GOD・A・LIVE 〜雷神と宇宙の欠片達〜   作:青空と自然

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第15話 合流

 五河家のリビングには士道、琴里、ソー、リアの4人が集まっていた。理由はもちろん行方不明になったステラの事について話し合うためだ。

 

「こっちはダメね。全く反応がないわ」

 

 これまで〈フラクシナス〉で捜索を続けていた琴里はそう報告する。

 ステラが行方不明になってからすでに5日が経っていた。その間、ソーと〈フラクシナス〉のクルーは常時、士道と琴里、リアと十香は放課後に捜索をしていたが見つかる気配はない。

 

「この街にはすでにいないとか?」

 

 士道がふと思った事を口にする。

 可能性としてあり得る話ではあった。5日間、あれだけ街の隅から隅へと探し回ったのだ。それでも見つからないとなればこの街にいないという事も考えられる。

 

「だとしたら、中々面倒な話だぞ」

 

 士道の考えにソーは渋面を作った。

 彼は以前から残りの4つのストーンを探している。1ヶ月、この国の中を探し続けているが、未だに1人も見つかっていない。

 この街にいなかった場合の、捜索の大変さを彼はよく分かっていた。

 

「でも、何のために街の外に出るの?」

「うーん……」

 

 琴里の疑問に士道は考え込んでしまう。

 

「一つ、ありそうな事を思い付いたんだけど……」

 

 先程から暗い顔をして1人思考に耽っていたリアが顔を上げる。

 

「どんなのだ?」

「あまり考えたくは無いんだけれど、誰かに襲われたっていう可能性はない?」

 

 彼女の言葉に場の一同が言葉を飲んだ。

 

「たしかに、あまり考えたくは無い事だな。だが、無いと断言することも出来ん」

 

 ソーはふと、この前出会った精霊の事を思い出す。

 明らかに何かを企んでいた精霊がいた。そういった存在がいる以上、ステラが何者かに襲われたという可能性を否定することは出来ない。

 

「とにかく、こっちはこのまま捜索を続けるけど、精霊が現れたらそちらを優先させてもらうわ」

「ああ、分かってる。出来る限り俺たちで何とかしよう」

 

 〈ラタトスク〉は元はと言えば士道のサポートをする機関。精霊が現れ、士道が動くとなれば当然そちらを優先しなければならない。

 

「悪いな」

「何、これはこっちの問題だ。お前にはお前のやるべき事があるだろう」

 

 謝ってくる士道をソーは手で制する。

 

「それに、お前にも探さなければならないものがあるのだろう?」

「ああ」

 

 士道が探しているのはウサギの形をしたパペット。以前現れた氷の精霊がこの世界に落としていったもの。

 

 士道は再びあの精霊と遭遇していた。だがその時の彼女の精神状態がかなり不安定であり、理由を聞いたところ、パペットを無くしてしまったという。

 

 どうやら前回この世界でASTに追いかけ回された時に落としてしまったようなのだ。

 士道は彼女──名前は四糸乃というらしい──に自分がパペットを探すのを手伝ってやると言って、一緒に街中を探し続けていた。

 

 その後、四糸乃は臨界へと消失(ロスト)して行ったが士道は〈ラタトスク〉と共にパペットの捜索を続け、ようやくその場所を特定したのであった。

 

 その場所というのが、

 

「取り敢えず、士道は鳶一折紙のアパートを訪ねてちょうだい」

 

 そう、あの完璧超人鳶一折紙の住むアパートである。

 四糸乃がASTに追いかけ回され、パペットを落としたあの日、折紙が地面に落ちるパペットを回収していた事が映像により確認された。

 

「不安しかねえ……」

 

 学校では十香と毎日火花を散らしている折紙。最近は特に士道へのアプローチが過激になっているような気もする。

 

「ま、やりたくないならそれでもいいけど」

「いや、俺はやるぞ」

 

 士道はこれも四糸乃のためだと、気合いを入れる。

 

