GOD・A・LIVE 〜雷神と宇宙の欠片達〜   作:青空と自然

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第14話 彼女の行方

「ただいまー」

 

 家に帰ってきたリアは玄関の扉を開け、中へと入る。だが家の中はシンと静まり返っており、人がいる気配がない。

 

「ステラー、いるの?」

 

 あまりに静かすぎる家の空気に、リアはどことなく不安を覚える。

 

「ステラー?」

 

 二階に上がって誰かいないかと捜索をしていた時だった。

 ガチャリ、と1つの扉が開かれた。

 

「うわっ、……十香?」

 

 中から出てきたのは十香だった。だがいつものような元気はどこにもなく、どこか落ち込んでいるように見える。

 

「む、リアか」

「あんた、大丈夫なの? 具合でも悪い?」

「何でもない」

「そ、そう。ところで、ステラを見てない? 先に帰ってる筈なんだけど……」

 

 明らかにいつもと調子の違う十香に戸惑いつつも彼女にステラを見なかったと問う。

 

「私以外にこの家には居ないと思うぞ。誰かが入って来た気配もない」

「そう、ありがと。…………困ってることがあるんだったら言いなさいよ。今じゃなくてもいいから」

「……大丈夫だ」

 

 十香はそう答えると再び部屋の中へと戻って行った。

 この家に十香以外誰も居ないという事が分かった。リアがステラと別れてから既に30分くらいが経過している。一体何処へ寄り道しているのだろうか。

 

「士道はもうすぐ帰って来るだろうし、先にお風呂に入ってしまおうかしら」

 

 リアは階段を降りると、入浴の準備をしに部屋へと戻って行った。ステラが寄り道をしている訳ではないという事に、気づく事もなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 木々が生い茂る山。

 そんな山の中に煌々と明かりが漏れ出ていた。

 

「すまんなご老人。今晩は世話になる」

「気にするでねえさ。お前さん、困ってたんだろ? なら手を差し伸べるのが人間ださ」

 

 山の中の一軒家。そこに住む老夫婦に、ソーは世話になっていた。

 今日もいつものように捜索をしていたのだが、その途中でこの老夫婦に出会った。2人は山の麓に田んぼを持っており、そこで農作業をしているらしい。そこを通りかかったソーと仲良くなり、今晩はここで泊めてもらうことになったのだ。

 

 いつもテントを張って1人で夜を過ごしていた彼にとってはありがたい話だ。

 

「ここまで来るのも大変だっただろう? さあさ、お食べ」

 

 そう言って老婆が料理を勧めて来る。

 ソーは老婆の料理を一口食べて感動した。士道の作る料理とはまた違う美味しさ。どこが懐かしい、思い出がたくさん詰まっている気がした。これも毎日の積み重ねによって作られた一品なのだろう。

 

「うまい、優しい味がする」

 

 気がつけば彼は素直に感想を述べていた。

 

「口に合ったようなら何よりさぁ」

 

 2人ともソーがガツガツと食事に在り付く様子を微笑ましそうに見ている。

 

「お前さんはまだ若そうだけど、旅をしてるのかえ?」

「人を探している。どこにいるか分からんから苦労してるんだがな」

 

 老婆の問いにソーは答える。彼は1500年生きているため、人間と比べたら決して若いとは言えないのだが。周りから見たら若く見えるのだから、そういうことにしておこう。

 

「見たところ、お前さんは大分力がありそうだな」

「ははっ、これでも結構力には自信があるぞ」

「そりゃいい。羨ましい限りださ。田んぼも畑も力仕事だからなぁ」

 

 老人はソーの逞しい腕を見て褒め称える。

 ソーも力には自信がある。彼のレベルだと畑仕事どころか戦車を吹き飛ばしてしまう程だ。老人がそんなことを知るはずもない。

 

 そうやって老夫婦と会話を楽しみながら夜を過ごし、彼は久し振りに気分が明るくなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後10時。

 リアは外へと出ていた。

 あれから2時間、お風呂に入り、夕食を食べたが、ステラが帰ってこない。流石に何かあったのではないかと思い始めていた。静まり返った街をただひたすら駆け抜ける。

 

 今日、自分が通ったルートを最初から最後まで。だがどこにも彼女の姿は見当たらない。

 日本には神隠しという言い伝えがある。迷信だと普通なら考えるが、今なら彼女はその言葉を信じる事ができそうだった。それほどにまで、彼女は焦っていた。

 

「最後に別れたのは、ここのはず……」

 

 そうしてやって来たのは〈フラクシナス〉から降り、最後に2人で歩いていた住宅街の道。忘れ物を取りに戻った際、彼女と別れた場所だ。だがそこにも彼女の姿はない。

 

「……………………なんで」

 

