GOD・A・LIVE 〜雷神と宇宙の欠片達〜 作:青空と自然
5月に入り、夏がその姿を見せ始める。
木々は青い葉を広げ、太陽は地上を明るく照らす。
ソーは1人、見知らぬ街を地図を片手に歩き続けていた。
残るインフィニティ・ストーンを探し始めて間もなく一ヶ月が経とうとしている。
だが未だに大きな進展は無かった。
「はあ、終わりが見えん。一体どこにいるんだ?」
先月からこうして国内を歩き回り、残るストーン達を探しているが一向に見つかる気配が無い。それこそ、向こうがこちらを避けて逃げ回っているのかと考えてしまうほどに、捜索は行き詰まっていた。
始めに天宮市を捜索、次にその周辺の捜索を行った。
それから首都圏へ。この国で1番大きい都市ならばとも思ったが、そこにもいる気配は無かった。
そこで一度情報を整理し、まずは南から捜索していくことに。それが先月の終わり頃の話である。
彼が現在いるのはこの国の中央付近。ここからどんどん南へと向かっていくつもりだが、先は長そうだ。これからこの辺りをを細かく探さなければならない。
彼は一つの地方の捜索が終了するたびに天宮市へと帰るようにしている。というのも、一度帰らなかったことがあるのだが、その時ステラにこっ酷く叱られたのだ。
だが彼は未だになぜ怒られたのか理解していない。
今日の捜索が終わり次第、彼は一度五河家へと帰るつもりだ。
「ふぁー……さて、今日も探すか」
彼はぐっと伸びをすると、地図を確認しながら歩き始めるのだった。
その頃五河家では。
「な、なな、シドー! 何をしているのだ!」
「ち、違う! これはっ……ぐはっ!」
トイレの電球を交換しろと琴里に言われた士道は、トイレの扉を開けたところでパンツを半分下ろした十香と遭遇した。
トイレの電気は正常である。
十香が家に来てからというものまた訓練が始まり、こうしたトラップを仕掛けられていたのだった。
「まだまだね……やりなさい」
そう言って琴里がラジオのスイッチを入れる。
少しすると、ノイズの音と共に〈ラタトスク〉機関員の声が聞こえてくる。
『我々は騙されてはいけない。この汚れきった世界に──』
「ま、さ、か……」
「これは士道が昔書いてたぷふっ、面白い、くくっ、詩の一つよ」
「いやああああぁぁ‼︎ やめてやめてやめてやめてやめて‼︎」
士道は頭を抱えて悶え始める。
「訓練なのだから、当然ペナルティはあるわよ。気を引き締めてもらわないとね」
琴里はそう言って腰に手を当てると、胸を張る。
「はぁ、地獄の始まりだ……」
士道は天井を見ながら、未来を悲観するのだった。
「ねえ、リアー。宿題やったー?」
ステラがテーブルに倒れこみながら聞いてくる。
「あなた、まだやってなかったの? 私は出た日に終わらせたわよ」
「だってー、何だかやる気が起きないんだもん」
ステラは間延びした声でそう答える。その様は萎びた葉っぱのようである。
「彼が居なくなった途端、これなんだから……。ほら、もっとシャキッとしなさい」
リアは彼女の肩を掴むと無理矢理体を起こさせる。
「うわー」
だが手を離した途端、彼女の体は重力に従ってテーブルへと戻って行った。
「はぁ、まったく……。早く帰って来ないかしらね。手が付けられないわ」
体を倒したままノートにペンを走らせるステラを見て、リアは溜め息を吐く。
『いやああああああああああああああ‼︎』
その時、廊下の方から士道の叫び声がした。
「……あっちはあっちで騒がしいし、ほんと、落ち着かない場所ね」
彼女は窓際に腰を下ろすと、先日買ってきた小説を開く。周囲の情報を遮断するにはこれが1番だ。
リアは1人、本の世界へと入って行く。
夕方、士道はキッチンで夕飯の支度をしていた。
「よし、そしたら、玉ねぎをみじん切りにしてくれ」
「わかった」
その隣で手伝いをするのはステラ。
彼女は料理を習いながら、こうして家事の手伝いもしていた。
「あうぅ……、目、目がぁ」
「ははっ」
目を真っ赤にして玉ねぎを刻み続けるステラを見て、士道は苦笑する。
「シドー! 今日の夕餉はなんだ⁉︎」
「おう、十香。今日は特製ハンバーグだぞ」
「おお!」
十香が目を輝かせている。彼女は美味しいものに目がない。この前も、レストランで信じられない量のメニューを頼み、それを1人でペロリと平らげていた。
あの細い体のどこに入って行くのだろうか。精霊とは不思議な存在である、とリビングのソファに座るリアは1人そう思っていた。
その時、家の外で風が巻き起こる音がした。
「お? これは……」
その音に気付いた士道が玄関の方を見る。
「帰ってきたみたいね」
「本当⁉︎」