「さて、俺たちはどうするか……」

 

 ソーとリア、現在ステラの捜索に当たれるのはこの2人だけである。だがステラが何者かに襲われた可能性がある以上、安全な捜索とは言えない状況である。

 

「でも、あの子がそんな簡単にやられる筈がないのよね」

 

 最近は大好きな彼を前に色々とポンコツっぷりを発揮している彼女だが、それでも宇宙の結晶。

 相手が誰であれそう簡単にやられるような子ではない。

 

「襲撃者も視野に入れて捜索か……。骨が折れるな」

 

 今回の捜索は中々ハードである。

 

「泣き言は言ってられないわよ。そうね、襲撃者がいるのなら、相応の覚悟をしてもらわないといけないわね。なんせ、私の可愛い妹に手を出してくれたんだから」

「見つけ次第叩き潰してやる」

 

 2人のそれぞれ違った愛の形が恐ろしい刃となって襲撃者へと向けられた。

 

「な、なあ琴里。何か凄いことになってないか?」

「やる気がある事はいいことじゃない?」

「は、ははっ、そうだな……」

 

 襲撃者が見つかった場合、一体どうなってしまうのだろうかと冷や汗を流す士道。

 

「それと士道、十香とはちゃんと仲直りしたの?」

「うっ……」

「はぁ、ほんと、どうしようもない愚兄ね。精霊のアフターケアをするのもあなたの仕事でしょう。私たちもサポートするから、早めに機嫌直しておきなさいよ」

「……分かった」

 

 それぞれの方針が決まる。

 明日からは精霊攻略部隊とステラ捜索部隊に分かれて行動することに。

 

「それじゃあ各自、やる事は分かったわね。ソー、そっちは頼んだわよ。手が空いている時は私たちも協力するから」

「ああ、助かる」

「今日はこれで解散。明日からそれぞれ行動開始よ」

 

 おう、という皆の気合の入った声がリビングに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピンポーン、と軽快な音が鳴ると同時に扉が開かれる。

 

「うおっ⁉︎」

 

 タイミングを見計らったかのように開いた扉に士道は驚いていた。開いた扉の前に立っていたのは肩で揃えられた銀髪の少女。

 ここはマンションの一室。鳶一折紙の住処である。

 

「士道、来てくれて嬉しい。さあ、入って」

 

 折紙はどこか嬉しそうな表情でそう言う。だが士道にはそれよりも折紙の格好の方が気になって仕方がなかった。

 

「なあ、鳶一」

「何?」

 

 彼女はどこがおかしいのか分からないといった様子で聞いてくる。

 

「その格好は……」

「メイド服。士道、好きなんでしょう?」

「え?」

 

 言われて士道は自分の記憶を掘り起こす。

 一つずつ過去を辿って行って、ようやく思い当たる節があることに気が付いた。先日の殿町との会話の中にそのような話題があったような、無かったような……。

 

「嫌い?」

「え、いや、その……」

 

 士道が言い淀んでいると、折紙は士道の腕を抱き寄せて接近してくる。

 

「嫌い?」

「す、好きです」

「そう、良かった」

 

 折紙の無言の迫力の前に士道はそう答えるしか無かった。第一、メイド服が好きだと言った自分が悪い。士道は何をされるか分からない不安と戦いながら、部屋の中へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、住宅街ではステラ捜索部隊──と言っても2人だけだが──が捜索を進めていた。

 

「この辺りにはいなさそうだな」

 

 最後にステラがいた場所からもう一度同じルートを辿っているが、見つかる気配はない。

 ソーは普段捜索に使っているセンサーを手に持ちながら、あちこち歩き回っていた。

 

「あの子が1人で何処かへ行くとは考えにくいのよね」

「となると、やはり襲撃者説が濃厚か?」

「そうなっちゃうのよね。考えたく無かったんだけど」

 

 ステラを押さえつけることが出来るほどの襲撃者となれば、相当の実力者であろう。そいつと敵対するのだから、こちらも気を引き締めなければならない。

 

