GOD・A・LIVE 〜雷神と宇宙の欠片達〜   作:青空と自然

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第13話 帰り道を探して

 〈フラクシナス〉の一室。

 そこではすでに実験の準備が完了していた。

 

「本当に大丈夫?」

 

 不安になったのかリアがステラにそう問いかける。

 

「大丈夫! ……多分。何かあったらよろしくね」

「あなたね……」

 

 全然安心できないステラの言葉にリアはやれやれと頭を振る。

 

「それじゃ、実験を始めるわよ。顕現装置(リアライザ)を起動してちょうだい」

 

 琴里がクルーにそう呼びかけ、部屋の壁に埋め込まれている顕現装置(リアライザ)を起動させる。

 

「ふー……よし!」

 

 ステラは小石を握りしめると意識を集中させる。

 だがその時、艦内にけたたましいアラームが鳴り響いた。

 

「っ! 何事⁉︎」

 

 琴里がクルーに問う。

 

「司令っ! 空間震です! 精霊が来ます」

「この忙しい時に……リア! ここは頼んだわ!」

「任せて」

 

 琴里はリアにこの場を託すと部屋を飛び出して行った。

 

「リア?」

「あなたはこっちに集中しなさい!」

「……分かった!」

 

 ステラは目を瞑り、ここではない次元へと意識を集中。手を前に翳す。目指す先はここではないどこか。

 

「……っ、来たっ!」

 

 ステラがそう言ったかと思うと、彼女が手を翳す前方に青白い光が現れ、空間に穴が開く。

 

「よし、今っ!」

 

 彼女は小石を穴に放り込むと今度は更にその前方に異なる穴を開ける。

 

「リアっ!」

「任せて!」

 

 リアは二つ目の穴の前に立つと、何が出てきてもいいように構えを取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「映像を出してちょうだい」

「はっ!」

 

 琴里は艦長席に腰掛けるとモニターに映し出された映像を睨む。

 

「神無月、士道は?」

「士道君は現在こちらに向かっているとのことです。間も無く転移ポイントまで来るかと」

「そう。さて、何が来るか……」

 

 琴里は足を組みながら人の居なくなった街を見る。

 嵐の前の静寂とも言える光景。間も無くこの場所は戦場と化すであろう。

 

「琴里!」

「やっと来たわね。十香は?」

「彼女は家のシェルターに避難している筈だ」

 

 士道が令音と共に艦橋に入って来る。

 

「ちょうどいいわ。見ておきなさい」

「見るって何を……」

 

 士道がそう言いかけた時、モニターに映る映像に異変が起きた。

 突然何もない空間がグニャリと歪んだかと思うと巨大な爆発が起こり、画面が真っ白になったのだ。

 

「っ! ……これは」

「空間震。精霊がこちらの世界に現界する時に発生する災害。士道は初めてだったかしら?」

 

 琴里の言葉に士道は息を飲む。空間震についてはこれまで学校で何度も学んだ。教科書にその災害が残す爪痕の写真も載っている。

 だが今しがた目の前で起こったそれは想像の遥か上を行っていた。爆発が起こった場所には何も残っては居ない。

 先程までそこに街があったとは想像もつかない。

 

「あれは……」

 

 だがそんな何もないクレーターの中心に、ポツンと1人佇む少女がいた。

 

「今回は〈ハーミット〉ね。道理で規模が小さい訳だわ」

「あんな小さい子が、精霊?」

 

 士道は画面に映る少女を見て目を疑う。

 その時艦橋に再びアラームが鳴り響く。

 

「な、何だ?」

「精霊が現れたのだもの。当然出てくる部隊がいるでしょう」

 

 琴里は何でもないことのように言う。

 

「AST……」

 

 画面ではASTの部隊が精霊に攻撃を開始していた。逃げ回る精霊に次々と砲弾を浴びせ、追いかけ回す。

 

「あんな小さい子に……あの子、反撃しないのか?」

「ええ。〈ハーミット〉は精霊の中でも大人しい性格。いつもああやって逃げ回っているだけよ。それで士道、あなたはどうするの?」

 

 士道は初め、精霊は1人なのだと思い込んでいた。だがソーがあの雨の日にした話から、精霊が複数いるということを知った。

 当然士道は琴里に問い詰めた。返って来た答えはイエス。彼は悩んだ。精霊を救うということ。それ即ち力の封印。そしてそれをするたびに行う行為。

 

 だが目の前でミサイルから逃げ回る少女を見て決心が着いた。

 彼はぐっと拳を握りしめると琴里の目を見る。

 

「俺は精霊を、あの子を助けたい!」

 

 琴里はニッと笑みを浮かべた。

 

「ふっ、言うようになったわね。準備しなさい。全力でサポートしてあげる」

「ああ、助かる」

 

 2人の視線が交差した。

 

「さあ、私達の戦争(デート)を始めましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──来た!」

 

 リアは空間の穴から出て来たものを見て構えを取った。

 カランという音を立ててそれが台の上に転がる。

 

 リアは慎重にそれに近づくと棒でそれを突いた。

 

「……元の小石ね」

 

