S級ヒロイン【金色の闇】   作:カンさん

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第一話『キング』

「さて……これであらかたの荷物は運び終わりました」

「あ、ありが──ゲホッゲホッ!」

「……お礼は息を整えてからで良いですよ」

 

 さて、休日の昼下がり。

 本来なら、私は賞金首を狩りに、彼はゲームでモンスターを狩りに行くのですが……。

 今日はM市の高層ビルに引っ越しだ。

 前に住んでた街は、私が留守の間に現れたという巨人によって壊滅した。……本当にこの人の災害を呼び寄せる体質はすごい。もはや一種の能力だ。

 以前、私の仕事に使えるかと思ってターゲットのいる街に連れて行ったら、数秒で見つける事ができました。というよりも向こうから来ました。

 初めは使えると思ったのですが、放置してると関係ない怪人がわんさか湧いてくるのでいらない作業が増えてプラスマイナスゼロ。

 それ以降は協力して貰わないようにしたのですが……。

 

「それにしても……本当に体力がありませんね」

「ひ、引き篭もりだから……」

「情けない……」

 

 しかし、言葉と裏腹に私はそこまで落胆していなかった。

 だって、彼が凄く弱いことは誰よりも知っているのだから。

 災害レベル虎未満の怪人に涙を見せるくらいだし……。

 ただ、最近はポーカーフェイスを覚えたのか、もしくは恐怖体験を経験し過ぎて表情筋が若干死んだのか、よっぽどな事がない限り取り乱す事がなくなった。心臓の音は相変わらず聞こえるが。

 これにより、小心者や頭の悪い怪人は勝手に萎縮し逃げる事もちまちまある。

 

「それにしても、住所を変えたのに手紙は相変わらずに来るのですね」

 

 運び込んだ家具や私物を変身能力で作った無数の手で片付ける。その後にダンボールに詰め込まれた手紙を見てため息。

 ここ最近、彼の下にたくさんの手紙が届く。

 その手紙の内容のほとんどが、彼への感謝の気持ち。つまり、彼のポーカーフェイスに騙されているのは、何も怪人だけではないのだ。

 彼が怪人の被害に遭い、どうにか生き延びて、そして何故か彼が倒した事になる。これの繰り返し。それによって、彼はどんどん一般人からかけ離れていく。

 

 彼も手紙を見て苦い表情を浮かべる。私が来る前は満更でも無かったようだが、ここ最近は辟易しているようだ。

 まぁ、髪やら爪やら、血がついた布が同封されていれば気分も悪くなるだろう。

 

「今回はどうします? 見ずに全部燃やしますか?」

「そうだなぁ……ん?」

 

 ふと彼が何か見つけたようです。たくさんの手紙の中から一つ取り出すのは、なんだか会社から届くようなきっちりとしたもの。

 明らかに個人が送ったものではない。送り主は……って。

 

「ヒーロー協会?」

 

 あのストーカー集団ですか……もしかして私の居場所がバレた? 

 と思ったのですが、それは杞憂のようで宛先は彼のようです。

 しかし……。

 

「え……あへ……なんで……?」

「……?」

 

 目を大きく開き、心臓の音を煩く響かせている彼の背後に回る。そして彼の持っている手紙を読むとそこには……。

 

【人類最強の男キング様へ。

 貴方様の数々の功績を称えて、S級ヒーローの称号をここに送ります。

 最強の新人ヒーローの誕生に私達人類はより一層平和に向かって──】

 

ビリビリッ!! 

 

 そこまで読んで私は思わずその手紙を……いや、協会曰くヒーローの証を破り捨てた。

 彼が「ちょ、なにして」と冷や汗を流しているようですが……少し冷静になれないですね。

 

「ヒーロー協会はいつから個人にヒーロー(厄介事)を押しつける程偉くなったのですか……?」

「お、俺に言われても……」

「ああ、いえ。あなたに言った訳ではありません。彼らのあまりにも横暴な対応に頭にきただけですから」

(留守の時に電話で何度かスカウトされて、ちょっと乗り気な態度を見せた事は黙っていよう……)

 

 しかし、これはマズイですね。この紙切れを破ろうと、恐らく既に事態は取り返しのつかないところまで行っていると考えた方が良い。

 私の存在はバレていないが、彼の新しい住所は既にバレている……いや、動向を監視されていると考えた方が正しいか。

 

「……しばらくは家の外に出ないでください」

「お、おう」

 

 私の言葉に、彼は頷いた。

 

 

 そして次の日。

 私はいつも使っている力の上限を一部解放し、外に出る。そしてすぐに市街地にあるカメラの死角を通って裏路地、ビルの屋上を使って街の中心地へと向かう。こうしないと協会に居場所がバレるかもしれないですからね。