「何はともあれ、今は早く見つけることを優先だ。襲撃者がいたならその場で倒せばいい」

「そうね」

 

 こうして2人の捜索は続く。

 住宅街を抜け街の中心部へ。駅や広場、商店街、観光地など、大勢の人が集まる場所を探し、それから路地裏なども確認する。

 中心部を抜けたら今度は公園や学校、山林、高台と街の外周も周る。

 

 そうやって捜索を続けていた時だった。

 

 大きなサイレンが、街中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──道、士道! やっと繋がったわ』

「琴里か? パペットを手に入れた!」

『よし! 四糸乃の所へ急ぐわよ! まったく、鳶一折紙ったら、家にどんな細工をしてるのよ』

 

 部屋の中に仕掛けられた様々なトラップをようやく突破した士道は玄関の扉を開け放った。

 それと同時に耳のインカムから琴里の声が聞こえてくる。やはり部屋の中にはジャミングが掛けられていたようだ。

 

 士道はあの後、折紙の予想出来ない行動の数々に翻弄されながらも無事に生き延びていた。メイド服で現れたり、自分の上に跨ってきたり、いきなりシャワーを浴びに行ったかと思えばバスタオル一枚で密着してきたりと、何とも心臓に悪い時間であった。

 

 士道もあれ以上何かされていたら精神が持たなかっただろう。幸いなことに空間震警報が鳴り響いたことにより、折紙が飛び出して行ったため、あの空間からは解放された。

 

 もっとも、彼女が居なくなってからが大変だったのだが。

 部屋に仕掛けられた数々のトラップ。それらはまるで士道が部屋から出られないように待ち構えているかのようであった。それを何とか突破し、現在に至る。

 

 士道は折紙の話を思い出す。

 彼女が精霊を憎むようになった五年前の出来事。住宅街で発生した大火災。そしてそれを引き起こした炎の精霊。目の前で消えた両親。

 やはり、人間と精霊は共存出来ないのだろうか。わかり合うことは出来ないのだろうか。

 

 彼はパペットを手に街を駆ける。すでに戦闘は始まっている。遠くに爆発の煙が上がっているのが見えた。

 

「くっ……、四糸乃。今行くからな!」

 

 今は彼女を助ける事が優先だ。

 士道は煙の上がる方向を見る。あそこに、彼女がいる。容赦の無い攻撃に怯えながらも彼女は戦っているのだろう。

 士道は戦いの場所へと向かい、走り続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高台の公園。

 ここで捜索をしていたソーとリアの2人は、突如鳴り響いた空間震警報にハッと街の方を見る。

 

「この音は確か……」

「精霊ね」

 

 警報が鳴ってからしばらくすると、街は先程までの喧騒が嘘であったかのように静まり返る。

 

「そろそろかしら」

 

 リアがそう言った直後、街で爆発が起きた。

 遠くから見ても分かる。空間が歪み、全てが吹き飛ばされるその様子が。

 そして最初の爆発が収まったかと思えば、今度は複数の爆発が。だがこれは最初のものに比べれば小さなものだ。あのASTとかいう部隊の攻撃だろう。

 

「始まったわね」

「ああ。どうする?」

「士道なら上手くやるでしょうけど、少し不安もあるのよね」

 

 リアはそう言いながら携帯を弄る。

 

「あ、もしもし。琴里?」

 

 相手は〈フラクシナス〉にいる琴里だ。

 

「向こうで戦闘が起こってるみたいだけど、私たちも行った方がいいかしら?」

『あなたね、警報が鳴ったら市民と一緒に避難して欲しいのだけれど』

「ま、私たちにはあまり関係ないしね」

『はぁ、分かったわ。士道が今四糸乃の所へ向かってるわ。そこに合流して頂戴』

「了解」

 

 リアは通話を切るとソーの方を向く。

 

「ん、話は終わったか?」

「ええ、あそこへ行くわよ」

「そうか。よし、捕まってろ」

 