その瞬間、ステラが玉ねぎを放り出して玄関へと突撃して行った。
「まったく、あの子は……」
そんな彼女の様子にリアはやれやれと呆れ、士道は苦笑する。
五河家の前に降り立ったソーは玄関のドアを開ける。
「ただい「お帰りー‼︎」うおっ⁉︎」
ドアを開けた瞬間に青い何かが突撃して来た。
「おう、ステラか。久し振り、と言っても1週間くらいだがな」
「十分久し振りだよ!」
「そうか? というより、なんでお前は泣いてるんだ?」
なぜか目を真っ赤にして涙を流しているステラに、ソーが不思議そうな顔をする。
「ああ、それはさっきまで玉ねぎを切ってたからだ…………だよな?」
それに答えたのは料理を中断してやって来た士道だった。だがおんおんと泣いているステラを見て違うのかと不安になる。
「お帰り」
「おう、帰ったぞ」
「とりあえず、それはどこかに置いて上がれよ。先にシャワー浴びるか?」
「そうだな。そうさせてもらおう」
ソーはストームブレイカーを玄関の壁に立て掛けると、靴を脱いで上がる。
リビングには十香とリアの姿があった。
「あら、お帰り」
「ぬ、お前は……」
「ふん、久し振りだな」
ソーが入って来たのを目にした十香が警戒の眼差しを向ける。
「こーら、十香。あいつは敵じゃないって、前もそう言っただろ?」
「むぅ、分かっている」
それを見た士道が注意すると、十香は不満そうに頰を膨らませる。
先日から五河家で生活を始めた十香だったが、まだ周囲の人間というものに慣れておらず、他人を警戒しがちだった。
ステラとリアも例外では無く、彼女たちも十香と話せるようになるのには少し時間が掛かった。
特に2人は十香と戦った経験があるため、非常に警戒されていた。だがこのままでは良くないと思い立った2人は行動を開始。
初めは〈フラクシナス〉で、そしてこの五河家に来てからも何度も会話を試み、ようやく警戒心を解くことが出来たのだ。
「シャワーを借りるぞ」
「おう」
ソーはバスタオルを手に取ると、脱衣所の方へと歩いて行った。
「さてと、作業を再開するぞ」
「了解!」
士道とステラは再び料理を再開する。
10分ほどして、リビングにはハンバーグのいい香りが漂い始めていた。
「スンスン、スンスン、いい匂いなのだ」
「はあ、少し落ち着きなさい」
テレビを見ていたリアは、鼻をヒクつかせて涎を垂らしている十香を見てやれやれと呆れる。
「もう少しで出来るぞ」
「私も手伝うわ」
リアは立ち上がると、食器の準備をしにキッチンの方へと向かった。
キッチンではステラが士道の焼いたハンバーグを盛り付けている。
特製というだけあって、とても美味しそうだ。
リアは自分のお腹が音を立てていることに気づき、それを誤魔化すようにいそいそと食器の準備を始めた。
「さ、十香もそろそろ席につけよ」
「夕餉の時間だ!」
十香はサッと席につくと、待ちきれんとばかりに箸を構えている。
「上がったぞ」
ちょうど、シャワーを浴びていたソーも戻って来た。
「おう。すまん、誰か琴里を呼んできてくれ」
「私が呼んでくるわ」
食器を出し終えたリアが答えると、リビングから出て行く。
「今日はハンバーグか。にしても、いつ見ても美味そうな料理だな」
「ははっ、そりゃどうも。今日の料理はステラも作ったんだぞ」
「ほう、ステラがか」
そう言って彼はステラの方を見る。
「き、今日は頑張ってみたから……」
「お前の腕がどれくらい上がったか、楽しみだな」
「びっくりすると思うぞ」
3人とも着席し、あとは琴里とリアを待つのみである。
しばらくして、リアが琴里を連れてリビングに入って来た。
「今日は人が多いと思ったら、帰って来てたのね」
「ああ、とりあえず一区切りしとかんとな。また誰かに怒られかねない」
そう言ってチラリとステラの方を見やるソー。
「そ、それはやっぱり、たまには帰って来てもらわないと、なんていうか……」
「はいはい、良かったわね。今日は一緒に布団にでも入ったら?」
「なっ⁉︎」
琴里が軽い調子でそう言い、ステラが顔を真っ赤にして硬直する。
「シドー、まだか! お腹が空いて死にそうだ!」
「ははっ、慌てなくても、もう食べられるぞ」
「そうね。早く食べましょう」
十香が騒ぎ出したことで、おふざけは一旦終了。
「よし、それじゃ、いただきます!」
『いただきます!』
全員手を合わせ、食事の挨拶をすると、皆一斉に食べ始めた。
「はむはむ、やはりシドーの作ったご飯は美味しいぞ!」
「喜んで貰えると、作りがいがあるってもんだ」
「ど、どうかな?」
ソーがハンバーグを口にし、それをステラが緊張の面差しで見る。
「お、美味いぞ。ステラ、また腕を上げたな」
「良かった……」
