GOD・A・LIVE 〜雷神と宇宙の欠片達〜 作:青空と自然
午後8時。
布団が敷かれ、就寝の準備が完了した部屋でステラはお説教されていた。
「それで1日を棒に振ったと」
「はい……」
目の前に座るリアはご立腹だ。
リアはステラに今日の成果を聞いた。ステラの青春を応援する身として、今日の成果が気になっていたのだ。だが結果は彼女の期待していたものとはかけ離れていた。
彼女は今日ステラに、昼食を作って午後は2人で出掛けなさいと言い残して行った。
だが彼女の話を聞くとどうだ。膝の上に抱えられたのが恥ずかしくなって午後はずっと走り回っていたと言うではないか。
「せっかくあいつの方から近付いて来たっていうのに、あなた、馬鹿なんじゃないの?」
「ひ、ひどい…………たしかにそうなんだけど」
リアは落ち込むステラにグサグサと言葉の棘を刺していく。リアとしては、今日の出来事をきっかけに2人の距離がもっと縮まっていけばと、そう思っていたのだが、これでは中々進展しない。
ああもう、とリアは1人頭を抱えた。
「いや、でもあいつの方から近付いて来たってことは……何かあったりして? ……いや無いか」
彼女が1人で思考を巡らしていると、外の天気が悪化していることにステラが気付いた。
「すごい雨。ねえリア、ソーは大丈夫かな」
「あいつは元々雷神よ。どうってことないでしょ」
「そういうことじゃなくて……」
なら、と立ち上がったリアは部屋を出て行くと、今度は傘を持って戻って来た。
「あなたが迎えに行ってあげれば?」
「うわっとと」
リアがひょいと傘を投げ、慌ててステラがそれをキャッチする。
「挽回のチャンスよ。しっかりやって来なさい」
「すぅ、はぁ……よし!」
ステラは傘を握りしめると、雨の降る街へと歩いて行った。
結局帰り道も気まずくて何も話せなかったのは想像の通りである。
「精霊に会った⁉︎」
散歩から帰ってきたソーの言葉に士道は驚愕の声を上げた。
「ああ、奇妙な奴だった。こう、くるくるしてる感じだ」
「ど、どういう感じだ……」
ソーの曖昧すぎる説明に士道は額に汗を垂らす。
「ま、何はともあれ、気を付けろ。あの顔は何か企んでる顔だったからな。何か仕掛けて来るかもしれん」
「っ…………」
精霊が何かを企んでいる。それがどれほど恐ろしい事なのか、士道はつい最近理解したばかりである。
十香のように、自分の意思とは関係なく世界を破壊してしまうのではなく、意図的にその計り知れない力を使う。
もし精霊が自分の意思で破壊活動など始めようものなら、この世界はあっという間に滅びてしまうだろう。
だが士道にとって驚きだったのは精霊が1人ではなかったということだ。もしこの話が本当なら、自分はこの先どうすれば良いのか。先の見えない不安に駆られる。
「取り敢えず琴里に報告を……。ソー、どんな姿だったんだ?」
「赤いドレスを着ていたぞ。あとは、こうだ」
そう言って彼は指をクルクルと顔の前で回す。
士道はそれが理解出来ずに、結局琴里に精霊がいたということだけ報告した。
翌朝、学校に向かう皆と共にソーは玄関に立っていた。
「シドー! 早く行くぞ!」
「ああ、おい! ちょっと待ってくれ!」
「あっ、お兄ちゃん、待つのだー!」
走って先に行こうとする十香を士道が追い掛ける。そして更にその後ろを琴里が追いかけて行った。
そんな様子を見てソーはふっと笑みを浮かべる。
「士道も随分と好かれたもんだな」
「ほんと、士道は頑張ってるわ。私たちもあんまり呑気にやってられないわよ」
「こっちも大変なんだぞ。お前らのおかげでな」
「うっ……、悪いとは思ってるわよ」
「全員集まったら反省会だね」
「真面目に反省する子が何人いることやら……」
ステラの反省会という言葉にリアは苦言を呈する。
「今日からまたしばらく帰れなくなる。こっちの事は頼んだぞ」
「任せておきなさい」
「こっちは任せて、ソーは捜索よろしくね」
「ああ、それじゃ」
ソーはストームブレイカーを手に持つと、空へと飛び立って行った。
玄関にはステラとリアの2人が残される。
「私たちも行こっか」
「そうね」
2人並んで学校への道を歩く。
「今日の放課後はどうするの?」
「そうね……。最近は市街地ばかりだったし、少し街の中心から離れた所を見て回ろうかしら。まあ、あまり時間がないから少ししか見られないだろうけど」