 ほうと息をついて彼女は額の汗を拭う。

 結果、今回は特に問題なく小石を転送出来たようだ。

 

「ステラ、大丈夫よ。見てちょうだい」

 

 リアは出て来た小石を摘むとステラの方に持っていく。

 

「どれどれ……」

 

 ステラは小石を受け取るとそれを回し、角度を変えたりしながら観察する。

 

「どう?」

「うーん……これは違うかな……」

 

 ステラは小石とソーの服を比較してそう呟く。

 

「そう簡単ではなさそうね」

「うん……」

 

 異なる次元の接続。そのパターンはおそらく無限に近いであろう。その中からたった一つの組み合わせを見つけ出す。地獄のような繰り返しだ。

 

「でも、ここでめげてはいられないよ。どんどん試していかないと」

「あんまり無理したらダメよ。あなたが倒れたら元も子もないんだから」

「それは分かってるけど……」

 

 ステラは不貞腐れたように頰を膨らませる。

 

「私には空間を繋ぐ力なんて無いから分からないけど、的を絞れるのならそうした方がいいわね」

「出来るだけここに来た時と同じような感覚で繋ぐようにはしてるんだ。でもそれは大まかなものでしか無いから、細かい調整が難しくて」

「慌てず慎重にやって行きましょう」

「うん」

 

 ひとまずほかの次元に接続することは出来た。ならばあとは目的地を見つけるのみ。

 

 2人は次の小石を用意すると、2回目の実験へと準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『士道、聞こえるかしら』

「ああ、大丈夫だ」

 

 ステラとリアが実験に励んでいる頃、士道は地上で精霊への接触を試みていた。

 

『そこから50メートルほど直進して左の建物よ』

「了解」

 

 彼は支持された通りに進み、見えてきた建物に入る。

 人の居なくなった街はひっそりと静まり返り、不気味な雰囲気を醸し出していた。

 

 そんな静かな建物の中に動く気配がある。

 

「見つけた」

『少し待機して。選択肢が出るわ』

 

 士道は柱の陰に息を潜め、そこから先の空間の様子を伺う。

 そこでは緑のレインコートのようなものを羽織った少女がいた。左手にはパペットと思しきものが見える。

 

 その時、少女の左手に取り付けられたパペットが士道のいる方をくるりと向いたかと思うと喋り始めた。

 

『ねえねえ、さっきからそこにいるのは分かってるんだよ。いい加減出て来たらどうかなあー』

「っ!」

『士道、落ち着きなさい』

 

 インカムから琴里の声が聞こえる。

 

『ゆっくりよ。いいわね』

「ああ、分かってる」

 

 士道は両手を上げると柱の陰からゆっくりと姿を現した。

 

『あらー? さっきの怖いお嬢さんたちかと思えば、爽やかな少年じゃないのー』

 

 パペットは軽い調子で次々と喋っていく。

 

『それでそれで? お兄さんは何しに来たの? 可愛い四糸乃にイタズラしに来たのー?』

『士道、②よ。名前を名乗りなさい』

「分かった」

 

 

 

 

 

 その頃艦橋では神無月がワイワイと1人で騒いでいた。

 

「な、なぜですか司令! 今の所は、彼女に自分はあなたの下僕ですアピールをすることで思い切り踏みつけてもらう場面では……」

 

 神無月が言い終わる前に琴里が指を鳴らす。

 するとどこからともなく2人の大男が現れ、神無月の両肩をガッチリとホールドした。

 

「え? し、司令ぇ、お慈悲をー、お慈悲をー!」

 

 神無月、退場。

 アホが1人消え、琴里はまったく、と溜め息を吐く。

 

 モニターでは士道が精霊〈ハーミット〉と接触していた。

 

 

『へー、士道君は高校生なんだ』

「ああ、そうだな」

『それで? なんで士道君はこんな所にいるのかなぁ?』

『士道、①よ』

「わ、分かった。……俺は、君を助けにここへ来た」

 

 その言葉に少女がピクリと反応する。

 

『ヒュー、四糸乃、聞いた? カッコイイ王子様だよ!』

「よ、よしのん…………」

 

 パペットが囃し立て、少女は顔を赤くして俯く。

 

『でもごめんね士道君。そうは言っても簡単に信じられないんだよ』

 

 たしかに、このパペットの言うことはもっともだ。彼女はこれまでこの世界にやって来るたびに攻撃を受け、殺されかけていたのだ。

 

「君は、何で反撃しないんだ?」

 

 士道は少女にそう問いかける。すると話の矛先を向けられた少女はピクリと跳ねた後、ポツリポツリと言葉を押し出した。

 

「だって…………わた、し、……痛いのは、いや……です。…………みんな、も、……痛い……のは、嫌……だから」

「っ!」

 

 士道は彼女の言葉に驚愕する。

 相手は本気で自分を殺しに来ている。だと言うのに、彼女はそんなASTを傷つけたくなくて、攻撃をしないのだ。

 優しすぎる。彼女が世界から狙われるというのは、あまりにも不憫な話であった。

 

 士道は彼女に手を伸ばす。

 

