事を匂わせるが……。

 

「留守で無ければ良いのですが」

「そうだね」

 

二人は気にしない。サイタマに万が一の事は無いと理解しているからだ。

階段を登り彼が住んでいる部屋に辿り着く。そしてインターホンを押して扉を開いて中に入った。

 

「お〜いサイタマ氏。もしかして俺のゲーム持って帰ってない?」

「!?キ、キキキキキキキング!?」

「即刻返してください。漸く記録更新できそうなんですから」

「!?!?こ、金色の闇!?お姉ちゃんが言ってたあの!?」

 

何やら客人が居るようだが、彼らの目的はサイタマだ。

その当の本人は全力で目を逸らしている。

 

「ごめん、持って帰った……」

「ヒーローともあろうものが、人の物を持って帰って良いのですか?」

「いや悪かったって」

「俺は別に良いよ。返してくれれば」

「データ消した……」

「「なんて?」」

 

そして差し出されるのはボタンが潰れているゲーム機。ちなみにデータはない。

もう一度言おう。データはない。

金色の闇が、10時間掛けた記録が無い。

 

「……ハゲチャビン」

「ハゲチャ!?」

「自分の髪の毛消されたからって、人のゲームのデータ消す事無いじゃないですか。もう戻りませんよ。データも……そしてアナタの髪も」

「うるっせぇなぁ!分かってるよ!それに謝っただろ!」

 

自分が悪い為強く出れないサイタマ。そんな彼を言葉でチクチク攻めていると、我慢ならない者が居た。

 

「おい貴様。黙って聞いていれば先生を侮辱して……何様のつもりだ」

「S級のジェノス。貴方は黙っていてください。このハゲチャビンには常識を教えないといけません」

「また侮辱を……!先生の頭部に可能性が無いとは言い切れないだろう!」

「ジェノス、それフォローになってない」

「無いですよ。ほら」

 

そう言って金色の闇はハンカチでキュッキュッとサイタマの頭を磨いた。

瞬間、ジェノスの瞳が怪しく光る。

 

「おいクソガキ。外に出ろ。教育してやる」

「良いですよ。あなた、色々と嗅ぎ回っているようですし」

 

二人が外に出ていくのをサイタマとキングが見送った。そして同じことを思った。

 

あの二人、仲悪くなるの分かり切ってたなぁ。

 

外から戦闘音が響き始めるなか、キングは床に座る。どうやら戦闘が終わるまで居座るようだ。

データ消した手前強く出れないサイタマは、何も言わずに座る。

 

「頑張っているみたいだな」

「あ、分かる?」

「ああ。……ちゃんと守ってやれよ。約束したんだからな」

「うん、分かってる。……ありがとうサイタマ氏」

「俺は何もしてねーよ」

 

──これが、彼らの新しい日常。

キングはいつか本当のヒーローになるだろう。彼女が憧れる本当のヒーローに。

そしてその時、漫画やアニメ好きな彼は金色の闇の事をこう呼ぶに違いない。

S級ヒーローを支え続け、いつも側に居てくれる存在。

 

 

S級ヒロイン、と。

 

 

 

(サイタマの弟子がジェノスで、キングの弟子?が金色の闇!?そしてサイタマとキングが仲良くて、それってつまり──どういう事ぉ!?)

 

一方、蚊帳の外にいるB級一位のフブキさんは絶賛混乱していた。

 

 




ご愛読ありがとうございました。
後書きにこの作品に対するアレコレを書こうと思いましたが、まとめきれないので
まとめ次第匿名解除してから活動報告にでも載せておきます。

カンさんより。

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