2人は放課後にこの街での捜索を続けていた。
一応この街の監視は琴里が行なっているらしいのだが、それでも自分たちが動かないわけにはいかない。
「見つかるといいんだけど……」
「あまり期待は出来ないわね。現に、ここ1ヶ月戻ってきてないんだもの」
2人はそんな現状に揃って肩を落とす。
「それで、琴里に話はしたの?」
「うん。向こうで検討してくれるらしい」
「そう」
ステラは先日、琴里にある相談をしていた。
ステラとリアの2人は街で力を使わないよう琴里に言われている。それは彼女達が力を使った際に発生するエネルギーが原因だった。
だが彼女達はいずれ元の世界に戻らなければならない。そしてその方法が今はまだ分かっていないのだ。
鍵を握っているのはステラただ1人。彼女が皆をここに連れてきた以上、元の世界に戻るためにも彼女の力が必要になるのは自明の理であった。
元の世界への道を見つけるためにステラは研究をしなければならない。そのお願いを琴里にしていたのだった。
「これからあなたも忙しくなるわね」
「こればかりは私の責任だから」
ステラは申し訳なさそうに俯く。
「そんな顔するんじゃないの。街の捜索は私が引き続き行うから、あなたはそっちに集中しなさい」
「……ありがと」
ステラはそんなリアの優しさに胸が熱くなるのを感じた。
宇宙が誕生して百億年以上が経つ。彼女達はそれと同じだけの時間を生きてきた。
だがこれまで、6人が一緒に揃ったことなど数える程しかない。お互いにあまり会った事はないのだ。
そんな彼女達だが、不思議と繋がるものを感じる。ステラはリアの優しさから、やっぱり姉妹なんだなと不思議と嬉しく思うのだった。
「さて、そうと決まればあとは行動するだけよ。全員見つけ出して説教してやるんだから!」
「ほ、ほどほどにね……」
気合いを入れてガッツポーズをするリアに、ステラは苦笑するのだった。
そして放課後、2人は朝話した通りに街の中心から離れた所を捜索していた。
「うーん、やっぱりいないか……」
「たしかに、いる気配が無いわね」
彼女達は姉妹が近くにいればそれを感じ取ることができる。だがこの街を捜索して1ヶ月が経った今も、それを感じたことは無かった。
「あ、雨だ」
「最近多いわね……」
突然降り出した雨にリアが溜め息を吐く。
2人はカバンから折りたたみの傘を取り出すと、それをさして雨の打ち付けるアスファルトの道を歩く。
「今日はこの辺にしておきましょうか。濡れるのも嫌だし」
「そうだね」
2人は喋りながら家路につく。
その時、ステラのカバンから着信音が聞こえた。
「ステラ、着信じゃない?」
「あ、ほんとだ。ちょっと待ってて」
「ええ」
ステラはカバンから携帯を取り出すと相手を確認する。そこには「琴里ちゃん」の文字が。
「もしもし」
『あっ、ステラ? 先日の案件なんだけど、場所が確保できたから伝えておこうと思って』
「本当⁉︎」
『今どこにいるの? これから話をしようと思うから、回収したいのだけれど』
「もう家の近くだよ」
『そう、じゃあ家の前で少し待ってて貰えるかしら』
「分かった」
ステラは電話を切るとぼんやりと遠くを眺めていたリアの方を向く。
「何だったの?」
「琴里ちゃんがね、実験の場所が確保できたから話をしたいって」
「今から行くの?」
「うん。リアはどうする?」
「私は家にいるわ。私がいても分からないだろうしね」
「そっか」
話しているうちに家の前へと到着する。今日は士道が先に帰ってきているはずだ。
「それじゃ、頑張ってきなさい」
「うん」
リアは玄関の扉を開けると家へと入っていった。
ステラは傘を畳むと玄関の屋根の下で待つ。しばらくすると浮遊感と共に彼女は〈フラクシナス〉へと転送された。
一瞬で景色が変わる。
目の前にはよく分からないディスプレイと機械達。やはりこういった機械に囲まれた部屋は慣れない。
部屋の扉の前には眠そうな顔をした解析官、村雨令音が立っていた。
「あの……」
「ん、すまないね。琴里はもうすぐやって来る。椅子にでも腰掛けているといい」
「あ、ありがとうございます」
ステラは緊張しながら椅子に座る。どうもこの人は苦手だ。掴み所がないと言うのだろうか。何を考えているのか分からない。