 さて、街に入って目に映るのは彼の顔写真と新人ヒーローの文字。

 

『ヒーロー協会は次のように述べています。

【我々は今までの彼の働きに甘えていた。しかし、それではいけないと思い、彼のこれからの活躍を支持する為、S級ヒーローとしての地位とその神がかった強さに敬意を込めて【キング】と呼び──』

 

「キング? 新しいヒーローか?」

「おい! あれあの人見たことあるよ! 確かこの前の巨人を倒したって話だ!」

「確か、他にもA市に現れた災害レベル竜のヤバい奴も倒したらしいよ」

 

「やはり、遅かったですか」

 

 危惧していた通りの事が起きていた。

 既に世論への情報操作は始まっていた……いや、終わっていると言った方が良いだろう。

 どうやら、ヒーロー協会は一般の方々と同じ様に彼の奇跡の様な勘違いに惑わされ、そしてそれを信じ込み、自分達の許へ引き入れるつもりらしい。

 ……ここまで強硬な手段に出るという事は、協会は彼のことを警戒している? 

 むしろこれ以上話がこじれたら、協会の全戦力が彼の許へ殺到するのかもしれない。協会が梃子摺る怪人を容易く倒す存在だと認識しているのだから。

 つまり、彼に残された道は──。

 

「虚構の最強ヒーローになるか。闇に葬られるかですね」

『オロロロロロロ』

 

 懇切丁寧に現状と私の予想。そして確定されてしまった未来を伝えたところ、彼は現実に押し潰されていた。思わず携帯を耳から遠ざけてしまった。

 しばらくして「……どうしたら良いかな」と弱々しい声が聞こえた。

 

「当面は騙し続けるしかないですね。貴方の好きな漫画やアニメの様に力に目覚める……なんて展開が無い限り」

『うぅ……なんでこんな事に……!』

「自業自得だと言うには、少し世界が残酷ですね……」

 

 日常的に怪人が現れる世界で、それに巻き込まれる不幸体質なんて厄でしかない。

 

「とにかく、これからあなたはキングになってください。民衆とネームバリューに怯える弱い怪人相手には」

 

 実態はどうあれ、それで『キング』は仕事ができる。勝手に怯えられて、勝手に感謝する。そんな単純な奴らにはそれで十分だ。

 

「しかし、それ以上の敵は……」

『それ以上の敵は……?』

 

 ──私の出番だ。

 

 

 

 

 ヒーロー協会が新たに発表した最強の新人ヒーロー【キング】。

 大々的に宣伝されたこのヒーローの存在に──世界は大きく揺れた。

 

 U市に現れた大量の災害レベル虎の化け物たちを一瞬で消し炭にした。

 O市の山奥に眠っていた古代の生物が目覚めた際には、光り輝く巨大な刃で真っ二つにした。

 R市に現れた災害レベル竜の怪人と死闘を繰り広げ、しかし翌日には無傷で自宅へ帰還した。

 

 その他にも様々なキングの活躍が、民衆達へと語り継がれていく。

 そしてその武勇伝はいつのまにか、彼と同業者であるヒーローの耳にも届き始めた。

 

「へぇ……良いねこのキングって男。ストイックに正義を執行するその姿には好感が持てる」

 

「……は? 次に討伐予定だった災害レベル竜の怪人もう倒されたの? ……は? キング? また? ……へぇ、私以外にも強い奴はいるのね」

 

「ほう。シルバーファング以外にも面白い奴が居るな。機会があれば斬り合ってみてぇな」

 

 それと同時に怪人達の間でも、彼の名が知れ渡る。

 

「キングってヤバいヒーローが居るらしい」

「俺も聞いたことある。災害レベル関係無しに倒すらしいぞ」

「戦闘スタイルは?」

「分からん。気がついたらみんなやられてる」

 

「……災害レベル鬼以上だけを集めようと思っていたが……。

 キング、か。厄介な奴がヒーローになったものだ。

 質だけではなく数も揃えるか」

 

 そしてそれ以外の勢力にも。

 

「地底王や天空王が警戒するだけの事はあるようね。キング……私達と同じ【王】の名を持つヒーロー……。油断ならないわね」

 

「人類最強の男……この男を調べれば、新人類への道が……。

 いや、もう少し様子を見よう。相手は一筋縄ではいかないようだしな」

 

 かくして、S級ヒーロー・キングは破竹の勢いで順位を上げていき──僅か数日で7位となった。

 

 

 

「S級7位おめでとうございます」

「や、やりすぎだぁ!?」

 


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