「協会からの緊急招集ですか?」
「ああ……何でも、S級ヒーローは必ず来て欲しいって」
タツマキ襲来から数日後。
何とかお互い目を見て話せるまで回復した金色の闇とキング。
別に話し合ったとか何かキッカケがあったとか、何かしらのイベントが起きた訳でもなく。
時間が経てばいつも通りに過ごす事ができただけだ。
そして、キングの下へ届いた一つの封筒はヒーロー協会からのもので、先ほどの言葉通りの文字が書かれていた。
「拒否する事は……できそうに無いですね」
「うん。絶対に来てくれって書いてあるし」
「まぁ、今日は特に予定無いですし、行っても良いと思いますよ? 私は、本部基地近くで適当に時間を潰しておきます。終わったら、連絡してください」
「あ、うん。分かった」
──そういう訳で、キング達はヒーロー協会本部へと向かった。
キングが協会に着いた時点でほとんどのS級ヒーローが到着していた。
つまり機嫌を損ねれば一瞬で彼を消せる人間が何人もいる危険地帯の中に居るという事だ。キングエンジンを鳴らしながら、キングは自分は微生物だと思い込みながら席に着く。そしてできれば目立たずこのままスルーされて会議が終われば良いと思っていた。
しかし……。
(キングだ……)
(相変ワラズデータガ読メン)
(凄いプレッシャーだなぁ)
既に何人かのヒーローにロックオンされてしまっている。
しかし誰も話しかける事なく時間が過ぎ、シルバーファング、ジェノス、そして名も知らぬB級ヒーローが入ってきた。
これにより、2名を除いたS級ヒーローが集結した。
──S級ヒーロー17位・ぷりぷりプリズナー。
(これを機にジェノスちゃんと仲良くなりたい)
気に入った男子を心のメモリーに刻み込み、時々つまみ食いしてしまうヒーローにあるまじき男。最近は、とある賞金稼ぎの少女にライバル意識を持っているらしい。
──S級ヒーロー16位・ジェノス。
(ほとんどのS級が集まっている。それだけの一大事という事か)
ヒーローになる前から悪を殲滅してきた実績を持つサイボーグ。まだヒーロー名は無いが、民衆からの人気は高い。
──S級ヒーロー15位・金属バット。
「鬼でも竜でもオレは行けるぜ!」
バット一つでありとあらゆる怪人を倒してきた超人の一人。協会からの無茶振りによく振り回されている。
──S級ヒーロー14位・タンクトップマスター。
(……? サイタマ? 何処かで聞いたような名前だ)
ヒーロー協会の中で数多く存在するタンクトップ系列のヒーローの元締めである男。本人は己を高める事に熱心な高貴な精神の持ち主だが、舎弟が暴走しがちでイマイチ手綱を握り切れていない。
──S級ヒーロー13位・閃光のフラッシュ。
「……」
目にも留まらぬ速さで怪人を倒す謎の多い武人。先日脱獄した音速のソニックと何やら共通点がありそうで、協会は若干彼の監視を増やした。そしてその事に彼は気づいている。
──S級ヒーロー12位・番犬マン。
(今誰か屁こいたな……)
Q市限定で怪人を必ず全て殲滅するヒーロー。
その動きは野生染みており、まるで本当の犬みたいだ。尚、彼が今嗅ぎ取った屁は、緊張してスカしたキングのモノだったりする。
──S級ヒーロー11位・超合金クロビカリ。
(みんなが俺の筋肉を見ている!? 俺が一番輝いている!?)