 2人は轟音の上がる街を見る。そこでは巨大な怪物が街を蹂躙していた。

 ソーは飛んできたストームブレイカーを掴むと、リアを抱えて空へと飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人の居なくなった街をひたすら駆け抜ける。

 急げ、もっと速く、と心の中で叫びながら足を動かす。戦いはすでに始まっている。

 士道は煙の上がる方向を見た。先程から戦闘の音が響いてくる。

 

 街は突然冬にでもなったかの様に気温が下がり、降っていた雨は凍りついている。

 

 そしてついにそれは姿を現した。

 

「……っ! 四糸乃!」

 

 ウサギの様なシルエットの天使に乗る四糸乃。士道はその背中に声を掛ける。

 だが襲い来るASTの攻撃でパニックに陥っているのかその声は届かない。

 

 士道はもう一度大きく息を吸うと、それを一気に空に向かって吐き出した。

 

「四糸乃おおおおぉぉぉぉぉぉ‼︎」

 

 その声に、小さな影がピクリと動いた。そしてゆっくりとこちらを向く。

 

「し、どう、さん?」

「おう! 四糸乃、お前に渡したい物があるんだ」

 

 士道はパペットを握り締めると、四糸乃へと一歩ずつ近づいていく。そして彼女の前まで来ると、パペットを彼女に渡そうとした。

 だがその時。

 

「っ⁉︎」

「あっ!」

 

 2人の間を光線が掠めていった。

 士道は咄嗟に光線が飛んできた方向を見る。そこには巨大な機械を担いだ折紙がいた。

 

「くっ、四糸乃!」

 

 士道は四糸乃が無事か確認する。

 だが、彼女の精神はもう限界であった。

 

「ああ、ああああああああああ」

「四糸乃、四糸乃!」

 

 懸命に叫ぶも、士道の声は届かない。

 天使〈氷結傀儡(ザドキエル)〉が咆哮を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 凍り付いた街を眼下に戦場へと向かう。目的地はすぐそこだ。

 そんな真っ白な世界に、誰かがいるのをリアは見つけた。

 

「ソー、あれ!」

 

 彼女が指差す方向を見ると、見慣れた姿がある。

 

「あれは……十香か?」

 

 

 

 

「十香!」

 

 2人は十香の前に降り立つ。

 

「リアか! シドーがあそこに!」

「分かってる。急ぐわよ、あんたも向かってるんでしょ?」

「ああ」

 

 リアは先日、十香を街に連れ出し、彼女が最近落ち込んでいる理由を聞き、相談に乗っていた。

 十香はリアのアドバイスを受け、士道がどんな人であったかを思い出し何とか立ち直ったのである。

 そして士道を助けたいと思った十香は、こうして凍り付いた街を走っていたのだった。

 

 こうして3人が合流する。

 

 その時、戦場の方から大きな咆哮が聴こえて来た。

 咄嗟にその方向を見ると、巨大な傀儡が頭を反らせ、周囲の空気を吸い込んでいる。

 

「まずいな」

「シドー!」

「急がないと」

 

 十香には分かっていた。あの攻撃がどれほど恐ろしいものであるかを。そしてあの場所には士道がいる。それだけで不安が頭に立ち込めた。士道は自分を助けてくれた。そんな彼が今、危険に晒されている。自分が彼を助けに行かなくて、一体誰が彼の元へ駆け付けると言うのだ。

 

「〈鏖殺公(サンダルフォン)〉!」

 

 気がつけば十香は踵で地面を蹴っていた。だが、〈鏖殺公(サンダルフォン)〉は現れない。

 

「何故だっ! 何故だっ!」

 

 十香は何度もその名を呼ぶ。だが応えるものは何も無い。

 

 周囲の空気を吸い込んでいた傀儡が顔をゆっくりと前に向ける。攻撃の準備が整ったのだろう。

 

「ああああああああああああああああっ‼︎」

 

 次の瞬間、彼女の周囲に光が走った。


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