椅子に座ったのはいいが、令音は喋る気配が無い。ステラは落ち着かない様子で部屋を見回していた。
壁や扉は無機質な感じで、機械が並べられている。この機械は何に使うのだろうか。そうやってそわそわしていると部屋の扉が機械音と共に開き、赤い上着を肩にかけた琴里が入って来た。
「待たせたわね」
琴里はテーブルを挟んでステラの前に座ると、説明を始めた。
「まずこの部屋なのだけど、ここがあなたの使う部屋になるわ。壁に特殊な
ステラは自分がこれから行う実験の内容を琴里に説明していく。
「私がこれからやるのは次元の接続だよ」
「また随分とスケールの大きい話ね……」
琴里は平然ととんでもない事を言うステラに汗を垂らす。
「今の私たちの状態は、道を確認せずに遠くの場所へ来たようなものなの」
「来たのはいいけど、帰り道が分からないってことね」
「うん……」
ステラは少し気を落としながら返事をする。咄嗟のことであったとはいえ、来た道を記録していなかったのは彼女の落ち度だ。
「それで、これから帰り道を探すために実験を行うと」
「そう。それぞれの世界に存在するものにはその世界の特徴が必ず刻まれている。私は見ただけでそれが分かるの」
「へえ、それは例えばこのペン一本にもあるの?」
「うん、このペンにはこの世界だけの特徴がある」
ステラはテーブルに置いてあったペンを手に取ると、それをクルクルと回しながら答える。
「そして重要なのが、ある世界に存在するものが別の世界へと移動すると、その世界の印が新たに刻まれるということ」
「……なるほど。それを利用しようっていうのね」
「そう。この世界から別の次元のどこかへと飛ばして、同じルートでこの世界に戻す。戻ってきた物に元の世界と同じ印が付いていれば帰れるということ」
ここまで話すと、琴里はうんうんと1人で何かを考え始めた。
「その方法なんだけど、帰ってきた物に何か変なものが付いてるとかないわよね?」
「あ…………」
琴里の指摘にステラは問題点を思い出す。
「その反応は何かあるのね……」
琴里は呆れたような目でステラを見る。
「えーっと、あるかもしれない……」
「ちょっと、嫌よ。帰ってきたらここに毒素が充満してるとか」
「だ、大丈夫だよ! リアがいるから!」
結局リアの力も必要であったことに今更気がついたステラ。帰って話をしたら何で最初から言わないのよ、とまた怒られるのだろうな、とそんな事を思いながら琴里を説得する。
「はぁ、まあ分かったわ。ちゃんと実験をする時は彼女も連れて来るのよ」
「……はい」
「ああ、それと、最初の実験の時はエネルギーの測定もさせてもらうから」
琴里の言葉にステラは疑問符を浮かべる。
「あなたの力の大きさによってはこの部屋の調整をしないといけないかもしれないからよ」
「なるほど……」
「本当に分かってるのかしら……」
「わ、分かってるよ!」
ステラは顔を赤くして琴里に反論する。それをはいはいと受け流して琴里はこれからのスケジュールを組み始める。
結果、最初の実験は2日後の夕方に行われることになった。
夜。
ステラとリア、十香の3人はテーブルで並んで宿題を広げていた。そこそこ勉強の出来るステラとリアの2人があまり勉強の得意でない十香をサポートするといった形で宿題を進めている。
ステラは先ほど実験にリアの力が必要だということを彼女に伝えた。ステラは怒られるものだと思っていたが、むしろ彼女に呆れられた。あなたらしいわね、と。
「それで、いつやるの?」
「今でしょ! ……嘘です。ごめんなさい。だからその掲げたシャーペンを下ろしてください!」
「まったく……」
リアはシャーペンの先をノートへと戻すと再び問題を解き始める。
「2日後、その日の夕方に最初の実験を行うって」
「2日後ね……」
「何だかよく分からんが大変そうだな」
うんうんとドリルと格闘していた十香が顔を上げる。
「まあ、自業自得だから仕方ないんだけどね……」
「あなたは心配しなくていいわ。とりあえずそのページを終わらせなさい」
「むう、だが難しくて解けないのだ」
「仕方ないわね、ほらまずここを見て──」
リアは何だかんだ言いながらも世話を焼く。
ステラはそんな光景を見て微笑んだ。やっぱりリアはお姉ちゃんっぽいな、と。