 リアはその場に座り込んだ。地面に体重を預けると同時に、全身に疲労感が一気に襲いかかる。

 彼女は家を飛び出してから1時間、休む事なく街を探し続け、走り抜けた。それでもステラは見つからない。精神的な負担も徐々に大きくなっていた。

 

「リアーっ!」

 

 遠くで誰かが自分のことを読んでいる。

 声がした方向を見るとそこにはこちらに向かって走って来る士道の姿があった。

 

「リアっ! はぁっ、はぁっ……」

 

 ここまでずっとダッシュで走って来たのだろう。肩で息をしながら士道は膝に手を付く。

 

「ちょっと、声のボリュームを下げなさい。近所迷惑よ」

 

 時刻は午後10時。

 早い人は既に床に着いている時間だ。それにここは住宅街。

 

「すまん。それで、ステラは見つからないのか?」

 

 注意された士道は声のボリュームを下げてリアに話しかける。

 

「今日寄ったところは全部行ったわ。でも全くの手がかりなし。はぁ、私があそこでステラを1人にしなければ……」

「リア、今はステラを見つけることが優先だ」

 

 自分を責め始めたリアを士道は止める。

 

「分かってる」

 

 士道が手を伸ばし、地面に座り込んでいたリアはその手を取って立ち上がる。

 

「次の場所へ行くわよ」

「ああ」

 

 2人は次の目的地を確認、二手に分かれて街を捜索することに。公園も、駅前も、住宅街も、あらゆる場所を手分けして探す。

 

 だが最後まで、ステラが見つかることは無かった。深夜になり捜索を断念。明日に持ち越されることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、来禅高校の制服に身を包んだリアは1人、通学路を歩いていた。今日は朝から自分が先頭に立って捜索をするつもりだったが、琴里に止められた。

 流石に2人も学校から居なくなるのはまずいと。

 

 ステラの捜索は現在も〈ラタトスク〉の機関員達が行っているそうだ。リアも学校が終わり次第参加するつもりである。

 

 教室に入り席に着くが、ふと視界に入った空席がやけに目立つ。その後担任の先生がやって来て、ステラは病気の治療のためにしばらく学校を休むと伝えた。

 琴里が手を回したのだろう。

 

 リアは机に突っ伏して昨日の事を思い出し、自分を責め立てる。

 なぜ自分は昨日彼女を1人にしたのか。あそこで忘れ物など取りに行かず一緒に帰っていればこんな事にはならなかったのではないか。

 そんな思いが頭の中でずっと回っており、午前の授業は全く頭に入って来なかった。

 気がつけば昼のチャイムが鳴っている。どうやらもう昼休みになってしまったようだ。

 

「はぁ……」

 

 また、ため息をついていた。

 

 友達の誘いを断り、1人立ち入り禁止の屋上で弁当を食べ、寝転がる。

 自分の心とは対照的に、澄み渡る青空が視界に広がっている。その青空を自由に飛び回る鳥たち。

 

「自由ってやつはいいわね……」

 

 どこが遠くを見つめ、そう呟く。

 鳥たちは視界を横切り、その内の一羽がだんだん近づいて……。

 

「……え?」

 

 それはどんどん近づいて来る。シルエットが大きくなり、その姿が見え始める。

 よく見ると近づいて来るそれは鳥ではない。

 

「ソー?」

 

 突風とともに屋上に舞い降りたのは、他のストーンの捜索をしている筈のソーであった。

 

「なんでアンタがここに……。他の子を探してるんじゃ……」

 

 そんなリアの言葉を遮って彼は言った。

 

「探すべき奴がいるからな。ほら、何寝転がってる。行くぞ」

 

 彼はそう言ってリアの手を掴むと立ち上がらせる。そして彼女を抱えるとそのまま空へと飛び立った。

 

「ちょっと、どういうことよ」

 

 街の一角、建物の間の路地に降り立ったリアは彼女を連れ出した張本人に問い詰める。

 

「言っただろ。探さなければならない奴がいると」

「まさか、知ってるの?」

 

 彼は黙って頷いた。

 リアは彼の返事に顔を俯かせる。

 

 ステラが行方不明になったのは自分のせいだ。彼に他の子達の捜索を押し付けておきながら、更にその手間を増やしている。それが彼女に取って重圧となり、彼女の心に重くのしかかっていた。

 

「なぜお前がそんな顔をする?」

「だって私が……」

「お前は自分の意思で行動しただけ。それをここで悔いても仕方がない。まあ、とにかく、言いたいのはだな……」

 

 彼は一呼吸置いて口を開いた。

 

「ウジウジしてる暇があったら行動しろ」

「うっ…………分かってる……」

「ん? なんだ? 聞こえないぞ」

「分かってるわよおおおぉ‼︎」

 