筋肉トレーニングのみで強固な肉体を得たパワータイプのヒーロー。
しかしそのパワーとは裏腹に、相手をしてはいけない相手というものを理解し、慎重な行動を心掛けている節がある。
──S級ヒーロー10位・豚神。
「ムシャムシャムシャムシャ」
ジャンクフードを食い散らかす巨漢の男。
いつも何か食べており、少し行動が読めないところがある。しかし、ヒーロー活動はしっかりと行う。
──S級ヒーロー9位・駆動騎士。
「────」
ただジッとその場に居るサイボーグのヒーロー。会議室に入って来たジェノスに興味を示していたが……。
──S級ヒーロー8位・ゾンビマン。
(こいつら協調性無さそうだな……てかあの豚いつまで食ってんだ)
絶対に死なない体を持つ超人の一人で、その正体は進化の家が作り上げた実験体の一つだ。彼は進化の家の施設を破壊した後脱走し、今はヒーローとなって進化の家を探し続けている。既に壊滅している事を知らずに。
ちなみに、金色の闇とはある意味兄妹関係とも言えなくも無い。
──S級ヒーロー7位・童帝。
(あれ。一位の人がまた来ていないんだ。会えると思っていたのにちょっとガッカリ)
10歳にして大人顔負けの頭脳を持ち、数多の発明品でヒーロー協会に貢献しているヒーローだ。かつてはメタルナイトことボフォイ博士の助手だったとか。
──S級ヒーロー6位・メタルナイト。
──欠席。
先日の隕石落下事件にて順位を上げたようだが、どうやら今回の会議には不参加なようだ。
──S級ヒーロー5位・アトミック侍。
(シルバーファングの奴、あの二人に技を教える気か? 俺の弟子達の良いライバルになれば良いが)
シルバーファングにライバル意識を持つ剣の達人。その絶技は一瞬で全てを細切れにする力を有している。シルバーファングが連れて来た二人に興味を示しているようだ。
──S級ヒーロー4位・シルバーファング。
「で? 今回はどういう集まりじゃ?」
流水岩砕拳の使い手の超人ヒーローだ。
隕石落下事件の際に一部始終を見ていた彼は、この場で誰が一番強いのか、最も理解している人物なのかもしれない。
飄々としているが、戦闘になると一切の油断も隙も無い。
──S級ヒーロー3位・キング。
(ヤッベェ……俺って凄い場違い感)
ドッドッドッドッドッドッドッドッドッ。
隕石落下事件を筆頭に数々の功績が認められ、つい先日S級3位の称号を手に入れた男。民衆からは地球上最強生物だと畏敬の念を持って讃えられている。
──S級ヒーロー2位・戦慄のタツマキ。
「知らないわよ! こっちは呼び出されて二時間も待たされてるんだから!」
超能力で数多の怪人を、それこそ強さで大きさ危険度関係なく葬って来たヒーロー協会最高戦力。
今日も協会に呼び出されて機嫌が悪いらしい。
──S級ヒーロー1位・ブラスト。
──欠席。
完全に自由意志でヒーロー活動をし、メディアの露出を一切断つ謎多きヒーロー。
その力を知る者はごく僅かだが、それでもトップの座に君臨し続けるだけの力がある。
そして、人知れずそのブラストと同等以上の力を持つヒーローが此処に居た。
「お茶貰える?」
──B級ヒーロー63位・サイタマ。
この男の存在をキングはこの先忘れる事はないだろう。
正確には、キング達……だが。
「わぁ……! お姉ちゃんありがとう!」
「いえ。どういたしまして」
風船を手に母親の下へ走って行く幼き少女を見送りながら、金色の闇はベンチに座る。
そして、手に持っていた紙袋の中からたい焼きを取り出して口に運ぶ。
「ヒーロー協会本部がある街だと思って来ていませんでしたが……住む人たちは良い人ばかりですね」
たい焼きを買った際にも、店員のおじさんが「おまけだよ!」と言って多目に入れてくれた。そして、それを見たおばさん店員がゲンコツを落とし、そこから始まる夫婦漫才。笑いだす多くのギャラリー。怪人の被害に怯えるこの世の中で、あそこまで穏やかな光景を見たのはいつぶりだろうか。
ヒーロー協会本部の近くだから、その分安心もするという事だろうか。
だから先ほどみたいに木に引っかかった風船が取れなくて泣いてる少女に、風船を取ってあげるという行為をしたのだろうか。
我ながらむず痒いと思いつつも……悪くないとは思っていた。
『そっか……でも、ヒーローにならなくても君は優しいからね。今まで通りで良いと思うよ』
「……最近になって、あなたの言っている事が分かった気がしました。キング」
ヒーローにならないと決めた。
でも、こうしてちょっとしたお節介くらいならしても良いかな?
そう考えていた金色の闇の視界の隅で、足を引っ掛けて転げる少年の姿が見えた。
それを見た金色の闇は、少年の近くに寄ると立ち上がらせる。周りの大人たちもその光景を見ると何人かが鞄から絆創膏を取り出し、何人かは飴玉を取り出す。
「うわぁぁああん!」
「大丈夫?きみ?」
「これ貼るからもう痛くないぞー」
「飴ちゃんあげるよ」
「大丈夫ですか?ほら、男の子が泣いてどうするのですか。これを食べて元気出してください」
金色の闇も同じようにたい焼きを取り出して、少年に差し出す。
すると少年は泣き止んで彼女の下へ行く。周りの大人たちは「やっぱり可愛い子の所が良いよなー」と苦笑した。
そして、金色の闇が穏やかな笑みを浮かべてたい焼きを渡し、少年が目元を赤くさせながらも釣られて笑みを浮かべ──。
次の瞬間。