ステラは胸を撫で下ろし、自分もハンバーグを口にする。今回はそれなりに自信があった。士道がいなければ、ここまでのものを作ることは出来なかったのだが、それでも彼女は大きく成長した。
結果、士道とステラ、2人の作ったハンバーグは皆に好評だった。
「お代わり!」
十香が茶碗を高々と掲げて声を上げる。
「と、十香、もっとゆっくり噛んで食べろよ」
「ご飯が美味しすぎて、次々と口の中に入ってしまうのだ。これは美味しすぎるご飯が悪い!」
「くっ……、何も言えねえ」
わいわいと食卓は賑わいを見せる。
こうしてハンバーグはあっという間に無くなり、夕飯も終わりを迎えた。
夕食を終え、皆が順番にお風呂に入って行く。
ステラとリアはソーから旅の話を聞いていた。
「それでそれで、今度はどんなことがあったの?」
「親切なご老人がいてだな。その土地の特産品だという果物を食べさせてもらった。あれは美味かったぞ。それに昨日はお菓子ももらってだな」
そう言って彼はカバンから箱を取り出す。
「今度皆で食べるといい」
「わあ、美味しそう!」
出て来たのは饅頭。お土産といえば定番の一品である。
「それで、何か進展はあったの?」
ここでリアがようやく本題を切り出す。
「いや、未だに反応が出たことはない」
そう言って今度はカバンからセンサーを取り出す。このセンサーにはその日に記録した情報が保存されているらしいのだが、使い方を分かっていない彼はそんなことは知らない。
ただ近くにいれば反応があると、それだけしか彼は理解していないのだ。
「はあ、一体どこにいったのかしら……」
「この街での監視は琴里に頼んであるが、おそらくここに戻って来てはいないだろう。俺はこれからも探し続ける予定だ」
「あんまり無理しないでね」
「分かってる」
3人の間に暗い空気が流れる。
捜索を始めて一か月。国内にいると思われるストーンの捜索をしているが、見つかる気配がない。
残るストーンはあと4つ。
それはこの国の中にいるものから国の外、はたまた星の外にいるものと、探す側からしたら途方も無い広さだ。
「根気よく探し続けるしかないな」
ソーは饅頭を一つ手に取ると、口に放り込んだ。
「ちょっと、何さりげなく食べてるのよ」
「ん? 別にいいだろう」
「あなた、さっき私たちに食べるといいって言って渡したじゃない」
「そうだな」
「はあ……」
彼は通常運転である。
その時、お風呂の方から悲鳴が聞こえた。続いて何やら言い合う声も聞こえてくる。
おそらく士道と十香であろう。
「はあ、また始まったわ」
「あはは……、士道君も大変だね」
リアは溜め息を吐き、ステラは気遣うような顔をする。
「なんだ? また何かやっているのか?」
「士道の訓練よ……」
「いかに落ち着いていつも通りの行動をするか、というところを鍛えるらしいよ」
「朝から騒がしいったらありゃしないわよ」
リアはウンザリといった様子である。
そうやって3人で話していると、リビングに気絶した士道が運び込まれて来た。
「随分と酷い目にあったみたいだな」
「一体何をされたの……」
「見た感じ、浴槽に沈められたんじゃない? 水死体みたいになってるわよ」
「心臓マッサージでもしてやるか?」
「あなた、やり方分かるの?」
「さあな。こんな感じだろう?」
そう言って士道の上に乗ると、胸の辺りを強く押し込むソー。
「うぐぼっ⁉︎ ……ゲホッ、ゲホッ!」
すると士道は口から水を吐きながら目を覚ました。
「うっ、……はあっ、はあっ、……あれ? 俺は一体……」
少し記憶も飛んでいそうだ。
「どうだ、本当に起きたぞ」
ソーは満面の笑みで自分の成果を見せつける。
「分からずにやってたの?」
「士道君、大丈夫?」
士道の心配をしているのはステラだけ。
「大丈夫なような、そうでもないような……」
「士道、今度は何をやらかしたの……」
リアが目を細めて士道の方を見る。
「俺は何もしてねえ!」
「何もしてなかったらこんな事にならないでしょ」
「そうだっ! 琴里だ! あいつに嵌められたんだ!」
士道は必死に弁明する。
たしかに、先にお風呂に入ったのは士道である。そこに十香がやって来たのは、紛れもなく琴里の仕業であった。
「それで、今度はどんなペナルティがあるんだ?」
「絶対に教えないからな⁉︎」
「なんだ、つまらん。琴里に聞いてくるか」
そう言って部屋から出て行こうとするソー。
「ま、待て! 頼むからやめてくれぇ!」
歩くソーの腰に士道がしがみついて引きずられて行くという、何とも滑稽な姿である。
「ほんと、何やってるのかしらね……」
リアはぼんやりとそう呟く。
その後、再び士道の悲痛な叫びが夜の住宅街に響き渡るのだった。