 突然大きな声を上げたリアに街の通りを行く人が路地の方を見る。

 

「やってやるわよ! アンタなんかより先に見つけてやるんだから!」

「ほう、言ったな。なら負けた方は罰ゲームだぞ」

「そっちこそ、後で後悔するんじゃないわよ」

 

 事の重大さを忘れているような気もする2人。だが、リアの表情は先程までとは違う、瞳に力が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真っ暗な空間が広がっている。それはどこまでも続き、終わりは見えない。

 そんな空間に1人の少女が佇んでいた。

 

 血に染められたように真っ赤なドレスに黒地の配色。カチカチと止まる事なく時を刻み続ける左目。

 

 時崎狂三は目の前に横たわる1人の少女を相手に、手を出すことが出来ずにいた。

 

「困りましたわね。まさかこれ程とは……」

 

 目の前で横たわる少女は自分の状況などまるで何も知らないかのように、安らかに眠っている。

 その体は全身が淡く光り輝き、真っ暗なこの空間で1つの灯りのようになっている。

 

 あの日の、あの夜、狂三は地面に倒れる彼女を偶然発見した。あのタイミングで遭遇したのはまさに奇跡と言ってもいいだろう。

 

 この世界に紛れ込んで来た異分子。

 時間をかけて調べてみれば、異分子達はどれもとてつもない力を持つ者達ばかりだった。

 

 力を求める狂三としては、何としても手に入れたいものだった。だが力があるだけにそう簡単に取り込むことは出来ない。だからずっとタイミングを計っていた。

 

 そして偶然、それは目の前で起こった。

 彼女は迷う事なく意識を失ったステラを自らの影に引きずり込んだ。これでまた、自分の目的に近付けると。

 

 だが相手はそう単純では無かった。

 

 カチャリ、と狂三は安らかに眠るその青い少女に向かって銃を向ける。そして何のためらいもなくその引き金を引いた。普通ならこれで全てが終わる。全ては狂三の糧となる。

 

 だが彼女の放った黒いその銃弾は横たわる少女、その頭に触れる直前で防がれ、跳ね返される。

 

「くっ……」

 

 跳ね返った銃弾は狂三の頰を掠めて真っ暗な空間の遥か彼方へと消えて行った。

 

 先程からこの動作を何回繰り返した事だろうか。

 狂三は一度もステラに触れる事が出来ていなかった。彼女の体の表面に、彼女を守るように展開されているそのバリアに、狂三の攻撃は全て防がれていた。

 

 ツー、と赤い液体が頰を伝う。

 

「なぜ、世界はこうもわたくしの邪魔をするのでしょうか」

 

 狂三は銃を持った腕をダランと下げ、虚空を見つめながらそう呟く。

 

「つくづく、物事は簡単には進まないものですわねえ、『わたくし』」

 

 真っ暗な空間のその闇の中から、這い出るように1人の少女が現れる。その姿は銃を持つ狂三と、どこを見ても何一つ違わない。

 

「今は気分が優れないので、ちょっと大人しくしていてくださいまし」

 

 狂三は現れた分身体を睨み付けると、纏わり付いてきた虫を払うように言葉を吐き捨てる。

 

「きひひひ、そんなに焦っても、何も変わらないでしょうに」

 

 そんな狂三をからかうように、分身体はクルクルと回りながら狂三の隣に立つ。

 

「しかし、このままではまずいのも事実。この方の力を取り込む事が出来ずにもたもたしていれば、やがて他の人達に気付かれてしまいますわよ」

 

 そう、それが大きな問題であった。この世界に紛れ込んで来た異分子は彼女だけではない。

 

 現段階で彼らと敵対するのはあまり好ましい状況とは言えなかった。

 

「それくらい分かっていますわ」

 

 狂三は苛立たしげにそう答える。

 早くこの少女の力を取り込んでしまわなければならない。だが少女の体に展開されているバリアに阻まれ、触れることすらかなわない。

 

 完全に行き詰まっていた。

 

「この段階で行き詰まるというのは少し癪ではありますが、計画を中止する訳にはいきません。ここは一旦保留にしておきましょう」

「あらあら、『わたくし』ともあろう者が途中で物事を投げ出すとは」

「うるさいですわよ」

 

 先程からからかってくる出来の悪い分身体に狂三は睨みを効かせる。

 

「あなた達も準備をなさい」

「ええ、ええ、分かっておりますわ」

 

 分身体は影の中に吸い込まれていくと、やがてその姿が見えなくなった。

 1人になった狂三は横たわるステラの方を見る。

 

「きひひひ、やっぱり諦められません、諦められませんわ! …………全ては、わたくしの悲願のために」

 

 最後に呟いたその言葉は彼女の悲しむような、慈しむような表情と共に、重く、深く、真っ暗な空間に響き渡った。

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