「俺が、見せてやる。お前に、この世界の綺麗な所を。痛いのや怖いのは俺が振り払ってやる!」

 

 少女は驚いたように士道を見たまま硬直していたが、やがて手を伸ばしてきた。

 

 だがその時、耳のインカムに警報が流れる。

 

「っ! 何だ⁉︎」

『あー、士道。緊急事態よ。まずいことになったわ』

 

 士道は咄嗟に背後を振り返る。そこには不機嫌オーラ全開の十香が立っていた。

 

「人が心配して来てみれば…………、女とイチャコラしてるとは何事だあああぁぁ‼︎」

 

 十香がダン! と地面を踏むとコンクリートにヒビが入り、建物が大きく揺れる。

 

 それに驚いた少女は驚くほどの速さで逃げて行ってしまった。

 

「な、何で十香がここに?」

 

 士道は考えるが訳がわからない。十香は警報が鳴った時に家のシェルターに入った筈だ。

 

「もう知らん! シドーのバーカ! バーカ!」

「あ、おい!」

 

 十香はダッと駆け出すと、何処かへと行ってしまった。

 

「……参ったな」

『これは大変ね。何とかしなさいよ』

「ぐっ…………」

 

 十香を怒らせた上に先ほどの少女も逃げてしまった。状況としては最悪だろう。

 

 士道は十香を追いかけて建物を飛び出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「…………7回目終了」

「うーん、これも違うなぁ」

 

 ここまで7回の実験を行った2人。だが、どれも望んだ結果とはならなかった。

 

「まあ、まだ初日だし。気長にやり続けるしかないわね」

「うん」

「今日はこの辺にしておきましょう」

 

 リアはそう言って片付けを始める。まだ納得のいかない様子だったステラだが、リアに諭されて渋々と片付けを始めた。

 

「この調子だとどれくらいかかるか分からないよ……」

「それもそうだけど……、今日はもういい時間よ。そろそろ帰らないと」

「分かってる」

 

 ドアの前に立つと扉が開く。リアは実験室の電気を消すと廊下へと出た。

 

「琴里ちゃんの所へ報告に行ってくるね」

「そう。じゃあ、ここで待ってるわ」

 

 ステラは報告のため艦橋へと向かい、リアは1人実験室の前でノートを開く。今日の実験の内容をまとめたノート、これを見返して次回はどうしようかと考える。

 

「パターンはほぼ無限大か……。はぁ、嫌になるわね」

 

 リアは天井を見上げて肩を落とす。自分達がこれからやろうとしていることの無謀さに不安で頭がいっぱいになるが、やらない訳にはいかない。

 やらなければ帰れないのだ。

 

 そうやってあれこれ考えながらしばらく待っていると、報告に行っていたステラが戻ってきた。

 

「ごめん、お待たせ」

「このくらい何でもないわ。帰りましょう」

 

 リアはノートをしまうとステラに並んで歩く。

 

「これからは忙しいわよ」

「でも頑張らないと」

 

 2人は気合を入れ直し、明日の計画を立てる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──だから次はこんな感じで……」

 

 2人で実験の計画を立てながら住宅街を歩く。陽は完全に沈み、辺りは住宅から溢れる光に照らされている。

 そんな中を歩く2人組。側から見たら仲良く会話している女子高生なのだが、会話の内容はファッションやスイーツなどとは比較にならないほどスケールが大きい。

 

「あれ、どこかに置いてきたのかしら……」

「どうしたの?」

 

 先程からバッグを漁っているリアをステラが気にかける。

 

「筆箱がないのよ。〈フラクシナス〉に忘れたみたい」

「取りに行くの?」

「そうするわ。ないと不便だしね。先に帰ってて頂戴」

「分かった」

 

 リアは携帯を取り出すと連絡をし始める。相手はおそらく琴里だろう。

 ステラはリアが来た道を戻っていくのを見送り、家へと再び歩き出した。

 

「はぁ、はぁ、……うう」

 

 リアと別れ、1人で歩き始めてしばらく経った。この時ステラは自分の調子がおかしいことを感じ取っていた。意識がぼんやりとし、足元がフラフラとおぼつかない。

 

「な、何だろ、これ」

 

 まともに歩くことが出来なくなったステラは塀に手をつく。ぐるぐると視界が回り、自分が真っ直ぐ立っているのかも分からない。

 肩で呼吸をしながら塀を辿っていく。だが、十歩と進まない内にその場に座り込んでしまった。

 

 塀に背中を預け自分の両手を見る。そこにはすでに異変が現れ始めていた。

 

「はぁ、はぁ、まさか……」

 

 両手から滲み出るように溢れている青白い光。コップから水が溢れ出すように、それは空気中に放出されている。よく見ると異変が起きているのは両手だけではない。

 両腕を伝って胴体、足からも同じように光が溢れ出している。

 

「困った、な、どう、しよ……」

 

 時間が時間なだけに、周囲を歩く人は誰もいない。

 全身を焼き尽くすような痛みと、周囲に現れた不気味な影が視界に入るのを最後に、ステラの意識は闇へと沈んでいった。

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